説明

エーテルダイマー及びその精製方法

【課題】結晶純度が高く、取り扱いが容易であり、液晶ディスプレーの生産に必要なカラーフィルター用レジスト材やコーティング材の原料等として様々な分野で好適に用いることができるエーテルダイマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
エーテルダイマーを溶媒で晶析する工程を含むエーテルダイマーの精製方法であって、該精製方法は、有機溶媒、並びに、水系溶媒を用いてエーテルダイマーを晶析する工程を含み、該有機溶媒は、エーテルダイマー及び水系溶媒を溶解するものであるエーテルダイマーの精製方法である。更に、前記精製方法は、有機溶媒とエーテルダイマーとの質量比を0.35〜3.50としてエーテルダイマーを晶析することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーテルダイマーの精製方法及びエーテルダイマーに関する。より詳しくは、液晶ディスプレーの生産に必要なカラーフィルター用レジスト材やコーティング材の原料として幅広い分野で使用されるエーテルダイマーの精製方法及びエーテルダイマーに関する。
【背景技術】
【0002】
エーテルダイマーは、液晶ディスプレーの生産に必要なカラーフィルター用レジスト材やコーティング材の原料として注目されているものであって、特に、ジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレート(以下、エーテルダイマーと称することがある。)は、重合することによって、透明性、耐熱性、化学的安定性、相溶性、及び、アルカリ可溶性に優れたピラン環含有ポリマーを得ることができることから、種々の用途への展開が期待されている。例えば、レジスト材やコーティング材として要求される物性、及び、性能を満足することができる。また、エーテルダイマーは、共重合させる単量体を選ばないという特徴を有する。すなわち、多種の単量体と共重合させることができるため、多種多様な共重合体を調製することが可能であり、広い技術分野に応用することができるものである。
例えば、酸基を有するモノマーと共重合することにより、硬化性樹脂組成物として、良好なアルカリ現像性を有し、透明性、耐熱性、強度等の性能に優れた塗膜を形成することができる。このような硬化性樹脂組成物の用途として、レジスト材料、各種コーティング剤、塗料などに用いることができ、特に、カラーフィルターや光導波路等を製作する際のアルカリ現像型のネガ型レジスト材料や、カラーフィルターや有機EL素子の保護膜などを製作する際の熱硬化性のコーティング剤等として好適に用いることができる。
また、窒素原子を含有するグラフト共重合体及び/又はアクリル系ブロック共重合体との共重合により分散剤としての機能を持ち、色材と合わせることにより色材分散剤や着色樹脂組成物とすることができる。このような組成物は、基板上に塗布する際に、基板上の非画像部に着色樹脂組成物の未溶解物が残存することが少なく、基板との密着性にも優れ、硬化性等の画像形成性能を低下させることなく、高濃度かつ低膜厚のカラーフィルターを製造することができ、また、ダイコートによる塗布に際して、ダイリップ先端での乾燥凝集を抑制し、高歩留まりでカラーフィルターを製造することができる。
また、(メタ)アクリル酸アルキル及び/又は(メタ)アクリロイル基を2個以上有するポリエステルとの共重合体によりアクリル系硬化性組成物となり、軽量で、透明性、剛性、耐熱性、機械的強度等の優れた樹脂成形体を製造することができる。
活性水素基含有化合物との反応によりα位置換アクリレート類となり、重合性に優れており、光学材料、塗料、各種樹脂材料、樹脂改質材料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用モノマー材料、帯電防止剤、撥水剤、セメント分散剤などとしても有用なものとなる。
また、テトラヒドロピラン環構造を持つ硬化性組成物は、従来よりも透明性及び耐光性に優れ、かつ発光などによって生じる熱に対する耐性(耐熱性)に優れたLED封止剤になる。
エーテルダイマーの合成方法としては、例えば、メチル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを原料とし、トリエチレンジアミンを触媒として用いることによってジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートを合成する方法が知られている。
【0003】
従来のエーテルダイマーを結晶化する技術としては、水及びメタノールのそれぞれに、目的物を含む混合溶液を順次投入することによって目的物を晶析する技術が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)。この技術によれば、エーテルダイマーに混在する不純物を除去することができるものとされている。しかしながら、この方法によるエーテルダイマーの収率は10〜20%と著しく低く、非効率であるため工業的に用いることが難しいものであった。したがって、晶析して得られるエーテルダイマーの収率を向上し、工業的に用いることができるものとする工夫の余地があった。
また、エーテルダイマーを結晶化する技術として、エーテルダイマーを含む混合溶液から、液体炭化水素化合物であるn−ヘキサンを用いてエーテルダイマーの結晶を晶析させる技術が開示されている。(例えば、特許文献2参照。)。この技術によれば、高い収率かつ高純度でエーテルダイマーを晶析できるものとされている。しかしながら、この技術は、n−ヘキサンを用いていることから、エーテルダイマーを結晶化する工程において蒸留及び分離操作を行う必要があるものであり、経済的に不利である。また、この技術による晶析で得られる塊状の結晶は、攪拌翼や槽壁に付着し洗浄に支障があった。また、剥離した塊状の結晶は、移送配管を閉塞するなど、ハンドリングに支障をきたすものであった。また、エーテルダイマーに含まれる不純物を充分に除去することができるものではなく、重合させたときにゲル化する可能性があるものであった。したがって、晶析によって得られる結晶が機器を閉塞させるものではなく、不純物を除去する工夫の余地があった。
【特許文献1】米国特許第4889948号明細書(1989)
【特許文献2】米国特許第5393917号明細書(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、結晶純度が高く、取り扱いが容易であり、液晶ディスプレーの生産に必要なカラーフィルター用レジスト材やコーティング材等として様々な分野で好適に用いることができるエーテルダイマー及びその精製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、エーテルダイマーを結晶化する工程を含む精製方法について種々検討したところ、エーテルダイマーを晶析する際に、主として水で構成される水系溶媒を用いて晶析する工程を含む精製方法により、エーテルダイマーの結晶純度を充分に高くすることができ、かつ、取り扱いが容易な結晶形状とすることができることを見いだした。また、上記精製方法により、エーテルダイマーに含まれる不純物である架橋性化合物を充分に除去できることも見いだした。更に、主として水で構成される水系溶媒を用いることにより、結晶化させる工程において、蒸留及び分離操作を省略でき、コストを削減できることを見いだした。上記精製方法により、上記課題をみごと解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0006】
すなわち本発明は、エーテルダイマーを溶媒で晶析する工程を含むエーテルダイマーの精製方法であって、上記精製方法は、有機溶媒、並びに、水系溶媒を用いてエーテルダイマーを晶析する工程を含み、上記有機溶媒は、エーテルダイマー及び水系溶媒を溶解するものであるエーテルダイマーの精製方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
上記エーテルダイマーとは、二つの分子が結合した二量体であって、分子中に少なくとも1つのエーテル結合を有するものを意味する。上記エーテルダイマーとしては、分子中に1つのエーテル結合及び2つの炭素二重結合を有する二量体であることが好ましい。より好ましくはジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートである。
【0008】
上記エーテルダイマー及び水系溶媒を溶解する有機溶媒、並びに、水系溶媒を用いるとは、原料となるアクリレート化合物以外の有機溶媒、及び、水系溶媒を同時に用いることを意味するものである。上記水系溶媒とは、上記エーテルダイマーを晶析させることができる溶媒であり、エーテルダイマーに対していわゆる貧溶媒であることが好ましい。上記貧溶媒とは、25℃において上記貧溶媒100gに対して上記エーテルダイマーが10g以下の範囲で溶解し、それ以上のエーテルダイマーを混合すると濁りが認めるような溶媒であることが好適である。上記水系溶媒としては、水を主体とするものであり、有機溶媒が混合してもよい。例えば、エチレングリコールのような凝固点降下するものを混合するのも好適である。より好ましくは水のみであり、例えば、純水等が好適である。コスト面から考慮して、一般的に使用されているイオン交換樹脂を通したイオン交換水が更に好適である。上記貧溶媒100gに対して上記エーテルダイマーが10gを超える範囲で溶解するものであると、上記エーテルダイマーを充分に晶析させることができないため、高収率かつ高純度で晶析化するという効果を発揮することができないおそれがある。
上記水系溶媒は、結晶に含まれる不純物量を少なくする観点から、純水であることが好ましい。上記精製方法によって得られるエーテルダイマーの結晶形状としては、攪拌翼や槽壁への付着や、移送において配管が閉塞することを防止し、取り扱いを容易なものとするため、パウダー状又は粒状が好ましい。
【0009】
上記エーテルダイマー及び水を溶解する有機溶媒とは、25℃において上記有機溶媒100gに対して上記エーテルダイマー及び水系溶媒の両方が50g以上の範囲で溶解し、濁りが認められないような有機溶媒を意味する。上記有機溶媒としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類、エステル類等の極性を有する有機化合物からなる溶媒であることが好ましく、1種又は2種以上を用いてもよい。このような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が挙げられるが、これらに限られるものではない。上記有機溶媒がエーテルダイマー及び水系溶媒の両方を溶解することに起因して、エーテルダイマーの溶液中における分散性が向上し、エーテルダイマーを徐々にかつ均等に晶析させることができるため、更に純度が高く、かつ、更に好ましい形状の結晶を得ることができる。
上記有機溶媒の使用形態としては、晶析を行う前にあらかじめエーテルダイマーを有機溶媒に溶解することが好ましい。あらかじめエーテルダイマーを有機溶媒に溶解することによって、エーテルダイマーの液中における分散性が更に充分なものとなり、それによって、上述した効果を更に発揮することができる。
【0010】
晶析とは、液相等から結晶を析出させることを意味するものであるが、本発明においては、エーテルダイマーを含む混合溶液からエーテルダイマーを結晶として分離する操作方法を意味する。上記晶析を行う形態としては、例えば、エーテルダイマーを溶解しない又は溶解量が小さい溶媒(以下、エーテルダイマーに対する貧溶媒と称することがある。)にエーテルダイマーと有機溶媒とを含む反応溶液を滴下することによってエーテルダイマーを晶析させる実施形態が好ましいが、本発明の効果を奏する限り、特に限られるものではない。例えば、エーテルダイマーと有機溶媒とを含む反応溶液中にエーテルダイマーに対する貧溶媒を滴下する実施形態によって行うこともできる。
【0011】
上記晶析の概要を図1に示す。図1を用いて反応溶液を晶析層に滴下する形態の概要を説明すると、例えば、下記のようである。滴下槽1に反応溶液2を入れ、あらかじめ水系溶媒4が入れられている晶析槽3に滴下する。温度制御及び攪拌を適宜行い、上記エーテルダイマーの結晶5を母液6から晶析させる。
また、図1を用いて水系溶媒を晶析層に滴下する形態を説明すると、例えば、下記のようである。滴下槽1に水系溶媒4を入れ、あらかじめ反応溶液2が入れられている晶析槽3に滴下する。温度制御及び攪拌を適宜行い、上記エーテルダイマーの結晶5を母液6から晶析させる。なお、上記晶析工程は、このような形態に限定されるものではない。
【0012】
また、上記エーテルダイマーの精製方法による製造工程の概略例を図2に示した。上記精製方法は、例えば、図2に示されるように、ろ過器等を用いて結晶と母液とを分離するろ過工程、結晶中に残っている母液を排出する洗浄工程等の工程のように、上記晶析工程以外の工程を含むものであってもよい。上記晶析工程とは、図2における晶析工程であり、エーテルダイマーを合成した後において行う工程である。上記反応工程とは、上記エーテルダイマーを合成する工程である。
【0013】
上記反応工程におけるエーテルダイマーの合成は、アルキル−α−[ヒドロキシメチル]アクリレートを原料とし、第3級アミンを触媒としてバッチ反応で行うことができる。例えば、メチル−α−[ヒドロキシメチル]アクリレートを原料とし、トリエチレンジアミン(DABCO)を触媒としてエーテルダイマーを合成する反応は、下記式(1)のようである。
【0014】
【化1】

【0015】
なお、上記反応工程におけるエーテルダイマーの合成方法、原料、目的物、用いる触媒、反応温度、圧力、及び、その他等条件は、上記式(1)に限られるものではない。なお、上記式(1)のように反応を行うと、エーテルダイマーに不純物が含まれることとなる。上記不純物としては、例えば、原料として用いられるアクリレート化合物の残存物、触媒の残存物、エステル化したエーテルダイマー(以下、架橋性化合物1と呼ぶことがある。)、及び、3量体化化合物(以下、架橋性化合物2と呼ぶことがある。)等の不純物が反応溶液中に残存することになり、エーテルダイマーの品質を劣化させる原因となる。上記架橋性化合物1を下記化学式(2)に示す。また、上記架橋性化合物2を下記化学式(3)に示す。
【0016】
【化2】

【0017】
これらの不純物の中でも、上記架橋性化合物1及び架橋性化合物2等の分子中に二重結合を2つ以上有する架橋性単量体は、重合物を三次元的に架橋することにより、ゲル化するの原因となる。そのため、上記工程によって厳密に除去する必要がある。
そこで、上記晶析工程を含む本発明の精製方法によってエーテルダイマーを精製することにより、このような不純物の残存量を充分に低減し、エーテルダイマーの結晶の品質を向上することができる。
【0018】
上記精製方法は、有機溶媒とエーテルダイマーとの質量比を0.35〜3.50としてエーテルダイマーを晶析するエーテルダイマーの精製方法であることもまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記有機溶媒とエーテルダイマーとの質量比とは、下記式によって求められる値である。
質量比=(有機溶媒の質量/エーテルダイマーの質量)
上記質量比は、0.45〜2.30であることがより好ましい。更に好ましくは0.50〜2.00である。
上記質量比が0.35以上であることにより、エーテルダイマーの結晶に含まれる架橋性化合物をより充分に除去することができる。上記質量比を3.50以下として行うことにより、収率を向上することができ、生産性を向上することが可能となる。
【0019】
上記精製方法において、晶析温度を35℃以下として行うこともまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記晶析温度とは、上記エーテルダイマーの晶析工程を行う際の晶析時の液温を示すものであり、例えば、図1においては、晶析槽3の液中の温度を示すものである。
上記晶析温度を35℃以下として行うことにより、充分に晶析することができる。また、上記晶析温度の下限としては、水系溶媒が液体であればよく、例えば、水のみの場合は0℃以上である。上記晶析工程においては、上記エーテルダイマーが析出する際に発熱が生じるため、晶析中も温度制御を継続的に行うことが好ましい。
【0020】
上記精製方法は、ジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートが有するアルキル基の炭素原子数が1〜25であるジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートの精製方法であることもまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記ジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートは、ピラン環含有ポリマーとすることによって、レジスト材やコーティング材の用途を満足する物性を得ることができる。なお、上記ジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートを一般式で表すと、下記一般式(4)のようである。また、原料となるアクリレート化合物を一般式で表すと、下記一般式(5)のようである。
【0021】
【化3】

【0022】
上記一般式(4)及び(5)において、R及びRで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜25の炭化水素基としては、特に制限はないが、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、t−アミル、ステアリル、ラウリル、2−エチルヘキシル等の直鎖状または分岐状のアルキル基;フェニル等のアリール基;シクロヘキシル、t−ブチルシクロヘキシル、ジシクロペンタジエニル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、2−メチル−2−アダマンチル等の脂環式基;1−メトキシエチル、1−エトキシエチル等のアルコキシで置換されたアルキル基;ベンジル等のアリール基で置換されたアルキル基;等が挙げられる。これらの中でも特に、メチル、エチル、シクロヘキシル、ベンジル等のような酸や熱で脱離しにくい1級または2級炭素の置換基が耐熱性の点で好ましい。なお、RおよびRは、同種の置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
上記Rは、上記R又はRと同様である。
【0023】
前記エーテルダイマーの具体例としては、例えば、ジメチル 2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジエチル 2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(n−プロピル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(イソプロピル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(n−ブチル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(イソブチル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(t−ブチル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(t−アミル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(ステアリル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(ラウリル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(2−エチルヘキシル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(1−メトキシエチル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(1−エトキシエチル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジベンジル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジフェニル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジシクロヘキシル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(t−ブチルシクロヘキシル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(ジシクロペンタジエニル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(トリシクロデカニル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(イソボルニル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジアダマンチル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジ(2−メチル−2−アダマンチル)2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートが挙げられる。これらの中でも特に、ジメチル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジエチル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジシクロヘキシル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレート、ジベンジル2,2′−〔オキシビス(メチレン)〕ビスアクリレートが好ましい。これらエーテルダイマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。なお、上記具体例に限られるものではない。
【0024】
本発明はまた、結晶化されたジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートであって、結晶化されたジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレート100質量%中、架橋性化合物が0.20質量%以下であるジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートでもある。
上記架橋性化合物とは、分子中に炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体を意味するものである。通常、エーテルダイマーには不純物として架橋性化合物が含まれており、例えば、架橋性化合物1、及び、架橋性化合物2が挙げられる。上記架橋性化合物がエーテルダイマー中に存在すると重合物が三次元的に架橋するため、ゲル化するおそれがある。
本発明のジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートは、架橋性化合物が充分に低減されたものであるから、透明性、耐熱性、化学的安定性、相溶性、及び、アルカリ可溶性に優れたピラン環含有ポリマーを得ることができる。
上記架橋性化合物は、0.15質量%以下であることがより好ましい。更に好ましくは0.10質量%以下である。
上記架橋性化合物の含有量は、例えば、SHIMADZU製「GC−2014」を測定装置に用い、内部標準法で分析を行うことによって好適に測定することができる。
上記ジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートは、本発明の精製方法、及び/又は、本発明の製造方法によって好適に得ることができる。
【0025】
本発明はまた、アクリレート化合物からエーテルダイマーを製造する方法であって、上記製造方法は、上記エーテルダイマーの精製方法を行う工程を含むエーテルダイマーの製造方法でもある。
上記製造方法において、精製方法を行う以外の工程は、図2に示されるような工程を含むものであり、精製方法を行う以外の工程は、通常行われる方法によって行うことができる。上記製造方法において好適に使用することができるエーテルダイマー及び水系溶媒を溶解する有機溶媒、水系溶媒、反応条件等、及び、好適に精製することができるエーテルダイマーとしては、上記精製方法と同様である。上記アクリレート化合物とは、目的物のエーテルダイマーを合成できる物であれば特に限られないが、例えば、アルキル−α−(ヒドロキシメチル)アクリレートを原料とし、トリエチレンジアミン(DABCO)を触媒として用いることによってジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートを合成する形態が好適である。
【0026】
本発明はまた、エーテルダイマー及び水系溶媒を溶解する有機溶媒、並びに、水系溶媒を用いてエーテルダイマーを晶析するエーテルダイマーの晶析方法でもある。
上記晶析方法において好適に使用することができるエーテルダイマー及び水系溶媒を溶解する有機溶媒、水系溶媒、反応条件等、及び、好適に精製することができるエーテルダイマーとしては、上記精製方法及び上記製造方法と同様である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエーテルダイマー及びその精製方法は、上述の構成よりなり、液晶ディスプレーの生産に必要なカラーフィルター用レジスト材やコーティング材の原料として幅広い分野に利用することができる有用なエーテルダイマー及びその精製方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
下記実施例及び比較例における測定項目は、下記式及び測定方法によって算出/測定した。
(1)エーテルダイマーの収率
晶析後、ろ過により結晶と母液を分離した。結晶は水洗浄にて残存母液を洗い流した。更に真空乾燥機を使って乾燥した後、重量を測定し、下記の計算法により収率を算出した。
収率(%)=(乾燥後に得られた結晶の質量(g)×純度/晶析工程に供した反応液に含まれるエーテルダイマーの質量(g))×100
(2)エーテルダイマーの純度測定、及び、架橋性化合物含有量の測定方法
SHIMADZU製「GC−2014」を測定装置に用い、内部標準法で分析を行った。下記の計算法により純度を算出した。
純度(%)=(乾燥後に得られた結晶中に含まれるエーテルダイマーの質量(g)/乾燥後に得られた結晶の質量(g))×100
(3)コスモサームによる溶解度計算方法
以下の計算プログラムを用いて溶解度計算を行った。
TURBOMOLE Version5.8(COSMOlogic社製)により量子化学計算を行い、この結果を用いてCOSMOthrem Version C2.1 Revision01.05(COSMOlogic社製)により25℃における溶媒100g中に溶解する溶質の重量を計算した。
【0029】
[実施例1]
攪拌翼を備えた容量0.5Lの滴下槽にエーテルダイマー濃度60%である反応液を100gとメタノール100gを仕込み、溶解させ反応溶液とした。温度計、攪拌翼及び冷却器を備えた容量1Lの晶析槽にイオン交換水330gを投入した。滴下槽にある反応溶液200gを7分かけて晶析槽に滴下した。晶析槽内の液温は20℃になるように温度制御を行った。
析出した結晶をろ過で分離し、水洗、乾燥後51gのパウダー状の結晶を得た。この結晶をSHIMADZU製「GC−2014」で分析したところ、エーテルダイマー純度は、99.8%であった。
[実施例2−6、及び、比較例1]
表1に示されるようにメタノールの使用量を変えた以外は、実施例1と同様の手順で行った。これらのエーテルダイマーを実施例1と同様に測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1について、以下に説明する。結晶形状とは、得られたエーテルダイマーの結晶形状を意味する。収率とは、上記計算式によって算出した値である。
【0032】
更に、反応溶液に水系溶媒を滴下することによっても結晶形状を好ましいものとできるかを確かめるために、下記実施例7〜10及び比較例2を行った。
[実施例7]
温度計、攪拌翼及び冷却器を備えた容量1Lの晶析槽にエーテルダイマー濃度60%である反応溶液を100gとメタノール100gを仕込み、溶解させ反応溶液とした。攪拌翼を備えた容量0.5Lの滴下槽にイオン交換水330gを投入した。滴下槽にあるイオン交換水330gを7分かけて晶析槽に滴下した。晶析槽内の液温は20℃になるように温度制御を行った。
析出した結晶をろ過で分離し、水洗、乾燥後51gのパウダー状の結晶を得た。この結晶をSHIMADZU製「GC−2014」で分析したところ、エーテルダイマーの純度は99.9%であった。
[実施例8−10、及び、比較例2]
表2に示されるようにメタノールの使用量を変えた以外は、実施例7と同様の手順で行った。これらのエーテルダイマーを実施例7と同様に測定した。これらの結果をまとめて表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
[参考例1]
実施例1によって得られた結晶が含まれる液を昇温し、比較実験を行った。液温が35℃を超えた辺りから結晶物は溶解し始め、40℃で完全に結晶が溶け、水槽と2層分離した。
【0035】
[参考例2]
上記コスモサームにより、各種溶媒に対するエーテルダイマー及び副生物の溶解度を測定した。溶媒として、水、メタノール、n−ヘキサン、及び、n−ヘプタンを用いた。これらの結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3については以下に説明する。表3に示される数値は、25℃における溶媒100gに対する各溶質の溶解度(g)である。上記参考例2から、次のようにいえることがわかった。架橋性化合物1、及び、架橋性化合物2は、いずれもメタノールに溶けやすいものであった。メタノールのような溶解度の高い有機極性溶媒が存在すれば、架橋性化合物1、及び、架橋性化合物2が母液側に溶解しやすくなり、エーテルダイマーの結晶の純度を高めることができると考えられる。
n−ヘキサン及びn−ヘプタンは、架橋性化合物1及び架橋性化合物2をほとんど溶解しないことがわかった。したがって、n−ヘキサン、及び、n−ヘプタン等のような非極性溶媒を用いても架橋性化合物1及び架橋性化合物2のような副生成物を充分に除去することは難しいと考えられる。
【0038】
上述した実施例及び比較例から、次のようにいえることがわかった。エーテルダイマー及び水系溶媒を溶解する有機溶媒、並びに、水系溶媒を用いてエーテルダイマーを晶析する工程を含むエーテルダイマーの精製方法により、純度が高く、かつ、取り扱いが容易な結晶形状とすることができ、また、架橋性化合物の含有量を充分に低減できるという有利な効果を発揮することがわかった。更に、有機溶媒とエーテルダイマーとの質量比を0.35〜3.50としてエーテルダイマーを晶析する工程を行うことにより、本発明の効果が更に顕著であることがわかった。
実施例1は、上記有機溶媒を用いて希釈したエーテルダイマーを含む反応溶液を水に滴下する晶析工程を含む精製方法によってエーテルダイマーを精製したものであるが、得られたエーテルダイマーの純度は99.8%と極めて高く、結晶形状も好ましい形態であり、架橋性化合物も充分に除去されていることがわかった。比較例1は、上記極性有機溶媒を全く使用しない以外は、実施例1と同様の手順でエーテルダイマーを精製したものであるが、得られたエーテルダイマーの純度は93.5%であり、実施例に比較するとやや劣るものであった。また、結晶の一部が塊状となって晶析槽に付着するため望ましい形態でなく、架橋性化合物の含有量も充分に低減することはできなかった。
【0039】
また、実施例7は、上記極性有機溶媒としてメタノールを用いて希釈したエーテルダイマーを含む反応溶液に水を滴下する晶析工程を含む精製方法によってエーテルダイマーを精製したものであるが、得られたエーテルダイマーの純度は99.9%と極めて高く、結晶形状も好ましい形態であることがわかった。比較例2は、上記極性有機溶媒を全く使用しない以外は、実施例7と同様の手順でエーテルダイマーを精製したものであるが、得られたエーテルダイマーの純度は92.4%であり、実施例7に比較するとやや劣るものであった。また、結晶形状も望ましい形態でないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】晶析工程行う際の滴下方法の概略例を示した図である。
【図2】エーテルダイマーの製造方法の概要例を示した図である。
【符号の説明】
【0041】
1:滴下槽
2:反応溶液
3:晶析槽
4:水系溶媒
5:結晶
6:母液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテルダイマーを溶媒で晶析する工程を含むエーテルダイマーの精製方法であって、
該精製方法は、有機溶媒、並びに、水系溶媒を用いてエーテルダイマーを晶析する工程を含み、
該有機溶媒は、エーテルダイマー及び水系溶媒を溶解するものである
ことを特徴とするエーテルダイマーの精製方法。
【請求項2】
前記精製方法は、有機溶媒とエーテルダイマーとの質量比を0.35〜3.50としてエーテルダイマーを晶析する
ことを特徴とする請求項1に記載のエーテルダイマーの精製方法。
【請求項3】
前記精製方法は、晶析温度を35℃以下として行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のエーテルダイマーの精製方法。
【請求項4】
前記エーテルダイマーは、ジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のエーテルダイマーの精製方法。
【請求項5】
アクリレート化合物からエーテルダイマーを製造する方法であって、
該製造方法は、請求項1〜4の何れかに記載のエーテルダイマーの精製方法を行う工程を含む
ことを特徴とするエーテルダイマーの製造方法。
【請求項6】
結晶化されたジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレートであって、結晶化されたジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレート100質量%中、架橋性化合物が0.20質量%以下である
ことを特徴とするジアルキル2,2’−オキシビス(メチレン)ビスアクリレート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−94783(P2008−94783A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280268(P2006−280268)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】