説明

オイルマスターバッチ及びサイドウォール用ゴム組成物の製造方法、並びに、空気入りタイヤ

【課題】オイル成分の分散性の良好なオイルマスターバッチ(油展ゴム)の製造方法、該オイルマスターバッチを用いた耐久性に優れたサイドウォール用ゴム組成物の製造方法、及び該サイドウォール用ゴム組成物をタイヤのサイドウォールに用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴム成分を含むゴム成分と、ゼリー状のテルペン系樹脂及び/又はゼリー状のロジン系樹脂とを混練機により混練することを特徴とするオイルマスターバッチの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルマスターバッチ及びサイドウォール用ゴム組成物の製造方法、並びに、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムが有する高い粘度を低下させて、ゴムの加工性を改善し、さらに、混練時の他の配合材料(充填剤等)の分散性を良くすることを目的として、ウェットマスターバッチ(スチレンブタジエンゴム、カーボンブラック、オイルを混練したマスターバッチ)等のオイルを含有するゴム(油展ゴム)が知られている。
【0003】
油展ゴムは、オイルと合成ゴムを混練して、ブロック化したものが一般的である。また、合成ゴムのほかに天然ゴムについても油展ゴムとすることが行われており、合成ゴムの場合と同様の混練方法により、調製できる。
【0004】
油展ゴムを調製する方法としては、例えば、乳化重合で得られるゴムについては、ラテックス状態のゴムにオイルを直接添加して強制的に撹拌し、ゴムを固める方法、また、溶液重合で得られるゴムについては、固形化したゴムにオイルを添加して混練する方法があげられる。
【0005】
固形化したゴムとオイルを混練機を用いて混練する場合、オイルをゴムと一緒に混練機へ投入するとゴムが混練機の内部で滑りやすいため、ゴムのみを初めに混練する(素練りする)ことが行われている。しかし、その場合であっても、得られた油展ゴム中のオイルの分散性は充分とはいえず、最終的に得られるゴム組成物中の他の配合材料の分布も不均一となり、ゴム組成物の性能も低下してしまうという問題があった。
【0006】
また、ゴムラテックスにオイルを添加して攪拌する場合、ゴムラテックスに対するオイルの溶解性が低いため、水相にオイルが残留しやすい。そのため、高速でゴムラテックスとオイルを撹拌したのち、凝固させ、水相に残留するオイルを低減させる試みも行われているが、結局、ゴム中に均一にオイルが分散されるのではなく、オイルの多い箇所と少ない箇所が生じており、得られた油展ゴム中のオイルの分散性は充分とはいえず、最終的に得られるゴム組成物中の他の配合材料の分布も不均一となり、ゴム組成物の性能も低下してしまうという問題があった。
【0007】
一方、タイヤのサイドウォールの表面はタイヤの転動に伴い、屈曲変形を繰り返し受けるため、ゴムに亀裂(クラック)が発生する。そのため、サイドウォール用ゴム組成物として、クラックの発生を防止し、耐久性に優れたゴム組成物が望まれているが、上述のような従来の製法で得られるゴム組成物は、これらの性能が充分でなかった。
【0008】
特許文献1には、オイルを界面活性剤で乳化して調製したエマルジョンとゴムラテックスを混合し、熟成させることによりオイルの分散性を向上できるゴムの製造方法について開示されている。しかし、オイルの分散性については改善の余地がある。また、得られた油展ゴムをサイドウォール用ゴム組成物に用いることについても検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−51206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決し、オイル成分の分散性の良好なオイルマスターバッチ(油展ゴム)の製造方法、該オイルマスターバッチを用いた耐久性に優れたサイドウォール用ゴム組成物の製造方法、及び該サイドウォール用ゴム組成物をタイヤのサイドウォールに用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
天然ゴム成分を含むゴム成分と、ゼリー状のテルペン系樹脂及び/又はゼリー状のロジン系樹脂とを混練機により混練することを特徴とするオイルマスターバッチの製造方法に関する。
【0012】
本発明はまた、天然ゴム成分を含むゴム成分と、軟化点が80℃以下のテルペン系樹脂及び/又は軟化点が80℃以下のロジン系樹脂とを混練機により混練することを特徴とするオイルマスターバッチの製造方法に関する。
【0013】
上記テルペン系樹脂及び/又は上記ロジン系樹脂の混練機への投入を複数回に分けて行うことが好ましい。
【0014】
各投入時に投入される上記テルペン系樹脂及び/又は上記ロジン系樹脂の量が、全投入量の1/4〜1/2に相当する量であることが好ましい。
【0015】
上記混練機は、被混練材料が混練される混練部と、混練部の周囲に移動可能に設けられた可動式部材とを有し、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を混練機に投入した後、可動式部材を被混練材料から離れた位置に10〜360秒間保持させることが好ましい。
【0016】
上記混練機は、被混練材料が混練される混練部と、混練部の周囲に移動可能に設けられた可動式部材と、混練機のスリップを検出するスリップ検出手段とを有し、
スリップ検出手段が、混練機のスリップを検出した場合、10〜500mmの振幅、移動速度5〜500mm/sで可動式部材を往復運動させることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記製造方法により得られたオイルマスターバッチと、他の成分とを混練することを特徴とするサイドウォール用ゴム組成物の製造方法に関する。
【0018】
本発明はまた、上記製造方法により得られたゴム組成物を用いて作製したサイドウォールを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、天然ゴム成分を含むゴム成分と、特定のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有するオイルマスターバッチの製造方法であるので、オイルマスターバッチ中のオイル成分の分散性を向上することができる。これは、オイル成分として、液状のオイルではなく、特定のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を使用したことにより、混練中のゴムの滑りが抑制されたためと推測される。また、本発明では、特定のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を使用したことにより、液状のオイルを使用した場合に比べて、生産性、品質安定性、作業性においても優れている。
また、該オイルマスターバッチを用いて製造されたサイドウォール用ゴム組成物は、亀裂の発生および亀裂の成長を抑制することができ、耐久性が向上する。これは、オイルマスターバッチ中のオイル成分の分散性が良好なため、該オイルマスターバッチを配合したゴム組成物中のオイル成分の分散性が良好となるだけではなく、他の配合材料の分散性も良好となったためであると推測される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(オイルマスターバッチ)
本発明の製造方法により得られるオイルマスターバッチは、天然ゴム成分を含むゴム成分と、特定のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有する。
【0021】
天然ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム等が挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これら天然ゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ENRとしては特に限定されず、市販のエポキシ化天然ゴムでも、天然ゴム(NR)をエポキシ化したものでもよい。天然ゴムをエポキシ化する方法は、特に限定されず、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などがあげられる。過酸法としては例えば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。
【0023】
エポキシ化される天然ゴムとしては、特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0024】
ゴム成分100質量%中の天然ゴム成分の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。80質量%未満であると、石油外資源である天然ゴム成分以外のゴム成分(石油由来資源)の使用量が増大し、環境への配慮を充分に行えなくなる。
【0025】
オイルマスターバッチに使用される天然ゴム成分以外のゴム成分(非天然ゴム成分)としては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルニトリル(NBR)、イソモノオレフィンとパラアルキルスチレンとの共重合体のハロゲン化物等を使用できる。非天然ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明では、オイル成分として、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂が使用される。これにより、オイルマスターバッチ中のオイル成分の分散性を向上することができる。さらに、該オイルマスターバッチを用いたサイドウォール用ゴム組成物は、亀裂の発生および亀裂の成長を抑制することができ、耐久性が向上する。さらに、天然素材(石油外資源)を用いた樹脂であるテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を使用することにより、環境への配慮を充分に行うことができる。
【0027】
ここで、本明細書中でいう「テルペン系樹脂」とは、一般に植物の葉、樹、根等から得られる植物精油に含まれるテルペン化合物を主モノマーとして重合された樹脂を指す。テルペン化合物は、一般に、イソプレン(C)の重合体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、カンフェン、トリシクレン、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類などがあげられる。
【0028】
本発明におけるテルペン系樹脂には、上述したテルペン化合物を原料とする、例えば、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も含まれる。ここで、本発明における芳香族テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエンなどがあげられ、また、テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどがあげられる。これらテルペン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明のテルペン系樹脂は、ゼリー状のテルペン系樹脂である。本発明において、ゼリー状とは、25℃において、保形性を保ったものであって、具体的には寒天、ゼリーを固めたような半固形状態や、市販されている事務用スティックのりのような弾力性のある固形状のものをいう。
テルペン系樹脂がゼリー状であるため、液状でないために扱いやすく、ゴムへの分散性が適度である。また、溶けすぎないため、混練機がスリップしにくく、練り効率が向上する。
【0030】
テルペン系樹脂の軟化点は、80℃以下であり、60℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。軟化点が80℃を超えると、混練の際に分散しにくく、粘着性が低い傾向がある。テルペン系樹脂の軟化点は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。軟化点が10℃未満であると、作業効率が悪くなる傾向がある。
なお、本発明において、軟化点は、フローテスター(島津製作所製、CFT−500D)を用い、試料として1gの樹脂を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出し、温度に対するフローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度とした。
【0031】
このようなテルペン系樹脂としては、例えば、PX300N(ヤスハラケミカル(株)製)などの市販品を好適に用いることができる。
【0032】
また、本明細書中でいう「ロジン系樹脂」は、松脂を加工することにより得られる、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸などの樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)の他、水素添加ロジン樹脂、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などの変性ロジン樹脂、ロジングリセリンエステルなどのロジンエステル、ロジン樹脂を不均化することによって得られる不均化ロジン樹脂なども包含する。これらロジン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明のロジン系樹脂は、ゼリー状のロジン系樹脂である。
ロジン系樹脂がゼリー状であるため、液状でないために扱いやすく、ゴムへの分散性が適度である。また、溶けすぎないため、混練機がスリップしにくく、練り効率が向上する。
【0034】
このようなロジン系樹脂としては、例えば、トール油ロジンTP90B(ハリマ化成(株)製)などの市販品を好適に用いることができる。
【0035】
ロジン系樹脂の軟化点は、80℃以下であり、60℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。軟化点が80℃を超えると、混練の際に分散しにくく、粘着性が低い傾向がある。ロジン系樹脂の軟化点は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。軟化点が10℃未満であると、作業効率が悪くなる傾向がある。
【0036】
本発明の製造方法により得られるオイルマスターバッチには、前記成分以外の他の成分も配合してもよい。
【0037】
上記オイルマスターバッチは、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの従来公知の混練機で前記各成分を混練する方法により製造できる。具体的には、以下の素練り工程、及び混練工程により製造できる。
【0038】
<素練り工程>
本発明のオイルマスターバッチの製造方法では、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の分散性の確保が必要という理由から、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を配合する前に、ゴム成分のみを練る素練り工程を行うことが好ましい。素練り工程は、例えば、混練機を用いて、ゴム成分のみが練られる。
【0039】
素練り工程では、混練開始時の温度が20〜40℃のゴム成分を、該ゴム成分の温度(練り温度)が80〜120℃になるまで混練することが好ましい。80℃未満であると、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の分散性が確保できないおそれがある。一方、120℃を超えると、樹脂投入後のスリップ量が増加し、生産性が悪化する傾向、又は、過粘着により作業性が悪化する傾向がある。
また、素練り工程では、分散性・生産性の確保の点から、混練機の回転数を20〜40rpmとすることが好ましい。
【0040】
<混練工程>
混練工程では、上記素練り工程により素練りしたゴム成分に、例えば、混練機を用いて、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂等の成分が混練される。なお、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の混練機への投入は、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の分散性の確保とスリップの増加による生産性悪化の抑制という理由から、複数回に分けて行うことが好ましい。以下においては、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を3回に分けて混練機へ投入する場合(混練工程が以下の第1混練工程〜第3混練工程により構成される場合)について説明するが、投入回数は、特に限定されず、例えば、1回であっても、5回であってもよい。
【0041】
<第1混練工程>
第1混練工程では、例えば、混練機を用いて、上記素練り工程により素練りしたゴム成分と、全投入量の1/4〜1/2に相当する量のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂が混練される。
第1混練工程は、混練機のモーターにかかるゴム成分1kgあたりの第1混練工程開始後の積算負荷電力が、4.00〜7.00kw・h/kgとなるまで行うことが好ましい。4.00kw・h/kg未満では、樹脂の充分な分散が確保できないおそれがある。7.00kw・h/kgを超えると、練りゴム温度が上昇し、過粘着により作業性、生産性が悪化する傾向がある。
また、第1混練工程では、練り時間、温度、電力を安定化できるという理由から、混練機の回転数を20〜40rpmとすることが好ましい。
【0042】
<第2混練工程>
第2混練工程では、例えば、混練機を用いて、上記第1混練工程により混練された混錬物と、全投入量の1/4〜1/2に相当する量のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂が混練される。
第2混練工程は、混練機のモーターにかかるゴム成分1kgあたりの第2混練工程開始後の積算負荷電力が、3.00〜6.00kw・h/kgとなるまで行うことが好ましい。3.00kw・h/kg未満では、樹脂の充分な分散が確保できないおそれがある。6.00kw・h/kgを超えると、練りゴム温度が上昇し、過粘着により作業性、生産性が悪化する傾向がある。
また、第2混練工程では、分散性確保のため、混練機の回転数を15〜35rpmとすることが好ましい。
【0043】
<第3混練工程>
第3混練工程では、例えば、混練機を用いて、上記第2混練工程により混練された混錬物と、全投入量の1/4〜1/2に相当する量のテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂が混練され、オイルマスターバッチが得られる。
第3混練工程は、混練機のモーターにかかるゴム成分1kgあたりの第3混練工程開始後の積算負荷電力が、2.00〜5.00kw・h/kgとなるまで行うことが好ましい。2.00kw・h/kg未満では、樹脂の充分な分散が確保できないおそれがある。5.00kw・h/kgを超えると、練りゴム温度が上昇し、過粘着により作業性、生産性が悪化する傾向がある。
また、第3混練工程では、分散性確保のため、混練機の回転数を10〜30rpmとすることが好ましい。
【0044】
本発明において、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の混練機への投入を複数回に分けて行う場合には、樹脂の均一分散、安定した生産性の確保という理由から、各投入時に投入されるテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の量を同量とすることが好ましい。すなわち、n回に分けて投入を行う場合には、各投入時に投入されるテルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の量は、全投入量の1/nに相当する量である。
【0045】
また、以上説明したように、本発明において、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂の混練機への投入を複数回に分けて行う場合には、練りゴム温度を上げ過ぎずに、充分な分散を確保するという理由から、投入の順番が遅くなるにつれて、投入してから次の投入まで(最後の投入の場合には、投入してから混練終了まで)に混練機のモーターにかかる積算負荷電力を漸次減少させることが好ましい。すなわち、n回に分けて投入を行う場合には、1回目の投入後2回目の投入までに混練機のモーターにかかる積算負荷電力(第1混練工程における積算負荷電力)>2回目の投入後3回目の投入までに混練機のモーターにかかる積算負荷電力(第2混練工程における積算負荷電力)・・・>n−1回目の投入後n回目の投入までに混練機のモーターにかかる積算負荷電力(第n−1混練工程における積算負荷電力)>n回目の投入後混練終了までに混練機のモーターにかかる積算負荷電力(第n混練工程における積算負荷電力)となることが好ましい。
【0046】
また、バンバリーミキサーやニーダーなどの密閉型混練機を用いて、混練工程を行う場合には、以下の方法により、ゴム成分と、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂等の成分とをより好適に混練することができる。
一般に、密閉型混練機は、ゴム成分等の被混練材料が混練される混練部と、混練部の周囲に、移動可能に設けられた可動式部材とを有する。そして、密閉型混練機では、可動式部材を使用して、混練部にゴム成分等を押し込みながら、混練部内に設けられたロータ等が回転することにより混練を行う。例えば、特開2006−218691号公報の図1に示されるバンバリーミキサーにおいては、チャンバ3(本発明における混練部に相当)の上部に設けられ、上下動することが可能なフローティングウエイト7(本発明における可動式部材に相当)が下降することにより、ゴム成分等がチャンバ3内に押し込まれ、ゴム成分等がチャンバ3内に押し込まれた状態(可動式部材によりゴム成分に圧力がかかっている状態)でチャンバ3内に設けられたロータ4が回転することにより、ゴム成分等が混練される。
【0047】
本発明では、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を混練機に投入した後、可動式部材を移動させた際に可動式部材と混練部とが最も接近する位置よりも10mm以上離れた位置に可動式部材を10〜360秒間、位置させておくことが好ましい。このように、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を混練機に投入した後、可動式部材を被混練材料から離れた位置に保持し、可動式部材によりゴム成分に圧力がかからない時間を設けることにより、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂が徐々にゴム成分に取り込まれていくため、その後に、可動式部材によりゴム成分に圧力をかけ、混錬を行う際に、スリップを抑制することができる。例えば、バンバリーミキサーの場合には、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を投入した後、フローティングウエイトを上げておき、一定時間経過後、フローティングウエイトを下げ、ゴム成分に圧力をかけ、混錬を行うことにより、スリップを抑制することができる。なお、可動式部材を被混練材料から離している間は、混練機のロータ等を回転させても、停止させてもよいが、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を徐々にゴム成分に染み込ませるという理由から、回転させることが好ましく、混練機の回転数を10〜50rpmとすることがより好ましい。
【0048】
また、本発明では、密閉型混練機にスリップ検出手段を設けることが好ましい。スリップ検出手段としては、例えば、フローティングウエイト下降信号、ローター電流値、時間を測定又は検出し、当該測定又は検出結果に基づいて演算を行うことが可能な検出装置が挙げられる。検出装置がフローティングウエイト下降時のローター電流値が、設定時間内に一定値以下を保持したことを検出することにより、混練機のスリップを検出する。
混練中にスリップ検出手段が、混練機のスリップを検出した場合、10〜500mmの振幅、移動速度5〜500mm/s(好ましくは10〜360mm/s)で可動式部材を往復運動させる。このように、混練機がスリップした場合に、可動式部材を往復運動させることにより、混練機内の練りゴムを切返し、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を早くゴム成分に取り込むことができ、スリップ時間を短縮することができる。例えば、バンバリーミキサーの場合には、フローティングウエイトを上記振幅、移動速度で上下動させることにより、スリップ時間を短縮することができる。
【0049】
(サイドウォール用ゴム組成物)
サイドウォール用ゴム組成物は、上記混練工程により得られたオイルマスターバッチに、例えば、混練機を用いて、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー等の無機・有機充填剤、シランカップリング剤、オイル等の軟化剤、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤等の成分を混練し、さらに得られたゴム組成物(未加硫ゴム組成物)を加硫する方法等により製造できる。
【0050】
上記ゴム組成物は、タイヤの各部材に使用できるが、なかでも、サイドウォールに好適に適用できる。
【0051】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でサイドウォールの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0052】
また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、バス用タイヤ、トラック用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0054】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
エポキシ化天然ゴム(ENR):クンプーランガスリー製のENR25(エポキシ化率:25モル%)
テルペン系樹脂:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジン PX300N(数平均分子量(Mn):2500、重量平均分子量(Mw):4800、軟化点:30℃のゼリー状テルペン系樹脂)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のN220
シリカ:ローディア製のZEOSIL 115GR
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH−60
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の「椿」
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)(6PPD)
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM
【0055】
(製造例1)(オイルマスターバッチの製造)
<素練り工程>
50Lのバンバリーミキサーを用いて、混練開始時の温度が30℃のゴム成分(エポキシ化天然ゴム)33.3kgを、該ゴム成分の温度(練り温度)が100℃になるまで混練した(回転数30rpm)。
<第1混練工程>
次に、50Lのバンバリーミキサーに、テルペン系樹脂PX300N2.2kg(全投入量の1/3に相当する量)を投入し、素練り工程により素練りしたゴム成分と、テルペン系樹脂PX300Nとを、混練機のモーターにかかるゴム成分1kgあたりの第1混練工程開始後の積算負荷電力が、6.0kw・h/kgとなるまで混練した(回転数30rpm)。
<第2混練工程>
次に、50Lのバンバリーミキサーに、テルペン系樹脂PX300N2.2kg(全投入量の1/3に相当する量)を投入し、第1混練工程により混練した混練物と、テルペン系樹脂PX300Nとを、混練機のモーターにかかるゴム成分1kgあたりの第2混練工程開始後の積算負荷電力が、5.4kw・h/kgとなるまで混練した(回転数30rpm)。
<第3混練工程>
次に、50Lのバンバリーミキサーに、テルペン系樹脂PX300N2.2kg(全投入量の1/3に相当する量)を投入し、第2混練工程により混練した混練物と、テルペン系樹脂PX300Nとを、混練機のモーターにかかるゴム成分1kgあたりの第3混練工程開始後の積算負荷電力が、4.8kw・h/kgとなるまで混練し(回転数30rpm)、オイルマスターバッチ(組成:エポキシ化天然ゴム100質量部に対して、テルペン系樹脂を20質量部配合)を得た。
なお、第1混練工程〜第3混練工程においては、バンバリーミキサーに、テルペン系樹脂を投入した後、フローティングウエイトを被混練材料から離れた位置に150秒間保持させてからフローティングウエイトを下降させた。
また、スリップ検出手段が、混練機のスリップを検出した場合、250mmの振幅、移動速度180mm/sで可動式部材を往復運動させた。
【0056】
(サイドウォール用ゴム組成物の製造)
(製造例2)
50Lバンバリーミキサーを用いて、オイルマスターバッチ120質量部(ゴム成分100質量部)に対して、カーボンブラック12.5質量部、ワックス3.8質量部、酸化亜鉛7.5質量部、ステアリン酸5質量部、老化防止剤10質量部、シリカ70質量部を150℃の条件下で5分間混練し、混練物を得た。次に、得られた混練物に、オイルマスターバッチ120質量部(ゴム成分100質量部)に対して、硫黄5質量部及び加硫促進剤2.3質量部を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
(製造例3)
50Lバンバリーミキサーを用いて、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック12.5質量部、ワックス3.8質量部、オイル20質量部、酸化亜鉛7.5質量部、ステアリン酸5質量部、老化防止剤10質量部、シリカ70質量部を150℃の条件下で5分間混練し、混練物を得た。次に、得られた混練物に、ゴム成分100質量部に対して、硫黄5質量部及び加硫促進剤2.3質量部を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0057】
(空気入りタイヤの製造)
(実施例1)
製造例2により得られた未加硫ゴム組成物をサイドウォール部に用いて未加硫タイヤを作製し、加硫することで試験タイヤ(サイズ:195/65R15)を作製した。
(比較例1)
製造例3により得られた未加硫ゴム組成物をサイドウォール部に用いて未加硫タイヤを作製し、加硫することで試験タイヤ(サイズ:195/65R15)を作製した。
【0058】
(耐久性評価)
実施例1および比較例1により得られた試験タイヤを、正規リム(15×6J、充填内圧1.9kgf/cm)にリム組して、荷重710kgf、速度60km/hでテストドラム上を走行させ、サイドウォール部に亀裂(クラック)が発生するまでの走行距離を測定した。その結果、オイルマスターバッチを使用しなかった比較例1の試験タイヤでは、11000km走行時点で亀裂(クラック)が発生したのに対して、オイルマスターバッチを使用した実施例1では、20000km走行時点においても亀裂(クラック)が発生しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム成分を含むゴム成分と、ゼリー状のテルペン系樹脂及び/又はゼリー状のロジン系樹脂とを混練機により混練することを特徴とするオイルマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
天然ゴム成分を含むゴム成分と、軟化点が80℃以下のテルペン系樹脂及び/又は軟化点が80℃以下のロジン系樹脂とを混練機により混練することを特徴とするオイルマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記テルペン系樹脂及び/又は前記ロジン系樹脂の混練機への投入を複数回に分けて行う請求項1又は2記載のオイルマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
各投入時に投入される前記テルペン系樹脂及び/又は前記ロジン系樹脂の量が、全投入量の1/4〜1/2に相当する量である請求項3記載のオイルマスターバッチの製造方法。
【請求項5】
前記混練機は、被混練材料が混練される混練部と、混練部の周囲に移動可能に設けられた可動式部材とを有し、
テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂を混練機に投入した後、可動式部材を被混練材料から離れた位置に10〜360秒間保持させる請求項1〜4のいずれかに記載のオイルマスターバッチの製造方法。
【請求項6】
前記混練機は、被混練材料が混練される混練部と、混練部の周囲に移動可能に設けられた可動式部材と、混練機のスリップを検出するスリップ検出手段とを有し、
スリップ検出手段が、混練機のスリップを検出した場合、10〜500mmの振幅、移動速度5〜500mm/sで可動式部材を往復運動させる請求項1〜5のいずれかに記載のオイルマスターバッチの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたオイルマスターバッチと、他の成分とを混練することを特徴とするサイドウォール用ゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法により得られたゴム組成物を用いて作製したサイドウォールを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−52145(P2011−52145A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203501(P2009−203501)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】