説明

オリビン型リチウム遷移金属酸化物及びその製造方法

【課題】 オリビン型リチウム遷移金属酸化物からなり、高い放電容量を有する正極活物質を提供する。
【解決手段】 組成がLi(Fe1−yM11−zM2PO(式中x、y、zは、0.9<x<1.3、0≦y≦1、0≦z<0.3であり、M1は、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素であり、M2は、Mo、Mg、Zr、Ti、Al、CeおよびCrからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素である。)であるオリビン型リチウム遷移金属酸化物であって、平均二次粒子径が2μm以上15μm以下でかつ粉体の見かけ密度が、0.5g/cm以上1.7g/cm以下である二次粒子からなり、二次粒子を構成する一次粒子が80nm以下の結晶子径を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを可逆的にドープ及び脱ドープ可能な正極活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるリチウム遷移金属酸化物は、二次電池を構成したときの作用電圧が4Vと高く、また、大きな容量が得られることで知られている。そのため、リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として利用したリチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パソコンおよびデジタルカメラ等の電子機器の電源として多く用いられている。また、近年、環境への配慮から、電気自動車、ハイブリッド自動車などに搭載される大型の二次電池の用途向けにリチウムイオン二次電池の要求が高くなっている。
【0003】
特に、遷移金属としてコバルトを利用したリチウム遷移金属酸化物(コバルト酸リチウム)と比較して安全で安価な正極活物質として、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されるように、3.5V級の電圧をもつオリビン型リチウム鉄酸化物が注目されている。
【0004】
このオリビン型リチウム鉄酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、ポリアニオンを基本骨格とするオリビン型結晶構造を有し、例えば、組成式がLiFePOで表される化合物が知られている。これらの化合物は二次電池の正極活物質として使われた際、充放電に伴う結晶構造変化が少ないためサイクル特性に優れ、また結晶中の酸素原子がリンとの共有結合により安定して存在するため電池が高温環境下に晒された際にも酸素放出の可能性が小さく安全性に優れるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2005/041327号公報
【特許文献2】特開2004−79276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オリビン型リチウム鉄酸化物は、上述したような長所を有する一方、本質的に、電気伝導性が低いことが課題である。そのため、リチウムの結晶内への挿入及び脱離が進行し難く、十分な充放電容量を確保することが困難である。そして、電気伝導性の低さを補うためには、多量の導電剤と共に電極を作製する必要があり、これは電極の体積密度の低下、すなわち体積エネルギー密度の低下を引き起こす原因となる。
【0007】
そこで、電気伝導性の低さを克服する別の手段として、特許文献2に開示されるように、オリビン型リチウム鉄酸化物の粒子の大きさを調整することが挙げられる。
すなわち、結晶へのリチウムの挿入及び脱離がスムーズで良好な充放電特性を有する正極活物質とするため、オリビン型リチウム鉄酸化物の粒子径を小さくすることでLiイオンの拡散速度を上げることができる。
特許文献2に開示されるオリビン型リチウム鉄酸化物の製造方法は、焼成時における粒子成長を抑制して粒子径を小さくするため、オリビン型リチウム鉄酸化物の原料とは別に界面活性剤を添加している。この界面活性剤は、正極活物質の前駆体を液中に微小な粒子(ミセル)として分散させるので、オリビン型リチウム鉄酸化物の粒子径を小さくすることができる。このような界面活性剤として特許文献2に開示されるものとしては、例えば、イソオクチルフェノール(Isooctylphenol)とエチレンオキサイド(Ethylene Oxide)とからなるオクタポール(Octapole、商品名、三洋化成工業株式会社製)といったような材料が挙げられている。
【0008】
しかしながら、上述の材料を分散剤として使った製造方法では、オリビン型リチウム鉄酸化物の粒子径を小さくすることが未だ十分ではないことから、高い放電容量を有する正極を形成することができず、そのような正極活物質を利用した電池の充放電特性も十分なものが得られなかった。
【0009】
そこで、本発明は、正極活物質に用いることができる、リチウムの結晶への挿入及び脱離がスムーズで高い放電容量を有するオリビン型リチウム遷移金属酸化物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物は、組成がLi(Fe1−yM11−zM2PO(式中x、y、zは、0.9<x<1.3、0≦y≦1、0≦z<0.3であり、M1は、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素であり、M2は、Mo、Mg、Zr、Ti、Al、CeおよびCrからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素である。)であるオリビン型リチウム遷移金属酸化物であって、
平均二次粒子径が2μm以上15μm以下でかつ粉体の見かけ密度が、0.5g/cm以上1.7g/cm以下である二次粒子からなり、前記二次粒子を構成する一次粒子が80nm以下の結晶子径を有し、放電容量が100mAh/g以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法は、組成がLi(Fe1−yM11−zM2PO(式中x、y、zは、0.9<x<1.3、0≦y≦1、0≦z<0.3であり、M1は、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素であり、M2は、Mo、Mg、Zr、Ti、Al、CeおよびCrからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素である。)であるオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法において、
(a)リン酸源と、(b)リチウム源と、(c)炭素源と、(d)鉄源または前記金属元素M1、M2の酸化物、リン酸化物もしくは水酸化物と、(e)溶媒と、(f)分散剤とを含有するスラリーを調整する工程と、
前記スラリーに含まれる粒子を粉砕処理する工程と、
前記粉砕処理したスラリーを噴霧乾燥して前駆体とする工程と、
前記前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気のもとで熱処理する工程と、を有し、
前記分散剤として、それぞれ平均分子量が20000以上40000以下であるポリカルボン酸ナトリウム及びポリカルボン酸アンモニウムからなる群から選択された少なくとも一種であるポリカルボン酸塩を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成された本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物によれば、リチウムの結晶への挿入及び脱離がスムーズで高い放電容量を有する正極活物質とすることができ、高い充放電特性を持った電池を構成することが可能になる。
また、本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法によれば、リチウムの結晶への挿入及び脱離がスムーズで高い放電容量を有するオリビン型リチウム遷移金属酸化物を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのオリビン型リチウム遷移金属酸化物およびその製造方法を例示するものであって、本発明は、オリビン型リチウム遷移金属酸化物およびその製造方法を以下に限定するものではない。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、原材料を含むスラリーを調整する工程と、そのスラリーに含まれる粒子を粉砕して乾燥することで前駆体を作製する工程と、その前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気のもとで熱処理する工程とを含むオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法において、スラリーを調整する工程で、特定の範囲の分子量に調整された特定の種類の分散剤(高分子型)を含有させてスラリーを調整することにより、高い放電容量を有する正極活物質を製造できることを見出して、本発明を完成させた。
【0014】
具体的には、本発明に係る実施形態のオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法は、以下の工程を含む。
【0015】
(1)原材料と溶媒と分散剤とを含むスラリーを作製する工程:
本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物の原料は、リン酸源と、リチウム源と、炭素源と、鉄源またはMo、Mg、Zr、Mn、Ti、Co、Ni、Al、Ce、Crからなる群より選択された少なくとも一種の金属元素の酸化物、リン酸化物もしくは水酸化物を含む原料である。
【0016】
原料のリン酸源としては、リン酸化物(II)やリン酸化物(III)を用いることができる。本発明の方法で使用可能なリン酸化物として、例えば、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)、リン酸マンガン(II)、リン酸マンガン(III)、リン酸コバルト(II)を挙げることができる。このうち、リン酸鉄は鉄源としてもはたらく。また、その粒径は、製造工程における作業性を考慮して平均二次粒子径が5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0017】
また、原料のリン酸化物は、不純物を取り除くため、他の原料との混合前に洗浄処理しておくことが好ましい。洗浄処理されたリン酸化物には、分散媒が添加される。この分散媒としては、水、アセトン、エタノールなどの有機溶媒が使用できる。なかでも、取り扱いが容易で安価であることから、水が好ましい。
【0018】
原料のリチウム源としては、リチウムを含有するものであれば如何なる材料でも使用することができる。例えば、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、または水酸化リチウム、並びにこれらの混合物である。これらのうち、取り扱いが容易である点や環境への安全性を配慮すると、炭酸リチウムが好ましい。
【0019】
原料の炭素源としては、グルコース、ショ糖、ラクトースなどの糖類、グリセリン、アスコルビン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの有機化合物が使用できる。これらのうち、取り扱いが容易な点からショ糖が炭素源として好ましい。これらの炭素源は、オリビン型リチウム遷移金属酸化物に導電性を付与する炭素源としてだけでなく、原料中の金属元素を還元するための炭素源としても利用することができる。
本発明の方法で使用可能な鉄源として、例えばリン酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄、シュウ酸鉄等が挙げられる。このうち、リン酸鉄はリン酸源としてもはたらく。
【0020】
本発明において、スラリーに含有させる分散剤として、平均分子量が20000以上40000以下の範囲に調整されたポリカルボン酸塩を用いる。また、そのポリカルボン酸塩は、ポリカルボン酸ナトリウムまたはポリカルボン酸アンモニウムである。
尚、平均分子量が20000以上40000以下の範囲としたのは、以下のような本発明者等が得た知見に基づく。
【0021】
すなわち、分子量が20000未満になると粒子の分散性が低下するため、後の工程で粒子を十分微細化することができなくなり、Liイオンの拡散速度が低下する傾向がある。Liイオンの拡散速度が低下すると充放電特性が悪化する。分子量が20000以上になると、原料の粒子の表面を分散剤の分子が覆い易くなることにより、原料の粒子と粒子が凝集することが抑制されるためより効果的に粉砕ができると考えられるが、分子量が40000を超えると粒子をかえって凝集させてしまうことがある。したがって、特定の範囲の平均分子量を持ったポリカルボン酸塩を用いることにより粉砕が促進されて高い放電容量を実現することができる。
【0022】
また、本発明者等が得た知見では、平均分子量が20000以上40000以下の範囲内において、さらにポリカルボン酸塩の種類により、放電容量を向上させることができる範囲が異なっていることが確認された。
【0023】
具体的には、ポリカルボン酸塩としてポリカルボン酸ナトリウムを選択するときは、より良好な充放電特性を得るために、平均分子量が30000以上40000以下のポリカルボン酸ナトリウムを用いることが好ましい。ポリカルボン酸塩としてポリカルボン酸アンモニウムを選択するときは、より良好な充放電特性を得るために、平均分子量が20000以上30000以下のポリカルボン酸アンモニウムを用いることが好ましく、これにより、より良好な充放電特性が得られる。
【0024】
尚、ポリカルボン酸ナトリウムを分散剤として用いる場合には、オリビン型リチウム遷移金属酸化物にナトリウムが残存しないように注意する必要がある。かかる点を考慮するとポリカルボン酸アンモニウムを用いることが好ましい。
また、分散剤は、スラリーに含まれる原料に対して1重量%以上10重量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0025】
以上挙げた原料の中から適切な原料を選択し、目的とするオリビン型リチウム遷移金属酸化物の組成の化学量論比となるように、各原料を秤量した後、リン酸化物と分散媒に、さらに、リチウム源と、炭素源と、Mo、Mg、Zr、Mn、Ti、Co、Ni、Al、Ce、Crからなる群より選択された少なくとも一種の金属元素の酸化物、リン酸化物または水酸化物と、ポリカルボン酸塩を材料とする分散剤とを含有させてスラリーとする。
【0026】
(2)スラリーに含まれる原料粒子を粉砕して微細化する工程
スラリーに含まれる上述の原料は、原料によって粒径や粒度分布が異なる粒子状の原料として供給されるので、原料粒子を目的の特性が得られるように細かく粉砕して混合する。
混合粉砕の方法として、湿式粉砕混合又は乾式粉砕混合のいずれの方法を選択してもよい。湿式粉砕混合とは、粉砕する目的物を分散媒(例えば、水)に入れ1mm前後のメディアを使用しローラー台で回すことによる粉砕方法であり、乾式粉砕混合より細かく粉砕できることができる利点がある。
【0027】
(3)混合粉砕したスラリーを噴霧乾燥して前駆体とする工程
原料粒子が混合粉砕されたスラリーを、シャワー状に噴霧してこの噴霧されたスラリーに熱風を吹きつけることにより乾燥する(噴霧乾燥)。これにより、一次粒子の集合体である二次粒子(ほぼ球形)を前駆体として作製する。
【0028】
(4)前駆体を焼成する工程
本工程では、前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気の下で焼成する。不活性雰囲気または還元雰囲気は、窒素あるいは、水素またはアンモニアを含む還元雰囲気であることが好ましく、水素および窒素を含む雰囲気であることが、より好ましい。焼成温度は、500℃以上800℃以下が好ましく、より好ましくは、600℃以上700℃以下である。
【0029】
以上のような製造方法により製造されたオリビン型リチウム遷移金属酸化物は、平均二次粒子径が2μm以上15μm以下であって、粉体の見かけ密度が、0.5g/cm以上1.7g/cm以下である二次粒子からなり、その二次粒子を構成する一次粒子がさらに80nm以下の結晶子径を有するという特有の構成を備えている。
【0030】
以下、本発明に係る実施形態の製造方法により作製されたオリビン型リチウム遷移金属酸化物について詳述する。
本発明において、オリビン型リチウム遷移金属酸化物の組成は、Li(Fe1−yM11−zM2PO(式中x、y、zは、0.9<x<1.3、0≦y≦1、0≦z<0.3であり、M1は、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素であり、M2は、Mo、Mg、Zr、Ti、Al、Ce、Cr、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素である。)である。
【0031】
ここで、xが0.9より小さいと、電池の理論容量が低下する虞があるので、0.9より大きいことが好ましい。また、xが1.3より大きいと、不純物の量が増えることにより、電池特性が低下する虞があるので1.3より小さいことが好ましい。また、xおよびzのより好ましい範囲は、1.0<x<1.1、0≦z<0.1である。金属元素M2がZn、Mo、Mg、Alの場合は、それらの金属元素の酸化物または水酸化物の固溶時にLiの挿出ができないことから、zが0.1より大きいと、電池の理論容量が低下する虞があるので、0≦z<0.1とすることが、より好ましい。
【0032】
本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物の結晶子径は80nm以下である。結晶子径が80nmを超える場合、充放電容量が小さくなる虞がある。オリビン型リチウム遷移金属酸化物の結晶子径が30nmより下回る場合も同様に特性が悪化する虞がある。この結晶子径のより好ましい範囲は、30nm以上55nm以下であり、最も好ましくは、30nm以上40nm以下である。
【0033】
また、本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物の平均二次粒子径は、2μm以上15μm以下である。平均二次粒子径が2μm未満であったり、15μmを越えたりする場合は、正極活物質をリチウムイオン二次電池の極板に塗布する際に、その作業性が悪化する虞がある。さらに15μmを越える場合、充填密度が低下する虞がある。より好ましくは、オリビン型リチウム遷移金属酸化物の平均二次粒子径が、4μm以上7μm以下である。
【0034】
本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物の炭素含有量は、0.2重量%以上10重量%以下であり、二次粒子の内部や表面に存在することが好ましい。炭素含有量が0.2重量%未満の場合、電気抵抗が大きくなる。また、炭素含有量が10重量%を超える場合、重量当たりの放電容量が小さくなる。好ましくは、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0035】
(オリビン型リチウム遷移金属酸化物の物性の測定方法)
本明細書におけるオリビン型リチウム遷移金属酸化物の物性は、以下の方法によって測定したものである。
結晶子径は、特定の回折角(面)のピーク高さと半価幅(FWHM:Full Width Half Maximum)より、いわゆるシェラー(Scherrer)の式を用いて、不均一歪みはないとの仮定のもとに結晶子の平均的なサイズを求める。
【0036】
なお、オリビン粒子のX線回折プロファイルは、非常に多数のピークを示すが、結晶子を求めるピークとしては、例えば、格子面(031)面起因のピークが適当である。このピークの場合、他のピークから距離があるので、他のピークからの干渉を受けにくく正確な値が得られるからである。
【0037】
平均二次粒子径は、特に形態におけるオリビン型リチウム遷移金属酸化物の平均二次粒子径は、レーザー回折法で測定したメディアン径(d50)の値である。
放電容量は、定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流(0.1C)で放電したときの値である。
粉体密度(見かけ密度)は、粉末を一定容積の容器内に入る粉末の量を測定し、単位体積当たりの重量を測定することで算出する。
【0038】
(ポリカルボン酸塩の平均分子量)
本発明において、ポリカルボン酸塩の平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール(PEG)換算重量平均分子量のことである。
【0039】
以上のように、本発明に係る製造方法によって作製された、平均二次粒子径が2μm以上15μm以下であって、粉体の見かけ密度が、0.5g/cm以上1.7g/cm以下である二次粒子からなり、その二次粒子を構成する一次粒子がさらに80nm以下の結晶子径を有し、放電容量が100mAh/g以上であるという特有の構成を備えた本発明に係るオリビン型リチウム遷移金属酸化物によれば、高い放電容量を有する正極を形成することが可能になり、高い充放電特性を持った電池が構成できるようになる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0041】
<実施例1>
リン酸化物としてMn(PO:167.9g(Mnとして1.42mol)と、リン酸源ともなるリチウム源としてリン酸リチウム(LiPO):60.0g(Liとして1.49mol)と、炭素源としてショ糖:25.4g(1gのMnに対して0.325g)と、分散媒として純水1700mlと、分散剤として平均分子量が20000〜30000のポリカルボン酸アンモニウム3.9g(2重量%)と、を混合しスラリーとする。そのスラリーを容量が5000mlのボールミルにいれ、アルミナボールを用いて、40時間粉砕処理して微細化する。
【0042】
粉砕処理したスラリーを、噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、前駆体を得る。その後、その前駆体窒素ガス雰囲気下、700℃にて10時間焼成し、焼成物を得る。
【0043】
得られた焼成物の相同定を、X線回折装置を用いて行った。X線としては、CuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いた。分析した結果、オリビン型リチウム遷移金属酸化物が確認され、また不純物のピークは見られなかった。得られた焼成物は、組成がLiMnPOであり、結晶子径が397Å(39.7nm)、炭素含有量が2.8重量%、平均二次粒子径が5.4μmであった。放電容量が110mAh/gであった。粉体密度(見かけ密度)が、0.60g/cmであった。
【0044】
<実施例2>
リン酸化物としてMn(PO:167.9g(Mnとして1.42mol)と、リチウム源としてリン酸リチウム(LiPO):60.0g(Liとして1.49mol)と、炭素源としてショ糖:25.4g(1gのMnに対して0.325g)と、分散媒として純水1700mlと、分散剤として平均分子量が30000〜40000のポリカルボン酸アンモニウム3.9g(2重量%)と、を混合しスラリーとする。そのスラリーを容量が5000mlのボールミルにいれ、アルミナボールを用いて、40時間粉砕処理して微細化する。
【0045】
粉砕処理したスラリーを、噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、前駆体を得る。その後、その前駆体を窒素ガス雰囲気下、700℃にて10時間焼成し、焼成物を得る。
得られた焼成物の相同定を、X線回折装置を用いて行った。X線としては、CuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いて分析した結果、オリビン型リチウム遷移金属酸化物が確認され、また不純物のピークは見られなかった。得られた焼成物は、組成がLiMnPO、結晶子径が422Å(42.2nm)、炭素含有量が2.8重量%、平均二次粒子径が6.2μmであった。放電容量が105mAh/gであった。粉体密度が、0.74g/cmであった。
【0046】
<実施例3>
リン酸化物としてMn(PO:167.9g(Mnとして1.42mol)と、リチウム源としてリン酸リチウム(LiPO):60.0g(Liとして1.49mol)と、炭素源としてショ糖:25.4g(1gのMnに対し0.325g)と、分散媒として純水1700mlと、分散剤として分子量が20000〜30000のポリカルボン酸ナトリウム3.9g(2重量%)と、を混合しスラリーとする。そのスラリーを容量が5000mlのボールミルにいれ、アルミナボールを用いて、40時間粉砕処理して微細化する。
【0047】
粉砕処理したスラリーを、噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、前駆体を得る。その後、その前駆体を窒素ガス雰囲気下、700℃にて10時間焼成し、焼成物を得る。
【0048】
得られた焼成物の相同定を、X線回折装置を用いて行った。X線としては、CuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いて分析した結果、オリビン型リチウム遷移金属酸化物が確認され、また不純物のピークは見られなかった。得られた焼成物は、組成がLiMnPO、結晶子径が433Å(43.3nm)、炭素含有量が2.5重量%、平均二次粒子径が5.5μmであった。放電容量が102mAh/gであった。粉体密度が、0.58g/cmであった。
【0049】
<実施例4>
リン酸化物としてMn(PO:167.9g(Mnとして1.42mol)と、リチウム源としてリン酸リチウム(LiPO):60.0g(Liとして1.49mol)と、炭素源としてショ糖:25.4g(1gのMnに対して0.325g)と、分散媒として純水1700mlと、分散剤として分子量が30000〜40000のポリカルボン酸ナトリウム3.9g(2重量%)と、を混合しスラリーとする。そのスラリーを容量が5000mlのボールミルにいれ、アルミナボールを用いて、40時間粉砕処理して微細化する。
【0050】
粉砕処理したスラリーを、噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、前駆体を得る。その後、その前駆体を窒素ガス雰囲気下、700℃にて10時間焼成し、焼成物を得る。
【0051】
得られた焼成物の相同定を、X線回折装置を用いて行った。X線としては、CuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いて分析した結果、オリビン型リチウム遷移金属酸化物が確認され、また不純物のピークは見られなかった。得られた焼成物は、組成がLiMnPO、結晶子径が387Å(38.7nm)、炭素含有量が2.4重量%、平均二次粒子径が6.1μmであった。放電容量が117mAh/gであった。粉体密度が、0.64g/cmであった。
【0052】
<比較例1>
分散剤を添加しない他は、実施例1と同様に、焼成物を得る。
得られた焼成物の相同定を、X線回折装置を用いて行った。X線としては、CuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いて分析した結果、オリビン型リチウム遷移金属酸化物が確認され、また不純物のピークは見られなかった。得られた焼成物は、組成がLiMnPO、結晶子径が432Å(43.2nm)、炭素含有量が2.6重量%、平均二次粒子径が4.8μmであった。放電容量が92mAh/gであった。粉体密度が、0.55g/cmであった。
【0053】
<比較例2>
リン酸化物としてMn(PO:167.9g(Mnとして1.42mol)と、リチウム源としてリン酸リチウム(LiPO):60.0g(Liとして1.49mol)と、炭素源としてショ糖:25.4g(1gのMnに対して0.325g)と、分散媒として純水1700mlと、分散剤として分子量が20000以下のポリカルボン酸アンモニウム3.9g(2重量%)とを混合しスラリーとする。そのスラリーを容量が5000mlのボールミルにいれ、アルミナボールを用いて、40時間粉砕処理して微細化する。
【0054】
粉砕処理したスラリーを、噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、前駆体を得る。その後、その前駆体を窒素ガス雰囲気下、700℃にて10時間焼成し、焼成物を得る。
【0055】
X線回折装置を用いて、得られた焼成物の相同定を行った。X線としては、CuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いて分析した結果、オリビン型リチウム遷移金属酸化物が確認され、また不純物のピークは見られなかった。得られた焼成物は、組成がLiMnPO、結晶子径が421Å(42.1nm)、炭素含有量が2.6重量%、平均二次粒子径が5.4μmであった。放電容量が96mAh/gであった。粉体密度が、0.48g/cmであった。
以下の[表1]は、実施例1から4および比較例1から2についての測定結果を示す。
【0056】
表1.

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の正極活物質または本発明の製造方法により得られる正極活物質は、二次電池の正極活物質として、例えば、携帯電話を含む各種携帯機器の他、電気自動車、ハイブリッド電気自動車への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成がLi(Fe1−yM11−zM2PO(式中x、y、zは、0.9<x<1.3、0≦y≦1、0≦z<0.3であり、M1は、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素であり、M2は、Mo、Mg、Zr、Ti、Al、CeおよびCrからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素である。)であるオリビン型リチウム遷移金属酸化物であって、
平均二次粒子径が2μm以上15μm以下であり、粉体の見かけ密度が、0.5g/cm以上1.7g/cm以下であり、かつ、前記二次粒子を構成する一次粒子が80nm以下の結晶子径を有し、放電容量が100mAh/g以上であることを特徴とするオリビン型リチウム遷移金属酸化物。
【請求項2】
組成がLi(Fe1−yM11−zM2PO(式中x、y、zは、0.9<x<1.3、0≦y≦1、0≦z<0.3であり、M1は、Mn、CoおよびNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素であり、M2は、Mo、Mg、Zr、Ti、Al、CeおよびCrからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素である。)であるオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法において、
(a)リン酸源と、(b)リチウム源と、(c)炭素源と、(d)鉄源または前記金属元素M1、M2の酸化物、リン酸化物もしくは水酸化物と、(e)溶媒と、(f)分散剤とを含有するスラリーを調整する工程と、
前記スラリーに含まれる粒子を粉砕処理する工程と、
前記粉砕処理したスラリーを噴霧乾燥して前駆体とする工程と、
前記前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気のもとで熱処理する工程と、を有し、
前記分散剤として、それぞれ平均分子量が20000以上40000以下であるポリカルボン酸ナトリウム及びポリカルボン酸アンモニウムからなる群から選択された少なくとも一種であるポリカルボン酸塩を用いることを特徴とするオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸塩は、平均分子量が20000以上30000以下のポリカルボン酸アンモニウムである請求項2に記載のオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸塩は、平均分子量が30000以上40000以下のポリカルボン酸ナトリウムである請求項2に記載のオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の温度は、500℃以上800℃以下である請求項2〜4のうちのいずれか1つに記載のオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記分散剤が、前記スラリーに含まれる原料に対して1重量%以上10重量%以下の割合で添加される請求項2〜5のうちのいずれか1つに記載のオリビン型リチウム遷移金属酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2013−32257(P2013−32257A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240834(P2011−240834)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】