説明

オリビン構造を有するリン酸リチウム鉄及びその分析方法

下記の式(I)
[化1]
Li1+aFe1−x(PO4−b)X (I)
により表され、式中、M、X、a、x及びbが上に規定した通りである組成を有し、0.1〜5重量%のLiPOを含んでなり、LiCOを含まないか、または存在する場合、LiCOを0.25重量%未満の量で含んでなるオリビン型リン酸リチウム鉄を提供する。
このリン酸リチウム鉄は、炭酸リチウム(LiCO)を含まないか、または存在する場合、極めて少量のLiCOを含んでなり、優れた電気化学的安定性、熱安定性及びイオン伝導性を有するLiPOを含んでなり、従って、リチウム二次バッテリー用のカソード活性材料として使用した場合に、有利なことに、高温及び貯蔵安定性ならびに安定性及び速度特性をリチウム二次バッテリーに与える。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、オリビン構造を有するリン酸リチウム鉄及びその分析方法に関する。より詳しくは、本発明は、式Iの組成を有し、LiPO及び/またはLiCOを含んでなるオリビン型リン酸リチウム鉄に関する。
【発明の背景】
【0002】
可動装置の技術的開発及び需要増加により、エネルギー供給源として二次バッテリーの需要が急速に増加している。これら二次バッテリーの中で、エネルギー密度及び電圧が高く、耐用寿命が長く、自己放電が低いリチウム二次バッテリーが市販され、広く使用されている。
【0003】
リチウム二次バッテリーは、一般的にアノード活性材料として炭素材料を使用する。また、アノード活性材料として、リチウム金属、硫黄化合物、ケイ素化合物、スズ化合物、等の使用が考えられている。一方、リチウム二次バッテリーは、カソード活性材料として、一般的にリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を使用する。また、カソード活性材料として、リチウム−マンガン複合酸化物、例えば層状結晶構造を有するLiMnO及びスピネル結晶構造を有するLiMn、及びリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、の使用も考えられている。
【0004】
LiCoOは、優れた物理的特性、例えばサイクル寿命、のために現在使用されているが、安定性が低く、コバルトを使用するためにコストが高く、天然資源の制限及び電気自動車用電力供給源としての大量使用に制限があるのが難点である。LiNiOは、その製造方法に関連する多くの特徴により、妥当なコストにおける大量生産に実使用するには不適等である。リチウムマンガン酸化物、例えばLiMnO及びLiMn、には、サイクル寿命が短いという欠点がある。
【0005】
近年、カソード活性材料としてリチウム遷移金属リン酸塩を使用する方法が研究されている。リチウム遷移金属リン酸塩は、大きくNASICON構造を有するLixM(PO)及びオリビン構造を有するLiMPOに分類され、従来のLiCoOと比較して、優れた高温安定性を示すことが分かっている。今日まで、Li(PO)が、最も広く知られているNASICON構造化合物であり、LiFePO及びLi(Mn、Fe) POが最も広く知られているオリビン構造化合物である。
【0006】
オリビン構造化合物の中で、LiFePOは、リチウムと比較して、3.5Vの高い電圧及び3.6g/cmの高いかさ密度を有し、170mAh/gの高い理論的容量を有し、コバルト(Co) と比較して優れた高温安定性を示し、安価なFeを使用するので、リチウム二次バッテリー用のカソード活性材料として非常に適している。
【0007】
しかし、LiFePOは、導電率が低く、従って、カソード活性材料として使用した場合に、バッテリーの内部抵抗の増加を引き起こすので不利である。この増加は、電気回路が閉じた時に分極電位の増加、従って、バッテリー容量の低下にもつながる。
【0008】
これに関して、日本国特許出願公開第2001-110414号明細書、等を包含する先行技術は、オリビン型金属リン酸塩に導電性材料を配合して導電率を改良することを開示している。
【0009】
しかし、LiFePOは、一般的にリチウム供給源としてLiCOまたはLiOHを使用し、固相方法または水熱方法により製造する。これらの方法には、導電性を改良するために加えるリチウム及び炭素供給源のために、焼成の際に大量のLiCOが生成するという欠点がある。
【0010】
そのようなLiCOは、充電により分解するか、または電解溶液と反応してCOガスを発生することがあり、貯蔵またはサイクル中に過剰量のガスを発生するので不利である。このために、不利なことに、膨潤現象及び高温安定性の低下も引き起こす。
【0011】
そのため、最小量のLiCOを含み、優れた導電性を示すリン酸リチウム鉄、例えば、LiFePOの必要性が高まっている。
【発明の概要】
【0012】
従って、本発明は、上記の問題及び他の未解決の技術的問題を解決するためになされたものである。
【0013】
上記の問題を解決するための、様々な広範囲で集中的な研究及び実験の結果、本発明者らは、LiPO及び最小量のLiCOを含むオリビン結晶構造を有するリン酸リチウム鉄が、膨潤現象を低減させ、従って、高温安定性のみならず、イオン伝導性が高いために、速度特性も改良することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
【0014】
本発明の上記の、及び他の目的、特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら記載する下記の詳細な説明により、より深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実験例2におけるLiPOの存在を確認するための例で調製したLiFePOのCoX線分析結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実験例1で例1、比較例1及び純粋LiPOに対して添加したHClの量とpH変化の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、実験例1における例1及び比較例1のバッテリーに対する、C-速度増加と容量維持の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、実験例3における例1及び比較例1のバッテリーに対する、サイクル増加と放電容量の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例3における例1及び4及び比較例1のバッテリーに対する、高温貯蔵特性を示すグラフである。
【好ましい実施態様の詳細な説明】
【0016】
1.オリビン型リン酸リチウム鉄
本発明の一態様により、上記及び他の目的は、下記の式I
[化1]
Li1+aFe1−x(PO4−b)X (I)
式中、
MはAl、Mg、Ti及びそれらの組合せから選択され、
XはF、S、N及びそれらの組合せから選択され、
-0.5≦a≦+0.5、
0≦x≦0.5、及び
0≦b≦0.1
により表される組成を有し、該化合物の総重量に対して0.1〜5重量%のLiPOを含んでなり、LiCOを含まないか、または存在する場合、LiCOを0.25重量%未満の量で含んでなるオリビン型リン酸リチウム鉄を提供することにより、達成することができる。
【0017】
このリン酸リチウム鉄は、極めて少量の炭酸リチウムを含んでなり、従って、ガス発生を低減させ、優れた高温及び貯蔵安定性を示す。さらに、このリン酸リチウム鉄は、電気化学的安定性、熱安定性及びイオン伝導性が非常に優れたLiPOを含んでなり、従って有利なことに、リチウム二次バッテリー用のカソード活性材料として使用した時に優れた速度特性を示す。リン酸リチウム鉄中にLiPOを配合することにより、導電性を改良するという考え自体は、新規である。
【0018】
上に記載したように、LiCOは、導電性を改良するために添加した炭素材料とリチウムイオンの反応により形成されるか、または未反応残留リチウム前駆物質である場合がある。LiCOの含有量は、できるだけ小さい方が好ましい。特に、膨潤現象は、LiCOが0.25重量%以上の量で存在する場合に増加することがある。従って、LiCOは、0.25重量%未満、より好ましくは0.1重量%以下の量で存在するのが好ましい。
【0019】
一方、LiPOは、非常に優れた電気化学的安定性及び優れた熱安定性を示す。従って、LiPOは、バッテリー中に副反応を誘発し、その充電/放電特性を損なうことなく、オリビン型リン酸リチウム鉄の高温安定性を改良することができる。さらに、LiPOは、イオン伝導性を改良し、それによって、オリビン型リン酸リチウム鉄の低い導電性を補償し、速度特性を改良することができるので有利である。LiPOが5重量%を超える量で存在する場合、同等の規格下でバッテリー容量が低下し、不利である。従って、LiPOは、0.1〜5重量%の量で存在する必要がある。
【0020】
LiPOは、別に添加するか、または超臨界水熱方法によりリン酸リチウム鉄を製造する工程中で形成することができる。
【0021】
本発明により、適切な量のLiPO及び/またはLiCOを含んでなるオリビン型リン酸リチウム鉄は、pHが8.5〜11.5、より好ましくは10.0〜11.5である。
【0022】
好ましい実施態様では、LiPO及びLiCOの含有量は、pH滴定により測定することができる。
【0023】
より詳しくは、LiPO及びLiCOの含有量は、試料10gを蒸留水100mlと混合し、続いて5分間攪拌し、濾過し、酸、例えばHCl、で滴定することにより、測定することができる。
【0024】
この溶液(100ml)は、試料中にあるLiPO及びLiCOの実質的に全てを含む。あるいは、この溶液は、試料(10g)に浸漬及びデカンテーションを繰り返し行うことにより、調製することができる。この場合は、試料を加える総時間のようなファクターにあまり左右されない。
【0025】
当業者には明らかなように、滴定に使用する酸の種類、濃度、pHレベル、等は、必要に応じて、適宜変えることができる。これらの変化は、本発明の範囲内に入ると解釈すべきである。
【0026】
LiCO及びLiPOの大部分は、オリビン型リン酸リチウム鉄粒子の表面上にあるのが好ましい。これは、LiPOが粒子の表面上にある場合、LiPOは、イオン伝導性を効率的に改良でき、一方、LiCOがオリビン型リン酸リチウム鉄粒子の中に存在する場合、これらの粒子を除去するのが困難であるためである。一方、オリビン型リン酸リチウム鉄は、下記の式I
[化2]
Li1+aFe1−x(PO4−b)X (I)
式中、MはAl、Mg、Ni、Co、Mn、Ti、Ga、Cu、V、Nb、Zr、Ce、In、Zn、Y及びそれらの組合せから選択され、
XはF、S、N及びそれらの組合せから選択され、
-0.5≦a≦+0.5、0≦x≦0.5、0≦b≦0.1
の組成を有する。
【0027】
式Iで、a、b及びxが、上に規定する範囲の外にある場合、導電性、容量及び速度特性が悪くなるか、またはリン酸リチウム鉄がそのオリビン構造を失うことがある。
【0028】
式Iで、xはゼロでよく、金属元素Mは、Li1+aFePOにより表される、所望により使用する元素である。リン酸リチウム鉄がMを含む場合、有利なことに、オリビン結晶構造の安定性が高くなり、それによって、導電性が改良される。しかし、Mが0.5以上の量で存在することは、容量の低下を招くことがあるので、好ましくない。
【0029】
リン酸リチウム鉄の好ましい例には、LiFePO、Li(Fe、Mn)PO、Li(Fe、Co)PO、Li(Fe、Ni)PO、等、が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0030】
場合により、導電性を増加させるために、リン酸リチウム鉄を、炭素、貴金属、金属、導電性重合体及びそれらの組合せから選択された導電性材料で被覆することができる。特に、炭素で被覆したリン酸リチウム鉄は、製造コスト及び重量を大きく増加させることなく、導電性を効果的に改良することができるので有利である。
【0031】
さらに、オリビン型リン酸リチウム鉄の形状には、特に制限は無い。好ましくは、オリビン型リン酸リチウム鉄は、タップ密度の観点から、球形状を有することができる。
【0032】
好ましい実施態様では、オリビン型リン酸リチウム鉄は、平均粒子径(D50)100〜300nmの一次粒子を凝集させることにより形成された、平均粒子径(D50)が5〜40μmの二次粒子でよい。
【0033】
一次粒子の平均粒子直径が過度に大きい場合、イオン伝導性が損なわれて不利である。反対に、過度に小さい平均粒子直径を有する一次粒子は、製造するのが困難である。
【0034】
さらに、二次粒子の平均粒子直径が過度に大きい場合、二次粒子間の気孔率が増加し、タップ密度が低下する(graded)ので好ましくない。他方、二次粒子の平均粒子直径が過度に小さい場合、粒子がプロセス効率を発揮できないので好ましくない。特に、スラリー混合及び電極表面の平滑性を考えると、二次粒子は、平均粒子直径が5〜40μmであるのが好ましい。
【0035】
二次粒子の形態にあるオリビン型リン酸リチウム鉄を使用することにより、使用する結合剤及び溶剤の量を少なくし、混合及び乾燥時間を短縮することができ、これによって、プロセス効率を改良することができるので有利である。
【0036】
より好ましい実施態様では、二次粒子の気孔率が15〜40%でよい。これらの気孔率が高い二次粒子は、電極の製造でプレス加工する際に部分的に変形して一次粒子に変換され、それによって、導電性を改良することができる。その結果、電極及びバッテリーの容量及びエネルギー密度を最大限にすることができる。本発明により、オリビン型リン酸リチウム鉄は、超臨界水熱方法により製造することができる。
【0037】
より詳しくは、リン酸リチウム鉄の製造は、下記の工程(a)〜(c) 、すなわち
(a)第一に、原料をアルカリ性付与剤(alkalinizing agent)と混合し、遷移金属水酸化物を沈殿させること、
(b)第二に、超臨界または臨界未満水を、工程(a)で得た混合物と混合し、リチウム金属複合酸化物を合成し、これを乾燥させること、及び
(c) リチウム金属複合酸化物をか焼すること
により行うことができる。
【0038】
工程(a)では、リチウム前駆物質として、成分LiCO、Li(OH)、Li(OH)・HO、LiNO、等の一種を使用することができる。鉄(Fe)前駆物質としては、2価の鉄含有化合物、例えばFeSO、FeC・2HOまたはFeCl、を使用することができる。リン(P)前駆物質としては、アンモニウム塩、例えばHPO、NHPO、(NH)HPOまたはP、を使用することができる。
【0039】
さらに、アルカリ性付与剤は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物またはアンモニア化合物でよい。
【0040】
工程(b)では、超臨界または臨界未満水は、180〜550barの圧力下で200〜700℃の温度を有することができる。工程(c)では、か焼温度は600〜1,200℃でよい。
【0041】
さらに、二次粒子の形態にあるリン酸リチウム鉄は、予め決められた粒子径を有する一次粒子、結合剤及び溶剤からなる混合物を乾燥させ、続いて凝集させることにより、製造することができる。好ましくは、一次粒子及び結合剤が、溶剤の重量に対して、それぞれ5〜20重量%及び5〜20重量%の量で存在する。二次粒子の気孔率は、一次粒子と溶剤の比率を変えることにより、制御することができる。この工程で使用する溶剤の例には、極性溶剤、例えば水、及び非極性溶剤を包含する全ての有機溶剤が挙げられる。この工程で使用する結合剤の例には、スクロース及びラクトース系の糖、PVDFまたはPE系の重合体及び極性溶剤に可溶なコークスが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0042】
二次粒子の乾燥及び調製は、噴霧乾燥、流動床乾燥、振動乾燥、等を包含する、この分野で公知の様々な方法により、同時に行うことができる。特に、回転噴霧乾燥は、球の形態にある二次粒子を製造でき、タップ密度を改良するので、好ましい。
【0043】
乾燥は、不活性ガス(例えばAr、N)雰囲気下、120〜200℃で行うことができる。
【0044】
2.カソード混合物
本発明は、カソード活性材料としてリン酸リチウム鉄を含んでなるカソード混合物を提供する。カソード活性材料に加えて、カソード混合物は、所望により導電性材料、結合剤、充填材、等を含んでなることができる。
【0045】
導電性材料は、一般的に、カソード活性材料を包含するコンパウンドの総重量に対して1〜30重量%の量で加える。導電性材料が好適な導電率を有し、製造された二次バッテリー中で有害な化学変化を引き起こさない限り、どのような導電性材料でも使用できる。本発明で使用できる導電性材料の例としては、グラファイト、例えば天然または人造グラファイト、カーボンブラック、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、Ketjenブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック及びサーマルブラック、導電性繊維、例えば炭素繊維及び金属繊維、金属粉末、例えばフッ化炭素粉末、アルミニウム粉末及びニッケル粉末、導電性ホイスカー、例えば酸化亜鉛及びチタン酸カリウム、導電性金属酸化物、例えば酸化チタン、及びポリフェニレン誘導体を包含する導電性材料を挙げることができる。
【0046】
結合剤は、活性材料を導電性材料及び集電装置に結合し易くする成分である。結合剤は、一般的にアノード活性材料を包含するコンパウンドの総重量に対して1〜30重量%の量で添加する。結合剤の例には、ポリビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム及び各種の共重合体を挙げることができる。
【0047】
充填材は、電極の膨脹を抑制するために使用する成分である。充填材には、製造されたバッテリー中で有害な化学変化を引き起こさず、繊維状材料である限り、特に制限は無い。充填材の例としては、オレフィン重合体、例えばポリエチレン及びポリプロピレン、及び繊維状材料、例えばガラス繊維及び炭素繊維、を使用することができる。
【0048】
一方、カソード活性材料は、本発明のオリビン型リン酸リチウム鉄単独か、または他のリチウム遷移金属複合酸化物との組合せで構成することができる。
【0049】
本発明で使用できるリチウム遷移金属複合酸化物の例には、層状化合物、例えばリチウムコバルト酸化物(LiCoO)及びリチウムニッケル酸化物(LiNiO)、または一種以上の遷移金属で置換されている化合物、リチウムマンガン酸化物、例えば式Li1+yMn2−y(0≦y≦0.33)、LiMnO、LiMn及びLiMnO、リチウム銅酸化物(LiCuO)、酸化バナジウム、例えばLiV、LiFe、V、Cu、式LiNi1−y(M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGa、及び0.01≦y≦0.3)のNiサイト型リチウム化ニッケル酸化物、式LiMn2−y(M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTa、及び0.01≦y≦0.1)または式LiMnMO(M=Fe、Co、Ni、CuまたはZn)のリチウムマンガン複合酸化物、Liの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されているLiMn、二硫化物化合物、及び式Fe(MoO)が挙げられる。
【0050】
3.カソード
また、本発明は、二次バッテリー用のカソードを提供するが、そこではカソード混合物を集電装置に塗布する。
【0051】
二次バッテリー用のカソードは、カソード混合物を溶剤、例えばNMP、と混合して得たスラリーをカソード集電装置に塗布し、続いて乾燥及びプレス−ロール加工することにより、製造することができる。
【0052】
カソード集電装置は、一般的に厚さが約3〜500μmになるように製造する。カソード集電装置が、製造するバッテリーで有害な化学変化を引き起こさずに、好適な導電性を有する限り、カソード集電装置には特に制限は無い。カソード集電装置の例としては、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結させた炭素、及び炭素、ニッケル、チタンまたは銀で表面処理したアルミニウムまたはステンレス鋼を挙げることができる。必要であれば、これらの集電装置は、カソード活性材料に対する密着強度を高めるために、その表面上に細かい凹凸を形成するように加工することができる。さらに、集電装置は、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質構造、フォーム及び不織布を包含する様々な形態で製造することができる。
【0053】
4.リチウム二次バッテリー
本発明は、カソード、アノード、セパレータ、及びリチウム塩含有非水性電解質を含んでなるリチウム二次バッテリーを提供する。
【0054】
例えば、アノードは、アノード活性材料を含んでなるアノード混合物をアノード集電装置に塗布し、続いて乾燥させることにより、製造される。アノード混合物は、上記の成分、すなわち、導電性材料、結合剤及び充填材、を含んでなることができる。
【0055】
アノード集電装置は、一般的に厚さが約3〜500μmになるように製造する。アノード集電装置には、それが、製造されるバッテリー中で有害な化学変化を引き起こさずに、好適な導電性を有する限り、特に制限は無い。アノード集電装置の例としては、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結させた炭素、及び炭素、ニッケル、チタンまたは銀で表面処理した銅またはステンレス鋼、及びアルミニウム−カドミウム合金を挙げることができる。カソード集電装置と同様に、必要であれば、これらの集電装置も、アノード活性材料に対する密着強度を高めるために、処理して表面上に微小の凹凸を持たせることができる。さらに、集電装置は、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質構造、フォーム及び不織布を包含する様々な形態で使用することができる。
【0056】
カソードとアノードとの間には、セパレータを配置する。セパレータとしては、高いイオン透過性及び機械的強度を有する絶縁性の薄いフィルムを使用する。セパレータは、典型的には細孔直径が0.01〜10μm、厚さが5〜300μmである。セパレータとしては、耐薬品性及び疎水性を有するオレフィン重合体、例えばポリプロピレン、及び/またはガラス繊維またはポリエチレンから製造されたシートまたは不織布を使用する。固体の電解質、例えば重合体、を電解質として使用する場合、その固体電解質は、セパレータ及び電解質の両方として作用することができる。
【0057】
リチウム塩含有非水性電解質は、非水性電解質及びリチウム塩から構成される。非水性電解質としては、非水性電解質溶液、固体電解質及び無機固体電解質を使用できる。
【0058】
本発明で使用できる非水性電解質溶液としては、例えば非プロトン性有機溶剤、例えばN-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ−ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロキシFranc、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル及びプロピオン酸エチルが挙げられる。
【0059】
本発明で使用する有機固体電解質の例としては、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステル重合体、ポリ攪拌リシン、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、及びイオン系解離基を含む重合体が挙げられる。
【0060】
本発明で使用する無機固体電解質の例としては、リチウムの窒化物、ハロゲン化物及び硫酸塩、例えばLiN、LiI、LiNI、LiN−LiI−LiOH、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH及びLiPO−LiS−SiSが挙げられる。
【0061】
リチウム塩は、上記の非水性電解質に容易に溶解する材料であり、例えばLiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSO)NLi、塩化ホウ素酸リチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、リチウムテトラフェニルボレート及びイミドを包含することができる。
【0062】
さらに、充電/放電特性及び難燃性を改良するために、例えばピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサホスホリックトリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換されたオキサゾリジノン、N,N-置換されたイミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウム、等を非水性電解質に加えることができる。必要であれば、不燃性を付与するために、非水性電解質は、ハロゲン含有溶剤、例えば四塩化炭素及び三フッ化エチレン、をさらに包含することができる。さらに、高温貯蔵特性を改良するために、非水性電解質は、二酸化炭素ガスをさらに包含することができる。
【0063】
5.リン酸リチウム鉄の分析方法
本発明は、リン酸リチウム鉄におけるLiPO及び/またはLiFe(PO)の存在、及び存在する場合、その含有量を分析する方法も提供する。
【0064】
具体的には、一実施態様で、式Iの組成及びオリビン結晶構造を有するリン酸リチウム鉄がLiPOを含むか、否かを確認するための、Kaが1.6〜2である元素のX線回折を使用する方法を提供する。Kaが1.6〜2である元素は、コバルト(Co)または鉄(Fe)でよい。
【0065】
LiPOには、干渉のために、CuまたはKaX線回折により容易に検出されないという特徴がある。そこで、本発明者らは、様々な試みを通して、Kaが1.6〜2である元素を使用するX線回折により、LiPOの存在を効率的に分析できることを確認した。
【0066】
さらに、別の実施態様では、式Iの組成及びオリビン結晶構造を有するリン酸リチウム鉄中に存在するLiCO及び/またはLiPOの量を検定する方法であって、試料10gを蒸留水100mlと混合すること、該混合物を5〜10分間攪拌すること、該反応混合物を濾過すること、該濾液を酸で滴定すること、及び得られた該溶液のpHを測定することを含んでなる、方法を提供する。
【0067】
LiCOまたはLiPOの含有量を非常に高い精度で測定する方法は、pH滴定により達成することができる。
【0068】
浸漬及びデカンテーションを繰り返し行うことにより、試料中に含まれるLiCOまたはLiPOを蒸留水中に入れることができ、含有量の精度を改良することができる。この方法は、総試料添加時間のようなファクターにあまり左右されない。
【0069】
滴定に使用する酸には制限は無い。HClが好ましい。
諸例
【0070】
ここで、下記の例を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。これらの例は、本発明を説明するためにのみ記載するのであり、本発明の範囲及び精神を制限するものではない。
【0071】
これらの例では、粉末中に存在する水溶性塩基の含有量を、下記の方法により測定した。
【0072】
[例1〜6及び比較例1]
硫酸鉄(FeSO・7HO)0.5モル及びリン酸塩0.55モルを含む水溶液を第一ミキサー中に、圧力270bar、速度10ml/分、常温でポンプ輸送し、アンモニア水及び水酸化リチウム(NH0.05モル、LiOH・HO1モル)を含む溶液を、予め決められた圧力下、速度10ml/分、常温でポンプ輸送した。1%スクロース(C122211)水溶液を硫酸鉄水溶液に加えた。約450℃の超純水を第二ミキサー中に圧力270bar、速度120ml/分でポンプ輸送した。得られた化合物を反応器中に380℃で15秒間放置し、次いで冷却し、濃縮した。得られた濃縮物を噴霧乾燥機中150℃で乾燥させ、炉中、窒素雰囲気下、700℃で10時間か焼し、例1のリン酸リチウム鉄(LiFePO)を調製した。
【0073】
例2〜6及び比較例1のリン酸リチウム鉄を、例1と同じ様式で、加えるアンモニアの量を調整することにより、下記の表1に記載するようにpHを変えながら調製した。
【0074】
[実験例1] LiCO及びLiPOの含有量測定(pH滴定)
先ず、例2〜6及び比較例1で調製したリン酸リチウム鉄10gを蒸留水100ml中で5分間攪拌し、続いて濾過した。得られた濾液に0.1MHCl溶液を加え、混合物を、攪拌しながらpH滴定にかけ、pHを時間の関数として記録した。この実験を、滴定が約20〜30分間かかるように流量を適宜測定しながら、pHが3以下になるまで行った。水溶性塩基の含有量は、pHが5以下に達するまでに使用した酸の量により計算し、水溶性塩基は、pHプロファイル挙動により分析した。
【0075】
こうして得られた結果を下記の表1に示し、pH変化を、例1及び比較例1及び純粋LiPOに対して加えたHClの量との関係で示すグラフを図2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
上記の表1から分かるように、本発明の例によるリン酸リチウム鉄は、pHが少なくとも8.5、好ましくは少なくとも10.0である。
【0078】
[実験例2] LiPOの存在確認(CoX線回折)
LiPOの存在を確認するために、幾つかの例で調製したLiFePOをCoX線回折により分析し、得られた結果を図1に示す。
【0079】
図1から分かるように、超臨界及び超/臨界未満条件下で合成したLiFePOは、不純物を含むが、LiPOだけが形成された。CuX線は、Feにより引き起こされるノイズのために、LiFePOが不純物を含むか、否かを正確に確認できない。従って、不純物の構造は、図1に示すように、CoX線分析によって正確に確認できる。
【0080】
従来のLiFePO合成では、Li及びPを含む過剰の化合物が水熱反応に使用されるので、不純物が残留することがある。しかし、図1におけるXRD分析から分かるように、超臨界合成では、LiPOだけが形成されるか、またはLiCOが極めて少量で形成される。他方、結晶性が確保される方法(例えば固相方法)では、焼成の際に、Li、Fe及びPが互いに反応する時に、炭素と反応するので、比較的大量のLiCOが必然的に形成される。
【0081】
[実験例3]特性試験
カソード活性材料として例1及び2及び比較例1のリン酸リチウム鉄を使用して二次バッテリーを製造し、速度特性または高温特性のような特性を試験した。
【0082】
具体的には、カソード活性材料としてリン酸リチウム鉄90重量%、導電性材料としてSuper-P 5重量%及び結合剤としてPVdF 5重量%を、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に加え、カソード混合物スラリーを調製した。このカソード混合物スラリーをアルミニウムホイルの一表面に塗布し、続いて乾燥させ、プレス加工してカソードを製造した。
【0083】
アノード活性材料として、炭素95重量%、導電性材料としてSuper-P 1.5重量%及び結合剤としてPVdF 3.5重量%を、溶剤としてNMPに加え、アノード混合物スラリーを調製した。このアノード混合物スラリーをアルミニウムホイルの一表面に塗布し、続いて乾燥させ、プレス加工してアノードを製造した。
【0084】
セパレータとしてcellguard(商品名)を使用し、カソード及びアノードを張り合わせて電極アセンブリーを製造し、この電極アセンブリーに、環状及び直鎖状カーボネート混合溶剤中に1MLiPFを含むリチウム非水性電解質を加え、バッテリー(423450重合体バッテリー)を製造した。
【0085】
例1及び比較例1のカソード活性材料から製造したバッテリーを、C速度増加による容量維持率に関して測定し、得られた結果を図3のグラフに示す。図3から分かるように、本発明のバッテリー(例1)は、比較例1と比較して、非常に優れたC速度増加による容量維持を示した。
【0086】
これらのバッテリーを、サイクル増加による放電容量に関して測定し、得られた結果を図4のグラフに示す。図4から分かるように、本発明のバッテリー(例1、グラフ中上側の曲線)は、比較例1と比較して、優れたサイクル特性を示した。
【0087】
さらに、例1及び4及び比較例1のカソード活性材料から製造したバッテリーを、高温貯蔵特性に関して測定し、得られた結果を図5のグラフに示す。高温貯蔵特性は、十分に充電したバッテリーを高温チャンバー中に90℃で4時間保持し、常温におけるバッテリーの厚さ変化を測定することにより、測定した。図5から分かるように、本発明のバッテリー(例1及び4)は、比較例1と比較して、時間の関数で非常に小さな厚さ増加を示した。
【0088】
これらの結果は、本発明のバッテリーが、優れた速度特性、サイクル特性及び高温貯蔵特性を示すことを立証している。
【産業上の利用可能性】
【0089】
上記の説明から明らかなように、本発明のリン酸リチウム鉄は、適切な量のLiPO及び極めて少量のLiCOを含んでなり、従って、リチウム二次バッテリー用のカソード活性材料として使用した場合に、有利なことに、高温貯蔵安定性ならびに安定性及び速度特性をリチウム二次バッテリーに与える。
【0090】
本発明の好ましい実施態様を例示のために開示したが、当業者には明らかなように、請求項に記載する本発明の範囲及び精神から離れることなく、様々な修正、追加、及び置き換えが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型リン酸リチウム鉄であって、
下記の式(I)の組成を有してなり、かつ、
0.1〜5重量%のLiPOを含んでなり、
LiCOを含まないか、又は、
LiCOが存在する場合、LiCOを0.25重量%未満の量で含んでなる、オリビン型リン酸リチウム鉄。
[化1]
Li1+aFe1−x(PO4−b)X (I)
[上記式中、
MがAl、Mg、Ti及びそれらの組合せから選択されてなり、
XがF、S、N及びそれらの組合せから選択されてなり、
-0.5≦a≦+0.5、
0≦x≦0.5、及び
0≦b≦0.1である。]
【請求項2】
前記LiCOが0.1重量%以下の量で存在する、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項3】
前記オリビン型リン酸リチウム鉄のpHが8.5〜11.5である、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項4】
前記オリビン型リン酸リチウム鉄のpHが10.0〜11.5である、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項5】
前記LiPOまたはLiCOの含有量がpH滴定により測定される、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項6】
前記LiPOまたはLiCOが、大部分、リン酸リチウム鉄粒子の表面上に存在する、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項7】
前記オリビン型リン酸リチウム鉄が、平均粒子径(D50)100〜300nmの一次粒子を凝集させることにより形成された、平均粒子径(D50)が5〜40μmの二次粒子である、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項8】
前記二次粒子の気孔率が15〜40%である、請求項7に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項9】
前記オリビン型リン酸リチウム鉄が、超臨界水熱方法により製造される、請求項1に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄を、カソード活性材料として含んでなる、カソード混合物。
【請求項11】
請求項10に記載のカソード活性材料が塗布されている電極を備えてなる、リチウム二次バッテリー。
【請求項12】
請求項1に記載の式(I)の組成及びオリビン結晶構造を有するリン酸リチウム鉄がLiPOを含むか、否かを確認するための、Kaが1.6〜2である元素のX線回折を使用する、リン酸リチウム鉄の分析方法。
【請求項13】
前記Kaが1.6〜2である元素がコバルト(Co)または鉄(Fe)である、請求項12に記載のオリビン型リン酸リチウム鉄。
【請求項14】
請求項1に記載の式(I)の組成及びオリビン結晶構造を有するリン酸リチウム鉄中に存在するLiPOまたはLiCOの量を検定する方法であって、
試料10gを蒸留水100mlと混合すること、
前記混合物を5〜10分間攪拌すること、
前記反応混合物を濾過すること、
前記濾液を酸で滴定すること、及び
得られた前記溶液のpHを測定することを含んでなる、方法。
【請求項15】
前記酸がHClである、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−506363(P2012−506363A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533104(P2011−533104)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006086
【国際公開番号】WO2010/047525
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】