オープン架橋用の炭素質含有ゴム組成物
【課題】 エチレン−プロピレン系ゴムなどの合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋可能とする。
【解決手段】 合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物において、合成ゴムをエチレンープロピレン系ゴムとし、有機過酸化物をベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルをペンタエリスリトール脂肪酸エステルとしてオープン架橋可能とする。炭素質として膨張性黒鉛を配合することも可能である。
【解決手段】 合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物において、合成ゴムをエチレンープロピレン系ゴムとし、有機過酸化物をベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルをペンタエリスリトール脂肪酸エステルとしてオープン架橋可能とする。炭素質として膨張性黒鉛を配合することも可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質を含有するゴム組成物およびその架橋方法に関する。特に、有機過酸化物を架橋剤として配合したゴム組成物およびそのオープン架橋方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素質をゴム組成物に配合することは、合成ゴムにカーボンブラックを練り込んで、ゴムの諸特性を改善することなどが従来から広く行われてきた。
【0003】
また、膨張性黒鉛を合成ゴムや合成樹脂に練り込んで、難燃ゴム材料として使用することも比較的古い技術であるが、近年、ダイオキシンの発生原因をなくすためにノンハロゲン化の要求の高まりとともに、ノンハロゲン難燃材料としてのニーズが高まり、より注目されてきている。例えば、特許文献1には、樹脂エラストマーであるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)に、膨張性黒鉛とポリフェニレンエーテルを配合して難燃化する技術が開示されている。この技術は膨張性黒鉛を配合することにより、外部からの加熱によって、組成物が膨張することを可能とするとともに該エラストマー組成物が難燃化されるものである。
【特許文献1】特開2002−338779号公報
【0004】
また、ゴム組成物に膨張性黒鉛を配合した技術としては、特許文献2には、未加硫ゴムに膨張性黒鉛とリン化合物を配合し、シート状にして基材と積層一体化した耐火被覆材が開示されている。本技術に関連して、未加硫のブチルゴムに難燃系材料や膨張性黒鉛を配合して、そのまま未加硫ゴムのテープ状としたものが既に実用化され、積水化学株式会社から商品名「フィブロック」の名称で販売されている。なお、膨張性黒鉛を配合した加硫ゴムによる難燃ゴム製品はいまだ市販されるに至っていない。
【特許文献2】特開平11−131631号公報
【0005】
各種ゴム成形品の成形材料に使用される合成ゴムの代表例としては、エチレンープロピレン系ゴム、特にエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下EPDM)が、汎用のジエン系ゴムに比較して耐熱性、耐候性などで優れており、電線、ウェザーストリップ、あるいは自動車部品などの押出製品に数多く使用されている。
【0006】
EPDMの架橋方法としては、一般的には硫黄架橋により製品化されることが多い。硫黄架橋は、比較的簡便なオープン架橋方式によっても架橋できるため、汎用の用途としては、硫黄を架橋剤として用いる方法が実施されてきた。しかしながら、自動車部品のように耐熱性が特に要求されるようになってくると、硫黄架橋では満足いく特性のものが得られにくくなってきている。また、硫黄架橋すると、製造設備が硫黄により汚染されたり、ゴム中の硫黄が溶出したりするため、汚染性を考慮する場合は、硫黄を使用しない架橋方法で架橋させることが好ましい。また、有機過酸化物架橋を行う方が、得られるゴム組成物の耐熱性が向上する事も知られてきた。そのため、近年においては、EPDMのような合成ゴムにおいても、ポリマー間に―C―C―結合が導入できる有機過酸化物による架橋方式が注目されてきており、その採用が望まれていた。
【0007】
樹脂・ゴムの技術分野において、有機過酸化物は、主に樹脂・合成ゴムの重合開始剤、硬化剤、あるいは架橋剤として使用されている。一般的に、有機過酸化物は過酸化水素の誘導体であって、この分子内の酸素結合が存在することにより、比較的低い温度で熱的に分解し、容易に遊離ラジカルを生成する。この生成した遊離ラジカルの性質としては、不飽和二重結合への付加反応および水素等の引き抜き反応が挙げられる。この反応の中で、後者の水素引き抜き反応を利用して、各種合成ゴム・合成樹脂の架橋剤、ポリプロピレンの改質剤などとして使用されている。
【0008】
合成ゴムなどの架橋に用いられる有機過酸化物は、ゴムコンパウンドの混練中における熱履歴による分解、スコーチの危険性がないこと、一定の架橋温度、一定の時間内で満足な架橋が行われるべきことを考慮して、適宜使い分けられる。架橋剤として使用される有機過酸化物としては、具体的には、(1)ジアシルパーオキサイド、(2)パーオキシエステル、(3)ジアルキルパーオキサイド、(4)パーケタールのグループに大別され、ゴム組成物の配合設計、成型条件などにより、その都度選択されるものである。
【0009】
特許文献3には、(4)パーケタールのグループに属する特殊な有機過酸化物(例えば、1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン)をEPDMに配合して架橋する技術が開示されている。ただし、この有機過酸化物は現在では入手が難しくなっている。
【特許文献3】特開平6−299003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、有機過酸化物を使用するゴムの架橋方法においては、ゴム組成物の配合及び架橋加熱工程における制約が大きく、その採用が事実上困難な場合があった。
【0011】
まず第1に、架橋剤を配合した未加硫ゴムは加熱工程により架橋反応させるが、加熱工程としては、加熱した金型で加熱する方法、加圧蒸気存在下による方法、無圧下での熱風加硫による方法などが挙げられる。ここで、硫黄架橋の場合は、前記架橋方法のうちどのような加熱工程によっても表面のベタツキがなく、粘着性のないゴム組成物が得られるが、有機過酸化物を使用した架橋方法を採用する場合、空気(酸素)存在下では十分に架橋しないため、加圧蒸気存在下による方法、無圧下での熱風加硫による方法では、表面がベタツキ、粘着性が生じ、ゴム製品として満足のいく物が得られなかった。
【0012】
すなわち、有機過酸化物を架橋剤として使用して架橋する(以下単にパーオキサイド加硫とも表記する)場合、空気の存在下に架橋反応を行ういわゆるオープン架橋では良好な架橋成型物を得ることができなかった。成形品表面がべたつきや粘着性を示す理由は、空気中の酸素が架橋反応を阻害するからである。
唯一シリコーンゴムにおいては、空気中でも有機過酸化物架橋できるものとして知られているが、EPDMやSBRなど、シリコーンゴム以外の合成ゴムでは、酸素存在下でパーオキサイド加硫を実施できないことは周知の事実であった。 従って、従来技術においてパーオキサイド加硫によってゴム製品を得ようとすれば、金型プレス機、射出成型機、溶融金属塩中など酸素の供給を遮断する雰囲気下で、架橋反応を実施する必要があるため、特殊な加熱装置を用意する必要があったのである。
【0013】
また第2に、ゴム組成物には様々な充填剤、可塑剤、そして、その他薬品を調合したうえで架橋させるために、配合される物質によっては、特定の種類の有機過酸化物が架橋剤として使用できないことが知られている。前述した有機過酸化物の分類は、有機過酸化物の構造による分類であるが、特に、その構造の中にアシル基を持っている有機過酸化物は、分解温度が低く、酸等の影響を受けにくいという長所を有するものの、多量のカーボンブラックが配合されたゴム組成物においては、架橋が著しく阻害され、成形品全体にわたって架橋不可能となるという短所を有している。一方、アルキル基を含む有機過酸化物は、カーボンブラック配合時の架橋への影響はかなり小さいものの、空気中、特に酸素存在下の架橋の困難度が高い。
【0014】
さらに、膨張性黒鉛をゴム組成物に配合すると有機過酸化物架橋が不可能となることが判明した。これは、膨張性黒鉛には酸性物質が含まれるために、架橋反応に必要な高温によってガス状の酸性物質が発生し、架橋を阻害することが原因である。
【0015】
以上説明したように、従来の架橋技術においては、EPDMやSBRといった合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋させることは困難であり、ゴム表面が未架橋のままで、成形品表面がべたつくなどして、好ましいゴム成形品は得られなかった。
【0016】
したがって、本発明は、エチレン−プロピレン系ゴムなどの合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋可能とすることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の発明者らは、鋭意検討の結果、特定の有機過酸化物と特定の脂肪酸エステルを組み合わせて配合処方することで、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質がゴム組成物に配合されていても、空気存在下でオープン架橋できることを知見し、本発明を完成させた。すなわち、特定の有機過酸化物と脂肪酸エステルを組み合わせるという配合設計によって、従来の架橋技術では解決できなかったパーオキサイド架橋不良の問題を解決し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0018】
本発明は、合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であって、合成ゴムはエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴムであり、有機過酸化物はベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエートであり、脂肪酸エステルはペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることを特徴とする、オープン架橋用ゴム組成物である。
【0019】
また、本発明において、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムのうち少なくとも1つをエチレンープロピレン系ゴムにブレンドしてもよい(請求項2)。また、本発明において、炭素質として膨張性黒鉛を配合しても良い(請求項3)。
【0020】
また、本発明は、合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物の架橋方法であって、合成ゴムとしてエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴム、有機過酸化物としてベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルとしてペンタエリスリトール脂肪酸エステルを混練した後、オープン架橋により架橋することを特徴とするゴム組成物の過酸化物架橋方法である(請求項4)。本発明の架橋方法において、炭素質として膨張性黒鉛を配合してもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質を含有するゴム組成物がオープン架橋によっても良好に過酸化物架橋され、得られるゴム製品が、ゴム表面のベタツキがないという、製品の外観上の品質に優れたものが得られる。また、本発明によれば、硫黄を使用しないので、製造設備の硫黄による汚染が生ずることがない。
【0022】
また、請求項3または請求項5の発明によれば、膨張性黒鉛を炭素質として配合したゴム組成物であっても有機過酸化物による架橋を行い、架橋工程におけるゴム表面のアバタの発生やゴム成形品表面のベタツキの発生を予防して、良好な外観を有する架橋ゴム製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であり、オープン架橋可能なゴム組成物である。以下、各構成要素について順次説明していく。
【0024】
(合成ゴム)
本発明に使用可能な合成ゴムとしては、エチレン−プロピレン系ゴムを主体とするゴムが使用できる。エチレン−プロピレン系ゴムの中でも、特に、エチレン−プロピレンゴム(EPT)や、その他多様なエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)が好ましく使用できる。EPDMは、エチレンとプロピレンと第三成分とのモノマーを共重合させたゴムである。前記第三成分としては、側鎖に不飽和結合を持つ有機化合物が用いられる。この有機化合物としては、ジシクロペンタジエン(DCP)、エチリデンノルボーネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、ビニルノルボルネン等がある。エチレン−プロピレン系ゴムとして、EPTや各種EPDMを単独で使用することもできるが、これらをブレンドして使用しても良い。
【0025】
なお、本発明のゴム組成物のゴムには、二重結合を持ち、ヨウ素価が10以上、ガラス転移温度が25℃以下のエチレン−プロピレン系ゴム以外の合成ゴムをブレンドすることもできる。ブレンドする合成ゴムは、ゴム組成物の主体とするエチレン−プロピレン系ゴムに対して、混合しやすいゴムであることが好ましい。ブレンド可能な合成ゴムの具体的な例としては、スチレン−ブタジエンゴム(以下SBR)、ブタジエンゴム(以下BR)が例示できる。また、二重結合を有するゴムではないものの、クロロプレンゴム(以下CR)や天然ゴム(以下NR)のうち、エチレン−プロピレン系ゴムにブレンド可能ものを本発明のゴム組成物にブレンドすることもできる。
【0026】
(炭素質)
本発明においてゴム組成物に配合される炭素質としては、膨張性黒鉛やカーボンブラックが例示される。炭素質として、カーボンブラックのみあるいは膨張性黒鉛のみを配合するようにしても良いし、カーボンブラックと膨張性黒鉛の双方を配合するようにしても良く、要求されるゴムの特性に応じて配合すればよい。
【0027】
(膨張性黒鉛)
膨張性黒鉛とは、加熱により体積が膨張する黒鉛のことであり、具体的には、天然鱗片状黒鉛などの黒鉛(グラファイト)の層間に化学品を挿入されたものである。鱗片状黒鉛は主に中国の山東地区、モンゴリア地区の2箇所で産出される。前地区では石英を含有、後地区ではマイカを含有しており、膨張性黒鉛の用途によって産地を使い分けられている。例えば、樹脂などに混練させる場合は、混練機の磨耗を抑えるために、マイカ含有のものが多く使用されている。
【0028】
膨張性黒鉛の化学構造は、天然鱗片状黒鉛の層の間に化学品(グラファイト層間化合物)を挿入した層状構造となっており、この化学品が加熱によりガスを発生する事により膨張し、不燃の層を形成させるものである。従って、膨張性黒鉛の粒子径が大きいほど膨張の度合いが高くなるが、一方で強度の面では劣るため、ゴム組成物の難燃性が高まるようにこれらのバランスを考慮しつつ粒子径や発泡温度を適宜選択して使用されている。
【0029】
鉱山から採掘された天然鱗片状黒鉛は、粉砕、水分級の工程を経てカーボン含有量約95%以上の黒鉛になる。この黒鉛内の不純物除去は、強酸洗浄、高温下アルカリ中での焼結により行われる。そして、この鱗片状の黒鉛の層間に化学品を挿入するが、工程の効率化のため、硝酸や過マンガン酸カリウム、もしくはオゾンなどの酸化剤が必要とされる。この反応後、中和工程、洗浄、乾燥工程を経て膨張性黒鉛となる。
【0030】
本発明に使用可能な膨張性黒鉛の代表的な物性は以下の通りであるが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。粒子径は、45〜500μm、ph値5〜8、外部からの加熱による膨張開始温度は130〜300℃である。膨張開始温度については、処理される化学品により決定される。膨張性黒鉛としては、例えば、三洋貿易株式会社から商品名「SYZR2003」の名称で市販されている製品などが使用できる。
【0031】
膨張性黒鉛の配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマー成分により調整されるため一律には規定できないが、ポリマー成分100重量部に対し、膨張性黒鉛が1部以下であると、加熱による膨張性の効果的な発現が望みにくく、500重量部を超えると、配合設計によっては充填しにくくなり、ゴム製品としての弾性の喪失、硬度の上昇などの欠点が認められる。従って、所望される膨張率にもよるが、ゴム性とのバランスを考慮して、3〜300重量部が好適な配合部数となる。
【0032】
(カーボンブラック)
本発明で使用可能なカーボンブラックは、一般的にゴム工業用として市販されているものであり、特に本発明を限定するものではない。具体的には、天然ガス、石油系または石炭系重質油などを不完全燃焼、あるいは熱分解によって精製されたものを指す。また、カーボンブラックは、製造方法によって、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどに分類される。本発明においては、前記製造方法によって得られたカーボンブラックであれば使用することができる。
【0033】
カーボンブラックの配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマー成分により一律には規定できないが、一般に、ゴム製品の硬度とゴム弾性のバランスを考慮して、ポリマー成分100重量部に対し、1〜80重量部が好適な配合部数となる。
【0034】
(脂肪酸エステル)
脂肪酸エステルは、脂肪酸とアルコールによるエステル化反応物である。脂肪酸エステルは、通常、ゴム・樹脂製品を成型する上で各種の加工性を改善するために、加工助剤として使用されている。脂肪酸エステルは、ゴムコンパウンドへの軟化作用が少なく、化学的に中性であることから、架橋速度、架橋特性に対する影響が少なく、分散性、内部離型性、熱安定性などの効果が得られることが一般に知られており、脂肪酸、アルコールの種類、またはそのエステル化度の限定などにより、適宜選択されて使用される。また、一般的に、エステル化度の高いタイプは高飽和ゴムである特殊ゴムに、低エステル化度のタイプはジエン系ゴムに使用されることが多い。
【0035】
本発明において配合する脂肪酸エステルは、特殊エステル系のペンタエリスリトール脂肪酸エステルである。従来、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、主に樹脂の滑剤などとして使用されており、加工性の向上に加えて、混練時間の短縮、ブルーム、ブリードの防止に効果的であることが知られている。本発明においては、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルを以下に示す特定の有機過酸化物と併用することにより、炭素質を配合したゴム組成物をオープン架橋可能とするものである。この脂肪酸エステルについては、従来は樹脂用の滑剤として使用されることはあっても、特定の有機過酸化物と併用して、酸素存在下でのオープン架橋の架橋性改善に使用された例はなかった。
【0036】
(有機過酸化物)
本発明で配合される有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキシド(例えば、日油株式会社製の商品名「ナイパーBW」)または、t−ブチルパーオキシベンゾエート(例えば、日油株式会社製の商品名「パーブチル Z」)が使用できる。前記した有機過酸化物の分類において、ベンゾイルパーオキシドは(1)ジアシルパーオキサイドのグループに分類され、t−ブチルパーオキシベンゾエートは(2)パーオキシエステルのグループに分類されるものである。いずれのグループも、ゴム組成物にカーボンブラックなどの炭素質が配合された場合には架橋反応が阻害されるため、その使用は不適当とされているグループである。
【0037】
本発明は、これら従来の技術常識に反しながらも、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルと、ベンゾイルパーオキシドまたはt−ブチルパーオキシベンゾエートとを組み合わせて併用配合することで、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質が配合されたゴム組成物であっても、酸素の存在する空気中でオープン架橋可能とするものである。本発明によれば、ゴム成形品の表面のベタツキやアバタ発生のない架橋ゴム組成物が得られる。
【0038】
本発明の実施に好適な配合量の例を以下に示す。ゴム成分としてのエチレンープロピレン系ゴム100重量部に、カーボンブラック1〜80重量部、膨張性黒鉛3〜300重量部、脂肪酸エステル0.1〜5重量部、有機過酸化物0.01〜15重量部を配合することにより、ゴムのオープン架橋を好適に行うことができる。また、エチレン−プロピレン系ゴムに対し二重結合を有する合成ゴム(SBRやBR)やCR、NRなどをブレンドすることも可能であり、そのブレンド比は特に限定されない。
【0039】
以下に、本発明のゴム組成物に係るゴム製品の製造方法について説明する。
本発明の炭素質を含有するゴム組成物は、各成分を任意の順序で配合し、十分に混合する事により調製できる。また、このゴム組成物には、前記材料が必須成分として添加される他、任意成分として、パラフィン系オイルなどの可塑剤、あるいは、りん酸エステル、金属酸化物、シリカ系補強充填剤、架橋助剤、滑剤などの加工性改善助剤を必要に応じて、配合することができる。これら薬剤を配合したゴム組成物の混合は、二本ロール、ニーダー、バンバリー、二軸混練押出機、および各種ミキサー、その他の混練機を使用して行うことができ、薬剤が均一に分散された未加硫のゴム組成物を得ることができる。
【0040】
上記工程により未加硫状態で得られた、本発明の炭素質含有ゴム組成物を架橋させて、ゴム架橋物を製造するための方法には、従来公知の熱架橋方法を広く採用できる、例えば、金型内で予備成型されたゴム組成物を、熱空気中でオープン架橋を実施することにより、所望の形状の炭素質含有架橋ゴム組成物を得ることができる。また、本発明のゴム組成物は、押出特性に優れるので、未加硫ゴム組成物を連続的に押出し加工して、加熱炉を通して連続架橋を行って、長尺の帯状のゴム組成物を得ることもできる。加熱は二段階以上に分けて行うこともでき、加熱方法としては、熱空気加硫、UHF加硫、遠赤外線による加硫、直接水蒸気加硫など任意のオープン架橋方法によることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。以下の説明において、本文中の部とは、全て重量部を意味する。実施例および比較例の配合及び試験結果を表1に示す。なお、実施例や比較例において、酸化亜鉛や消泡剤、滑剤、可塑剤を配合しているが、これらを配合しない場合でも、ゴム組成物の表面のベタツキには影響がなく、これら成分は本発明の必須成分ではない。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例1)
ゴム成分にEPDMとして、第3成分がエチリデンノルボーネンの3072E(三井化学株式会社製)を140部を使用し、膨張性黒鉛として、SYZR2003(三洋貿易株式会社社製)を100部、カーボンブラックとして、シーストG-SO(東海カーボン株式会社製)を20部、可塑剤としてフッコールP200(富士興産株式会社製)を40部、酸化亜鉛として、第二種ZnO(正同化学工業株式会社製)を5部、消泡剤として、CML#31(近江化学工業株式会社製)を3部、滑剤としてステアリン酸(日油株式会社製)を1部配合して加圧ニーダーを用いてコンパウンドを得た。これにオープンロールにて、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルとして、エマスター430W(理研ビタミン株式会社製)を1部、有機過酸化物であるベンゾイルパーオキシドとして、ナイパーBW(日油株式会社製)を2部加えて、シート状に分出しした。得られた未架橋コンパウンドを規定の金型に入れて予備成型を行い、その後熱風式ギアーオーブンで、120℃×10分間保持して架橋し、厚さ2mmの架橋シートを得た。
【0044】
(実施例2)
実施例2として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、t-ブチルパーオキシベンゾエート(日油株式会社製 商品名「パーブチルZ」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例3として、実施例2のEPDMである3072E(三井化学株式会社製)を140部の代わりに、EPDMである3072E(三井化学株式会社製)を112部にSBRである1778(ジェイ・エス・アール株式会社製)を25部ブレンドしたゴムを使用した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0046】
(比較例1)
比較例1として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、1,1−t-ヘキシルパーオキシシクロヘキサン(日油株式会社製 商品名「パーヘキサHC」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0047】
(比較例2)
比較例2として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジ-t-ヘキシルパーオキシド(日油株式会社製 商品名「パーヘキシルD」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0048】
(比較例3)
比較例3として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジクミルパーオキシド(日油株式会社製 商品名「パークミル D」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0049】
(比較例4)
比較例4として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製 商品名「パーブチル P」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0050】
(比較例5)
比較例5として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン-3(日油株式会社製 商品名「パーヘキシン 25B」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0051】
(比較例6)
比較例6として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジ-t-ブチルパーオキシド(日油株式会社製 商品名「パーブチル D」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0052】
(比較例7)
比較例7として、実施例2のペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるエマスター430Wの代わりに、プロピレングリコール脂肪酸エステルとして、リケマールPS-100(理研ビタミン株式会社製)を1部配合した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0053】
(比較例8)
比較例8として、実施例2のペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるエマスター430Wの代わりに、高級アルコール脂肪酸エステルとして、リケマールSL-800(理研ビタミン株式会社製)を1部配合した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0054】
(比較例9)
比較例9として、実施例2のペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるエマスター430Wの代わりに、グリセリン脂肪酸エステルとして、リケマールS-100(理研ビタミン株式会社製)を1部配合した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0055】
これら架橋シートおよび試験片を用いて各種物性を測定・評価した。結果を表1に示す。なお、各種物性の評価方法は、以下の通りである。ゴムの硬さはJIS K6253(1997)「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準拠して、伸び及び引張強度はJIS K6251(2004)「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの引張特性の求め方」に準拠して測定した。表面の架橋状態(表面粘着性)に関しては、試験シートを架橋後すぐに取り出して、架橋反応終了時から30秒以内にHBの鉛筆(三菱鉛筆)で架橋ゴム表面を引っかいた際の、ゴム表面のケズレ状態を確認することにより評価した。表面架橋がうまくできていないと、未架橋のゴム組成物が鉛筆によって掻き取られるので、表面の削れ具合を確認することによって、表面部分の架橋状態及び表面粘着性の指標とすることができる。表面架橋状態の評価は、表面が全く削れないものを◎、僅に削れるものを○、少し削れるものを△、かなり削れるものを×として表1に記載した。また、ケズレの表面状態をパワーハイスコープ(株式会社ハイロックス社製)により、20倍に拡大して撮影したものを図1〜図12に示す。表面のアバタの発生状況の評価については、目視による観察で評価を行い、アバタが殆ど認められないものを◎、僅かに認められるものを○、少し認められるものを△、かなり認められるものを×として表1に記載した。
【0056】
以下、評価結果を述べる。表1および図1、図2、図3から明らかなように、実施例1、実施例2、実施例3は、ギアオーブンによる熱風中でもゴム表面は十分に架橋されて、ベタツキがなく、架橋工程直後であっても鉛筆で表面がほとんど削れない。即ち成形品の表面も良好に架橋されている。また表面アバタもない。これに対し、比較例1〜比較例9(それぞれ図4〜図12に対応)は、いずれもゴム表面が未加硫の状態であり、鉛筆によって表面が削れてしまった。パワーハイスコープによる20倍の観察写真によっても、鉛筆によって削れた後が明瞭に観察できた。
【0057】
また、本評価結果によれば、膨張性黒鉛を配合したゴム組成物であっても、実施例1、実施例2、実施例3においては、表面アバタが少ない、良好な架橋ゴムを得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋させることができる。当該ゴム組成物により成型・架橋されたゴム製品は、ゴム表面のベタツキがなく、また表面上のアバタの発生もないので、外観上の品質に優れた製品が提供でき、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図2】実施例2の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図3】実施例3の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図4】比較例1の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図5】比較例2の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図6】比較例3の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図7】比較例4の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図8】比較例5の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図9】比較例6の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図10】比較例7の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図11】比較例8の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図12】比較例9の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質を含有するゴム組成物およびその架橋方法に関する。特に、有機過酸化物を架橋剤として配合したゴム組成物およびそのオープン架橋方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素質をゴム組成物に配合することは、合成ゴムにカーボンブラックを練り込んで、ゴムの諸特性を改善することなどが従来から広く行われてきた。
【0003】
また、膨張性黒鉛を合成ゴムや合成樹脂に練り込んで、難燃ゴム材料として使用することも比較的古い技術であるが、近年、ダイオキシンの発生原因をなくすためにノンハロゲン化の要求の高まりとともに、ノンハロゲン難燃材料としてのニーズが高まり、より注目されてきている。例えば、特許文献1には、樹脂エラストマーであるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)に、膨張性黒鉛とポリフェニレンエーテルを配合して難燃化する技術が開示されている。この技術は膨張性黒鉛を配合することにより、外部からの加熱によって、組成物が膨張することを可能とするとともに該エラストマー組成物が難燃化されるものである。
【特許文献1】特開2002−338779号公報
【0004】
また、ゴム組成物に膨張性黒鉛を配合した技術としては、特許文献2には、未加硫ゴムに膨張性黒鉛とリン化合物を配合し、シート状にして基材と積層一体化した耐火被覆材が開示されている。本技術に関連して、未加硫のブチルゴムに難燃系材料や膨張性黒鉛を配合して、そのまま未加硫ゴムのテープ状としたものが既に実用化され、積水化学株式会社から商品名「フィブロック」の名称で販売されている。なお、膨張性黒鉛を配合した加硫ゴムによる難燃ゴム製品はいまだ市販されるに至っていない。
【特許文献2】特開平11−131631号公報
【0005】
各種ゴム成形品の成形材料に使用される合成ゴムの代表例としては、エチレンープロピレン系ゴム、特にエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下EPDM)が、汎用のジエン系ゴムに比較して耐熱性、耐候性などで優れており、電線、ウェザーストリップ、あるいは自動車部品などの押出製品に数多く使用されている。
【0006】
EPDMの架橋方法としては、一般的には硫黄架橋により製品化されることが多い。硫黄架橋は、比較的簡便なオープン架橋方式によっても架橋できるため、汎用の用途としては、硫黄を架橋剤として用いる方法が実施されてきた。しかしながら、自動車部品のように耐熱性が特に要求されるようになってくると、硫黄架橋では満足いく特性のものが得られにくくなってきている。また、硫黄架橋すると、製造設備が硫黄により汚染されたり、ゴム中の硫黄が溶出したりするため、汚染性を考慮する場合は、硫黄を使用しない架橋方法で架橋させることが好ましい。また、有機過酸化物架橋を行う方が、得られるゴム組成物の耐熱性が向上する事も知られてきた。そのため、近年においては、EPDMのような合成ゴムにおいても、ポリマー間に―C―C―結合が導入できる有機過酸化物による架橋方式が注目されてきており、その採用が望まれていた。
【0007】
樹脂・ゴムの技術分野において、有機過酸化物は、主に樹脂・合成ゴムの重合開始剤、硬化剤、あるいは架橋剤として使用されている。一般的に、有機過酸化物は過酸化水素の誘導体であって、この分子内の酸素結合が存在することにより、比較的低い温度で熱的に分解し、容易に遊離ラジカルを生成する。この生成した遊離ラジカルの性質としては、不飽和二重結合への付加反応および水素等の引き抜き反応が挙げられる。この反応の中で、後者の水素引き抜き反応を利用して、各種合成ゴム・合成樹脂の架橋剤、ポリプロピレンの改質剤などとして使用されている。
【0008】
合成ゴムなどの架橋に用いられる有機過酸化物は、ゴムコンパウンドの混練中における熱履歴による分解、スコーチの危険性がないこと、一定の架橋温度、一定の時間内で満足な架橋が行われるべきことを考慮して、適宜使い分けられる。架橋剤として使用される有機過酸化物としては、具体的には、(1)ジアシルパーオキサイド、(2)パーオキシエステル、(3)ジアルキルパーオキサイド、(4)パーケタールのグループに大別され、ゴム組成物の配合設計、成型条件などにより、その都度選択されるものである。
【0009】
特許文献3には、(4)パーケタールのグループに属する特殊な有機過酸化物(例えば、1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン)をEPDMに配合して架橋する技術が開示されている。ただし、この有機過酸化物は現在では入手が難しくなっている。
【特許文献3】特開平6−299003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、有機過酸化物を使用するゴムの架橋方法においては、ゴム組成物の配合及び架橋加熱工程における制約が大きく、その採用が事実上困難な場合があった。
【0011】
まず第1に、架橋剤を配合した未加硫ゴムは加熱工程により架橋反応させるが、加熱工程としては、加熱した金型で加熱する方法、加圧蒸気存在下による方法、無圧下での熱風加硫による方法などが挙げられる。ここで、硫黄架橋の場合は、前記架橋方法のうちどのような加熱工程によっても表面のベタツキがなく、粘着性のないゴム組成物が得られるが、有機過酸化物を使用した架橋方法を採用する場合、空気(酸素)存在下では十分に架橋しないため、加圧蒸気存在下による方法、無圧下での熱風加硫による方法では、表面がベタツキ、粘着性が生じ、ゴム製品として満足のいく物が得られなかった。
【0012】
すなわち、有機過酸化物を架橋剤として使用して架橋する(以下単にパーオキサイド加硫とも表記する)場合、空気の存在下に架橋反応を行ういわゆるオープン架橋では良好な架橋成型物を得ることができなかった。成形品表面がべたつきや粘着性を示す理由は、空気中の酸素が架橋反応を阻害するからである。
唯一シリコーンゴムにおいては、空気中でも有機過酸化物架橋できるものとして知られているが、EPDMやSBRなど、シリコーンゴム以外の合成ゴムでは、酸素存在下でパーオキサイド加硫を実施できないことは周知の事実であった。 従って、従来技術においてパーオキサイド加硫によってゴム製品を得ようとすれば、金型プレス機、射出成型機、溶融金属塩中など酸素の供給を遮断する雰囲気下で、架橋反応を実施する必要があるため、特殊な加熱装置を用意する必要があったのである。
【0013】
また第2に、ゴム組成物には様々な充填剤、可塑剤、そして、その他薬品を調合したうえで架橋させるために、配合される物質によっては、特定の種類の有機過酸化物が架橋剤として使用できないことが知られている。前述した有機過酸化物の分類は、有機過酸化物の構造による分類であるが、特に、その構造の中にアシル基を持っている有機過酸化物は、分解温度が低く、酸等の影響を受けにくいという長所を有するものの、多量のカーボンブラックが配合されたゴム組成物においては、架橋が著しく阻害され、成形品全体にわたって架橋不可能となるという短所を有している。一方、アルキル基を含む有機過酸化物は、カーボンブラック配合時の架橋への影響はかなり小さいものの、空気中、特に酸素存在下の架橋の困難度が高い。
【0014】
さらに、膨張性黒鉛をゴム組成物に配合すると有機過酸化物架橋が不可能となることが判明した。これは、膨張性黒鉛には酸性物質が含まれるために、架橋反応に必要な高温によってガス状の酸性物質が発生し、架橋を阻害することが原因である。
【0015】
以上説明したように、従来の架橋技術においては、EPDMやSBRといった合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋させることは困難であり、ゴム表面が未架橋のままで、成形品表面がべたつくなどして、好ましいゴム成形品は得られなかった。
【0016】
したがって、本発明は、エチレン−プロピレン系ゴムなどの合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋可能とすることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の発明者らは、鋭意検討の結果、特定の有機過酸化物と特定の脂肪酸エステルを組み合わせて配合処方することで、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質がゴム組成物に配合されていても、空気存在下でオープン架橋できることを知見し、本発明を完成させた。すなわち、特定の有機過酸化物と脂肪酸エステルを組み合わせるという配合設計によって、従来の架橋技術では解決できなかったパーオキサイド架橋不良の問題を解決し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0018】
本発明は、合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であって、合成ゴムはエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴムであり、有機過酸化物はベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエートであり、脂肪酸エステルはペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることを特徴とする、オープン架橋用ゴム組成物である。
【0019】
また、本発明において、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムのうち少なくとも1つをエチレンープロピレン系ゴムにブレンドしてもよい(請求項2)。また、本発明において、炭素質として膨張性黒鉛を配合しても良い(請求項3)。
【0020】
また、本発明は、合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物の架橋方法であって、合成ゴムとしてエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴム、有機過酸化物としてベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルとしてペンタエリスリトール脂肪酸エステルを混練した後、オープン架橋により架橋することを特徴とするゴム組成物の過酸化物架橋方法である(請求項4)。本発明の架橋方法において、炭素質として膨張性黒鉛を配合してもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質を含有するゴム組成物がオープン架橋によっても良好に過酸化物架橋され、得られるゴム製品が、ゴム表面のベタツキがないという、製品の外観上の品質に優れたものが得られる。また、本発明によれば、硫黄を使用しないので、製造設備の硫黄による汚染が生ずることがない。
【0022】
また、請求項3または請求項5の発明によれば、膨張性黒鉛を炭素質として配合したゴム組成物であっても有機過酸化物による架橋を行い、架橋工程におけるゴム表面のアバタの発生やゴム成形品表面のベタツキの発生を予防して、良好な外観を有する架橋ゴム製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であり、オープン架橋可能なゴム組成物である。以下、各構成要素について順次説明していく。
【0024】
(合成ゴム)
本発明に使用可能な合成ゴムとしては、エチレン−プロピレン系ゴムを主体とするゴムが使用できる。エチレン−プロピレン系ゴムの中でも、特に、エチレン−プロピレンゴム(EPT)や、その他多様なエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)が好ましく使用できる。EPDMは、エチレンとプロピレンと第三成分とのモノマーを共重合させたゴムである。前記第三成分としては、側鎖に不飽和結合を持つ有機化合物が用いられる。この有機化合物としては、ジシクロペンタジエン(DCP)、エチリデンノルボーネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、ビニルノルボルネン等がある。エチレン−プロピレン系ゴムとして、EPTや各種EPDMを単独で使用することもできるが、これらをブレンドして使用しても良い。
【0025】
なお、本発明のゴム組成物のゴムには、二重結合を持ち、ヨウ素価が10以上、ガラス転移温度が25℃以下のエチレン−プロピレン系ゴム以外の合成ゴムをブレンドすることもできる。ブレンドする合成ゴムは、ゴム組成物の主体とするエチレン−プロピレン系ゴムに対して、混合しやすいゴムであることが好ましい。ブレンド可能な合成ゴムの具体的な例としては、スチレン−ブタジエンゴム(以下SBR)、ブタジエンゴム(以下BR)が例示できる。また、二重結合を有するゴムではないものの、クロロプレンゴム(以下CR)や天然ゴム(以下NR)のうち、エチレン−プロピレン系ゴムにブレンド可能ものを本発明のゴム組成物にブレンドすることもできる。
【0026】
(炭素質)
本発明においてゴム組成物に配合される炭素質としては、膨張性黒鉛やカーボンブラックが例示される。炭素質として、カーボンブラックのみあるいは膨張性黒鉛のみを配合するようにしても良いし、カーボンブラックと膨張性黒鉛の双方を配合するようにしても良く、要求されるゴムの特性に応じて配合すればよい。
【0027】
(膨張性黒鉛)
膨張性黒鉛とは、加熱により体積が膨張する黒鉛のことであり、具体的には、天然鱗片状黒鉛などの黒鉛(グラファイト)の層間に化学品を挿入されたものである。鱗片状黒鉛は主に中国の山東地区、モンゴリア地区の2箇所で産出される。前地区では石英を含有、後地区ではマイカを含有しており、膨張性黒鉛の用途によって産地を使い分けられている。例えば、樹脂などに混練させる場合は、混練機の磨耗を抑えるために、マイカ含有のものが多く使用されている。
【0028】
膨張性黒鉛の化学構造は、天然鱗片状黒鉛の層の間に化学品(グラファイト層間化合物)を挿入した層状構造となっており、この化学品が加熱によりガスを発生する事により膨張し、不燃の層を形成させるものである。従って、膨張性黒鉛の粒子径が大きいほど膨張の度合いが高くなるが、一方で強度の面では劣るため、ゴム組成物の難燃性が高まるようにこれらのバランスを考慮しつつ粒子径や発泡温度を適宜選択して使用されている。
【0029】
鉱山から採掘された天然鱗片状黒鉛は、粉砕、水分級の工程を経てカーボン含有量約95%以上の黒鉛になる。この黒鉛内の不純物除去は、強酸洗浄、高温下アルカリ中での焼結により行われる。そして、この鱗片状の黒鉛の層間に化学品を挿入するが、工程の効率化のため、硝酸や過マンガン酸カリウム、もしくはオゾンなどの酸化剤が必要とされる。この反応後、中和工程、洗浄、乾燥工程を経て膨張性黒鉛となる。
【0030】
本発明に使用可能な膨張性黒鉛の代表的な物性は以下の通りであるが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。粒子径は、45〜500μm、ph値5〜8、外部からの加熱による膨張開始温度は130〜300℃である。膨張開始温度については、処理される化学品により決定される。膨張性黒鉛としては、例えば、三洋貿易株式会社から商品名「SYZR2003」の名称で市販されている製品などが使用できる。
【0031】
膨張性黒鉛の配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマー成分により調整されるため一律には規定できないが、ポリマー成分100重量部に対し、膨張性黒鉛が1部以下であると、加熱による膨張性の効果的な発現が望みにくく、500重量部を超えると、配合設計によっては充填しにくくなり、ゴム製品としての弾性の喪失、硬度の上昇などの欠点が認められる。従って、所望される膨張率にもよるが、ゴム性とのバランスを考慮して、3〜300重量部が好適な配合部数となる。
【0032】
(カーボンブラック)
本発明で使用可能なカーボンブラックは、一般的にゴム工業用として市販されているものであり、特に本発明を限定するものではない。具体的には、天然ガス、石油系または石炭系重質油などを不完全燃焼、あるいは熱分解によって精製されたものを指す。また、カーボンブラックは、製造方法によって、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどに分類される。本発明においては、前記製造方法によって得られたカーボンブラックであれば使用することができる。
【0033】
カーボンブラックの配合部数は、所望される製品の特性や使用するポリマー成分により一律には規定できないが、一般に、ゴム製品の硬度とゴム弾性のバランスを考慮して、ポリマー成分100重量部に対し、1〜80重量部が好適な配合部数となる。
【0034】
(脂肪酸エステル)
脂肪酸エステルは、脂肪酸とアルコールによるエステル化反応物である。脂肪酸エステルは、通常、ゴム・樹脂製品を成型する上で各種の加工性を改善するために、加工助剤として使用されている。脂肪酸エステルは、ゴムコンパウンドへの軟化作用が少なく、化学的に中性であることから、架橋速度、架橋特性に対する影響が少なく、分散性、内部離型性、熱安定性などの効果が得られることが一般に知られており、脂肪酸、アルコールの種類、またはそのエステル化度の限定などにより、適宜選択されて使用される。また、一般的に、エステル化度の高いタイプは高飽和ゴムである特殊ゴムに、低エステル化度のタイプはジエン系ゴムに使用されることが多い。
【0035】
本発明において配合する脂肪酸エステルは、特殊エステル系のペンタエリスリトール脂肪酸エステルである。従来、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、主に樹脂の滑剤などとして使用されており、加工性の向上に加えて、混練時間の短縮、ブルーム、ブリードの防止に効果的であることが知られている。本発明においては、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルを以下に示す特定の有機過酸化物と併用することにより、炭素質を配合したゴム組成物をオープン架橋可能とするものである。この脂肪酸エステルについては、従来は樹脂用の滑剤として使用されることはあっても、特定の有機過酸化物と併用して、酸素存在下でのオープン架橋の架橋性改善に使用された例はなかった。
【0036】
(有機過酸化物)
本発明で配合される有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキシド(例えば、日油株式会社製の商品名「ナイパーBW」)または、t−ブチルパーオキシベンゾエート(例えば、日油株式会社製の商品名「パーブチル Z」)が使用できる。前記した有機過酸化物の分類において、ベンゾイルパーオキシドは(1)ジアシルパーオキサイドのグループに分類され、t−ブチルパーオキシベンゾエートは(2)パーオキシエステルのグループに分類されるものである。いずれのグループも、ゴム組成物にカーボンブラックなどの炭素質が配合された場合には架橋反応が阻害されるため、その使用は不適当とされているグループである。
【0037】
本発明は、これら従来の技術常識に反しながらも、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルと、ベンゾイルパーオキシドまたはt−ブチルパーオキシベンゾエートとを組み合わせて併用配合することで、カーボンブラックや膨張性黒鉛などの炭素質が配合されたゴム組成物であっても、酸素の存在する空気中でオープン架橋可能とするものである。本発明によれば、ゴム成形品の表面のベタツキやアバタ発生のない架橋ゴム組成物が得られる。
【0038】
本発明の実施に好適な配合量の例を以下に示す。ゴム成分としてのエチレンープロピレン系ゴム100重量部に、カーボンブラック1〜80重量部、膨張性黒鉛3〜300重量部、脂肪酸エステル0.1〜5重量部、有機過酸化物0.01〜15重量部を配合することにより、ゴムのオープン架橋を好適に行うことができる。また、エチレン−プロピレン系ゴムに対し二重結合を有する合成ゴム(SBRやBR)やCR、NRなどをブレンドすることも可能であり、そのブレンド比は特に限定されない。
【0039】
以下に、本発明のゴム組成物に係るゴム製品の製造方法について説明する。
本発明の炭素質を含有するゴム組成物は、各成分を任意の順序で配合し、十分に混合する事により調製できる。また、このゴム組成物には、前記材料が必須成分として添加される他、任意成分として、パラフィン系オイルなどの可塑剤、あるいは、りん酸エステル、金属酸化物、シリカ系補強充填剤、架橋助剤、滑剤などの加工性改善助剤を必要に応じて、配合することができる。これら薬剤を配合したゴム組成物の混合は、二本ロール、ニーダー、バンバリー、二軸混練押出機、および各種ミキサー、その他の混練機を使用して行うことができ、薬剤が均一に分散された未加硫のゴム組成物を得ることができる。
【0040】
上記工程により未加硫状態で得られた、本発明の炭素質含有ゴム組成物を架橋させて、ゴム架橋物を製造するための方法には、従来公知の熱架橋方法を広く採用できる、例えば、金型内で予備成型されたゴム組成物を、熱空気中でオープン架橋を実施することにより、所望の形状の炭素質含有架橋ゴム組成物を得ることができる。また、本発明のゴム組成物は、押出特性に優れるので、未加硫ゴム組成物を連続的に押出し加工して、加熱炉を通して連続架橋を行って、長尺の帯状のゴム組成物を得ることもできる。加熱は二段階以上に分けて行うこともでき、加熱方法としては、熱空気加硫、UHF加硫、遠赤外線による加硫、直接水蒸気加硫など任意のオープン架橋方法によることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。以下の説明において、本文中の部とは、全て重量部を意味する。実施例および比較例の配合及び試験結果を表1に示す。なお、実施例や比較例において、酸化亜鉛や消泡剤、滑剤、可塑剤を配合しているが、これらを配合しない場合でも、ゴム組成物の表面のベタツキには影響がなく、これら成分は本発明の必須成分ではない。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例1)
ゴム成分にEPDMとして、第3成分がエチリデンノルボーネンの3072E(三井化学株式会社製)を140部を使用し、膨張性黒鉛として、SYZR2003(三洋貿易株式会社社製)を100部、カーボンブラックとして、シーストG-SO(東海カーボン株式会社製)を20部、可塑剤としてフッコールP200(富士興産株式会社製)を40部、酸化亜鉛として、第二種ZnO(正同化学工業株式会社製)を5部、消泡剤として、CML#31(近江化学工業株式会社製)を3部、滑剤としてステアリン酸(日油株式会社製)を1部配合して加圧ニーダーを用いてコンパウンドを得た。これにオープンロールにて、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルとして、エマスター430W(理研ビタミン株式会社製)を1部、有機過酸化物であるベンゾイルパーオキシドとして、ナイパーBW(日油株式会社製)を2部加えて、シート状に分出しした。得られた未架橋コンパウンドを規定の金型に入れて予備成型を行い、その後熱風式ギアーオーブンで、120℃×10分間保持して架橋し、厚さ2mmの架橋シートを得た。
【0044】
(実施例2)
実施例2として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、t-ブチルパーオキシベンゾエート(日油株式会社製 商品名「パーブチルZ」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例3として、実施例2のEPDMである3072E(三井化学株式会社製)を140部の代わりに、EPDMである3072E(三井化学株式会社製)を112部にSBRである1778(ジェイ・エス・アール株式会社製)を25部ブレンドしたゴムを使用した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0046】
(比較例1)
比較例1として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、1,1−t-ヘキシルパーオキシシクロヘキサン(日油株式会社製 商品名「パーヘキサHC」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0047】
(比較例2)
比較例2として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジ-t-ヘキシルパーオキシド(日油株式会社製 商品名「パーヘキシルD」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0048】
(比較例3)
比較例3として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジクミルパーオキシド(日油株式会社製 商品名「パークミル D」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0049】
(比較例4)
比較例4として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製 商品名「パーブチル P」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0050】
(比較例5)
比較例5として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン-3(日油株式会社製 商品名「パーヘキシン 25B」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0051】
(比較例6)
比較例6として、実施例1のベンゾイルパーオキシドであるナイパーBWの代わりに、ジ-t-ブチルパーオキシド(日油株式会社製 商品名「パーブチル D」)を2部配合した他は、実施例1と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0052】
(比較例7)
比較例7として、実施例2のペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるエマスター430Wの代わりに、プロピレングリコール脂肪酸エステルとして、リケマールPS-100(理研ビタミン株式会社製)を1部配合した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0053】
(比較例8)
比較例8として、実施例2のペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるエマスター430Wの代わりに、高級アルコール脂肪酸エステルとして、リケマールSL-800(理研ビタミン株式会社製)を1部配合した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0054】
(比較例9)
比較例9として、実施例2のペンタエリスリトール脂肪酸エステルであるエマスター430Wの代わりに、グリセリン脂肪酸エステルとして、リケマールS-100(理研ビタミン株式会社製)を1部配合した他は、実施例2と同じ配合及び混練・架橋工程を経たシート状ゴム試験片を得た。
【0055】
これら架橋シートおよび試験片を用いて各種物性を測定・評価した。結果を表1に示す。なお、各種物性の評価方法は、以下の通りである。ゴムの硬さはJIS K6253(1997)「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準拠して、伸び及び引張強度はJIS K6251(2004)「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの引張特性の求め方」に準拠して測定した。表面の架橋状態(表面粘着性)に関しては、試験シートを架橋後すぐに取り出して、架橋反応終了時から30秒以内にHBの鉛筆(三菱鉛筆)で架橋ゴム表面を引っかいた際の、ゴム表面のケズレ状態を確認することにより評価した。表面架橋がうまくできていないと、未架橋のゴム組成物が鉛筆によって掻き取られるので、表面の削れ具合を確認することによって、表面部分の架橋状態及び表面粘着性の指標とすることができる。表面架橋状態の評価は、表面が全く削れないものを◎、僅に削れるものを○、少し削れるものを△、かなり削れるものを×として表1に記載した。また、ケズレの表面状態をパワーハイスコープ(株式会社ハイロックス社製)により、20倍に拡大して撮影したものを図1〜図12に示す。表面のアバタの発生状況の評価については、目視による観察で評価を行い、アバタが殆ど認められないものを◎、僅かに認められるものを○、少し認められるものを△、かなり認められるものを×として表1に記載した。
【0056】
以下、評価結果を述べる。表1および図1、図2、図3から明らかなように、実施例1、実施例2、実施例3は、ギアオーブンによる熱風中でもゴム表面は十分に架橋されて、ベタツキがなく、架橋工程直後であっても鉛筆で表面がほとんど削れない。即ち成形品の表面も良好に架橋されている。また表面アバタもない。これに対し、比較例1〜比較例9(それぞれ図4〜図12に対応)は、いずれもゴム表面が未加硫の状態であり、鉛筆によって表面が削れてしまった。パワーハイスコープによる20倍の観察写真によっても、鉛筆によって削れた後が明瞭に観察できた。
【0057】
また、本評価結果によれば、膨張性黒鉛を配合したゴム組成物であっても、実施例1、実施例2、実施例3においては、表面アバタが少ない、良好な架橋ゴムを得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、合成ゴムにカーボンブラックや膨張性黒鉛といった炭素質を配合したゴム組成物を、有機過酸化物によって空気中でオープン架橋させることができる。当該ゴム組成物により成型・架橋されたゴム製品は、ゴム表面のベタツキがなく、また表面上のアバタの発生もないので、外観上の品質に優れた製品が提供でき、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図2】実施例2の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図3】実施例3の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図4】比較例1の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図5】比較例2の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図6】比較例3の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図7】比較例4の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図8】比較例5の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図9】比較例6の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図10】比較例7の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図11】比較例8の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【図12】比較例9の表面ケズレ評価後の表面状態の写真
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であって、合成ゴムはエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴムであり、有機過酸化物はベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエートであり、脂肪酸エステルはペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることを特徴とする、オープン架橋用ゴム組成物。
【請求項2】
スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムのうち少なくとも1つをエチレンープロピレン系ゴムにブレンドしたことを特徴とする請求項1に記載のオープン架橋用ゴム組成物。
【請求項3】
炭素質として膨張性黒鉛を配合したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオープン架橋用ゴム組成物。
【請求項4】
合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物の架橋方法であって、合成ゴムとしてエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴム、有機過酸化物としてベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルとしてペンタエリスリトール脂肪酸エステルを混練した後、オープン架橋により架橋することを特徴とするゴム組成物の過酸化物架橋方法。
【請求項5】
炭素質として膨張性黒鉛を配合したことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物の過酸化物架橋方法。
【請求項1】
合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物であって、合成ゴムはエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴムであり、有機過酸化物はベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエートであり、脂肪酸エステルはペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることを特徴とする、オープン架橋用ゴム組成物。
【請求項2】
スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムのうち少なくとも1つをエチレンープロピレン系ゴムにブレンドしたことを特徴とする請求項1に記載のオープン架橋用ゴム組成物。
【請求項3】
炭素質として膨張性黒鉛を配合したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオープン架橋用ゴム組成物。
【請求項4】
合成ゴムに炭素質と有機過酸化物と脂肪酸エステルを配合したゴム組成物の架橋方法であって、合成ゴムとしてエチレンープロピレン系ゴムを主体とするゴム、有機過酸化物としてベンゾイルパーオキシド、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート、脂肪酸エステルとしてペンタエリスリトール脂肪酸エステルを混練した後、オープン架橋により架橋することを特徴とするゴム組成物の過酸化物架橋方法。
【請求項5】
炭素質として膨張性黒鉛を配合したことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物の過酸化物架橋方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−70598(P2010−70598A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237371(P2008−237371)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
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