説明

カチオン型帯電防止剤及びこの帯電防止剤を含む接着剤及びこの接着剤を用いてドライラミネートされたドライラミネートフィルム

【技術課題】無溶剤型ドライラミネート用接着剤等において帯電防止性能を発揮するカチオン型帯電防止剤を提供する。
【解決手段】脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート及び炭酸プロピレンとの混合物から成るカチオン型帯電防止剤及びこのカチオン型帯電防止剤を含む無溶剤型ドライラミネート用帯電防止性接着剤及び前記無溶剤型ドライラミネート用接着剤を用いて基材フィルムとシーラントフィルムとをラミネートして成る帯電防止性ドライラミネートフィルム。これらの製品は、低湿度下においても、優れた帯電防止性能を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン型帯電防止剤及びこのカチオン型帯電防止剤を含む接着剤及びこの接着剤を用いてドライラミネートされたドライラミネートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの場合、摩擦により静電気を発生し、これがフィルムに帯電することによりトラブルを発生することから、この帯電を防止する手段として、プラスチックフィルム自体に帯電防止剤を練り込んだり、帯電防止剤をコーティングしたり、ラミネートフィルムにあってはラミネート用接着剤に帯電防止剤を含ませることにより、帯電を除去するという手法が採られている。
このような用途を持つ帯電防止接着プライマーとしては、次のようなものが公知である。
・特許第2608383号公報
(1)静電誘電防止性を有する架橋性重合体からなる接着プライマーにおいて、架橋性 重合体は側鎖に、少なくとも、カルボキシル基及び4級アンモニウム塩基を有する 架橋性共重合高分子である接着プライマー。
(2)プラスチックフィルム基材に上記(1)項記載の接着プライマーからなるプライ マー層を有する静電誘導防止性積層フィルム。
(3)プラスチックフィルム基材層、上記(1)項記載の接着プライマーからなるプラ イマー層、接着剤層、及び他のプラスチックフィルム層からなる静電誘導防止性積 層フィルム。
しかし、上記公知の帯電防止接着プライマーは、溶剤系であり、また、空気中の湿度にその性能が大きく作用されるという欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、無溶剤系の帯電防止剤を開発することによって、自然環境及び作業環境に悪い影響が出るのを阻止し、且つ大気中の湿度にその性能が左右されない帯電防止剤と、この帯電防止剤を含むドライラミネート用接着剤及びこの接着剤を用いてドライラミネートされたドライラミネートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明において、カチオン型帯電防止剤は、脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート及び炭酸プロピレンとの混合物から成ることを特徴とする。
【0005】
上記炭酸プロプレンは、脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートカチオン界面活性剤と良好な相溶性を有し、無水のイオン解離剤としての特徴を有している。
【0006】
次に、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載のカチオン型帯電防止剤において、脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートと炭酸プロピレンとの混合割り合いが重量比3〜6:1から成ることを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項3に記載の発明においては、無溶剤型ドライラミネート用帯電防止性接着剤において、前記カチオン型帯電防止剤を含むことを特徴とするものである。
【0008】
一般に使用される無溶剤型接着剤主剤は、溶剤型ドライラミネート用接着剤主剤と同じ、ポリウレタン系樹脂であるが、分子量が低いのが特徴で、脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート及び炭酸プロピレンとの混合物溶液は、帯電防止性能に加えて、無用剤型接着剤主剤に容易に混合する特徴を有している。
【0009】
更に、本発明において、前記カチオン型帯電防止剤混合物溶液を無溶剤型ラミネート用接着剤主剤に添加混合し、更に、無溶剤型イソシアネート硬化剤と添加混合することにより、帯電防止性無溶剤型ドライラミネート用接着剤とすることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項4に記載の発明においては、帯電防止性ドライラミネートフィルムにおいて、前記無溶剤型ドライラミネート用帯電防止性接着剤を用いて基材フィルムとシーラントフィルムとをドライラミネートして成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電防止剤は、無溶剤型であり、低湿度下においても十分に帯電防止性能を発揮すると共に、水分を含有しない無溶剤型のドライラミネート用接着剤主剤に添加することにより、水分介在によるイオン電解性の帯電防止剤の効果に劣らぬ帯電防止性能を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
請求項1記載の炭酸プロピレンは無色、無臭、吸湿性の少ない液体で、凝固点=−49.2℃、沸点=241.7℃、また誘電率は23℃で69.0であり、水につぐほどの高誘電率により有極性物質をよく溶解する無害の高沸点有機溶剤である。一般に、この特徴ある液体は過塩素酸リチウムの非水電解溶液としてリチウム電池の電解液に用いられている。
【0013】
また、請求項1に記載の脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートと炭酸プロピレンとの混合溶液は、高沸点混合物であるため、無溶剤型ドライラミネート接着剤主剤に添加混合した該接着剤主剤と無溶剤型イソシアネート硬化剤の溶液では、基材フィルムにコートされた接着剤層の高分子空間内に4級アンモニウム塩の炭酸プロピレン電解液が残存するような構造となり、基材フィルムとシーラントフィルムとを本接着剤でラミネートしたドライラミネートフィルムは、両外面での摩擦帯電圧は低い値を示し、優れた帯電防止効果をもつ接着剤を作ることができる。
【0014】
以上、請求項1に記載のカチオン型帯電防止剤を添加しない無溶剤型接着剤を用いたドライラミネートフィルムの外表面摩擦帯電圧を比較例として、本接着剤の性能効果を以下の実施例として示す。
以下の実施例に用いるカチオン型帯電防止剤は、上記請求項1に記載の脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートと炭酸プロピレンの混合溶液を常温で良く混合して得たもので、その混合比率は重量比4:1である。
但し、この混合比率は、実用的には6〜3:1である。この範囲を超えると、望む性能が得られなくなる。
【実施例1】
【0015】
請求項1に記載のカチオン型帯電防止剤は、脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート及び炭酸プロピレンを常温(16℃〜33℃)下で重量比4:1の割り合いで良く混合して得た。但し、この混合比は、6〜3:1の範囲でも実用的には十分である。
上記したカチオン型帯電防止剤における脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートと炭酸プロピレンの分子式は化1及び化2のとおりである。
【化1】

【化2】

【実施例2】
【0016】
上記した本発明のカチオン型帯電防止剤を汎用無溶剤型ドライラミネート用接着剤に添加混合調整し、軟包装用のラミネートフィルムとして積層し、その性能を確認した。
無溶剤型ドライラミネーターは、ポリタイプ型の岡崎機械工業株式会社製を使用した。塗工部のロール配置は、第一ロールがゴムロール、第二ロールが鉄ロール、第三ロール(塗布ロール)がゴムロール、第四ロールが鉄ロールの構成となっている。各々のロールの回転速度は周速比で第一:第二:第三は凡そ1:10:100で設定し、塗布量は第三ロールの回転速度で調整した。なお、各々の鉄ロールは第二ロールを80℃、第四ロールを70℃とし、ニップロールの鉄ロール側は45℃に設定した。
【0017】
無溶剤型接着剤は東洋モートン株式会社製で主剤は「NCO末端ポリエーテル系ウレタン」(AD−N369AF)で、硬化剤は「OH末端ポリエーテル系ウレタン」(AD−N369B)の組成のものを使用した。
また、基材フィルムは、東洋紡績株式会社製の二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)を、シーラントフィルムは東洋紡績株式会社製のLLDPE(直鎖型ポリエチレン)を使用した。以上の構成を表1に示す。
【表1】

【0018】
予め、主剤と硬化剤とカチオン型帯電防止剤を恒温器で90℃に加温する。各々を手早く以下の比率で配合し、無溶剤型ドライラミネーターの第一ロール、第二ロール間に注ぎ込み、5分間混練りし、試験した。
試験は、通常配合と帯電防止剤添加配合の2種類で実施した。この結果を表2に示す。
【表2】

加工速度は、約100m/分で基材フィルムの二軸延伸PETのコロナ処理面に接着剤を塗布し、シーラントフィルムのLLDPEのコロナ処理面を貼り合わせ、40℃の熟成室に48時間保管した。
塗工した接着剤の塗布量の測定結果は、1.1〜1.2g/m2であった。
【0019】
保管熟成後のラミネートフィルムについてラミネート強度、ヒートシール強度、摩擦帯電圧値などの性能を測定した。
・ラミネート強度測定
15mm幅にカットした試料片の端部より基材とシーラントフィルムをT字状に剥離し、オートグラフを用い、引っ張り速度〔300mm/分〕で剥離した時の強度を測定した。その結果を表3に示す。
【表3】

【0020】
・ヒートシール強度測定
試料の積層フィルムのシーラントフィルム面同士を向かい合わせ〔150℃、1kg/ cm2、1秒〕の条件でヒートシールした。ヒートシール部分を15mm幅にカットし た試料片をT字状にオートグラフにセットし、引っ張り速度〔300mm/分〕で剥離 した時の強度を測定した。その結果を表4に示す。
【表4】

通常配合接着剤では安定した、本発明帯電防止剤添加配合接着剤では若干弱いヒートシール強度結果を得た。
【0021】
・摩擦帯電圧値の測定
23℃、53%RHの環境下で摩擦帯電圧を測定した。その結果を表5に示す。
【表5】

この表5から本発明帯電防止剤添加配合が非常に優れた帯電防止効果を示したことが判る。
【実施例3】
【0022】
実施例2と同様に、無溶剤型接着剤として東洋モートン株式会社製を選び、主剤は「NCO末端ポリエーテル系ウレタン」で、硬化剤は「OH末端ポリエーテル系ウレタン」の組成のものを使用した。
また、基材フィルムはユニチカ株式会社製の二軸延伸ナイロンを、シーラントフィルムは東洋紡績株式会社製のLLDPE(直鎖ポリエチレン)を使用した。この構成を表6に示す。
【表6】

【0023】
予め、主剤と硬化剤と本発明帯電防止剤を恒温器で90℃に加温する。各々を手早く以下の比率で配合し、無溶剤型ドライラミネーターの第一ロール、第二ロール間に注ぎ込み、5分間混練りし、試験した。
試験は、通常配合と帯電防止剤添加配合の2種類で実施した。この配合例を表7に示す。
【表7】

加工速度は、約100m/分で基材フィルムの二軸延伸ナイロンのコロナ処理面に接着剤を塗布し、シーラントフィルムのLLDPEのコロナ処理面を貼り合わせ、40℃の熟成室に48時間保管した。
塗工した接着剤の塗布量の測定結果は、1.6〜1.7g/m2であった。
【0024】
保管熟成後のラミネートフィルムについてラミネート強度、ヒートシール強度、摩擦帯電圧値などの性能を測定した。
・ラミネート強度測定
15mm幅にカットした試料片の端部より基材とシーラントフィルムをT字状に剥離し 、オートグラフを用い、引っ張り速度〔300mm/分〕で剥離した時の強度を測定し た。その結果を表8に示す。
【表8】

【0025】
・ヒートシール強度測定
試料の積層フィルムのシーラントフィルム面同士を向かい合わせ〔150℃、1kg/ cm2、1秒〕の条件でヒートシールした。ヒートシール部分を15mm幅にカットし た試料片をT字状にオートグラフにセットし、引っ張り速度〔300mm/分〕で剥離 した時の強度を測定した。その結果を表9に示す。
【表9】

通常配合接着剤では安定した、本発明帯電防止剤添加配合接着剤では若干弱いヒートシール強度結果を得た。
【0026】
・摩擦帯電圧値の測定
23℃、53%RHの環境下で摩擦帯電圧を測定した。その結果を表10に示す。
【表10】

この表10から本発明帯電防止剤添加配合接着剤が優れた帯電防止効果を示したことが判る。
以上の実施例において、ドライラミネートされたフィルムのラミネート強度は、溶剤系の接着剤を用いたものと比較して、全く遜色が無かった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のカチオン型帯電防止剤は、溶剤系印刷インキ及び溶剤型塗料主剤に添加してその帯電防止性能を付与するためにも用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート及び炭酸プロピレンとの混合物から成るカチオン型帯電防止剤。
【請求項2】
脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートと炭酸プロピレンとの混合割り合いが重量比3〜6:1から成ることを特徴とする請求項1に記載のカチオン型帯電防止剤。
【請求項3】
前記カチオン型帯電防止剤を含む無溶剤型ドライラミネート用帯電防止性接着剤。
【請求項4】
前記無溶剤型ドライラミネート用帯電防止性接着剤を用いて基材フィルムとシーラントフィルムとをドライラミネートして成る帯電防止性ドライラミネートフィルム。

【公開番号】特開2009−35659(P2009−35659A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202497(P2007−202497)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(506316188)有限会社ファインテック研究所 (2)
【Fターム(参考)】