説明

カソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法及び装置

【課題】 定量的且つより厳格な迷走電流腐食に対するカソード防食状況の計測評価を行う。
【解決手段】 評価計測装置10は、プローブ電流の計測データが入力されるデータ入力部11、入力された計測データをサンプリングすると共に演算処理する計測演算処理部13を備え、計測演算処理部13は、プローブ電流密度算出手段12Bと、プローブ電流密度の経時変化によって、プローブ電流密度がプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求める時間積分値算出手段12Dと、この時間積分値に基づいてプローブの年間腐食速度を算出する腐食速度算出手段12Eと、算出された当該年間腐食速度を基準値と比較して埋設金属体のカソード防食状況を評価するカソード防食状況評価手段12Fとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗覆装が施され且つカソード防食が適用されている埋設金属体に対して、迷走電流腐食のリスクを計測評価する方法及びその方法を実現するための計測評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋設金属体の腐食の中で、迷走電流腐食は最も激しい腐食として位置づけられており、その腐食リスクをより正確に評価計測して適切且つ迅速にリスク回避の対策をとることが求められている。迷走電流腐食は、迷走電流の主成分が直流の場合の直流迷走電流腐食と迷走電流の主成分が交流の場合の交流迷走電流腐食とに分けて考えることができるが、以後の説明で単に「迷走電流腐食」とした場合には、直流迷走電流腐食と交流迷走電流腐食或いは両者の複合現象を総称したものとする。この迷走電流腐食は、発生原因の影響度合が一定で、現象として時間経過に依存しない場合と、発生原因の影響度合が時間経過と共に変化して、現象として時間経過に依存する(特定の時間帯のみ起こる)場合とがある。
【0003】
前者の例としては、直流迷走電流腐食の例では、異なる埋設金属体をカソード防食するために設置された外部電源からの出力電流が直流迷走電流になっている場合のように、カソード防食関連の電気設備に起因する現象を挙げることができる。このような例では、計測対象の埋設金属体に対してプローブを電気的に接続し、前述した電気設備の稼働時に、プローブの直流電流密度と交流電流密度を同時計測してその結果を評価することで、迷走電流源の特定、及びその後の対策が可能になる。また、交流迷走電流腐食の例では、埋設金属体が高圧交流架空送電線に並行していることで埋設金属体に交流誘導電圧が発生し、この電圧を駆動力として埋設金属体が交流迷走電流腐食する現象を挙げることができる。この例では、埋設金属体に電気的に接続されたプローブは、再現性の極めてよい商用周波数(50Hz又は60Hz)と同じ周波数を有するプローブ電流密度となるので、このプローブ電流密度からプローブ直流電流密度とプローブ交流電流密度とを分離して求め、これを評価することにより、この埋設金属体の迷走電流腐食リスクを評価することができる。これらの場合には、現象が時間経過に依存しないので、計測タイミングを特に考慮する必要が無く、計測評価結果も計測時刻に依存しない。
【0004】
一方、後者の例としては、直流電気鉄道システム稼働時のレール漏れ電流に起因する現象、或いは交流電気鉄道システム稼働時の埋設金属体に発生する交流誘導電圧に起因する現象を挙げることができる。これらの現象は、計測評価地点において、直流電気鉄道及び交流電気鉄道の通過時に最も埋設金属体への影響度が大きくなる、換言すれば、この時に埋設金属体の瞬時的な迷走電流腐食リスクが最も高くなることが明らかになっている(下記非特許文献1参照)。
【0005】
したがって、直流電気鉄道及び交流電気鉄道が年々高速化しつつある中で、この直流電気鉄道及び交流電気鉄道に起因する迷走電流腐食を正確に計測評価するためには、これらの電気鉄道が計測評価地点を通過する瞬時的な高速現象を正確に捉えた計測評価が不可欠になる。
【0006】
これに対して、従来から行われている、直流電気鉄道システム稼働時に発生するレール漏れ電流が埋設金属体のカソード防食状態に及ぼす影響度を計測評価する方法、或いは交流電気鉄道システム稼働時に埋設金属体に発生する電磁誘導がカソード防食状態に及ぼす影響度を計測評価する方法としては、下記非特許文献2に記載の方法が知られている。
【0007】
これを図1に基づいて説明する。この方法は、図示のように、評価対象となる埋設金属体である導管1に対して塗覆装欠陥を模したプローブ2(導管と同じ材料からなる所定面積の試験片)を近接させ、また、地表面には照合電極(飽和硫酸銅電極)3を設置し、導管1とプローブ2間を電気的に接続する導線4内に電流計5とスイッチ6を設け、プローブ2と照合電極3間を電気的に接続する導線7内に電圧計8を設けた計測システムが用いられ、スイッチ6ON時の電圧計8の出力によって得られるプローブオン電位EON、スイッチ6OFFの直後に電圧計8の出力によって得られるプローブオフ電位EOFF、スイッチ6ON時の電流計5の出力によって得られるプローブ電流Iによって、前述した影響度の計測評価を行うものである。
【0008】
この計測システムにおいては、プローブ2と照合電極3間に防食電流や直流迷走電流が流れていると、これらの電流と土壌抵抗の積である電圧分が、プローブオン電位EON(管対地電位)に含まれることになるので、プローブオン電位EONは、照合電極3の位置によって様々な値をとることになり、カソード防食管理基準と照査することができない。これに対しては、前述の電圧分はスイッチ6をオフにした直後に消失するという現象を利用し、このスイッチ6をオフした直後に計測されるプローブオフ電位EOFFによって、導管1の真の管対地電位を計測し、これを基準値と比較することがなされている。
【0009】
また、導管1に対する交流迷走電流腐食リスクの計測評価を行うには、プローブ電流Iから求められるプローブ電流密度の直流成分(プローブ直流電流密度IDC)と交流成分(プローブ交流電流密度IAC)を評価指標としている。交流電気鉄道システムによって交流誘導の影響を受けている導管1に対しては、求められたプローブ電流密度(IDC,IAC)をカソード防食管理基準と照査して、これが基準に合格するか否かで交流迷走電流腐食リスクを評価する。なお、この基準は、直流迷走電流腐食のリスクおよび過防食のリスクも合わせて評価することが可能である。
【0010】
ここで言うカソード防食管理基準とは、プローブ流入直流電流密度IDCとプローブ交流電流密度IACを座標軸とする二次元座標で表される基準領域である。具体的には、下記の表1又はその内容を図示した図2に示す領域I及び領域IIが基準を満たすカソード防食達成領域である。因みに図示の領域IIIはIDCが不足で腐食が懸念され、領域IVはIACが過大で交流迷走電流腐食が懸念され、領域VはIDCが過大で過防食が懸念される不合格領域である。また、ここで言うプローブ流入直流電流密度とは、プローブ直流電流密度IDCの極性変化の中でプラス値(プローブ直流電流密度の電解質からプローブへの流入方向)を示すものを指し(マイナス値はプローブ直流電流密度のプローブから電解質への流出方向)、この下限値(0.1A/m)よりプローブ直流電流密度IDCがマイナス側で、プローブ2への防食電流不足によりプローブ2が腐食する状態になる。
【0011】
【表1】

【0012】
【非特許文献1】梶山文夫,中村康朗「電鉄影響下にある埋設パイプラインのカソード防食状況の把握」、材料と環境'98講演集、腐食防食協会、1998年5月、p163−166
【非特許文献2】細川裕司,梶山文夫,中村康朗「プローブ電流密度を指標とした土壌埋設パイプラインのカソード防食管理基準に関する検討」、材料と環境、腐食防食協会、2002年、第51巻,第5号,p221−226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した従来技術の計測システムによって、スイッチ6をオフした直後に計測されるプローブオフ電位EOFFによって、埋設金属体である導管1の真の管対地電位を計測する場合には、オフ時間がオン時間に対して長いと、プローブ2が復極してしまい、プローブ2を再びオン状態にした時にプローブ2の表面状態が変化してしまうため、オフ時間を極力短くしなければならない。一方、直流電気鉄道のレール漏れ電流の影響をより厳格に計測評価するためには、最も導管1がレール漏れ電流の影響を受けている状態を計測する必要があるので、直流電気鉄道の計測評価地点通過時にプローブオフ電位の計測タイミングを一致させなければならないが、オフ時間を極力短くした場合には、高速で通過する直流電気鉄道の通過タイミングとプローブオフ電位の計測タイミングとを一致させることは非常に困難になり、最悪の場合には、直流電気鉄道の通過前又は通過後にプローブオフ電位を計測することになって、厳格な計測評価に有用な計測結果を得ることができないという問題があった。
【0014】
また、そもそもプローブオフ電位やプローブオン電位(管対地電位)といった電位値によっては、埋設金属体がレール漏れ電流の影響を受けてどの程度腐食するかという定量的な情報を得ることができない。プローブオフ電位の計測タイミングが高速な直流電気鉄道の通過タイミングと一致し、その計測結果がプローブオフ電位のカソード防食電位である−0.85V(飽和硫酸銅電極基準)に合格していたとしても、実際にプローブからは電解質に直流電流が流出する、カソード防食が完全でない場合があることが知られている。すなわち、カソード防食電位である−0.85V(飽和硫酸銅電極基準)が完全防食に分類される状態であっても、プローブ電流密度はプローブへの流入成分でのみ占められている訳ではなく、プローブから電解質へ流出、電解質からプローブへ流入を小刻みに繰り返している状態にある。このことは、そのアノード成分による腐食が無視できないことを意味しており、現にこの完全防食状態とみなされるプローブであっても0.02mm/year(以下、単にyと示す)の年間腐食速度が観察されているという報告もある(参考文献 笠原晃明 「防食技術」腐食防食協会、1981年、第30巻、第9号 p524−533)。
【0015】
これに対して、迷走電流腐食の影響を定量的に計測する方法としては、プローブと埋設金属体を常時電気的に接続しておき、プローブ設置1年後又はそれ以上経過後に、プローブを掘り上げてプローブの孔食深さと重量減少値を計測する方法が知られているが、この計測評価方法では時間がかかり過ぎるという欠点がある。
【0016】
直流電気鉄道システム稼働時に発生するレール漏れ電流に起因する埋設金属体の腐食は、大きい速度で起こることがあるので、計測評価にできる限り時間をかけないことが重要である。例えば、電食係数が100%の場合、管厚10mmの塗覆装鋼管において、10−4の塗覆装欠陥部から土壌に向かって1Aの電流が流れるとすると、年間腐食速度が11600mm/yであることから、僅か7.6時間で穿孔に至ることになる。また、交流迷走電流腐食の場合にも、埋設されたポリエチレン塗覆装鋼管(管厚4.5mm)が、交流電気鉄道システムの稼働の影響を受けて、埋設年数6年で穿孔に至った実例(最大年間腐食速度0.8mm/y;参考文献 W.Printz 「AC-Induced Corrosion on Cathodically Protected pipelines」 Proc.UK Corrosion '92,1992,p1〜17 )等が報告されている。したがって、直流/交流迷走電流腐食の定量的な計測評価をできる限り短い時間で行うことができる手法が求められている。
【0017】
また、前述したプローブ直流電流密度IDCとプローブ交流電流密度IACを評価指標とする方法では、例えばレール漏れ電流に起因する直流迷走電流腐食に対する計測評価を行う場合には、埋設金属体と周辺電解質との電位差をプローブオン電位EONとして計測して、その最大値と別途計測したレール対地電位の最小値との統計的に有意な負相関を確認した上で、プローブ直流電流密度IDCの計測時間平均値とプローブ交流電流密度の計測時間平均値とがプローブ電流密度を指標としたカソード防食管理基準(図2又は表1参照)を満足しているか否かで、影響度を計測評価している。
【0018】
しかしながら、この方法では、計測時の天候や計測時間帯(電気鉄道の運行時間帯か否か)がカソード防食状況の判定に大きく依存するので、計測時の状況を考慮に入れないとカソード防食状況を楽観視して判断を誤ることがあり得る。また、評価指標となるプローブ直流電流密度IDCとプローブ交流電流密度IACとして計測時間平均値を採用して、これがカソード防食管理基準を満足しているか否かで評価するので、腐食現象の進行に直接関連する電流値を計測していながら、埋設金属体が迷走電流の影響を受けてどの程度腐食するかという定量的な評価が行われていない。
【0019】
また、評価指標となるプローブ直流電流密度IDCとプローブ交流電流密度IACの計測時間平均値がカソード防食管理基準を満足している場合でも、個々の実測値が基準の下限値から外れている場合があり、平均値と基準値の比較では把握することができない電流の流出・流入による腐食の状況を、定量的に計測評価することができないという問題がある。
【0020】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものであって、発生原因の影響度合が時間経過と共に変化して、現象として特定の時間帯のみ起こる迷走電流腐食に対して、瞬時的に変化する高速現象を正確に捉えて計測評価することができること、また、迷走電流腐食の発生原因を特定して、この発生原因の影響を受けてどの程度腐食するかという定量的な計測評価が可能であり、しかもこの定量的な計測評価を短時間で行うことができること、また、計測時の天候等を適正に考慮できるようにすることで、より正確且つ厳格な計測評価を可能にし、計測評価を楽観視して判断を誤ることがないようにすること、また、プローブ直流電流密度IDCとプローブ交流電流密度IACを評価指標とするに際して、平均値と基準値の比較では把握することができない電流の流出・流入による腐食の状況を、定量的に計測評価できるようにすること、更には、計測開始時点で直流迷走電流と交流迷走電流とを区別することなく、埋設金属体の瞬時的な迷走電流腐食リスクを計測評価することで、直流電気鉄道輸送路,交流電気鉄道輸送路,高圧交流架空送電線等が併設されている状況下で、総合的な迷走電流腐食に対する計測評価を行うことができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述した目的を達成するための本発明の特徴は以下のとおりである。
【0022】
一つには、塗覆装が施され且つカソード防食が適用されている埋設金属体に対して、迷走電流腐食のリスクを計測評価する方法であって、前記埋設金属体の近傍にプローブを設置し、該プローブと前記埋設金属体とを電気的に接続してプローブ電流を所定時間計測し、前記プローブ電流の計測値から求めたプローブ電流密度の経時変化によって、前記プローブ電流密度がプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求め、前記時間積分値に基づいて前記プローブの年間腐食速度を算出し、算出された当該年間腐食速度を基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価することを特徴とする。
【0023】
また、前述したカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法において、前記プローブ電流密度の経時変化は、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化であることを特徴とする。
【0024】
また、前述したカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法において、前記プローブ電流密度の経時変化は、前記単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値を中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値だけ変化する交流成分の経時変化であることを特徴とする。
【0025】
また、前述したカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法において、前記プローブ電流密度の経時変化は、一つには、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化であり、また一つには、前記最小値を中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値だけ変化する交流成分の経時変化であり、前記時間積分値は、前記各経時変化によって求められ、求められた各時間積分値に基づいて算出された各年間腐食速度の和を、基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価することを特徴とする。
【0026】
また、前述したカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法において、前記プローブの直近に設置した感雨センサからの出力に基づいて前記プローブ電流の計測時間を設定することで、当該計測時間を雨天時に限定することを特徴とする。
【0027】
また、前述したカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法において、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間の整数倍の計測時間で前記プローブ電流をサンプリングし、その直後に設定した演算処理時間で前記プローブ電流密度を求める計測演算処理を1単位計測時間で行い、この単位計測時間を複数回繰り返した後に前記経時変化の基礎データを求める演算処理を行う1計測サイクルを複数回繰り返すことで前記プローブ電流密度の経時変化を求めることを特徴とする。
【0028】
また、前述したカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法において、前記単位計測時間では、前記単位サンプリング時間だけ前記埋設金属体の対地電位をサンプリングした後に前記単位サンプリング時間だけ前記埋設金属体の周辺に敷設された直流電気鉄道のレール対地電位をサンプリングするサブ単位計測が複数回行われ、各単位計測時間における前記埋設金属体の対地電位と前記レール対地電位の計測結果から、時系列的に変化する前記埋設金属体の対地電位と前記レール対地電位との相関を求め、該相関に統計的に有意な負相関が認められた場合に、前記年間腐食速度の原因を前記直流電気鉄道のレール漏れ電流であると特定することを特徴とする。
【0029】
更には、塗覆装が施され且つカソード防食が適用されている埋設金属体に対して、迷走電流腐食のリスクを計測評価する装置であって、少なくとも、前記埋設金属体に設置され、該埋設金属体と電気的に接続されたプローブにおけるプローブ電流の計測データが入力されるデータ入力部と、前記データ入力部に入力された計測データをサンプリングすると共に演算処理する計測演算処理部とを備え、前記計測演算処理部は、前記プローブ電流の計測データを商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間の整数倍の計測時間サンプリングして、該単位サンプリング時間毎のプローブ電流密度を求めるプローブ電流密度算出手段と、該プローブ電流密度の経時変化によって、前記プローブ電流密度がプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求める時間積分値算出手段と、前記時間積分値に基づいて前記プローブの年間腐食速度を算出する腐食速度算出手段と、算出された当該年間腐食速度を基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価するカソード防食状況評価手段とを備えることを特徴とする。
【0030】
また、カソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置において、前記プローブ電流密度算出手段は、前記単位サンプリング時間毎のプローブ直流電流密度とプローブ交流電流密度とを求め、前記時間積分値算出手段は、前記プローブ直流電流密度の経時変化と前記プローブ交流電流密度の経時変化のそれぞれにおいて前記時間積分値を求め、前記腐食速度算出手段は、前記各時間積分値に基づいて前記プローブの年間腐食速度をそれぞれ算出し、前記カソード防食状況評価手段は、算出された各年間腐食速度の和を、基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価することを特徴とする。
【0031】
また、カソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置において、前記プローブ直流電流密度の経時変化は、前記プローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化であり、前記プローブ交流電流密度の経時変化は、前記プローブ直流電流密度の最小値を中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値だけ変化する交流成分の経時変化であることを特徴とする。
【0032】
また、カソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置において、前記データ入力部は、前記プローブの直近に設置した感雨センサからの出力に基づいて前記プローブ電流の計測時間を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、このような特徴を具備することで、以下の効果を得ることができる。
【0034】
(1)所定の計測時間に連続して計測することができるプローブ電流を基にして評価計測するので、発生原因の影響度合が時間経過と共に変化して、現象として特定の時間帯のみ起こる迷走電流腐食に対して、瞬時的に変化する高速現象を正確に捉えて計測評価することができる。
【0035】
(2)迷走電流腐食が進行する状況のプローブ電流密度を時間積分した値を所定の計測時間内で求め、これによって算出されるプローブの年間腐食速度を基にカソード防食状況を評価するので、平均値と基準値の比較では把握することができない電流の流出・流入による腐食の状況を定量的に計測評価することができ、しかもこの定量的な計測評価を短時間で行うことができる。
【0036】
(3)迷走電流腐食が進行する状況のプローブ電流密度の時間積分値を求めるためのプローブ電流密度の経時変化として、プローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化を適用することにより、より正確且つ厳格な計測評価を可能にし、計測評価を楽観視して判断を誤ることがない。
【0037】
(4)迷走電流腐食が進行する状況のプローブ電流密度の時間積分値を求めるためのプローブ電流密度の経時変化として、プローブ交流電流密度の最大値から得られる振幅を有し、前記単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値を中心に変化する交流成分変化を採用するので、交流迷走電流腐食に関しても、より正確且つ厳格な計測評価を可能にし、計測評価を楽観視して判断を誤ることがない。
【0038】
(5)計測開始時点で直流迷走電流と交流迷走電流とを区別することなく、埋設金属体の瞬時的な迷走電流腐食リスクを計測評価するので、直流電気鉄道輸送路,交流電気鉄道輸送路,高圧交流架空送電線等が併設されている状況下で、総合的な迷走電流腐食に対する計測評価を定量的に行うことができる。
【0039】
(6)プローブの直近に設置した感雨センサからの出力に基づいてプローブ電流の計測時間を設定することで、当該計測時間を雨天時に限定することができ、計測時の天候等を適正に考慮できるようにすることで、より正確且つ厳格な計測評価を可能にし、計測評価を楽観視して判断を誤ることがない。
【0040】
(7)商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間の整数倍の計測時間でプローブ電流をサンプリングし、その直後に設定した演算処理時間でプローブ電流密度を求める計測演算処理を1単位計測時間で行い、この単位計測時間を複数回繰り返した後にプローブ電流密度の経時変化に関する基礎データを求める演算処理を行うことを1計測サイクルとして、当該1計測サイクルを複数回繰り返すことで、プローブ電流の計測データを蓄積する記憶手段の容量を低減することができると共に演算処理速度を速めることができる。
【0041】
(8)単位計測時間では、単位サンプリング時間だけ埋設金属体の対地電位をサンプリングした後に単位サンプリング時間だけ埋設金属体の周辺に敷設された直流電気鉄道のレール対地電位をサンプリングするサブ単位計測が複数回行われ、各単位計測時間における埋設金属体の対地電位とレール対地電位の計測結果から、時系列的に変化する埋設金属体の対地電位とレール対地電位との相関を求め、該相関に統計的に有意な負相関が認められた場合に、年間腐食速度の原因を直流電気鉄道のレール漏れ電流であると特定するので、迷走電流腐食の発生原因を特定して、この発生原因の影響を受けてどの程度腐食するかという定量的な計測評価が可能であり、しかもこの定量的な計測評価を短時間で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。図3は、本発明の実施形態に係るカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法及び装置の実施又は設置状況を示す説明図である。ここでは、カソード防食された埋設金属体として地中に埋設された導管を例にして説明するが、本発明の実施形態としてはこれに限定されるものではなく、塗覆装が施され且つカソード防食が適用されている埋設金属体の全てに対して適用することができることは言うまでもない。また、図示の例では、直流迷走電流腐食の原因として直流電気鉄道システムのレール20から漏れ出るレール漏れ電流Iを想定し、交流迷走電流腐食の原因として交流電気鉄道システムFからの交流誘導電圧EACを想定しているが、例えば高圧交流架空送電線等の他の原因による迷走電流腐食を同様に扱うことが可能であり、また、直流迷走電流腐食のみ、或いは交流迷走電流腐食のみを扱う場合は、これらの一方を省いて同様に評価計測することができる。
【0043】
図3に示した例で想定されている迷走電流腐食は、計測評価対象となるカソード防食された導管1に対して、その周辺地上部に直流電気鉄道システムのレール20が敷設されており、このレール20を流れる電流の一部が枕木や道床を通って地中に流出してレール漏れ電流Iとなり、このレール漏れ電流Iが導管1に流入すると、これによって直流迷走電流腐食リスクが生じることになり、また、導管1の周辺に交流迷走電流発生源となる交流電気鉄道システムFが存在することで、導管1における交流誘導電圧EACが増大すると、これによって交流迷走電流腐食のリスクが発生することになる。
【0044】
図において、計測評価の対象となる導管1に対して、その近傍にプローブ2を設置し、このプローブ2と導管1とを電気的に接続した導線4A内に電流計5とスイッチ6を設け、また、導管1周辺の地表面には照合電極3を設置し、導管1と照合電極3を電気的に接続する導線7内に電圧計8が設けられている点は従来技術と同様であり、このような計測設備は導管1に沿って所定間隔(一般には、約250m間隔)で既設されているターミナルボックス内に設置することができる。
【0045】
これに対して、ここでは、導管1に対して迷走電流腐食の原因と考えられる直流電気鉄道システムのレール20に対して、その対地電位を計測するために、地表面に飽和硫酸銅電極からなる照合電極21を設置し、この照合電極21とレール20とを導線22で電気的に接続して、この導線22内に電圧計23を設けている。この計測設備は、導管1の近くに敷設されている直流電気鉄道システムの設備に対して、計測評価時に随時設置される。
【0046】
そして、このような計測設備に対して、本発明の実施形態に係る計測評価装置10が接続される。計測評価装置10は、図3に示すように、データ入力部11と計測演算処理部12とを主要部として備え、必要に応じて制御出力部13を備えており、データ入力部11に、電流計5,電圧計8,23からの計測信号、或いは必要に応じてプローブ2の直近に設置される感雨センサ9からの出力信号が入力される。この感雨センサ9は、降雨によって導管1の周辺土壌がレール漏れ電流Iを通しやすい状態になっていることを感知できるものであればよく、土壌水分センサ等を用いることができる。
【0047】
図4は、計測評価装置10の具体的な構成例を示したブロック図である。計測評価装置10は、前述したように、電圧計8によって計測される管対地電位EP/S(プローブオン電位EON)と電圧計23によって計測されるレール対地電位ER/Sと電流計5によって計測されるプローブ電流Iがそれぞれ入力されるデータ入力部11、これらの入力された計測データをサンプリングすると共に演算処理する計測演算処理部12、演算処理の結果を制御信号として出力する制御出力部13、演算処理の結果を表示する表示装置14を備えており、計測演算処理部12は、データ記憶部12A、計測データ統計処理手段12B、プローブ電流密度算出手段12C、時間積分値算出手段12D、腐食速度算出手段12E、カソード防食状況評価手段12Fを備えている。
【0048】
図5は、前述した計測評価装置10におけるデータ入力部11及び計測演算処理部12の動作タイミングの一例を示す説明図である。データ入力部11は、同図(a)に示すタイミングで感雨センサ9からの出力がオンになった場合、又は手動で計測開始操作がなされた場合に、同図(b)に示すように動作を開始し、スイッチ6をオン状態にすると共に計測演算処理部12による計測サイクルが開始される。計測演算処理部12による1計測サイクルは、例えば10secを1サイクルとして動作がなされ、その期間内では、例えば1sec毎の単位計測時間が9単位設けられ、最後の1secに演算及び演算結果をデータ記憶部12Aに保存する演算・保存期間が設けられる。また、最初の動作開始時には1sec間の待機時間が設けられ、スイッチ6のオン動作に伴う不安定な回路状態での計測を回避している。
【0049】
また、単位計測時間内での計測データのサンプリングは、基本的には商用周波数(50Hz又は60Hz)の1周期に当たる単位サンプリング時間(50Hzの場合は20ms、60Hzの場合は16.7ms;以下の説明では、商用周波数が50Hzの場合を例にして説明する)毎に行うようにしている。これは、電位計測及び直流成分の電流計測において、統計処理によって交流分の変動を排除することと、単位サンプリング時間内のサンプリング値の変動によって交流成分を抽出することを目的にした設定である。
【0050】
図5に示した実施形態では、1単位計測時間(1sec)内で、同図(c)に示すように、最初の250msで電位(EON,ER/S)のサンプリングを行い、その後の100msでプローブ電流Iのサンプリングを行い、残りの時間でプローブ電流密度算出手段12B及び計測データ統計処理手段12Cによる演算処理と処理結果をデータ記憶部12Aに仮保存するための演算・仮保存時間が設けられる。サンプリングは例えば0.1ms毎に行い20msの単位サンプリング時間に200個のデータをサンプリングする。
【0051】
250msの電位サンプリング時間では、同図(d)に示すように、20ms(単位サンプリング時間)でプローブオン電位EONのサンプリングを行い、ADコンバータの切り換えに要する5msの待機時間の後に20msでレール対地電位ER/Sのサンプリングを行って、その後に前述した5msの待機時間を設けた、50msの1サブ単位計測を5回行っている。この例では、一つのADコンバータを2つの入力端子に対して切り換えて用いることで、ADコンバータの個数を一つにして装置の小型化を図りながら、50msという短い時間で比較対象の2種類のデータ(プローブオン電位EONとレール対地電位ER/S)をそれぞれ計測サンプリングしてほぼ同時刻の計測値として認識できるようにしている。
【0052】
なお、この実施形態では、プローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの相関関係を求めるために電位サンプリング時間を設けているが、このような相関が明らかな場合等にはこの電位サンプリング時間を省略してプローブ電流Iのサンプリング時間のみにすることもできる。この場合には、プローブ電流Iのサンプリング時間を前述した単位サンプリング時間の整数倍で更に長くすることが可能になる。
【0053】
このような単位計測時間を連続して1計測サイクルを形成し、この計測サイクルを連続してプローブ電流I或いはプローブオン電位EON,レール対地電位ER/Sを計測することで、高速で計測評価地点を通過する直流電気鉄道又は交流電気鉄道の通過タイミングを逃すことなく、必要な計測データをサンプリングすることが可能になる。また、感雨センサ9の出力タイミングとデータ入力部11のデータ計測タイミングを一致させることで、レール漏れ電流Iの影響が最も大きい雨天時のみの計測データをサンプリングすることが可能になり、より厳格な計測評価に有用なデータサンプリングを行うことが可能になる。
【0054】
そして、図5(c)の1単位計測時間(1sec)内での演算・仮保存時間では、プローブ電流密度算出手段12Bによって、プローブ電流Iの単位サンプリング時間(20ms)毎のサンプリングデータからプローブ電流密度(プローブ直流電流密度IDCとプローブ交流電流密度IAC)が求められ(100msのサンプリング時間ではそれぞれ5個のIDCとIACが求められることになる)、計測データ統計処理手段12Cによって、更に、求められたプローブ電流密度の最大値,最小値,平均値が求められ、これらの値がデータ記憶部12Aに仮保存される。
【0055】
プローブ電流密度算出手段12Bの具体的な算出過程を説明する。プローブ直流電流密度IDC[A/m],プローブ交流電流密度IAC[A/m]は、それぞれプローブ直流電流I(DC),プローブ交流電流I(AC)をプローブ面積Mpで除したものであって、下記式(1-1),(1-2)によってそれぞれ求められる。また、100msのプローブ電流サンプリング時間が設けられる1単位計測時間におけるI(DC),I(AC)は、1単位サンプリング時間(20ms)毎に200個のサンプリング値における時間平均値として求められ、以下の式(1-3),(1-4)によって、n=0,200,400,600,800の5つの値が求められることになる。
【0056】
【数1】

【0057】
また、図5(c)に示した1単位計測時間(1sec)内での演算・仮保存時間では、計測データ統計処理手段12Cによって、サブ単位計測時間(50ms)毎のプローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの最大値,最小値,平均値がそれぞれ求められ(0.1ms刻みで20msの時間内でサンプリングされた200個のEONとER/Sに対して、それぞれ最大値,最小値,平均値が求められる)、このサブ単位計測時間内におけるプローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの最大値,最小値,平均値のペア((EONmax,ER/Smax),(EONmin,ER/Smin),(EONave,ER/Save)及びその他の組み合わせ)を同時刻の計測結果として取り扱う。サブ単位計測時間内でサンプリングされるプローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sは最大で45msの時間差が生じるが、計測対象としているレール漏れ現象を考えた場合、この時間差は現象を正確に把握する上で全く問題にならない時間差である。
【0058】
更に、図5(b)に示した1計測サイクル(10sec)内で最後の1sec間に設けられる演算・保存時間では、計測データ統計処理手段12Cによって、単位計測時間(1sec)毎に求めて仮保存されているプローブ直流電流密度IDCの最大値IDCmax,最小値IDCmin,平均値IDCave及びプローブ交流電流密度IACの最大値IACmax,最小値IACmin,平均値IACaveがそれぞれ求められる。したがって、プローブ直流電流密度IDCの最大値IDCmax,最小値IDCmin,平均値IDCave及びプローブ交流電流密度IACの最大値IACmax,最小値IACmin,平均値IACaveは、この実施形態では10secの1計測サイクル毎に出力されることになる。
【0059】
そして、前述のように電位計測を行った場合には、計測データ統計処理手段12Cによって、その計測結果からプローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの相関係数が求められる。当然ながらレール漏れ電流の影響が明らかな場合などで電位計測が省略された場合には、この相関係数を求める統計処理は行われない。
【0060】
この相関係数を求める際には、計測演算処理部12に対象となる直流電気鉄道システムの運行状況データを入力して、計測結果をシステム稼働時のデータとシステム非稼働時のデータに分別した後、その計測結果からプローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの相関係数を求めると直流電気鉄道システムの影響を把握する上でより効果的である。
【0061】
図6は、プローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの相関係数を求めた結果を示す一つの試験例である。ここでは、求められたプローブオン電位EONの最大値EONmaxとレール対地電位ER/Sの最小値ER/Sminとの相関をレール対地電位ER/Sを計測した直流電気鉄道システム稼働時と非稼働時に分けて求めている(EONmax,ER/Sminの単位VCSEは、飽和硫酸銅電極を基準として計測された電圧をV単位で示したものである)。同図(a)に示すように、直流電気鉄道システム稼働時のEONmaxとER/Sminとの間に統計的に有意な負相関(相関係数:r=−0.882)が確認され、同図(b)に示すように、直流電気鉄道システム非稼働時のEONmaxとER/Sminとの間に統計的に有意な負相関が確認されるもののその傾きが直流電気鉄道システム稼働時のものより小さいことが確認された場合には、導管1がレール対地電位ER/Sを計測した直流電気鉄道システムの影響を受けていると判定できる。
【0062】
そして、図7に示すように、直流電気鉄道システム稼働時の計測結果からレール対地電位ER/Sの最小値ER/Sminとプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminとの間に統計的に有意な正相関が確認された場合には、レール対地電位ER/Sの変化に伴ってプローブ直流電流密度IDCが変化しているといえ、以後求めるプローブ電流Iの経時変化による導管1のカソード防食状況評価の原因が対象としている直流電気鉄道システムの稼働によるものであると判定できる。
【0063】
次に、迷走電流腐食の影響を定量的に求めるための時間積分値算出手段12Dの機能について説明する。この時間積分値算出手段12Dは、前述したようにプローブ電流Iのサンプリング値から求めたプローブ電流密度(プローブ直流電流密度IDC,プローブ交流電流密度IAC)の経時変化によって、プローブ電流密度Iがプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求めるものである。
【0064】
ここで、プローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値は、プローブ直流電流密度IDCが0.1(10−1)A/mであることが前述した従来技術(非特許文献2参照)に示されている。この下限値0.1A/mよりプローブ電流密度がマイナス側になった状況では、プローブ2の構成材である鉄が鉄イオンになる不可逆反応が進行していると考えることができる。したがって、プローブ電流密度の経時変化に対して、この下限値0.1A/mよりマイナス側になるプローブ電流密度の時間積分値を求めると、その計測時間内で実質的に鉄が鉄イオンになって腐食が進行する定量的な度合(プローブの溶出量)を把握することができる。
【0065】
図8は、プローブ直流電流密度IDCの代表値として1計測サイクル(10sec)毎に求めたプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminの経時変化を示したものであり、黒く塗りつぶした領域Wnがプローブ流入直流電流密度を指標としたカソード防食管理基準の下限値0.1A/mよりマイナス側の領域である。ここでは所定の評価計測時間内の領域Wn[A・sec/m](n=1〜29)の総和ΣWnを求めることで前述の時間積分値を求めている。この際に求められるΣWnは、感雨センサ9の作動時(雨天時)で且つ直流電気鉄道の計測評価地点通過時のデータを選択して求める。また、ここでは、プローブ直流電流密度IDCの代表値として最小値IDCminを採用しているが、データ記憶部12Aが大きな記憶容量を有する場合には、プローブ直流電流密度IDCの実測値をそのまま用いてその経時変化から前述した時間積分値を求めることも可能である。しかしながら、これによると大きな記憶容量だけでなく多大な処理時間を要することになる。そこで、データ記憶部12Aの記憶容量を最小限にとどめ、演算処理時間を短縮化し、更にはより厳格な評価を行うためにプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminを採用している。
【0066】
図9は、プローブ電流密度の交流成分の経時変化(所定の開始時刻tsからの経時変化)を示したものである。この経時変化は、影響を受けている交流誘導電圧EACの周波数(商用周波数50Hz)を有し、プローブ交流電流密度IACの最大値IAC(max)(実効値表示のIACmax×√2)の2倍の振幅を有する正弦波形と考えることができるので、前述したプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminをベースにして変化する前述した正弦波形をプローブ電流密度の交流成分の経時変化とすることができる。ここで正弦波形のベースをプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminにした理由は、求める時間積分値をより厳格な評価対象値にするためである。そして、同図(a)は、IDCmin<0,IAC(max)>IDCmin+0.1の場合を示しており、同図(b)はIDCmin<0,IAC(max)≦IDCmin+0.1の場合を示している。
【0067】
この経時変化に対して前述したようにプローブ流入直流電流密度を指標としたカソード防食管理基準0.1A/mよりマイナス側における中心からの変動領域(図9(a),(b)における斜線領域)を求めて前述した時間積分値を求める。この実施形態では、1単位サンプリング時間(20ms)における時間積分値Tを、図9(a)の場合と図9(b)の場合に分けて、以下の式(2-1)又は(2-2)で求めることができる。
【0068】
【数2】

【0069】
このようにして求めた時間積分値Tを1計測サイクル(10sec)分だけ拡大(500倍)し、それを計測時間内の計測サイクル毎に求めて、足し合わせることで、計測時間内の前述した時間積分値を求めることができる。
【0070】
また、この際に、交流誘導電圧の発生源が交流電気鉄道システムであると特定できる場合には、計測評価地点での交流電気鉄道の通過状況を考慮に入れて、通過時のみ時間積分値Tを拡大するようにしてもよい。前述した非特許文献1に記載されるように、交流迷走電流腐食は交流電気鉄道の通過時に生じると考えて良いから、その通過時のみ時間積分値Tを拡大することで、過剰に厳格な評価対象値にならず正確な定量評価が可能になる。また、交流誘導電圧の発生源として高圧交流架空送電線が考えられる場合には、電力需要が真夏においてピークになることから、計測評価時期を真夏日にするとより厳格な評価を行うことが可能になる。
【0071】
腐食速度算出手段12Eは、時間積分値算出手段12Dで求めた時間積分値に基づいてプローブ2の年間腐食速度を算出する。所定の計測時間内で求めたプローブ直流電流密度の経時変化における時間積分値をΣWn、交流成分の経時変化における時間積分値をΣTとすると、直流電流密度によるプローブ2の年間の溶出量WDC(g)及び交流成分によるプローブ2の年間の溶出量WAC(g)は、以下の式(3-1),(3-2)で求めることができる。ここで、L1,L2は所定の計測時間内で求めたΣWn,ΣTの値を1年間の値に換算するための係数であり、評価計測地点の直流電気鉄道又は交流電気鉄道の通過頻度、過去の天候状況(雨天の多さ)等を考慮に入れて設定される係数である。
【0072】
【数3】

【0073】
そして、鉄の密度が7.86(g/cm3)であるから、直流電流密度による年間の腐食速度dDC(mm/y),交流成分による年間の腐食速度dAC(mm/y)は、電食係数ηを100%と仮定して、それぞれ以下の式(4-1),(4-2)によって求めることができる。ここで、電食係数ηとは、金属が電食によって腐食する場合で、ファラデーの法則に従って通過電気量から理論的に算出したアノード面における腐食量に対して実際に生じた腐食減量の割合(%)である。
【0074】
【数4】

【0075】
そして、カソード防食状況評価手段12Fは、求められたプローブ2の年間腐食速度dDC,dACを基準値と比較して、導管1のカソード防食状況を評価する。ここで、基準値としては、例えば0.01mm/yという値を用いることができる。求められた年間腐食速度dDC,dACは、導管1への影響が直流成分のみと考えられる場合や交流成分のみと考えられる場合には、それぞれの年間腐食速度dDC又はdACを単独で基準値と比較して、基準値を年間腐食速度dDC又はdACが上回るときに対策が必要であると評価する。また、直流成分と交流成分が共に影響している場合には、各年間腐食速度の和(dDC+dAC)を基準値と比較して、基準値を(dDC+dAC)が上回るときに対策が必要であると評価する。
【0076】
図10は、カソード防食状況評価手段12Fによる評価手順の一例を示した流れ図である。
【0077】
まず、評価が開始されると、計測演算されて保存されているプローブ電流密度IDC,IACのそれぞれの中に基準の下限値0.1A/mより小さい値が有るか否かが調べられ(S1)、基準の下限値0.1A/mより小さい値が無い場合には、プローブ電流密度の平均値(IDCave,IACave)が図2に示したカソード防食管理基準に合格していることを確認して(S2)、対策不要の評価を出力する(S3)。
【0078】
また、プローブ電流密度IDC,IACのそれぞれの中に基準の下限値0.1A/mより小さい値が有った場合には、計測データ統計処理手段12Bで得たプローブオン電位EONとレール対地電位ER/S間の相関係数から統計的に有意な負相関が有るか否かの判定がなされる(S4)。この相関係数に統計的に有意な負相関が無い場合には、迷走電流腐食原因の対象としている直流電気鉄道システムとの関連性がないものと判断して、計測対象の導管1の外部電源を再調整する指示を出力する(S5)。
【0079】
この相関係数に統計的に有意な負相関が有る場合には、計測データ統計処理手段12Bで得たプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminとレール対地電位ER/Sの最小値との間の相関係数に統計的に有意な正相関が有ることを確認して(S6)、腐食速度算出手段12Eにプローブ2の年間腐食速度d(dDC+dAC)の算出指示を出し、得られた年間腐食速度d(dDC+dAC)を基準値(0.01mm/y)と比較する(S8)。
【0080】
そして、プローブ2の年間腐食速度d(dDC+dAC)が基準値(0.01mm/y)より大きい場合には、迷走電流腐食リスクが有るものと判断して、その原因をレール対地電位ER/Sを計測している直流電気鉄道システム及び周辺の交流誘導電圧発生源と特定して、求めた年間腐食速度d(dDC+dAC)の値に応じて必要な対策措置の指示を出力する(S9)と共に、その後の効果確認を行う(S10)。
【0081】
一方、プローブ2の年間腐食速度d(dDC+dAC)が基準値(0.01mm/y)より小さい場合には、計測対象の直流電気鉄道システムとの因果関係は認められるものの定量的な評価において対策を施すほどではないと判断し、プローブ電流密度の平均値(IDCave,IACave)が図2に示したカソード防食管理基準に合格していることを確認して(S11)、対策不要の評価を出力する(S12)。
【0082】
対策措置としては、直流迷走電流腐食に対しては選択排流法,強制排流法,外部電源方式等が適用され、交流迷走電流腐食に対しては交流誘導低減器の設置等の措置が施されることになる。
【0083】
図11によって、選択排流法,強制排流法,外部電源方式を説明する(前述の説明と共通箇所には同一符号を付して重複説明を省略する)。選択排流法を適用する際には、同図(a)に示すように、直流迷走電流腐食の原因であると特定された直流電気鉄道システムのレール対地電位ER/Sが最もマイナスの地点(通常は変電所設置地点又はその近傍)を排流点Roとしてその地点と導管1とを選択排流器30を介して結線する。直流電気鉄道が回生制動を用いている場合には、レール対地電位ER/Sが最もマイナスの地点が変電所設置地点又はその近傍に限らないので、計測結果から排流点を決定する必要がある。
【0084】
具体的には、変電所間に存在する複数のターミナルボックスにプローブを設置して評価計測装置10を接続し、レール漏れ抵抗が最も低くなる雨天時にプローブ電流Iの同時計測を行う。これらの同時計測により、プローブ電流密度IDCの最小値IDCminを示した地点を排流点として、この地点と直近のレールとを選択排流器30を介して結線する。選択排流法の適用後は、導管1に沿ったターミナルボックスにおいて評価計測装置10による評価計測を行うことで、導管1に対するカソード防食状況の確認を行う。
【0085】
直流電気鉄道のレール対地電位が充分にマイナス値を示さない場合、或いは押し出し現象がみられ、その防止を図る必要がある場合等、選択排流法では電食障害の防止が不可能な場合には、同図(b)に示すような強制排流法を適用する。強制排流法は、レール20と導管1とを強制排流器40を介して結線し、導管1から強制的にレール20に流出する電流を形成する。
【0086】
直流迷走電流腐食の原因であると特定された直流電気鉄道システムのレール対地電位ER/Sのプラス値が大きく、レール付近に埋設された導管1にレール漏れ電流が流入し、この電流がレールから遠く離れた地点で導管1から電解質(土中)へ流出し、この地点が直流迷走電流腐食を起こす現象を押し出し現象と言うが、この現象に対処するには導管1のどの地点で押し出し現象が起きているかを判断することが重要になる。
【0087】
この押し出し現象に対処するためには、導管1に沿った複数のターミナルボックスにプローブを設置して評価計測装置10を接続し、プローブ電流Iの同時計測を行う。そして、レール対地電位ER/Sとプローブ直流電流密度IDCの正相関が統計的に有意で、且つIDCのマイナス方向の最も大きな地点を押し出し地点とみなし、押し出し防止対策を検討する。
【0088】
押し出し防止対策としては、前述した強制排流法(同図(b)参照)か、或いは外部電源方式(同図(c))が有効である。強制排流法による場合には、前述のように得た押し出し地点のプローブ電流密度(IDCave,IACave)の値がカソード防食管理基準(図2参照)に合格していることを確認しながら、導管1に強制排流器40による定電流を印加する。一方、外部電源方式による場合には、同図(c)に示すように、押し出し地点で評価計測装置10によって計測されたプローブ電流密度(IDC)に応じて外部電源装置50(50Aは外部電源電極)の出力を制御する。これらの対策適用後は、導管1に沿ったターミナルボックスにおいて評価計測装置10による評価計測を行うことで、導管1に対するカソード防食状況の確認を行う。
【0089】
このような本発明の実施形態に係る評価計測装置10を用いた導管1に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法の特徴をまとめると以下のとおりになる。
【0090】
すなわち、一つには、埋設金属体である導管1の近傍にプローブ2を設置し、このプローブ2と導管1とを電気的に接続してプローブ電流Iを所定時間計測し、プローブ電流Iの計測値から求めたプローブ電流密度(プローブ直流電流密度IDC,プローブ交流電流密度IAC)の経時変化によって、プローブ電流密度(IDC,IAC)がプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値(0.1A/m)よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求め、この時間積分値に基づいてプローブ2の年間腐食速度dを算出し、算出された年間腐食速度dを基準値(0.01mm/y)と比較して導管1のカソード防食状況を評価する。
【0091】
これによると、まず、所定の計測時間に連続して計測することができるプローブ電流Iを基にして評価計測するので、発生原因の影響度合が時間経過と共に変化して、現象として特定の時間帯のみ起こる迷走電流腐食に対して、瞬時的に変化する高速現象を正確に捉えて計測評価することができる。また、迷走電流腐食が進行する状況のプローブ電流密度(IDC,IAC)を時間積分した値を所定の計測時間内で求め、これによって算出される年間腐食速度dを基にカソード防食状況を評価するので、平均値と基準値の比較では把握することができない電流の流出・流入による腐食の状況を定量的に計測評価することができ、しかもこの定量的な計測評価を短時間で行うことができる。
【0092】
ここで、評価計測の対象が直流迷走電流腐食に限定できる場合には、前述のプローブ電流密度の経時変化は、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間(商用周波数50Hzに対しては20ms)毎に求められるプローブ直流電流密度IDCを1計測サイクル(例えば10sec)毎に演算処理して求めた最小値IDCminの経時変化とし、この経時変化によってプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminがプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値0.1A/mよりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求め、この時間積分値に基づいてプローブ2の年間腐食速度dDCを算出し、算出した年間腐食速度dDCを基準値0.01mm/yと比較して導管1のカソード防食状況を評価する。
【0093】
これによると、プローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminを評価指標とすることで、より厳格な計測評価を可能にし、計測評価を楽観視して判断を誤ることがなくなる。また、計測サイクル毎にサンプリング値を統計処理して求められる最小値IDCminを評価指標としているので、扱うデータが少なくなりデータの記憶容量を小さくできると共に、演算処理速度を短縮することが可能になる。
【0094】
また、評価計測の対象が交流迷走電流腐食に限定できる場合には、前述のプローブ電流密度の経時変化は、単位サンプリング時間(商用周波数50Hzに対しては20ms)毎に求められるプローブ直流電流密度IDCを1計測サイクル(10sec)毎に演算処理して求めた最小値IDCminを中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度IACの最大値IAC(max)だけ変化する交流成分の経時変化として、同様にプローブ2の年間腐食速度dACを算出し、算出した年間腐食速度dACを基準値0.01mm/yと比較して導管1のカソード防食状況を評価する。
【0095】
これによると、単位サンプリング時間(20ms)を1周期として変化する交流成分に対して、定量的な迷走電流腐食の評価が可能になり、しかも1計測サイクル(10sec)毎に統計処理して求める代表値IDCmin,IACmax(IAC(max)=√2×IACmax)から交流成分の経時変化を予測しているので、扱うデータが少なくなりデータの記憶容量を小さくできると共に、演算処理速度を短縮することが可能になる。また、最小値IDCminを中心に変化する交流成分変化を採用するので、交流迷走電流腐食に関しても、より厳格な計測評価を可能にし、計測評価を楽観視して判断を誤ることがない。更に、プローブ2の年間腐食速度dACを算出するに際して、交流迷走電流腐食の発生原因が導管1周辺を通過する交流電気鉄道であると特定できる場合には、この交流電気鉄道の運行状況を考慮して、通過時のみ交流迷走電流腐食が発生すると考えて年間腐食速度dACを算出することで、過剰に厳格な評価指標にすることなくより正確な腐食リスクの定量的評価が可能になる。
【0096】
そして、直流迷走電流腐食と交流迷走電流腐食の両方が生じる現象であると考えられる場合(例えば、導管1の近くに直流電気鉄道が走っており、その上の高架に交流電気鉄道が走っているような場合)には、前述のプローブ電流密度の経時変化は、一つには、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度IDCを1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値IDCminの経時変化であり、また一つには、この最小値IDCminを中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値IAC(max)だけ変化する交流成分の経時変化であり、前述の時間積分値は、前記各経時変化によって求められ、求められた各時間積分値に基づいて算出された各年間腐食速度の和(dDC+dAC)を基準値0.01mm/yと比較して導管1のカソード防食状況を評価する。
【0097】
これによると、計測開始時点で直流迷走電流と交流迷走電流とを区別することなく、直流電気鉄道輸送路,交流電気鉄道輸送路,高圧交流架空送電線等が併設されている状況下で、総合的な迷走電流腐食に対する計測評価を行うことができる。
【0098】
また、プローブ2の直近に設置した感雨センサ9からの出力に基づいてプローブ電流Iの計測時間を設定することで、当該計測時間を雨天時に限定する。これによると、レール漏れ電流等の迷走電流が生じ易い雨天時での計測結果に基づいてプローブ2の年間腐食速度d(mm/y)を算出することができる。年間腐食速度dの算出に際しては、計測評価地点での直流電気鉄道又は交流電気鉄道の通過状況や過去の天候状況を考慮して、雨天時の計測結果に対して所定の換算係数を乗じる。これによって、楽観視して判断を誤ることなく、しかも過剰に厳格になり過ぎない適正な値を求めることができ、これを基準値と比較することで、適正な迷走電流腐食リスクの評価を行うことが可能になる。
【0099】
また、商用周波数(50Hz)の1周期に当たる単位サンプリング時間(20ms)の整数倍の計測時間(100ms)でプローブ電流Iをサンプリングし、その直後に設定した演算処理時間でプローブ電流密度IDC,IACを求める計測演算処理を1単位計測時間(例えば、1sec)で行い、この単位計測時間を複数回繰り返した後に前述した経時変化の基礎データ(IDCmin,IACmax)を求める演算処理を行う1計測サイクル(10sec)を複数回繰り返すことでプローブ電流密度の経時変化を求める。これによると、プローブ電流密度の経時変化を求めるためのデータ記憶容量を小さくすることが可能であると共に、時間積分値を求める演算処理を高速化することが可能になる。
【0100】
また、単位計測時間(1sec)では、単位サンプリング時間(20ms)だけ導管1の対地電位(プローブオン電位EON)をサンプリングした後に単位サンプリング時間(20ms)だけ導管1の周辺に敷設された直流電気鉄道のレール対地電位ER/Sをサンプリングするサブ単位計測が複数回行われ、各単位計測時間における導管1の対地電位(プローブオン電位EON)とレール対地電位ER/Sの計測結果から、時系列的に変化する導管1の対地電位とレール対地電位との相関を求め、該相関に統計的に有意な負相関が認められた場合に、年間腐食速度dの原因を直流電気鉄道のレール漏れ電流であると特定する。
【0101】
これによると、迷走電流腐食の発生原因をレール漏れ電流であると特定して、この発生原因の影響を受けてどの程度腐食するかという定量的な計測評価がプローブ2の年間腐食速度dによって可能であり、しかもこの定量的な計測評価を所定計測時間の短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】従来技術の説明図である。
【図2】カソード防食管理基準の説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法及び装置の実施又は設置状況を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る計測評価装置の具体的な構成例を示したブロック図である。
【図5】本発明の実施形態に係る計測評価装置におけるデータ入力部及び計測演算処理部の動作タイミングを示す説明図である。
【図6】プローブオン電位EONとレール対地電位ER/Sの相関係数を求めた結果を示す一つの試験例である。
【図7】プローブ直流電流密度IDCとレール対地電位ER/Sの相関係数を求めた結果を示す一つの試験例である。
【図8】プローブ直流電流密度IDCの代表値として1計測サイクル(10sec)毎に求めたプローブ直流電流密度IDCの最小値IDCminの経時変化を示したグラフである。
【図9】プローブ電流密度の交流成分の経時変化を示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態に係る評価計測装置におけるカソード防食状況評価手段による評価手順の一例を示した流れ図である。
【図11】選択排流法、強制排流法、外部電源方式を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0103】
1 導管
2 プローブ
3 照合電極
4 導線
5 電流計
6 スイッチ
7 導線
8 電圧計
9 感雨センサ
10 評価計測装置
11 データ入力部
12 計測演算処理部
12A データ記憶部
12B プローブ電流密度算出手段
12C 計測データ統計処理手段
12D 時間積分値算出手段
12E 腐食速度算出手段
12F カソード防食状況評価手段
13 制御出力部
14 表示装置
20 レール
21 照合電極
22 導線
23 電圧計
30 選択排流器
40 強制排流器
50 外部電源装置
50A 外部電源電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗覆装が施され且つカソード防食が適用されている埋設金属体に対して、迷走電流腐食のリスクを計測評価する方法であって、
前記埋設金属体の近傍にプローブを設置し、該プローブと前記埋設金属体とを電気的に接続してプローブ電流を所定時間計測し、
前記プローブ電流の計測値から求めたプローブ電流密度の経時変化によって、前記プローブ電流密度がプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求め、
前記時間積分値に基づいて前記プローブの年間腐食速度を算出し、
算出された当該年間腐食速度を基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価することを特徴とするカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項2】
前記プローブ電流密度の経時変化は、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化であることを特徴とする請求項1記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項3】
前記プローブ電流密度の経時変化は、前記単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値を中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値だけ変化する交流成分の経時変化であることを特徴とする請求項1記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項4】
前記プローブ電流密度の経時変化は、一つには、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化であり、また一つには、前記最小値を中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値だけ変化する交流成分の経時変化であり、
前記時間積分値は、前記各経時変化によって求められ、
求められた各時間積分値に基づいて算出された各年間腐食速度の和を、基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価することを特徴とする請求項1記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項5】
前記プローブの直近に設置した感雨センサからの出力に基づいて前記プローブ電流の計測時間を設定することで、当該計測時間を雨天時に限定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項6】
商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間の整数倍の計測時間で前記プローブ電流をサンプリングし、その直後に設定した演算処理時間で前記プローブ電流密度を求める計測演算処理を1単位計測時間で行い、
この単位計測時間を複数回繰り返した後に前記経時変化の基礎データを求める演算処理を行う1計測サイクルを複数回繰り返すことで前記プローブ電流密度の経時変化を求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項7】
前記単位計測時間では、前記単位サンプリング時間だけ前記埋設金属体の対地電位をサンプリングした後に前記単位サンプリング時間だけ前記埋設金属体の周辺に敷設された直流電気鉄道のレール対地電位をサンプリングするサブ単位計測が複数回行われ、各単位計測時間における前記埋設金属体の対地電位と前記レール対地電位の計測結果から、時系列的に変化する前記埋設金属体の対地電位と前記レール対地電位との相関を求め、該相関に統計的に有意な負相関が認められた場合に、前記年間腐食速度の原因を前記直流電気鉄道のレール漏れ電流であると特定することを特徴とする請求項6に記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項8】
塗覆装が施され且つカソード防食が適用されている埋設金属体に対して、迷走電流腐食のリスクを計測評価する装置であって、
少なくとも、前記埋設金属体に設置され、該埋設金属体と電気的に接続されたプローブにおけるプローブ電流の計測データが入力されるデータ入力部と、
前記データ入力部に入力された計測データをサンプリングすると共に演算処理する計測演算処理部とを備え、
前記計測演算処理部は、
前記プローブ電流の計測データを商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間の整数倍の計測時間サンプリングして、該単位サンプリング時間毎のプローブ電流密度を求めるプローブ電流密度算出手段と、
該プローブ電流密度の経時変化によって、前記プローブ電流密度がプローブ流入直流電流密度を指標とするカソード防食管理基準の下限値よりマイナス側になった領域の時間積分値を所定の計測時間内で求める時間積分値算出手段と、
前記時間積分値に基づいて前記プローブの年間腐食速度を算出する腐食速度算出手段と、
算出された当該年間腐食速度を基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価するカソード防食状況評価手段とを備えることを特徴とするカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置。
【請求項9】
前記プローブ電流密度算出手段は、前記単位サンプリング時間毎のプローブ直流電流密度とプローブ交流電流密度とを求め、
前記時間積分値算出手段は、前記プローブ直流電流密度の経時変化と前記プローブ交流電流密度の経時変化のそれぞれにおいて前記時間積分値を求め、
前記腐食速度算出手段は、前記各時間積分値に基づいて前記プローブの年間腐食速度をそれぞれ算出し、
前記カソード防食状況評価手段は、算出された各年間腐食速度の和を、基準値と比較して前記埋設金属体のカソード防食状況を評価することを特徴とする請求項8記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置。
【請求項10】
前記プローブ直流電流密度の経時変化は、前記プローブ直流電流密度を1計測サイクル毎に演算処理して求めた最小値の経時変化であり、
前記プローブ交流電流密度の経時変化は、前記プローブ直流電流密度の最小値を中心に、商用周波数の1周期に当たる単位サンプリング時間毎に求められるプローブ交流電流密度の最大値だけ変化する交流成分の経時変化であることを特徴とする請求項9記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置。
【請求項11】
前記データ入力部は、前記プローブの直近に設置した感雨センサからの出力に基づいて前記プローブ電流の計測時間を設定することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のカソード防食された埋設金属体に対する迷走電流腐食リスクの計測評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−145492(P2006−145492A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339320(P2004−339320)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】