説明

エンジン

【課題】フリクションを増加させることなく簡単な構成によりシリンダヘッドからオイルパンへのオイル移送量を増加させたエンジンを提供する。
【解決手段】エンジン1を、潤滑用オイルが貯留されるとともに、オイルポンプの吸入口が設けられたオイルパン100と、シリンダヘッド30に設けられる動弁系を駆動するカムシャフト31の端部に設けられ、クランク軸からカムシャフト31に駆動力を伝達するタイミングチェーン70が掛けられるカムスプロケット60と、カムスプロケット又はカムスプロケットと共に回転する回転体の外周縁部と対向して配置された入口部111、及び、オイルパンの内部又は上部に配置された出口部112を有するオイル搬送ダクト110とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載されるエンジンに関し、特には旋回等の加速度を受けた際にシリンダヘッド側からオイルパンへのオイル移送量を増加させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用のエンジンにおいては、エンジン下部に設けられたオイルパンに潤滑用のオイルを貯留し、その内部に設けられたストレーナから吸入したオイルを、オイルポンプで加圧してエンジン各部に圧送している。エンジン各部を潤滑した後のオイルは、通常は重力によって流下し、オイルパンに戻る。
【0003】
しかし、例えばシリンダが水平又は傾斜して配置される水平対向エンジン、V型エンジンや、直列エンジンであっても傾斜して配置される場合には、旋回時の求心加速度等によって、シリンダヘッド側からオイルパンへのオイルの戻りが悪化するために、オイルパン内の油面高さが低下し、ストレーナが露出し、エア吸入に起因するエンジンの潤滑不良を引き起こす恐れがあった。
この場合、オイルパン内の油面高さを確保して潤滑不良を防止するため、オイル量を増加させる必要があるが、オイル量が多くなると重量、コスト、撹拌抵抗、暖機時間が長くなることによる燃費悪化などの面で不利である。
【0004】
シリンダヘッドからのオイル戻りの改善に関する従来技術として、例えば特許文献1には、水平対向エンジンのタイミングチェーンを収容するチェーン室の内部に、オイルの流れを整流する整流手段を設けて、旋回時のオイルの戻りを改善したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−97398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両の旋回性能向上や、オイル量低減への要望に応じて、シリンダヘッドからオイルパンへのオイル移送量をより増加させることが求められている。
これに対し、例えばシリンダヘッド側のオイルを吸入してオイルパンへ圧送するスカベンジポンプを設けることも提案されているが、この場合、エンジンの構造が複雑となってコストが増加し、また、補機駆動損失が増加して燃費が悪化してしまう。
本発明の課題は、フリクションを増加させることなく簡単な構成によりシリンダヘッドからオイルパンへのオイル移送量を増加させたエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、エンジンの潤滑用オイルが貯留されるとともに、オイルポンプの吸入口が設けられたオイルパンと、シリンダヘッドに設けられる動弁系を駆動するカムシャフトの端部に設けられ、クランク軸から前記カムシャフトに駆動力を伝達するタイミングチェーンが掛けられるカムスプロケットと、前記カムスプロケット又は該カムスプロケットと共に回転する回転体の外周縁部と対向して配置された入口部、及び、前記オイルパンの内部又は上部に配置された出口部を有するオイル搬送ダクトとを備えるエンジンである。
これによれば、タイミングチェーン等によって掻き回されて巻き上げられ、カムスプロケット等の回転体の表面から遠心力によって外径側に流れるオイルを、効果的にオイルパンに戻すことができる。
このため、エンジンのオイル量を低減して重量、コスト、撹拌抵抗、暖機性などを改善することが可能である。
また、シリンダヘッド側にオイルが貯まっていない通常走行時において、フリクションが増加することがない。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記シリンダヘッドは、シリンダ軸線方向が水平又は傾斜して配置されるとともに、前記タイミングチェーンが前記カムスプロケットの下方から入り上方から戻るよう構成され、前記オイル搬送ダクトの前記入口部は、前記カムスプロケットの上方に配置されることを特徴とする請求項1に記載のエンジンである。
これによれば、回転方向に起因して、タイミングチェーンにオイルを同伴させてオイルパンに戻すことが難しい場合であっても、タイミングチェーンがシリンダヘッド側で下方から上方へ巻き上げるオイルを適切に回収してオイルパンに戻すことが可能である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記オイル搬送ダクトの前記入口部は、前記タイミングチェーンの内側に配置されることを特徴とする請求項1に記載のエンジンである。
これによれば、オイル搬送ダクトをタイミングチェーン室の内部にコンパクトに収容することが可能となる。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記カムスプロケットと共に回転するベーン部が設けられ、前記オイル搬送ダクトの前記入口部は、前記ベーン部の外径側に配置されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエンジンである。
これによれば、ベーン部の羽根でオイルを圧送することによって、オイルの移送量をより増加させることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、フリクションを増加させることなく簡単な構成によりシリンダヘッドからオイルパンへのオイル移送量を増加させたエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用したエンジンの実施例1の模式的正面図である。
【図2】図1のエンジンの模式的側面図である。
【図3】本発明を適用したエンジンの実施例2の模式的正面図である。
【図4】本発明を適用したエンジンの実施例3の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、フリクションを増加させることなく簡単な構成によりシリンダヘッドからオイルパンへのオイル移送量を増加させたエンジンを提供する課題を、カムスプロケットの外径側に入口を有し、オイルパンの上部に出口を有するオイル搬送ダクトを設けて、カムスプロケットから遠心力により外径側に流れるオイルを、オイル搬送ダクトを経由してオイルパンに戻すことによって解決した。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明を適用したエンジンの実施例1について説明する。
実施例1のエンジンは、例えば乗用車等の自動車に縦置き搭載される4ストロークの水平対向4気筒エンジンである。
なお、以下の説明における前後、左右、上下は、いずれも車載状態を基準とする。
図1は、エンジンを前方側から見た模式的正面図である。
図2は、エンジンを右側方から見た模式的側面図である。
【0015】
エンジン1は、シリンダブロックRH10、シリンダブロックLH20、シリンダヘッドRH30、クランクスプロケット40、排気側カムスプロケット50、吸気側カムスプロケット60、タイミングチェーンRH70、タイミングチェーンLH80、チェーン室90、オイルパン100、オイル搬送ダクト110等を備えて構成されている。
【0016】
シリンダブロックRH10及びシリンダブロックLH20は、それぞれ左右各気筒のシリンダCが形成された部材であって、図示しないクランクシャフトを挟んで結合されている。
シリンダヘッドRH30は、シリンダブロックRH10の右側端部に設けられ、右側の各シリンダCの筒内に新気を導入する吸気ポート、筒内から燃焼済みガスを排出する排気ポート、各ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブ、点火プラグ等を備えている。
また、シリンダヘッドRH30には、吸気バルブ及び排気バルブをそれぞれ駆動する吸気側カムシャフト31、排気側カムシャフト32が設けられている。
吸気側カムシャフト31及び排気側カムシャフト32は、吸気側カムシャフト31が上となるように、上下方向に離間して平行に配置されている。
【0017】
クランクスプロケット40は、エンジン1の出力軸であるクランクシャフトの前端部に固定されている。クランクスプロケット40は、エンジン1を正面(車両前方側)から見たときに、時計回りに回転する。
排気側カムスプロケット50、吸気側カムスプロケット60は、それぞれ排気側カムシャフト32、吸気側カムシャフト31の前端部に設けられている。
また、排気側カムスプロケット50、吸気側カムスプロケット60の車両前方側には、各カムシャフト31,32の位相を各スプロケット50,60に対して油圧により相対回転させるバルブタイミング可変機構51,61がそれぞれ設けられている。
【0018】
タイミングチェーンRH70は、クランクスプロケット40、排気側カムスプロケット50、吸気側カムスプロケット60に掛けられている。
タイミングチェーンRH70は、クランクスプロケット40から排気側カムスプロケット50及び吸気側カムスプロケット60に駆動力を伝達し、シリンダヘッドRH30の吸気側カムシャフト31、排気側カムシャフト32を駆動するものである。
タイミングチェーンRH70は、クランクスプロケット40の下部からエンジンの下方側を通って排気側カムスプロケット50に向かい、排気側カムスプロケット50において上方に進行方向を変えて吸気側カムスプロケット60に向かい、吸気側カムスプロケット60において左側(エンジン1の中央側)に進行方向を変えてクランクスプロケット40に向かうように走行する。
【0019】
クランクスプロケット40と排気側カムスプロケット50との間におけるタイミングチェーンRH70の下方には、タイミングチェーンRH70を案内するチェーンガイド71と、このチェーンガイド71を上方に押圧して、タイミングチェーンRH70に所定のテンションを与えるテンショナ72が設けられている。
また、吸気側カムスプロケット60とクランクスプロケット40との間におけるタイミングチェーンRH70の下方には、タイミングチェーンRH70から滴下するオイルをクランクシャフト側へ案内する樋状のリブ73が設けられている。
【0020】
タイミングチェーンLH80は、図示しないシリンダヘッドLHの吸排気カムシャフトを駆動するものである。
チェーン室90は、エンジン1の前部に設けられた空間部であって、クランクスプロケット40、排気側カムスプロケット50、吸気側カムスプロケット60、タイミングチェーンRH70、タイミングチェーンLH80等を収容するものである。
オイルパン100は、シリンダブロックRH10及びシリンダブロックLH20の接合箇所下方に配置された皿状の部材であって、エンジン1の潤滑用のオイルを貯留するものである。
オイルパン100の内部には、エンジン1の各部にオイルを圧送するオイルポンプの吸入口である図示しないストレーナが配置されている。
なお、チェーン室90の下部におけるオイルパン100の側方には、旋回時等にオイルパン100からシリンダヘッドRH30側へのオイルの流出を防止するため、堰状に上方へ突き出したリブ91が形成されている。
【0021】
オイル搬送ダクト110は、吸気側カムスプロケット60、及び、タイミングチェーンRH70のカムスプロケット60に噛み合った部分から、遠心力によって外径側に飛散するオイルを回収し、オイルパン100の上部に搬送してオイルパン100に戻すものである。
オイル搬送ダクト110の入口111は、吸気側カムスプロケット60の上部に設けられ、吸気側カムスプロケット60の接線方向に沿うように、エンジン1の内側に傾斜して配置されている。
オイル搬送ダクト110の出口112は、オイルパン100の上部に配置されている。
オイル搬送ダクト110の中間部113は、タイミングチェーンRH70の前方側を通過するように配置され、エンジン1の中央部側が低くなるように傾斜して配置されている。
オイル搬送ダクト110は、入口111と中間部113との間において、上方が凸となる弧状となるように湾曲して形成されている。
【0022】
図1において、横方向に1Gの加速度が作用した場合のオイル液面の一例を点線で示す。この点線で示すように、旋回時には、シリンダヘッドRH30内において、排気側カムスプロケット50の下部がオイルに浸かった状態となっている。
実施例1においては、シリンダヘッドRH30側に貯まったオイルは、タイミングチェーンRH70に掻き混ぜられて吸気側カムスプロケット60側に巻き上げられ、吸気側カムスプロケット60の外周縁部から、遠心力によって外径側に飛散する。この外径側に向かうオイルの一部は、オイル搬送ダクト110の入口111に入り、オイル搬送ダクト110内を経由して出口112からオイルパン100に戻される。
これによって、比較的少ないオイル量であってもオイルパン100の油面高さを確保することが可能となり、オイルポンプのエア吸入に起因するエンジン1の潤滑不良を防止することができる。
また、シリンダヘッドRH30側にオイルが貯まり難い通常走行時(非旋回時)においては、エンジン1のフリクションやオイル攪拌抵抗が、オイル搬送ダクト110を設けない既存のエンジンに対して増加することがなく、燃費の悪化を防止できる。
【実施例2】
【0023】
次に、本発明を適用したエンジンの実施例2について説明する。
以下の説明において、上述した実施例1と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図3は、実施例2のエンジンの模式的正面図である。
実施例2のエンジン1Aは、実施例1のエンジン1のオイル搬送ダクト110に代えて、以下説明するオイル搬送ダクト110Aを備えている。
【0024】
図3に示すように、オイル搬送ダクト110Aの入口111は、吸気側カムスプロケット60におけるクランクスプロケット40に面した側の外周縁部と対向して、環状のタイミングチェーンRH70の内側に配置されている。
また、オイル搬送ダクト110は、正面から見た形状が実質的にストレート状に形成されている。
以上説明した実施例2によれば、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果に加えて、オイル搬送ダクト110Aが吸気側カムスプロケット60の上方側に張り出すことがないため、エンジン1Aの外形をコンパクトにすることができる。
【実施例3】
【0025】
次に、本発明を適用したエンジンの実施例3について説明する。
図4は、実施例3のエンジンの模式的側面図である。
実施例3のエンジン1Bは、吸気側カムスプロケット60のバルブタイミング可変機構61の外径側に、羽根車であるベーン62を設けて、入口111がベーン62の上部にベーン62の外周縁部と対向するように配置されたオイル搬送ダクト110Bを設けたものである。
以上説明した実施例3によれば、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果に加えて、ベーン62によってオイルを攪拌し巻き上げることによって、オイル移送量をよりいっそう増加させることができる。
【0026】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)各実施例において、エンジンは例えば水平対向エンジンであったが、本発明はこれに限らず、例えばV型エンジンや、傾斜配置される直列エンジン等にも適用することができる。
また、DOHCエンジンに限らず、SOHCエンジンにも本発明は適用可能である。
(2)オイル搬送ダクトの形状、構造や配置は、各実施例のものに限らず、適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1,1A,1B エンジン 10 シリンダブロックRH
C シリンダ 20 シリンダブロックLH
30 シリンダヘッドRH 31 吸気側カムシャフト
32 排気側カムシャフト 40 クランクスプロケット
50 排気側カムスプロケット 51 バルブタイミング可変機構
60 吸気側カムスプロケット 61 バルブタイミング可変機構
62 ベーン 70 タイミングチェーンRH
71 チェーンガイド 72 テンショナ
73 リブ 80 タイミングチェーンLH
90 チェーン室 91 リブ
100 オイルパン
110,110A,110B オイル搬送ダクト
111 入口 112 出口
113 中間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの潤滑用オイルが貯留されるとともに、オイルポンプの吸入口が設けられたオイルパンと、
シリンダヘッドに設けられる動弁系を駆動するカムシャフトの端部に設けられ、クランク軸から前記カムシャフトに駆動力を伝達するタイミングチェーンが掛けられるカムスプロケットと、
前記カムスプロケット又は該カムスプロケットと共に回転する回転体の外周縁部と対向して配置された入口部、及び、前記オイルパンの内部又は上部に配置された出口部を有するオイル搬送ダクトと
を備えるエンジン。
【請求項2】
前記シリンダヘッドは、シリンダ軸線方向が水平又は傾斜して配置されるとともに、前記タイミングチェーンが前記カムスプロケットの下方から入り上方から戻るよう構成され、
前記オイル搬送ダクトの前記入口部は、前記カムスプロケットの上方に配置されること
を特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記オイル搬送ダクトの前記入口部は、前記タイミングチェーンの内側に配置されること
を特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
前記カムスプロケットと共に回転するベーン部が設けられ、
前記オイル搬送ダクトの前記入口部は、前記ベーン部の外径側に配置されること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエンジン。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate