説明

オキスポコナゾール銅塩及び木材保存剤

【課題】木材腐朽菌のみならず表面汚染菌に対して高い殺菌活性を示す木材保存剤を提供する。
【解決手段】木材保存剤は、一般式(1)


(式中、Mは、塩化銅(II)等を示し、nは1又は2の整数を示す)で示されるオキスポコナゾール((RS)−1−{2−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]−2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−イルカルボニル}イミダゾール)の銅塩が、木材腐朽菌であるカワラタケ、オオウズラタケ等の担子菌類のみならず、表面汚染菌であるクロカビ等の子のう菌類に対しても高い殺菌活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材保存剤として有用な新規なオキスポコナゾール銅塩に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オキスポコナゾール((RS)−1−{2−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]−2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−イルカルボニル}イミダゾール)は、特許文献1においては、そのフマル酸塩等が、特許文献2においては、その製造法及び農園芸用の有害生物防除活性が記載されており、さらにそのフマル酸塩等は、木材保存剤の特性に求められる木材腐朽菌(例えば、非特許文献1参照)であるカワラタケ(Trametes versicolor)等の担子菌類に防除活性があることが記述されている(例えば、特許文献3参照)が、表面汚染菌であるクロカビ(Aspergillus niger)等の子のう菌に対する効果が不十分という問題があり、木材保存剤として十分なものではなかった。
【特許文献1】特開平3−68573号公報
【特許文献2】特開平7−304774号公報
【特許文献3】特開2004−59453号公報
【非特許文献1】JIS−K−1571(2004) 木材保存剤の性能試験法及び性能基準
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献3には、オキスポコナゾールは木材腐朽菌であるカワラタケ(Trmetes versicolor)及びオオウズラタケ(Tryomyces palustris)に有効であることが記載されている。しかし、表面汚染菌であるクロカビ(Aspergillus niger)等の子のう菌に対する効果が不十分という問題がある。クロカビ等の表面汚染菌が発生した木材は、腐朽による強度劣化はないが、その表面の汚染によって、商品価値が著しく損なわれる。本発明者等は、木材腐朽菌に対する殺菌活性を維持しつつ表面汚染菌への殺菌活性を持つ、優れた木材保存剤を開発すべく、鋭意研究を行った。
その結果、オキスポコナゾールを銅塩化することにより、木材腐朽菌に対する殺菌活性を維持しつつ表面汚染菌への殺菌活性が著しく向上する知見を得て、本発明を完成した。従って、本発明は、新規なオキスポコナゾール銅塩及びそれを有効成分とする木材保存剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、一般式(1)で示されるオキスポコナゾール銅塩が、木材腐朽菌及び表面汚染菌に有効であることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本願の第一の発明は、一般式(1)
【0005】
【化1】



【0006】
(式中、nは1又は2の整数を表し、Mは塩化銅(II)又は硫酸銅(II)を表す)で示されるオキスポコナゾール銅塩に関するものである。
【0007】
本願の第二の発明は、前記の式(1)で示されるオキスポコナゾール銅塩を有効成分とする木材保存剤に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規なオキスポコナゾール銅塩は、優れた抗菌効果を示し、木材保存剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般式(1)の示すn及びMは以下の通りである。
nは、1及び2の整数である。
Mは、塩化銅(II)又は硫酸銅(II)である。
【0010】
一般式(1)で示したn及びMの好ましい態様は以下の通りである。
(1) nが1であり、Mが塩化銅(II)である化合物。
(2) nが2であり、Mが硫酸銅(II)である化合物。
【0011】
前記の本発明化合物(1)の合成法を、更に詳細に述べる。
本発明の化合物(1)は以下に示す方法で合成できる。
【0012】
化合物(1)は、以下に示すように、化合物(2)と化合物(3)とを溶媒中で、反応させることによって合成することができる。
【0013】
【化2】


【0014】
(式中、n及びMは前記と同義である。)
【0015】
原料モル比は、任意に設定できるが、通常、化合物(2)1モルに対して化合物(3)は0.5〜2モルの割合であり、1.0〜1.2倍モルの割合が好ましい。
【0016】
溶媒の種類としては、本反応に関与しないものであれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、若しくはエチレングリコール等のアルコール類;ジオキサン、若しくはテトラヒドロフラン等のエーテル類;水;又はこれらの溶媒の混合物等を挙げることができる。
溶媒の使用量は、化合物(2)の濃度が1〜50重量%になるようにして使用することができるが、1〜10重量%が好ましい。
【0017】
反応温度は、特に限定されないが、0℃から溶媒の沸点範囲内であり、室温が好ましい。
【0018】
反応時間は、前記の濃度、温度により変化するが、通常0.5〜6時間である。
【0019】
原料化合物(2)は、例えば、特許文献1に記載の方法で製造できる。
原料化合物(3)は、市販品(例えば、和光純薬株式会社製)として入手することができる。
【0020】
〔抗菌効果〕
本発明の化合物銅塩で殺菌効果が認められる木材腐朽菌としては、例えば、カワラタケ(Trametes versicolor)やオオウズラタケ(Tryomyces palustris)等の担子菌類、表面汚染菌としては、例えば、クロカビ(Aspergillus niger)等の子のう菌類を挙げることができる。
【0021】
本発明の化合物は、単独で使用することもできるが、通常は常法によって、担体、界面活性剤、分散剤、補助剤等を配合して使用することが好ましい。
【0022】
担体としては、例えば、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、ケイソウ土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、消石灰、ケイ砂、硫安、尿素等の固体担体;炭化水素(ケロシン、鉱油等);芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等);塩素化炭化水素(クロロホルム、四塩化炭素等);エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等);ケトン類(アセトン、シクロヘキサン、イソホロン等);エステル類(酢酸エチル、エチレングリコールアセテート、マレイン酸ジブチル等);アルコール類(メタノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール等);極性溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等);水;又は気体担体(空気、窒素、炭酸ガス、フレオン等)等を挙げることができる。
【0023】
本発明の化合物銅塩の木材への付着、吸収の向上、分散、乳化、展着等の性能を向上させるために使用できる界面活性剤や分散剤としては、例えば、アルコール硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、又はポリオキシエチレングリコールエーテル等を挙げることができる。そして、その製剤の性状を改善するためには、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、又はアラビアゴム等を補助剤として用いることができる。
本剤の製造では、前記の担体、界面活性剤、分散剤、若しくは補助剤をそれぞれの目的に応じて、各々単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、本発明の化合物(1)は、他の薬剤を配合して使用することもできる。他の薬剤としては、例えば、防腐・防かび剤としてフェノール系化合物、有機ヨード系化合物、ベンズイミダゾール系化合物、トリアゾール系化合物、ニトリル系化合物、第四級アンモニウム系化合物、又はチオシアネート系化合物等を挙げることができ、また防虫・防蟻剤としては、例えば、有機リン系化合物、合成ピレスロイド系化合物、カーバーメート系化合物、又はネオニコチノイド系化合物等を挙げることができる。
本発明の化合物(1)と、これらとを適宜配合して用いることで、より高性能の木材保存剤を提供することができる。
【0025】
フェノール系化合物としては、例えば、トリブロモフェノール、p−ブロム−2,5−ジクオロロフェノール、又はp−(2−フェニル−イソプロピル)フェノール(p−クミルフェノール)等を挙げることができる。
有機ヨード系化合物としては、例えば、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール(IF−1000)、3―ブロモ−2,3−ジヨード−2−プロペニルエチルカルボナート(サンプラス)、又は3−ヨード−2−プロペニルブチルカーバメート(IPBC)等を挙げることができる。
【0026】
ベンズイミダゾール系化合物としては、例えば、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)等を挙げることができる。
【0027】
トリアゾール系化合物としては、例えば、2−(4−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−1−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブタン−2−オール(シプロコナゾール)、1−(p−クロロフェニル)−4,4−ジメチル−3−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチルペンタン−3−オール(テブコナゾール)、又は1−[〔2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキシソラン2−イル〕メチル]−1N−1,2,4−トリアゾール(アザコナゾール)等を挙げることができる。
【0028】
ニトリル系としては、テトラクロロイソフタロニトリル等が挙げられる。
第四級アンモニウム系としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、又は塩化ベンザルコニウム等を挙げることができる。
【0029】
チオシアネート系化合物としては、例えば、メチレンビスチオシアネート(MBT)で代表されるアルキレンビス(チオシアネート)類等を挙げることができる。
有機リン系化合物としては、例えば、O,O−ジエチル α−シアノベンジリデンアミノ−オキシホスホノチオエート(ホキシム)等を挙げることができる。
【0030】
合成ピレスロイド系化合物としては、例えば、2−(p−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテル(エトフェンプロックス)等を挙げることができる。
【0031】
カーバメート系としては、例えば、1−ナフチル N−メチルカーバメート(カルバリル)、S−メチル−N−(メチルカルバモイルオキシ)チオアセトイミダート(メソミル)、2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ベンゾフラノルメチルカーバメート(カーボフラン)、又は2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ベンゾ[b]フラニル−N−ジブチルアミノチオ−N−メチルカルバマート(カルボスルファン)等を挙げることができる。
ネオニコチノイド系としては、例えば、イミダクロプリド、ニテンピラム、又はアセタミプリド等を挙げることができる。
【0032】
本発明の木材保存剤が適用される木材は樹種を問わず、形態、形状、大きさ、長さ、厚さも限定されない。例えば、外壁、玄関周り、ベランダ、板塀等の屋外用木材、及び/又は浴室、洗面所周り等の屋内用木材等に適用される。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0033】
(化合物の合成)
(1)塩化第二銅塩の合成
(RS)−1−{2−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]−2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−イルカルボニル}イミダゾール(1.8g)のエタノール溶液(100ml)に、室温攪拌下、塩化銅(II)二水和物(0.85g)の水溶液(5ml)を滴下し、1時間攪拌した。
反応終了後、反応溶液から析出した結晶を濾集し、水洗後、エタノールで洗浄した。得られた結晶を乾燥することにより、黄土色結晶として目的物2.1gを得た。
以下に、その元素分析値を示す。
【0034】
水素:5.00%(理論値;4.87%)
炭素:46.03%(理論値;45.98%)
窒素:8.60%(理論値;8.47%)
【0035】
(2)1/2硫酸銅塩の合成
(RS)−1−{2−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]−2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−イルカルボニル}イミダゾール(1.8g)のエタノール溶液(100ml)に、室温攪拌下、硫酸銅(II)五水和物(1.25g)の水溶液(5ml)を滴下し、3時間攪拌した。
反応終了後、反応溶液から析出した結晶を濾集し、水洗後、エタノールで洗浄した。得られた結晶を乾燥することにより、淡青色結晶として目的物1.8gを得た。
以下に、その元素分析値を示す。
【0036】
水素:5.36%(理論値;5.47%)
炭素:51.30%(理論値;51.64%)
窒素:9.40%(理論値;9.51%)
【実施例2】
【0037】
〔効力試験〕
オキスポコナゾール((RS)−1−{2−[3−(4−クロロフェニル)プロピル]−2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−イルカルボニル}イミダゾール)(以下、IPO.と略す)、同フマル酸塩(以下、IPO.FAと略す)、同塩化第二銅塩(以下、IPO.CCと略す)及び同1/2硫酸銅塩(以下、IPO.CSと略す)の各々ジメチルスルホキシド溶液(0.05ml)を濃度1,000、100、10、1、0.1、又は0.01mg/L(リットル)になるようPDA培地(日水製薬社製:ポテトデキストロース寒天培地)(10ml)に混入させ平板培地を作成した。
予めPDA培地に生育させたカワラタケ(Trametes versicolor MAFF420002)とオオウズラタケ(Tryomyces palustris NBRC30339)の菌叢及びクロカビ(Aspergillus niger )の胞子を約5×10個/ml麦芽寒天培地(麦芽エキス20g、D−グルコース20g、ペプトン1g、寒天15g、蒸留水1,000ml)に懸濁させて作成した平板培地をメスで1.5mm四方に切り取り、作成した薬剤入り平板培地へ接種した。25℃、暗黒化で5日間培養した後、各試験区の菌叢直径と薬剤無添加区の菌叢直径とを比較して最小生育阻止濃度(mg/L)を求めた。得られた最小生育阻止濃度(mg/L)を表1に示した。
【0038】
【表1】


【実施例3】
【0039】
〔製剤の調製〕
(1)粒剤の調製
化合物(1)5重量部、ベントナイト35重量部、タルク57重量部、ネオレックスパウダー(商品名;花王株式会社製)1重量部及びリグニンスルホン酸ソーダ2重量部を均一に混合し、次いで少量の水を添加して混練した後、造粒,乾燥して粒剤を得た。
【0040】
(2)水和剤の調製
化合物(1)10重量部、カオリン70重量部、ホワイトカーボン18重量部、ネオレックスパウダー(商品名;花王株式会社製)1.5重量部及びデモール(商品名;花王株式会社製)0.5重量部を均一に混合し、次いで粉砕して水和剤を得た。
【0041】
(3)乳剤の調製
化合物(1)20重量部及びキシレン70重量部に、トキサノン(商品名;三洋化成工業製)10重量部を加えて均一に混合し、溶解して乳剤を得た。
【0042】
(4)粉剤の調製
化合物(1)を粉5重量部,タルク50重量部及びカオリン45重量部を均一に混合して粉剤を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】



(式中、Mは、塩化銅(II)又は硫酸銅(II)を表し、nは、1又は2の整数を表す)で示されるオキスポコナゾール銅塩。
【請求項2】
請求項1に記載のオキスポコナゾール銅塩を有効成分とする木材保存剤。
【請求項3】
オキスポコナゾール銅塩が、オキスポコナゾール塩化銅(II)である請求項2記載の木材保存剤。
【請求項4】
オキスポコナゾール銅塩が、オキスポコナゾール硫酸銅(II)である請求項2記載の木材保存剤。

















【公開番号】特開2006−273776(P2006−273776A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97241(P2005−97241)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】