説明

オイルポンプ用の軸受

【課題】 オイルポンプの検査時の作動油が内部に残留し難い軸受でありながら、オイルポンプの初の作動時には、軸受の内周面の全面に早期に作動油を供給することが可能なオイルポンプ用の軸受を提供する。
【解決手段】 軸受1の内周面には、軸受1の軸線方向の両端面に開放する油溝4と、軸受1の軸線方向の両端面に開放されず、油溝4とは接しない油溜り5と、を連通させる複数の周方向溝6が形成されている。これにより、オイルポンプの検査時の作動油を真空引きによって抜き取ることが可能となり、作動油の劣化により軸受合金層3が腐食することを防止することができる。また、オイルポンプの初の作動時には、油溝4を流れる作動油の一部が複数の周方向溝6に分岐して流れることにより、軸受1の内周面のうち油溝4から離間した内周面にも、油溜り5を介して早期に作動油を供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼裏金層と軸受合金層とからなる複層軸受材料を用い、前記軸受合金層が内周面となるように円筒形状に成形することにより、オイルポンプの駆動軸を回転自在に支承するオイルポンプ用の軸受であって、前記軸受の内周面には、前記軸受の軸線方向の両端面に開放する油溝が形成されるオイルポンプ用の軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ベーン型、ピストン型、ギヤ型等の各種型式のオイルポンプがあるが、オイルポンプの駆動軸を回転自在に支承するオイルポンプ用の軸受においては、鋼裏金層とCu合金やAl合金等の軸受合金層とからなる複層軸受材料を用い、鋼裏金層が外周面側、軸受合金層が内周面側となるように円筒形状に成形された軸受が用いられる。このような軸受の内周面には、軸受の軸線方向(幅方向)の両端面に開放する油溝が凹設され、一方の開放部がオイルポンプの作動油の吸入側、他方の開放部が作動油の吐出側に連通することにより、油溝が作動油の循環路の一部となっている。また、油溝を流れる作動油の一部は、回転する駆動軸の表面に付随して軸受の内周面側に送られ、軸受の内周面と駆動軸との潤滑が行なわれる。
【0003】
また、この種のオイルポンプは、製造後、オイルポンプ内に作動油を供給して品質検査がなされるが、品質検査後に作動油が真空引き等によってオイルポンプ内から引き抜かれる。これは、品質検査後、オイルポンプが製造者から使用者へ渡り、オイルポンプが装置に組み付けられて作動するまでの期間に、オイルポンプ内の作動油が劣化することを防ぐためである。そして、使用者が、装置にオイルポンプを組み付けて作動油を注入し、その後初めてオイルポンプを作動すると、ごく初期の作動時には、軸受の内周面に作動油が存在しないため、駆動軸と軸受の内周面が無潤滑で回転摺動するおそれがある。
【0004】
上記のように、オイルポンプの初の作動時には、軸受の内周面に作動油が循環する前に駆動軸と軸受とが焼付を生じる場合がある。このため、オイルポンプでは、図7に示すように、軸受11の内周面において、軸受11の幅方向の両端面に開放する油溝12と、軸受11の幅方向の両端面に開放されず、かつ油溝12と連通しない独立した油溜り13と、が凹設されている軸受11を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載される技術は、オイルポンプの品質検査後の真空引きによって抜き取られるべき作動油を軸受11の内周面で独立した油溜り13内に残留させることにより、オイルポンプが初駆動するときであっても、油溜り13内に残留させた品質検査時の作動油によって駆動軸と軸受11の内周面とが無潤滑で回転することを防ぐものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−220798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術においては、オイルポンプの品質検査後の真空引きによって抜き取られるべき作動油を油溜り内に残留させるため、使用者によってオイルポンプが使用されるまでの間に油溜り内に残留させた作動油と軸受合金層が化学反応して軸受合金層が腐食し、軸受の内周面における軸受合金層が摩耗し易くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、オイルポンプの検査時の作動油が内部に残留し難い軸受でありながら、オイルポンプの初の作動時には、軸受の内周面の全面に早期に作動油を供給することが可能なオイルポンプ用の軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、鋼裏金層と軸受合金層とからなる複層軸受材料を用い、前記軸受合金層が内周面となるように円筒形状に成形することにより、オイルポンプの駆動軸を回転自在に支承するオイルポンプ用の軸受であって、前記軸受の内周面には、前記軸受の軸線方向の両端面に開放する油溝が形成されるオイルポンプ用の軸受において、前記軸受の内周面には、前記軸受の軸線方向の両端面に開放されず、前記油溝とは接しない油溜りが形成されると共に、前記油溜りと前記油溝とを連通させる複数の周方向溝が形成されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載のオイルポンプ用の軸受において、前記周方向溝は、溝深さを3μm以上15μm以下、溝幅を0.1mm以上1mm以下で形成したことを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2記載のオイルポンプ用の軸受において、前記軸受の内周面に前記油溜りが複数形成されている場合において、前記油溜りの平均面積は、1〜4mmであり、前記油溝の形成部を除いた前記軸受の内周面の面積に対し複数の前記油溜りの総面積率は、3〜10%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明において、軸受の内周面には、軸受の軸線方向の両端面に開放されず、油溝とは接しない油溜りが形成されている。また、油溝は、軸受の軸線方向の両端面に開放しており、一方の開放部がオイルポンプの作動油の吸入側、他方の開放部が作動油の吐出側に連通した作動油の循環路の一部である。この油溝が油溜りと接すると、接した部分で油溝の断面積が変化してしまい、油溝を流れる作動油の流量が影響を受ける場合があるので好ましくない。
【0012】
また、請求項1に係る発明において、軸受の内周面には、油溜りと油溝とを連通させる複数の周方向溝が形成されている。従来から、軸受の内周面に油溜りを形成することがあるが、軸受の内周面における潤滑油の保油性が高められる反面、オイルポンプの検査時の作動油が内部に残留するものであった。しかしながら、本発明では、複数の周方向溝により油溜りを、軸受の軸線方向の両端面に開放する油溝と連通させるので、オイルポンプの検査時の作動油を真空引きによって抜き取ることが可能となる。このため、オイルポンプの検査時の作動油が内部に残留することがなく、作動油の劣化により軸受合金層が腐食することを防止することができる。
【0013】
さらに、オイルポンプの初の作動時には、油溝を流れる作動油の一部が複数の周方向溝に分岐して流れることにより、油溜りに送られる。このため、軸受の内周面のうち油溝から離間した内周面にも、油溜りを介して早期に作動油を供給することが可能となる。
【0014】
また、請求項2に係る発明のように、周方向溝は、溝深さを3μm以上15μm以下、溝幅を0.1mm以上1mm以下で形成することが好ましい。周方向の断面積が小さ過ぎると、オイルポンプの検査後の真空引きによって抜き取られるべき作動油の除去が不十分となり易い。一方、周方向溝の断面積が大き過ぎると、オイルポンプの使用時において、循環路である油溝を流れる作動油の流量に対する影響が大きく、オイルポンプの性能を十分に発揮することができない。
【0015】
また、請求項3に係る発明のように、軸受の内周面に油溜りが複数形成されている場合において、油溜りの平均面積は、1〜4mmであり、油溝の形成部を除いた軸受の内周面の面積に対し複数の油溜りの総面積率は、3〜10%であることが好ましい。このように、軸受の内周面に均等となるように複数の油溜りを形成することで、オイルポンプの初の作動時であっても、油溜りを介して軸受の内周面の全面に早期に作動油を供給することが可能となる。なお、特許文献1に開示される技術のように、軸受の内周面における各々の油溜りの容積を大きくし、油溜りを局部的に少数形成する場合には、油溜り内に作動油が充填されるまでに時間がかかり、油溜りを介して軸受の内周面の全面に早期に作動油を供給することができない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】軸受の正面図である。
【図2】油溜りを形成した軸受の内周面の展開図である。
【図3】軸受の内周面に形成した周方向溝の断面図である。
【図4】第2実施形態に係る油溜りとしてボールインデントを形成した軸受の内周面の展開図である。
【図5】第2実施形態に係る軸受の内周面に形成した油溜りの断面図である。
【図6】第3実施形態に係る油溜りとしてダイヤインデントを形成した軸受の内周面の展開図である。
【図7】従来の軸受の内周面の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態(第1実施形態)について図1乃至図3を参照して説明する。図1は、軸受1の正面図であり、図2は、油溜り5を形成した軸受1の内周面の展開図であり、図3は、軸受1の内周面に形成した周方向溝6の断面図である。なお、上記した図は、実施形態に係る軸受1の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0018】
図1に示すように、オイルポンプの駆動軸を回転自在に支承するオイルポンプ用の軸受1においては、鋼裏金層2とCu合金やAl合金等の軸受合金層3とからなる複層軸受材料を用い、鋼裏金層2が外周面側、軸受合金層3が内周面側となるように円筒形状に形成されている。また、図2に示すように、軸受1の内周面には、軸受1の軸線方向に対して傾斜し、軸受1の軸線方向の両端面に開放する2本の油溝4と、軸受1の軸線方向の両端面に開放されず、油溝4とは接しない2個の油溜り5と、が凹設されている。この油溝4は、一方の開放部がオイルポンプの作動油の吸入側、他方の開放部が作動油の吐出側に連通することにより、作動油の循環路の一部となる。
【0019】
また、図2に示すように、軸受1の内周面には、周方向に沿って複数の周方向溝6を形成し、油溜り5と油溝4とを連通させている。このように構成した軸受1を用いたオイルポンプにおいては、オイルポンプの検査後において、検査時の作動油を真空引きによって抜き取ることが可能となり、検査時の作動油が内部に残留することがなく、作動油の劣化により軸受合金層3が腐食することを防止することができる。また、オイルポンプの初の作動時には、油溝4を流れる作動油の一部が複数の周方向溝6に分岐して流れることにより、油溜り5に送られる。このため、軸受1の内周面のうち油溝4から離間した内周面にも、油溜り5を介して早期に作動油を供給することが可能となる。
【0020】
また、図3に示すように、複数の周方向溝6は、軸受1の軸線方向の断面が連続した円弧凹部形状となるように形成されている。また、周方向溝6は、溝深さD1を3μm以上15μm以下、溝幅(ピッチ)Pを0.1mm以上1mm以下で形成することが好ましい。このような周方向溝6の断面積では、オイルポンプの検査後の真空引きによって抜き取られるべき作動油の除去が容易となり、循環路である油溝4を流れる作動油の流量に対する影響も小さく、オイルポンプの性能を十分に発揮することができる。
【0021】
上記した実施形態(第1実施形態)においては、軸受1の内周面における開口が長方形状の油溜り5が軸受1の内周面に2個形成されたものについて説明したが、油溜り5の形状及び個数が異なる実施形態(第2実施形態及び第3実施形態)について、図4乃至図6を参照して説明する。図4は、第2実施形態に係る油溜り5としてボールインデントを形成した軸受1の内周面の展開図であり、図5は、第2実施形態に係る軸受1の内周面に形成した油溜り5の断面図であり、図6は、第3実施形態に係る油溜り5としてダイヤインデントを形成した軸受1の内周面の展開図である。なお、第1実施形態と同じ機能を奏する部材については、第1実施形態と同じ符号が付してある。
【0022】
図4に示すように、軸受1の内周面には、軸受1の軸線方向の両端面に開放する2本の油溝4と、軸受1の軸線方向の両端面に開放されず、油溝4とは接しない多数の油溜り5と、油溜り5と油溝4とを連通させるように周方向に沿って延在する複数の周方向溝6と、が凹設されている。この第2実施形態に係る油溜り5には、図4及び図5に示すように、軸受1の内周面における開口が円形状となり断面が円弧凹部形状となるように形成されるボールインデントが用いられている。また、多数の油溜り5は、互いに離間し、軸受1の内周面に多数の油溜り5を均等に形成している。
【0023】
また、油溜り5の軸受1の内周面における開口の1個の平均面積は、1〜4mmで形成することが好ましく、油溝4の形成部を除いた軸受1の内周面の面積に対し複数の油溜り5の総面積率は、3〜10%であることが好ましい。また、油溜り5は、深さD2を0.2mm程度とすればよい。このような油溜り5の容量では、油溜り5内に作動油が充填されるまでに時間がかからず、油溜り5を介して軸受1の内周面の全面に早期に作動油を供給することができる。なお、油溜り5の平均面積及び総面積率は、軸受1の内周面の面積の大小(即ち、内径及び幅寸法の大小)に関わらず、1個の平均面積が1〜4mm、総面積率が3〜10%であることが好ましい。
【0024】
上記には、第2実施形態に係る油溜り5として、軸受1の内周面における開口が円形状となるように形成されるボールインデントを用いるものを示したが、これ以外にも、図6の第3実施形態に示すように、軸受1の内周面における開口がダイヤ形状となるように形成されるダイヤインデントを用いるものであってもよい。
【0025】
以上説明した実施形態に係る油溜り5においては、軸受1の内周面における開口が長方形状やダイヤ形状等の四角形状、円形状となるように形成すればよいが、特に、円形状とすることが好ましい。このような軸受1の内周面における開口が円形状の油溜り5においては、内部が円弧凹部面形状となるように形成することが好ましい。また、油溝4の形状及び寸法は、軸受1が用いられるオイルポンプの仕様により決まるものであり、本発明において制約はない。
【符号の説明】
【0026】
1 軸受
2 鋼裏金層
3 軸受合金層
4 油溝
5 油溜り
6 周方向溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼裏金層と軸受合金層とからなる複層軸受材料を用い、前記軸受合金層が内周面となるように円筒形状に成形することにより、オイルポンプの駆動軸を回転自在に支承するオイルポンプ用の軸受であって、前記軸受の内周面には、前記軸受の軸線方向の両端面に開放する油溝が形成されるオイルポンプ用の軸受において、
前記軸受の内周面には、前記軸受の軸線方向の両端面に開放されず、前記油溝とは接しない油溜りが形成されると共に、前記油溜りと前記油溝とを連通させる複数の周方向溝が形成されることを特徴とするオイルポンプ用の軸受。
【請求項2】
前記周方向溝は、溝深さを3μm以上15μm以下、溝幅を0.1mm以上1mm以下で形成したことを特徴とする請求項1記載のオイルポンプ用の軸受。
【請求項3】
前記軸受の内周面に前記油溜りが複数形成されている場合において、前記油溜りの平均面積は、1〜4mmであり、前記油溝の形成部を除いた前記軸受の内周面の面積に対し複数の前記油溜りの総面積率は、3〜10%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオイルポンプ用の軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241743(P2012−241743A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109949(P2011−109949)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】