説明

オンライン診断システム及び方法

【課題】ケーブル配線を設備することなく、現場機器から中央制御室に向けてセンサ信号を伝送するオンライン診断システムを提供する。
【解決手段】オンライン診断システムでは、中央制御室に設けられる制御用CPU13と、現場機器に設けられる子機CPU21との間で、高圧ケーブルの遮蔽層L1を用いて、交流信号の制御データ及びセンサ信号を伝送する。制御用CPU13は、複数の現場機器の内の1つを指定して、パルス幅変調された制御データを送り、指定された現場機器の子機CPU21は、制御データのコマンドに従って、パルス幅変調されたセンサ信号を制御用CPU13に向けて伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オンライン診断システム及び方法に関し、更に詳しくは、工場やプラントなどの中央制御室から離れた現場機器のセンサによって検出されたセンサ信号を監視するオンライン診断システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場やプラントでは、各機器の運転中に異常検出や状態監視を行うオンライン診断システムが利用されている。オンライン診断システムでは、例えば高圧電動機などの現場機器の状態を計測するセンサからの信号を、中央制御室の制御用コンピュータに伝送し、そのセンサ信号に基づいて、現場機器の診断を行い、或いは、現場機器の制御を行っている。特に石油プラントなどのオンライン診断システムでは、現場の状況に応じて電気設備が気密構造を要求されるため、配線設備の構造や敷設場所などについての制約が大きく、配線設備のコストが全体の設備コストに大きなウエートを占める。
【0003】
特許文献1は、高圧電力ケーブルの課電試験に際して、試験電圧を印加する電力ケーブルの測定端から電力ケーブルの末端側に向けて、特別な配線を用いることなく、課電を実行する旨の信号を伝送する技術を記載している。この技術では、送信機によって、高圧ケーブルの測定端の遮蔽層又は予備線に課電を行う旨の高周波信号を印加する。高圧ケーブルの末端側では、受信機によって、伝送された高周波信号を高圧ケーブルの遮蔽層又は予備線から受信することによって、これから課電が行われる旨を検出する。
【特許文献1】特開2001−153914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オンライン診断システムにおいて、上記公報に記載された技術を利用し、高圧ケーブルの遮蔽層を信号の伝送線路に使用すれば、高圧の防爆電気設備についても、特別な防爆配線工事を行うことなく、センサ信号の伝送が可能になる。しかし、オンライン診断システムでは、課電試験の場合とは異なり、電動機、変圧器、インバータ等の高圧電気設備に送電中の高圧ケーブルを用い、その遮蔽層を利用して信号を伝送するため、信号伝送に際して特別な対策が必要になる。
【0005】
一般に、高圧ケーブルの遮蔽層や予備線を利用して信号を伝送する際には、高圧電気機器に設備された保護装置の誤動作を避けるために、送電中の商用電源の周波数とは異なる周波数の信号を伝送することが求められる。この場合、直流信号を用いることも考えられるが、直流電流による接地電極の電食などの問題があるため、利用できない。従って、誤動作を発生させない周波数の選定が必要になる。
【0006】
オンライン診断システムでは、センサ信号の受信に加えて、現場機器のセンサに対して直流などの電源を送る必要があり、このための配線が必要になる。更に、現場機器が複数のセンサを有する場合には、複数の信号配線が必要になり、これら、電源配線及び信号配線を別に設備すれば、設備コストが上昇する。複数のセンサ信号を現場機器内でまとめてシリアル伝送することも考えられるが、多数の現場機器が存在する場合には、信号伝送のタイミングが問題になる。
【0007】
本発明は、上記に鑑み、高圧ケーブルの遮蔽層を利用し、中央制御室などの制御室と現場機器との間でシリアル信号伝送を行うことにより、特に信号配線および現場機器動作電源配線を設置することなく設備することが出来るため、経済的な設備構成を可能とするオンライン診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のオンライン診断システムは、制御室と現場機器との間に設備されたケーブルを用いてセンサ信号を伝送するオンライン診断システムであって、
前記制御室は、制御室から現場機器に向けてコマンドを含む制御データを伝送する制御データ伝送モードと、現場機器から制御室に向けてセンサ信号を伝送するセンサ信号伝送モードとを選択するモード選択手段と、前記制御データ伝送モードにおいて交流のシリアル制御データを生成すると共に、前記センサ信号伝送モードにおいて出力がハイインピーダンスに設定される制御データ生成手段と、第1巻線が前記制御データ生成手段の出力に接続され第2巻線が前記ケーブルの遮蔽層に接続される第1絶縁変圧器と、前記第1絶縁変圧器の第1巻線に接続され、前記センサ信号伝送モードにおいて該第1巻線を経由して伝送されるセンサ信号を受信するセンサ信号受信手段とを備え、
前記現場機器は、第1巻線が前記遮蔽層に接続される第2絶縁変圧器と、入力が前記第2絶縁変圧器の第2巻線に接続され、前記制御データ伝送モードにおいて該第2絶縁変圧器の第2巻線を経由して前記交流制御データを受信する制御データ受信手段と、デジタルセンサ信号を生成するセンサ信号生成手段と、出力が前記第2絶縁変圧器の第2巻線に接続され、前記制御データ受信手段が受信した交流制御データのコマンドに従って、前記センサ信号伝送モードにおいて前記デジタルセンサ信号を交流センサ信号に変換して前記第2絶縁変圧器の第2巻線に伝送すると共に、前記制御データ伝送モードにおいて前記出力がハイインピーダンスに設定されるセンサ信号変換手段とを備える、
ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のオンライン診断方法は、制御用コンピュータを備える制御室と、現場コンピュータを備える現場機器との間に設備されたケーブルを用いてセンサ信号を伝送するオンライン診断方法であって、
制御室から現場機器に向けてコマンドを含む制御データを伝送する制御データ伝送モードと、現場機器から制御室に向けてセンサ信号を伝送するセンサ信号伝送モードとを選択するステップと、
前記制御データ伝送モードにおいて制御室から現場機器に向けて前記ケーブルの遮蔽層を介して交流シリアル制御データを伝送するステップと、
前記センサ信号伝送モードにおいて現場機器から制御室に向けて前記ケーブルの遮蔽層を介して交流センサ信号を伝送するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオンライン診断システム及び方法によると、特別な信号・電源配線を設置することなく、複数のセンサからの信号が現場機器から伝送されるため、低コストで設備できるオンライン診断システムが得られ、また、低コストの設備を利用したオンライン診断が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るオンライン診断システムを示す。オンライン診断システム100は、中央制御室に備えられる各種処理装置と、現場機器を構成する高圧電動機の端子箱内に収容される各種制御機器及び現場機器内に設備されるセンサとを含み、双方の間の信号伝送には、高圧電動機に電力を送電する高圧ケーブルの遮蔽層L1が使用される
【0012】
中央制御室には、パーソナルコンピュータ11、USB通信ユニット12、制御用コンピュータ(CPU)13、パルス幅検定ユニット14、パルス列受信ユニット15、パルス列電力増幅ユニット16、及び、絶縁変圧器17が設置される。現場機器を構成する各高圧電動機にはそれぞれ、絶縁変圧器18、電力ユニット19、パルス列検定ユニット20、現場(子機)CPU21、FIFOメモリ22、AD変換装置23、マルチプレクサ(MUX)24、及び、複数のセンサ25が設置される。
【0013】
パーソナルコンピュータ11は、USB通信ユニット12を経由して、制御用CPU13に対して、信号伝送のタイミング設定や信号伝送の指示などの制御データの入力を行い、また、各現場機器からのセンサ信号を入力し、現場機器の制御に必要な制御信号を生成して制御用CPU13に伝送する。制御用CPU13は、パーソナルコンピュータ11からの制御データや設定データに基づいて、各現場機器のCPU(子機CPU)21に必要な制御データを生成し、パルス列電力増幅ユニット16、絶縁変圧器17及び遮蔽層L1を介して各現場機器に伝送する。また、各現場機器の子機CPU21が制御データの指示に応答して伝送するセンサ信号(計測データ)を受け取り、これを復号化してパーソナルコンピュータ11に与える。
【0014】
パルス列電力増幅ユニット16は、制御用CPU13から受信するモード選択信号に応答して、制御用CPU13から現場機器に向けて制御データを伝送する制御データ伝送モード、又は、現場機器からセンサ信号を制御用CPU13に向けて伝送するセンサ信号伝送モードの何れかを選択する。パルス列電力増幅ユニット16は、制御データ伝送モードでは、制御用CPU13から、現場機器への指示のための制御データをポートA1及びA2から受信し、受信した制御データを交流信号に変換すると共にこれを増幅して、現場機器に向けて伝送する。また、センサ信号伝送モードでは、その出力ノードn1をハイインピーダンスに維持する。
【0015】
パルス列受信ユニット15は、センサ信号伝送モードにおいて、現場機器から遮蔽層L1及び絶縁変圧器17を経由して伝送された交流信号をノードn1で受け取り、これをパルス列に変換して、パルス幅検定ユニット14に与える。パルス幅検定ユニット14は、受信したパルス列の各パルス幅から、伝送されたデータを再生し、これを制御用CPU13に与える。
【0016】
現場機器の電力ユニット19は、制御データ伝送モードにおいて、絶縁変圧器18を経由して遮蔽層L1から交流信号を受け取り、これから直流電力を再生し、高圧電動機内に設備された各種制御機器やセンサの作動のための電力を供給する。電力ユニット19は、また、センサ信号伝送モードにおいて、子機CPU21からポートB1、B2を経由してセンサの計測データを受信して、これを交流信号に変換し、絶縁変圧器18及び遮蔽層L1を経由して中央制御室に向けてその交流信号を伝送する。
【0017】
パルス列検定ユニット20は、遮蔽層L1及び絶縁変圧器18を経由して受信したパルス列を成形して子機CPU21に入力する。子機CPU21は、パルス列検定ユニット20によって成形された制御データに含まれるID番号に基づいて、各現場機器の子機CPUのうち自装置への指示か否かを判断し、自装置への指示でかつ計測データ出力の指示であれば、各センサ25のデジタル計測データをシリアル信号として出力する。各センサ25のアナログ検出信号は、MUX24を介してAD変換装置23に入力され、FIFOメモリ22に入力されており、その入力順に子機CPU21に入力され、制御データに含まれる指示に従って、子機CPU21から出力される。
【0018】
図2は、制御用CPU13及びその周辺機器の構成及び接続の詳細を示している。パーソナルコンピュータ11と制御用CPU13との間は、USB(Universal Serial Bus)通信ユニット12によって接続されている。パーソナルコンピュータ11には、インタフェイスプログラム26がインストールされ、このプログラム26によって、現場機器などから送られてくる信号を、例えばグラフにして、図示しない制御コンソールに与える。また、現場機器から伝送されるセンサ信号を処理することにより、各現場機器を制御するための制御データを生成する。
【0019】
制御用CPU13は、モード選択手段30、コマンド・アドレス受信部31、リード・ソロモン符号化部32、パルス列生成部33、出力ポート34、通信ユニット制御部35、再送信コマンド生成部36、リード・ソロモン復号化部37、及び、入出力ポート38を有する。モード選択手段30は、中央制御室から現場機器に向けて制御データを伝送する制御データ伝送モードと、現場機器から中央制御室に向けてセンサ信号を伝送するセンサ信号伝送モードの何れかを選択する。コマンド・アドレス受信部31は、パーソナルコンピュータ11から制御データや設定データを受信し、制御データから、コマンドの内容及びそのコマンドを実行させる現場機器のアドレスを抽出する。抽出されたコマンド及びアドレスは、リード・ソロモン符号化部32によって符号化され、パルス列生成部33によってパルス列に変換され、出力ポート34から出力されて、パルス列電力増幅ユニット16に送られる。
【0020】
現場機器から伝送される各センサの計測データは、パルス列受信ユニット15からパルス幅検定ユニット(CPU)14に入力され、そのパルス幅に基づいたデジタル信号に変換されて、6ビット毎に制御用CPU13のリード・ソロモン復号化部37に入力する。リード・ソロモン復号化部37は、受信したデータに誤りがないと判断すると、そのデータを8ビット毎にまとめて、通信ユニット制御部35に与える。通信ユニット制御部35は、伝送すべき計測データが現場から得られると、パーソナルコンピュータ11に対して受信要求を発行することで、パーソナルコンピュータ11に計測データを与える。一方、リード・ソロモン復号化部37で受信したデータに誤りがあると判断されると、その情報は再送信コマンド生成部36に送られ、再送信コマンド生成部36は、当該計測データの再送信要求を生成し、リード・ソロモン符号化部32を経由して現場機器に伝送する。
【0021】
図3は、パルス列電力増幅ユニット16及び絶縁変圧器17の構成を示している。パルス列電力増幅ユニット16は、NPNトランジスタN1、N2、PNPトランジスタP1、P2、コンデンサC1〜C3、及び、抵抗R1〜R6を有する。トランジスタN1及びN2はダーリントン接続され、トランジスタP1及びP2はダーリントン接続されている。制御用CPUの出力ポートA1は、コンデンサC1を経由してトランジスタP1のベースに接続され、出力ポートA2は、コンデンサC2を経由してトランジスタN1のベースに接続される。P1、N1のベースはそれぞれR1、R3およびR2、R4により、それぞれP2、N2のエミッタレベルに接地されており、CPUの出力ポートA1、A2とはコンデンサにより交流的に接続されているので、A1およびA2の信号変化が生じない時は、P2、N2ともに遮断している。このとき、出力ノードn1はハイインピーダンス状態になっている。
【0022】
パルス列電力増幅ユニット16の動作は以下の通りである。双方のポートA1及びA2の信号レベルが何れも“L(0ボルト)”のときを受信モードとして、出力ノードn1はハイインピーダンスとなっている。
ここで、双方のポートA1およびA2の信号レベルを同時に“H(5ボルト)”とすると、電位の変化はC1、C2を伝わりP1、N1のベース電位それぞれ引き上げる。結果、ダーリントン接続されたP1、P2はそれぞれOFFし、ダーリントン接続されたN1、N2はONするため、出力ノードn1は0ボルトに移行する。この状態は、P1、P2についてはそれぞれのベース回路とR1、R3およびC1、R2、R4およびC2で定まる時定数T1の間継続する。
【0023】
次に、T1よりも短い間に双方のポートA1およびA2の信号レベルを同時に“L(0ボルト)”とすると、電位の変化はC1、C2を伝わりP1、N1のベース電位それぞれ引き下げる。結果、P1、P2がONし、N1、N2がOFFするため、出力ノードn1は電源電圧(この例では24ボルト)に移行する。
ポートA1、A2の電位を時定数T1よりも短い時間でパルス的に変化させることでパルス列電力ユニットは増幅動作を行う。
また、ポートA1、A2の信号変化を、時定数T1より十分長く停止することで出力ノードn1は自動的にハイインピーダンス状態に遷移する。
【0024】
制御用CPU13は、ポートA1及びA2に相補信号となるパルス列を出力し、その各パルスのパルス幅で制御データを符号化し、かつ、出力する相補信号の極性をパルス毎に反転させる。このため、パルス列電力増幅ユニット16からは、制御データに応じたパルス幅を持ち、かつ、出力電位がデータ毎に反転する交流信号が出力される。絶縁変圧器17は、この信号電圧を巻線比、例えば4:5で上昇させて遮蔽層L1に印加する。
【0025】
図4は、パルス列受信ユニット15の構成を示す。パルス列受信ユニット15は、カスケード接続された2つのバンドパスフィルタ39、39と、二値化ゲート40とから構成される。パルス列受信ユニット15は、現場機器から伝送される交流信号のパルス列から低周波及び高周波のノイズを除去しつつ、信号電圧波形を整形する。パルス幅検定ユニット14は、この整形された信号電圧のパルス幅に基づいて、現場機器から伝送された信号データを再生する。
【0026】
図5は、現場機器側に設置される電力ユニット19及びパルス列検定ユニット20の構成を示す。電力ユニット19は、絶縁変圧器18の2次側電圧を整流して直流電源を出力する全波整流回路と、全波整流回路の出力で充電され且つ高圧電動機側の各機器に電源を供給するバッテリ27と、子機CPU21から出力される計測データから交流信号を生成する交流信号生成回路とから構成される。全波整流回路は、ダイオードD1〜D4と抵抗R7、R8とから構成され、絶縁変圧器18を経由して伝送された交流信号から直流電圧を生成し、バッテリ27を充電する機能を有する。交流信号生成回路は、NPNトランジスタN3〜N6と、ダイオードD5、D6と、抵抗R9、R10とから構成される。
【0027】
交流信号生成回路は、以下の構成を有する。子機CPUの出力ポートB1は、トランジスタN3のベースと、ダイオードD6及び抵抗R10を介してトランジスタN6のベースに接続される。トランジスタN3のコレクタは、バッテリ27の正電極(5ボルト)に接続され、エミッタはトランジスタN4のコレクタに接続される。トランジスタN4のエミッタはバッテリ27の負電極に接続される。子機CPU21の出力ポートB2は、トランジスタN5のベースと、ダイオードD5及び抵抗R9を介してトランジスタN4のベースに接続される。トランジスタN5のコレクタは、バッテリ27の正電極(5ボルト)に接続され、エミッタはトランジスタN6のコレクタに接続される。トランジスタN6のエミッタはバッテリ27の負電極に接続される。ここで、NPNトランジスタN3とN4、NPNトランジスタN5とN6とを直列に接続して用いる理由は、NPNトランジスタN4及びN6に代えてPNPトランジスタP3及びP4をそれぞれ使用すると、トランジスタN3とPNPトランジスタP4とが同時にONしたときに、ノードn2とノードn3との間で生ずる電源短絡を防止するためである。
【0028】
交流信号生成回路は、以下のように動作する。センサ信号伝送モードでは、ポートB1及びB2には、“H(5ボルト)”又は“L(0ボルト)”の相補電圧が印加される。ポートB1が“H”、ポートB2が“L”のときには、トランジスタN3がON、トランジスタN4がOFF、トランジスタN5がOFF、トランジスタN6がONとなるので、ノードn2の電位がノードn3の電位よりも高くなり、遮蔽層L1が接地電位よりも高い正電圧に充電される。逆に、ポートB1が“L”、ポートB2が“H”のときには、各トランジスタの動作が逆になり、ノードn2の電位がノードn3の電位よりも低くなるので、遮蔽層L1は接地電位よりも低い負電圧に充電される。子機CPU21は、ポートB1及びB2に相補信号となるパルス列を出力し、その各パルスのパルス幅で制御データを符号化し、かつ、出力する相補信号の極性をパルス毎に反転させる。このため、電力ユニット19からは、センサ信号に応じたパルス幅を持ち、かつ、出力電位がセンサ信号毎に反転する交流信号が出力される。絶縁変圧器18は、この信号電圧を巻線比で上昇させて遮蔽層L1に印加する。
【0029】
子機CPU21は、制御データ伝送モードでは、ポートB1及びB2を何れも“L”に設定するので、電力ユニット19では、トランジスタN3〜N6がすべてOFFになり、ノードn2及びn3をハイインピーダンス状態に維持する。このとき、遮蔽層L1から伝送される制御データは、ノードn3からパルス列検定ユニット20に送られると共に、バッテリ27を充電する。
【0030】
バッテリの充電は、以下のように行われる。遮蔽層L1に正電圧が印加されるときには、ダイオードD1に順方向電圧が、ダイオードD3に逆方向電圧が印加されるように、伝送される制御データの信号電圧値に合わせて予め各絶縁変圧器17、18の巻数比を定めてある。また、パルス列検定ユニット20の抵抗R11、12は、電力ユニット19の抵抗R7、R8よりも十分に大きい抵抗値を有する。また、R7、R8は等しい値を選ぶ。つまり、中央制御室から遮蔽層L1を介してノードn2およびn3間に伝送される信号電圧は、整流ダイオードによる順方向降下を考慮した6.2ボルト以上の電圧Vボルトに設定されており、従って、ダイオードD1及びD4には、順方向電圧が印加され、これらダイオードがONとなる。このとき、電池B1は、i=(V―6.2)/R7の電流で充電される。また、パルス列検定ユニット20の入力であるノードn3の電圧は、−0.6ボルトの負電圧となり、その出力は“0”になる。逆に、遮蔽層から負電圧の信号が伝送されるときには、ダイオードD2、D3がONするので、抵抗R8を経由してバッテリ27に充電電流が供給される。このとき、パルス列検定回路の入力ノードn3は、5.6+R8×iボルトになり、パルス列検定ユニット20の出力は、“1”になる。パルス列検定ユニット20は、このように、受信した信号電圧を整形し、デジタルデータとして子機CPU21に与える。
【0031】
図6を参照すると、子機CPU21は、センサ信号伝送モードでFIFOメモリ22から計測データを入力して中央制御室側に伝送する計測データ伝送部と、制御データ伝送モードで中央制御室から伝送された制御データを受信し、これを解析して計測データ伝送部を制御する制御データ解析部とから構成される。制御データ解析部は、パルス幅検定部41、リード・ソロモン復号化部42、アドレス検定部43、コマンド解析部44、及び、入出力ポート48から構成され、計測データ伝送部は、リード・ソロモン符号化部45、パルス列生成部46、及び、出力ポート47から構成される。
【0032】
パルス幅検定部41は、パルス列検定ユニット20から整形された制御データパルスを受信すると、そのパルス幅に基づいて制御データを再生する。リード・ソロモン復号化部42は、再生された制御データに誤りがないか否かを判定し、誤りがない場合にはその制御データをアドレス検定部43に与える。誤りがある場合には、その制御データは無視される。制御データは、モードの種類を識別するデータ部分、各現場機器のID部分、及び、コマンド部分を含む。アドレス検定部43は、制御データのID部分に基づいて、その制御データが自装置のための制御データであるか否かを判定し、自装置以外の制御データである場合には、制御データを破棄する。
【0033】
アドレス検定部43は、制御データが自装置のためのコマンドであると判断する場合には、その制御データをコマンド解析部44に与える。制御データのコマンド部分は、AD変換実行及びFIFOメモリ22に格納、計測データ送信実行、又は、計測データ再送信実行などからなる。コマンド解析部44は、制御データからコマンドを解析し、そのコマンドに基づいて自装置内の計測データ伝送部や、センサ、各機器を制御する。
【0034】
子機CPU21は、アドレス検定部43が制御データは自装置以外のコマンドであると判断した場合には、電力ユニット19の出力ノードn2をハイインピーダンスとして、伝送される交流信号を電力ユニット19による充電動作のみに利用するスリープモードに移行する。また、制御データが自装置のためのコマンドである場合には、計測データ伝送部を作動させて、計測データを生成して待機する。制御データのモード部分が、センサ信号伝送モードに変わり、かつ、制御データのID部分が自装置のIDを指定すると、既に生成した計測データを中央制御室に向けて伝送する。この計測データは、制御用CPU13を経由してパーソナルコンピュータ11に伝送されて、インターフェイスプログラム26に従って利用される。
【0035】
計測データ伝送部は、リード・ソロモン符号化部45及びパルス列生成部46からなり、リード・ソロモン符号化部45は、FIFOメモリ22から入力ポート48を経由して受信したセンサ信号について、リード・ソロモン法による符号化を行って、パルス列生成部46に与える。パルス列生成部46は、符号化されたセンサ信号から、シリアルデータを生成して、出力ポートB1及びB2から電力ユニット19に出力する。本実施形態では、現場機器のIDの指定によって、センサ信号は、指定された現場機器に設置された一連のセンサ信号が順次に出力される。なお、制御データのアドレス部分にセンサのアドレスまでを加えれば、制御データでセンサ毎に指定してセンサ信号を出力するように構成することも出来る。
【0036】
上記実施形態に係るオンライン診断システムでは、高圧電気ケーブルの遮蔽層を信号配線として利用することにより、高圧電気室を中心としたネットワークの構成が容易になる。つまり、遮蔽層を一括に接続して信号配線として利用できる。また、センサの電源配線及び信号配線を設備する必要がないので、配線設備のコストが低減する。特に、石油プラントなどの防爆電気工事が必要な場所では、ケーブル配線を要しないため、そのコスト低減の効果は大である。更に、制御データ及びセンサ信号を交流の電圧信号として伝送する構成を採用したので、ノイズ耐性が大きくなり、なおかつ、電力を現場機器に効率的に伝送できる。
応用の際、交流信号として使用する周波数の選定は、高圧電気系統を保護する保護継電器の誤動作を起こさない周波数帯であることが必要である。かつ、現場機器とケーブル遮蔽層とを結合するコンデンサ容量(図1のC4の値)を極力小さくして事故時に現場機器に流れ込む電流をなるべく小さくする配慮が要る。これらに加え、ケーブルの対地静電容量の影響下で現場機器の電池を十分に充電するための設定として、通信周波数は数十〜100kHzの保護継電器が誤動作を起こさない周波数帯、また、結合コンデンサ(図1のC4)の値は0.05μF以下のなるべく大きな値が望ましい。
【0037】
上記実施形態では、パルス幅変調方式を利用して信号を伝送している。プラントなどでは、センサ信号の伝送自体には、それほどの高速を要しないので、このようなパルス幅変調方式が好ましいものの、その他に位相変調方式、或いは、周波数変調方式の採用も可能である。
【0038】
本発明のオンライン診断システムは、新たなケーブルの配線を必要としないので、既設の高圧電気機器などに容易にかつ低コストで適用可能である。なお、上記実施形態では、高圧ケーブルの遮蔽層を利用する例を挙げたが、ケーブルに予備線があれば遮蔽層に代えて予備線を利用することもできる。
【0039】
以上、本発明をその好適な実施態様に基づいて説明したが、本発明のオンライン診断システム及び方法は、上記実施態様の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施態様の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。また、本発明の好適な態様として記載した各構成や実施形態で記載した各構成については、本発明の必須の構成と共に用いることが好ましいが、単独であっても有益な効果を奏する構成については、必ずしも本発明の必須の構成として説明した全ての構成と共に用いる必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るオンライン診断システムの構成を示すブロック図。
【図2】図1に示した中央制御室の制御用CPU及びその周辺機器のブロック図。
【図3】図1に示したパルス列電力増幅ユニットのブロック図。
【図4】図1に示したパルス列受信ユニットのブロック図。
【図5】図1に示した電力ユニット及びパルス列検定ユニットのブロック図。
【図6】図1に示した子機CPU及びその周辺回路及びセンサを示すブロック図。
【符号の説明】
【0041】
11:パーソナルコンピュータ
12:USB通信ユニット
13:制御用CPU
14:パルス幅検定ユニット
15:パルス列受信ユニット
16:パルス列電力増幅ユニット
17:絶縁変圧器
18:絶縁変圧器
19:電力ユニット
20:パルス列検定ユニット
21:子機CPU
22:FIFOメモリ
23:AD変換装置
24:MUX
25:センサ
26:インターフェイスプログラム
27:バッテリ
30:モード選択手段
31:コマンド・アドレス受信部
32:リード・ソロモン符号化部
33:パルス列生成部
34:出力ポート
35:通信ユニット制御部
36:再送信コマンド生成部
37:リード・ソロモン復号化部
38:入出力ポート
39:バンドパスフィルタ
40:二値化ゲート
41:パルス幅検定部
42:リード・ソロモン複号化部
43:アドレス検定部
44:コマンド解析部
45:リード・ソロモン符号化部
46:パルス列生成部
47:出力ポート
48:入力ポート
N1〜N6:NPNトランジスタ
P1〜P2:PNPトランジスタ
R1〜R12:抵抗
D1〜D4:ダイオード
n1〜n3:ノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御室と現場機器との間に設備されたケーブルを用いてセンサ信号を伝送するオンライン診断システムであって、
前記制御室は、
制御室から現場機器に向けてコマンドを含む制御データを伝送する制御データ伝送モードと、現場機器から制御室に向けてセンサ信号を伝送するセンサ信号伝送モードとを選択するモード選択手段と、
前記制御データ伝送モードにおいて交流のシリアル制御データを生成すると共に、前記センサ信号伝送モードにおいて出力がハイインピーダンスに設定される制御データ生成手段と、
第1巻線が前記制御データ生成手段の出力に接続され第2巻線が前記ケーブルの遮蔽層に接続される第1絶縁変圧器と、
前記第1絶縁変圧器の第1巻線に接続され、前記センサ信号伝送モードにおいて該第1巻線を経由して伝送されるセンサ信号を受信するセンサ信号受信手段とを備え、
前記現場機器は、
第1巻線が前記遮蔽層に接続される第2絶縁変圧器と、
入力が前記第2絶縁変圧器の第2巻線に接続され、前記制御データ伝送モードにおいて該第2絶縁変圧器の第2巻線を経由して前記交流制御データを受信する制御データ受信手段と、
センサによって得た電気信号をデジタル変換するセンサ信号生成手段と、
出力が前記第2絶縁変圧器の第2巻線に接続され、前記制御データ受信手段が受信した交流制御データのコマンドに従って、前記センサ信号伝送モードにおいて前記デジタルセンサ信号を交流センサ信号に変換して前記第2絶縁変圧器の第2巻線に伝送すると共に、前記制御データ伝送モードにおいて前記出力がハイインピーダンスに設定されるセンサ信号変換手段とを備える、
ことを特徴とするオンライン診断システム。
【請求項2】
前記現場機器は、更に前記制御データ伝送モードにおいて前記遮蔽層から伝送される交流制御データ信号を整流して現場機器作動用の直流電源を生成する整流手段を備える、請求項1に記載のオンライン診断システム。
【請求項3】
制御用コンピュータを備える制御室と、現場コンピュータを備える現場機器との間に設備されたケーブルを用いてセンサ信号を伝送するオンライン診断方法であって、
制御室から現場機器に向けてコマンドを含む制御データを伝送する制御データ伝送モードと、現場機器から制御室に向けてセンサ信号を伝送するセンサ信号伝送モードとを選択するステップと、
前記制御データ伝送モードにおいて制御室から現場機器に向けて前記ケーブルの遮蔽層を介して交流シリアル制御データを伝送するステップと、
前記センサ信号伝送モードにおいて現場機器から制御室に向けて前記ケーブルの遮蔽層を介して交流センサ信号を伝送するステップと、
を有することを特徴とするオンライン診断方法。
【請求項4】
前記現場機器で、前記制御データ伝送モードにおいて前記交流シリアル信号を整流して直流電源を生成するステップを更に有する、請求項3に記載のオンライン診断方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−248127(P2007−248127A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69291(P2006−69291)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】