説明

オレフィン二量体の製造方法、オレフィン二量体

【課題】オレフィン二量体の製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸を無機担体粒子に担持させてなる固体リン酸触媒が収容された反応器に、混合物全量を基準として0〜15質量%のオレフィンと、接触条件における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水と、所定の媒体とを含む第1の混合物を導入し、前記固体リン酸触媒と前記第1の混合物とが接触した状態で、前記反応器内を所定の接触条件となるように昇温、昇圧させる第1の工程と、第1の工程後の反応器内に、オレフィンと、反応温度における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水とを含有する第2の混合物を導入し、固体リン酸触媒の存在下、55〜300℃の反応温度でオレフィンの二量化反応を行い、オレフィン二量体を含む反応生成物を得る第2の工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体リン酸触媒を使用するオレフィン二量体の製造方法およびその製造方法によって得られるオレフィン二量体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体リン酸触媒は、無機担体にリン酸を担持した触媒であり、オレフィンの水和反応やオレフィンのオリゴマー化反応等に広く用いられていれる。
【0003】
一方、オレフィンのオリゴマーは各種用途に用いられており、特に軽質オレフィン(例えば、プロピレン、ノルマルブテン、イソブテン、ペンテン類)の二量体は、ガソリンの高オクタン価基材や化学中間原料として重要である。オレフィンの二量化を含むオリゴマー化は、酸触媒を用いて行われ、これまで数多くの研究がなされている。酸触媒としては、硫酸、フッ化水素酸、リン酸、塩化アルミニウム及びフッ化ホウ素等の液体或いは気体の触媒や、非晶性又は結晶性アルミノシリケート、粘土、イオン交換樹脂、複合酸化物、担体に担持した酸などの各種固体酸が慣用的な例として挙げられ、安価で簡便な製造プロセスが可能である上記固体リン酸触媒についても種々検討されている。
【0004】
固体リン酸触媒によるオレフィンのオリゴマー化反応の例として、例えば、100℃を越えるか焼条件で調製された固体リン酸触媒を用いてプロピレンをオリゴマー化する方法(例えば下記特許文献1を参照。)や、リン酸と珪酸質原料の無定形混合物を250〜450℃の条件で、水蒸気濃度3〜50モル%の空気−水蒸気混合ガスの雰囲気下で処理して結晶化して調製した触媒(シリコンオルトホスフェートおよびシリコンピロホスフェートからなる触媒)を用いてプロピレンをオリゴマー化する方法(例えば下記特許文献2を参照。)などが提案されている。また、固体リン酸触媒のリン酸の縮合度がオレフィンのオリゴマー化反応に対する活性に影響を及ぼすことは従来から知られており、例えば、下記特許文献3や非特許文献1には、固体リン酸触媒を水に浸漬して溶出する遊離リン酸成分(オルトリン酸、ピロリン酸などの非縮合または低縮合のリン酸)の触媒に対する重量比が小さい触媒(担持されたリン酸中のオルトリン酸の比率が、リン原子換算で多くても46モル%程度)を用いて、C3およびC4等のオレフィンをオリゴマー化する例が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の従来の固体リン酸触媒を用いるオレフィンのオリゴマー化は、いずれもオレフィンの二量化を主目的としたものではない上に、従来の固体リン酸触媒ではオレフィンの高重合物の副生が避けられず、オレフィン二量体を選択的に得ることは困難であった。
【0006】
オレフィンの二量化選択性の向上について検討された例はあり、例えば、下記特許文献4には、担体に担持されたリン酸中のオルトリン酸の比率をリン原子換算で60モル%以上である固体リン酸触媒を用いたオレフィンの二量体化方法が提案されている。
【0007】
一方、固体リン酸触媒を使用したオレフィンのオリゴマー化反応において、反応器出口から得られる反応液中に触媒から溶出したリン酸が含まれることや、オリゴマー化反応開始時にオレフィン含有原料の供給前に、オレフィンを含まないか或いは特定濃度以下のオレフィンを含み且つ特定濃度の水分を含有する媒体と接触させることにより、固体リン酸触媒からのリン酸の溶出を低減できることについては何ら記載が無い。また、オリゴマー化反応の温度を選択することにより、リン酸の溶出を低減出来ることについてもなんら記載がない。
【0008】
また、反応液に溶出してくるリン酸はオリゴマー化反応のプロセス下流の蒸留塔などでLPG留分とオリゴマー、またはオリゴマーと重質物を分離する際、リン酸が濃縮されるため装置を腐食しうる。それゆえ、反応液中へのリン酸の溶出を抑制することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平8−29251号公報
【特許文献2】特公平7−59301号公報
【特許文献3】特開2001−199907号公報
【特許文献4】特開2006−51492号公報
【特許文献5】特開平9−233290号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“Applied Catalysis A : General”, 1993, 97, p.177-196
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
固体リン酸触媒を用いてオレフィンを二量化する際、微量のリン酸(加水分解によりリン酸となるものを含む)が触媒から反応液中へ溶出することを本発明者らは見い出した。この微量のリン酸は装置の腐食の原因となるため、反応液中の微量のリン酸の除去は重要な課題である。オレフィンの二量体を効率よく生産するためには、固体リン酸触媒の触媒活性及びオレフィンの二量化選択性の向上のみならず、リン酸が炭化水素溶液中へ溶出するのを抑制することが望ましい。しかし、特許文献4には、固体リン酸触媒のリン酸組成と二量化選択性との関係についての記載はあるものの、反応液中へのリン酸溶出の抑制についてはなんら開示されていない。
【0012】
そこで、本発明は、固体リン酸触媒を用いてオレフィンの二量体を高い選択性でもって製造する方法を提供すること、及びそのような固体リン酸触媒を用いる際に反応液中に溶出するリン酸を抑制しオレフィン二量体を効率よく生産することを可能とするオレフィン二量体の製造方法、およびその製造方法によって得られるオレフィン二量体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、無機担体粒子に担持させた固体リン酸触媒を用いたオレフィンの二量化反応において、特定の温度条件で反応を行うことによりリン酸の反応生成物中への溶出を制御し、かつ反応生成物を特定の条件で洗浄を行うことで溶出したリン酸や副生した含酸素化合物を効率的に除去できることを見出した。すなわち、オレフィンの二量化反応温度を55℃以上にすることにより反応液中に溶出するリン酸量を低く抑え、その後反応液中に溶出したリン酸を特定のpHおよび温度範囲でアルカリ洗浄し、その後特定の温度範囲において水洗浄をすることにより、溶出したリン酸や含酸素化合物などの副生物を効率的に除去できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(8)に記載のオレフィン二量体の製造方法および下記(9)に記載のオレフィン二量体を提供する。
(1)リン酸を無機担体粒子に担持させてなる固体リン酸触媒が収容された反応器に、混合物全量を基準として0〜15質量%のオレフィンと、接触条件における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水と、所定の媒体とを含む第1の混合物を導入し、固体リン酸触媒と第1の混合物とが接触した状態で、反応器内を所定の接触条件となるように昇温、昇圧させる第1の工程と、第1の工程後の反応器内に、オレフィンと、反応温度における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水とを含有する第2の混合物を導入し、固体リン酸触媒の存在下、55〜300℃の反応温度でオレフィンの二量化反応を行い、オレフィン二量体を含む反応生成物を得る第2の工程と、を備えることを特徴とするオレフィン二量体の製造方法。
(2)上記第2の工程後の固体リン酸触媒にリン酸を担持して再生し、第1の工程に供する第3の工程を更に備えることを特徴とする、(1)に記載の製造方法。
(3)上記第3の工程において固体リン酸触媒にリン酸を担持するときの温度が100℃以下であり、且つ、担持に使用するリン酸濃度が正リン酸として93質量%以下であることを特徴とする、(2)に記載の製造方法。
(4)上記媒体が液体の炭化水素であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)上記第1の工程に供される固体リン酸触媒のリン酸中のオルトリン酸の比率がリン原子換算で60モル%以上であり、細孔径が15〜200nmであることを特徴とする、(1)〜(4)の何れかに記載の製造方法。
(6)上記第1の工程に供される固体リン酸触媒の無機担体の粒子径が3.0mm以下であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)上記第2の工程における二量化反応を液相で行うことを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)上記オレフィンが炭素数3〜7のモノオレフィンである、(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法により得られるオレフィン二量体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固体リン酸触媒を用いたオレフィンの二量化反応において、二量化反応開始前に当該固体リン酸を特定の条件で前処し、特定の二量化反応条件を選択することで反応液中へ溶出するリン酸を低減できる方法を提供することができる。またそれにより効率的なオレフィン二量体の製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明のオレフィン二量体の製造方法は、下記(I)および(II)に示す工程を備える。
(I)リン酸を無機担体粒子に担持させてなる固体リン酸触媒が収容された反応器に、混合物全量を基準として0〜15質量%のオレフィンと、接触条件における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水と、所定の媒体とを含む第1の混合物を導入し、固体リン酸触媒と第1の混合物とが接触した状態で、反応器内を所定の接触条件となるように昇温、昇圧させる反応準備工程。
(II)工程(I)の後の反応器内に、オレフィンと、反応温度における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水とを含有する第2の混合物を導入し、固体リン酸触媒の存在下、55〜300℃の反応温度でオレフィンの二量化反応を行い、オレフィン二量体を含む反応生成物を得る二量化工程。
また、本発明のオレフィン二量体の製造方法は、下記(III)に示す工程を更に備えることが好ましい。
(III)上記工程(II)の後の固体リン酸触媒にリン酸を担持して再生し、工程(I)に供する触媒再生工程。
【0018】
以下、(I)〜(III)の各工程について詳述する。
【0019】
<(I)反応準備工程>
本発明で用いる固体リン酸触媒としては、オレフィンを二量化する活性を有するものであって、触媒成分にリン酸(加水分解によりリン酸となるものを含む)を含むものであれば特に限定されるものではない。
【0020】
固体リン酸触媒を構成する無機担体粒子としては、リン酸を担持できるものであれば特に制限はないが、好ましい例として、珪藻土、滴虫土、繊毛虫土、キーゼルグール、カオリン、フラー土、人工多孔質シリカなどの珪酸質担体及びその混合物の成形体粒子を挙げることができる。担体を成形する場合、十分な強度、細孔容積、比表面積を与える目的でいかなる温度条件でもか焼を行うことができる。成形の方法および成形体の形状については特に制限がなく、例えば打錠成形、押出成形、スプレードライ、転動造粒,油中造粒等の方法で、粒状、板状、ペレット状の各種成形体粒子とすることができる。また、工程(III)の後の、反応により失活した固体リン酸触媒も利用することができる。
【0021】
本工程に用いる無機担体粒子の好ましい平均細孔径は15〜200nmであり、より好ましくは30〜200nm、さらにより好ましくは30〜100nmである。平均細孔径が15nm未満の場合には、細孔内に存在する物質の細孔外への拡散抵抗が大きくなるため、細孔内でリン酸の触媒作用により生成したオレフィン二量体がより長い時間細孔内に留まり、オレフィン二量体がリン酸の触媒作用によりさらに三量体以上の重質物に転換されやすくなる。これにより二量化選択性が低下する傾向にある。また、平均細孔径が200nmを超える場合は、触媒の機械的強度と触媒活性とを両立することが困難となる。例えば、無機担体粒子が二酸化珪素を含んでなるものである場合、平均細孔径が200nmを超える場合であっても、細孔容積を小さくすることで二酸化珪素構造の密度を大きくして圧壊強度を高めることは可能であるが、細孔容積が小さいと、細孔に担持されるリン酸の量が少なくなるので、触媒層単位容積当りの反応活性が低下してしまうという問題を生ずる。なお、平均細孔径が200nmを超える場合に細孔容積を確保しようとすると、担体中の二酸化珪素構造の密度が小さくなるため、担体の圧壊強度が低下するという問題を生ずる。
【0022】
本発明において、無機担体粒子の平均細孔径は、用いる無機担体粒子の平均細孔径が15nm以上のものであるため、これに適した水銀圧入法を用いて測定される。例えば、島津製作所社製の自動ポロシメータ「Micromeritics AutoporeII」(商品名)を用いて測定することができる。
【0023】
本工程に用いる無機担体粒子の好ましい平均粒子径は3.0mm以下であり、好ましくは0.5〜3.0mmである。平均粒子径が0.5mm未満の場合には、反応器の圧力損失が大きくなるため、好ましくない。3.0mm以上の場合には、反応流体が反応器内の管壁を流れる量が増加するため、触媒が有効に利用されなくなり二量化反応活性が低下する傾向にある。また、触媒粒子中心部に存在する物質が触媒粒子外へ拡散するのにより長い時間を要するため、触媒粒子中心部でリン酸の触媒作用により生成したオレフィン二量体はより長い時間触媒粒子内に留まり、オレフィン二量体がリン酸の触媒作用によりさらに三量体以上の重質物に転換されやすくなる。これにより二量化選択性が低下する傾向にある。
【0024】
無機担体粒子の平均粒子径は、無機担体粒子から無作為に抽出した粒子1つ1つの直径を計測し、担体粒子25個の直径を相加平均することにより求める。
【0025】
次に、本発明の固体リン酸触媒を構成するリン酸について説明する。
【0026】
本発明で使用するリン酸は、リン酸中のオルトリン酸の比率がリン原子換算で60モル%以上のものが好ましい。すなわち、無機担体粒子に担持されるリン酸は、リン酸中に含まれる全リン原子のモル数に対するオルトリン酸中のリン原子の比率が60モル%以上のものである。この場合に、オレフィンの二量化反応に対して優れた活性及び選択性が発現される。上記比率は、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらにより好ましい。オレフィンの二量化反応において高い活性及び選択性を長期間維持するためには、担持するリン酸中のオルトリン酸と、その他の縮合したポリリン酸等との比率が重要であり、担持するリン酸中のオルトリン酸の比率が60モル%以上の状態でオレフィンを接触させることが好ましいものである。
【0027】
本発明の固体リン酸触媒を調製する際に用いるリン酸としては、オルトリン酸及びその縮合物であるピロリン酸、ポリリン酸が挙げられるが、加水分解によりリン酸となるもの(リン酸前駆体)、例えば、炭素数1〜8のアルコールのリン酸エステル等も使用することができる。また、それらの混合物であってもよい。浸漬に用いるリン酸濃度は正リン酸換算で93質量%以下が好ましく。30〜85%であることがより好ましい。リン酸濃度が93%以上になると担持後の固体リン酸触媒中のリン酸のうちオルトリン酸の比率を60モル%以上とすることが難しい。一方、30%以下になると担持後の固体リン酸触媒中に含まれるリン酸量が少なくなるため好ましくない。
【0028】
リン酸を無機担体粒子に担持する方法としては、無機担体粒子あるいは失活した固体リン酸触媒をリン酸水溶液に浸漬した後乾燥する方法や、無機担体とリン酸水溶液を混合して得られたペーストを成形・乾燥する方法が一般的に用いられる。前者の方法は、二量化反応の際に触媒中のリン酸が反応液中に溶け出すことによってリン酸担持量が減少した場合、触媒の再含浸によりリン酸を適宜補充することができるので特に好ましい。後者の方法の場合、成形の方法及び成形品の形状については、無機担体粒子の成形と同様に行うことができる。
【0029】
固体リン酸触媒中のリン酸の含有量については、特に限定はされないが、無機担体粒子に含まれる無機担体粒子にリン酸を担持して調製した固体リン酸触媒の質量に対する割合として、オルトリン酸換算で15〜75質量%が好ましい。この割合が、15質量%未満である場合、活性が低くなる若しくは必要とする触媒容量が大きくなり、設備コストが大きくなる傾向にある。また、75質量%を超える場合、全リン酸に占めるオルトリン酸の比率を60モル%以上とすることが困難となることから好ましくない。
【0030】
触媒調製の具体的な態様の例として、無機担体粒子をリン酸水溶液に浸漬した後に乾燥させて担持させる方法について説明する。触媒調製に使用する装置については特に限定は無く、一般的な回分槽を用いることもできるが、固定相流通式でオレフィンの二量化反応を実施する反応器を用いる方法は、触媒調製と同時に触媒充填を行うことができるので好ましい方法である。浸漬時間は、通常1時間程度あるいはそれ以上であれば特に限定されない。好ましい浸漬温度は100℃以下、より好ましくは50℃以下である。100℃を超える温度条件では、リン酸中のオルトリン酸の比率が小さくなるおそれがあるので好ましくない。また、温度が低すぎると凝固して含浸できなくなるので、0℃以上、さらには15℃以上が好ましい。また、浸漬回数は2回以上行うと担持むらを生じにくくなるので好ましい。
【0031】
浸漬後、ろ過などの一般的方法でリン酸水溶液の残余分を除去した後に、残留する余剰の水分を除去して乾燥させる。乾燥方法としては、気体流を用いてもよいし、液体流を用いてもよい。乾燥に用いる流体は、特に限定されないが、空気、窒素ガス、水素ガス、炭素数1〜5の飽和炭化水素ガス、炭素数2〜20の飽和炭化水素液が好適である。また、流体中には乾燥条件における飽和量以下の水が含まれていてもよい。例えば、室温において、100質量ppm以下の水を含む液状ブタンを用いて乾燥を行うことができる。好ましい乾燥温度は100℃以下、より好ましくは50℃以下である。100℃を越える温度になると、リン酸の縮合が急速に起こり、リン酸中のオルトリン酸の比率が低下するので好ましくない。また、温度が低すぎると乾燥効率が悪くなるので、0℃以上、さらには5℃以上が好ましい。乾燥時間および用いる流体の量は、乾燥によるリン酸の縮合の進み具合を確認しながら、リン酸中のオルトリン酸の比率がリン原子換算で60モル%未満とならないように適宜調節する。リン酸の縮合が進行した高縮合リン酸触媒は、再含浸処理によって低縮合状態(オルトリン酸の比率が60モル%以上の状態)に戻すことができる。
【0032】
オレフィンの二量化反応に際しては、固体リン酸触媒中の水分量は、固体リン酸触媒の質量を基準として5質量%以上とすることが好ましい。
【0033】
次に、第1の混合物(混合物全量を基準として0〜15質量%のオレフィンと、接触条件における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水と、所定の媒体とを含む混合物)について説明する。本工程では、当該第1の混合物を用いることにより、二量化反応において反応液中に固体リン酸触媒から溶出するリン酸を大幅に抑制でき、プロセス後段のリン酸による腐食を回避できる。リン酸は腐食性が高いため、カーボンスチールなどの安価な鋼材は100℃を超える条件では腐食しやすい。装置をハステロイ、タンタル等の耐食材料でライニングすることで腐食を抑制できるが、これらの耐食材料は極めて高価である。リン酸の溶出を低減すればこのような高価な材料を使用する必要が無くなり、経済的な効果が大きい。上記のリン酸の溶出抑制方法は、特定の運転条件を選択するという非常に簡便な操作であるため、経済性の向上に寄与する。また、リン酸の溶出を抑制できるため、固体リン酸触媒の寿命延長にも寄与する。水分の供給方法としては特に制限はない。
【0034】
第1の混合物に含まれる媒体としては、炭素数1〜7の直鎖状、分岐状および環状のいずれかの炭化水素などが好適であり、これらは単独の炭化水素でも任意の2種以上の組み合わせのものも使用することも出来る。媒体の状態はガス状であっても、液状であっても構わないが、液状の方が固体リン酸触媒に乾燥むらが生じにくく、触媒リン酸中のオルソリン酸を60モル%以上に保ちやすいため好ましい。なお、本工程に使用する媒体としては、窒素、アルゴン、水素などの無機ガスも使用可能である。
【0035】
第1の混合物には、オレフィン含有量が0質量%である態様(すなわちオレフィンを含まないもの)およびオレフィン含有量が混合物全量を基準として0質量%を超え15質量%以下である態様の双方が含まれる。第1の混合物がオレフィンを含む場合、当該オレフィンとしては、炭素数3〜5の直鎖状、分岐状および環状のいずれかのモノオレフィンが好適である。また、目的生成物に応じて単一のオレフィンであっても、また2種以上のオレフィンの混合物であってもよい。具体的なオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブチレン、ノルマルペンテン類、イソペンテン類、シクロペンテン類及びこれらの任意の2種以上の組み合わせを挙げることができる。前述したように、これらオレフィンを全く含まない炭化水素媒体も使用可能である。
【0036】
本工程の昇温、昇圧速度は、任意に選択することができる。例えば、昇温速度0.2〜5℃/分で55〜300℃まで昇温することが好ましい。また、前記温度に達した後、同温で1〜170時間保持することが好ましい。
【0037】
<(II)二量化反応工程>
本工程は、前記第1の工程後の前記反応器内に、オレフィンと、反応温度における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水とを含有する第2の混合物(以下、「オレフィン含有原料」ともいう。)を導入し、固体リン酸触媒の存在下、55〜300℃の反応温度でオレフィンの二量化反応を行い、オレフィン二量体を含む反応生成物を得る工程である。なお、オレフィンの二量化とは、原料オレフィン2モルの反応(オレフィン混合原料の場合には、異なるオレフィン間の反応も含む。)によりオレフィン1モルが生成することを意味する。
【0038】
本工程では、原料混合物に含まれる水の含有量を、オレフィン含有原料全量を基準として10質量ppm以上且つ反応温度における原料の飽和水分量未満となるように調整する。これにより、反応の進行と共に徐々に触媒中のリン酸の縮合が進行するのを抑制することができ、オレフィン二量体の収率を十分高めることができる。オレフィン含有原料における水分量は、反応系中に水分を共存させることによって調整可能である。水分の供給方法としては特に制限はなく、混合装置によってオレフィン含有原料に所定量の水を溶解させて反応器に供給する方法などが挙げられる。オレフィン含有原料中の水分量は、反応器入口温度における該オレフィン含有原料の飽和水分量未満であることが好ましいが、原料濃度、反応温度等の反応条件に応じて最適な添加量を選択する必要がある。水分の添加量が飽和水分量以上となると、凝縮した水が触媒上のリン酸を流出させるため好ましくない。また、リン酸の縮合を確実に抑制する観点から、オレフィン含有原料中の水分量は原料の質量を基準として100質量ppm以上で且つ反応器内の温度における原料オレフィンの飽和水分量未満であることが望ましい。
【0039】
本工程に用いる反応器及び反応形式には特に制限はなく、槽型反応器によるバッチ式、セミバッチ式、連続流通式の反応形式、例えば固定床、流動床、移動床等の流通反応器による連続流通式反応などを採用することができる。反応温度は、55〜300℃、好ましくは55〜200℃である。55℃より低温ではリン酸の溶出が著しく増加するため好ましくない。また300℃より高温では分解反応や、それに伴い併記する重合反応などの副反応が多くなるので好ましくない。反応圧力は、常圧〜20MPaが好ましく、常圧未満においては反応系が液相を維持できなくなるおそれがあり、20MPaを越える場合には設備コストが増大するので好ましくない。反応時間は連続流通式の反応形式の場合、LHSVとして、0.1〜100hr−1、好ましくは0.3〜30hr−1である。LHSVが0.1hr−1を下回る場合は、生産効率が低下する、あるいは設備が巨大なものとなり、100hr−1を超える場合には反応が進行しにくくなるので好ましくない。一方、回分式の反応形式の場合、好ましい反応時間は原料中のオレフィン濃度や原料/触媒比などにより異なるが、0.01〜10hrである。
【0040】
本工程においてオレフィン含有原料中に含まれるオレフィンとしては、炭素数3〜5の直鎖状、分岐状および環状のいずれかのモノオレフィンが好適である。また、目的生成物に応じて単一のオレフィンであっても、また2種以上のオレフィンの混合物であってもよい。具体的なオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブチレン、ノルマルペンテン類、イソペンテン類、シクロペンテン類及びこれらの任意の2種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0041】
また、反応熱を除去する目的で、溶媒を含むオレフィン含有原料を使用することができる。溶媒は、二量化反応条件において液体であって、固体リン酸触媒に対して本質的に不活性であれば特に限定されない。例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ナフテン類、芳香族などの炭化水素を好ましく用いることができる。また、二量化反応工程の後に未反応分として回収された、原料よりも低濃度のオレフィンを含むパラフィン留分やC4留分中のブタン類等の飽和炭化水素も溶媒として使用することが出来る。オレフィン量と溶媒量の比率としては、オレフィンと溶媒を含むオレフィン含有原料の総質量に占めるオレフィンの割合が、1〜60質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%となることが望ましい。オレフィンの割合が前記下限を下回ると生産性が低下し、前記上限を超えると二量化反応の発熱量が大きくなり、反応温度の制御が難しくなる。
【0042】
本工程においては、固体リン酸触媒にオレフィン含有原料を液相で接触せしめる。気相での接触においては、コーキングの発生により、オレフィンの二量化反応の活性及び選択性が低下し、触媒寿命が短くなるおそれがあるので好ましくない。
【0043】
<(III)触媒再生工程>
本工程は、工程(II)の後の、反応により失活した固体リン酸触媒にリン酸を担持して固体リン酸触媒を再生する工程である。
【0044】
本工程に供する失活した固体リン酸触媒の好ましい平均細孔径は15〜200nmであり、より好ましくは30〜200nm、さらにより好ましくは30〜100nmである。平均細孔径が15nm未満の場合には、細孔内に存在する物質の細孔外への拡散抵抗が大きくなるため、細孔内でリン酸の触媒作用により生成したオレフィン二量体がより長い時間細孔内に留まり、オレフィン二量体がリン酸の触媒作用によりさらに三量体以上の重質物に転換されやすくなる。これにより二量化選択性が低下する傾向にある。また、平均細孔径が200nmを超える場合は、触媒の機械的強度と触媒活性とを両立することが困難となる。例えば、無機担体粒子が二酸化珪素を含んでなるものである場合、平均細孔径が200nmを超える場合であっても、細孔容積を小さくすることで二酸化珪素構造の密度を大きくして圧壊強度を高めることは可能であるが、細孔容積が小さいと、細孔に担持されるリン酸の量が少なくなるので、触媒層単位容積当りの反応活性が低下してしまうという問題を生ずる。なお、平均細孔径が200nmを超える場合に細孔容積を確保しようとすると、担体中の二酸化珪素構造の密度が小さくなるため、担体の圧壊強度が低下するという問題を生ずる。
【0045】
本発明において、失活した固体リン酸触媒の平均細孔径は、無機担体粒子の平均細孔径の測定の場合と同様に、島津製作所社製の自動ポロシメータ「Micromeritics AutoporeII」(商品名)等を用いた水銀圧入法により測定することができる。
【0046】
本工程に用いる無機担体粒子あるいは失活した固体リン酸触媒の好ましい平均粒子径は3.0mm以下であり、好ましくは0.5〜3.0mmである。平均粒子径が0.5mm未満の場合には、反応器の圧力損失が大きくなるため、好ましくない。3.0mm以上の場合には、反応流体が反応器内の管壁を流れる量が増加するため、触媒が有効に利用されなくなり二量化反応活性が低下する傾向にある。また、触媒粒子中心部に存在する物質が触媒粒子外へ拡散するのにより長い時間を要するため、触媒粒子中心部でリン酸の触媒作用により生成したオレフィン二量体はより長い時間触媒粒子内に留まり、オレフィン二量体がリン酸の触媒作用によりさらに三量体以上の重質物に転換されやすくなる。これにより二量化選択性が低下する傾向にある。
【0047】
失活した固体リン酸触媒の平均粒子径は、失活した固体リン酸触媒から無作為に抽出した粒子1つ1つの直径を計測し、失活した固体リン酸触媒25個の直径を相加平均することにより求める。
【0048】
また、本工程において、リン酸の種類、リン酸中のオルトリン酸の比率、担持方法、再生後の固体リン酸触媒中のリン酸の含有量、固体リン酸触媒中の水分量などは、(I)反応準備工程の場合と同様であり、ここでは重複する説明を省略する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例、比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
担体として平均細孔径が50nmで、平均粒子径が2.3mmの概球形であるシリカ造粒品20mlを管形ステンレス鋼製反応器(内径12mm)に充填した後、オルトリン酸換算で40質量%のリン酸水溶液50mlをポンプにて反応器に上部からフィードすることで担体をリン酸に浸漬した。24時間浸漬後、反応器の下部を開放してリン酸水溶液を自重で除去した。この操作を2回繰り返し、固体リン酸触媒Aを調製した(工程1)。この触媒Aに30質量ppmの水分を含有するヘキサンを50ml/hで反応器上部よりフィードしながら、2時間後に圧力3.0Mpa、触媒層入口温度90℃に到達させた。さらに70時間フィードを続けた(工程2)。なお、30質量ppmの水分量は上記の条件において、飽和水分量未満である。次いでこの条件下においてブテン混合原料(イソブチレン35質量%、ノルマルブテン類2質量%、プロピレン1質量%、ブタン類62質量%)に質量基準でこの混合原料の300質量ppmの水を添加したものを、LHSV7h−1にて供給し、下部より抜き出しながら二量化反応を実施した(工程3)。この反応条件では反応器内は液相状態が維持されていること、300質量ppmの水分量は飽和水分量未満であることを確認した。反応器にブテン混合原料を供給開始してから12時間後の反応結果を表1に示す。また、反応液中のリン原子含有量も合わせて表1に示す。オレフィン転化率、ブテン二量体収率は良好であり、反応液へのリン酸溶出量も問題の無い低いレベルであった。
【0051】
なお、表2中、「全ブテン転化率(%)」、「ブテン二量体選択率(%)」及び「ブテン二量体収率(%)」はそれぞれ下記式より算出した値である。
全ブテン転化率(%)=[1−(生成物中の全ブテン質量濃度/原料中の全ブテン質量濃度)]×100
ブテン二量体選択率(%)=(生成物中のブテン二量体質量濃度/(原料中の全ブテン質量濃度−生成物中の全ブテン質量濃度)×100
ブテン二量体収率(%)=全ブテン転化率×ブテン二量体選択率/100
【0052】
反応液中のリン原子の含有量(ppm)を全リン分析法としてJIS(日本工業規格)K0102「工場排水試験法」に規定されている方法の内、アスコルビン酸で還元させてモリブデンブルーとして発色させ吸光光度計で測定する方法により測定した。
【0053】
反応終了後の触媒Aについてリン(31P)の固体核磁気共鳴分光分析を行ったところ、担持されたリン酸の組成(リン原子換算のモル%、以下同じ。)は、オルトリン酸85%、ピロリン酸が15%でポリリン酸は存在していなかった。また、中和滴定の結果、触媒A中のリン酸量は、オルトリン酸換算で34.4量%であり、触媒Aの水洗によるリン酸除去および乾燥の結果、触媒A全質量に対する担体の割合は66.2質量%であった。
【0054】
(実施例2)
工程2で用いる媒体として、10質量%にイソブテンを含むヘキサンを用い、媒体中の水分量を70質量ppmとしたこと以外は実施例1と同じ条件で各工程を実施した。なお、70質量ppmの水分量は、工程2の条件においては飽和水分量未満である。結果を同じく表1に示す。実施例1と同じように、オレフィン転化率、ブテン二量体収率は良好であり、反応液へのリン酸溶出量も問題の無い低いレベルであった。
【0055】
(比較例1)
工程2を行わないこと以外は実施例1と同じ条件で各工程を実施した。結果を表1に示す。表から分かるように、工程2を行わないことにより、反応液へのリン酸溶出は極めて高いレベルであり、反応工程(工程3)におけるオレフィン転化率もブテン二量体の収率も低かった。
【0056】
(比較例2)
工程2で用いる媒体として、20質量%のイソブテンを含むヘキサンを用いたこと以外は実施例1と同じ条件で各工程を実施した。結果を表1に示す。表から分かるように、媒体中のオレフィン含有量を20質量と高くしたことにより、反応液中へのリン酸の溶出量は極めて多く、ブテン二量体の収率も低かった。また、反応終了後の固体リン酸に担持されている全リン酸に占めるオルトリン酸の比率も実施例に比べ低い値であり、二量化反応仮定に於いてオルトリン酸の縮合が進行していることが明らかとなった。
【0057】
(比較例3)
オレフィンの二量化反応工程(工程3)の反応温度を50℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で各工程を実施した。二量化反応温度が50℃と低かったことにより、反応液中へのリン酸の溶出量も多く、またブテン二量体の収率も低かった。また、反応終了後の固体リン酸に担持されている全リン酸に占めるオルトリン酸の比率も実施例に比べ低い値であり、二量化反応過程に於いてオルトリン酸の縮合が進行していることが明らかとなった。
【0058】
(実施例3)
担体として平均細孔径が50nmで、平均粒子径が3.5mmの概球形であるシリカ造粒品を用いて実施例1と同じように工程1を実施し、固体リン酸触媒Bを調製した。触媒Bを用い、実施例1と同じ条件で工程2と工程3を行った。結果を同じく表1に示す。触媒の平均粒子径がやや大きいことが由来して、オレフィン転化率がやや低かったが、問題の無いレベルであり、反応液へのリン酸の溶出も少なく良好であった。
【0059】
(実施例4)
担体として平均細孔径が10nmで、平均粒子径が2.3mmの概球形であるシリカ造粒品を用いて実施例1と同じように工程1を実施し、固体リン酸触媒Cを調製した。触媒Cを用い、実施例1と同じ条件で工程2と工程3を行った。結果を同じく表1に示す。平均細孔径が大きいためと思われるが、ブテン二量体の選択率がやや低かったが、収率としては問題ないレベルであった。また、反応液へのリン酸の溶出も少なく良好な結果であった。
【0060】
(実施例5)
担体として平均細孔径が100nmで、平均粒子径が2.3mmの概球形であるシリカ造粒品を用いて実施例1と同じように工程1を実施し、固体リン酸触媒Dを調製した。触媒Dを用い、実施例1と同じ条件で工程2と工程3を行った。結果を同じく表1に示す。オレフィン転化率、ブテン二量体収率、反応液中へのリン酸の溶出レベルも全て良好であった。
【0061】
(実施例6)
実施例1と同様の方法で調製した触媒Aに30質量ppmの水分を含有するヘキサンを50ml/hで反応器上部よりフィードしながら、2時間後に圧力3.0Mpa、触媒層入口温度90℃に到達させた。さらに70時間フィードを続けた(工程2)。なお、30質量ppmの水分量は上記の条件において、飽和水分量未満である。次いでこの条件下においてブテン混合原料(イソブチレン35質量%、ノルマルブテン類2質量%、プロピレン1質量%、ブタン類62質量%)に質量基準でこの混合原料の5質量ppmの水を添加したものを、LHSV7h−1にて供給し、下部より抜き出しながら二量化反応を実施した(工程3)。この反応条件では反応器内は液相状態が維持されていることを確認した。反応器にブテン混合原料を供給開始してから720時間後に反応器より固体リン酸触媒を取り出した。720時間後の反応結果はオレフィン転化率が51%、ブテン二量体選択率が68%でブテン二量体収率は35%であった。なお、この固体リン酸触媒のリン酸の組成はオルトリン酸2%、ピロリン酸が5%でポリリン酸は93%であった。また、中和滴定の結果、触媒中のリン酸量はオルトリン酸換算で20.4%であった。
シリカ造粒品の代わりに上記の劣化した固体リン酸触媒を用いて、実施例1と同じ条件でリン酸を担持させ、再生固体リン酸触媒を調製した。このものを固体リン酸触媒Eと称す。固体リン酸触媒Eを用いて、実施例1と同じ条件で工程2と3を実施し、ブテンの二量化反応を行った。結果を表1に示す。再生触媒は、新触媒であるAあるいはDと比べ、二量化活性、二量体選択率ともに全く遜色なかった。また反応液中へのリン酸の溶出も極めて少なく、全く問題なかった。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、固体リン酸触媒を用いて高い二量化反応活性と高い二量体収率の実現が可能である。また本発明により、二量化反応の過程において反応液へのリン酸の溶出を極めて低いレベルに抑えることが出来る。そのため溶出リン酸の除去のための設備の軽減が可能になり、設備の腐食の問題も低減できる。それにより、経済的にオレフィン二量体を生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸を無機担体粒子に担持させてなる固体リン酸触媒が収容された反応器に、混合物全量を基準として0〜15質量%のオレフィンと、接触条件における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水と、所定の媒体とを含む第1の混合物を導入し、前記固体リン酸触媒と前記第1の混合物とが接触した状態で、前記反応器内を所定の接触条件となるように昇温、昇圧させる第1の工程と、
前記第1の工程後の前記反応器内に、オレフィンと、反応温度における飽和水分量未満且つ10質量ppm以上の水とを含有する第2の混合物を導入し、前記固体リン酸触媒の存在下、55〜300℃の反応温度でオレフィンの二量化反応を行い、オレフィン二量体を含む反応生成物を得る第2の工程と、
を備えることを特徴とするオレフィン二量体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程後の前記固体リン酸触媒にリン酸を担持して再生し、前記第1の工程に供する第3の工程を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程において前記固体リン酸触媒にリン酸を担持するときの温度が100℃以下であり、且つ、担持に使用するリン酸濃度が正リン酸として93質量%以下であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記媒体が液体の炭化水素であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程に供される前記固体リン酸触媒のリン酸中のオルトリン酸の比率がリン原子換算で60モル%以上であり、細孔径が15〜200nmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程に供される前記固体リン酸触媒の前記無機担体の粒子径が3.0mm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程における二量化反応を液相で行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
前記オレフィンが炭素数3〜7のモノオレフィンである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により得られるオレフィン二量体。

【公開番号】特開2010−229056(P2010−229056A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76804(P2009−76804)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】