説明

オゾンガス還元触媒担持体の製造方法及び触媒担持体

【課題】従来のセラミック製の基材は、衝撃に対して壊れやすく、さらに開孔を大きくすると一層壊れやすく、一方、ステンレス薄板製の基材は、小さな流路を形成することが難しく、加えて安価に製造できず、また、ハニカム状の構造のため流路が直線的で、触媒物質と反応物質の接触可能性を高くするために、流路を長くする必要があり、構造体を小さくすることが難しいといった問題点があった。
【解決手段】本発明のオゾンガス還元触媒担持体は、1枚の金網からなる素材、又は複数枚の金網を積層した素材を焼結した多孔体を触媒担持体の基材とし、この基材の表面に、白金族金属あるいはその酸化物の触媒物質を分散担持したアルミナ薄層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンガスを還元する触媒担持体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特に自動車の排気ガスの浄化処理に関する酸化触媒あるいは還元触媒の製造の多くは、例えば以下の特許文献1〜4に示すように、ステンレス薄板から成形した、あるいは焼成したセラミックのハニカム構造の触媒体用基材にアルミナを担持体として、これに触媒物質を担持させて、この構造体中に成形した直線的な流路に、反応物質を含む気体を通過させて、酸化あるいは還元を行うことが通例であった。また、オゾンガス還元については、粒状の二酸化マンガンを詰めた触媒筒にオゾンガスを含む気体を通過させることで、還元を行うことが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−237947号公報
【特許文献2】特開2007−223856号公報
【特許文献3】特開2005−254217号公報
【特許文献4】特表2006−411704号公報
【0004】
特許文献1では、金属の表面を粗面化した後、該表面に触媒担持活性を有する微粒子を結着し、超微粒子の触媒物質を担持すること、また、海綿状の金属を用いることが開示されている。
【0005】
特許文献2,4では、シリカが全質量ベースで2.5〜10質量%添加されたシリカ−アルミナ系化合物で、アルミニウムとシリコンの金属アルコキシドからゲル化反応によりゲル化物を作製し、このゲル化物を凍結乾燥して、多孔質構造体を得ることが開示されている。
【0006】
特許文献3、4では、パラジウム、白金、及び/又はロジウムの硝酸塩あるいは塩化物の水溶液あるいは有機溶媒溶液に、酸素イオン伝導と電子伝導の混合伝導酸化物を分散し、該溶媒を蒸発除去した後、600℃以上で加熱処理して窒素酸化物除去用触媒材料を得ることが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜4では、触媒と触媒に接触させて酸化又は還元反応をさせる物質(以下、反応物質)との接触面積の向上に関して、あるいは触媒物質同士の結合を防止したり、微粒子化、均一分散化等に関しては開示されているものの、触媒担持体用基材の改善については何ら考慮されていなかった。
【0008】
すなわち、特許文献1〜4では、反応物質を触媒と接触させる面積はある程度は広いことは把握できるものの、ハニカム構造体に形成する流路が直線的であるため、触媒物質と反応物質の接触可能性を高めて反応効率を上げるために、流路を長くすることが必要で、当該構造体を小さくすることが難しかった。
【0009】
また、特許文献1〜4では、上記のように反応物質が流体中に存在し、かつその流体を一方側から他方側へ通過させるが、セラミック製のハニカム構造体の場合、基本的に剛性に乏しく、非常に脆くて衝撃に弱いといった問題があった。また、ステンレス薄板製のハニカム構造体の場合、流路を一定以上に小さく成形することが難しく、コストも高くなるといった問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする課題は、ハニカム構造に代えて、剛性に優れて、かつ触媒物質と反応物質の接触可能性をより高める触媒担持体用の基材を製造すること、及び触媒物質としての粒状の二酸化マンガンは、砕けやすく、水分を吸収しやすく、水分を吸いすぎると液状化する性質があり、耐久性に問題があるので、これに代わる触媒物質を採用すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、剛性に優れ、かつ経済性に優れた触媒担持体の基材を製造すること、及びオゾンガスの還元に現在一般的に使用される二酸化マンガンに代わる耐久性と効率性に優れた触媒物質の採用と当該触媒物質を担持する触媒担持体の構造を提供すべく、1枚の金網からなる素材、又は複数枚の金網を積層した素材を焼結した多孔体を触媒担持体の基材とし、当該基材の表面に、白金族金属あるいはその酸化物、あるいはそれらの混合物を分散担持させたアルミナ薄層を形成して還元触媒担持体を得ることとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、多孔体の基材を用いることで担持体となるアルミナ薄層の表面積を広く確保できること、気体中に含有される反応物質の量に応じて開孔径をある程度自由に選択できること、金網の枚数によって全体の厚さを柔軟に調整できるといった利点がある。
【0013】
また、焼結した金網を用いることで、拡散結合により板状の多孔体が得られ、切断と曲げ加工が可能で成形の自由度が高く、個々の基材毎に触媒担持量を変化させて、高価な触媒物質の節約を図るといったことも可能となる。
【0014】
したがって、本発明をオゾンガスの還元処理に用いることで、以上の利点の相乗効果として、オゾンガスの処理効率が向上し、さらに経済性に優れることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)(b)は、本発明の効果を確認するための実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のオゾンガス還元触媒担持体の製造方法は、オゾンガスの還元触媒担持体を、1枚の金網からなる素材、又は複数枚の金網を積層した素材を焼結した多孔体を触媒担持体の基材とし、この基材の表面に、白金族金属、その酸化物、あるいはそれらの混合物を分散担持させたアルミナ薄層を形成してオゾンガス還元触媒担持体を得る。触媒物質としては、白金族金属、その酸化物、あるいはそれらの混合物を選択することができるが、触媒物質がパラジウム金属あるいは、その酸化物の単体、あるいはそれらの混合物であれば好適なオゾンガス還元触媒担持体が得られる。
【0017】
そして、本発明のオゾンガス還元触媒担持体の実施に関しては、例えば触媒担持体を必要に応じて複数個使用して、これらそれぞれにオゾンガス含有の気体を通過させて、オゾンガスを効率的に還元する。
【0018】
当該基材の表面に形成するアルミナ薄層については、アルミナゾル溶液に触媒物質となる白金族金属の硝酸塩の粉末を加えた溶液を、予め粗面化した当該基材に塗布するか、当該溶液に当該基材を浸漬して付着させてから、これを600℃から700℃の温度で焼成することにより形成して、オゾンガス還元触媒担持体を製造する。又は、該基材の表面に予め白金族金属の硝酸塩の粉末を加えずにアルミナ薄層を同様に形成してから、白金族金属の硝酸塩溶液に浸漬し、その後にこれを同じく600〜700℃で焼成することにより、オゾンガス還元触媒担持体を製造する。
【0019】
本発明で製造されたオゾンガス還元触媒担持体は、以下のようにして使用される。例えば、複数枚の金網を積層した素材を焼結した多孔体を触媒担持体の基材とし、この基材の表面に白金族金属を触媒物質として分散担持させたアルミナ薄層を形成した触媒担持体を、必要に応じて複数個容器に設置し、この容器にオゾンガスを含有した気体を通過させて、人体に有害なオゾンガスを無害な酸素に還元する。
【0020】
本発明において、焼結した金網を採用した理由は、開孔の自由度が高いためである。例えば、市場で容易に入手できる金網はその開孔が0.005mmから1cm以上まで豊富に存在しており、開孔、剛性、空隙率がそれぞれ相違しており、これらを組み合わせて焼結することで、剛性にも優れた素材となるからである。
【0021】
また、金網を焼結することにより、個々の線材が接する線材と強固に融合し、線材が位置ずれを起こさず、すなわち、応力が加わっても安定した開孔状態を確保できる利点がある。
【0022】
触媒担持体の基材に用いる金網は、例えばステンレス材を主材料とすることが望ましい。この理由は耐食性に優れており、市場性があり入手が容易であるためである。もちろん、ステンレス以外の銅あるいは銅合金製、あるいはニッケル製等の金網でもよいが、混合する他金属は耐食性を考慮した材料とすることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明において、触媒担持体を設置し、気体を通過させる処理に関しては、例えば、反応能力(m3 /hour)をろ過材料量(例えば1リットルなど)で除算したSV値(l/h)を1000〜100000l/hで行うことが望ましい。この理由は、1000l/hより小さいと触媒が過剰となり、その能力を十分に使用することができず、100000l/hより大きいと触媒能力を超えてしまい、還元が十分に行えない可能性が高いためである。
【0024】
また、触媒担持体を設置し、気体をを通過させる処理に関しては、例えば、反応能力(m3 /hour)を面積(m2 )除算したLV値(cm/sec)を10〜200cm/secで行うことが望ましい。この理由は10cm/secより小さいと触媒を十分に機能させてなく触媒能力に対する効率が低くなり、200cm/secより大きいと触媒能力を超えてしまい全量処理が困難となるためである。
【0025】
以下に、本発明のオゾンガスの還元処理方法による効果を確認するために行った実験を説明する。
【実施例1】
【0026】
(製造)
SUS316製の16、20、60、及び30メッシュの各1枚、計4枚の金網を積層し、真空熱処理炉で真空及び加圧下で約1200〜1300℃で金網同士を焼結して、厚さ1.8mm、最小開孔径0.25mm(250μm)、空隙率約60%の多孔体の触媒担持体の基材を得て、直径50mmの円板状に成形した。
【0027】
硝酸パラジウムをアルミナゾル溶液中に加えて、この溶液中に上記の触媒担持用の基材を浸漬し、その後、これを乾燥し、大気雰囲気下、約650℃の温度で焼成した。この結果、該基材の表面にアルミナ薄層を得ると同時にこのアルミナ薄層中に触媒物質であるパラジウム、パラジウム酸化物、あるいはそれらの混合物が分散担持された触媒担持体を製造した。該アルミナ薄層の推定厚さは0.005mm、パラジウム触媒物質粒子径が約10〜20nm、触媒担持量が約1.7g/触媒リットルとなった。
【0028】
(実施)
上記のようにして製造した本発明の触媒担持体について、オゾナイザーで発生させたオゾンガスをそのままの状態で上記の触媒担持体中を通過させて、オゾンガス濃度が5〜60000ppm(w)の範囲で、還元率を測定した。その測定結果を、図1(a)(b)に示す。
【0029】
なお、還元率の測定は、図1(a)では、SV値(l/h)を変化させて、図1(b)では、LV値(cm/sec)を変化させて、各々行った。
【0030】
図1(a)の結果からは、触媒との接触時間の逆数であるSV値を、100000l/h以下とすることで、オゾンガスの90%以上を還元分解可能であることが判明した。また、図1(b)の結果からは、LV値が10〜200cm/secとすることで、オゾンガスの90%以上の還元分解が可能であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の金網からなる素材、又は複数枚の金網を積層した素材を焼結した多孔体を触媒担持体の基材とし、当該基材の表面に、白金族金属あるいはその酸化物、あるいはそれらの混合物を分散担持させたアルミナ薄層を形成することを特徴とするオゾンガス還元触媒担持体の製造方法。
【請求項2】
触媒物質がパラジウム金属あるいは、その酸化物の単体、あるいはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載のオゾンガス還元触媒担持体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載された製造方法により製造される触媒担持体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−230017(P2011−230017A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100190(P2010−100190)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(505038900)ニチダイフィルタ株式会社 (9)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】