説明

オートマチックトランスミッション流体のための摩擦調整剤としてのヒドロキシ含有第三級アミン

多量の潤滑粘性油と、式RNR(式中、RおよびRが少なくとも6個の炭素原子からなるアルキル基であり、Rが水素、ヒドロカルビル基、ヒドロキシル含有アルキル基、またはアミン含有アルキル基である)で表される第二級または第三級アミンと、分散剤とからなる組成物は、特にオートマチックトランスミッションの摩擦成分として、酸化ストレスおよび機械的ストレスが加えられている間でも高い静摩擦係数と持続性のある正勾配をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートマチックトランスミッション流体、トラクション流体、連続可変トランスミッション(CVT)流体、デュアルクラッチオートマチックトランスミッション流体、農用トラクター用流体、およびエンジン潤滑剤などの流体用添加剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
オートマチックトランスミッション市場では、重量を減らし伝達力を高めたいという要望から急激な技術変化が起きており、クラッチ保持力の向上のために高い静摩擦係数を示すオートマチックトランスミッション流体が望まれている。同時に、μ/v(摩擦係数対摺動速度)曲線における正勾配特性の維持を向上させたいという要望もある。こうした特性の定義に使用されるより新たな試験が市場で行われている。静的トルクは、Toyota SAE#2摩擦試験法などの試験で測定することができ、正勾配の維持は、酸化エージングや機械的エージングの際に周期的にμ/v曲線の勾配が測定されるJASO LVFA(日本自動車規格 低速滑り摩擦試験)のような方法で測定することができる。
【0003】
この性能を実現するのに使用されるある種の摩擦調整剤技術が記載されている特許(例えば、特許文献1)がある。静摩擦係数が高く、かつ正勾配が持続するという複合的な要件は、本特許文献にきわめて詳細に記載されている従来のATF摩擦調整剤技術では満たされないことが多い。通常使用される摩擦調整剤の多くでは、静摩擦係数が小さくなり、また十分役立つほどに正勾配が十分に持続しない。正のmu/vやシャダー防止特性を維持するための技術について記載している他の特許文献には、特許文献2がある。これらの文献では、金属洗浄剤や、摩擦調整剤の混合物を使用する場合がある。
【0004】
特許文献3(Adams et al、2004年1月24日)では、(a)カルボン酸とアミノアルコールとの反応によって得られる、少なくとも2個のヒドロカルビル基を含有する摩擦調整剤と、(b)オートマチックトランスミッションにおいて良好な摩擦特性を提供する分散剤との流体組成物が開示されている。
【0005】
特許文献4では、以下の構造を有する種々のイミダゾリン類またはオキサゾリンであってよく:
【0006】
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれCHOCOR、CHOHまたはHを表す)、カルボン酸(またはその反応等価物)とアミノアルコールとの縮合(例えば、2モルのイソステアリン酸と1モルのトリス‐ヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)との縮合)によって調製される、種々の生成物の少なくとも1つを含む潤滑油が開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,750,476号
【特許文献2】米国特許第5,858,929号
【特許文献3】国際公開第04/007652号
【特許文献4】米国特許第4,886,612号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、摩擦系において酸化ストレスおよび機械的ストレスが加えられている間でも高い静摩擦係数を得て、持続性のある正勾配を維持するための、特にオートマチックトランスミッションで使用される、比較的単純かつ安価な新規の摩擦調整剤を開発するという問題を解決する。これは、以下で詳述する通り、少なくとも6個の炭素原子からなるアルキル基を少なくとも2個有する第三級アミンを含む摩擦調整剤を使用することによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トランスミッションを潤滑するのに適した組成物であって、
(a)多量の潤滑粘性油と、
(b)以下の式で表される第三級アミンと:
NR
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して少なくとも6個の炭素原子からなるアルキル基であり、Rはポリヒドロキシル含有アルキル基またはポリヒドロキシル含有アルコキシアルキル基である)、
(c)分散剤と、
を含む、組成物を提供する。
【0009】
本発明はさらに、トランスミッションを潤滑する方法であって、前記トランスミッションに上記の組成物を供給する手順を含む、方法も提供する。
【0010】
本発明はさらに、潤滑粘性油で希釈してトランスミッション用の潤滑剤を調製するのに適した濃縮物であって、(a)濃縮物を形成する量の潤滑粘性油と、(b)上記の第三級アミンと、(c)分散剤とを含む、濃縮物も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下では種々の好ましい特徴および実施形態を非限定的な実例によって説明する。
【0012】
本発明の1つの成分は潤滑粘性油であり、潤滑剤組成物の場合は多量に、濃縮物の場合は濃縮物を形成する量だけ存在することができる。好適な油には、天然および合成の潤滑油ならびにこれらの混合物が含まれる。完全に調合された潤滑剤の場合、潤滑粘性油は一般的には多量に(すなわち、50重量%を超える量)存在する。典型的には、潤滑粘性油は組成物の75〜95重量%の量存在し、多くの場合は80重量%を超えて存在する。濃縮物の場合、潤滑粘性油は、低濃度または少量(例えば、10〜50重量%)存在する場合があり、一実施形態においては10〜30重量%存在する場合がある。
【0013】
本発明の潤滑剤および機能液を作製するのに有用な天然油には、動物油および植物油、ならびに液体石油や、水素化分解および水素化仕上げプロセスでさらに精製される場合があるパラフィン系、ナフテン系またはパラフィン/ナフテン混合系の溶剤処理または酸処理した鉱物潤滑油などの鉱物潤滑油が含まれる。
【0014】
合成潤滑油には、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油(ポリアルファオレフィンとしても知られている重合および共重合オレフィンなど);ポリフェニル;アルキル化ジフェニルエーテル;アルキルベンゼンまたはジアルキルベンゼン;およびアルキル化ジフェニルスルフィド;ならびにこれらの誘導体、類似体および同族体が含まれる。また、末端ヒドロキシル基がエステル化またはエーテル化によって変性されている場合がある、アルキレンオキシドのポリマーおよびインターポリマーならびにこれらの誘導体も含まれる。さらに、ジカルボン酸と種々のアルコールとのエステル、またはC5〜C12のモノカルボン酸とポリオールまたはポリオールエーテルから作られるエステルも含まれる。他の合成油には、ケイ素系油、リン含有酸の液体エステル、および高分子量テトラヒドロフランが含まれる。合成油は、Fischer‐Tropsch反応によって製造される場合があり、典型的には水素異性化Fischer‐Tropsch炭化水素および/またはワックス、または水素異性化スラックワックスを含む場合がある。
【0015】
本発明の潤滑剤では未精製、精製および再精製の油(天然または合成のいずれか)を使用することができる。未精製油とは、さらなる精製処理を行うことなく天然源または合成源から直接得られる油である。精製油は、1つ以上の特性を向上させるために1つ以上の精製手順でさらに処理されている。これらの油は、例えば水素化して、酸化安定性の向上した油を得ることができる。
【0016】
一実施形態において、潤滑粘性油は、APIのグループII、グループIII、グループIV、またはグループVの油であり、合成油、またはこれらの混合物も含まれる。これらは、APIのBase Oil Interchangeability Guidelinesで制定された分類である。グループIIおよびグループIIIの油はいずれも、0.03%未満の硫黄と99%超の飽和物を含有する。グループIIの油は粘度指数が80〜120であり、グループIIIの油は粘度指数が120を超える。ポリアルファオレフィンはグループIVに分類される。グループVは、「その他すべて」(0.03%超の硫黄および/または90%未満の飽和物を含有し、粘度指数が80〜120であるグループIを除く)を包含する。
【0017】
一実施形態において、潤滑粘性油の少なくとも50重量%は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。典型的には、ポリアルファオレフィンは、4〜30個、または4〜20個、または6〜16個の炭素原子を有するモノマーから得られる。有用なPAOの例には、1‐デセンから得られるものが含まれる。これらのPAOは、100℃での粘度が1.5〜150mm/秒(cSt)である場合がある。PAOは典型的には水素化物質である。
【0018】
本発明の油は、単一粘度範囲の油を包含してもよければ、高粘度と低粘度の範囲の油の混合物を包含してもよい。一実施形態において、油は100℃での動粘度が1または2〜8または10mm/秒(cSt)である。潤滑剤組成物全体は、100℃での粘度が1または1.5〜10または15または20mm/秒となり、−40℃でのBrookfield粘度(ASTM‐D‐2983)が20または15Pa‐s(20,000cPまたは15,000cP)未満(10Pa‐s、さらには5未満など)となるように、油とその他の成分を使用して調合される場合がある。
【0019】
成分(b)は第三級アミンであり、摩擦調整剤の役割を果たす。アミンは3つのヒドロカルビル置換基を含有し、その内の2つはアルキル基である。アミンは以下の式で表される:
NR
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して少なくとも6個の炭素原子(例えば、8〜20個または10〜18個または12〜16個の炭素原子)からなるアルキル基であり、Rはポリヒドロキシル含有アルキル基またはポリヒドロキシル含有アルコキシアルキル基である。
【0020】
一実施形態において、アミンは、ジココアルキルアミンまたは同族のアミンの生成物を含む。ジココアルキルアミン(またはジココアミン)は、上式中のR基の2つが主にC12基(ヤシ油由来)であり、残りのRがHである、第二級アミンである。
【0021】
一実施形態において、Rは、ポリオール含有アルキル基(すなわち、2個以上のヒドロキシ基を含有する基)または1つ以上のヒドロキシ基および1つ以上のアミン基を含有する基である。例えば、Rは、例えば、3〜8個の炭素原子または3〜6個の炭素原子または3〜4個の炭素原子、および2個、3個、4個またはそれ以上のヒドロキシ基(通常は、炭素原子1個につきヒドロキシ基1個程度)を含有する、−CH−CHOH−CHOHまたはその同族体である場合がある。したがって、得られる典型的な生成物は、
N−CH−CHOH−CHOH
(式中、RおよびRは、上述の通り、独立して8〜20個の炭素原子からなるアルキル基である)またはその同族体によって表される場合がある。このような生成物は、ジアルキルアミンとエポキシドまたはクロロヒドロキシ化合物との反応によって得られる場合がある。特に、第二級アミンとグリシドール(2,3‐エポキシ‐1‐プロパノール)または「クロログリセリン」(すなわち、3‐クロロプロパン‐1,2‐ジオール)との反応は、上述の条件下で有効となる場合がある。ジココアミンと1モル以上のグリシドールまたはクロログリセリンとの反応に基づくこのような物質は、摩擦調整機能を果たす上で特に有用である。複数モルのグリシドールまたはクロログリセリン、または他のエポキシアルカノールまたはクロロジオールとの反応である場合は、ダイマーエーテルまたはオリゴマーエーテル含有基、すなわち、ヒドロキシル置換アルコキシアルキル基が得られる場合がある。
【0022】
あるいは、ある実施形態において、アミン(成分(b))は、3〜8個の炭素原子(例えば、3〜6個、または3個の炭素原子)を含む中核部分であって、(i)少なくとも2つのヒドロキシ基、あるいは少なくとも1つのヒドロキシ基および1〜4個の炭素原子の少なくとも1つのアルコキシ基(前記アルコキシ基は、少なくとも1つのヒドロキシ基または別のこのようなアルコキシ基でさらに置換される);および(ii)少なくとも1つのアミノ基(そのアミノ基の窒素原子は2つのヒドロカルビル基を有し、このようなヒドロカルビル基はそれぞれ独立して6〜30個の炭素原子を有する)で置換される、中核部分を含む化合物として記載される場合がある。
【0023】
本発明の組成物中の成分(b)の量は、一般的に、オートマチックトランスミッションのシャダー(すなわち、トランスミッション流体の摩擦特性のバランスが不適切である場合に湿式クラッチ操作時に見られる性能不良)を低減するかまたは抑制するのに適した量である。有効量は、出来上がった流体配合物の0.01〜10.0重量%であってよい。別の量としては、0.02%〜5%、または0.1%〜3%、または0.1〜2%、または0.5〜1.5%が含まれる。濃縮物の場合、量はそれに応じて多くなる。
【0024】
成分(c)は分散剤である。これは、(b)の摩擦調整剤の一部が分散剤のいくつかの特性を示す場合に、「(b)の種類以外」として記載される場合がある。「カルボン酸分散剤」の例については、以下をはじめとする多くの米国特許に記載されている:第3,219,666号、第3,316,177号、第3,340,281号、第3,351,552号、第3,381,022号、第3,433,744号、第3,444,170号、第3,467,668号、第3,501,405号、第3,542,680号、第3,576,743号、第3,632,511号、第4,234,435号、再発行第26,433号、および第6,165,235号。
【0025】
スクシンイミド分散剤(カルボン酸分散剤の1種)は、ヒドロカルビル置換無水コハク酸(またはその反応等価物(例えば、酸、酸ハロゲン化物、またはエステル))を上述のようなアミンと反応させることによって調製される。ヒドロカルビル置換基は一般的に、平均で少なくとも8個から、または20個から、または30個から、または35個から、最高350個、または最高200個、または最高100個の炭素原子を含有する。一実施形態において、ヒドロカルビル基はポリアルケンから得られる。このようなポリアルケンは、少なくとも500の
【0026】
【化2】

(数平均分子量)によって特徴付けることができる。一般的にポリアルケンは、500から、または700から、または800から、または900から、最高5000、または最高2500、または最高2000、または最高1500の
【0027】
【化3】

によって特徴付けられる。別の実施形態において、
【0028】
【化4】

は、500から、または700から、または800から、最高1200または1300の範囲で変動する。一実施形態において、多分散度(
【0029】
【化5】

)は少なくとも1.5である。
【0030】
ポリアルケンには、2個から最高16個、または最高6個、または最高4個の炭素原子の重合可能なオレフィンモノマーのホモポリマーおよびインターポリマーが含まれる。オレフィンは、エチレン、プロピレン、1‐ブテン、イソブテン、および1‐オクテンなどのモノオレフィン;またはジオレフィンモノマー(例えば、1,3‐ブタジエンおよびイソプレン)などのポリオレフィンモノマーである場合がある。一実施形態において、インターポリマーはホモポリマーである。ポリマーの例にはポリブテンがある。一例として、ポリブテンの約50%がイソブチレンから得られる。ポリアルケンは従来の方法で調製することができる。
【0031】
一実施形態において、コハク酸系アシル化剤は、ポリアルケンを過剰なマレイン酸無水物と反応させて、置換基の各当量のスクシン基の数が少なくとも1.3、例えば、1.5、または1.7、または1.8である、置換コハク酸系アシル化剤を得ることによって調製される。置換基当たりのスクシン基の最大数は、一般的に4.5、または2.5、または2.1、または2.0を超えない。置換基がこのようなポリオレフィンから得られる置換コハク酸系アシル化剤の調製および使用については、米国特許第4,234,435号に記載されている。
【0032】
置換コハク酸系アシル化剤は、上述のアミンや、アミンの蒸留残留物として知られる重質アミン生成物を含めたアミンと反応させることができる。アシル化剤と反応させるアミンの量は、典型的には、COとNのモル比が1:2から1:0.75となる量である。アミンが第一アミンである場合は、イミドへの完全な縮合が起こり得る。種々の量のアミド生成物(例えば、アミド酸)も存在する場合がある。反応がむしろアルコールと行われる場合、得られる分散剤はエステル分散剤となるであろう。別個の分子中であれ(上記の縮合アミンの場合のように)同じ分子中であれ、アミン官能基とアルコール官能基の両方が存在する場合は、アミド、エステル、そしておそらくはイミド官能基が混ざり合ったものが存在し得る。これらはいわゆるエステル‐アミド分散剤である。
【0033】
「アミン分散剤」は、比較的高分子量の脂肪族または脂環式のハロゲン化物およびアミン(例えば、ポリアルキレンポリアミン)の反応生成物である。これらの例については、米国特許第3,275,554号、第3,438,757号、第3,454,555号、および第3,565,804号に記載されている。
【0034】
「マンニッヒ分散剤」は、アルキル基が少なくとも30個の炭素原子を含むアルキルフェノールと、アルデヒド(特にホルムアルデヒド)およびアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。以下の米国特許に記載されている物質が実例である:第3,036,003号、第3,236,770号、第3,414,347号、第3,448,047号、第3,461,172号、第3,539,633号、第3,586,629号、第3,591,598号、第3,634,515号、第3,725,480号、第3,726,882号、および第3,980,569号。
【0035】
後処理分散剤も本発明に含まれる。これらの分散剤は一般的に、カルボン酸分散剤、アミン分散剤またはマンニッヒ分散剤を、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸(「ホウ素化分散剤」が得られる))、リン酸化合物(例えば、リンのオキソ酸または無水リン酸)、または2,5‐ジメルカプトチアジアゾール(DMTD)などの反応物と反応させることにより得られる。この種の例示的物質については、以下の米国特許に記載されている:第3,200,107号、第3,282,955号、第3,367,943号、第3,513,093号、第3,639,242号、第3,649,659号、第3,442,808号、第3,455,832号、第3,579,450号、第3,600,372号、第3,702,757号、および第3,708,422号。他の関連する分散剤には、(a)上述の分散剤、および(b)25℃では炭化水素潤滑粘性油に実質的に溶解しない、2,5‐ジメルカプト‐1,3,4‐チアジアゾールまたはヒドロカルビル置換2,5‐ジ‐メルカプト‐1,3,4‐チアジアゾール、さらには(c)ホウ素化剤または(d)無機リン酸化合物のいずれか、あるいは(c)と(d)の両方を、一緒に加熱することによって調製される生成物を含む組成物が含まれ、前記加熱は、25℃で前記炭化水素油に溶解する(a)と(b)と(c)または(d)との反応生成物を得るのに十分なものである。これらの物質は、米国特許出願第2005‐0041395号に記載されている。
【0036】
分散剤の混合物も使用することができる。
【0037】
本発明の組成物中の成分(c)の量は一般的に0.3〜10重量%である。他の実施形態において、成分(c)の量は、最終混合流体配合物の0.5〜7%または1〜5%である。濃縮物の場合、量はそれに応じて多くなる。
【0038】
トランスミッション流体、特にオートマチックトランスミッション流体(ATF)において従来から使用されている他の成分も、通常は存在する。
【0039】
機能液は、1つ以上の粘度調整剤および/または分散剤の粘度調整剤を含有する場合がある。粘度調整剤(VM)および分散剤の粘度調整剤(DVM)はよく知られている。VMおよびDVMの例には、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、スチレン‐マレイン酸エステルコポリマー、および類似の高分子物質(ホモポリマー、コポリマーおよびグラフトコポリマーを含む)が含まれる。DVMは、窒素含有メタクリレートポリマー、例えば、メタクリル酸メチルおよびジメチルアミノプロピルアミンから得られる窒素含有メタクリレートポリマーを含む場合がある。
【0040】
市販のVM、DVMおよびそれらの化学種の例には以下が含まれる:ポリイソブチレン(例えば、BP AmocoのIndopolTM、またはExxonMobilのParapolTM);オレフィンコポリマー(例えば、LubrizolのLubrizolTM7060、7065および7067、ならびにMitsuiのLucantTMHC‐2000LおよびHC‐600);水素化スチレン‐ジエンコポリマー(例えば、ShellのShellvisTM40および50、LubrizolのLZ(登録商標)7308および7318);分散剤コポリマーであるスチレン/マイレン酸コポリマー(例えば、LubrizolのLZ(登録商標)3702および3715);その一部は分散剤の特性を有するポリメタクリレート(例えば、RohMaxのViscoplexTMシリーズ、AftonのHitecTMシリーズ、ならびにLubrizolのLZ 7702TM、LZ 7727TM、LZ 7725TMおよびLZ 7720CTMのもの);オレフィン‐graft‐ポリメタクリレートポリマー(例えば、RohMaxのViscoplexTM2‐500および2‐600);ならびに水素化ポリイソプレン星型ポリマー(例えば、ShellのShellvisTM200および260)。使用される場合がある粘度調整剤については、例えば、米国特許第5,157,088号、第5,256,752号および第5,395,539号に記載されている。VMおよび/またはDVMは、機能液中で最高20重量%の濃度で使用される場合がある。1〜12重量%または3〜10重量%の濃度が使用される場合がある。
【0041】
本発明で使用される組成物で使用される場合がある別の成分には、補助摩擦調整剤がある。摩擦調整剤は当業者に周知である。摩擦調整剤の有用な一覧については、米国特許第4,792,410号に記載されている。米国特許第5,110,488号では、摩擦調整剤として有用な脂肪酸の金属塩および特に亜鉛塩が開示されている。摩擦調整剤の一覧には以下が含まれる:
(i)脂肪亜リン酸塩
(ii)脂肪酸アミド
(iii)脂肪エポキシド
(iv)ホウ素化脂肪エポキシド
(v)上記の成分(b)以外の脂肪アミン
(vi)グリセロールエステル(例えば、部分エステル)
(vii)ホウ素化グリセロールエステル
(viii)アルコキシル化脂肪アミン
(ix)ホウ素化アルコキシル化脂肪アミン
(x)脂肪酸金属塩
(xi)硫化オレフィン
(xii)脂肪イミダゾリン
(xiii)カルボン酸とポリアルキレン‐ポリアミンとの縮合生成物
(xiv)アルキルサリチル酸金属塩
(xv)アルキルリン酸アミン塩
(xvi)エトキシル化アルコール
およびこれらの混合物。
【0042】
これらの種類の摩擦調整剤それぞれの代表的なものは知られており、市販されている。例えば、(i)の脂肪亜リン酸塩は一般的に式(RO)PHOを有する。前述の式に示す亜リン酸ジアルキルは、典型的には式(RO)(HO)PHOの亜リン酸モノアルキルの少量とともに存在する。これらの構造において、「R」という用語は従来からアルキル基と呼ばれている。当然ながら、前記アルキルは実際にはアルケニルである可能性もあり、したがって本明細書で使用される「アルキル」および「アルキル化」という用語は、亜リン酸塩中の飽和アルキル基以外を包含することになる。亜リン酸塩は、亜リン酸塩が実質的に親油性となるのに十分なヒドロカルビル基を有していなければならない。一実施形態において、ヒドロカルビル基は実質的に枝なしである。数多くの好適な亜リン酸塩が市販されており、また米国特許第4,752,416号に記載の通り合成される場合がある。亜リン酸塩は、R基のそれぞれに8〜24個の炭素原子を含有する場合がある。ある実施形態において、脂肪亜リン酸塩は、脂肪酸基のそれぞれに12〜22個の炭素原子を含有するか、あるいは16〜20個の炭素原子を含有する。一実施形態において、脂肪亜リン酸塩はオレイル基から形成することができ、したがってそれぞれの脂肪酸基中に18個の炭素原子を有することができる。
【0043】
(iv)のホウ素化脂肪エポキシドは、カナダ特許第1,188,704号で知られている。これらの油溶性ホウ素含有組成物は、ホウ酸または三酸化ホウ素を、80℃〜250℃の温度にて、以下の式を有する少なくとも1つの脂肪エポキシドと反応させることによって調製される:
【0044】
【化6】

(式中、R、R、RおよびRのそれぞれは水素または脂肪族基であるか、あるいはこれらのいずれかの2つが、それらが結合する1つ以上のエポキシ炭素原子と一緒になって、環状基を形成する)。脂肪エポキシドは、一実施形態においては少なくとも8個の炭素原子を含有する場合がある。
【0045】
ホウ素化脂肪エポキシドは、2種類の物質の反応を伴うその調製方法によって特徴付けることができる。反応物Aは、三酸化ホウ素であってもよければ、あるいはメタホウ酸(HBO)、オルトホウ酸(HBO)および四ホウ酸(H)を含めた種々の形態のホウ酸のいずれかであってもよい。ホウ酸、特にオルトホウ酸が使用される場合がある。反応物Bは、上記の式を有する少なくとも1つの脂肪エポキシドであってよい。式中、R基のそれぞれは水素または脂肪族基であることが最も多く、少なくとも1個が少なくとも6個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基または脂肪族基である。反応物Aと反応物Bとのモル比は一般的に1:0.25〜1:4である。1:1〜1:3の比が使用される場合もあり、約1:2が例示的なものである。ホウ素化脂肪エポキシドは、2種類の反応物を混合し、反応を生じるのに十分な時間にわたり80℃〜250℃(100℃〜200℃など)の温度にてそれらを加熱するだけで、調製することができる。所望であれば、反応は、実質的に不活性な、通常は液状の有機希釈剤の存在下で行われる場合がある。反応時には水分が発生するため、蒸留により除去される場合もある。
【0046】
上記の「反応物B」に対応する(iii)の非ホウ素化脂肪エポキシドも、摩擦調整剤として有用である。
【0047】
ホウ素化アミンは一般的に米国特許第4,622,158号で知られている。ホウ素化アミン摩擦調整剤((ix)のホウ素化アルコキシル化脂肪アミンを含む)は、上述のようなホウ素化合物をそれに対応するアミンと反応させることによって、従来から調製されている。アミンは、単純な脂肪アミンまたはヒドロキシ含有第三級アミンであってよい。ホウ素化アミンは、上述のようなホウ素反応物をアミン反応物に加え、得られた混合物を50℃〜300℃(例えば、100℃〜250℃または150℃〜230℃)にて攪拌しながら加熱することにより調製することができる。反応は、反応の終了を示す反応混合物から副生成物の水分が発生しなくなるまで継続する。
【0048】
ホウ素化アミンの調製に有用なアミンの中には、Akzo Nobelの「ETHOMEEN」という商標で知られている市販のアルコキシル化脂肪アミンがある。これらのETHOMEENTM原料の代表的な例には、ETHOMEENTMC/12(ビス[2‐ヒドロキシエチル]‐ココ‐アミン);ETHOMEENTMC/20(ポリオキシエチレン[10]ココアミン);ETHOMEENTMS/12(ビス[2‐ヒドロキシエチル]ソイアミン);ETHOMEENTMT/12(ビス[2‐ヒドロキシエチル]‐牛脂アミン);ETHOMEENTMT/15(ポリオキシエチレン‐[5]牛脂アミン);ETHOMEENTM0/12(ビス[2‐ヒドロキシエチル]オレイル‐アミン);ETHOMEENTM18/12(ビス[2‐ヒドロキシエチル]オクタデシルアミン);およびETHOMEENTM18/25(ポリオキシエチレン[15]オクタデシルアミン)がある。脂肪アミンおよびエトキシル化脂肪アミンについては、米国特許第4,741,848号にも記載されている。
【0049】
(viii)のアルコキシル化脂肪アミンおよび(v)の脂肪アミン自体(例えば、オレイルアミン)は一般的に、本発明における摩擦調整剤として有用である。このようなアミンは市販されている。
【0050】
グリセロールホウ素化および非ホウ素化脂肪酸エステルはいずれも摩擦調整剤として使用することができる。(vii)のグリセロールホウ素化脂肪酸エステルは、グリセロール脂肪酸エステルをホウ酸でホウ素化し、反応における水分を除去することにより調製される。一実施形態においては、反応混合物中に存在する1.5〜2.5個のヒドロキシル基とそれぞれのホウ素が反応するように、十分なホウ素が存在する。反応は、メタノール、ベンゼン、キシレン、トルエンまたは油などのいずれかの適切な有機溶剤の存在下または非存在下において、60℃〜135℃の範囲の温度にて行われる場合がある。
【0051】
(vi)のグリセロール脂肪酸エステル自体は、当該技術分野で周知の種々の方法によって調製することができる。これらのエステルの多く(例えば、グリセロールモノオレエートおよびグリセロールタロウエート)は、商業規模で製造されている。有用なエステルは油溶性であり、C8〜C22の脂肪酸またはこれらの混合物(例えば、天然物中に存在するもの、および以下に詳述するもの)から調製される場合がある。グリセロール脂肪酸モノエステルが好適であるが、モノエステルとジエステルの混合物が使用される場合もある。例えば、市販のグリセロールモノオレエートは、45重量%〜55重量%のモノエステルおよび55重量%〜45重量%のジエステルの混合物を含有する場合がある。
【0052】
脂肪酸は上記のグリセロールエステルを調製するのに使用することができる。また、脂肪酸は、それらの(x)金属塩、(ii)アミド、および(xii)イミダゾリンを調製するのにも使用することができ、それらはいずれも摩擦調整剤としても使用することができる。好適な脂肪酸には、炭素原子を6〜24個、または8〜18個を含有するものが含まれる。酸は、分岐鎖または直鎖、飽和または不飽和であってよい。好適な酸には、2‐エチルヘキサン酸、デカン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、およびリノレン酸、ならびに天然物である牛脂、パーム油、オリーブ油、ピーナッツ油、トウモロコシ油および牛脚油に由来する酸が含まれる。好適な酸はオレイン酸である。
【0053】
酸の好適な金属塩には、亜鉛塩およびカルシウム塩が含まれる。例えば、カルボン酸の亜鉛塩がある。これらの亜鉛塩は、酸性である場合もあれば、中性である場合もあり、あるいは塩基性(過塩基性)である場合もある。これらの塩は、亜鉛含有反応物とカルボン酸またはその塩を反応させることによって調製される場合がある。これらの塩の有用な調製方法は、酸化亜鉛をカルボン酸と反応させる方法である。有用なカルボン酸は本明細書で上に記載したものであり、これには式RCOOH(式中、Rは脂肪族または脂環式の炭化水素基である)のカルボン酸が含まれる。Rが脂肪基、例えば、ステアリル、オレイル、リノレイル、またはパルミチルであるものも好適である。中性塩を調製するのに必要な量を超えて化学量論的に過剰に亜鉛が存在する亜鉛塩も好適である。このような塩には、亜鉛の化学量論量の約1.1〜約1.8倍、特に1.3〜1.6倍だけ亜鉛が存在するものが含まれる。これらのカルボン酸亜鉛は当該技術分野で既知であり、米国特許第3,367,869号に記載されている。ある塩基性亜鉛塩は、一般式Znオレエートで表すことができる。金属塩には、過塩基性カルシウム塩などのカルシウム塩が含まれる場合もある。
【0054】
好適なアミドは、酸をアンモニアあるいは第一または第二級アミン(例えば、ジエチルアミンおよびジエタノールアミン)と縮合させることにより調製されるものである。脂肪イミダゾリンは、酸とジアミンまたはポリアミン(例えば、ポリエチレンポリアミン)との環状縮合生成物である。イミダゾリンは一般的に以下の構造で表される:
【0055】
【化7】

(式中、Rはアルキル基であり、R’は水素またはヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基(−(CHCHNH)−基を含む)である)。一実施形態において、摩擦調整剤は、C8〜C24の脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合生成物、特にイソステアリン酸とテトラエチレンペンタミンとの生成物である。カルボン酸とポリアルキレンアミンとの縮合生成物(xiii)は一般的に、イミダゾリンまたはアミドである場合がある。
【0056】
硫化オレフィン(xi)は、摩擦調整剤として使用される周知の市販の物質である。好適な硫化オレフィンは、米国特許第4,957,651号および第4,959,168号の詳細な教示内容に従って調製されるものである。これらの特許には、(1)少なくとも1つの多価アルコール脂肪酸エステル、(2)少なくとも1つの脂肪酸、(3)少なくとも1つのオレフィン、および(4)少なくとも1つの一価アルコール脂肪酸エステルからなる群から選択される、2種以上の反応物の共硫化混合物が記載されている。
【0057】
オレフィン成分である反応物(3)は、少なくとも1つのオレフィンを含む。このオレフィンは脂肪族オレフィンである場合があり、通常は4〜40個の炭素原子、または8〜36個の炭素原子を含有する。末端オレフィン(またはアルファ‐オレフィン)、例えば、12〜20個の炭素原子を有するものが使用される場合がある。これらのオレフィンの混合物は市販されており、このような混合物は本発明で使用することが企図される。
【0058】
2種以上の反応物の共硫化混合物は、適切な反応物の混合物を硫黄源と反応させることにより調製される。硫化する混合物は、10〜90部の反応物(1)、または0.1〜15重量部の反応物(2)、または10〜90重量部、多くの場合は15〜60重量部、さらに多くの場合は25〜35重量部の反応物(3)、または10〜90重量部の反応物(4)を含有することができる。本発明における混合物は、反応物(3)、ならびに反応物(1)、(2)および(4)として区別されている反応物の群の内の少なくとも1つの他のメンバーを含む。硫化反応は一般的に、高温で撹拌しながら行われ、場合により不活性雰囲気中において不活性溶媒の存在下で行われる。本発明のプロセスにおいて有用な硫化剤には、元素硫黄、硫化水素、硫黄ハロゲン化物および硫化ナトリウム、ならびに硫化水素と硫黄または二酸化硫黄との混合物が含まれる。一般的には、1モルのオレフィン結合につき0.5〜3モルの硫黄が使用されることが多い。
【0059】
アルキルサリチル酸金属塩(xiv)には、長鎖(例えば、C12〜C16)アルキル置換サリチル酸のカルシウム塩および他の塩が含まれる。
【0060】
アルキルリン酸アミン塩(xv)には、リン酸のオレイルエステルおよび他の長鎖エステルと下記のアミンとの塩が含まれる。この点で有用なアミンには、PrimeneTMという商品名で販売されている第三脂肪族第一アミンがある。成分(a)に加えて補助摩擦調整剤を使用することができる。補助摩擦調整剤の量は一般的に、潤滑組成物の0.1〜1.5重量%であり、例えば、0.2〜1.0または0.25〜0.75重量%である。しかし、実施形態によっては、補助摩擦調整剤の量は、0.2重量%未満または0.1重量%未満、例えば、0.01〜0.1重量%である。一実施形態において、特にビス‐(2‐ヒドロキシエチル)牛脂アミン(Ethomeen‐12TMとして市販)の量は、こうした少量またはそれ以下に制限される。
【0061】
さらに他の好適な摩擦調整剤には、カルボン酸またはその反応等価物とアミノアルコールとの反応によって得られる摩擦調整剤が含まれ、この摩擦調整剤は少なくとも2個のヒドロカルビル基を含有し、それぞれが少なくとも6個の炭素原子を含有する。例としては、イソステアリン酸またはアルキル無水コハク酸とトリス‐ヒドロキシメチルアミノメタンとの反応生成物(モル比は2:1の場合がある)が含まれる。これらの摩擦調整剤については、米国特許出願第2005‐0250655号に詳述されている。以下の式で表されるアミドまたはチオアミドの摩擦調整剤も好適である:
N−C(X)R
(式中、XはOまたはSである)。RおよびRは少なくとも6個の炭素原子からなるヒドロカルビル基である場合があり、Rは1〜6個の炭素原子からなるヒドロキシアルキル基であるか、または前記ヒドロキシアルキル基とそのヒドロキシル基を介してアシル化剤とが縮合することによって形成される基である。このような摩擦調整剤の例には、ジココアミンとグリコール酸との縮合生成物がある。これらの摩擦調整剤については、国際特許出願第PCT/US2006/039768号(2006年10月11日出願)に詳述されている。ある実施形態において、成分(b)の摩擦調整剤以外の追加の摩擦調整剤は存在しない(または0.1%未満存在する)。
【0062】
本発明の組成物は、洗浄剤を含むこともできる。本明細書で使用される洗浄剤は、有機酸の金属塩である。洗浄剤の有機酸部分は、スルホン酸塩、カルボン酸塩、石灰酸塩、サリチル酸塩である。洗浄剤の金属部分は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。好適な金属には、ナトリウム、カルシウム、カリウムおよびマグネシウムがある。典型的には、洗浄剤は過塩基性であり、これは、中性金属塩を形成するのに必要な金属を超える化学量論的に過剰の金属があることを意味する。
【0063】
好適な過塩基性有機塩には、有機物質から形成される、実質的に親油性であるスルホン酸塩が含まれる。有機スルホン酸塩は、潤滑剤および洗浄剤の技術分野で周知である。スルホン酸塩化合物は、平均10〜40個の炭素原子、例えば平均12〜36個の炭素原子または14〜32個の炭素原子を含有する必要がある。同様に、石炭酸塩、サリチル酸塩、およびカルボン酸塩は実質的に親油性である。
【0064】
本発明では、炭素原子が芳香族系の構造であっても、パラフィン系の構造であってよいが、ある実施形態においては、アルキル化芳香族化合物が使用される。ナフタレン系物質が使用される場合もあるが、好まれる芳香族炭化水素はベンゼン部分である。
【0065】
したがって好適な組成物は、過塩基性のモノスルホン化アルキル化ベンゼンであり、またモノアルキル化ベンゼンである場合もある。典型的には、アルキルベンゼン留分は、蒸留残留物源から得られ、モノアルキル化またはジアルキル化されている。本発明では、モノアルキル化芳香族の方がジアルキル化芳香族よりも全体的な性質において優れていると考えられる。
【0066】
モノアルキル化芳香族(ベンゼン)の混合物を利用して、本発明におけるモノアルキル化塩(ベンゼンスルホン酸塩)を得るのが望ましい。組成物のかなりの部分がアルキル基の源としてプロピレンポリマーを含有する混合物は、塩の溶解を助ける。単官能(例えば、モノスルホン化)物質を使用すると、分子の架橋が防止され、潤滑剤からの塩の沈澱が少なくなる。
【0067】
ある実施形態において、塩は「過塩基性」である場合がある。過塩基性とは、塩の陰イオンを中和するのに必要な金属を超える化学量論的に過剰の金属が存在することを意味する。過塩基性による過剰金属は、潤滑剤中に蓄積する場合がある酸を中和する効果を有する。第二の利点としては、過塩基性塩により動摩擦係数が高くなるという利点がある。典型的には、過剰金属は、陰イオンを中和するのに必要な金属よりも多く存在し、当量に基づくと最高30:1(例えば、5:1〜18:1)の比率で存在する。
【0068】
組成物に利用する過塩基性塩の量は、典型的には、油を含めないで0.025〜3重量%、または0.1〜1.0重量%である。過塩基性塩は通常約50%の油中で作られ、TBN範囲は油を含めないで10〜600である。ホウ素化および非ホウ素化過塩基性洗浄剤については、米国特許第5,403,501号および第4,792,410号に記載されている。
【0069】
本発明の組成物は、少なくとも1つのリン酸、リン酸塩、リン酸エステルまたはこれらの誘導体(硫黄含有類似体を含む)を0.002〜1.0重量%の量だけ含むこともできる。リン酸、リン酸塩、リン酸エステルまたはこれらの誘導体には、リン酸、亜リン酸、またはこれらのリン酸エステルまたは塩、亜リン酸塩、リン含有アミド、リン含有カルボン酸またはエステル、リン含有エーテル、およびこれらの混合物が含まれる。
【0070】
一実施形態において、リン酸、リン酸エステルまたは誘導体は、有機または無機のリン酸、リン酸エステル、リン酸塩、またはこれらの誘導体であってよい。リン酸には、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびチオリン酸(ジチオリン酸を含む)ならびにモノチオリン酸、チオホスフィン酸およびチオホスホン酸が含まれる。リン酸化合物の1群には、以下の式で表されるアルキルリン酸モノアルキル第一アミン塩がある:
【0071】
【化8】

(式中、R、R、Rはアルキルまたはヒドロカルビル基であるか、あるいはRおよびRの一方がHであってよい)。こうした物質は、ジアルキルおよびモノアルキルリン酸エステルの1:1混合物であってよい。この種の化合物については、米国特許第5,354,484号に記載されている。
【0072】
85%のリン酸は、完全に調合された組成物に添加するのに好適な物質であり、組成物の重量を基準にして0.01〜0.3重量%(例えば、0.03〜0.2または〜0.1%)のレベルだけ含めることができる。
【0073】
前述の必要な成分または使用に適合しないことがなければ、他の物質も場合により本発明の組成物に含めることができる。このような物質としては、酸化防止剤(すなわち、抗酸化剤)があり、これには、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族第二級アミン酸化防止剤(例えば、ジノニルジフェニルアミン、ならびにモノノニルジフェニルアミンおよびモノオクチルまたはジオクチルなどの他のアルキル置換基を有するジフェニルアミンなどの周知の変形体)、硫化フェノール系酸化防止剤、油溶性銅化合物、リン含有酸化防止剤、ならびに有機の硫化物、二硫化物および多硫化物(例えば、2‐ヒドロキシアルキル、アルキルチオエーテルまたは1‐t‐ドデシルチオ‐2‐プロパノールまたは硫化4‐カルボブトキシシクロヘキセンまたは他の硫化オレフィン)が含まれる。他の任意の成分には、シールの可撓性を維持するように考案されたイソデシルスルホランまたはフタル酸エステルなどのシール膨張組成物が含まれる。アルキルナフタレン、ポリメタクリル酸、酢酸ビニル/フマル酸コポリマーまたは酢酸ビニル/マイレン酸コポリマー、およびスチレン/マイレン酸コポリマーなどの流動点降下剤も許容される。別の物質には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などの摩耗防止剤がある。これらの任意の物質は当業者に既知であり、一般的に市販されており、欧州特許出願公開第761,805号に詳述されている。腐食防止剤(例えば、トリルトリアゾール、ジメルカプトチアジアゾール)、染料、流動化剤、消臭剤、および消泡剤などの既知の物質も含めることができる。有機ホウ酸エステルおよび有機ホウ酸塩も含めることができる。
【0074】
上記の成分は、完全に調合された潤滑剤の形態または少量の潤滑油に含まれる濃縮物の形態をとることができる。これらの成分が濃縮物中に存在する場合、これらの濃度は一般的に、最終混合物中のより希釈された形態でのこれらの濃度に正比例する。
【実施例】
【0075】
潤滑剤配合物は以下の成分で調製される。
【0076】
【表1−1】

【0077】
【表1−2】

a.テレフタル酸(TPA)で処理され、場合によりジメルカプトチアジアゾール、無機リン酸、および/またはホウ素でも処理された分散剤
b.DMTD=ジメルカプトチアジアゾール
c.2‐エチルヘキシルおよび水素化牛脂アルキル基を有する1つ以上の第二級アミン
d.粘度指数向上剤または消泡剤などの一般的に存在する他の物質を少量含む場合がある。
【0078】
塩基配合物中に存在する分散剤(b)と組み合わせて摩擦調整剤(a)を使用すると、摩擦特性が良好になる。
【0079】
上で言及した文献はいずれも参考として本明細書で援用される。物質量、反応条件、分子量、炭素原子数などを指定するこの説明中の数量はすべて、実施例内のものまたは別途明記する場合を除き、「約」という語で修飾されているものと理解するものとする。特に記載のない限り、本明細書で言及する各化学物質または組成物は、商業用等級で通常存在すると解釈される異性体、副生成物、誘導体およびその他のこのような物質を含有する場合がある、商業用等級の物質と解釈すべきである。しかし、各化学成分の量は、特に記載のない限り、通例は市販の物質に存在する場合がある溶媒や希釈油を含めずに示されている。本明細書に記載される上限および下限の量、範囲および比率の限界は、別々に組み合わせることができると理解するものとする。同様に、本発明の各要素の範囲および量は、その他いずれかの要素の範囲または量と一緒に使用することができる。本明細書で使用される「から本質的に構成される」という表現は、検討中の組成物の基本特性や新規の特性に実質的に影響を及ぼさない物質が含まれることを許容する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッションを潤滑するのに適した組成物であって、
(a)多量の潤滑粘性油と、
(b)以下の式で表される第三級アミンと:
NR
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して少なくとも6個の炭素原子からなるアルキル基であり、Rはポリヒドロキシル含有アルキル基またはポリヒドロキシル含有アルコキシアルキル基である)、
(c)分散剤と、
を含む、組成物。
【請求項2】
およびRがそれぞれ独立して約8〜約20個の炭素原子からなるアルキル基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第三級アミンがジココアルキルアミンから得られる生成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
がポリオール含有アルキル基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
(b)の前記アミンが以下の式によって表される:
N−CH−CHOH−CHOH
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して約8〜約20個の炭素原子からなるアルキル基である)、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
(b)の前記アミンが、ジココアミンと1モル以上の2,3‐エポキシ‐1‐プロパノールまたは3‐クロロプロパン‐1,2‐ジオールとの反応生成物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
(b)の前記アミンの量が約0.01〜約10重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記分散剤がスクシンイミド分散剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記分散剤の量が約0.3〜約10重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
洗浄剤、酸化防止剤、シール膨張剤、摩耗防止剤、および摩擦調整剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤もさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
有機ホウ酸エステル、有機ホウ酸塩、有機リン酸エステル、有機リン酸塩、無機リン酸、および無機リン酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤もさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の成分を混合することによって調製される組成物。
【請求項13】
潤滑粘性油で希釈してトランスミッション用の潤滑剤を調製するのに適した濃縮物であって、
(a)濃縮物を形成する量の潤滑粘性油と、
(b)以下の式で表される第三級アミンと:
NR
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して少なくとも6個の炭素原子からなるアルキル基であり、Rはポリヒドロキシル含有アルキル基またはポリヒドロキシル含有アルコキシアルキル基である)、
(c)分散剤と、
を含む、濃縮物。
【請求項14】
トランスミッションを潤滑する方法であって、
(a)多量の潤滑粘性油と、
(b)以下の式で表される第三級アミンと:
NR
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して少なくとも6個の炭素原子からなるアルキル基であり、Rはポリヒドロキシル含有アルキル基またはポリヒドロキシル含有アルコキシアルキル基である)、
を含む潤滑剤を前記トランスミッションに供給する手順を含む、
方法。
【請求項15】
前記トランスミッションがオートマチックトランスミッションである、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2009−533536(P2009−533536A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505584(P2009−505584)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/066371
【国際公開番号】WO2007/121205
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】