説明

エンドミル及びそのエンドミルの製造方法

【課題】工具剛性を確保して、加工精度の向上を図ることができるエンドミル及びそのエンドミルの製造方法を提供すること。
【解決手段】
エンドミル1によれば、チップ座14の工具本体10後端側の端部P1は、刃部12の範囲内に設定されているので、かかる端部P1をシャンク部11の範囲内に設定する場合と比較して、チップ座14が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができる。その結果、工具剛性を確保することができ、工具剛性が低下することに起因して被加工物の切削加工時に発生するびびりを抑制することができるので、加工精度の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミル及びそのエンドミルの製造方法に関し、特に、工具剛性を確保して、加工精度の向上を図ることができるエンドミル及びそのエンドミルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切れ刃が形成されるチップを工具本体にろう付け固着したエンドミルが知られている。かかるエンドミルとして、例えば、特許文献1には、工具本体が超硬合金から構成されるスクエアエンドミルが開示されている。
【特許文献1】特開2002−178211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に開示されるスクエアエンドミルのように、工具本体が超硬合金から構成される場合には、工具本体の硬度が極めて高いため、一般に、チップを取り付けるためのチップ座は、研削加工によって工具本体に形成される。また、かかるチップ座を研削加工によって形成する場合でも、直径の小さな砥石を用いて工具本体の加工を行うと、加工に時間がかかり、製造コストの増加を招くので、より大きな直径の砥石が用いられる。
【0004】
しかしながら、直径の大きな砥石を用いて工具本体の加工を行うと、加工すべき範囲よりも広い範囲で砥石が工具本体に接触し、工具本体が必要以上に加工されるので、チップ座が大きくなり過ぎてしまう。その結果、工具断面積が減少して、工具剛性が低下することで、被加工物の切削加工時にびびりを発生させる要因となり、加工精度の悪化を招くという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、工具剛性を確保して、加工精度の向上を図ることができるエンドミル及びそのエンドミルの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載のエンドミルは、超硬合金から構成され軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体とは別体に構成され切れ刃が形成されるチップとを備え、そのチップが前記工具本体にろう付け固着されたものであり、前記工具本体は、その工具本体の後端側に設けられるシャンク部と、そのシャンク部に連設され前記工具本体の先端側に設けられる刃部と、前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設され前記チップが取り付けられるチップ座と、そのチップ座に対して前記工具本体の回転方向前方側に連設され前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設される切りくず排出溝とを備え、前記チップ座の前記工具本体後端側の端部は、前記刃部の範囲内に設定されると共に、前記切りくず排出溝の前記工具本体後端側の端部は、前記シャンク部の範囲内に設定されている。
【0007】
請求項2記載のエンドミルは、請求項1記載のエンドミルにおいて、前記チップは、少なくとも切れ刃の形成される部分が立方晶窒化ホウ素または多結晶ダイヤモンドを主成分とする超高圧焼結体から構成されている。
【0008】
請求項3記載のエンドミルの製造方法は、超硬合金から構成され軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体とは別体に構成され切れ刃が形成されるチップとを備え、そのチップが前記工具本体にろう付け固着されたエンドミルであって、前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設され前記チップが取り付けられるチップ座を備えたエンドミルの製造方法であり、超硬合金の成分となる混合粉末に圧力を加えて成型されたブランクを予備焼結する予備焼結工程と、その予備焼結工程において予備焼結されたブランクに加工を施して、前記工具本体を成形する工具本体成形工程と、その工具本体成形工程において成形された工具本体を焼結する焼結工程と、前記工具本体成形工程と焼結工程との間に行われ、前記工具本体成形工程において成形された工具本体に加工を施して、前記工具本体に前記チップ座を形成するチップ座形成工程とを備えている。
【0009】
請求項4記載のエンドミルの製造方法は、請求項3記載のエンドミルの製造方法において、前記工具本体は、その工具本体の後端側に設けられるシャンク部と、そのシャンク部に連設され前記工具本体の先端側に設けられる刃部とを備えており、前記チップ座形成工程において前記工具本体に形成されるチップ座は、前記工具本体後端側の端部が前記刃部の範囲内に設定されている。
【0010】
請求項5記載のエンドミルの製造方法は、請求項3又は4に記載のエンドミルの製造方法において、前記工具本体は、前記チップ座に対して前記工具本体の回転方向前方側に連設され前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設される切りくず排出溝を備えており、前記工具本体成形工程と焼結工程との間または前記焼結工程の後に行われ、前記工具本体に加工を施して前記切りくず排出溝を形成する切りくず排出溝形成工程を備えている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のエンドミルによれば、チップ座の工具本体後端側の端部は、刃部の範囲内に設定されているので、かかる端部をシャンク部の範囲内に設定する場合と比較して、チップ座が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができる。即ち、刃部の範囲は、チップの全長に基づいて設定されるものであり、本発明のように、チップ座の工具本体後端側の端部を刃部の範囲内に設定することで、チップ座をチップに対応した大きさとして、工具断面積の減少を抑制することができる。その結果、工具剛性を確保することができ、工具剛性が低下することに起因して被加工物の切削加工時に発生するびびりを抑制することができるので、加工精度の向上を図ることができるという効果がある。
【0012】
また、本発明によれば、チップ座とは別体に形成される切りくず排出溝を備えているので、工具剛性を確保しつつも、切りくず排出性の向上を図ることができるという効果がある。
【0013】
ここで、例えば、切りくず排出溝とチップ座とを一体に形成する場合には、切りくず排出性の向上を図るべく切りくず排出溝を拡大すると、切りくず排出溝の拡大につれてチップ座が大きくなり、工具剛性の低下を招く一方、工具剛性を確保すべく切りくず排出溝をチップ座の大きさに合わせると、十分な大きさの切りくず排出溝を確保することができず、切りくず排出性の低下を招く。これに対し、本発明によれば、切りくず排出溝とチップ座とが別体に形成されるので、工具剛性を確保しつつも、切りくず排出性の向上を図ることができ、工具剛性の確保と切りくず排出性の向上とを両立して達成することができるという効果がある。
【0014】
更に、本発明によれば、切りくず排出溝の工具本体後端側の端部は、シャンク部の範囲内に設定されているので、かかる端部を刃部の範囲内に設定する場合と比較して、切りくず排出溝を拡大することができ、切りくず排出性のより一層の向上を図ることができるという効果がある。
【0015】
請求項2記載のエンドミルによれば、請求項1記載のエンドミルの奏する効果に加え、前記チップは、少なくとも切れ刃の形成される部分が立方晶窒化ホウ素または多結晶ダイヤモンドを主成分とする超高圧焼結体から構成されているので、切れ刃の耐摩耗性を確保して、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0016】
請求項3記載のエンドミルの製造方法によれば、予備焼結工程においてブランクが予備焼結され、その予備焼結されたブランクに工具本体成形工程において加工が施されて工具本体が成形され、その成形された工具本体にチップ座形成工程において加工が施されて工具本体にチップ座が形成され、そのチップ座が形成された工具本体が焼結工程において焼結される。つまり、製造過程において、工具本体を焼結する前の段階(即ち、予備焼結のみを行った段階)で工具本体にチップ座が形成される。
【0017】
よって、工具本体を焼結した後では、工具本体の硬度が極めて高く、加工が困難であるところ、本発明によれば、工具本体を焼結する前の段階において工具本体にチップ座が形成されるので、焼結後と比較して工具本体の硬度が低い状態でチップ座を形成することができ、チップ座の形成を容易に行うことができるという効果がある。
【0018】
ところで、従来、超硬合金から構成される工具本体を焼結後に加工する場合には、工具本体の硬度が極めて高いため、一般に、研削加工が行われる。また、研削加工を行う場合でも、直径の小さな砥石を用いて工具本体の加工を行うと、加工に時間がかかり、製造コストの増加を招くので、より大きな直径の砥石が用いられる。
【0019】
しかしながら、直径の大きな砥石を用いて工具本体の加工を行うと、加工すべき範囲よりも広い範囲で砥石が工具本体に接触し、工具本体が必要以上に加工されるので、工具断面積の減少を招く。
【0020】
これに対し、本発明によれば、工具本体を焼結する前の段階で工具本体にチップ座が形成されることで、焼結後と比較して工具本体の硬度が低い状態でチップ座を形成することができるので、研削加工に限られず、切削加工によっても、チップ座の形成を容易に行うことができる。チップ座の形成が容易となれば、工具本体の加工時間を短縮することができるので、製造コストの増加を招くことなく、直径の小さな砥石や切削工具を用いてチップ座を形成することが可能となる。よって、工具本体が必要以上に加工されることがないので、チップ座が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができる。その結果、工具剛性を確保することができ、加工精度の向上を図り得るエンドミルを製造することができるという効果がある。
【0021】
請求項4記載のエンドミルの製造方法によれば、請求項3記載のエンドミルの製造方法の奏する効果に加え、チップ座形成工程において工具本体に形成されるチップ座は、工具本体後端側の端部が刃部の範囲内に設定されているので、かかる端部をシャンク部の範囲内に設定する場合と比較して、チップ座が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができる。その結果、工具剛性を確保することができ、加工精度の向上を図り得るエンドミルを製造することができるという効果がある。
【0022】
請求項5記載のエンドミルの製造方法によれば、請求項3又は4に記載のエンドミルの製造方法の奏する効果に加え、工具本体成形工程と焼結工程との間または焼結工程の後に行われる切りくず排出溝形成工程において工具本体に加工が施されて切りくず排出溝が形成される。
【0023】
ここで、工具本体成形工程と焼結工程との間に切りくず排出溝形成工程を行う場合には、製造過程において、工具本体を焼結する前の段階(即ち、予備焼結のみを行った段階)で工具本体に切りくず排出溝が形成される。
【0024】
よって、工具本体を焼結した後では、工具本体の硬度が極めて高く、加工が困難であるところ、工具本体を焼結する前の段階において工具本体に切りくず排出溝が形成されるので、焼結後と比較して工具本体の硬度が低い状態で切りくず排出溝を形成することができ、切りくず排出溝の形成を容易に行うことができるという効果がある。
【0025】
また、焼結工程の後に切りくず排出溝形成工程を行う場合には、製造過程において、工具本体を焼結した後の段階で工具本体に切りくず排出溝が形成される。
【0026】
よって、工具本体を焼結する前の段階(即ち、予備焼結のみを行った段階)で切りくず排出溝を形成する場合には、その後に行われる焼結工程により、切りくず排出溝にひずみが生じ、切りくず排出溝の寸法精度が確保し難いところ、工具本体を焼結した後の段階で切りくず排出溝が形成されるので、ひずみを予め考慮する必要がなく、切りくず排出溝を形成することができ、切りくず排出溝の形成を容易に行うことができるという効果がある。また、寸法精度の高い切りくず排出溝を形成することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1(a)は、本発明の一実施の形態におけるエンドミル1の正面図であり、図1(b)は、図1(a)の矢印Ib方向視におけるエンドミル1の先端面図である。また、図1(c)は、図1(a)のIc−Ic線におけるエンドミル1の拡大断面図である。なお、図1(a)及び図1(b)中の矢印Aは、エンドミル1の回転方向を示している。
【0028】
まず、図1を参照して、エンドミル1の全体構成について説明する。エンドミル1は、マシニングセンタ等の加工機械(図示せず)から伝達される回転力によって金型などの自由曲面加工を行う切削工具であり、図1に示すように、工具本体10と、その工具本体10とは別体に構成され工具本体10にろう付け固着される4つのチップ20とを主に備えている。
【0029】
工具本体10は、タングステンカーバイト(WC)とコバルト(Co)との混合粉末を加圧焼結した超硬合金から構成され、図1(a)に示すように、その後端側(図1(a)左側)には、軸心Oを中心軸として円柱状に形成されたシャンク部11が設けられている。このシャンク部11がホルダ(図示せず)に保持されることで、エンドミル1がホルダを介して加工機械に取り付けられる。そして、かかるホルダを介して加工機械の回転力が工具本体10に伝達されることで、エンドミル1(工具本体10)が軸心O回りに矢印A方向へ回転する。
【0030】
一方、工具本体10の先端側(図1(a)右側)には、シャンク部11に連設されて刃部12が設けられている。この刃部12は、工具本体10の先端側が軸心Oを中心軸としてシャンク部11の直径よりも小径の円柱状に形成されると共に、工具本体10の後端側がシャンク部11側へ向かうに従って漸次拡径する円錐状に形成され、シャンク部11との間に首部13が設けられている。ここで、刃部12の範囲(軸心O方向に沿う長さ)は、チップ20の全長に基づいて設定されており、チップ20の全長の1.5倍以下の長さとなる範囲に設定されている。
【0031】
また、図1(a)及び図1(b)に示すように、工具本体10の外周面には、4つのチップ座14及び切りくず排出溝15がそれぞれ矢印A方向に等間隔(90度間隔)で凹設されている。チップ座14は、チップ20が取り付けられる部位であり、図1(a)に示すように、工具本体10の先端(刃部12の端面)から後端側へ向けて軸心Oに対し傾斜して延設されると共に、工具本体10後端側の端部P1が刃部12の範囲内、具体的には、首部13の略中央に位置するように設定されている。
【0032】
また、図1(c)に示すように、チップ座14の底面は、工具本体10の先端(図1(c)右側の端)から点P2までの範囲における平面部14aでは、軸心Oに平行な平面状に形成されている。チップ20をチップ座14に取り付ける場合には、この平面部14aの範囲内にチップ20を取り付けることで、チップ20をチップ座14に密着した状態で取り付けることができる。
【0033】
かかる点P2は、チップ20が平面部14aに取り付けられた状態で、チップ20の後端(図1(c)左側の端)に位置するように設定されている。これにより、チップ座14が大きくなり過ぎず、工具剛性を確保することができる。
【0034】
これに対し、点P2から端部P1までの範囲における曲面部14bでは、チップ座14の深さが工具本体10後端側(図1(c)左側)へ向かうに従って漸次浅くなるように、軸心O側へ湾曲する曲面状に形成されている。即ち、図1(c)に示すように、チップ座14の延設方向に沿う断面視において、曲面部14bが軸心O側へ湾曲する円弧状に形成されている。これにより、曲面部14bでの応力集中を抑制して、エンドミル1の折損を防止することができる。なお、曲面部14bの形状は、曲面状に限られず、例えば、軸心Oに対し傾斜する平面状に形成しても良い。
【0035】
チップ20は、被加工物を切削するための切れ刃を構成するものであり、タングステンカーバイト(WC)等を加圧焼結した超硬合金から構成される台座21と、その台座21に積層接着されると共に立方晶窒化ホウ素焼結体(PCBN)を主体として構成される硬質焼結体22とを備え、全体として略短冊状に形成されている。
【0036】
このチップ20は、図1(a)に示すように、硬質焼結体22が台座21に対して矢印A方向側に配置されると共に工具本体10の先端から突出した状態で工具本体10に取り付けられており、その突出した面と硬質焼結体22の矢印A方向を向く面との交線によって底刃23が形成されている。
【0037】
また、チップ20は、図1(b)に示すように、刃部12の外周面よりも外側へ突出した状態で工具本体10に取り付けられており、その突出した面と硬質焼結体22の矢印A方向を向く面との交線によって外周刃24が形成されている。
【0038】
このように、チップ20は、底刃23及び外周刃24の形成される硬質焼結体22が立方晶窒化ホウ素を主成分とする超高圧焼結体から構成されているので、切れ刃の耐摩耗性を確保して、工具寿命の向上を図ることができる。
【0039】
切りくず排出溝15は、切削加工時にチップ20によって生成される切りくずを収容および排出するためのものであり、図1(a)及び図1(b)に示すように、チップ座14の矢印A方向側に連設されている。この切りくず排出溝15は、工具本体10の先端(刃部12の端面)から後端側11へ向けて延設され、工具本体10後端側の端部P3がシャンク部11の範囲内に位置するように設定されている。
【0040】
次いで、図2を参照して、上述したように構成されるエンドミル1の製造方法について説明する。図2は、エンドミル1の製造工程を示すフローチャートである。なお、エンドミル1の製造方法についての説明では、図3及び図4を適宜参照して説明する。図3(a)は、工具本体成形工程後の工具本体10の正面図であり、図3(b)は、チップ座形成工程後の工具本体10の正面図であり、図3(c)は、切りくず排出溝形成工程後の工具本体10の正面図である。また、図4(a)は、ろう付け工程後のエンドミル1の正面図であり、図4(b)は、切れ刃形成工程後のエンドミル1の正面図である。
【0041】
図2に示すように、エンドミル1の製造に際しては、まず、タングステンカーバイト(WC)とコバルト(Co)との混合粉末に圧力を加えて円柱状のブランクを成型する(ブランク成型工程S1)。
【0042】
ブランク成型工程S1の後は、ブランク成型工程S1において成型されたブランクに熱処理を施して、ブランクを予備焼結する(予備焼結工程S2)。ここで、予備焼結とは、後述する焼結工程S5で行われる熱処理の温度よりも低い温度で熱処理を行う予備的な焼結であり、焼結工程S5で行われる熱処理の温度が1350度〜1500度と高温であるのに対し、予備焼結工程S2で行われる熱処理の温度は400度〜800度と低い温度に設定されている。この予備焼結工程S2により、ブランクの硬度が高まり、ブランクへの加工が可能となる。
【0043】
予備焼結工程S2の後は、予備焼結工程S2において予備焼結されたブランクに円筒研削加工を施して、工具本体10を成形する(工具本体成形工程S3)。なお、工具本体成形工程S3では、図3(a)に示すように、シャンク部11及び刃部12を成形する。
【0044】
工具本体成形工程S3の後は、工具本体成形工程S3において成形された工具本体10に切削加工を施して、図3(b)に示すように、チップ座14を形成する(チップ座形成工程S4)。ここで、チップ座形成工程S4では、チップ座14の幅Wと同径のエンドミル(図示せず)を用い、かかるエンドミルを工具本体10の外周面に当接させつつ所定の切り込み深さ及び送り量で矢印D1方向(又は、反矢印D1方向)へ移動させて、工具本体10にチップ座14を凹設する。
【0045】
なお、チップ座形成工程S4におけるチップ座14の形成は、エンドミルを用いた切削加工に限られず、例えば、研削砥石を用いた研削加工によってチップ座14を形成しても良い。この場合には、例えば、軸付砥石(マシニングセンタ等の加工機械に取り付けるための軸部を備えた砥石)を用い、かかる軸付砥石を工具本体10の外周面に当接させつつ所定の切り込み深さ及び送り量で矢印D1方向(又は、反矢印D1方向)へ移動させて、工具本体10にチップ座14を凹設する。
【0046】
また、チップ座形成工程S4では、上述したように、チップ座14を工具本体10の先端(刃部12の端面)から後端側へ向けて延設し、工具本体10後端側の端部P1が刃部12の範囲内、具体的には、首部13の略中央に位置するように形成する。
【0047】
チップ座形成工程S4の後は、チップ座形成工程S4においてチップ座14が形成された工具本体10に熱処理を施して、工具本体10を焼結する(焼結工程S5)。この焼結工程S5により、工具本体10の硬度が高まり、高硬度の工具本体10が得られる。
【0048】
焼結工程S5の後は、焼結工程S5において焼結された工具本体10に研削加工を施して、図3(c)に示すように、切りくず排出溝15を形成する(切りくず排出溝形成工程S6)。ここで、切りくず排出溝形成工程S6では、比較的大径の研削砥石を用い、かかる研削砥石を工具本体10の外周面に当接させつつ所定の切り込み深さ及び送り速度で矢印D2方向(又は、反矢印D2方向)へ移動させて、工具本体10に切りくず排出溝15を凹設する。
【0049】
切りくず排出溝形成工程S6の後は、切りくず排出溝形成工程S6において切りくず排出溝15が形成された工具本体10にチップ20をろう付け固着する(ろう付け工程S7)。なお、ろう付け工程S7では、図4(a)に示すように、チップ座形成工程S4において工具本体10に形成されたチップ座14にチップ20を取り付ける。
【0050】
ろう付け工程S7の後は、ろう付け工程S7において工具本体10にろう付け固着されたチップ20に研磨加工を施して、図4(b)に示すように、底刃23及び外周刃24(図1(b)参照)を形成する(切れ刃形成工程S8)。なお、切れ刃形成工程S8では、チップ20の先端(図4(b)右側の端)を研磨して底刃23を形成すると共に、チップ20の外周面を研磨して外周刃24を形成する。
【0051】
上述したように、本実施の形態におけるエンドミル1の製造方法によれば、製造過程において、工具本体10を焼結する前の段階(即ち、予備焼結のみを行った段階)で工具本体10にチップ座14が形成されるので、工具本体10を焼結した後では、工具本体10の硬度が極めて高く、加工が困難であるところ、焼結後と比較して工具本体10の硬度が低い状態でチップ座14を形成することができ、チップ座14の形成を容易に行うことができる。
【0052】
また、本実施の形態におけるエンドミル1の製造方法によれば、工具本体10を焼結する前の段階で工具本体10にチップ座14が形成されることで、焼結後と比較して工具本体10の硬度が低い状態でチップ座14を形成することができるので、研削加工に限られず、切削加工によっても、チップ座14の形成を容易に行うことができる。
【0053】
更に、チップ座14の形成が容易となれば、工具本体10の加工時間を短縮することができるので、製造コストの増加を招くことなく、直径の小さな(例えば、チップ座14の幅Wと同径の)エンドミルや軸付砥石を用いてチップ座を形成することが可能となる。よって、工具本体10が必要以上に加工されることがないので、チップ座14が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができる。その結果、工具剛性を確保することができ、加工精度の向上を図り得るエンドミルを製造することができる。
【0054】
また、本実施の形態におけるエンドミル1の製造方法によれば、製造過程において、工具本体10を焼結した後の段階で切りくず排出溝15が形成されるので、工具本体10を焼結する前の段階(即ち、予備焼結のみを行った段階)で切りくず排出溝15を形成する場合には、その後に行われる焼結工程S5により、切りくず排出溝15にひずみが生じ、切りくず排出溝15の寸法精度が確保し難いところ、ひずみを予め考慮する必要なく、切りくず排出溝15を形成することができ、切りくず排出溝15の形成を容易に行うことができる。また、寸法精度の高い切りくず排出溝15を形成することができる。
【0055】
更に、本実施の形態におけるエンドミル1の製造方法によれば、比較的大径の研削砥石を用いた研削加工によって切りくず排出溝15を形成するので、工具本体10の加工時間を短縮することができ、製造コストの低コスト化を図ることができる。
【0056】
次いで、上述したように構成されるエンドミル1を用いて行ったCAE解析について説明する。CAE解析は、エンドミル1に所定の外力を与えた場合に、かかる外力によってエンドミル1が変形する変形量およびエンドミル1に作用する応力をコンピュータシミュレーションによって計算するものである。なお、CAE解析の詳細諸元は、解析システム:FEM5、メッシュ生成:四面体自動生成、最大メッシュサイズ:モデル全長比約2%以内である。
【0057】
また、CAE解析には、本実施の形態で説明したエンドミル1(以下、「本発明品」と称す。)と、エンドミル1に対してチップ座14の工具本体10後端側の端部P1がシャンク部11の範囲内に設定されたエンドミル(以下、「従来品」と称す。)とを用いて行った。
【0058】
CAE解析の解析結果によれば、本発明品は、従来品の変形量を100%とすると、変形量が71%となり、従来品に対して工具剛性が40%向上した。また、本発明品は、従来品の最大主応力を100%とすると、最大主応力が42%となり、従来品に対して応力集中が2.4倍緩和された。
【0059】
これは、従来品では、チップ座14の工具本体10後端側の端部P1がシャンク部11の範囲内に設定されているので、チップ座14が大き過ぎ、工具断面積が減少して、工具剛性の低下および応力集中を招くのに対し、本発明品では、かかる端部P1が刃部12の範囲内に設定されているので、チップ座14が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができたためであると考えられる。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態におけるエンドミル1によれば、チップ座14の工具本体10後端側の端部P1は、刃部12の範囲内に設定されているので、かかる端部P1をシャンク部11の範囲内に設定する場合と比較して、チップ座14が大きくなり過ぎず、工具断面積の減少を抑制することができる。その結果、工具剛性を確保することができ、工具剛性が低下することに起因して被加工物の切削加工時に発生するびびりを抑制することができるので、加工精度の向上を図ることができる。
【0061】
また、本実施の形態におけるエンドミル1によれば、チップ座14とは別体に形成される切りくず排出溝15を備えているので、工具剛性を確保しつつも、切りくず排出性の向上を図ることができる。
【0062】
ここで、例えば、切りくず排出溝15とチップ座14とを一体に形成する場合には、切りくず排出性の向上を図るべく切りくず排出溝15を拡大すると、切りくず排出溝15の拡大につれてチップ座14が大きくなり、工具剛性の低下を招く一方、工具剛性を確保すべく切りくず排出溝15をチップ座14の大きさに合わせると、十分な大きさの切りくず排出溝15を確保することができず、切りくず排出性の低下を招く。これに対し、本実施の形態におけるエンドミル1によれば、切りくず排出溝15とチップ座14とが別体に形成されるので、工具剛性を確保しつつも、切りくず排出性の向上を図ることができ、工具剛性の確保と切りくず排出性の向上とを両立して達成することができる。
【0063】
更に、本実施の形態におけるエンドミル1によれば、切りくず排出溝15の工具本体10後端側の端部P3は、シャンク部11の範囲内に設定されているので、かかる端部P3を刃部12や首部13の範囲内に設定する場合と比較して、切りくず排出溝15を拡大することができ、切りくず排出性のより一層の向上を図ることができる。
【0064】
次いで、図5を参照して、上述したエンドミル1の製造方法とは異なる製造方法を第2実施の形態として説明する。図5は、エンドミル1の第2実施の形態における製造工程を示すフローチャートである。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
図5に示すように、第2実施の形態における製造方法では、まず、ブランク成型工程S1を行うと共に、予備焼結工程S2を行い、工具本体成形工程S3を行う。工具本体成形工程S3の後は、チップ座形成工程S4を行うと共に、切りくず排出溝成形工程S6を行い、焼結工程S5を行う。焼結工程S5の後は、ろう付け工程S7を行うと共に、切れ刃形成工程S8を行う。
【0066】
このように、本実施の形態における製造方法によれば、製造過程において、工具本体10を焼結する前の段階(即ち、予備焼結のみを行った段階)で工具本体10に切りくず排出溝15が形成されるので、工具本体10を焼結した後では、工具本体10の硬度が極めて高く、加工が困難であるところ、焼結後と比較して工具本体10の硬度が低い状態で切りくず排出溝15を形成することができ、切りくず排出溝15の形成を容易に行うことができる。
【0067】
また、本実施の形態における製造方法によれば、工具本体10を焼結する前の段階で工具本体10に切りくず排出溝15が形成されることで、焼結後と比較して工具本体10の硬度が低い状態で切りくず排出溝15を形成することができるので、研削加工に限られず、切削加工によっても、切りくず排出溝15の形成を容易に行うことができる。
【0068】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定される物ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0069】
例えば、上記実施の形態では、4つのチップ座14を備え、それら4つのチップ座14に4つのチップ20がそれぞれ取り付けられる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、2つ、或いは3つのチップ座14を備え、それら2つ、或いは3つのチップ座14に2つ、或いは3つのチップ20をそれぞれ取り付けるように構成しても良い。
【0070】
上記実施の形態では、チップ座14が軸心Oに対し傾斜して形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、軸心Oと平行に形成しても良い。
【0071】
上記実施の形態では、チップ20の硬質焼結体22が立方晶窒化ホウ素を主成分とする超高圧焼結体から構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、多結晶ダイヤモンドを主成分とする超高圧焼結体から構成しても良い。
【0072】
上記実施の形態では、刃部12に首部13が設けられる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、首部13を備えずに、刃部12の全範囲をシャンク部11の直径よりも小径に形成しても良く、或いは、刃部12の全範囲をシャンク部11の直径と同径に形成しても良い。
【0073】
上記実施の形態では、チップ座形成工程S4において、チップ座14の幅Wと同径のエンドミルを用いた切削加工によってチップ座14を形成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、チップ座14の幅Wよりも小径のエンドミルや軸付砥石を用い、かかるエンドミルや軸付砥石を工具本体10の外周面に当接させつつ往復移動させて、工具本体10にチップ座14を凹設しても良い。
【0074】
上記第2実施の形態では、チップ座形成工程S4の後に切りくず排出溝形成工程S6を行う場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、切りくず排出溝形成工程S6の後にチップ座形成工程S4を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態におけるエンドミルの正面図であり、(b)は、図1(a)の矢印Ib方向視におけるエンドミルの先端面図であり、(c)は、図1(a)のIc−Ic線におけるエンドミルの拡大断面図である。
【図2】エンドミルの製造工程を示すフローチャートである。
【図3】(a)は、工具本体成形工程後の工具本体の正面図であり、(b)は、チップ座形成工程後の工具本体の正面図であり、(c)は、切りくず排出溝形成工程後の工具本体の正面図である。
【図4】(a)は、ろう付け工程後のエンドミルの正面図であり、(b)は、切れ刃形成工程後のエンドミルの正面図である。
【図5】第2実施の形態における製造工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1 エンドミル
10 工具本体
11 シャンク部
12 刃部
13 首部(刃部の一部)
14 チップ座
15 切りくず排出溝
20 チップ
O 軸心
P1 チップ座の工具本体後端側の端部
P3 切りくず排出溝の工具本体後端側の端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金から構成され軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体とは別体に構成され切れ刃が形成されるチップとを備え、そのチップが前記工具本体にろう付け固着されたエンドミルにおいて、
前記工具本体は、
その工具本体の後端側に設けられるシャンク部と、
そのシャンク部に連設され前記工具本体の先端側に設けられる刃部と、
前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設され前記チップが取り付けられるチップ座と、
そのチップ座に対して前記工具本体の回転方向前方側に連設され前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設される切りくず排出溝とを備え、
前記チップ座の前記工具本体後端側の端部は、前記刃部の範囲内に設定されると共に、前記切りくず排出溝の前記工具本体後端側の端部は、前記シャンク部の範囲内に設定されていることを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記チップは、少なくとも切れ刃の形成される部分が立方晶窒化ホウ素または多結晶ダイヤモンドを主成分とする超高圧焼結体から構成されていることを特徴とする請求項1記載のエンドミル。
【請求項3】
超硬合金から構成され軸心回りに回転される工具本体と、その工具本体とは別体に構成され切れ刃が形成されるチップとを備え、そのチップが前記工具本体にろう付け固着されたエンドミルであって、前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設され前記チップが取り付けられるチップ座を備えたエンドミルの製造方法において、
超硬合金の成分となる混合粉末に圧力を加えて成型されたブランクを予備焼結する予備焼結工程と、
その予備焼結工程において予備焼結されたブランクに加工を施して、前記工具本体を成形する工具本体成形工程と、
その工具本体成形工程において成形された工具本体を焼結する焼結工程と、
前記工具本体成形工程と焼結工程との間に行われ、前記工具本体成形工程において成形された工具本体に加工を施して、前記工具本体に前記チップ座を形成するチップ座形成工程とを備えていることを特徴とするエンドミルの製造方法。
【請求項4】
前記工具本体は、その工具本体の後端側に設けられるシャンク部と、そのシャンク部に連設され前記工具本体の先端側に設けられる刃部とを備えており、
前記チップ座形成工程において前記工具本体に形成されるチップ座は、前記工具本体後端側の端部が前記刃部の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項3記載のエンドミルの製造方法。
【請求項5】
前記工具本体は、前記チップ座に対して前記工具本体の回転方向前方側に連設され前記工具本体の先端から後端側へ向けて外周面に凹設される切りくず排出溝を備えており、
前記工具本体成形工程と焼結工程との間または前記焼結工程の後に行われ、前記工具本体に加工を施して前記切りくず排出溝を形成する切りくず排出溝形成工程を備えていることを特徴とする請求項3又は4に記載のエンドミルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−125865(P2009−125865A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303809(P2007−303809)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】