説明

オキシム基を有するミルベマイシン誘導体

【課題】優れた、殺ダニ活性、殺虫活性又は/及び駆虫活性を有し、農園芸用殺虫剤又は殺ダニ剤、或は動物用駆虫剤の有効成分として有用な化合物を提供する。
【解決手段】一般式(I)


(式中、R:C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基;A:12位、17位の炭素原子に結合、メトキシイミノフェニルアセトキシ基を含有するCアルケニル残基)
で表されるオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシム基を有するミルベマイシン誘導体及びそれを有効成分として含有する殺虫剤、殺ダニ剤又は駆虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトミセス属のB−41−146菌株より単離された一群のマクロライド系化合物は、B−41と称され、9種類の化合物が、古くから知られている(特許文献1)。その後、B−41はミルベマイシンとも称され、類縁の化合物が相次いで発見され(特許文献2〜4及び非特許文献1)、16員環マクロライド化合物であって、ミルベマイシン類に類似する化合物も、種々知られている(特許文献5〜11)。
【0003】
また、ストレプトミセス属のB−41−146菌株の菌学的性質が、詳しく記載され、ストレプトミセス属のB−41−146菌株は工業技術院微生物工業研究所に寄託されており、その微生物受託番号は微工研菌寄第1438号である(特許文献1)。
【0004】
さらに、最近、13位にオキシム基を有するミルベマイシン誘導体、13α位にエステル基を有するアベルメクチン誘導体、29−ヒドロキシミルベマイシンA及び5−デオキシ−29−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類も報告されているが(特許文献12〜16、及び非特許文献2及び3)、これらの化合物は、12位および17位の炭素原子に結合する基が、後述する、本発明の式(A1)〜(A4)で表される基と異なるか、13位側鎖部分にオキシム基を有さないか、又は/及び、5位水酸基が酸化されており、これらの点で、本発明の化合物と異なる。
【特許文献1】特開昭50−29742号
【特許文献2】特開昭56−32461号
【特許文献3】特開昭57−77686号
【特許文献4】特開昭57−136585号
【特許文献5】特開昭52−151197号
【特許文献6】特開昭57−59892号
【特許文献7】特開昭57−150699号
【特許文献8】特開昭58−52300号
【特許文献9】特開昭61−10589号
【特許文献10】特開昭61−118387号
【特許文献11】英国特許公報第2170499号
【特許文献12】特開平8−259570号公報
【特許文献13】特開平9−143183号公報
【特許文献14】特開2000−44751号公報
【特許文献15】特開2003−64082号公報
【特許文献16】特開2003−2891号公報
【非特許文献1】J. Antibiotics 36巻(1983年)980-990頁
【非特許文献2】J. Antibiotics 56巻 (2003年) 848-855頁
【非特許文献3】Bull. Chem. Soc. Jpn., 65巻 (1992年) 3300-3307頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、優れた、殺ダニ剤、殺虫剤又は駆虫剤を開発するために、長年に亘り、鋭意研究を重ねた結果、新たに、12位および17位の炭素原子に特異の基が結合する、オキシム基を有するミルベマイシン誘導体が、優れた、殺ダニ、殺虫又は/及び駆虫活性を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
本発明は、12位および17位の炭素原子に特異の基が結合する、オキシム基を有するミルベマイシン誘導体及びそれを有効成分として含有する殺虫剤、殺ダニ剤又は駆虫剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式(I)
【0008】
【化3】

【0009】
[式中、Rは、C〜Cアルキル基又はC〜Cシクロアルキル基を示し、Aは、12位および17位の炭素原子に結合し、式(A1)、(A2)、(A3)又は(A4)
【0010】
【化4】

【0011】
(式中、オキシム基の幾何異性は、E又はZを示し、12および17は、結合する炭素原子の位置を示す。)
で表される基を示す。]
で表されるオキシム基を有するミルベマイシン誘導体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体(I)は、農園芸用殺虫剤又は殺ダニ剤、或は動物用駆虫剤として用いることができ、優れた、殺ダニ活性、殺虫活性又は/及び駆虫活性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
一般式(I)で表される、オキシム基を有するミルベマイシン誘導体(以下、「化合物(I)」という。)において、RのC〜Cアルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、s−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル又はヘキシル基であり得、好適には、メチル、エチル又はi−プロピル基であり、より好適には、メチル又はエチル基であり、最も好適には、エチル基である。
【0014】
RのC〜Cシクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又は又はシクロヘキシル基であり得、好適には、シクロプロピル、シクロペンチル又はシクロヘキシル基であり、より好適には、シクロヘキシル基である。
【0015】
Aは、好適には、式(A1)又は(A2)で表される基であり、より好適には、式(A1)で表される基である。
【0016】
Aに含まれるオキシム基の幾何異性は、好適には、Zである。
【0017】
化合物(I)の具体例を、以下の表1に例示するが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0018】
表1において、「Me」はメチル基を示し、「Et」はエチル基を示し、「iPr」はi−プロピル基を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
上記化合物のうち、
好適には、化合物番号1、2、7、8、13、14、19又は20の化合物であり、
より好適には、化合物番号1、2、7又は8の化合物であり、
更により好適には、化合物番号2又は8の化合物であり、
最も好適には、化合物番号2の化合物である。
【0021】
本発明の化合物(I)は、例えば、以下の製造方法に従って製造される。
【0022】
(A法)
A法は、化合物(I)において、Aが式(A1)で表される化合物(Ia)又は式(A2)で表される化合物(Ib)を製造する方法である。
【0023】
【化5】

【0024】
上記式中、R及びオキシム基の幾何異性は、前記と同意義を示す。
【0025】
A−1工程は、一般式(II)で表される5−デオキシ−13α−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類を2−メトキシイミノ−2−フェニル酢酸類と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、酸の存在下、反応させ、一般式(III)で表される5−デオキシ−13α―アシルオキシ−5−オキソミルベマイシン類及び一般式(IV)で表される14,15−(Z)−5−デオキシ−13β−アシルオキシ−5−オキソミルベマイシン類を製造する工程である。
【0026】
使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質をある程度溶解するものであれば特に限定は無いが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等の二トリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;又はこれらの混合溶媒であり得、好適には、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類又はこれらの混合溶媒であり、より好適には、ハロゲン化炭化水素類(特に、ジクロロメタン)である。
【0027】
使用される酸は、例えば、三フッ化ホウ素−エーテル錯体、四塩化チタン、四塩化スズ、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸等のルイス酸類;塩酸、硫酸、過塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸等の鉱酸類;p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類;酢酸、プロピオン酸、安息香酸等の有機酸類;又は酸性樹脂であり得、好適には、ルイス酸類又はスルホン酸類であり、より好適には、スルホン酸類(特に、トリフルオロメタンスルホン酸)である。
【0028】
酸の使用量は、化合物(II)に対して、通常、触媒量から大過剰であり、好適には、0.1当量〜10当量であり、より好適には、0.2当量〜1当量である。
【0029】
反応温度は、通常、−78℃〜100℃であり、好適には、−20℃〜50℃であり、より好適には、0℃〜室温である。
【0030】
反応時間は、反応温度、原料化合物、反応溶媒の種類等の要因で大幅に変わり得るが、通常、1分間〜6時間、好適には、15分間〜1時間である。
【0031】
A−2工程は、化合物(III)を還元剤と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、反応させ、化合物(Ia)を製造する工程である。
【0032】
使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質をある程度溶解するものであれば特に限定は無いが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等の二トリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸、プロピオン酸等の有機酸類;水;又はこれらの混合溶媒であり得、好適には、アルコール類、エーテル類、水又はこれらの混合溶媒であり、より好適には、アルコール類(特に、メタノール)である。
【0033】
使用される還元剤は、カルボニル基を水酸基に還元するものであれば特に限定は無いが、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、トリブチルスズヒドリド等の水素化物又はトリエチルシラン、トリフェニルシラン等のシラン類であり得、好適には、水素化物(特に、水素化ホウ素ナトリウム)である。
【0034】
反応温度は、通常、−78℃〜100℃であり、好適には、−20℃〜室温であり、より好適には、−10℃〜10℃である。
【0035】
反応時間は、反応温度、原料化合物、反応溶媒の種類等の要因で大幅に変わりうるが、通常、1分間〜6時間であり、好適には、10分間〜1時間である。
【0036】
A−3工程は、化合物(IV)を還元剤と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、反応させ、化合物(Ib)を製造する工程であり、上記A−2工程と同様に行われる。
【0037】
反応終了後、各工程の目的化合物は、定法に従って反応混合物から採取される。例えば、反応混合液を適宜中和して、反応混合液又は反応混合液の溶剤を留去して得られる残渣に水と混和しない有機溶剤を加え、抽出し、抽出液を水洗し、溶剤を留去することによって得られる。得られた目的化合物は、必要なら、常法、例えば、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の当業者周知の方法によりさらに精製することができる。
【0038】
(B法)
B法は、化合物(III)及び(IV)を別途に製造する方法である。
【0039】
【化6】

【0040】
上記式中、R及びオキシム基の幾何異性は、前記と同意義を示す。
【0041】
B−1工程は、一般式(V)で表される13,14−(E)−5−デオキシ−15α−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類を、2−メトキシイミノ−2−フェニル酢酸類と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、酸の存在下、反応させ、化合物(III)及び化合物(IV)を製造する工程であり、前記A法A−1工と同様に行われる。
【0042】
(C法)
C法は、化合物(I)において、Aが式(A3)で表される化合物(Ic)を製造する方法である。
【0043】
【化7】

【0044】
上記式中、R及びオキシム基の幾何異性は、前記と同意義を示す。
【0045】
C−1工程は、一般式(VI)で表される5−デオキシ−29−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類を2−メトキシイミノ−2−フェニル酢酸類と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、縮合剤の存在下、反応させ、一般式(VII)で表される5−デオキシ−29―アシルオキシ−5−オキソミルベマイシン類を製造する工程である。
【0046】
本工程の出発物質である化合物(VI)は、例えば、Bull. Chem. Soc. Jpn., 65巻 (1992年) 3300-3307頁に記載されている方法によって又は該方法に準じて、製造される。
【0047】
使用される溶媒は、反応を阻害せず、出発物質をある程度溶解するものであれば特に限定は無いが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等の二トリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;又はこれらの混合溶媒であり得、好適には、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類又はこれらの混合溶媒であり、より好適には、芳香族炭化水素類(特に、トルエン)である。
【0048】
使用される縮合剤は、カルボン酸とアルコールを縮合して、エステルを製造するものであれば特に限定は無いが、例えば、ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)とトリフェニルホスフィン(PPh)の組み合わせ、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSCI)であり得、好適には、ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)とトリフェニルホスフィン(PPh)の組み合わせである。
【0049】
縮合剤の使用量は、化合物(VI)に対して、通常、触媒量〜大過剰であり、好適には、0.1当量〜10当量であり、より好適には、1当量〜2当量である。
【0050】
反応温度は、通常、−78℃〜100℃であり、好適には、−20℃〜50℃であり、より好適には、0℃〜室温である。
【0051】
反応時間は、反応温度、原料化合物、反応溶媒の種類等の要因で大幅に変わりうるが、通常、1分間〜6時間であり、好適には、15分間〜1時間である。
【0052】
C−2工程は、化合物(VII)を還元剤と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、反応させ、化合物(Ic)を製造する工程であり、前記A法A−2工程と同様に行われる。
【0053】
反応終了後、各工程の目的化合物は、定法に従って反応混合物から採取される。例えば、反応混合液を適宜中和して、反応混合液又は反応混合液の溶剤を留去して得られる残渣に水と混和しない有機溶剤を加え、抽出し、抽出液を水洗し、溶剤を留去することによって得られる。得られた目的化合物は、必要なら、常法、例えば、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の当業者周知の方法によりさらに精製することができる。
【0054】
(D法)
D法は、化合物(I)において、Aが式(A4)で表される化合物(Id)を製造する方法である。
【0055】
【化8】

【0056】
上記式中、R及びオキシム基の幾何異性は、前記と同意義を示す。
【0057】
D−1工程は、一般式(VIII)で表される14,15−(E)−5−デオキシ−29−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類を2−メトキシイミノ−2−フェニル酢酸類と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、縮合剤の存在下、反応させ、一般式(IX)で表される14,15−(E)−5−デオキシ−29―アシルオキシ−5−オキソミルベマイシン類を製造する工程であり、前記C法C−1工程と同様に行われる。
【0058】
本工程の出発物質である化合物(VIII)は、例えば、Bull. Chem. Soc. Jpn., 65巻 (1992年) 3300-3307頁に記載されている方法によって又は該方法に準じて、製造される。
【0059】
D−2工程は、化合物(IX)を還元剤と、溶媒の存在下又は不存在下(好適には、溶媒の存在下)、反応させ、化合物(Id)を製造する工程であり、前記A法A−2工程と同様に行われる。
【0060】
A法A−1工程の出発物質である化合物(II)は、5−デオキシ−13β−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類を、酸化剤(例えば、デスマーチン試薬、二酸化マンガン等、好適には、デスマーチン試薬)と、溶媒の存在下(例えば、ハロゲン化炭化水素類、好適には、ジクロロメタンの存在下)、−20℃〜50℃で(好適には、室温で)、30分間〜15時間(好適には、1時間〜10時間)反応させ、5−デオキシ−5,13−ジオキソミルベマイシン類を製造し、得られた5−デオキシ−5,13−ジオキソミルベマイシン類を前記A法A−2工程と同様に、還元剤と反応させ、13α−ヒドロキシミルベマイシン類を製造し、最後に、得られた13α−ヒドロキシミルベマイシン類を酸化剤(例えば、二酸化マンガン等)と、溶媒の存在下(例えば、ハロゲン化炭化水素類、好適には、ジクロロメタンの存在下)、−20℃〜50℃で(好適には、室温で)、10分間〜10時間(好適には、20分間〜2時間)反応させることにより製造される。
【0061】
また、B法B−1工程の出発物質である化合物(V)は、上記と同様に、13,14−(E)−5−デオキシ−15β−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシン類を酸化し、得られた13,14−(E)−5−デオキシ−5,15−ジオキソミルベマイシン類を還元し、得られた13,14−(E)−15α−ヒドロキシミルベマイシン類を最後に酸化することにより製造される。
【0062】
これらの反応終了後、各工程の目的化合物は、定法に従って反応混合物から採取される。例えば、反応混合液を適宜中和して、反応混合液又は反応混合液の溶剤を留去して得られる残渣に水と混和しない有機溶剤を加え、抽出し、抽出液を水洗し、溶剤を留去することによって得られる。得られた目的化合物は、必要なら、常法、例えば、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の当業者周知の方法によりさらに精製することができる。
【0063】
本発明の化合物(I)は、果樹、野菜及び花卉に寄生するナミハダニ類(Tetranychus)、リンゴハダニやミカンハダニ(Panonychus)及びサビダニ等の成虫及び卵、動物に寄生するマダニ科(Ixodidae)、ワクモ科(Dermanysside)及びヒゼンダニ科(Sarcoptidae)等に対して優れた殺ダニ活性を有している。更に、ヒツジバエ(Oestrus)、キンバエ(Lucilia)、ウシバエ(Hypoderma)、ウマバエ(Gautrophilus)等及びのみ、しらみ等の動物や鳥類の外部寄生虫;ゴキブリ、家バエ等の衛生害虫;その他アブラ虫、コナガ、鱗翅目害虫等の各種農園芸害虫に活性がある。
【0064】
本発明の化合物(I)は、更にまた、根こぶ線虫(Meloidogyne)、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus)、ネダニ(Phizoglyphus)等に対しても活性がある。
【0065】
本発明の化合物(I)は動物及び人間の内部寄生虫に対しても優れた活性を有している。特にぶた、ひつじ、山羊、牛、馬、犬、猫及び鶏のような家畜及びペットに感染する線虫のほか、フィラリア科(Filariidae)やナタリア科(Setariidae)の寄生虫、人間の消化管、血液又は他の組織及び臓器に見出される寄生虫に対しても有効である。
【0066】
本発明の化合物(I)を農園芸用に供するには、担体及び必要に応じて他の補助剤と混合して、農薬として、通常用いられる製剤形態、例えば、粉剤、水和剤、乳剤、水若しくは油性懸濁液、エアゾール等の組成物に調製されて使用される。
【0067】
種々の剤型に調製された本発明の化合物(I)を有効成分として含む組成物を、例えば、果樹園又は畑地において有害昆虫(例えば、ハダニ類)の寄生した農作物又は家畜に散布するときは、有効成分濃度として、0.5〜100ppmを農作物の茎葉、土壌又は家畜に処理することにより、有害昆虫を有効に防除することができる。
【0068】
本発明の化合物(I)を動物及び人における駆虫剤として使用する場合は、液体飲料として、経口的に投与することができる。飲料は、普通ベントナイトのような懸濁剤及び湿潤剤、又はその他の賦形剤と共に適当な非毒性の溶剤又は水における、溶液、懸濁液又は分散剤である。一般に、飲料は、また消泡剤を含有する。飲料処方は、一般に、活性化合物を0.01〜0.5重量%を含有し、好適には、0.01〜0.1重量%を含有する。
【0069】
本発明の化合物(I)を動物飼料を用いて投与する場合は、本発明の化合物を飼料に均質に分散させるか、トップドレッシングとして使用されるか、又はペレットの形態として使用される。普通、望ましい抗寄生虫効果を達成するためには、最終飼料中に、活性化合物を0.0001〜0.02重量%含有する。
【0070】
また、本発明の化合物(I)を液体担体賦形剤に溶解又は分散させたものは、胃内、筋肉内、気管内又は皮下に注射することによって、非経口的に動物に投与することができる。非経口投与のために、活性化合物は、好適には、落花生油、綿実油等の適当な植物油と混合する。このような処方は、一般に、活性化合物を0.05〜50重量%含有する。
【0071】
本発明の化合物(I)は、また、ジメチルスルホキシド、炭化水素溶剤等の適当な担体と混合することによって局所的に投与し得る。この製剤は、スプレー又は直接的注加によって、動物の外部表面に直接適用される。最善の結果を得るための活性化合物の最適使用量は、治癒される動物の種類及び寄生虫感染の型及び程度によってきまるが、一般に、動物体重1kg当たり約0.01〜100mg(好適には、0.5〜50mg)を経口投与することによって得られる。このような使用量は、一度に又は分割した使用量であり、1〜5日のような比較的短期間に亘って投与される。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例、参考例、及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定される物ではない。
【0073】
実施例1
[13α−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号2)
(1)5−デオキシ−[13α−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA及び14,15−(Z)−5−デオキシ−[13β−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA
(a)参考例(1)で製造した5−デオキシ−13−α−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA(2.00g,3.59mmol)と(2Z)−α−メトキシイミノフェニル酢酸(966mg,5.39mmol)をジクロロメタン(20ml)に溶解し、窒素気流下、室温で攪拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸(0.16ml,1.80mmol)を滴下した。室温で30分攪拌した後、反応液を水中に投入し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を重曹水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、1.28gの5−デオキシ−[13α−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA(収率50%)と0.24gの14,15−(Z)−5−デオキシ−[13β−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA(収率9%)を、それぞれ無色アモルファスとして得た。
【0074】
5−デオキシ体
1H-NMRスペクトル(500MHz, CDCl3) δ: 7.61 (2H, m), 7.41 (3H, m), 6.52 (1H, br), 5.87 (1H, d, J=11.0Hz), 5.77 (1H, dd, J=15.1Hz), 5.68 (1H, dd, J=15.1Hz, 10.0Hz), 5.41 (2H, m), 5.19 (1H, m), 4.75 (1H, dd, J=14.4Hz, 2.1Hz), 4.72 (1H, dd, J=14.4Hz, 2.1Hz), 4.07 (1H, s), 4.03 (3H, s), 3.84 (1H, s), 3.55 (2H, m), 3.01 (1H, t, J=9.6Hz), 2.72 (1H, m), 2.30 (2H, m), 1.99 (1H, dd, J=12.0Hz, 4.5Hz), 1.88 (3H, br), 1.63 (3H, br), 1.11 (3H, d, J=6.9Hz), 0.89 (3H, t, J=7.3Hz), 0.85 (3H, d, J=6.2Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 717(M+), 699, 538, 520, 279, 195, 167。
【0075】
14,15−(Z)−5−デオキシ−体
1H-NMRスペクトル(500MHz, CDCl3) δ: 7.51 (2H, m), 7.39 (3H, m), 6.49 (1H, br), 5.85 (2H, m), 5.60 (2H, m), 5.48 (1H, m), 5.34 (1H, m), 4.78 (1H, d, J=14.4Hz), 4.72 (1H, d, J=14.4Hz), 4.64 (1H, s), 4.00 (3H, s), 3.87 (2H, m), 3.56 (1H, m), 3.04 (1H, m), 2.72 (1H, m), 2.56 (2H, m), 1.89 (3H, br), 1.70 (3H, br), 1.09 (3H, d, J=6.1Hz), 0.97 (3H, t, J=7.2Hz), 0.82 (3H, d, J=6.2Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 717(M+), 699, 538, 520, 279, 195, 167。
【0076】
(b)参考例(2)で製造した13,14−(E)−5−デオキシ−15−α−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA(1.11g,1.99mmol)と(2Z)−α−メトキシイミノフェニル酢酸(714mg,3.98mmol)をジクロロメタン(20ml)に溶解し、窒素気流下、室温で攪拌しながら、トリフルオロメタンスルホン酸(0.09ml,1.00mmol)を滴下した。室温で30分攪拌した後、反応液を水中に投入し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を重曹水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、189mgの5−デオキシ−[13α−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA(収率13%)と628mgの14,15−(Z)−5−デオキシ−[13β−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA(収率44%)を、それぞれ無色アモルファスとして得た。
【0077】
得られた5−デオキシ体及び14,15−(Z)−5−デオキシ体の1H-NMRスペクトル及びEI-マススペクトルは、それぞれ、上記(a)で得られたものと一致した。
【0078】
(2)[13α−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号2)
上記(1)で製造した5−デオキシ−[13α−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA(0.90g,1.26mmol)をメタノール(20ml)に溶解し、氷浴で冷却し、攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウム(71mg,1.88mmol)を添加し、15分間攪拌した。反応液を水中に投入し、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水の順に洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、0.76gの標記化合物(収率84%)を無色アモルファスとして得た。
1H-NMRスペクトル(500MHz,CDCl3) δ: 7.61 (2H,m),7.41 (3H,m),5.80 (2H,m),5.63 (1H,dd,J=13.1Hz,10.3Hz),5.40 (1H,br),5.38 (1H,br),5.36 (1H,m),5.19 (1H,m),4.69 (1H,d,J=14.1Hz),4.65 (1H,d,J=14.1Hz),4.27 (1H,m),4.13 (1H,s),4.03 (3H,s),3.95 (1H,d,J=6.2Hz),3.53 (1H,m),3.25 (1H,t,J=2.1Hz),3.00 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.7Hz),2.71 (1H,m),2.29 (3H,m),1.96 (1H,dd,J=11.7Hz,4.5Hz),1.86 (3H,br),1.59 (3H,br),1.11 (3H,d,J=6.9Hz),0.88 (3H,t,J=7.6Hz),0.84 (3H,d,J=6.9Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 719 (M+),591,540,522,504,412,394,279,195,167,151。
【0079】
実施例2
14,15−(Z)−[13β−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号8)
上記実施例1(1)で製造した14,15−(Z)−5−デオキシ−[13β−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンAを、実施例1(2)と同様に、水素化ホウ素ナトリウムで還元し、91%の収率で、標記化合物を得た。
1H-NMRスペクトル(500MHz,CDCl3) δ: 7.53 (2H,m),7.39 (3H,m),5.76-5.86 (2H,m),5.59 (2H,m),5.42 (1H,m),5.39 (1H,br),5.31 (1H,dd,J=14.4Hz,10.3Hz),4.72 (1H,dd,J=14.4Hz,2.1Hz),4.68 (1H,s),4.66 (1H,dd,J=14.4Hz,2.1Hz),4.32 (1H,br),4.00 (3H,s),3.97 (1H,d,J=6.2Hz),3.86 (1H,m),3.29 (1H,dd,J=4.8Hz,2.0Hz),3.03 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.1Hz),2.72 (1H,m),2.55 (2H,m),2.40 (1H,br),1.92 (1H,dd,J=12.4Hz,5.5Hz),1.88 (3H,br),1.70 (3H,br),1.08 (3H,d,J=6.2Hz),0.96 (3H,t,J=7.2Hz),0.81 (3H,d,J=6.9Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 719 (M+),591,440,412,279,261,195,167,151。
【0080】
実施例3
[29−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号14)
(1)5−デオキシ−[29−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA
5−デオキシ−29−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA(500mg,0.90mmol)と(2Z)−α−メトキシイミノフェニル酢酸(242mg,1.35mmol)をトルエン(10ml)に溶解し、窒素気流下、室温で攪拌しながら、トリフェニルフォスフィン(354mg,1.35mmol)とジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD:40%トルエン溶液、0.59ml、1.35mmol)を添加し、同温度で30分攪拌した。反応液を水中に投入し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を水及び飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、303mgの標記化合物(収率47%)を無色アモルファスとして得た。
1H-NMR スペクトル(500MHz,CDCl3) δ: 7.56 (2H,m),7.40 (3H,m),6.53 (1H,d,J=1.4Hz),5.84 (1H,d,J=11.0Hz),5.71 (1H,dd,J=14.4Hz,11.0Hz),5.42 (2H,m),5.30 (1H,m),4.81 (1H,d,J=12.0Hz),4.78 (1H,d,J=12.0Hz),4.65 (1H,dd,J=14.4Hz,2.1Hz),4.63 (1H,dd,J=14.4Hz,2.7Hz),4.04 (3H,s),4.03 (1H,s),3.84 (1H,s),3.63 (1H,m),3.50 (1H,m),3.06 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.1Hz),2.27-2.54 (4H,m),1.99 (1H,dd,J=12.0Hz,3.8Hz),1.89 (3H,br),1.01 (3H,d,J=6.9Hz),0.99 (3H,t,J=7.2Hz),0.83 (3H,d,J=6.2Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 717 (M+),699,686,668,538,520,502,195,167,151。
【0081】
(2)[29−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号14)
上記(1)で製造した化合物を、実施例1(2)と同様に、水素化ホウ素ナトリウムで還元し、72%の収率で標記化合物を得た。
1H-NMR スペクトル(500MHz,CDCl3) δ: 7.56 (2H,m),7.41 (3H,m),5.69-5.79 (2H,m),5.34-5.41 (3H,m),5.29 (1H,dd,J=11.7Hz,4.1Hz),4.83 (1H,d,J=12.4Hz),4.77 (1H,d,J=12.4Hz),4.60 (1H,dd,J=14.4Hz,2.0Hz),4.57 (1H,dd,J=14.4Hz,2.0Hz),4.29 (1H,m),4.10 (1H,s),4.04 (3H,s),3.94 (1H,d,J=6.2Hz),3.62 (1H,m),3.21 (1H,d,J=2.0Hz),3.05 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.1Hz),2.26-2.54 (5H,m),1.97 (1H,dd,J=12.0Hz,3.7Hz),1.88 (3H,br),1.00 (3H,d,J=6.2Hz),0.99 (3H,t,J=6.9Hz),0.82 (3H,d,J=6.9Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 719 (M+),688,670,591,422,195,167,151。
【0082】
実施例4
14,15−(E)−[29−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号20)
(1)14,15−(E)−5−デオキシ−[29−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−5−オキソミルベマイシンA
14,15−(E)−5−デオキシ−29−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンAを用いて、実施例1(1)と同様にして、標記化合物を収率43%で得た。
1H-NMRスペクトル (500MHz,CDCl3) δ: 7.57 (2H,m),7.40 (3H,m),6.49 (1H,m),5.78 (2H,m),5.69 (1H,dd,J=14.4Hz,11.7Hz),5.45 (1H,m),5.30 (1H,dd,J=14.4Hz,10.0Hz),4.99 (1H,d,J=12.0Hz),4.66 (2H,m),4.62 (1H,d,J=12.0Hz),4.51 (1H,s),4.03 (3H,s),3.86 (1H,s),3.83 (1H,m),3.54 (1H,m),3.03 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.7Hz),2.52 (1H,m),2.34 (2H,m),2.23 (1H,m),2.06 (1H,m),1.93 (1H,m),1.89 (3H,br),1.04 (3H,d,J=6.9Hz),0.96 (3H,t,J=6.9Hz),0.82 (3H,d,J=6.9Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 717 (M+),699,686,668,538,520,502,195,167,151。
【0083】
(2)14,15−(E)−[29−(2Z)−α−メトキシイミノフェニルアセトキシ]−ミルベマイシンA(化合物番号20)
上記(1)で製造した化合物を、実施例1(2)と同様に、水素化ホウ素ナトリウムで還元し、83%の収率で、標記化合物を得た。
1H-NMR スペクトル(500MHz,CDCl3) δ: 7.57 (2H,m),7.41 (3H,m),5.77 (1H,m),5.67-5.73 (2H,m),5.39 (2H,m),5.25 (1H,m),5.01 (1H,d,J=12.0Hz),4.61 (3H,m),4.55 (1H,s),4.31 (1H,m),4.03 (3H,m),3.96 (1H,d,J=6.2Hz),3.81 (1H,m),3.26 (1H,m),3.02 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.7Hz),2.49 (1H,m),2.38 (1H,d,J=7.6Hz),2.31 (2H,m),2.21 (1H,t,J=11.7Hz),2.05 (1H,d,J=11.7Hz),1.90 (1H,m),1.88 (3H,s),1.03 (3H,d,J=6.2Hz),0.95 (3H,t,J=6.9Hz),0.81 (3H,d,J=6.9Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 719 (M+),688,670,591,412,394,195,167,151。
【0084】
参考例1
5−デオキシ−13α−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA
(1)デスマーチン試薬182mg(0.43mmol)をジクロロメタン1mlに溶解し、室温で攪拌しながら、5−デオキシ−13β−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA(199mg,0.36mmol)をジクロロメタン3mlに溶解した溶液を添加し、同温度で2時間攪拌した。反応液を亜硫酸ナトリウム水溶液に投入し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を重曹水及び飽和食塩水の順に洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、171mgの5−デオキシ−5,13−ジオキソミルベマイシンA粗生成物を得た。この化合物をさらに精製せずに、次の工程に用いた。
【0085】
(2)上記(1)で製造した粗生成物(165mg,0.30mmol)をメタノール(3ml)に溶解し、氷浴で冷却し、攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウム(34mg,0.89mmol)を添加し、同温度で10分間攪拌した。反応液を水中に投入し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、167mgの13−α−ヒドロキシミルベマイシンA粗生成物を得た。この化合物をさらに精製せずに、次の工程に用いた。
【0086】
(3)上記(2)で製造した粗生成物(157mg,0.28mmol)をジクロロメタン5mlに溶解し、室温で攪拌しながら、二酸化マンガン(1.52g,17.5mmol)を添加し、同温度で40分攪拌した。反応液をセライトでろ過し、減圧濃縮した。得られた残渣を分取用薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製し、131mgの標記化合物を得た(収率84%)。
1H-NMRスペクトル (500MHz,CDCl3) δ: 6.55 (1H,br),5.89 (1H,m),5.76 (2H,m),5.46 (1H,m),5.35 (1H,m),4.76 (1H,dd,J=14.4Hz,2.7Hz),4.73 (1H,dd,J=14.4Hz,2.7Hz),4.06 (1H,s),4.03 (1H,d,J=2.8Hz),3.86 (1H,s),3.67 (1H,m),3.56 (1H,m),3.09 (1H,dt,Jt=9.6Hz,Jd=2.7Hz),2.53 (1H,m),2.32 (2H,m),2.02 (1H,dd,J=11.7Hz,3.4Hz),1.89 (3H,br),1.53 (3H,br),1.18 (3H,d,J=7.6Hz),1.01 (3H,t,J=7.2Hz),0.84 (3H,d,J=6.2Hz)。
EI-マススペクトル (m/z): 556 (M+),538,520,279,195,167。
【0087】
参考例2
13,14−(E)−5−デオキシ−15α−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA
(1)デスマーチン試薬1.35g(3.19mmol)をジクロロメタン50mlに溶解し、室温で攪拌しながら、13,14−(E)−5−デオキシ−15β−ヒドロキシ−5−オキソミルベマイシンA(1.32g,2.37mmol)を添加し、同温度で5時間攪拌した。反応液を亜硫酸ナトリウム水溶液に投入し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を重曹水及び飽和食塩水の順に洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、827mgの13,14−(E)−5−デオキシ−5,15−ジオキソミルベマイシンA(収率63%)を無色アモルファスとして得た。
EI-マススペクトル (m/z): 554 (M+),536,195,167。
【0088】
(2)上記(1)で製造した化合物(827mg,1.49mmol)をメタノール(30ml)に溶解し、氷浴で冷却し、攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウム(169mg,4.47mmol)を添加し、同温度で10分間攪拌した。反応液を水中に投入し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、654mgの13,14−(E)−15α−ヒドロキシミルベマイシンA(収率79%)を無色アモルファスとして得た。
EI-マススペクトル(m/z): 558 (M+),430,412,394,330,195,167。
【0089】
(3)上記(2)で製造した化合物(654mg,1.17mmol)をジクロロメタン15mlに溶解し、室温で攪拌しながら、二酸化マンガン(6.03g,69.36mmol)を添加し、同温度で30分攪拌した。反応液をセライトでろ過し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン−酢酸エチルグラジエント)で精製し、561mgの標記化合物(収率86%)を無色アモルファスとして得た。
1H-NMRスペクトル (270MHz,CDCl3) δ: 6.55 (1H,br),5.80 (2H,m),5.35 (2H,m),4.95 (1H,m),4.75 (1H,d,J=14.8Hz),4.72 (1H,d,J=14.8Hz),4.24 (1H,br),3.93 (1H,s),3.90 (1H,s),3.73 (1H,t,J=9.6Hz),3.52 (1H,t,J=2.3Hz),3.10 (2H,m),2.32 (1H,m),1.89 (3H,br),1.65 (3H,br),1.09 (3H,d,J=6.6Hz),1.07 (3H,t,J=7.1Hz),0.82 (3H,d,J=6.2Hz)。
EI-マススペクトル(m/z): 556 (M+),538,195,167。
【0090】
試験例1
抵抗性ハダニに対する殺ダニ効力
ササゲ(Vigna sinensis Savi)の初生葉にナミハダニ(Tetranychus urticae)を接種した。接種1日後、接種葉に、10ppm濃度の試験化合物を含む10ppm溶液及び1ppmの濃度の試験化合物を含む1ppm溶液(該10ppm溶液は、展着剤(ニッコール710F)0.004%、展着剤(グラミンS)0.01%、分散剤(ポリビニルアルコール)0.06%及びアセトン0.2%を含む水溶液100mlに試験化合物1mgを含み、該1ppm溶液は、上記10ppm溶液を水で10倍希釈した溶液である)7mlをミズホ回転散布塔にて、散布液量が3.5mg/cm葉面積になるように散布した。3日後に、双眼顕微鏡によって成虫の生死(反応率:苦悶虫を含む)を調べた。各化合物について二連制で試験を行い、試験中、薬液処理葉は25℃の恒温室内に保存した。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
これらの結果から、本発明の化合物(I)は、微量で抵抗性ハダニに対して高い殺ダニ効力を示した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体(I)は、農園芸用殺虫剤又は殺ダニ剤、或は動物用駆虫剤として用いることができ、優れた、殺ダニ活性、殺虫活性又は/及び駆虫活性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】


[式中、Rは、C〜Cアルキル基又はC〜Cシクロアルキル基を示し、Aは、12位および17位の炭素原子に結合し、式(A1)、(A2)、(A3)又は(A4)
【化2】


(式中、オキシム基の幾何異性は、E又はZを示し、12および17は、結合する炭素原子の位置を示す。)
で表される基を示す。]
で表されるオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項2】
Rがメチル、エチル基又はi−プロピルである、請求項1記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項3】
Rがメチル又はエチル基である、請求項1記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項4】
Rがエチル基である、請求項1記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項5】
Aに含まれるオキシム基の幾何異性が、Zである、請求項1〜4記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項6】
Aが、式(A1)又は(A2)で表される基である、請求項1〜5記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項7】
Aが、式(A1)で表される基である、請求項1〜5記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体。
【請求項8】
請求項1〜7記載のオキシム基を有するミルベマイシン誘導体を有効成分とする殺虫剤、殺ダニ剤又は駆虫剤。

【公開番号】特開2008−143818(P2008−143818A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331390(P2006−331390)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(303020956)三共アグロ株式会社 (70)
【Fターム(参考)】