説明

オゾンによる貝類の浄化方法

【課題】本発明は、低濃度のオゾンにより、貝類の生命活動の維持を図り、かつ、効率的にウイルスを不活化する、貝類の浄化方法を目的とする。
【解決手段】本発明は、オゾン濃度5〜300volppmのオゾン含有ガスを平均気泡径が10mm以下の気泡として水に供給し、前記オゾン含有ガスの水中におけるボイド率を0.01〜5体積%とした水で、貝類を処理することを特徴とする。前記貝類は二枚貝であって、該二枚貝の殻が開く方向と略直交する水流により貝類を処理することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオゾンによる貝類の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは海中のカキ等の二枚貝に取り込まれ、冬季の食中毒の主原因の1つになっている。例えば、生カキは、水揚げ後1晩〜2晩程度、無菌海水等で畜養し、ウイルスの不活化および殺菌を目的とした、浄化処理が行われている。しかし、無菌畜養は冬季の冷水ではカキの濾水量が減るため効果が低い。
従来、カキの浄化方法として、次亜塩素酸を用いた浄化方法(例えば、特許文献1、2)や、オゾン水を用いる浄化方法(例えば、特許文献3〜6)が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸素発生用の電極を備えた浄化水槽に、次亜塩素酸を含有する殺菌海水を貯留し、カキを浸漬し、殺菌海水中の酸素濃度を高めて、カキの吸水活動の低下を抑制して、浄化効率を高める方法が開示されている。また、特許文献2には、食塩水に次亜塩素酸を添加した水に、剥き身のカキを浸漬して行う浄化方法が開示されている。次亜塩素酸を使用した浄化方法は、浄化の効果を高めるために次亜塩素酸の濃度を高くすると、食品を劣化させ、また強い臭気を伴うため作業環境等の対策が必要である。
【0004】
従来、オゾンは高い酸化力からウイルスの不活化効果が高いことで知られている。ここで、カキ等が持っているノロウイルスは、体内の中腸線に濃縮されている。このためカキ等貝類のウイルスの不活化には、オゾンが貝類の体内に入る必要がある。オゾンを使用した浄化方法として、例えば、特許文献3には、水中にオゾンをオゾンナノバブルとして存在させ、オゾン溶解度が0.1〜5mg/Lのオゾン水による、浄化方法が開示されている。また、特許文献4には、オゾンガスの微細な泡が水中に含まれるオゾン水を殺菌対象物に噴出して行う浄化方法が開示されている。また、特許文献5には、マイクロオゾンガス気泡により、殺菌浄化を行った水を利用する、浄化方法が開示されている。特許文献6には、マイナスイオン化したオゾンを海水に混和し、該海水にカキを浸漬させて浄化を行う方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−20570号公報
【特許文献2】特開平8−308480号公報
【特許文献3】特開2007−275089号公報
【特許文献4】特開2000−237757号公報
【特許文献5】特開2005−110552号公報
【特許文献6】特開2002−205073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オゾン水を使用したウイルスの不活化方法では、不活化の効果を上げるために高濃度のオゾンガスを使用すると、溶存オゾン濃度の上昇により貝類が拒絶反応を示して殻を閉ざし、ウイルスを不活化できない。さらに高濃度のオゾンガスを用いると、貝類が死滅してしまい、その貝類の価値が著しく損なわれてしまう。加えて、オゾンの気散により、産業衛生学会許容濃度委員会の示す0.1volppmを下回るための対策も必要である。加えて装置コストも莫大なため、多量の処理には向かないという問題がある。一方で、低濃度のオゾンガスでは、ウイルスの不活化ができないと言う問題がある。
そこで本発明は、低濃度のオゾンにより、貝類の生命活動の維持を図り、かつ、効率的にウイルスを不活化する、貝類の浄化方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、低いオゾン濃度の気泡を用いることで、水中の溶存オゾン濃度の上昇を抑えると共に、正常な貝にオゾン含有ガスの気泡(以下、オゾン含有ガスバブルと言うことがある)を吸い込ませるように、気泡径および曝気量および水流を制御することで貝の体内に存在するウイルスを分解し、不活化できることを見い出した。本発明は、かかる知見を基になされたものである。
【0007】
即ち、本発明の貝類の浄化方法は、オゾン濃度5〜300volppmのオゾン含有ガスを平均気泡径が10mm以下の気泡として水に供給し、前記オゾン含有ガスの水中におけるボイド率を0.01〜5体積%とした水で、貝類を処理することを特徴とする。前記貝類は二枚貝であって、該二枚貝の殻が開く方向と略直交する水流により貝類を処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の貝類の浄化方法によれば、低濃度のオゾンにより、貝類の生命活動の維持を図り、かつ、効率的にウイルスを不活化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の浄化方法について、以下に例を挙げて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。図1は、貝類の浄化システム100を示す模式図である。図1に示すとおり、浄化システム100は、水槽10と、曝気手段20と、水流発生手段40とを有している。
曝気手段20は、供給管22と、該供給管22の先端に設けられた散気部24とで構成されている。散気部24は水槽10に貯えられた水の中に浸漬され、供給管22は図示されないオゾン含有ガス供給装置に接続されている。水流発生手段40は、水槽10内に設けられている。
【0010】
水槽10の材質は特に限定されないが、オゾンの酸化力が強いため、例えば、ガラス、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、チタン、オゾン処理(高濃度オゾンによる強固な酸化皮膜形成)をしたアルミニウムやステンレスを用いることが好ましい。オゾンに対する耐性が低いニトリルゴム、シリコンあるいはウレタン等の材質のものを使用する場合、処理容器の劣化に十分に注意する必要がある。
また、水槽10の大きさは、浄化する貝類の処理数量や、水流発生装置40の能力を勘案して決定することができる。
【0011】
曝気手段20は、平均気泡径が10mm以下の気泡を発生させ、ボイド率を0.01〜5体積%に調整できるものであれば特に限定されず、散気板、散気筒、ディフューザー等を使用することができる。
【0012】
水流発生装置40は、水槽10内の水を用い、浄化対象とする貝類の近傍に水流を発生できるものであれば特に限定されず、例えば、ポンプや、攪拌装置等を挙げることができる。
【0013】
本発明の貝類の浄化方法について、図1を用いて説明する。本発明の貝類の浄化方法は、オゾン濃度5〜300volppmのオゾン含有ガスを平均気泡径が10mm以下の気泡(以下、オゾン含有ガスバブルということがある)として水に供給し、水中における気泡のボイド率を0.01〜5体積%とした水で貝類を処理して、貝類のウイルスを不活化する(浄化処理)ものである。
【0014】
まず、水槽10に任意の量の水を貯え、浄化対象である貝30を入れる。貝30は、二枚の殻が上下となるように、即ち、殻の合わせ部32が、水槽10の底面に対して略平行になるように置かれる。次いで、図示されないオゾン含有ガス供給装置からオゾン含有ガスを供給管22に流通させ、散気部24からオゾン含有ガスバブル26を水中に発生する。そして、水流発生装置40により、水槽底面と略平行な水流Aを発生させる。その後、任意の時間、オゾン含有ガスバブル26を発生させ、貝30の浄化処理を行う。
【0015】
本発明の浄化方法が対象とする貝類は、海水または淡水、汽水のいずれに生息する貝類も対象とすることができる。また、いわゆる巻貝、二枚貝等のいずれであっても良い。
【0016】
オゾン含有ガスを供給する対象となる水槽10内の水は特に限定されず、浄化処理を行う貝の種類等を勘案して選択することができ、海水、人工海水、淡水等を挙げることができる。例えば、海水に生息する貝を浄化する場合には、浄化対象とする貝の生命活動を妨げず、かつ、貝の濾水による浄化作用を利用するためには、無菌海水や人工海水(総じて、海水と言うことがある)または海水を淡水で希釈したものを用いることが好ましい。無菌海水や人工海水を淡水で希釈する場合には、希釈率を0.3以上1未満とすることが好ましい。希釈率は、希釈後の水における海水の割合であって体積比で表される値である。例えば、カキにおいては、塩濃度1〜3.5質量%の水中で生命活動の維持が可能である。一方、海水に比べて淡水の方が、オゾンが溶解し易く、ウイルスの不活化効果が高くなる。従って、海水の希釈率を0.3以上1未満とした水を用いることで、浄化処理中のカキの生命活動の維持と、良好なウイルスの不活化効果とを両立することができる。
【0017】
オゾン含有ガス中のオゾンの発生方法は特に限定されず、電子線、放射線、紫外線等高エネルギーの光を酸素に照射する方法や、化学的方法、電解法、放電法等が挙げられる。工業的には、発生コストや発生量から無声放電法が多く用いられている。オゾンの発生には、市販のオゾン発生器が利用でき、例えば低濃度オゾン発生器として株式会社レイシー製YGR−50(商品名)等が市販されており、高濃度オゾン発生器としてエコデザイン株式会社製ED−OG−PSA1(商品名)等が市販されている。オゾンは自己分解性を持つことから調製後すぐに使用することが望ましい。
オゾンの希釈に用いる希釈ガスとしては、オゾンに対して不活性あるいは反応性に乏しいガスが好ましく、例えば、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、酸素、空気、窒素等を挙げることができる。
【0018】
オゾン含有ガスバブル26として、水に供給されるオゾン含有ガスのオゾン濃度は5〜300volppmであり、より好ましくは、10〜100volppmである。5volppm未満であると、ウイルスに対する不活化の効果が表れにくい。300volppmを超えると、水中のオゾン濃度が高くなりすぎ、貝の生命活動の維持に支障をきたす。具体的には、水中のオゾン濃度が高くなりすぎると、貝が拒絶反応を起こし、殻を閉ざしてしまうことにより、貝内部へのオゾン供給も絶たれ、ウイルスの不活化が困難となる。
【0019】
オゾン含有ガスバブル26は、平均気泡径が10mm以下であり、好ましくは2mm以下である。例えば、正常なカキの場合、殻を20mm程度しか開かないため、平均気泡径が10mmを超える気泡では貝に取り込まれ難い。また、気泡径が大きくなると、浄化処理の際に、気泡がより大きな衝撃を貝に与えるため、防衛反応により殻を閉ざしてしまうため好ましくない。ここで、平均気泡径とは、気泡径の分布において、全気泡の直径の総和を気泡数で除した値である。
【0020】
水中のボイド率(気泡割合)は、0.01〜5体積%であり、好ましくは0.01〜2体積%である。0.01体積%未満であると、水中のオゾン量が不十分なため、ウイルス不活化の効果が得られ難い。5体積%を超えると、貝に接触するオゾン含有ガスバブル26が多くなりすぎ、防衛反応から貝は殻を閉ざしてしまうため好ましくない。なお、ボイド率を1体積%以下とすると、水の白濁が少なく、作業性の向上が図れる。ここで、ボイド率とは、水の体積に対する気泡の体積の割合を示す値であり、体積%で表される。
【0021】
水槽10中の水の流れは特に限定されないが、貝30の二枚の殻が開く方向と略直交する方向、即ち、二枚の殻の合わせ部32に略平行の水流を与えることが好ましい。一般に扁平な形状をしたカキやホタテ、アサリ、ハマグリ等の二枚貝は、体の左右に殻を有している。貝は、合わせ部32を開いてプランクトン等の餌を捕食したり、老廃物を排出している。浄化処理に当たり、最も効果的にオゾンを作用させるには、オゾン含有ガスバブル26を合わせ部32と略平行、即ち、二枚の殻が組み合わさった隙間に向かって、水流を作ることが好ましい。
なお、二枚の殻の開く方向と略直交する方向とは、二枚貝が開いた際に、二枚の殻の間に生じた隙間に、水が流入できる程度の方向を意味する。
【0022】
上述した水流の程度は特に限定されず、浄化処理に用いる容器の大きさや、水量、浄化する貝の数量や種類に応じて、適切な流量を設定することができる。例えば、合わせ部32近傍において、0.05〜1.5m/sの水流が生じていることが好ましく、0.1〜1m/sの水流が生じていることがより好ましい。0.05m/s未満であると、オゾン含有ガスバブル26を貝の中に効率的に取り込ませることができず、浄化処理が不十分、または、浄化処理に要する時間が長くなるため好ましくない。1.5m/sを超える水流では、水流により受ける刺激により貝が殻を閉じてしまうことが多く、オゾン含有ガスバブル26が貝に取り込まれず、浄化処理が不十分となるおそれがある。
【0023】
浄化処理における水のpHは特に限定されないが、pH6.0〜9.0の範囲とすることが好ましく、pH6.5〜8.5の範囲とすることが好ましい。pHが低い環境下では、水中のオゾンの分解が抑制され、ウイルスの不活化効果が高くなる傾向にある。しかし、pH6.0未満であると、貝が生命活動を停止する確率が高くなる。また、pH9.0を超えると、貝が生命活動を停止する確率が高くなり好ましくない。
【0024】
浄化処理における水の温度は特に限定されないが、温度が低いほどオゾンは分解しにくくなるため効果は向上する一方、貝の生命活動は温度が高いほど活発である。よって、水の温度は、好ましくは5〜30℃、さらに好ましくは10〜20℃である。
【0025】
浄化処理を行う時間は特に限定されず、オゾン含有ガスのオゾン濃度や、浄化対象となる貝類の種類等を勘案して決定することができ、例えば、12〜48時間の範囲で決定することが好ましい。
【0026】
浄化処理に用いる水には上述した成分の他、オゾン酸化反応を阻害しない範囲で、殺菌や洗浄およびpH維持や味、風味、鮮度等の機能付与のために、各種pH調整剤、界面活性剤、香料、酵素、蛍光剤、増粘剤、分散剤、無機塩、アルコール類、糖類等が含まれても良い。
【0027】
pH調整剤としては特に限定されず、公知のpH調整剤の中から、目的に応じて適宜選択でき、例えば、下記(1)〜(5)等が挙げられる。
(1)各種陽イオンの水酸化物。例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等。
(2)各種陽イオンの炭酸塩あるいは炭酸。例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等。
(3)各種陽イオンの燐酸塩あるいは燐酸。例えば、燐酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸等。
(4)各種陽イオンのホウ酸塩あるいはホウ酸。
(5)各種陽イオンの有機酸塩あるいは有機酸。例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、酪酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸等。
【0028】
糖類としては特に限定されず、従来公知の糖類の中から、目的に応じて適宜選択でき、例えば、下記(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等。
(2)多糖類。デンプン、セルロース、アガロース、カラギーナン、キチン、ペクチン、キサンタンガム、グアーガム、カードラン等。
【0029】
界面活性剤としては特に限定されず、従来公知の界面活性剤の中から、目的に応じて適宜選択でき、例えば、下記(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、アルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アシルアミドアルキル硫酸、アルキル燐酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、パラフィンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、α−スルホカルボン酸及びそれらのエステル等の水溶性塩、石鹸等のアニオン界面活性剤。
(2)ポリオキシアルキルエーテル、ポリオキシアルキルフェニルエーテル等のエトキシ化ノニオン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グルコシドエステル、シュガーエステル、メチルグルコシドエステル、エチルグルコシドエステル、アルキルポリグルコキシド等の糖系活性剤、アルキルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミド、脂肪酸N−アルキルグルカミド等のアミド系活性剤、アルキルアミンオキサイド等のノニオン界面活性剤。
(3)アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホキシベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルアラニネート等のアミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体、アルキルアミンオキシド等の両性界面活性剤。
(4)アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤。
界面活性剤は1種類のみからなるものでもよいし、複数種を含有することもできる。
【0030】
本発明によれば、オゾン濃度5〜300volppmのオゾン含有ガスを平均気泡径が10mm以下の気泡として水に供給し、かつ、前記オゾン含有ガスの処理水中におけるボイド率を0.01〜5体積%とすることで、貝類に効率的にオゾン含有ガスを取り込ませ、貝類が有するウイルスを効率的に不活化することができる。また、オゾン含有ガス中のオゾン濃度を5〜300volppm、かつボイド率を0.1〜5体積%とすることで、水中のオゾン濃度を浄化の対象となる貝類が生命活動を維持できる環境とすることができる。
【0031】
また、上述の実施形態では、水槽の底面に対して略平行な水流を与えることで、浄化処理に用いる水には、二枚の殻を上下にして水槽中に置かれた貝類に対して、二枚の殻が開く方向と略直交する水流を生じている。これにより、殻の合わせ部から、オゾン含有ガスバブルを効率的に貝類に取り込ませることができ、貝類が有するウイルスの不活化効果を向上させることができる。
【0032】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではない。上述の実施形態では、水槽10に貯えた水にオゾン含有ガスバブル26を発生させ、浄化処理を行っているが、オゾン含有ガスの供給方法はこれに限られず、例えば、図2に示す浄化システム200や、図3に示す浄化システム300により浄化処理を行うことができる。
【0033】
浄化システム200(図2)は、貝30を入れた水槽10とは別の水槽50と、送液手段52とが設けられ、該水槽50には曝気手段20が設けられている。浄化システム200では、水槽50に貯水した水にオゾン含有ガスバブル26を発生させ、該オゾン含有ガスバブル26を含む水を送液手段52で、水流Bとして水槽10に供給する。そして、水槽10内の水を水流Cとして水槽50に送り、オゾン含有ガスバブル26を含む水を水槽10と水槽50との間で循環させる。こうして、水槽10内の水を平均気泡径10mm以下のオゾン含有ガスバブル26がボイド率0.01〜5体積%の水とし、貝類の浄化処理を行うことができる。また、送液手段52により、貝30に対して二枚の殻が開く方向と略直交する水流を与えることができる。
【0034】
また、浄化システム300(図3)は、貝30を入れた水槽10とは別の水槽60と、送液装置62とが設けられ、送液手段62には曝気手段20が設けられている。浄化システム300では、水槽60に貯水された水を送液手段62で水槽10に供給する。この際、送液手段62の流通路の水に、曝気手段20によりオゾン含有ガスバブル26を発生させ、オゾン含有ガスバブル26を含む水を水流Dとして水槽10へ供給する。そして、水槽10内の水を水流Cとして水槽60に送り、オゾン含有ガスバブル26を含む水を水槽10と水槽60との間で循環させる。こうして、水槽10内の水を平均気泡径10mm以下のオゾン含有ガスバブル26がボイド率0.01〜5体積%の水とし、貝類の浄化処理を行うことができる。また、送液手段62により、貝30に対して二枚の殻が開く方向と略直交する水流を与えることができる。
【0035】
また、例えば、水中にオゾン含有ガスを曝気して、上昇するオゾン含有ガスバブルによって、殻の腹縁部を下向きにして吊るした貝類に対して、二枚の殻が開く方向と略直交する水流を与えることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0037】
(測定方法および評価方法)
<オゾン濃度の測定>
ポータブルオゾンモニタ(PG−620MA、荏原実業株式会社製)を使用して、オゾン含有ガス中のオゾン濃度を測定した。
【0038】
<オゾン発生器>
ラボ用オゾン発生器(OZSD−3000A、荏原実業株式会社製)を用い、露点が−50℃以下の空気ガスあるいは酸素ガスを用いた。
【0039】
<平均気泡径の測定>
デジタルカメラ(EOS40D、キャノン株式会社製)により撮影した気泡画像を画像処理ソフト(WinROOF、三谷商事株式会社製)によって測定した。長さの校正は、写真撮影時に同条件でノギスを撮影することで行った。
【0040】
<ボイド率の測定>
ボイド率が0.5体積%未満の場合は、デジタルカメラにより水槽外から水中を撮影し、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事株式会社製)により気泡体積を算出して、ボイド率とした。まず、水槽内に20cm角の黒色のプラスチック平板を浸漬させる。該プラスチック平板は、デジタルカメラ、および、水槽のガラス壁面に平行に設置し、ガラス壁面との距離は1cmとした。この条件で、デジタルカメラにて気泡画像を撮影した。ガラス壁面とプラスチック平板との距離、即ち、奥行きは1cmとしているため、デジタルカメラと気泡との距離に対して、個々の気泡間の奥行きによる距離の差は小さい。ゆえに、デジタルカメラからの距離の違いによる気泡径の測定誤差は無視することができる。
次に、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事株式会社製)により、デジタルカメラで撮影した画像の各気泡径を測定する。直径1cm以下の気泡は、ほぼ球状であるため、二次元の計測結果から、三次元の総気泡体積を算出することができる。また、気泡を撮影した画像内の面積と、奥行き1cmとから、画像内の全体積を求める。そして、前記総気泡体積を前記画像内の全体積で除して、ボイド率を算出した。
【0041】
ボイド率が0.5体積%以上の場合は、1Lメスフラスコに水を採取して質量を測定し、下記式により算出した値を体積%と見なして、ボイド率を算出した。また値は10回の測定値を平均して算出した。
【0042】
ボイド率(%)={1000(g)−水の質量(g)}÷1000(g)×100%・・・(1)
【0043】
<水流の測定>
プロペラ式流速計(VR−201、検出部;VRT−200−20N、株式会社ケネック製)を水槽内のカキの合わせ部近傍に設置し、水流を測定した。
【0044】
<カキの生命活動>
浄化処理開始から2時間毎に、殻の開閉確認を行った。殻を2cm以上開けている場合は、棒による刺激を加えて、生死の判定を行った。生きている場合は、速やかに殻を閉じる。
カキの挙動観察から、浄化処理開始12時間後のカキの生命活動を次の3段階に分類した。状態3の状態が1個以上、あるいは状態2が5個ある場合を「×」、「×」の場合を除いて状態2のカキが2個以上ある場合を「△」とし、それ以外を「○」とした。
状態1:殻を開け(2cm未満)、刺激に応答する
状態2:殻を閉じている
状態3:殻を2cm以上開口し、かつ刺激に応答しない
【0045】
<ウイルスの不活化の評価>
ウイルスの不活化の評価は、浄化処理をしたカキの中腸線を取り出し、該中腸線から、RNA抽出を行い、抽出したRNAを用いて、cDNAを合成した。さらにcDNAを用いてPCR法によりDNA合成を行い、電気泳動によりプライマー由来のバンドの有無で評価した。鮮明なバンドが見られたものを「×」、わずかにバンドが見られたものを「△」とした。バンドが確認できなかったものを「○」とした。そして、「△」または「○」について、ウイルスの不活化ができたと評価した。
【0046】
《RNA抽出》
中腸線からのRNA抽出は、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課通知の公定法「ノロウイルスの検出法」に準じて行った。
試薬キットA:QIAamp Viral RNA Mimi Kit(QIAGEN社製)とエタノール(分子生物学用、和光純薬工業株式会社製)を用いて、以下の手順によりRNA抽出を行った。なお、試薬調製において使用される、エタノール以外の試薬は試薬キットAの構成試薬である。
[試薬調製]
(1) Carrier RNA−Buffer AVLの調製
Carrier RNA310μgにBuffer AVL310μLを添加し、完全に溶解した後、Buffer AVLを加えて全量を560μLとした。
(2) Buffer AW1の調製
19mLのAW1にエタノール25mLを加えて調製した。
(3) Buffer AW2の調製
13mLのAW2にエタノール30mLを加えて調製した。
【0047】
[抽出]
まず、PBS(−)粉末(日水製薬株式会社製)を所定量の純水に希釈し、リン酸緩衝液(PBS)を調製した。浄化処理を終えたカキ5個から取り出した中腸線に、PBSを10倍量添加し、ストマッカーにより粉砕したものをサンプル原液とした。1.5mLのマイクロチューブに、前記サンプル原液140μLと前記Carrier RNA−Buffer AVL560μLとを入れ、ボルテックスミキサで15秒間混合し、10分間室温で静置後、スピンダウンした。エタノール560μLを前記マイクロチューブに加え、ボルテックスミキサで15秒間混合し、10分間室温で静置後、スピンダウンした。前記マイクロチューブ内の混合液から630μLをQIAampスピンカラムに入れた。前記スピンカラムを2mLコレクションチューブにセットし、遠心処理(8100rpm、1分)をした。前記スピンカラムを新たな2mLコレクションチューブにセットし、前記マイクロチューブ内の混合液630μLを入れ、同様に遠心処理をした。
次いで、QIAampスピンカラムにBuffer AW1を500μL添加し、遠心処理(8100rpm、1分)を行った。続いて、QIAampスピンカラムにBuffer AW2を500μL添加し、遠心処理(13200rpm、3分)を行った。
QIAampスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブに移し、遠心処理(13200rpm、1分)を行った。
QIAampスピンカラムを新しい1.5mLコレクションチューブにセットし、AWE60μLを添加し、室温で静置後、遠心処理(8100rpm、1分)を行い、濾液として抽出RNAを得た。
【0048】
《逆転写反応》RT反応:RNAからcDNA合成
試薬キットB:ReverTra Plus(東洋紡績株式会社製)と前記抽出RNAにより反応液を調製した。なお、反応液の調製において使用される、抽出RNA以外の試薬は試薬キットBの構成試薬である。
[反応液の調製]
PCRチューブにRNaseフリー水9μL、ランダムプライマー1μL、RNA抽出物2μLを入れ、65℃の湯浴で5分間インキュベートした後、氷上で急冷した。
続いて、前記PCRチューブに5XRTバッファー4μL、10mM−4dNTP2μL、10U/μL−RNaseインヒビター1μL、ReverTraACE1μLを加えて反応液を調製した。
[cDNA合成]
調製した反応液を、下記条件にてcDNAを合成した。
反応条件:アニーリング30℃10分、逆転写42℃60分、変性85℃5分
使用機器:RC320(株式会社アステック製)
【0049】
《cDNAからのDNA合成》
[サンプル液]
試薬キットC:LightCycler Fast Start DNA Master SYBRGreen I(Roche社製)と、プライマー(F)、プライマー(R)、cDNAによりサンプル液を調製した。なお、サンプル液の調製において使用される、下記(1)〜(3)の試薬は、前記試薬キットCの構成試薬である。
(1)HO バランス
(2)MgCl 2μL
(3)SYBGreenI 2μL
(4)プライマー(F) 0.4μL
Sequence:5’−3’
塩基配列:ACCCGAGCAAGGAACAATGGT
(塩基配列におけるA、T、C、Gはそれぞれアデニン、チミン、シトシン、グアニンを表す。以下同様とする。)
(5)プライマー(R) 0.4μL
Sequence:5’−3’
塩基配列:GAGCAAAGGGCCTAAGGATTGT
(6)逆転写物(cDNA) 2μL
上記内容にて試薬、プライマー、cDNAにてサンプル液を調製した。
(1)〜(6)の合計量は20μLとし、(4)、(5)はサンプル液中それぞれ0.2μmolになるように調製した。
【0050】
得られたサンプル液を下記条件にて、PCR法によりDNAの合成を行い、電気泳動用サンプルを得た。
反応条件:95℃、10分
PCR反応:45サイクル(95℃10秒、63℃10秒、72℃5秒)
使用機器:LightCycler(Roche社製)
【0051】
《電気泳動》
18gのTris baseと、55gのホウ酸と、7.43gのEDTA・2Naとを超純水で溶解して1Lとして、10倍TBEを得、これを泳動バッファーとした。
【0052】
得られた電気泳動用サンプルを2質量%アガロースゲルにて電気泳動(Mupid−2、コスモ・バイオ株式会社製)を行った。電気泳動後、泳動バッファーをバットに入れ、泳動バッファー100mL当たり10mg/mLのエチジウムブロマイド溶液5μLを添加し、電気泳動後の2質量%アガロースゲルを入れて室温で15分間インキュベートして染色した。染色後のゲルはUVトランスイルミネーターを用いプライマー由来の200bpのバンドの有無で判定を行った。
【0053】
<溶存オゾン濃度の測定>
紫外可視吸光光度計(UV557、株式会社日立製作所製)を用い、セル長5cmの石英セルをポリテトラフルオロエチレン板により密閉し、ガスおよび液体が連続的に測定できるように改造した自作機で測定した(検出オゾン濃度の校正は荏原実業製PG−620MAとの比較によって行った)。送液はチューブポンプを用いて測定セル間を80mL/minで循環した。
【0054】
(調製例1)
リン酸緩衝液に、細胞培養により得られたATCCのF−9株のネコカリシウイルスを添加してウイルス懸濁液を調製した。
【0055】
(実施例1〜15、比較例1〜7)
ガラス製水槽(W41cm×D26cm×H28cm)に、20Lの人工海水(マリンアート・ハイ、富田製薬株式会社製、塩濃度約3.5質量%)を調製した。1分間に1L/minの流量で、空気あるいはオゾン含有ガスを曝気した。10mm以下の気泡径を発生する際は、散気管(木下式ガラスボールフィルターG503)を用い、フィルターの目の粗さを変更して調整した。10mmを超える気泡径のオゾン含有ガスの発生には、内径3mmまたは6mmのガラス管を用いてオゾン含有ガスを水槽内に供給して、気泡を発生させた。
1水槽あたりに5個のカキ(岩手県産、殻付真カキ)を殻の合わせ部が、水槽底面と略水平になるように配置し、表1に示した各条件下で浄化処理を12時間行った。この際、4時間毎に、調製例1で調製したウイルス懸濁液10mLをカキの餌(キートセラスグラシリス、田崎真珠株式会社製)と共に与え、カキの中腸線にウイルスを取り込ませた。
浄化処理開始12時間後のカキについて、生命活動、ウイルスの不活化について評価し、その結果を表1に示す。なお、浄化処理中の水槽内の水流については、水槽底面に対し平行方向の水流を発生させながら浄化処理を行った場合を「水平」、水槽底面に対し垂直方向の水流を発生させながら浄化処理を行った場合を「鉛直」と記載した。水流の発生には、コンパクトポンプ600(50Hz用、エーハイム社製)を用いた。なお、浄化処理においては、水槽中の水をコンパクトpHメーターB−212(株式会社堀場製作所製)を用いて、pH8.0〜8.5であることを監視した。また、浄化処理中の水温は20℃とした。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示す通り、本発明の浄化方法を用いた実施例1〜15は、いずれも状態3のカキは見られず、生命活動を維持していた。加えて、実施例1〜15は、いずれもウイルスを不活化できていた。このことから、実施例1〜15では、浄化処理中のカキの生命活動を維持したまま、ウイルスの不活化が図れることが判った。
これに対し、比較例1〜7は、生命活動の総合判定が「×」、あるいは、ウイルスの不活化が「×」であった。
【0058】
実施例5および実施例15と、比較例5および比較例6とを比較すると、オゾン含有ガス中のオゾン濃度の上昇に伴い、カキの生命活動の維持が困難になることが判った。
平均気泡径を10mmとした実施例4と、平均気泡径を2mmとした実施例5と、平均気泡径を20とした比較例2との比較において、実施例5では、全てのカキが状態1であったのに対し、実施例4では状態2のカキが2個見られ、比較例2では全てのカキが状態2であった。このことから、平均粒子径が大きくなると、カキへの衝撃が増し、生命活動の維持に影響することが判った。
【0059】
実施例5と、比較例3との比較において、実施例5では、ウイルスを不活化できたのに対し、比較例3ではウイルスを不活化できなかった。また、実施例5と、比較例4との比較において、実施例5では全てのカキが状態1であったのに対し、比較例4では全てのカキが状態2であった。このことから、適切なボイド率で処理することで、カキの生命活動の維持と、ウイルスの不活化とを両立できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の浄化処理に用いる浄化システムの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の浄化処理に用いる浄化システムの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の浄化処理に用いる浄化システムの一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
100、200、300 浄化システム
10、50、60 水槽
20 曝気手段
30 貝
32 合わせ部
40 水流発生手段
52、62 送液手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾン濃度5〜300volppmのオゾン含有ガスを平均気泡径が10mm以下の気泡として水に供給し、前記オゾン含有ガスの水中におけるボイド率を0.01〜5体積%とした水で、貝類を処理することを特徴とする、貝類の浄化方法。
【請求項2】
前記貝類は二枚貝であって、該二枚貝の殻が開く方向と略直交する水流により貝類を処理することを特徴とする、請求項1に記載の貝類の浄化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−284874(P2009−284874A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143718(P2008−143718)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】