説明

オレフィン系樹脂組成物およびそれにより被覆された電線

【課題】自動車用電線の被覆材料に要求される難燃性、柔軟性などの特性を維持しながら、耐摩耗性が顕著に向上した、ハロゲンフリーオレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)オレフィン系ポリマー90〜99質量部、(b)低密度ポリエチレン1〜10質量部、(ただし、ポリマー(a)および(b)の合計は100質量部である。)、および(c)金属水酸化物30〜200質量部を含んでなるオレフィン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オレフィン系樹脂組成物およびそれにより被覆された電線に関する。このような被覆電線は、例えば、自動車用電線として有用である。
【0002】
【従来の技術】
自動車用電線の被覆材料として、これまで主としてポリ塩化ビニルが使用されてきた。それは、ポリ塩化ビニルが機械的強度、電線押出加工性、柔軟性、着色性、経済性の点で優れていたからである。
しかし、最近の地球環境対策を考慮して、自動車用電線の被覆を含め、自動車用部品の製造に、ポリ塩化ビニルに代えてハロゲンフリーの樹脂材料が使用されるようになっている。
【0003】
燃焼時にハロゲンガスのような有毒ガスを発生しないという利点を有する耐磨耗性樹脂組成物として、ポリオレフィンベースポリマーに、難燃剤として金属水酸化物を配合したハロゲンフリー樹脂組成物が知られている(特許文献1、特許文献2など)。
しかし、開示されている樹脂組成物が自己消火性を有する程度に難燃化するには、多量の金属水酸化物を添加する必要があるが、多量の金属水酸化物を添加すると、組成物の耐磨耗性や引張強度などの機械的強度が極端に低下するという問題が生じる。
【0004】
難燃性を保持しながら、オレフィン系樹脂組成物の耐摩耗性を向上させるために、特定の樹脂の組み合わせを用いた難燃性樹脂組成物が提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6など)。
しかしながら、特許文献3〜6に記載の樹脂組成物では、なお耐摩耗性が不十分である。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−176219号公報
【特許文献2】
特開平7‐78518号公報
【特許文献3】
特開平5−239281号公報
【特許文献4】
特開平8−36916号公報
【特許文献5】
特許第3031076号明細書
【特許文献6】
特許第3280104号明細書
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、例えば自動車用電線の被覆材料に要求される耐磨耗性がとりわけ改良された、ハロゲンフリーオレフィン系樹脂組成物を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、
(a)オレフィン系ポリマー90〜99質量部、
(b)低密度ポリエチレン1〜10質量部、
(ただし、ポリマー(a)および(b)の合計は100質量部である。)
および
(c)金属水酸化物30〜200質量部
を含んでなるオレフィン系樹脂組成物
を提供する。
また、本発明は、上記のオレフィン系樹脂組成物により被覆された電線をも提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の組成物に含まれる各成分は、組み合わされて所望の性質を与えるように選択される。以下、それら成分について説明する。
本発明の組成物に含まれるオレフィン系ポリマー(a)は、オレフィンのホモポリマー、2種以上のオレフィンのコポリマー、オレフィンと他のモノマーとの子ポリマーを包含する。オレフィン系ポリマーの具体例は、ポリプロピレン(ホモポリマー)、エチレン−プロピレンコポリマー等のプロピレン系ポリマー;高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン−アクリル酸エチルコポリマー(EEA)、エチレン−アクリル酸メチルコポリマー(EMA)、α−オレフィン−エチレンコポリマー、超高分子量ポリエチレンなどのエチレン系ポリマー;ポリビニルアルコール;TPO等である。これらは、単独で、または2種以上のブレンドとして使用することができる。
【0009】
オレフィン系ポリマー(a)には、配合剤や添加剤、例えば難燃剤としての金属水酸化物に対する相溶化剤として、無水マレイン酸変性オレフィン系ポリマーを配合してもよい。無水マレイン酸変性オレフィン系ポリマーの例としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレンコポリマー、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブタジエンコポリマー(MAH−SEBS)、無水マレイン酸変性EPRなどが挙げられる。
【0010】
オレフィン系ポリマー(a)の割合が上記上限を越えると、組成物が柔軟になりすぎ(引張伸びが大きくなりすぎ)、かつ組成物の耐摩耗性が向上しない。一方、オレフィン系ポリマー(a)の割合が上記下限より少なくなると、組成物の耐磨耗性が低下する。
【0011】
本発明において、低密度ポリエチレン(b)とは、通常、0.915〜0.930g/cmの密度を有するポリエチレンを意味する。
低密度ポリエチレン(b)の割合が上記上限を越えると、組成物の耐摩耗性が低下する。一方、低密度ポリエチレン(b)の割合が上記下限より少なくなると、組成物が柔軟になりすぎる。
【0012】
金属水酸化物(c)としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが例示できる。金属水酸化物の粒子は、通常カップリング剤、特にシランカップリング剤(例えば、アミノシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤など)、場合により高級脂肪酸(例えば、ステアリン酸、オレイン酸など)等の表面処理剤により表面処理されているのが好ましい。典型的に、シランカップリング剤は、水酸化物に結合するSi−O結合を含んでいる。中でも、カップリング剤、好ましくはシランカップリング剤、特にアミノシランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムがとりわけ好ましい。
【0013】
組成物中のポリマー(a)および(b)の合計量(100質量部)に対する金属水酸化物の割合は、通常30〜200質量部、好ましくは50〜150質量部、より好ましくは50〜90質量部である。
金属水酸化物の割合が大きすぎると、組成物の伸びが劣化し、耐磨耗性、柔軟性、加工性も損なわれる。一方、金属水酸化物の割合が小さすぎると、組成物の難燃性が悪くなる。
【0014】
本発明のオレフィン系樹脂組成物には、オレフィン系樹脂に通常配合される配合剤、例えば酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤などを、上記特性を低下させない範囲の量で添加してもよい。
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、上記各成分を、通常の方法により混合、混練することにより調製することができる。また、架橋助剤を配合して組成物を架橋させてもよい。
本発明の樹脂組成物により電線、特に自動車用電線を被覆する方法は、従来の方法と同様である。
【0015】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、例えば自動車用電線の被覆材料として用いた場合、該被覆材料に要求される難燃性、引張特性、柔軟性などの特性を満足し、とりわけ耐摩耗性が向上した、優れたハロゲンフリー樹脂組成物である。
【0016】
【実施例】
以下、実施例および比較例を示して、本発明をより具体的に説明する。
実施例1〜2および比較例1〜4
表1(実施例)または表2(比較例)に示す成分を、示された量で混合し、二軸押出機により200〜230℃で混練した。
得られた組成物を、断面積0.5mmの撚線導体(7/SB)の周囲に、被覆厚0.2mmで押出成形した。押出成形には、直径がそれぞれ1.25mmおよび0.88mmのダイスおよびニップルを使用し、押出温度は、ダイス230〜250℃、シリンダ230〜250℃とし、線速50m/分で押出成形した。
【0017】
実施例1〜2および比較例1〜4で得た被覆電線について、引張伸び、耐磨耗性、難燃性を、JASO(日本自動車技術会)D 611に準拠して測定した。耐摩耗性はサンプル数3の平均であり、300回以上を合格とする。
結果を表1〜2に示す。
【0018】
【表1】



【0019】
【表2】



【0020】
表1および表2の注:
1)プロピレン−エチレンブロックコポリマー(日本ポリケム株式会社製ノバテックPP:融点168℃、密度=0.905g/cm、M1=0.5g/10分)。
2)三井化学株式会社製5305E。
3)三井デュポンケミカル株式会社製EV360。
4)水添スチレン/ブタジエンブロック共重合体を無水マレイン酸により変性したスチレン系エラストマー(旭化成株式会社製タフテックM1913)。
5)日本ポリケム株式会社製ノバテックLD(密度=0.927g/cm)。
6)アミノシランカップリング剤により表面処理した水酸化マグネシウム(alusuisse−martinswerk GmbH製 MAGNIFIN H101V)。
7)未処理水酸化マグネシウム(alusuisse−martinswerk GmbH製 MAGNIFIN H10)。
8)チバスペシャルティケミカルズ株式会社製 Irganox 1010。
9)旭電化工業株式会社製CDA−1。
【0021】
比較例1〜2の結果から分かるように、低密度ポリエチレンの量が少ないと、組成物の耐摩耗性は向上しない。比較例3の結果から分かるように、低密度ポリエチレンの量が多くなっても、組成物の耐摩耗性がやはり低い。
比較例4の結果から分かるように、金属水酸化物の量が少ないと、組成物の難燃性が悪い。比較例5の結果から分かるように、金属水酸化物の量が多いと、組成物の伸びと耐摩耗性が悪くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オレフィン系ポリマー90〜99質量部、
(b)低密度ポリエチレン1〜10質量部、
(ただし、ポリマー(a)および(b)の合計は100質量部である。)
および
(c)金属水酸化物30〜200質量部
を含んでなるオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
オレフィン系ポリマー(a)は、オレフィンのホモポリマーまたはコポリマーである請求項1に記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
オレフィン系ポリマー(a)は、プロピレンのホモポリマーまたはコポリマーである請求項1に記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
低密度ポリエチレン(b)は、0.915〜0.930g/cmの密度を有する請求項1に記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
金属水酸化物は、水酸化マグネシウム、若しくはアミノシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤または脂肪酸により表面処理された水酸化マグネシウムである請求項1〜4のいずれかに記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のオレフィン系樹脂組成物により被覆された電線。

【公開番号】特開2004−189792(P2004−189792A)
【公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−356687(P2002−356687)
【出願日】平成14年12月9日(2002.12.9)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】