説明

オイル回収具

【課題】放水庭や河川に流出して浮遊するオイルを、足場の善し悪しに関係なく、しかも一人の作業者によって迅速、効率的、確実、且つ安全に回収することができるオイル回収具を提供する。
【解決手段】 吸着ユニット2と、該吸着ユニットに取り付けられた線材20と、該線材を支持する操作部材30と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は河川等の水面に浮遊する比較的少量のオイル等の浮遊物を簡易に捕捉して回収するのに適したオイル回収具に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所においては、ダム等に貯水された水を高所から圧力水路を介して落下させて下方に位置する水車発電機に導く。水車発電機では、落下してきた水の圧力によって発電用水車を回転させることによってタービンを回転させて発電を行う。発電用水車を回転させた後の水は、放水路を介して河川等に放水されるが、放水前に水の勢いを低減させるために放水庭に一旦貯留し、沈静化した水を放水口から河川等に放水するのが一般的である。
ところで、河川への放水を中止した状態で、放水庭の上流側に位置する発電機等の機械設備に対するメンテナンス、その他の必要な作業を行う際に、使用したオイルが誤って放水庭の貯水に漏れ出てしまうことがある。これを放置したまま放水を再開すると、オイルが河川に放出されることとなる。
水力発電所では放水庭や河川に万が一オイルが流出した場合には、オイルが少量であっても速やかに回収するためにオイル吸着材等を用いた回収作業を実施している。
従来の回収作業においては、長尺ロープの中間位置に市販のオイル吸着シートを固定した回収具を用いている(特許文献1)。この回収具を用いたオイル回収作業においては、放水庭に設けた貯水槽の対岸に夫々作業者を位置させて、各作業者がロープの各端部を保持して移動することにより、ロープ中間位置にあるオイル吸着シートを水面に沿って移動させる。オイル吸着シートが水面を浮遊するオイルを吸着完了したときにロープを引き上げて作業を終了する。
また、オイルが放水口から河川に流出した場合にも同様な回収具を用いた作業が行われていた。放水庭に比して流速が格段に早い河川に流出したオイルの回収作業には迅速性が求められることは勿論である。
【0003】
しかし、従来の回収具を用いた回収作業にあっては、流出したオイルの量に関係なく、最低でも2名、通常は3名以上の作業員を必要とし、しかも各作業員を放水庭や河川の対岸に配置させた上での作業(ロープの展開作業、ロープの両端を引いて吸着シートを展開させつつその位置をコントロールしながらオイルを捕捉する作業)が必須となるため、回収作業への着手のための準備に時間を要し、更に回収作業自体にも時間を要することとなる。このため、放水中に放水庭の水面を放水口に向かって流動するオイルを除去するためには迅速な作業への着手と、短時間での作業の完了が必要である。また、河川の場合には更に流速が早いため、河川に一旦流出して流動するオイルを従来の回収具を用いた回収方法により的確に捕捉することは極めて困難であった。
また、オイル塊が水面に離間して散在する場合、対岸に位置する複数の作業者が夫々狙いとするオイル塊に対して的確にオイル吸着シートを移動させて順次捕捉する必要があるが、このような作業を効率的に実現してオイルの離散を防ぐためには、各作業者が迅速に移動し、且つロープを的確にコントロールせねばならず、極めて困難且つ危険な作業であった。
特に、通常、放水庭の水面から岸までの高さや、放水口から河川の水面までの落差が大きいため、作業員が位置する岸から水面までの距離が長くなり、回収作業が更に困難化するという問題があった。
【特許文献1】特開平8−192152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のオイル回収具によって放水庭や河川に流出したオイルを回収する作業は、足場の悪い条件下での複数人による作業となるため、迅速性、作業効率に欠けるばかりでなく、複数のオイル塊が散在している場合にはオイルを散逸させる虞もあった。また、作業者が位置する岸から水面までの距離が長い場合には作業が更に困難化していた。
本発明は、放水庭や河川に流出して浮遊するオイルを、足場の善し悪しに関係なく、しかも一人の作業者によって迅速、効率的、確実、且つ安全に回収することができるオイル回収具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、吸着ユニットと、該吸着ユニットに取り付けられた線材と、該線材を支持する操作部材と、を備えたことを特徴とする。
オイルを吸着する機能を備えた吸着ユニットを線材の一端に固定すると共に、線材の他端を操作部材により支持することより、シンプルな構成でありながら、作業者一人で吸着ユニットを水面のオイルめがけて投げることによりオイル回収作業を実施することができる。
請求項2の発明は、請求項1において、前記吸着ユニットは、傘状に開閉する骨格部材と、該骨格部材により支持されたオイル吸着材と、該オイル吸着材の少なくとも一部を水面に浮上させる浮きと、該オイル吸着材の他の部位を水没させる重りと、から構成されていることを特徴とする。
吸着ユニットを傘と同様の構成とすることにより、手で投げ飛ばす際には良く飛ぶ一方で、引き戻す際には水の抵抗によりオイル吸着材が拡開する。従って、水面に浮遊するオイルを効率的に回収できる。
請求項3の発明は、請求項1、又は2において、前記オイル吸着材は、前記骨格部材に対して着脱自在に取付けられていることを特徴とする。
オイル吸着材が使用不能に陥った場合には交換すればよい。
請求項4の発明は、請求項1、2、又は3において、前記吸着ユニットは、水抜き穴を有していることを特徴とする。
オイル吸着ユニットを引き戻す際に水の抵抗が過大となることがないように適所に水抜き穴を形成する。
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、前記操作部材は、前記線材の巻き取り装置であることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、前記操作部材は、伸縮自在な釣り竿式のロッドと、前記線材用のリールと、から成ることを特徴とする。
釣り竿式のロッドによって線材を引き出し自在に支持すると共に、線材の先端に吸着ユニットを取り付けたので、吸着ユニットを遠方まで正確に飛ばすことが可能となる。
請求項7の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、前記操作部材はロッドであり、前記吸着ユニットは前記ロッド先端部に直接又は前記線材を介して取り付けられていることを特徴とする。
長尺な線材に代えてロッドを用い、ロッド先端に直接、或いは短い線材を介して吸着ユニットを取り付けることにより、ロッドにより届く範囲での回収作業が容易となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のオイル回収具は、水面上のオイルに向けて投げ出すことによって着水し、引き戻すことによって拡開しながらオイルを捕捉するオイル吸着材を備えたオイル吸着ユニットを用いているので、放水庭や河川に流出して浮遊するオイルを、足場の善し悪しに関係なく、しかも一人の作業者によって迅速、効率的、確実、且つ安全に回収することができる。
本発明のオイル回収具は、貯留された水、流れる水に浮遊するオイルを迅速に回収するために使用することができる。
重りと浮きの併用により、吸着シートの展開状態を調整し、展開しながら浮き続けることができる。従って、引き戻される過程でオイルを確実に捕捉することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るオイル回収具の全体構成説明図であり、図2は吸着ユニットの拡大図であり、図3は変形例の説明図、図4はオイル回収具の使用状態の説明図である。
オイル回収具1は、吸着ユニット2と、吸着ユニット2に係止された線材20と、線材20を支持した操作部材30と、から概略構成されている。
吸着ユニット2は、傘状に開閉する骨格部材3と、骨格部材3により支持されたオイル吸着シート(オイル吸着材)15と、から構成されている。吸着ユニット2は、閉じた状態でこれを作業者が手で保持してやり投げのように水面のオイルに向けて投げることができると共に、着水した後は線材20を手前に引きつけることにより水面に浮いた吸着ユニット2が展開して水面のオイルを包み込みながら吸着するように構成される。
また、吸着ユニット2はやり投げのように作業者が手で保持して投げ出すことにより水面に浮遊するオイル塊の近傍(作業者の位置よりも奥方)に着水させるものであるため、その先端部に重心が集中するように構成する。
骨格部材3は、十分な剛性を有した材料から成る棒状の軸部材4と、軸部材4の先端部に固定されて複数の水抜き穴5aを有した円盤状の先端部材5と、先端部材5の外周縁部に所定のピッチにて設けられたヒンジ部6によって内外方向へ開閉自在に軸支された複数本の棒材7と、特定の棒材7に取り付けられることによりオイル吸着シート(以下、吸着シート、という)15の少なくとも一部を水面に浮上させる浮き8と、他の特定の棒材7に取り付けられることにより吸着シートの他の部位を水面下に水没させる重り9と、を有している。
【0008】
また、図3に示すように、各棒材7は、雨傘の構造と同様に、軸部材4によって軸方向へ進退自在に支持されたスライド部材10に対して、連結杆11を介して連結されることにより一定の軌跡に沿って開閉動作できるように構成するのが好ましい。
軸部材4は金属、樹脂、木材等、十分な耐久性を備えた材料により構成し、折り曲げ強度、引張り強度共に十分な強さとなるように設定する。
先端部材5は必ずしも円盤状でなくてもよいが、水抜き穴5aを少なくとも一つ設けることによりオイル回収のために吸着ユニット2を水面に沿って移動させる際の水の抵抗を減殺させることができるように構成する。なお、先端部材5に相当する箇所にもオイル吸着シート15を配置するとともに、この部分の吸着シートに水抜き穴を形成するようにすれば、オイル吸着有効面積を更に増大させることが可能となる。
ヒンジ部6は棒材7を閉じた位置と開放した位置の間で自由に回動させ得るように構成する。しかもヒンジ部6には、棒材7や吸着シート15から加わる圧力に十分に耐え得る強度を付与する。ヒンジ部6が許容する棒材7の最大開放角度は任意に設定可能であるが、開放角度が大きすぎると線材を利用して引っ張るときに水の抵抗が大きくなるので、適度な開放角度に留まるようにヒンジ6を構成する。
【0009】
棒材7は吸着シート15を支持する手段であり、吸着シート15を介して加わる大きな圧力に耐え得るようにその強度を設定する。また、オイルを吸着した吸着シート15を交換できるように、クリップ、フック等の係止手段16によって着脱自在に構成するのが好ましい。
浮き8は、水面に沿って吸着シート15の一部を展開させることができるように少なくとも2本の棒材7に取付ける。
また、重り9は水面に沿って展開する吸着シート部分を支持する棒材7以外の他の棒材7に取り付けることにより他の吸着シート部分が水面下に展開し得るようにその配置、重量を設定する。
吸着シート15としては市販のシート状吸着材を用いることができ、大面積の一枚の吸着シート、或いは複数枚の吸着シート片を各棒材7に取り付けることにより雨傘のように構成する。なお、必ずしも全ての棒材7間に吸着シート15を展張する必要はなく、水中に最も深く没する複数の棒材7間には吸着シートを展張しないように構成してもよい。深い位置にある吸着シートは必ずしも水面のオイルを吸着する機能を果たさないばかりか、水の抵抗を増大させるように作用することもあるからである。また、吸着シート15の適所に水抜き穴を形成して水の抵抗を減殺させるようにしてもよい。また、棒材7を最大限に開放させた状態において、棒材間に位置する吸着シート15がテンション状態になるように構成する必要はなく、弛みをもった状態となるようにしてもよい。このように余裕をもたせることにより、吸着シート15が大きく広がり、オイル吸着面積を拡大させることができる。吸着シート15の内側面、或いは外側面に襞状の多数の吸着シート片を設けてオイル吸着面積を増大させてもよい。
線材20は、ビニルロープ等の丈夫なロープ、ワイヤ等から構成する。線材20はその一端を軸部材4に固定すると共に他端を操作部材30に取り付けて巻き取り、巻出し自在に構成される。
【0010】
この実施例に係る操作部材30は、線材の巻き取り装置であり、この例ではボビン状に構成されている。手作業、或いはモータ等を用いて操作部材30を回転させることにより線材を引き出したり、巻き戻すことができる。
オイル回収具1の使用に際しては、まず線材20を操作部材30から十分に引き出しておき、図4(a)に示すように閉じた状態にある吸着ユニット2を一人の作業者40が片手で保持して水面のオイルOの奥側に狙いを定めて投げる。この際、線材20は吸着ユニット2と共に目標へ向かって飛翔する。
なお、作業者が位置する岸と水面との間に大きな距離がある場合には、人手によって吸着ユニット2を投げる際の飛距離を伸ばすことができるので、遠方のオイルを捕捉することが可能となる。
次いで、作業者は、吸着ユニット2の着水箇所が狙い通りであることを確認した上で、図4(b)に示すように線材20を引き始める。すると、水の抵抗によって先端部材5に設けた各ヒンジ6により支持された各棒材7が開放を開始して吸着シート15を拡開させる。この際、浮き8の浮力によって吸着シートの一部は水面側に浮上した状態を維持し、他の吸着シート部分は重り9によって水中に没した状態で作業者側へ向かって移動する。このため、オイルOは各棒材7によって拡開した状態に保持された吸着シート15によって包み込まれ吸着され易くなる。また、先端部材5に設けた水抜き穴5aから適量の水が通過するため、水の抵抗を減殺して引き戻し作業を容易にすることができる。
吸着ユニット2を引き戻し、水面から引き上げる際には、吸着シート15内に溜まろうとする水は水抜き穴5aから排出され、吸着シート15に吸着したオイルだけが残る。
このような作業を繰り返し実施することによりオイルを完全に除去、回収することができる。
上記の如きオイルの回収作業は一人の作業者によって簡易、迅速に繰り返し実施することができるため、オイルが散逸する前に回収作業を完了することができる。つまり、作業者は、回収作業の着手に際してはオイル回収具1を保持してオイルの浮遊箇所に最も近い岸に移動して位置決めすれば良く、回収作業の開始に際しては吸着ユニット2をオイルめがけて投げ出し、その後線材を引っ張って吸着ユニット2を引き上げればよい。このような作業は迅速に開始され、完了することができる単純な作業である。この作業をオイルが無くなるまで繰り返すことにより、一人であっても容易に回収作業を完了することができる。
【0011】
次に、図5は本発明のオイル回収具の変形例であり、このオイル回収具1は、操作部材30として伸縮自在な釣り竿式の構造を採用している。この操作部材30は、伸縮自在なロッド31と、ロッド31の適所に取り付けられたリール32と、を備え、リール32により線材20を巻出したり巻き取りできるように構成している。線材20としては丈夫な釣り用のPEライン(超高分子ポリエチレン製、ナイロンラインの3〜4倍の強度)を用いる。
このような釣り竿式の操作部材30を用いることにより、吸着ユニット2をより遠方に、しかも正確に投げることが可能となり、更にリールを用いた線材の巻き取り作業によってオイル回収作業効率を高めることができる。
また、図6に示すようにロッド35の先端部に直接、或いは線材を介して吸着ユニット2を取り付けてもよい。ロッド35は伸縮自在としてもよいし、長さを一定としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイル回収具の全体構成説明図。
【図2】本発明の一実施形態に係る吸着ユニットの拡大図。
【図3】本発明のオイル回収具の変形例の説明図。
【図4】本発明のオイル回収具の使用状態の説明図。
【図5】本発明のオイル回収具の変形例の説明図。
【図6】本発明のオイル回収具の変形例の説明図。
【符号の説明】
【0013】
1…オイル回収具、2…吸着ユニット、3…骨格部材、4…軸部材、5…先端部材、5a…水抜き穴、6…ヒンジ、7…棒材、10…スライド部材、11…連結杆、15…オイル吸着シート、20…線材、30…操作部材、31…ロッド、32…リール、35…ロッド、40…作業者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着ユニットと、該吸着ユニットに取り付けられた線材と、該線材を支持する操作部材と、を備えたことを特徴とするオイル回収具。
【請求項2】
前記吸着ユニットは、傘状に開閉する骨格部材と、該骨格部材により支持されたオイル吸着材と、該オイル吸着材の少なくとも一部を水面に浮上させる浮きと、該オイル吸着材の他の部位を水没させる重りと、から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のオイル回収具。
【請求項3】
前記オイル吸着材は、前記骨格部材に対して着脱自在に取付けられていることを特徴とする請求項1、又は2に記載のオイル回収具。
【請求項4】
前記吸着ユニットは、水抜き穴を有していることを特徴とする請求項1、2、又は3に記載のオイル回収具。
【請求項5】
前記操作部材は、前記線材の巻き取り装置であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のオイル回収具。
【請求項6】
前記操作部材は、伸縮自在な釣り竿式のロッドと、前記線材用のリールと、から成ることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のオイル回収具。
【請求項7】
前記操作部材はロッドであり、前記吸着ユニットは前記ロッド先端部に直接又は前記線材を介して取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のオイル回収具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−152225(P2007−152225A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350632(P2005−350632)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】