説明

オキシ水酸化マンガン及びその製造方法並びにそれを用いたリチウムマンガン系複合酸化物

【課題】
出力特性の高いリチウム二次電池の正極材料として用いられるリチウムマンガン系複合酸化物、及びその原料として優れるオキシ水酸化マンガンを提供する。
【解決手段】
平均短径が0.05μm以上0.5μm以下、平均長径が3μm以上20μm以下であるオキシ水酸化マンガンを原料として用いたリチウムマンガン系複合酸化物を用いる。当該リチウムマンガン系複合酸化物の平均アスペクト比が10以上100以下であることが好ましい。オキシ水酸化マンガンは、金属マンガンを二酸化マンガンの存在下においてを水溶液中で反応させる。水溶液中の水とトータルマンガン元素とのモル比(HO/Mn)は6以上40以下とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシ水酸化マンガン及びその製造方法並びにそれを用いたリチウムマンガン系複合酸化物に関する。リチウムマンガン複合酸化物はリチウム二次電池の正極材料に用いられる。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、従来から使用されている携帯用機器用途以外に、自転車、電動バイク、自動車などの電源としての用途が広がってきている。リチウム二次電池の正極材料は、LiとCo、Ni、Mn、V等との複合酸化物が検討・実用化されているが、その中でも資源量の豊富なMnとLiとの複合酸化物の一種であるスピネル構造リチウムマンガン系複合酸化物が最も有望な材料である。
【0003】
しかしながら、スピネル構造リチウムマンガン系複合酸化物は導電性が低く、自動車用途等で瞬時に大きい電流を通電する場合、小さい電流で取り出せる電気エネルギーの数%しか取り出せない問題、いわゆる、出力特性が低いという問題があった。
【0004】
出力特性の改善のため、これまでスピネル構造リチウムマンガン系複合酸化物もしくはその原料であるマンガン材料を粉砕して微細化する方法などが検討されてきた(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの方法では結晶構造の損傷や、粒子の成長・凝集等の問題があり、得られるスピネル構造リチウムマンガン系複合酸化物の出力特性は十分ではなかった。
【0005】
一方、特定形状の原料を使用することによる出力特性の改善も検討されている。
【0006】
特許文献4には、100nm程度の極めて細いワイヤー形状である単結晶マンガン酸ナトリウムナノワイヤーを原料とした単結晶LiMnナノワイヤーの製法が開示されている。しかしながら、この製法では組成制御が難しく、特性改善のための元素添加ができないなど、目的とする組成を得ることが困難であり、また、特殊な製造方法を必要としていた。
【0007】
また、γ型オキシ水酸化マンガンの針状粒子を利用して針状マンガン複合酸化物を製造する方法が開示されている(特許文献5〜8)。しかしながら、これらのγ型オキシ水酸化マンガンは、水酸化マンガン(Mn(OH))を過酸化水素(H)で酸化する方法(非特許文献1)、もしくは、硫酸マンガン(MnSO)と過酸化水素の混合液にアンモニア(NHOH)を加える方法(非特許文献2、特許文献9〜10)により製造されており、針状粒子が強固に凝集したものであった。そのため、これを使用して作製したスピネル型リチウムマンガン系複合酸化物は出力特性が低いものであった。
【0008】
このように、これまでは出力特性に優れたリチウムマンガン系複合酸化物用のマンガン原料、およびリチウムマンガン系複合酸化物は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−202724
【特許文献2】特開2008−156163
【特許文献3】特開2000−169151
【特許文献4】特開2008−285372
【特許文献5】特開平08−217451号公報
【特許文献6】特開平04−206354号公報
【特許文献7】特開平07−101727号公報
【特許文献8】特開平07−101728号公報
【特許文献9】特開平11−001323号公報
【特許文献10】特開平11−233112号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】The American Mineralogist、50巻、1296頁(1965)
【非特許文献2】Electrochimica Acta、31巻、13頁(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、リチウム二次電池用の正極材料として優れたリチウムマンガン系複合酸化物を与えるオキシ水酸化マンガンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、リチウム二次電池用の正極材料として用いられるリチウムマンガン系複合酸化物と、原料となるマンガン化合物について鋭意検討を重ねた結果、微細針状のオキシ水酸化マンガンが高い出力特性を有するリチウムマンガン系複合酸化物を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
以下、本発明のオキシ水酸化マンガンについて説明する。
【0014】
本発明のオキシ水酸化マンガンは、平均短径が0.05μm以上0.5μm以下であり、0.1μm以上0.3μm以下であることが好ましい。平均短径が0.05μm未満、もしくは0.5μmを越えると、これを原料として作製したリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池の出力特性が低下する。
【0015】
この理由については必ずしも明らかではないが、平均短径がこの範囲より小さいと、そのオキシ水酸化マンガンを原料にしてスピネル構造リチウムマンガン系複合酸化物を製造した場合、低温から焼結が進行するため、オキシ水酸化マンガンの形態が維持されない。また、平均短径がこの範囲より大きいと、そのオキシ水酸化マンガンを原料としたスピネル構造リチウムマンガン系複合酸化物は、充放電に伴い移動するLiの結晶内での移動距離が長くなるため、高い出力特性を発揮しないと考えられる。
【0016】
本発明のオキシ水酸化マンガンは平均長径が3μm以上20μm以下であり、5μm以上20μm以下であることが好ましい。平均長径がこの範囲を満たすことで、粒子の凝集および、Li化合物と混合し焼成した場合に粒子の凝集による粒子成長が抑制される。平均長径が3μm未満である場合、オキシ水酸化マンガンが凝集しやすくなる。また、平均長径が20μmを超える場合、凝集抑制の効果は変わらないが、オキシ水酸化マンガン粉体が嵩高くなりやすい。
【0017】
本発明のオキシ水酸化マンガンは平均アスペクト比が10以上100以下であることが好ましく、20以上50以下であることが特に好ましい。平均アスペクト比が10より小さい場合、オキシ水酸化マンガンが凝集しやすくなる。また、平均アスペクト比が100より大きい場合には、凝集はしないが、オキシ水酸化マンガン粉体が嵩高くなる。
【0018】
平均アスペクト比をこの範囲のオキシ水酸化マンガンを原料とすることで、得られるリチウムマンガン系複合酸化物は、特に凝集が抑制され、かつ、出力特性の高いリチウムマンガン系複合酸化物となる。
【0019】
なお、平均短径、平均長径および平均アスペクト比はSEM観察の結果から、実施例に記載した方法により測定することができる値である。
【0020】
本発明のオキシ水酸化マンガンはBET比表面積が10m/g以上30m/g以下であることが好ましく、10m/g以上25m/g以下であることが特に好ましい。BET比表面積が10m/g未満であると反応性に乏しく、一方、30m/gを超えると充填性が著しく低下する。
【0021】
本発明のオキシ水酸化マンガンの結晶構造はγ型であることが好ましい。結晶構造がγ型であることで、得られるオキシ水酸化マンガンが本発明の好ましい平均アスペクト比となりやすくなる。なお、γ型のオキシ水酸化マンガンの結晶構造はJCPDSパターンのNo.41−1379のX線回折パターンと同等のものである。
【0022】
次に、本発明のオキシ水酸化マンガンの製造方法について説明する。
【0023】
本発明のオキシ水酸化マンガンは、金属マンガンを二酸化マンガンの存在下において水と反応させることにより製造することができる。
【0024】
水溶液中では、金属マンガンから高純度のMn(OH)(水酸化マンガン)が得られ((1)式)、高純度のMnOOH(オキシ水酸化マンガン)を得られる((2)式)。
【0025】
Mn + 2HO → Mn(OH) + H (1)
Mn(OH) → MnOOH + 1/2H (2)
【0026】
また、二酸化マンガンは(3)式の様に還元され、オキシ水酸化マンガンとなる。
【0027】
MnO + 1/2H → MnOOH (3)
本発明の製造方法では、金属マンガンと二酸化マンガンを共存させることで、(1)〜(3)式の反応が同時に起こり((4)式)、二酸化マンガンが還元したオキシ水酸化マンガンが核となり、針状で、なおかつ、高純度のオキシ水酸化マンガンを製造することができる。
【0028】
Mn + MnO + 2HO → 2MnOOH + H (4)
【0029】
本発明の製造方法は、水溶液中の水と金属マンガンと二酸化マンガンのトータルのマンガン元素とのモル比(HO/Mn)が6以上40以下が好ましく、特に10以上30以下であることが好ましい。HO/Mnをこの範囲にすることでオキシ水酸化マンガン粒子の針状の成長促進と凝集抑制ができ、特に効率よく製造することができる。
【0030】
O/Mnが6未満であると反応に関与できるHOが不足するため、反応が十分に進まず、また、針状形状が十分に成長しない。また、反応は発熱反応であるため、反応後は水溶液の濃度が非常に高くなる。水溶液濃度が高くなると生成するオキシ水酸化マンガン粒子が成長し過ぎて凝集し易い。HO/Mnが40を超えると、生成するオキシ水酸化マンガン粒子の物性への影響は少ないが、粒子の生成する効率が顕著に低下する。
【0031】
本発明の方法における金属マンガンと二酸化マンガンの比率は特に限定されないが、金属マンガンと二酸化マンガンの比率(モル比)が1.2:0.8〜0.8:1.2の範囲が好ましく、1.1:0.9〜0.9:1.1であることが特に好ましい。二酸化マンガンの比率が少なすぎると本発明の形状のオシキ水酸化マンガンが得られ難く、多すぎると二酸化マンガンが残存しやすい。
【0032】
なお、反応系内のHOとはマンガン原料の構造中に含まれる水は含まず、HO/Mnは、仕込のHOの量と、使用した原料に含まれるMnの量から求めることできる。
【0033】
本発明の製造方法では、不活性ガス雰囲気下で反応させることが好ましい。これにより製造するオキシ水酸化マンガンをさらに高純度とすることができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが例示できる。また、金属マンガンと二酸化マンガンを反応させる前に、これらの不活性ガスを用いて水溶液を脱気処理しておくことが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、反応温度を70℃以上とすることが好ましく、90℃以上とすることが特に好ましい。反応温度が70℃未満であると、反応速度が著しく遅くなる。一方、温度が高すぎるとHO/Mnが変化するため、本発明のオキシ水酸化マンガンが得られにくくなる。そのため、温度の上限は110℃程度であると考えられる。
【0035】
本発明の製造方法における反応時間は、目的とするオキシ水酸化マンガンの形状により変わるが、5〜20時間を例示することができる。
【0036】
なお、本発明の製造方法で金属マンガンと二酸化マンガンを水溶液に添加する方法は、金属マンガンと二酸化マンガンが均一に分散すれば如何なる方法でも良く、予め金属マンガンと二酸化マンガンを混合した混合物を純水に添加する方法、金属マンガンを添加した後に二酸化マンガンを添加する方法、二酸化マンガンを添加した後に金属マンガンを添加する方法が例示できる。
【0037】
本発明の方法で使用する金属マンガンは小さいほど活性であり、金属マンガン粉末を用いることが好ましい。これにより、水酸化マンガンの生成が早くなる。
【0038】
金属マンガン粉末を用いる場合の粉末粒子径は200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。金属マンガン粉末の粒子径が200μmより大きいとマンガンの溶解反応が遅くなる、または、表面だけが反応し、内部に未反応な金属マンガンが残存しやすくなる。粒子径は小さいほど反応性が高く好ましいが、取り扱いの観点から1μm以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の方法で用いる二酸化マンガンは、反応性を高めるために二酸化マンガン粉末を使用することが好ましい。
【0040】
二酸化マンガン粉末を用いる場合の粉末の粒子径は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。10μmより大きいと表面だけが反応し、内部に未反応な二酸化マンガンが残存しやすく好ましくない。一方、粒子径は小さいほど活性が高く、オキシ水酸化マンガンの生成が早くなるが、取り扱いの観点から1μm以上であることが好ましい。
【0041】
本発明で使用する二酸化マンガンの種類は特に限定されず、天然二酸化マンガン、化学二酸化マンガン、電解二酸化マンガンが例示できるが、緻密であり、工業的に生産されていることから、電解二酸化マンガンが好適に使用できる。
【0042】
本発明で使用する二酸化マンガンの結晶構造は特に限定されず、α型、β型、γ型、δ型が例示できる。
【0043】
本発明で使用する二酸化マンガンは、構造中に含まれるマンガン元素の価数は3.8価以上であることが好ましく、3.9価以上が特に好ましい。価数が3.8価より低いと均一なオキシ水酸化マンガンが生成し難くなる。なお、二酸化マンガンのマンガン元素の価数は、二酸化マンガン中の不純物量によっても異なるが、4.1価が上限と考えられる。
【0044】
本発明の製造方法では、二酸化マンガンが還元されるのと同時に、これを核として、純度の高い水酸化マンガンによってオキシ水酸化マンガンを生成・成長させていくものである。そのため、従来の硫酸マンガン等を中和してから酸化する方法など、核発生と核成長を同時に行う製造方法で得られるオキシ水酸化マンガンとは異なり、凝集が抑制され、かつ、高いアスペクト比を有するオキシ水酸化マンガンを得ることができる。
【0045】
次に、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物について説明する。
【0046】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、平均短径が0.08μm以上0.8μm以下、平均長径が2μm以上10μm以下、平均アスペクト比が8以上80以下のリチウムマンガン系複合酸化物である。
【0047】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の平均短径は0.08μm以上0.8μm以下であり、0.2μm以上0.6μm以下であることが好ましい。平均短径がこの範囲外のリチウムマンガン系複合酸化物は出力特性が低い。この理由については必ずしも明らかではないが、平均短径が0.08μmより小さいリチウムマンガン系複合酸化物は、結晶の成長が悪くLiの結晶内での移動経路が確保できず、また、平均短径が0.8μmより大きいリチウムマンガン系複合酸化物は充放電に伴い移動するLiの結晶内での移動距離が長くなり、高い出力特性を発揮しないためと考えられる。
【0048】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、平均長径が2μm以上10μm以下である。平均長径が2μmより短い場合、粒子間の隙間が少なくなり、出力特性が低くなる。また、平均長径が10μmより長い場合には、粉体が嵩高くなる。
【0049】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、平均アスペクト比が8以上80以下である。平均アスペクト比が8より小さい場合、粒子間の隙間が少なくなり、出力特性が低くなる。また、平均アスペクト比が80より大きい場合には、粉体が嵩高くなる。
【0050】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、形状が微細針状であることが好ましい。形状が微細針状であることにより凝集が抑制され、粒子間に隙間ができ、電池の正極材料として使用した場合に導電材料と好適に接触が図れる。
【0051】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、化学式Li1+xMn2−x−y(式中MはLi,Mn,O以外の元素から選ばれる少なくとも1種類以上であり、0≦x≦0.33、0≦y≦1.0)であることが好ましく、yは0<y≦1.0であることが特に好ましい。M元素を含有することでリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性が改善する。
【0052】
添加元素Mは、Al,Mgの少なくとも1種以上であることが好ましく、少量でリチウムマンガン系複合酸化物のサイクル安定性および保存安定性が得られる。
【0053】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は結晶構造がスピネル型であることが好ましい。さらにスピネル型リチウムマンガン系複合酸化物の多結晶体であることが好ましい。
【0054】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物のBET比表面積は3.0m/g以上であることが好ましく、4.0m/g以上であることが特に好ましい。BET比表面積が3.0m/g未満であると出力特性が得られにくい。
【0055】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、正極活物質のリチウムマンガン複合酸化物1g当たりの放電電流が一定の0.1A/gで定電流放電した場合の放電容量に対する10A/gで定電流放電した場合の放電容量の割合(以下、利用率)が60%以上であることが好ましい。利用率が60%未満であると、自動車用途等で必要とされる特性が得られにくい。
【0056】
本発明において、リチウムマンガン系複合酸化物の利用率は出力特性を示す指標である。利用率は、0.1A/gで定電流放電した場合のMn4+からMn3+への放電に対応する放電容量(mAh/g:以下、C0.1)に対する、10A/gで定電流放電した場合のMn4+からMn3+への放電に対応する放電容量(mAh/g:以下、C10)から求めることができ、C0.1およびC10は各電流値における放電曲線から求めることができる。
【0057】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の放電容量を測定した際の代表的な放電曲線を図1に示した。図1において、C0.1は、電流0.1A/g、放電電圧4.5〜3.0Vで定電流放電したとき放電曲線から得られる放電容量に相当する。一方、C10は、電流10A/gで定電流放電し、0.1A/g定電流放電時の放電曲線に対応する放電曲線から得られる放電容量に相当する。放電電圧は電圧降下の影響を受けるため、図1においては概ね4.5〜1.5Vとなる。
【0058】
次に、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法について説明する。
【0059】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、上述の本発明のオキシ水酸化マンガンを原料とリチウム原料を混合し、焼成することで製造することができる。
【0060】
本発明の方法では、上述の本発明のオキシ水酸化マンガンをマンガン原料とする。これにより利用率に優れたリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0061】
本発明の方法で使用するリチウム原料は、如何なるものを用いてもよく、リチウム金属、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム、アルキルリチウム等が例示される。好ましくは、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウムである。
【0062】
本発明の方法では、Li、Mn、O以外の元素の原料を使用することが好ましい。Li、Mn、O以外の元素の原料は如何なるものを用いてもよいが、Al、Mgおよびその化合物が特に好ましく、例えば、水酸物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機金属錯体等が挙げられる。
【0063】
本発明の方法における原料の混合方法は、原料のオキシ水酸化マンガンの形態が維持されれば、特に制限されるものではなく、固相及び/または液相で混合することができる。
【0064】
本発明の方法では、原料を混合後に焼成してリチウムマンガン系正極活物質を製造する。焼成は500℃〜800℃のいずれかの温度で、空気中、酸素中など各種の雰囲気で行うことができる。
【0065】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、リチウム二次電池等の正極活物質とすることができる。これにより、出力特性に優れたリチウム二次電池が得られる。
【0066】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質としてリチウム二次電池で用いる場合、負極活物質には、金属リチウム並びにリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を用いることができ、金属リチウム、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金および電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離する炭素系材料等が例示され、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱理する炭素系材料が安全性および電池の特性の面から特に好適である。
【0067】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質としてリチウム二次電池で用いる場合、電解質としては、特に制限はなく、例えば、カーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、エーテル類等の有機溶媒中にリチウム塩を溶解したものや、リチウムイオン導電性の固体電解質等を用いることができる。
【0068】
本発明では、以上述べてきた正極活物質、負極活物質およびリチウム塩含有非水電解質を用いて、利用率の高い高性能なリチウム二次電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0069】
本発明のオキシ水酸化マンガンは、リチウム化合物と混合後、焼成することにより、その針状の粒子形状を引き継いだ形状のリチウムマンガン系複合酸化物を製造でき、当該リチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として用いることにより利用率の高いリチウム二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のリチウムマンガン系複合酸化物(実施例6)の放電曲線を示す図
【図2】実施例及び比較例で構成した電池の実施態様を示す断面図
【図3】実施例1および比較例1,2のオキシ水酸化マンガンのX線回折図
【図4】実施例1のオキシ水酸化マンガンの電子顕微鏡(SEM)写真
【図5】比較例1のオキシ水酸化マンガンの電子顕微鏡(SEM)写真
【図6】比較例2のオキシ水酸化マンガンの電子顕微鏡(SEM)写真
【図7】実施例4および比較例3,4のリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折図
【図8】実施例4のリチウムマンガン系複合酸化物の電子顕微鏡(SEM)写真
【図9】比較例3のリチウムマンガン系複合酸化物の電子顕微鏡(SEM)写真
【図10】比較例4のリチウムマンガン系複合酸化物の電子顕微鏡(SEM)写真
【図11】比較例3のリチウムマンガン系複合酸化物の放電曲線を表す図
【実施例】
【0071】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(平均短径、平均長径、平均アスペクト比)
平均短径、平均長径および平均アスペクト比は、オキシ水酸化マンガンもしくはリチウムマンガン酸化物のSEM観察から求めた。なお、短径、長径は50以上の粒子の平均値を平均短径、平均長径とした。また、平均アスペクト比は各粒子のアスペクト比の平均値を用いた。
【0072】
実施例1
内容積500mLの反応槽に純水180mLを張り込み、100rpmで撹拌しながら、1時間窒素バブリングし、不活性ガス雰囲気とした。バブリング終了後、還流しながら温度を90℃にした。
【0073】
次に、粒子径50μmの金属マンガン粉末11gと粒子径5μmの電解二酸化マンガン粉末18.1gを予め乳鉢で混合したものを反応槽内に添加し、反応槽内の温度を90℃に維持し、16時間反応させた。HO/Mnは25であった。反応開始から16時間後、反応槽内の水溶液をろ過し、得られた生成物を80℃で乾燥した。
【0074】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0075】
また、SEM観察像より短径が0.05〜0.6μmで平均0.3μm、長径が4〜18μmで平均11μm、アスペクト比が9〜120で平均50の微細針状で粒子が凝集していないオキシ水酸化マンガンであり、BET比表面積は15m/gであった。
【0076】
実施例2
水溶液の温度を90℃にする前に、純水中に金属マンガンを添加し、温度が90度になった後に電解二酸化マンガンを添加した以外は、実施例1と同様な方法でオキシ水酸化マンガンを製造した。
【0077】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0078】
また、SEM観察像より短径が0.05〜1.1μmで平均0.3μm、長径が4〜21μmで平均11μm、アスペクト比が3〜122で平均43の微細針状で粒子が凝集していないオキシ水酸化マンガンであり、BET比表面積は16m/gであった。
【0079】
実施例3
水溶液の温度を90℃にする前に、純水中に電解二酸化マンガンを添加し、温度が90度になった後に金属マンガンを添加した以外は、実施例1と同様な方法でオキシ水酸化マンガンを製造した。
【0080】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0081】
また、SEM観察像より短径が0.06〜1.0μmで平均0.3μm、長径が2〜18μmで平均10μm、アスペクト比が4〜115で平均35の微細針状で粒子が凝集していないオキシ水酸化マンガンであり、BET比表面積は16m/gであった。
【0082】
実施例4
純水量を90mL(HO/Mn=12.5)とした以外は実施例1と同様な条件でオキシ水酸化マンガンを製造した。
【0083】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0084】
また、SEM観察像より短径が0.1〜1μmで平均0.3μm、長径が2〜11μmで平均5μm、アスペクト比が3〜60で平均21の微細針状で粒子が凝集していないオキシ水酸化マンガンであり、BET比表面積は18m/gであった。
【0085】
実施例5
純水量を90mL(HO/Mn=12.5)とし、粒子径1μmの電解二酸化マンガンを使用した以外は実施例1と同様な方法でオキシ水酸化マンガンを製造した。
【0086】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0087】
また、SEM観察像より短径が0.05〜3μmで平均0.2μm、長径が3〜8μmで平均5μm、アスペクト比が10〜65で平均28の微細針状で粒子が凝集していないオキシ水酸化マンガンであり、BET比表面積は25m/gであった。
【0088】
比較例1
非特許文献1の方法に従ってオキシ水酸化マンガンを製造した。硫酸マンガン水溶液に水酸化ナトリウムを加えて水酸化マンガンスラリーを調製し、このスラリーを過酸化水素で酸化してオキシ水酸化マンガンスラリーを得た。得られたスラリーをろ過、洗浄し、80℃で乾燥した。
【0089】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0090】
また、SEM観察像より短径が0.2〜1.0μmで平均0.4μm程度、長径が0.8〜4μmで平均2μm程度、アスペクト比が1〜10で平均5程度であり、長径の短い針状粒子で球状も混在し、粒子が凝集しており、BET比表面積は7m/gであった。
【0091】
比較例2
純水量を36mL(HO/Mn=5.0)とした以外は実施例1と同じ条件でオキシ水酸化マンガンを製造した。
【0092】
乾燥生成物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1379と同等のパターンを示し、オキシ水酸化マンガン単相であった。
【0093】
また、SEM観察像より短径が0.1〜1.0μmで平均0.6μm、長径が0.4〜25μmで平均3μm、アスペクト比が1〜30で平均6であり、針状粒子、球状粒子および不定形粒子が凝集しており、BET比表面積は5m/gであった。
【0094】
実施例1及び比較例1〜2で得られたオキシ水酸化マンガンの結果を以下の表1に示した。
【0095】
【表1】

【0096】
実施例6
実施例1で作製したオキシ水酸化マンガンと炭酸リチウムと硝酸アルミニウムを乳鉢で混合し、空気流中800℃で12時間焼成し、Li、Al、Mnからなる複合酸化物を得た。
【0097】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相で、組成はLi1.10Al0.10Mn1.80であった。
【0098】
得られた複合酸化物の形状は、混合時の乱れがあるもののMn原料であるオキシ水酸化マンガンの形状を引き継ぎ、SEM観察像より短径が0.1〜0.7μmで平均0.3μm、長径が1.5〜10μmで平均5μm、アスペクト比が4〜90で平均21の粒子であった。また、BET比表面積は4.8m/gであった。
【0099】
比較例3
比較例1のオキシ水酸化マンガンを使用した以外は実施例4と同様な方法でリチウムマンガン系複合酸化物を製造した。
【0100】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相で、組成はLi1.10Al0.10Mn1.80であった。
【0101】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はMn原料であるオキシ水酸化マンガンの形状を引き継いでいるが、焼成により、長径が短くなって、短径が0.2〜0.8μmで平均0.4μm、長径が0.5〜2.6μmで平均2μm、アスペクト比が1〜11で平均5の粒子であった。また、BET比表面積は2.1m/gであった。
【0102】
比較例4
比較例2オキシ水酸化マンガンを使用した以外は実施例4と同様な方法でリチウムマンガン系複合酸化物を製造した。
【0103】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相で、組成はLi1.10Al0.10Mn1.80であった。
【0104】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はMn原料であるオキシ水酸化マンガンの形状を引き継いでいるが、焼成により、長径が短くなって、短径が0.2〜1.0μmで平均0.5μm、長径が0.3〜3μmで平均2μm、アスペクト比が1.0〜8で平均3の粒子であった。また、BET比表面積は1.5m/gであった。
【0105】
実施例6、比較例3及び比較例4の結果を表2に示した。
【0106】
【表2】

【0107】
(利用率の測定)
実施例6、比較例3および比較例4で得られたリチウムマンガン系複合酸化物を導電剤であるアセチレンブラックおよび結着剤であるポリフッ化ビニリデンとNメチルピロリドンを溶媒として混合した。混合の比率はリチウムマンガン系複合酸化物:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン=66重量%:17重量%:17重量%である。得られた合剤スラリーをアルミニウム箔上に塗布した後、温度150℃で16時間真空乾燥し、正極合剤シートを作製した。乾燥した正極合剤シートのアルミニウム箔を除いた厚みは約40μmであった。
【0108】
この正極合剤シートより、直径16mmの円形を打ち抜き電池用正極を作製した。得られた電池用正極と、金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解したものを電解液に用いてリチウム二次電池のモデル電池を構成した。
【0109】
このモデル電池を用い、正極活性物質のリチウムマンガン複合酸化物1g当たりの放電電流を一定の0.1A/gとし、電圧4.5〜3.0Vで定電流放電し、C0.1(mAh/g)を測定した。一方、放電電流10A/g、電圧4.5〜1.0Vで定電流放電し、0.1A/g定電流放電時の放電曲線に対応する放電容量をC10とした。得られた放電容量の割合(%)を求め利用率とした。
【0110】
なお、利用率の測定に際し、C10の測定の後、再度0.1A/gで測定し、いずれのリチウムマンガン系複合酸化物も放電容量に変化がなく、利用率の測定においてリチウムマンガン系複合酸化物が劣化していないことを確認した。
【0111】
以下に、これらの電池の特性を表3に示し、実施例6および比較例3の放電曲線をそれぞれ図1、図11に示した。
【0112】
【表3】

【0113】
実施例6のリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池は良好な出力特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のオキシ水酸化マンガンは、リチウム二次電池の正極活物質であるリチウムマンガン系複合酸化物の製造用原料として使用される。
【符号の説明】
【0115】
1:封口板
2:ガスケット
3:ケース
4:負極集電体
5:負極
6:セパレーター
7:正極
8:正極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均短径が0.05μm以上0.5μm以下、平均長径が3μm以上20μm以下であることを特徴とするオキシ水酸化マンガン。
【請求項2】
平均アスペクト比が10以上100以下であることを特徴とする請求項1に記載のオキシ水酸化マンガン。
【請求項3】
BET比表面積が10m/g以上30m/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオキシ水酸化マンガン。
【請求項4】
結晶構造がγ型であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のオキシ水酸化マンガン。
【請求項5】
金属マンガンを二酸化マンガンの存在下において水と反応させることを特徴とするオキシ水酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
水と、金属マンガンと二酸化マンガンのトータルマンガン元素とのモル比(HO/Mn)が6以上40以下である請求項5に記載のオキシ水酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
不活性ガス雰囲気下で反応させることを特徴とする請求項5又は6に記載のオキシ水酸化マンガンの製造方法。
【請求項8】
平均短径が0.08μm以上0.8μm以下、平均長径が2μm以上10μm以下、平均アスペクト比が8以上80以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項9】
化学式Li1+xMn2−x−y(式中MはLi,Mn,O以外の元素から選ばれる少なくとも1種類以上であり、0≦x≦0.33、0≦y≦1.0)で表される請求項8に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項10】
MがAl,Mgの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項11】
0.1A/gで定電流放電した場合の放電容量に対する10A/gで定電流放電した場合の放電容量の割合から求められる利用率が60%以上であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項12】
請求項1乃至4のいずれかに記載のオキシ水酸化マンガンとリチウム原料を混合し、焼成することを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項13】
Li、Mn、O以外の元素の原料をさらに混合することを特徴とする請求項12に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項14】
請求項8乃至11のいずれかに記載のリチウムマンガン系複合酸化物を用いることを特徴とする正極活物質。
【請求項15】
請求項14に記載の正極活物質を用いることを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−105538(P2011−105538A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261573(P2009−261573)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】