説明

エンジン用ガスケット材及びその製造方法

【課題】
アルミ成形にて得られたエンジンの熱膨張に追従させることによりシール性を確実に維持させることができるとともに、熱膨張によるボルトのトルクダウンやガスケット自体の破損を回避することができ、且つ、耐候性に優れたガスケットを得ることができるエンジン用ガスケットを提供する。
【解決手段】
金属製の薄板状芯材2の両面に接着剤層3を介してカーボン層4を形成して成るとともにアルミ成形にて得られたエンジンの所定部位をシールするガスケットを得るためのエンジン用ガスケット材において、薄板状芯材2は、エンジンと略同一材質であるアルミ材から成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ成形にて得られたエンジンの所定部位をシールするガスケットを得るためのエンジン用ガスケット材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のエンジンには、構成要素同士をシールするためのガスケットが介装されている。かかるガスケットは、従来、例えば特許文献1にて開示されているように、フェノール樹脂系接着剤が塗布された金属板(バネ鋼板SUSなどの鉄板)の片面又は両面に膨張黒鉛シートを重ね合わせて、膨張黒鉛シートの密度が所定になるまで加圧して仮成形した後、コールドロールで加圧することにより所定厚さとされていた。
【特許文献1】特開平5−148474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のガスケットにおいては、以下の如き問題があった。
近時において、自動車や自動二輪車などのエンジンは、耐熱及び軽量化等の観点からアルミ成形品から成る複数の部品を組み合わせて成るものとされており、このようなアルミ成形にて得られたエンジンの所定部位に芯材が鉄とされた従来のガスケットを介装した場合、鉄とアルミとの熱膨張の違いにより、エンジンの熱でシール性が悪化してしまう虞があった。即ち、エンジン自体の熱膨張にガスケットが追従せず、当該ガスケットによるシール性能に悪影響が生じる可能性がある。
【0004】
また、上記従来のものは、エンジンを構成する部品の間にガスケットを介在させつつ両部品をボルトにて結合させた場合、エンジンの熱膨張にガスケットの厚さ及び形状が追従しないため、当該ボルトのトルクダウン(結合力の低下)やガスケットの破損等が生じてしまう虞があった。更に、自動二輪車など屋外で使用し、エンジンがむき出しのものに適用した場合、従来の芯材に鉄板を使用しているガスケットでは、その端面が大気中の湿度や雨とエンジンの熱によりより赤錆が発生し、外観品質の低下や、ガスケット自身の劣化が懸念される。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、アルミ成形にて得られたエンジンの熱膨張に追従させることによりシール性を確実に維持させることができるとともに、熱膨張によるボルトのトルクダウンやガスケット自体の破損を回避することができ、且つ、耐候性に優れたガスケットを得ることができるエンジン用ガスケット材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、金属製の薄板状芯材の両面にカーボン層を形成して成るとともにアルミ成形にて得られたエンジンの所定部位をシールするガスケットを得るためのエンジン用ガスケット材において、前記薄板状芯材は、アルミ材から成ることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のエンジン用ガスケット材において、前記カーボン層が形成された薄板状芯材は、所望形状にトリミングされてガスケットとなるものであることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のエンジン用ガスケット材において、前記カーボン層の少なくとも表面には、離型剤が塗布されたことを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のエンジン用ガスケット材において、前記カーボン層の表面に凹凸形状が付与されたことを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の発明は、アルミ成形にて得られたエンジンの所定部位をシールするガスケットを得るためのエンジン用ガスケット材の製造方法において、アルミ板を所定形状にカッティングしてアルミ材から成る薄板状芯材を得るカッティング工程と、該カッティング工程にて得られた薄板状芯材の両面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、該接着剤塗布工程にて接着剤が塗布された両面に対し、前記カッティング工程で得られた薄板状芯材と略同一形状のカーボンを重ね合わせ、カーボン層を形成するカーボン層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のエンジン用ガスケット材の製造方法において、前記カーボン層形成工程で得られたエンジン用ガスケット材は、所望形状にトリミングするトリミング工程を経てガスケットとなるものであることを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の発明は、請求項5又は請求項6記載のエンジン用ガスケット材の製造方法において、前記カーボン層の表面に離型剤を塗布する離型剤塗布工程を具備したことを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の発明は、請求項5〜請求項7の何れか1つに記載のエンジン用ガスケット材の製造方法において、前記カーボン層の表面に凹凸形状を付与する凹凸形状付与工程を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、請求項2、請求項5又は請求項6の発明によれば、両面にカーボン層が形成された薄板状芯材がアルミ材から成るので、アルミ成形にて得られたエンジンの熱膨張に追従させることによりシール性を確実に維持させることができるとともに、熱膨張によるボルトのトルクダウンやガスケット自体の破損を回避することができ、且つ、耐候性に優れたガスケットを得ることができる。
【0014】
請求項3又は請求項7の発明によれば、カーボン層の表面に離型剤が塗布されるので、エンジンの部品間に介装された際、当該エンジンの熱によりカーボン層のカーボンが部品側に融着してしまうのを回避できる。
【0015】
請求項4又は請求項8の発明によれば、カーボン層の表面に凹凸形状が付与されるので、エンジンの部品間に介装された際、カーボンが部品側に融着してしまうのをより回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るエンジン用ガスケット材は、アルミ成形にて得られた自動車用のエンジンにおける所定部位をシールするガスケットを得るためのものであり、得られたガスケットは、図1及び図2に示すように、金属製の薄板状芯材2の両面に接着剤層3及びカーボン層4が形成されたものである。尚、かかるガスケット1の隅部には、後述するボルトB1を挿通させるためのボルト孔1aが形成されている。
【0017】
薄板状芯材2は、アルミ材(A1060)を所定形状にカッティングし、後述するカーボン層4を形成した後、プレス加工機などでアルミ板を図1の如き形状にトリミングして得られるものである。尚、薄板状芯材2の厚さは、0.2(mm)程度が好ましい。かかる薄板状芯材2の両面には、フェノール樹脂系接着剤から成る接着剤層3がそれぞれ形成されており、かかる接着剤層3の粘着にてカーボン層4が固定されている。
【0018】
カーボン層4は、粉体の膨張黒鉛を加熱しつつシート状に形成したものから成り、上述の如く接着剤層3の粘着により薄板状芯材2の両面に固定された後、ロール加工等で所定密度(例えば黒鉛密度で1.0g/cm程度)とされたものである。また、かかるカーボン層4の表面には、離型剤が塗布されているとともに、微小な凹凸形状(図示せず)が付与されている。かかる微小な凹凸形状は、例えばカーボン層4の表面を粗く成形(面粗度を高く)することにより形成されている。
【0019】
上記の如きガスケット1は、図3に示すように、エンジンの構成部品であるクランクケース7とシリンダ5との間に介装され、これら部品間をシールするようになっている。同図において、符号6は、シリンダ5の上部にボルトB2及びナットN2にて組み付けられるシリンダヘッドを示しており、かかるシリンダヘッド6に点火プラグ8が組み付けられることとなる。
【0020】
クランクケース7におけるシリンダ5が組み付けられる位置、及びシリンダ5の側壁部には、ガスケット1のボルト孔1aと対応したボルト孔7a及びボルト穴5aがそれぞれ形成されており、ボルトB1をボルト穴5a、ボルト孔1a及び7aに挿通させつつナットN1にて締め上げることにより、当該クランクケース7にシリンダ5を組み付けるよう構成されている。
【0021】
次に、本実施形態に係るガスケット1の製造方法について、図4のフローチャートに基づいて説明する。
まず、所定厚さのアルミ板をカッティングして、アルミ材から成る所定形状(例えば矩形状)の薄板状芯材1を得る(カッティング工程S1)とともに、その得られた薄板状芯材1の両面に対し、フェノール樹脂系接着剤などから成る接着剤を刷毛等にて塗布して乾燥させる(接着剤塗布工程S2)。これにより、薄板状芯材1の両面(表面及び裏面)に接着剤層3が形成されることとなる。
【0022】
また、別工程にて、粉体の膨張黒鉛を加圧しつつシート状に形成し、これをカッティングすることにより、カッティング工程S1で得られた薄板状芯材1と略同一形状のカーボンを得ておく(カッティング工程S7)。そして、接着剤塗布工程S2にて接着剤が塗布された表面及び裏面にカッティング工程S7で得られたカーボンを重ね合わせるとともに、その状態にて加熱処理(加硫)することにより薄板状芯材1の表面及び裏面とカーボンとを接着させ、カーボン層3を形成する(カーボン層形成工程S3)。
【0023】
その後、ロール加圧機などにてロール加工し、カーボン層3の厚さ(即ち、エンジン用ガスケット1全体の厚さ)が所定寸法になるまで加圧する(ロール加工S4)。このとき、加圧するロールの表面に微小の凹凸形状を施しておけば、その形状がカーボン層3の表面に転写されるので、当該カーボン層3の表面に凹凸形状が付与されることとなる(凹凸形状付与工程)。すなわち、本実施形態においては、ガスケット1の厚さを所定とする加圧工程と、カーボン層3の表面に対する凹凸形状の付与工程とが同時に行われるようになっている。
【0024】
更に、カーボン層3の表面に離型剤を塗布し(離型剤塗布工程S5)、例えば全体が矩形状を成すエンジン用ガスケット材の一連の製造工程が終了することとなる。その後、得られたエンジン用ガスケット材を所望形状にトリミングして(トリミング工程S6)、図1に示す如き最終製品としてのガスケット1を得ることができる。尚、本実施形態においては、ロール加工においてカーボン層3の表面に凹凸形状を付与しているが、別工程にてカーボン層表面に凹凸形状を付与するようにしてもよい。
【0025】
本実施形態に係るエンジン用ガスケット材によれば、トリミング工程を経て得ることができるガスケットが両面にカーボン層3が形成された薄板状芯材2がアルミ材から成るので、アルミ成形にて得られたエンジンの熱膨張に追従させることによりシール性を確実に維持させることができるとともに、熱膨張によるボルトB1のトルクダウンやガスケット自体の破損を回避することができ、且つ、耐候性に優れたものとすることができ、二輪車等における外部に露出したエンジンにも良好に適用することができる。また、従来の如く薄板状芯材が鉄であるものに比べて、ガスケット自体の軽量化を図ることができる。
【0026】
すなわち、従来の如く鉄を薄板状芯材としたガスケットの場合、アルミから成るエンジンの構成部品との熱膨張の違いにより、部品とガスケットとの相対的なずれが生じる可能性がある。かかる熱膨張の違いや相対的なずれにより、ボルトB1のトルクダウンやガスケットのシール性の維持が困難となってしまうとともに、例えばネジ孔7aやネジ穴5aとガスケット側のネジ孔1aとにずれが生じた場合には、ガスケット自体が破損してしまう虞がある。これに対し、本実施形態の如く薄板状芯材1をエンジンの材料と同様なアルミ材とすることにより、熱膨張を略同等とし、エンジンの熱膨張にガスケットを追従させて上記不具合を回避することができるのである。
【0027】
また、カーボン層3の表面に離型剤が塗布されるので、エンジンの部品間(具体的には、シリンダ5とクランクケース7との間)に介装された際、当該エンジンの熱によりカーボン層3のカーボンが部品側に融着してしまうのを回避できる。更に、カーボン層3の表面に凹凸形状が付与されるので、エンジンの部品間に介装された際、カーボンが部品側に融着してしまうのをより回避することができる。
【0028】
すなわち、面粗度が低く平滑な表面のカーボン層とした場合、エンジンの部品間に介装させた際に良好に密着するものの、エンジンの熱により融着してしまう可能性が高くなるので、これを回避すべくカーボン層表面の面粗度を大きくして微小な凹凸形状を付与し、融着してしまうのを抑制しているのである。かかる凹凸形状は、エンボス等に限られず、面粗度が大きくなっていれば如何なる形態のものであってもよい。
【0029】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば本実施形態においては、エンジンのクランクケースとシリンダとの間に介装されてシールするガスケットに適用されているが、アルミから成るエンジンの構成部品間であれば他の部位のガスケットとしても適用することができる。勿論、ガスケットの全体形状はシール部位に合致させた種々のものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
薄板状芯材がアルミ材から成るエンジン用ガスケット材であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン用ガスケット材から得られたガスケットを示す正面図
【図2】同ガスケットの内部構造を示す断面模式図
【図3】同ガスケットが取り付けられるエンジンを示す分解斜視図
【図4】同エンジン用ガスケット材及びガスケットの製造工程を示すフローチャート
【符号の説明】
【0032】
1 ガスケット
2 薄板状芯材
3 接着剤層
4 カーボン層
5 シリンダ(エンジンの構成部品)
6 シリンダヘッド(エンジンの構成部品)
7 クランクケース(エンジンの構成部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の薄板状芯材の両面にカーボン層を形成して成るとともにアルミ成形にて得られたエンジンの所定部位をシールするガスケットを得るためのエンジン用ガスケット材において、
前記薄板状芯材は、アルミ材から成ることを特徴とするエンジン用ガスケット材。
【請求項2】
前記カーボン層が形成された薄板状芯材は、所望形状にトリミングされてガスケットとなるものであることを特徴とする請求項1記載のエンジン用ガスケット材。
【請求項3】
前記カーボン層の少なくとも表面には、離型剤が塗布されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエンジン用ガスケット材。
【請求項4】
前記カーボン層の表面に凹凸形状が付与されたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のエンジン用ガスケット材。
【請求項5】
アルミ成形にて得られたエンジンの所定部位をシールするガスケットを得るためのエンジン用ガスケット材の製造方法において、
アルミ板を所定形状にカッティングしてアルミ材から成る薄板状芯材を得るカッティング工程と、
該カッティング工程にて得られた薄板状芯材の両面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
該接着剤塗布工程にて接着剤が塗布された両面に対し、前記カッティング工程で得られた薄板状芯材と略同一形状のカーボンを重ね合わせ、カーボン層を形成するカーボン層形成工程と、
を含むことを特徴とするエンジン用ガスケット材の製造方法。
【請求項6】
前記カーボン層形成工程で得られたエンジン用ガスケット材は、所望形状にトリミングするトリミング工程を経てガスケットとなるものであることを特徴とする請求項5記載のエンジン用ガスケット材の製造方法。
【請求項7】
前記カーボン層の表面に離型剤を塗布する離型剤塗布工程を具備したことを特徴とする請求項5又は請求項6記載のエンジン用ガスケット材の製造方法。
【請求項8】
前記カーボン層の表面に凹凸形状を付与する凹凸形状付与工程を具備したことを特徴とする請求項5〜請求項7の何れか1つに記載のエンジン用ガスケット材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−92828(P2007−92828A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281174(P2005−281174)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(505364337)株式会社ハマガス研究所 (1)
【Fターム(参考)】