説明

オルト位置換トリアリールアミン類の製造方法

【課題】有機エレクトロルミネッセンス、電子写真感光体、有機半導体、太陽電池などの機能性分子として有用なオルト位置換トリアリールアミン類を高収率でかつ経済的に得る。
【解決手段】オルト位置換ジアリールアミンと、ハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類を、触媒としてパラジウム化合物およびトリアルキルホスフィンの存在下で反応させて、オルト位置換トリアリールアミン類を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス、電子写真感光体、有機半導体、太陽電池などの機能性分子として有用なオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オルト位に置換基を有するトリアリールアミン類は製造が難しく、報告例もほとんどない。唯一類似の反応系として、ハロゲン化アリール分子側のオルト位に置換基を有するハロゲン化アリールとジフェニルアミンをパラジウム化合物と特殊な配位子の存在下反応させる例が知られている程度である(非特許文献1)。
しかしながら、この反応は、ハロゲン化アリールのオルト位一箇所のみに置換基のある反応例であり、本発明の反応とは本質的に異なるものである。さらに、使用される配位子は入手および調製が困難な特殊な化合物であり、工業的な製造法としては決して満足できるものではない。
【非特許文献1】J.Org.Chem.,71,3928−34(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の方法では満足できなかったオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法を提供することにある。すなわち、従来の問題点を解決し、高収率でかつ経済性に優れた製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、従来の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、オルト位置換ジアリールアミンとハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類をパラジウム化合物およびトリアルキルホスフィンの存在下反応させることにより、高収率で経済的にオルト位置換トリアリールアミン類が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、一般式(1)
Ar2NH (1)
(式中、Arは少なくとも一つのオルト位に炭素数1〜30までのアルキル基を持つアリール基を表す)で表されるジアリールアミン(以下「(1)ジアリールアミン」ともいう」と、一般式(2)
【0005】
【化1】

【0006】
[式中、XはCl、Br、I、OMs(メシレート)、OTf(トリフレート)、OTs(トシレート)から選ばれる脱離基を表し、Rは水素、炭素数1〜30までのアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基を表し、nは0〜5の整数を表す]
で表されるハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類(以下「(2)ハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類」ともいう)を、触媒としてパラジウム化合物およびトリアルキルホスフィンの存在下で反応させることを特徴とする、一般式(3)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Rおよびnは一般式(2)に同じである。Arは一般式(1)に同じである。)
で表されるオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、従来の問題点を解決して、オルト位置換トリアリールアミン類を高収率でかつ経済的に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法において使用されるオルト位置換ジアリールアミンは、上記一般式(1)で表される化合物である。
上記一般式(1)において、Arは少なくとも一つのオルト位に炭素数1〜30のアルキル基を持つアリール基を表す。炭素数1〜30までのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−メチルプロピル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基などを挙げることができる。
【0011】
上記一般式(1)で表されるジアリールアミンの具体例としては、ビス−(2−メチルフェニル)アミン、ビス−(2,4−ジメチルフェニル)アミン、ビス−(2,6−ジメチルフェニル)アミン、ビス−(2−エチルフェニル)アミン、ビス−(2,4−ジエチルフェニル)アミン、ビス−(2,6−ジエチルフェニル)アミン、ビス−(2−n−プロピルフェニル)アミン、ビス−(2,4−ジ−n−プロピルフェニル)アミン、ビス−(2,6−ジ−n−プロピルフェニル)アミン、ビス−(2−イソプロピルフェニル)アミン、ビス−(2,4−ジ−イソプロピルフェニル)アミン、ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)アミンなどが例示される。
【0012】
また、本発明の方法において使用されるハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類は、上記一般式(2)で表される化合物である。
上記一般式(2)において、XはCl,Br、I、OMs(メシレート)、OTf(トリフレート)、OTs(トシレート)から選ばれる脱離基を表し、Rは水素、炭素数1〜30までのアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基を表し、nは0〜5の整数を表す。
ここで、炭素数1〜30までのアルキル基としては、一般式(1)で定義されたと同様のアルキル基が挙げられる。
また、炭素数1〜30までのアルコキシ基としては、炭素数1〜30までのアルキル基に対応するアルコキシ基を挙げることができる。
アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基などが挙げられる。
【0013】
上記一般式(2)で表されるハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類の具体例としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、フェニルメシレート、フェニルトリフレート、フェニルトシレート、2−メチルクロロベンゼン、3−メチルクロロベンゼン、4−メチルクロロベンゼン、2−メチルブロモベンゼン、3−メチルブロモベンゼン、4−メチルブロモベンゼン、2−メチルヨードベンゼン、3−メチルヨードベンゼン、4−メチルヨードベンゼン、2−トリフルオロメチルクロロベンゼン、3−トリフルオロメチルクロロベンゼン、4−トリフルオロメチルクロロベンゼン、2−トリフルオロメチルブロモベンゼン、3−トリフルオロメチルブロモベンゼン、4−トリフルオロメチルブロモベンゼン、2−トリフルオロメチルヨードベンゼン、3−トリフルオロメチルヨードベンゼン、4−トリフルオロメチルヨードベンゼン、2,4−ジメチルクロロベンゼン、2,4−ジメチルブロモベンゼン、2,4−ジメチルヨードベンゼン、3,4−ジメチルクロロベンゼン、3,4−ジメチルブロモベンゼン、3,4−ジメチルヨードベンゼン、3,5−ジメチルクロロベンゼン、3,5−ジメチルブロモベンゼン、3,5−ジメチルヨードベンゼン、2−メトキシクロロベンゼン、3−メトキシクロロベンゼン、4−メトキシクロロベンゼン、2−メトキシブロモベンゼン、3−メトキシブロモベンゼン、4−メトキシブロモベンゼン、2−メトキシヨードベンゼン、3−メトキシヨードベンゼン、4−メトキシヨードベンゼン、2−エチルクロロベンゼン、3−エチルクロロベンゼン、4−エチルクロロベンゼン、2−エチルブロモベンゼン、3−エチルブロモベンゼン、4−エチルブロモベンゼン、2−エチルヨードベンゼン、3−エチルヨードベンゼン、4−エチルヨードベンゼン、2,4−ジエチルクロロベンゼン、2,4−ジエチルブロモベンゼン、2,4−ジエチルヨードベンゼン、3,4−ジエチルクロロベンゼン、3,4−ジエチルブロモベンゼン、3,4−ジエチルヨードベンゼン、3,5−ジエチルクロロベンゼン、3,5−ジエチルブロモベンゼン、3,5−ジエチルヨードベンゼン、2−エトキシクロロベンゼン、3−エトキシクロロベンゼン、4−エトキシクロロベンゼン、2−エトキシブロモベンゼン、3−エトキシブロモベンゼン、4−エトキシブロモベンゼン、2−エトキシヨードベンゼン、3−エトキシヨードベンゼン、4−エトキシヨードベンゼン、2−フェニルクロロベンゼン、2−フェニルブロモベンゼン、2−フェニルヨードベンゼン、3−フェニルクロロベンゼン、3−フェニルブロモベンゼン、3−フェニルヨードベンゼン、4−フェニルクロロベンゼン、4−フェニルブロモベンゼン、4−フェニルヨードベンゼンなどが例示される。
【0014】
ここで、(1)ジアリールアミンと(2)ハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類とのモル比は、(1):(2)で1:0.5〜1:1.5、好ましくは1:0.8〜1:1.3である。(1)成分が50モル%未満では、(1)成分の転化率が十分ではなく、一方、150モル%を超えると、(2)成分が未反応成分として残存し経済的に好ましくない。
【0015】
一方、本発明の方法において使用されるパラジウム化合物は、特に限定はないが、具体例として、Pd(OAc)(酢酸パラジウム)、(CHCN)PdCl、Pd(dba)(ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム)、Pd(dba)(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)Pd/C(パラジウムカーボン)、PdClなどが挙げられる。
また、配位子として使用されるトリアルキルホスフィンは、特に限定はないが、具体例としてトリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、n−ブチル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどが挙げられ、反応性の良さから特にトリ−t−ブチルホスフィンの使用が好ましい。
【0016】
本発明の方法における触媒となるパラジウム化合物の使用量に格別の限定はないが、上記一般式(1)で表されるジアリールアミンに対し、0.001〜10.0モル%の範囲であり、好ましくは0.01〜5.0モル%の範囲である。ここで、0.001モル%未満では、触媒活性が不十分であり、一方、10.0モル%を超えると、反応成績の割に効果がなく経済的にも好ましくない。
また、配位子であるトリアルキルホスフィンの使用量は特に限定されないが、パラジウム金属に対し、0.5〜5倍モル量、好ましくは1.0〜4.0倍モル量の範囲が選ばれる。
ここで、0.5倍モル量未満では、触媒活性が十分に得られず、一方、5倍モル量を超えると、反応成績の割に効果がなく経済的にも好ましくない。
【0017】
なお、本発明の方法では、好ましくは塩基の共存下で反応が実施され、塩基の具体例として、LiOBu、NaOBu、KOBu、KCO、KPO、KOHなどが挙げられる。
この塩基の使用量は、(2)ハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類に対し、1倍モル〜5倍モルである。
【0018】
また、本発明の方法においては、通常、反応溶媒が用いられる。使用される反応溶媒に格別の限定はないが、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒などが用いられ、具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが例示される。ここで、溶媒は、単一で用いても混合溶媒で用いてもどちらでも良い。
反応溶媒の使用量は、(2)ハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類に対し、2.0重量比〜20重量比である。
【0019】
さらに、本発明の方法における反応温度は、室温から溶媒の還流温度の範囲あり、具体的には、20〜150℃、好ましくは50〜140℃の範囲である。
また、反応時間は、0.5〜24時間、好ましくは1〜6時間程度である。
【0020】
本発明の方法における反応の実施形態に格別の限定はなく、任意の反応剤を任意の順番で添加することができる。また、触媒として用いられるパラジウム化合物およびトリアルキルホスフィンは、予め系外において混合して調製しても良いし、別々に反応系に添加しても良い。
反応終了後は、常法に従い反応液に水を加えて生成した塩を溶解処理した後、有機層を分離する。続いて、晶析などにより、目的とするオルト位置換トリアリールアミン類を得る。本方法で得られたオルト位置換トリアリールアミン類は、収率、純度共に良好であり、簡単な精製により最終的な機能性化合物として使用することが可能である。
【0021】
このようにして得られる本発明のオルト位置換トリアリールアミン類は、上記一般式(3)で表され、H NMR、13C NMR、質量分析、ガスクロマトグラフィーなどによって、その構造を特定することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明の方法を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
なお、分析用のガスクロマトグラフィーとしては、島津製GC−17A(分析カラム:NB−5)を用いた。
【0023】
実施例1
窒素雰囲気で置換した100mlフラスコに、キシレン20g、ビス−(2−メチルフェニル)アミン1.97g(10mmol)、ブロモベンゼン1.73g(11mmol)、t−ブトキシナトリウム1.44g(15mmol)、酢酸パラジウム0.022g(0.1mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン0.040g(0.2mmol)を仕込み、攪拌しながら反応液を120℃まで昇温した。昇温後、同温度にて2時間熟成した。反応終了後冷却、水を添加し生成した塩を溶解し分液した。有機層を分取した後、これをガスクロマトグラフィー(GC)で内部標準法により分析した結果、目的物であるビス−(2−メチルフェニル)フェニルアミンが91%の収率で生成していた。
【0024】
実施例2〜7および比較例1
実施例1のビス−(2−メチルフェニル)アミン、ブロモベンゼン、酢酸パラジウムおよびトリ−t−ブチルホスフィンを別表1に記載の条件に変えた他は、実施例1に記載の方法に準じて反応を行った。結果を表1に記す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1中、Pd(dba)は、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、n−Bu(1−Ad)Pは、n−ブチル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィンを示す。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により得られるオルト位置換トリアリールアミン類は、有機エレクトロルミネッセンス、電子写真感光体、有機半導体、太陽電池などの機能性分子として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
ArNH (1)
(式中、Arは少なくとも一つのオルト位に炭素数1〜30までのアルキル基を持つアリール基を表す)で表されるジアリールアミンと、一般式(2)
【化1】

[式中、XはCl、Br、I、OMs(メシレート)、OTf(トリフレート)、OTs(トシレート)から選ばれる脱離基を表し、Rは水素、炭素数1〜30までのアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基を表し、nは0〜5の整数を表す]
で表されるハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類を、触媒としてパラジウム化合物およびトリアルキルホスフィンの存在下で反応させることを特徴とする、一般式(3)
【化2】

(式中、Rおよびnは一般式(2)に同じである。Arは一般式(1)に同じである。)
で表されるオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表されるジアリールアミンと一般式(2)で表されるハロゲン化アリール類またはアリールスルホネート類とのモル比が、1:0.8〜1:1.3である請求項1記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項3】
パラジウム化合物の使用量が一般式(1)で表されるジアリールアミンに対し、0.001〜5.0モル%の範囲であり、トリアルキルホスフィンの使用量がパラジウム金属に対し、1.0〜4倍モル量である請求項1または2記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項4】
パラジウム化合物が、Pd(OAc)、(CHCN)PdCl、Pd(dba)、Pd(dba)、Pd/C、およびPdClの群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3いずれかに記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項5】
トリアルキルホスフィンが、トリ−t−ブチルホスフィンである請求項1〜4いずれかに記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項6】
塩基の共存下で反応を実施する請求項1〜5いずれかに記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項7】
反応溶媒として、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、およびアミド系溶媒の群から選ばれた少なくとも1種を用いる請求項1〜6いずれかに記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。
【請求項8】
反応温度が50〜140℃、反応時間1〜6時間である請求項1〜7いずれかに記載のオルト位置換トリアリールアミン類の製造方法。

【公開番号】特開2009−190974(P2009−190974A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30098(P2008−30098)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(507119250)東ソー有機化学株式会社 (14)
【Fターム(参考)】