説明

エンジン発生トルクの測定装置

【課題】エンジン発生トルクに含まれる任意の周波数成分の波形及びエンジン発生トルクの波形を高い精度で測定する。
【解決手段】エンジン1の軸トルク検出でダイナモメータ2をトルク制御するエンジン試験装置において、エンジン発生トルク推定部10は、軸トルク検出信号を乗算器16,17で周波数(f)でsin変換およびcos変換し、これら信号を低域通過フィルタ18.19(または積分器)にそれぞれ通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)のsin成分およびcos成分のみを抜き出し、これらを乗算器20,21でそれぞれ逆sin変換および逆cos変換して加算器24で合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得る。関数発生器26は位相遅れとゲイン低下を補正する。推定部10を周波数f〜f×N分設けることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナモメータを使用したエンジン試験装置に係り、特にエンジンが発生するトルクの測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイナモメータを使用したエンジン試験装置は、図9に機械系のみを示すように、エンジン1とダイナモメータ2を軸トルクメータ/エンジン速度計3及びシャフト4を介して結合し、エンジン1はそのスロットル開度制御によって出力を制御し、ダイナモメータ2はその電流制御によってトルクや速度を制御し、エンジントルク特性試験や出力試験を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図9に示すエンジン試験装置において、エンジン1の発生トルクを推定する手法として、軸トルクメータ/エンジン速度計3による軸トルク検出値とエンジン速度検出値を利用し、図9の機械系の動特性を表現する以下の式(1)、(2)、(3)をTeg,Tdy、ωdyについて解きくことによって得られるTshの式(4)に適切な低域通過フィルタを通す(例えば、1/{(s/ωc)+1}を掛ける)ことにより得られる式(5)をエンジン発生トルク推定値としている。
【0004】
dy・s・ωdy=−Tsh+Tdy …(1)
eg・s・ωeg=Tsh+Teg …(2)
s・Tsh=Ksh(ωdy−ωeg) …(3)
Teg=−Tsh+Jeg・s・ωeg …(4)
egest=(−Tsh+Jeg・s・ωeg)/{(s/ωc)+1} …(5)
但し、Jdyはダイナモメータ慣性モーメント、sはラプラス演算子、ωdyはダイナモメータ回転速度、Tshはシャフト捩りトルク、Tdyはダイナモメークトルク、Jegはエンジン慣性モーメント、ωegはエンジン回転速度、Tegはエンジン発生トルク、Kshはシャフト捩り剛性、Tegestはエンジン発生トルク推定値である。
【特許文献1】特開平08−219953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術において、実際のエンジン発生トルクを表現する式(4)とエンジン発生トルク推定値を表現する式(5)を比べると、
egest=Teg/{(s/ωc)+1)} …(6)
となっていることがわかる。図10に式(6)のTegに対するTegestの特性を示す。
【0006】
図10に示すように、エンジン発生トルク推定値Tegestは実際のエンジン発生トルクTegから1/{(s/ωc)+1}の特性に依存した位相遅れとゲイン低下が発生する。図10はωc=0.2の場合のグラフである。この場合、周波数0.2HzのTegに対して、Tegestは約4dBのゲイン低下と、約50°の位相遅れをもって推定されることになる。
【0007】
これらの位相遅れやゲイン低下により、エンジン発生トルクのピーク値が実際の値よりも小さく推定され、高い試験精度が得られない。
【0008】
また、機械系の共振破壊を防ぐために、共振周波数成分のエンジン発生トルク波形を推定しようとする場合、エンジン出力特性から共振周波数成分のみを抜き出して推定することはできない。
【0009】
本発明の目的は、エンジン発生トルクに含まれる任意の周波数成分の波形及びエンジン発生トルクの波形を高い精度で測定できるエンジン発生トルクの測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するため、エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、任意に設定された周波数(f)でsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号を低域通過フィルタ(LPF)またはエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器にそれぞれ通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)のsin成分およびcos成分の振幅を抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換および逆cos変換して合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得るものである。
【0011】
また、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、エンジン回転速度の周波数f〜整数N倍の周波数(f)〜(f×N)でそれぞれsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をそれぞれ低域通過フィルタ(LPF)またはエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)のsin成分およびcos成分の振幅をそれぞれ抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換して合成することによりエンジン発生トルクの波形を得るものである。
【0012】
さらに、抜き出した周波数(f)または周波数(f)〜(f×N)の各成分を、トルク制御系または速度制御系のエンジン発生トルクからの閉ループ特性を利用してエンジン発生トルクの周波数(f)または周波数(f)〜(f×N)における位相遅れおよびゲイン低下をそれぞれ補正するものである。
【0013】
以上のことから、本発明は以下の構成を特徴とする。
【0014】
(1)エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、任意に設定された周波数(f)でsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号を低域通過フィルタ(LPF)にそれぞれ通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)のsin成分およびcos成分の振幅を抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換して合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とする。
【0015】
(2)エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、エンジン回転速度の周波数f〜整数N倍の周波数(f)〜(f×N)でそれぞれsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をそれぞれ低域通過フィルタ(LPF)に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)のsin成分およびcos成分の振幅をそれぞれ抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換したものを合成することによりエンジン発生トルクの波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とする。
【0016】
(3)エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、任意に設定された周波数(f)でsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器にそれぞれ通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)のsin成分およびcos成分の振幅を抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換して合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とする。
【0017】
(4)エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、エンジン回転速度の周波数f〜整数N倍の周波数(f)〜(f×N)でそれぞれsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をそれぞれエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)のsin成分およびcos成分の振幅をそれぞれ抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換したものを合成することによりエンジン発生トルクの波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とする。
【0018】
(5)前記エンジン発生トルク推定部は、前記抜き出した周波数(f)または周波数(f)〜(f×N)の各成分を、トルク制御系または速度制御系のエンジン発生トルクからの閉ループ特性を利用してエンジン発生トルクの周波数(f)または周波数(f)〜(f×N)における位相遅れおよびゲイン低下をそれぞれ補正する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、本発明によれば、トルク制御または速度制御における軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値のみを利用し、他に新たな信号を検出することなくエンジン発生トルクの任意の周波数f成分を推定できる。
【0020】
また、各周波数成分を合成したエンジン発生トルク波形を1回の測定で推定することができる。
【0021】
また、ローパスフィルタまたはエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器を通すことによる位相遅れとゲイン低下を補正することで高い精度でエンジン発生トルクの周波数f成分および各次数の周波数f〜f×N成分を推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施形態1)
図1は本実施形態の装置構成を示し、図9に示す機械系をトルク制御部5とインバータ6によって軸トルク制御する構成とする。
【0023】
図1において、軸トルクは軸トルクメータ3Aにより検出され、これと軸トルク指令値との偏差をトルク制御部5で軸トルク制御(比例積分演算:PI演算)したものを電流指令として出力する。インバータ6は電流指令に従ってダイナモメータ2のモータ電流をフィードバック制御する。
【0024】
破線ブロックで示すエンジン発生トルク推定部10は、軸トルク検出信号を設定周波数成分fでsin変換およびcos変換し、変換後の両信号を低域通過フィルタLPFに通すことにより、軸トルク検出信号に含まれる周波数fのsin成分およびcos成分の振幅を抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換して合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得、これらsin変換、cos変換する際にATR系のエンジントルク−軸トルク特性を基に位相遅れとゲインの低下を補正することによりエンジン発生トルクの周波数fの波形を推定する。
【0025】
この周波数fの推定を原理的に説明する。まず、基本周期nをもつある信号波形x(n)は、フーリエ級数として展開され、以下の式(7)で表せる。
【0026】
【数1】

【0027】
ここで、信号波形x(n)から2次の成分(sin2n)を抽出するために、式(7)の両辺にsin2nを乗じると、式(8)になる。
【0028】
【数2】

【0029】
この式(8)の左辺の信号を、適切な次数とカットオフ周波数をもつローパスフィルタ処理を行うと、高い周波数成分が削除され、b2・sin22nをもつ項のみを抜き出すことができる。つまり、b2・sin22n成分を展開すると、式(9)になり、ローパスフィルタ処理により、b2/2の定数項のみを得ることができる。
【0030】
【数3】

【0031】
この定数項b2/2に対して、式(10)のようにsin2nを掛ければ、ゲイン補正したsin2nの波形を得ることができる。
【0032】
【数4】

【0033】
同様に、二次の成分(cos2n)の抽出には式(7)の両辺にcos2nを乗じ、これをローパスフィルタ処理することでa2/2の定数項のみを得ることができ、式(10)と同様の演算でcos2nの波形を得ることができ、これをsin2nの成分と合成することで、信号x(t)に含まれる二次(2n)の周波数成分を推定できる。
【0034】
エンジン発生トルク推定部10は、以上の演算に必要な要素で構成されるものであり、時計(CLOCK)11と抽出しようとする任意の周波数fに設定した設定器12の出力を乗算器13で乗じることで周波数fの信号を得、この信号についてsin関数演算器14でsin(f)成分を得る。同様に、周波数fの信号についてcos関数演算器15でcos(f)成分を得る。
【0035】
次に、乗算器16、17では、軸トルクメータ3Aで検出される軸トルク信号(上記の式7のx(n)に相当する)にsin(f)成分およびcos(f)成分を乗じることでsin変換およびcos変換し、これら信号からローパスフィルタ18、19を通すことでsin(f)成分とcos(f)成分のみの係数a/2,b/2を抽出する。
【0036】
次に、乗算器20は、係数b/2にsin(f)波形を乗じることで、係数b/2をもつsin(f)波形を得る。同様に、乗算器21は、係数a/2にcos(f)波形を乗じることで、係数a/2をもつcos(f)波形を得る。これらは上記のsin変換、cos変換になる。
【0037】
次に、乗算器22、23は、係数b/2をもつsin(f)波形と係数a/2をもつcos(f)波形に係数「2」を乗じることで係数bをもつsin(f)の波形と係数aをもつcos(f)の波形を得る。加算器24は(a・cos(f)+b・sin(f))の演算で周波数f成分の波形を得る。乗算器25は、周波数f成分の波形にゲインを乗じ、これを周波数f成分のエンジン発生トルク推定値として得る。
【0038】
ここで、エンジン発生トルク推定値に対して、ATR系のエンジントルク−軸トルク特性を基に位相遅れとゲイン低下を補正する。この補正手段は、エンジントルク−軸トルク特性発生器26にはATR系のエンジントルク−軸トルク特性のデータ(例えば図10のデータ)をあらかじめ設定しておき、このデータのうち周波数fにおけるエンジントルク−軸トルク間のゲイン低下分と位相遅れ分のデータを発生させる。このうち、ゲインの低下分データは乗算器25に係数として与えることでゲイン補正を行う。位相遅れ分データは減算器27に移相分として与えることで周波数f信号の位相を補正し、この位相補正した周波数f信号をsin関数演算器28とcos関数演算器29の入力とすることで、乗算器20、21におけるsin変換とcos変換のための波形を得る。
【0039】
したがって、本実施形態では、ATR運転を行っているときにATRの検出信号である軸トルクのみを利用し、他に新たな信号を検出することなくエンジン発生トルクの任意の周波数f成分を推定できる。このことにより、エンジンが機械系共振周波数のトルクを発生しているか否かが容易に判定でき、エンジントルク加振による機械系の共振破壊の防止に役立てることができる。また、従来技術ではある周波数成分のみを抜き出して推定することはできないが本実施形態ではそれが可能になる。また、ローパスフィルタを通すことによる位相遅れとゲイン低下を補正することで高い精度で周波数f成分のエンジン発生トルクを推定できる。
【0040】
(実施形態2)
図2は本実施形態の装置構成を示す。同図が図1と異なる部分は、図1のエンジン発生トルク推定部10における周波数設定器12の設定周波数を整数倍(一次〜N次)の異なる周波数f〜f×Nにしたエンジン発生トルク推定部101〜10Nを設け、これらにより得られる各次数のエンジン発生トルク推定波形を合成器30で合成することでエンジン発生トルク推定波形を得る点にある。この場合の周波数f〜f×Nは、軸トルクメータ/エンジン速度計3のエンジン速度検出信号を基本周波数fとしてその逓倍周波数として求める。
【0041】
本実施形態では、一般に繰り返し波形はそのもっとも低い周波数(基本周波数)の整数倍の波形に分解(前記のフーリエ級数に展開)できることを応用し、エンジンの発生するトルクの波形はエンジン回転数を最も低い周波数とする繰り返し波形になっていることに着目し、ATR運転中に軸トルク検出値からエンジン発生トルク波形を推定する。すなわち、エンジン発生トルク推定部101〜10Nは、ATR系において、検出信号をエンジン回転速度の整数倍(1〜N倍)でそれぞれsin変換、cos変換し、これら変換後の信号をそれぞれ低域通過フィルタ(LPF)に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)の成分の振幅をそれぞれ抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換したものを合成することによりエンジン発生トルクの波形を得、これらsin変換、cos変換する際にATR系のエンジントルクからの閉ループ特性を利用することにより、エンジン発生トルクのエンジン回転速度の1〜N倍の周波数成分をそれぞれ推定する回路を構成し、それぞれの回路の出力を足し合わせる(合成する)ことによりエンジン発生トルク波形を推定する。
【0042】
本実施形態によれば、実施形態1が周波数f成分のみのエンジン発生トルクを推定するのに対して、各周波数成分を合成したエンジン発生トルク波形を1回の測定で推定することができ、エンジン発生トルクのピーク周波数などを容易に検出することができ、シャフトの捩れがトルク許容値を超えることによるシャフト破断の防止に役立てることができる。
【0043】
また、従来技術でエンジン発生トルク波形を推定すると高周波成分ほど位相遅れが大きくなり、そのことによりエンジン発生トルク波形のピーク値が実際のピーク値よりも小さく推定される可能性が高い。しかし、本実施形態によれば推定したエンジン発生トルク波形は位相遅れなしに推定されているため、本来のエンジン発生トルク波形をほぼ再現することが可能である。このことにより、エンジン発生トルクピーク値をより精度良く検出できる。
【0044】
(実施形態3)
図3は本実施形態の装置構成を示す。同図が図1と異なる部分は、軸トルクメータ3Aからの軸トルク検出に代えて、ATR制御部5の出力になるダイナモトルク指令値を使用し、これに伴い特性発生器26ではエンジントルク−軸トルク特性に代えてATR系のエンジントル→ダイナモトルク指令値特性をもたせる。
【0045】
本実施形態によれば、軸トルクの検出回路がハードウェア的に構成されているなどして、何らかの原因により軸トルク検出値をエンジン発生トルク推定部に入力するのが困難である場合においても、インバータ6に入力するダイナモトルク指令値から周波数f成分のエンジン発生トルクを推定できる。また、インバータ6はディジタル制御されていることが多いため、このインバータ制御プログラムに本実施形態のエンジン発生トルク推定部をプログラムとして追加することで済む。
【0046】
(実施形態4)
図4は本実施形態の装置構成を示す。同図が図3と異なる部分は、図3のエンジン発生トルク推定部10における周波数設定器12の設定周波数を整数倍(一次〜N次)の異なる周波数f〜f×Nにしたエンジン発生トルク推定部101〜10fを設け、これらにより得られる各次数のエンジン発生トルク推定波形を合成器30で合成することでエンジン発生トルク推定波形を得る点にある。この場合の周波数f〜f×Nは、軸トルクメータ/エンジン速度計3のエンジン速度検出信号を基本周波数fとしてその逓倍周波数として求める。
【0047】
本実施形態では、実施形態3と同様に、軸トルク検出値の替わりにダイナモトルク指令値を利用するものである。これに伴い、何らかの原因により軸トルク検出値をエンジン発生トルク推定部に入力するのが困難な場合にも、インバータに渡すダイナモトルク指令値のみからエンジン発生トルク波形を推定できる。
【0048】
また、本実施形態によれば、実施形態3が周波数f成分のエンジン発生トルクを推定するのに対して、各周波数成分を合成したエンジン発生トルク波形を1回の測定で推定することができ、エンジン発生トルクのピークなどを容易に検出することができ、シャフトの捩れがトルク許容値を超えることによるシャフト破断の防止に役立てることができる。
【0049】
また、従来技術でエンジン発生トルク波形を推定すると高周波成分ほど位相遅れが大きくなり、そのことによりエンジン発生トルク波形のピーク値が実際のピーク値よりも小さく推定される可能性が高い。しかし、本実施形態によれば推定したエンジン発生トルク波形は位相遅れなしに推定されているため、本来のエンジン発生トルク波形をほぼ再現することが可能である。このことにより、エンジン発生トルクピーク値がより精度良く検出される。
【0050】
(実施形態5)
図5は本実施形態の装置構成を示し、ダイナモメータをダイナモ速度計3BとASR制御部7とインバータ6でダイナモ速度制御するエンジン試験装置に適用する場合である。
【0051】
これに伴い、本実施形態におけるエンジン発生トルク推定部10は、図1のエンジントルク−軸トルク特性発生器26に「ASR系のエンジントルク−軸トルク特性」のデータをもたせ、設定された周波数f成分のエンジン発生トルクを推定する。
【0052】
本実施形態では、ASR系のエンジントルク−軸トルク特性を利用することにより、ASR運転中に実施形態1と同様に、任意の周波数成分のエンジン発生トルクを推定することができる。
【0053】
(実施形態6)
図6は本実施形態の装置構成を示し、ダイナモメータをダイナモ速度計3BとASR制御部7とインバータ6でダイナモ速度制御するエンジン試験装置において、実施形態2や4と同様に、エンジン発生トルク推定部101〜10Nを設け、これらにエンジン回転速度の整数倍(1〜N)の周波数を設定し、エンジン回転数の1倍からN倍までのエンジン発生トルク推定値を足し合わせることにより、エンジン発生トルク波形を推定する。各エンジン発生トルク推定部101〜10Nは、それぞれの特性発生器26にASR系のエンジントルク−軸トルク特性をもたせる。
【0054】
本実施形態では、ASR運転中に実施形態2、4と同様に、1回の測定でエンジン発生トルク波形を推定することができる。
【0055】
(実施形態7)
図7は本実施形態の装置構成を示し、ダイナモメータをダイナモ速度計3BとASR制御部7とインバータ6でダイナモ速度制御するエンジン試験装置において、ASR運転中にダイナモトルク指令値(ASR出力)と「ASR系のエンジントルク−ダイナモトルク指令値特性」を利用し、設定された周波数成分のエンジン発生トルクを推定する。エンジン発生トルク推定部10は、特性発生器26にASR系のエンジントルク−ダイナモトルク指令値特性をもたせる。
【0056】
本実施形態では、ASR運転中に専用のシステムでは軸トルクを検出しない場合があるが、実施形態3,5と同様に、ASRコントローラの出力からエンジン発生トルクの任意の周波数成分を推定することができる。
【0057】
(実施形態8)
図8は本実施形態の装置構成を示し、ダイナモメータをダイナモ速度計3BとASR制御部7とインバータ6で速度制御するエンジン試験装置において、実施形態6と同様に、エンジン発生トルク推定部101〜10Nを設け、これらにエンジン回転速度の整数倍(1〜N)の周波数を設定し、エンジン回転数の1倍からN倍までのエンジン発生トルク推定値を足し合わせることにより、エンジン発生トルクを推定する。周波数f〜f×Nはエンジン速度計3Cから得る。各エンジン発生トルク推定部101〜10Nは、それぞれの特性発生器26にASR系のエンジントルク−ダイナモトルク指令値特性をもたせる。
【0058】
本実施形態では、実施形態6と同様に、軸トルク検出を行わないASR運転システムでエンジン発生トルク波形を推定することができる。
【0059】
なお、以上までの各実施形態において、低域通過フィルタ18、19に代えて、エンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器とすることができる。例えば、式(8)の左辺の信号を、積分器によって適切な周期でx(n)・sin2nを定積分すると、高い周波数成分が削除され、b2・sin22nをもつ項の振幅を抜き出すことができる。同様に、エンジン回転速度の周波数f〜整数N倍の周波数(f)〜(f×N)でそれぞれsin変換およびcos変換した信号をそれぞれエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)のsin成分およびcos成分の振幅をそれぞれ抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態1を示す装置構成図。
【図2】本発明の実施形態2を示す装置構成図。
【図3】本発明の実施形態3を示す装置構成図。
【図4】本発明の実施形態4を示す装置構成図。
【図5】本発明の実施形態5を示す装置構成図。
【図6】本発明の実施形態6を示す装置構成図。
【図7】本発明の実施形態7を示す装置構成図。
【図8】本発明の実施形態8を示す装置構成図。
【図9】エンジン試験装置の機械系構成図。
【図10】エンジン発生トルクに対するエンジン発生トルク推定値のゲイン/位相特性例。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン
2 ダイナモメータ
3 軸トルクメータ/エンジン速度計
4 結合シャフト
5 トルク制御部
6 インバータ
7 速度制御部
10、101〜10N エンジン発生トルク推定部
26 ATR系のエンジントルク−軸トルク特性発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、任意に設定された周波数(f)でsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号を低域通過フィルタ(LPF)にそれぞれ通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)のsin成分およびcos成分の振幅を抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換して合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とするエンジン発生トルクの測定装置。
【請求項2】
エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、エンジン回転速度の周波数f〜整数N倍の周波数(f)〜(f×N)でそれぞれsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をそれぞれ低域通過フィルタ(LPF)に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)のsin成分およびcos成分の振幅をそれぞれ抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換したものを合成することによりエンジン発生トルクの波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とするエンジン発生トルクの測定装置。
【請求項3】
エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、任意に設定された周波数(f)でsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器にそれぞれ通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)のsin成分およびcos成分の振幅を抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換して合成することによりエンジン発生トルクがもつ周波数(f)成分の波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とするエンジン発生トルクの測定装置。
【請求項4】
エンジンとダイナモメータを軸結合し、エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモメータトルク速度検出値を基にトルク制御系または速度制御系によってダイナモメータをトルク制御または速度制御するエンジン試験装置において、
エンジンの軸トルク検出信号またはダイナモトルク指令値を、エンジン回転速度の周波数f〜整数N倍の周波数(f)〜(f×N)でそれぞれsin変換およびcos変換し、これら変換後の信号をそれぞれエンジンの1回転周期毎に積分動作する積分器に通すことにより、エンジン発生トルクに含まれる周波数(f)〜(f×N)のsin成分およびcos成分の振幅をそれぞれ抜き出し、これら振幅値をそれぞれ同周期のsin変換およびcos変換したものを合成することによりエンジン発生トルクの波形を得るエンジン発生トルク推定部を備えたことを特徴とするエンジン発生トルクの測定装置。
【請求項5】
前記エンジン発生トルク推定部は、前記抜き出した周波数(f)または周波数(f)〜(f×N)の各成分を、トルク制御系または速度制御系のエンジン発生トルクからの閉ループ特性を利用してエンジン発生トルクの周波数(f)または周波数(f)〜(f×N)における位相遅れおよびゲイン低下をそれぞれ補正する手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジン発生トルクの測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−322914(P2006−322914A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345344(P2005−345344)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】