説明

オリゴマーの製造方法、オリゴマーおよびそのオリゴマーから得られる導電性ポリマー

【解決手段】本発明のオリゴマーの製造方法は、モノマー、電解質および溶媒からなる電解液中で、遠心力を付加しながらモノマーを電解酸化重合するとともに、オリゴマーとモノマーとを分離することを特徴としている。
【効果】本発明によれば、電解酸化重合可能なモノマーから、導電性ポリマーの原料として好適であり、所望の重合度に制御された均質なオリゴマーを容易に製造できるとともに、オリゴマーと未反応のモノマーとを分離できるオリゴマーの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、電気伝導度が高い優れた導電性ポリマーを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解重合によりオリゴマーを製造する方法に関し、詳しくは、本発明は、電気伝導度の高い導電性ポリマーの原料として好適なオリゴマーを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーは、コンデンサ、電池、センサー、透明電極など、電子産業分野の様々な用途に有用であり、今後も需要の拡大が見込まれる。導電性ポリマーは電解重合により製造できることが知られており、電解重合によりポリマーを製造する技術については、ピロールの電解重合(非特許文献1および2参照)、チオフェンの電解重合(非特許文献3参照)、アニリンの電解重合(特許文献1および非特許文献4参照)などが知られている。
【0003】
これらの技術では、各モノマーを直接電解重合することによって、陽極上にポリマーが生成されるが、モノマー、支持電解質または溶媒の種類によっては、ポリマーが膜状、粉状またはゲル状に析出する場合や溶媒に溶解してしまう場合がある。そして、従来の電解重合法では、モノマーを重合する際の重合度の制御は非常に困難であって、電流、モノマー濃度、温度、液流などの条件を変化させても、所望の重合度のオリゴマーあるいはポリマーを効率よく得ることはできなかった。このため、ポリマーとしてはさらに均一性に優れ、導電性が高く、所望の分子量に制御されたものが求められていた。
【0004】
本発明者はこのような状況に鑑みて鋭意研究した結果、遠心力を付加しながらモノマーを電解酸化重合して、高品質な導電性ポリマーの原料として有用なオリゴマーを製造するともに、得られたオリゴマーと未反応のモノマーとを分離回収することのできるオリゴマーの製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
なお、ピロール、チオフェン、アニリンなどの電解重合可能なモノマーから、化学的に触媒を用いてオリゴマーを得る方法としては、Pd触媒を用いたStille反応による合成法が知られている。
【0006】
また、遠心力を利用しながらモノマーを電解重合する方法について、非特許文献5には、遠心効果を利用してポリピロール膜を重合すると、膜成長速度を変えることができると記載されている。しかしながらこの方法は、遠心場を実験的に発現する程度の試験管スケールであって、肝心の電極面積を抑制せざるを得ない形式である。また、この技術はポリマーの重合析出速度を促進する目的で検討されたものであって、オリゴマーを製造することについては何ら認識されておらず、オリゴマーと未反応のモノマーとを容易に分離できるものでもなく、オリゴマーを工業的に製造する技術を示唆するものではない。
【特許文献1】特開昭60-235831号公報
【非特許文献1】Chem. Abstr., 69112026u (1968)
【非特許文献2】J. Chem. Soc., Chem. Comm., 635 (1979)
【非特許文献3】Mol. Cryst. Liq Cryst., 83,253 (1982)
【非特許文献4】J. Polymer Sci. m Polymer Chem. Ed., 26,1531 (1988)
【非特許文献5】触媒vol. 47, No.3(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、均一性および導電性に優れた高品質の導電性ポリマーの原料として好適に使用できるオリゴマーを製造するとともに、生成したオリゴマーと未反応のモノマーとを分離回収することのできるオリゴマーの製造方法を提供することを課題としている。また本発明は、均一性および導電性に優れた高品質の導電性ポリマーの原料として好適に使用できるオリゴマー、およびそのオリゴマーから得られる高品質の導電性ポリマーを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(9)の発明に関する。
(1).モノマー、電解質および溶媒からなる電解液中で、
遠心力を付加しながらモノマーを電解酸化重合するとともに、オリゴマーとモノマーとを分離することを特徴とするオリゴマーの製造方法。
(2).付加する遠心力が、100G以上10,000G以下であることを特徴とする(1)に記載のオリゴマーの製造方法。
(3).前記モノマーが、ピロール、チオフェン、ベンゼン、アニリン、フランまたはこれらの誘導体であることを特徴とする(1)または(2)に記載のオリゴマーの製造方法。
(4).前記モノマーが、複素環式モノマーであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のオリゴマーの製造方法。
(5).前記複素環式モノマーが、ピロール、チオフェン、またはそれらの3位および/または4位にアルキル基またはアルコキシ基を有するモノマー(ただし、3,4位のアルキル基またはアルコキシ基が結合して環構造を形成していてもよい)であることを特徴とする(4)に記載のオリゴマーの製造方法。
(6).前記溶媒が極性溶媒であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のオリゴマーの製造方法。
(7).前記極性溶媒が、水、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ニトロベンゼン、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、N−置換ピロリドンよりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とす
る(6)に記載のオリゴマーの製造方法。
(8).(1)〜(7)のいずれかに記載のオリゴマーの製造方法により得られることを特徴とするオリゴマー。
(9).(8)に記載のオリゴマーを重合してなることを特徴とする導電性ポリマー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解酸化重合可能なモノマーから、導電性ポリマーの原料として好適であり、所望の重合度に制御された均質なオリゴマーを容易に製造できるとともに、オリゴマーと未反応のモノマーとを分離できるオリゴマーの製造方法を提供することができる。また、本発明のオリゴマーの製造方法では、遠心力を利用しない電解酸化重合と比較して短時間でオリゴマーを製造することができ、オリゴマー製造の収率を著しく向上することができる。さらに、また、本発明によれば、酸化劣化が少なく電気伝導度が高い優れた導電性ポリマーを提供することができる。
【0010】
本発明では、モノマーをポリマーまで直接重合するのではなく、その中間原料としても使用できるオリゴマーを効率的に製造することができる。そして、得られたオリゴマーをポリマー製造の重合原料とすることにより、モノマーからポリマーを直接重合することに比べて、そのポリマーの電気的特性を大幅に改善することもできるし、重合速度の制御などの、モノマーからポリマーを直接重合する場合には発現できない特性を活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明では、モノマーと電解質(ドーパント)と溶媒とからなる電解液中で、遠心力を付加しながら電解酸化重合して、オリゴマーを製造する。
モノマー
モノマーとしては、電解酸化重合の可能なモノマーをいずれも用いることができ、製造するオリゴマーの所望性状および用途を勘案して適宜選択することができるが、たとえば、ピロール、チオフェン、ベンゼン、アニリン、フランおよびこれらの誘導体が好ましく挙げられる。本発明では、モノマーを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。本発明では、これらのうち複素環式モノマーを用いるのが好ましい。複素環式モノマーとしては、置換基を有していてもよいピロール、チオフェン、フランなどが挙げられ、より好ましくは、ピロール、チオフェン、またはそれらのモノマーの3位または4位もしくは3,4位両方の炭素原子に、アルキル基またはアルコキシ基のいずれかが付加したもの(ただし、3,4位のアルキル基またはアルコキシ基が結合して環構造を形成していてもよい)が挙げられる。ここで、3位、4位の炭素原子に結合するアルキル基またはアルコキシ基は、炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜4であるのが望ましい。
【0012】
本発明では、特に、水系溶媒を電解用溶媒に用いることができ、空気中で安定でありドーパントをドーピングしたポリマーとした際に電気伝導度が比較的高くなるモノマーが好適に用いられ、ピロールやチオフェンなどの複素環式モノマーを用いることが好適であるが、用途によってはその限りではない。
【0013】
本発明において、モノマーは、電解液中の濃度が0.001〜10モル/リットルの範囲で用いられるのが好ましく。本発明では、特に、電解液中のモノマーの濃度が0.01モル/リットル〜溶媒への飽和溶解度に近い高濃度の範囲であると、オリゴマー製造の効率がよく、本発明の効果が十分に得られるため好ましい。モノマー濃度が低すぎるとオリゴマーの製造時間がかかりすぎ、モノマー濃度が高すぎると粘性が高くなりかえって分離効率が低下するなどの弊害が生じる場合がある。
電解質
本発明では、電解質(ドーパント)としては、有機酸、無機酸およびこれらの塩、カチオンなどを用いることができる。
【0014】
具体的には、例えば、
ハロゲンアニオン、ClO4-、BF4-、PF6-、SbF6-、SbCl6-、AsF6-、SO42-、HSO4-、CF3SO3-、CH3COO-、HCO3-、C6H5SO3-、CH3C6H5SO3-などの酸や安息香酸、p−ヒドロキシ安息
香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、没食子酸、シュウ酸、9,10-アンソラキノン−1,5-ジスルホン酸、9,10-アンソラキノン-2-スルホン酸、マロン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸やm-キシレンスルホン酸などの酸;
前記酸の塩やイミド塩;
アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、非対称なアルキルアンモニウムイオンなどのカチオン等を用いることができる。
【0015】
本発明において、電解質の使用量、すなわち電解液中の電解質の濃度は、製造するオリゴマーおよびオリゴマーをさらに重合して得られるポリマーの所望の性状などを勘案して適宜決定することができるが、電解液中の電解質の濃度が0.001〜5モル/リットルの範囲で用いられるのが好ましい。
溶媒
本発明において、溶媒としては、モノマーの電解酸化重合に使用可能な溶媒をいずれも用いることができ、モノマーの種類、電解酸化重合の条件、得られたオリゴマーの用途や使用条件などを勘案して選択することができるが、本発明では極性溶媒を用いることが好
ましい。本発明で用いる溶媒としては、具体的には、たとえば、水、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、プ
ロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ニトロベンゼン、エタノール、メタノール、テトラヒドロキシフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせた混合溶媒を用いることができるが限定されるものではなく、オリゴマーを使用する条件などによって選択できる。
【0016】
本発明では、例えば、水、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ニトロベンゼン、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、N-置換ピロリドンよりなる群から選ばれる溶媒を単独で用いるか、または2種以上組み合わせた混合溶媒として用いるのが好ましく、特に複素環式モノマーを用いる場合には、これらの溶媒を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明においては、実用的には、生産性、経済性、環境への負荷等を考慮すると、溶媒が水を含むことが好ましく、水を主体とした溶媒の使用がより好ましい。
電解酸化重合
本発明において、電気酸化重合は、陽極と陰極とを具備し、重合反応中に遠心力を付与できる構造の電解槽を用いて好適に行うことができる。
【0018】
陽極としては、白金、金、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、ジルコニウム、炭素、ネサガラス、ドーピングした導電性高分子、ドーピングしたダイヤモンド膜、それら金属の合金またはそれら金属の酸化物や窒化物などを用いることができるが特に限定されるものではない。またその形状も特に限定されるものではなく、板状のもの、メッシュ状のものやそれらに上記金属や酸化物などをメッキしたものやコーティングしたものなどを用いることができる。
【0019】
陰極としては、白金、金、ニッケル、鉄、鉛、炭素、ステンレス鋼などを用いることができるが特に限定されるものではなく、またその形状も特に限定されるものではない。
電解槽の構造は、陽極面から液側に向かって遠心力を発現できるものが好ましい。連続的にオリゴマーを製造する場合は、中心に回転軸を有して、その回転軸の外側に陽極が配置された構造、好ましくは回転軸表面に陽極面を貼り付けた構造であって、さらに外側に、該陽極面に向かう面に陰極を配置した構造のものが好適に用いられる。電解槽の構造によっては対極の配置は必ずしも陽極に面対していなくても良いが、構造上及び電力原単位上、例えば図1に示すような、円筒型遠心沈降タイプの、遠心分離機を用いた構造の電解槽を好適に用いることができる。
【0020】
電解槽は無隔膜で、陽極側でモノマーが反応し、陰極側で水素ガスが発生するなどの電子授受反応が起こる。また条件によってはオリゴマーの脱ドープが起こる。原料モノマーを含む電解液は、電解槽に設けた電解液供給口から供給されるが、たとえば図1の円筒型遠心沈降タイプの電解槽では、外部の電解液調製槽でモノマー濃度、電解質濃度などを調製した電解液が、電解槽の回転円筒下部付近に設けた電解液供給口(1)から、電解槽内に供給される。電解酸化重合は、遠心力が付加された状態で行われる。電解酸化重合が始まると、陽極面表面で製造されたオリゴマーは、モノマーと遠心分離されて陽極面から離されるため、重合中常にモノマーが陽極面に多く存在するようになる。このため陽極上では、モノマーまたは低分子量のオリゴマーが主体に反応する。生成したオリゴマーは、陽極面から離れて電解槽壁面側に押しやられ、円筒型遠心沈降タイプの電解槽では壁面を上昇して電解槽に設置された上部の壁面側の排出口(5)からオリゴマー主体液として排出されて分取される。得られたオリゴマーは、さらに必要に応じて電解槽外部に設けた遠心
分離機やGPCなどの分離装置にてモノマー主体の低分子量物と分離されて精製される。こ
の外部に設けた分離装置でオリゴマー主体液から分離されたモノマーは、原料モノマーとして再度用いることができる。具体的には、モノマー源として外部の電解液調製槽に戻して、所定の電解質濃度、モノマー濃度の電解液に調製して、電解槽に供給することができる。一方、電解槽に供給された電解液は、電解酸化重合されながら遠心力によりオリゴマーと分離され、モノマー主体液が電解槽内側の陽極面を上昇し電解槽の内軸側排出口(6)から排出される。排出されたモノマー主体液は、オリゴマー主体液から分離されたモノマーと同様に、モノマー源として外部の電解液調製槽に戻し、所定の電解質濃度、モノマー濃度の電解液に調製して、再び電解槽に供給することができる。電解液濃度は、モノマー濃度、電解質濃度を適宜測定して調製される。本発明では、このようにして求めるオリゴマーを連続的に効率的に生産できる。ただし、運転は連続的に行っても、断続的に行っても、バッチ方式で行ってもよい。
【0021】
電解液供給口から供給する液量は、電解槽構造、モノマー種、モノマー濃度、電解質濃度、電流密度、付加する遠心力、対極で発生する水素ガス量、運転温度などに応じて設定し得るものであるが、例えば、円筒型遠心沈降タイプ電解槽の場合、一般に最低の液量は次式
Q=ηvg(ZVe/H)=ηvgA
で決定することができる。ここで、Qは供給量(m3/S)、ηは実際に運転して決められる
補正値、Aは遠心沈降面積、Zは遠心力、vgは終末沈降速度、Veは有効液体積、H は外壁
(陰極)と内壁(陽極)間の距離である。これらの関係は当業者であれば容易に推定できる関係であるが、必ずしもこの形式にこだわらない。それは同時進行する電解反応の影響や陰極で発生する水素ガスの影響、さらには必要に応じて電解槽に供給する不活性ガスの影響なども考慮する必要があるからである。
【0022】
本発明における電解酸化重合は、製造するオリゴマーの種類や用いる溶媒によっても異なるが、反応系にアルゴンや窒素などの不活性ガスを導入しながら行うこともできる。
また、電解酸化重合の温度条件は、電解液の凝固点以上、沸点未満の温度条件で行えばよく、電解液の性状に応じて適宜設定すればよいが、一般には−10℃〜80℃の範囲で行うのが望ましい。たとえば、水または水を主体とした混合溶媒を用いた重合では、0℃以上60℃以下の温度範囲で行うのが好ましい。一般に、電解酸化重合の温度が低すぎると液抵抗が大きく電圧が高くなり、温度が高すぎると副反応が生じやすくなる傾向がある。
【0023】
本発明において、電解酸化重合の反応は、定電流法、定電解法、パルス法のいずれで行ってもよい。
電解酸化重合における電流密度および電圧は、製造するオリゴマーの所望分子量や、用いるモノマー、電解質の種類および濃度、溶媒の種類、温度条件などを勘案して設定することができる。
【0024】
電流密度は、小さくすればより低分子量のものができやすいが、生産時間などに影響を与えるため、過度に小さい電流密度で電解酸化重合反応を行うことは好ましくない。また、電流密度を上げすぎると、電圧も過剰となり電力原単位的に好ましくない。このため、他の条件にもよるが、本発明に係る電解酸化重合では、電流密度は0.05〜50mA/cm2、電圧は1.5〜数10Vの範囲が好ましい。なお、電圧は対極の材質や対極反応
の中身にも大きく左右される。
【0025】
本発明では、電解酸化重合を、遠心力を付加しながら行う。遠心力を付加しながら重合反応を行うことにより、得られるオリゴマーの分子量が制御されるとともに、未反応のモノマーと生成したオリゴマーとが遠心力によって分離される。
【0026】
与える遠心力は、回転軸中心から陽極面までの距離と、回転数と質量によって決まり、実質的には、モノマーとオリゴマーの質量と、溶媒の粘性、溶媒和力などによって決まるが、特に回転軸中心からの距離と回転数(角速度)を規定すればオリゴマーとモノマーの分離状況は概略決定される。すなわち、重力加速度をGとすれば、本発明において陽極面
にかかる好ましい遠心力は100G以上、さらに好ましくは300G以上である。ただし、あまりにも過剰な遠心力を与えると電流分布が不均一になるなどの悪影響を与えるので実用的ではなく、好ましい上限の遠心力は10000Gである。その他の重合条件が同じで
ある場合、陽極に与える遠心力を大きくすれば、より低分子量のオリゴマーを生産でき、遠心力を小さくすれば比較的高分子量のオリゴマーを生産できる。このため本発明では、所望の重合度に制御してオリゴマーを容易に製造することができる。
【0027】
本発明に係るオリゴマーの分子量は、オリゴマーの用途などに応じて適宜制御されていればよく、特に制限されるものではないが、2量体から溶媒に溶解または懸濁しうる分子量までであるのが望ましい。たとえば、オリゴマーを重合してポリマーを作るようなコンデンサに用いるには、重合度が2から10以内の範囲のものが良い。それは重合度が大きいとコンデンサを製造するときの溶媒に溶解しにくく細孔内部に入りにくくなるためである。
【0028】
本発明では、電解酸化重合により生成したオリゴマーは、比重などにより遠心力でモノマーと電解液中で分離されるため、容易に分取することができるが、オリゴマーをさらに高純度に分離したい場合は、分取したオリゴマーを公知の方法で適宜精製すればよく、たとえば、さらに遠心分離を行ってもよく、GPCで分離してもよく、真空蒸留してモノマー
を除去してもよい。
【0029】
このような本発明のオリゴマーの製造方法では、得られるオリゴマーが均質なものであって、しかも遠心力を利用しない電解酸化重合と比較して短時間でオリゴマーを製造することができ、オリゴマー製造の収率を著しく向上することができる。
【0030】
また、このようにして得られたオリゴマーは、導電性ポリマーの原料として好適に使用することができる。
導電性ポリマー
本発明の導電性ポリマーは、上述した本発明のオリゴマーの製造方法で得られたオリゴマーを原料の少なくとも一部として、重合して製造されたポリマーである。
【0031】
導電性ポリマーを得るための重合原料としては、上述した本発明のオリゴマーのみであってもよく、上述した本発明のオリゴマーと、その他のモノマーあるいはオリゴマーとを併用したものであってもよいが、本発明のオリゴマーのみあるいはこれを主体としたものを重合原料とするのが望ましい。
【0032】
オリゴマーの重合は、公知の重合方法で行うことができ、電解酸化重合あるいは化学的重合のいずれで行うこともできるが、電解酸化重合により行うのが好ましい。電解酸化重合は、無遠心下で行ってもよく、遠心下で行ってもよい。
【0033】
本発明の導電性ポリマーは、本発明の均質なオリゴマーを重合して得られるものであるため、モノマーを原料とした通常の重合方法で製造する場合と比較して、低い酸化力(例えばより低電圧)で重合でき、酸化劣化などの欠点が少なく、また、電気伝導度が高く導電性に優れる。
【0034】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
水とエチレングリコールの重量比で70%対30%の混合溶媒中、モノマーとしてピロールの濃度を0.1モル/リットル、支持電解質として9,10-アンソラキノン−1,5-ジスルホン酸の濃度を0.02モル/リットルに調製した電解液を用意した。この電解液を、図
1に示す電解槽に、液面が陰極面を覆うまで充填した。
【0036】
電解槽の回転速度を最初はゆっくりまわしながら、徐々に所定の遠心力が陽極に付加されるように調整し、電解液供給口(1)から電解液を前述の最低液量の計算式で求められる最低液流量の1.2倍の液量を注入し、オリゴマー主体の液を液排出口(5)から、モノマー主体の液を液排出口(6)から、それぞれ排出されるように調整して、連続的に供給、排出を行った。
【0037】
電解槽内で、陽極に付加される遠心力は、50G、100G、300G、500G、2000G、10000Gのそれぞれとした。液排出口(5)から抜き出したオリゴマー主体の液は、外部の遠心分離機で分離して、高分子量のものを採取し、混在するモノマーなどの低分子量のものは電解槽に戻すようにした。ここでは陰極(2)としては、ネット状の鉄電極を電解槽壁面の内側に接して用いた。陽極(3)はチタン板上に白金をメッキしたものを回転円筒(4)の表面中央部に設置して用いた。それぞれ集電は回転円筒上部の回転軸から両極の絶縁が十分保てるようにして外部からブラシを押し付けて通電できるようにして行った。なお、陰極、陽極以外は直接電解液に電流が流れないように絶縁をとった。電解重合は、定電流法で陽極電流密度を0.5mA/cm2として行った。温度は特に制御せ
ずに室温で電解重合を行った。
【0038】
陽極に付加される遠心力を上記のように制御した各回転数での電解重合を、それぞれ5時間継続して、それぞれで製造したオリゴマーを回収し、オリゴマー液をヒドラジン及びアセトンで洗浄した後、溶媒を蒸発させてからオリゴマー生産量を測定した。またGPCに
て分子量分布(重量平均分子量)を測定した。
【0039】
その結果、50Gの条件で得たオリゴマーの生産量は8.7g、平均分子量は475MW
であり、100Gの条件で得たオリゴマーの生産量は19.5g、平均分子量は325MW
であり、300Gの条件で得たオリゴマーの生産量は45.0g、平均分子量は245MW
であり、500Gの条件で得たオリゴマーの生産量は59.5g、平均分子量は170MW
、2000Gの条件で得たオリゴマーの生産量は64.0g、平均分子量は145MWであ
り、10000Gの条件で得たオリゴマーの生産量は37.6g、平均分子量は140MW
であった。
【0040】
さらに得られた各オリゴマーを、別途用意した無回転の電解槽(陽極にはその面積が1cm2の白金板を用いた)にて指示電解質を0.1モル/リットルの(CH34NPF6にして
酸化重合してポリピロール膜を重合した。それを膜だけはがして、電気伝導度を4端子法で測定した。一方、モノマーから直接遠心力を与えない状況で重合した膜も比較のために重合してその電気伝導度を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
この結果より、陽極面に遠心力を付与しながらオリゴマーを製造することにより、得られるオリゴマーの重合度を制御できることが示された。また陽極面に遠心力を付与しながら製造したオリゴマーを重合原料として製造した導電性ポリマーは、電気伝導度が高く高品質であることが示され、特に100〜10000Gの遠心力を陽極面に付与しながら製造したオリゴマーを重合原料として用いた場合に、電気伝導度の高い導電性ポリマーが得られることが示された。
【実施例2】
【0043】
モノマーとして3-メチルチオフェンの濃度を0.1モル/リットル、支持電解質とし
てBu4NBF4の濃度を0.03モル/リットルに調製したニトロベンゼン溶液を電解液とし
て用意した。この電解液を、図1に示す電解槽に、液面が陰極面を覆うまで充填した。
【0044】
電解槽の回転速度を最初はゆっくりまわしながら、徐々に所定の遠心力(10G、10
0G、300G、1000G、1500Gのそれぞれとした)が陽極に付加されるように回転速度を調整し、オリゴマー主体の液を液排出口(5)から、モノマー主体の液を液排出口(6)から、それぞれ排出されるように調整して、連続的に供給、排出を行った。液排出口(5)から抜き出したオリゴマー主体の液は、外部の遠心分離機で分離して、高分子量のものを採取し、混在するモノマーなどの低分子量のものは電解槽に戻すようにした。ここでは陰極(2)としては、ネット状の鉄電極を電解槽壁面の内側に接して用いた。陽極(3)はチタン板上にInとRuをメッキし酸化処理したものを回転円筒(4)の表面に設置して用いた。それぞれ集電は回転円筒上部の回転軸から両極の絶縁が十分保てるようにして行った。電解重合は、定電流法で陽極電流密度を1.0mA/cm2として行った。温度
は特に制御せずに室温で電解重合を行った。
【0045】
陽極に付加される遠心力を上記のように制御した各回転数での電解重合を、それぞれ1時間継続して、それぞれで製造したオリゴマーを回収し、オリゴマー液をヒドラジン及びアセトンで洗浄した後、溶媒を蒸発させてからオリゴマー生産量を測定した。またGPCに
て分子量分布(重量平均分子量)を測定した。
【0046】
その結果、10Gの条件で得たオリゴマーの生産量は7.5g、平均分子量は480MW
であり、100Gの条件で得たオリゴマーの生産量は23.5g、平均分子量は245MW
であり、300Gの条件で得たオリゴマーの生産量は48.9g、平均分子量は230MW
であり、1000Gの条件で得たオリゴマーの生産量は102.5g、平均分子量は19
5MW、1500Gの条件で得たオリゴマーの生産量は19.2g、平均分子量は193MW
であった。
【実施例3】
【0047】
モノマーとしてアニリンの濃度を0.1モル/リットル、支持電解質としてp-トルエンスルホン酸の濃度を0.1モル/リットルに調製した硫酸酸性水溶液を電解液として用意した。この電解液を、図1に示す電解槽に、液面が陰極面を覆うまで充填した。
【0048】
電解槽の回転速度を最初はゆっくりまわしながら、徐々に所定の遠心力(100G、3
00G、1000G、2000Gのそれぞれとした)が陽極に付加されるように回転速度を
調整し、オリゴマー主体の液を液排出口(5)から、モノマー主体の液を液排出口(6)から、それぞれ排出されるように調整して、連続的に供給、排出を行った。液排出口(5)から抜き出したオリゴマー主体の液は、外部の遠心分離機で分離して、高分子量のものを採取し、混在するモノマーなどの低分子量のものは電解槽に戻すようにした。ここでは陰極(2)としては、ネット状のニッケル電極を電解槽壁面の内側に接して用いた。陽極(3)はチタン板上に白金をメッキしたものを回転円筒(4)の表面に設置して用いた。それぞれ集電は回転円筒上部の回転軸から両極の絶縁が十分保てるようにして行った。電解重合は、定電流法で陽極電流密度を2.0mA/cm2として行った。温度は特に制御せ
ずに室温で電解重合を行った。
【0049】
陽極に付加される遠心力を上記のように制御した各回転数での電解重合を、それぞれ1時間継続して、それぞれで製造したオリゴマーを回収した。100Gの条件で得たオリゴ
マーの分子量は330MW、300Gの条件で得たオリゴマーの分子量は270MW、100
0Gの条件で得たオリゴマーの分子量は230MW、2000Gの条件で得たオリゴマーの分子量は185MWであった。さらに得られたオリゴマー液を電解液として、別の電解槽に供給し、遠心力を付加しないで電流密度1.0mA/cm2にて電解重合し、陽極白金板上に
ポリアニリンを得た。それぞれの回転数で合成したオリゴマーから重合したポリアニリンと、アニリンモノマーから直接重合したポリアニリンの電気伝導度をそれぞれ測定した。
【0050】
その結果、モノマーから直接重合したポリアニリンの電気伝導度は13S/cmであった。また100Gの条件で得たオリゴマーから重合したポリアニリンの電気伝導度は29S/
cm、300Gの条件で得たオリゴマーから重合したポリアニリンの電気伝導度は45S/
cm、1000Gの条件で得たオリゴマーから重合したポリアニリンの電気伝導度は56S/cmで、2000Gの条件で得たオリゴマーから重合したポリアニリンの電気伝導度は52S/cmであった。
【実施例4】
【0051】
モノマーとしてピロールの濃度を0.2モル/リットル、支持電解質としてBu4NBF4
濃度を0.03モル/リットルに調製したニトロベンゼン溶液を電解液として用意した。この電解液を、図1に示す電解槽に、液面が陰極面を覆うまで充填し、実施例1と同様な電極を用いて、5000Gの遠心力が陽極に付加されるように回転速度を調整して、バッチ方式で、5.0Vの定電解法で1時間電解重合した。得られたオリゴマーの生産量は15.4gであった。またオリゴマーの分子量は135MWで2量子体が殆どであった。
【0052】
このオリゴマーを重合原料として電解液を調製し、別の電解槽に供給し、遠心力を付加しないで電解重合したところ、電気伝導度が179S/cmのポリマーが得られた。また、オリゴマーの代わりにピロールを重合原料としたことの他は同様に電解液を調製して電解重合したところ、得られたポリマーの電気伝導度は115S/cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、電解槽の模式図を表す。
【符号の説明】
【0054】
(1)電解液供給口
(2)陰極
(3)陽極
(4)回転軸
(5)オリゴマー主体液の出口
(6)モノマー主体液の出口
(7)陰極端子
(8)陽極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー、電解質および溶媒からなる電解液中で、
遠心力を付加しながらモノマーを電解酸化重合するとともに、オリゴマーとモノマーとを分離することを特徴とするオリゴマーの製造方法。
【請求項2】
付加する遠心力が、100G以上10,000G以下であることを特徴とする請求項1に
記載のオリゴマーの製造方法。
【請求項3】
前記モノマーが、ピロール、チオフェン、ベンゼン、アニリン、フランまたはこれらの誘導体であることを特徴とする請求項1または2に記載のオリゴマーの製造方法。
【請求項4】
前記モノマーが、複素環式モノマーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオリゴマーの製造方法。
【請求項5】
前記複素環式モノマーが、ピロール、チオフェン、またはそれらの3位および/または4位にアルキル基またはアルコキシ基を有するモノマー(ただし、3,4位のアルキル基またはアルコキシ基が結合して環構造を形成していてもよい)であることを特徴とする請求項4に記載のオリゴマーの製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が極性溶媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のオリゴマーの製造方法。
【請求項7】
前記極性溶媒が、水、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ニトロベンゼン、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、N−置換ピロリドンよりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求
項6に記載のオリゴマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のオリゴマーの製造方法により得られることを特徴とするオリゴマー。
【請求項9】
請求項8に記載のオリゴマーを重合してなることを特徴とする導電性ポリマー。

【図1】
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【公開番号】特開2007−9029(P2007−9029A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190405(P2005−190405)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】