説明

カチオン性ブロックポリイソシアネート及びこれを含むウレタン組成物

【課題】有機金属化合物を用いない、低温硬化性に優れたブロックポリイソシアネート及びこれを含むウレタン組成物の提供。
【解決手段】ピラゾール化合物でブロックされたイソシアネート基と、カチオン性基との両方を同一分子内に有し、その当量比が50:50〜95:5であることを特徴とするブロックポリイソシアネート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン性ブロックポリイソシアネート及びこれを用いたウレタン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソシアネートを硬化剤としたウレタン系塗料組成物から得られる塗膜は耐薬品性、かとう性などに優れている。特に、脂肪族、脂環族ジイソシアネートから得られるポリイソシアネートを使用した場合、更に耐候性が優れるため、その使用は常温硬化性の2液ウレタン塗料、熱硬化性の1液ウレタン塗料の形態で、建築、重防、自動車、工業用及びその補修など多岐にわたっている。
【0003】
熱硬化性の1液ウレタン塗料は常温で反応することなく、貯蔵安定性に優れているため、2液ウレタン塗料のようにポリオールとポリイソシアネートを使用直前に混合する必要性がなく、作業性に優れている。しかしながら、その硬化温度は高く、多くのエネルギーを消費するだけでなく、耐熱性のない材料への塗装を制限していた。そのため硬化温度の低温化が望まれていた。
【0004】
また、近年の地球環境負荷物質排出低減も重要な技術課題となっている。
【0005】
ブロックポリイソシアネートの低温硬化性を高め、同時に水性塗料に使用できるブロックポリイソシアネートが求められており、これらの技術課題達成のための開発が盛んである(特許文献1及び2)。
【0006】
水性塗料に使用できる、ブロック剤にピラゾール系化合物を使用したブロックポリイソシアネートはある程度の低温硬化を達成した。塗膜の焼付け黄変に関しても、汎用ブロック剤であるオキシム系化合物より優れている。しかしながら、更なる低温硬化性が求められている。
【0007】
また、ブロックポリイソシアネートを用いた塗料組成物の硬化性を向上させるために有機金属化合物を使用する場合がある。特定の有機金属化合物は地球環境の負荷が議論される場合がある。
【0008】
【特許文献1】特表11−512772号公報
【特許文献2】特開2000−26570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は有機金属化合物を用いない、低温硬化性に優れたブロックポリイソシアネート及びこれを含むウレタン組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに、ピラゾール化合物でブロックされたブロックイソシアネート基と、カチオン性基との両方を同一分子内に有するブロックポリイソシアネートが硬化性に優れていることを発見し、本発明の完成に至った。ブロックポリイソシアネートの1分子が有するブロックイソシアネート基数は、ブロックポリイソシアネートの硬化性に影響を与える。ブロックイソシアネート基数が多い場合、硬化性に優れている。本発明のブロックポリイソシアネートは、カチオン性基の導入により、ブロックイソシアネート基数が結果的に少なくなったにも関わらず、その硬化性は向上したことはまったくの予想外であった。
【0011】
即ち、本発明は以下の通りである。
1.ピラゾール化合物でブロックされたイソシアネート基と、カチオン性基との両方を同一分子内に有し、その当量比が50:50〜95:5であることを特徴とするブロックポリイソシアネート。
2.前記ブロックポリイソシアネートの前駆体であるポリイソシアネートに含まれるジイソシアネートモノマー濃度が3質量%以下である1.のブロックポリイソシアネート。
3.ポリイソシアネートが脂肪族及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマーから誘導されたものである1.又は2.のブロックポリイソシアネート。
4.前記カチオン性基が中和された、1.から3.のいずれか一項記載のブロックポリイソシアネート。
5.ポリオールと1.から4.のいずれか一項記載のブロックポリイソシアネートを含むウレタン組成物。
6.水性ウレタン組成物である、5.の水性ウレタン組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブロックポリイソシアネートは優れた低温硬化性を有し、これを用いて水性ウレタン組成物を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0014】
本発明に用いることのできる脂肪族、脂環族ジイソシアネートモノマーとは、その構造の中にベンゼン環を含まない化合物である。脂肪族ジイソシアネートモノマーとしては、炭素数4〜30のものが、脂環族ジイソシアネートモノマーとしては炭素数8〜30のものが好ましく、例えば、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ペンタメチレン−1,5−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。なかでも、耐候性、工業的入手の容易さから、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIという)、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIという)が好ましく、特にHDIが好ましい。単独で使用しても、併用してもよい。
【0015】
これらジイソシアネートモノマーから本発明のブロックポリイソシアネートの前駆体であるポリイソシアネートを得ることができる。
このポリイソシアネートは、例えば、ビウレット結合、尿素結合、イソシアヌレート結合、ウレトジオン結合、ウレタン結合、アロファネート結合、イミノオキサジアジンジオン結合等を含むことができる。例えば、イソシアヌレート結合とアロファネート結合、イソシアヌレート結合とウレトジオン結合など2つ以上の結合を含むこともできる。
【0016】
ビウレット結合を有するポリイソシアネートは、水、t−ブタノール、尿素などのいわゆるビウレット化剤とジイソシアネートモノマーをビウレット化剤/ジイソシアネートモノマーのイソシアネート基のモル比を約1/2〜約1/100で反応させた後、ジイソシアネートモノマーを除去して得られる。これらの技術に関しては、例えば、特開昭53−106797号公報、特開昭55−11452号公報、特開昭59−95259号公報などが開示されている。
尿素結合はイソシアネート基と水あるいはアミン基から形成されるが、凝集力が大きく、通常のポリイソシアネート中の含有量は少ない。
【0017】
イソシアヌレート結合を有するポリイソシアネートは、例えば触媒などにより環状3量化反応を行い、転化率が約5〜約80質量%になった時に反応を停止し、ジイソシアネートモノマーを除去して得られる。この際に、原料として、後述する、1〜6価のアルコール化合物を併用することができる。これらの技術に関しては、例えば、特開昭55−38380号公報、特開昭57−78460号公報、特開昭57−47321号公報、特開昭61−111371号公報、特開昭64−33115号公報、特開平2−250872号公報、特開平6−312969号公報などがある。
【0018】
ウレタン結合を有するポリイソシアネートは、非重合ポリオールである多価アルコール化合物及び又は重合ポリオールとジイソシアネートモノマーを用いて製造することができる。多価アルコール化合物とは重合を履歴しないポリオールであり、重合ポリオールはモノマーを重合して得られる。
【0019】
多価アルコール化合物としてはジオール類、トリオール類、テトラオール類などがある。ジオール類としては例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、2−エチル−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどがあり、トリオール類としては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパンなどがあり、テトラオール類としては、例えばペンタエリトリトールなどがある。
【0020】
重合ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオールなどがある。
【0021】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸の群から選ばれた二塩基酸の単独又は混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの群から選ばれた多価アルコールの単独又は混合物との縮合反応によって得られるポリエステルポリオール、及び、例えばε−カプロラクトンを多価アルコール化合物を用いて開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等が挙げられる。これらのポリエステルポリオールは芳香族ジイソシアネート、脂肪族、脂環族ジイソシアネート及びこれらから得られるポリイソシアネートで変成することができる。この場合、特に脂肪族、脂環族ジイソシアネート、及びこれらから得られるポリイソシアネートが耐候性、耐黄変性などから好ましい。
【0022】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、多価アルコール化合物の単独又は混合物に、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの水酸化物、アルコラート、アルキルアミンなどの強塩基性触媒、金属ポルフィリン、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体などの複合金属シアン化合物錯体などを使用して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシドなどのアルキレンオキシドの単独又は混合物を多価ヒドロキシ化合物にランダム又はブロック付加して得られるポリエーテルポリオール類、更にエチレンジアミン類等のポリアミン化合物にアルキレンオキシドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類、及び、これらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られる、いわゆるポリマーポリオール類等が含まれる。
【0023】
前記多価アルコール化合物としては、
1)例えばジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど
2)例えばエリトリトール、D−トレイトール、L−アラビニトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、ラムニトール等の糖アルコール系化合物
3)例えばアラビノース、リボース、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等の単糖類、
4)例えばトレハロース、ショ糖、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオースなどの二糖類、
5)例えばラフィノース、ゲンチアノース、メレチトースなどの三糖類
6)たとえはスタキオースなどの四糖類
などがある。
【0024】
アクリルポリオールとしては、例えば、
アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル等の活性水素を持つアクリル酸エステル等、グリセリンのアクリル酸モノエステル若しくはメタクリル酸モノエステル、トリメチロールプロパンのアクリル酸モノエステル若しくはメタクリル酸モノエステル等、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−4−ヒドロキシブチル等の活性水素を持つメタクリル酸エステル等の群から選ばれた単独又は混合物を必須成分とし、
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド、及びメタクリル酸グリシジル、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、フマル酸ジブチル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニルモノマー等のその他の重合性モノマーの群から選ばれた単独又は混合物の存在下、又は非存在下において
重合させて得られるアクリルポリオールが挙げられる。
【0025】
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレンなどが挙げられる。更に、炭素数50以下のモノアルコール化合物である、イソブタノール、n−ブタノール、2エチルヘキサノールなどを併用することができる。
【0026】
これらポリオール及び/又は多価アルコール化合物とジイソシアネートモノマーはポリオール及び/又は多価アルコール化合物の水酸基/ジイソシアネートモノマーのイソシアネート基のモル比を約1/2〜約1/100で反応させた後、ジイソシアネートモノマーを除去して得られる。
【0027】
アロファネート結合を有するポリイソシアネートは、上記のポリオール及び又はアルコール化合物とジイソシアネートモノマーから製造することができる。アロファネート結合はウレタン結合にイソシアネート基が付加した結合であり、この結合は触媒の使用、熱などによって形成される。
イミノオキサジアジンジオン結合を有するポリイソシアネートは、例えば触媒などを使用し、反応させて得ることができる。これに関する技術としては、例えば特開2004−534870号公報などがある。
【0028】
得られたポリイソシアネート中のジイソシアネートモノマー濃度は3質量%以下、好ましくは1質量%以下である。3質量%を超えると、硬化性を低下させる場合がある。これらポリイソシアネートを2種以上、混合して使用することもできる。
【0029】
また、本発明に用いるポリイソシアネートの25℃における粘度は50〜20000000mPa・sである。50mPa・s未満の場合は、結果的にポリイソシアネート1分子が有するイソシアネート基の統計的な平均数(以下、イソシアネート基平均数と言う)が低下する場合があり、2000000mPa・sを超えると、得られるブロックポリイソシアネートの粘度が増加し、これを使用した塗膜の外観が低下する場合がある。
【0030】
ポリイソシアネートのイソシアネート基平均数は2.5以上が好ましく、より好ましくは3.0以上、20以下、更に好ましくは3.5以上、10以下である。2.5を下回ると最終的に得られる水性ブロックポリイソシアネートの硬化性が低下する場合があり、20を超えると、得られるブロックポリイソシアネートの一部硬化後の反応性が低下する場合がある。
【0031】
このようにして得られたポリイソシアネートのイソシアネート基の少なくとも1部はピラゾール化合物と反応し、イソシアネート基は封鎖される。このように封鎖されたイソシアネート基をブロックイソシアネート基、イソシアネート基を封鎖する化合物をブロック剤と言う。本発明に用いることのできる、ピラゾール化合物とは下記式(1)で示される化合物である。
【0032】
【化1】


とRは異なっていても、同一でもよく、水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルなどがある。具体的な化合物としては、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾールなどがあり、3,5−ジメチルピラゾールが好ましい。
【0033】
状況に応じて、他のブロック剤を併用することができる。併用できるブロック剤を下記に列挙する。
(1)メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどのアルコール類
(2)アルキルフェノール系:炭素原子数4以上のアルキル基を置換基として有するモノ及びジアルキルフェノール類であって、例えばn−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、2−エチルヘキシルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ノニルフェノール等のモノアルキルフェノール類、ジ−n−プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ−n−ブチルフェノール、ジ−t−ブチルフェノール、ジ−sec−ブチルフェノール、ジ−n−オクチルフェノール、ジ−2−エチルヘキシルフェノール、ジ−n−ノニルフェノール等のジアルキルフェノール類
(3)フェノール系:フェノール、クレゾール、エチルフェノール、スチレン化フェノール、ヒドロキシ安息香酸エステル等
(4)活性メチレン系:マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等
(5)メルカプタン系:ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等
(6)酸アミド系:アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等
(7)酸イミド系:コハク酸イミド、マレイン酸イミド等
(8)イミダゾール系:イミダゾール、2−メチルイミダゾール等
(9)尿素系:尿素、チオ尿素、エチレン尿素等
(10)オキシム系:ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等
(11)アミン系:ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルエチルアミン等
本発明のブロックポリイソシアネートはカチオン性基を併せ持つ。
【0034】
カチオン性基の導入は、カチオン性基とイソシアネート基と反応する活性水素を併せ持つ化合物を利用する方法、予め、ポリイソシアネートに例えば、グリシジル基などの官能基を導入し、その後、例えば、スルフィド、ホスフィンなどの特定化合物をこの官能基と反応させる方法などがあるが、前者の方法が容易である。
【0035】
イソシアネート基と反応する活性水素とは、例えば、水酸基、チオール基などがある。
【0036】
カチオン性基とイソシアネート基と反応する活性水素を併せ持つ化合物としては、例えば、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどがある。導入された三級アミノ基は、硫酸ジメチル、硫酸ジエチルなどで四級化することもできる。
【0037】
カチオン性基の導入は、ピラゾール化合物によるイソシアネート基のブロック化の前後、いずれでも行うことができる。カチオン性基の導入、イソシアネート基のブロック化反応は溶剤の存在下で行うことができる。この場合の溶剤は活性水素を含まないものが好ましい。
【0038】
ピラゾール化合物でブロックされたイソシアネート基であるブロックイソシアネート基とカチオン性基の当量比率は50:50〜95:5であり、好ましくは、60:40〜90:10である。ブロックポリイソシアネート基がこの範囲より少ない場合には、硬化性が低下し、ブロックイソシアネート基がこの範囲より多い場合には、結果的にカチオン性基の低下をもたらし、水分散性が低下する。
【0039】
本発明のブロックポリイソシアネートを水性ウレタン組成物の原料とする場合は、導入されたカチオン性基はアニオン基を有する化合物で中和することが好ましい。
【0040】
アニオン基とは、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基などが挙げられる。カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸などが、スルホン基を有する化合物としては、例えば、エタンスルホン酸などが、隣酸基を有する化合物としては、例えば隣酸、酸性隣酸エステルなどが挙げられる。カルボキシル基を有する化合物が好ましく、更に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。必要に応じて、カチオン基は四級化することもできる。
【0041】
中和する場合のブロックポリイソシアネートに導入されたカチオン性基:アニオン基の当量比率は1:0.5〜1:3であり、好ましくは1:1〜1:1.5である。
【0042】
本発明のブロックポリイソシアネートは、イソシアネート基と反応性を有する活性水素を分子内に2個以上有する化合物(以下、多価活性水素化合物とも言う)と混合され、本発明のウレタン組成物となる。
【0043】
ブロックポリイソシアネートはこの多価活性水素化合物の活性水素と反応して、架橋したウレタン樹脂を形成する。
【0044】
前記の活性水素を分子内に2個以上有する化合物とは、例えばポリオール、ポリアミン、ポリチオールなどがあり、多くの場合、ポリオールが使用される。これらポリオールはその分子内にカチオン性基を有することが好ましい。アニオン性基を有する場合は、カチオン性のブロックポリイソシアネートとともに、水へ分散、溶解させることが難しい場合がある。このポリオールの例としては、エポキシポリオール、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、フッ素ポリオールなどがある。媒体が水性であれば、これらは水溶性、ディスパージョン、エマルジョンなどの形態をとることができる。エポキシポリオールはエポキシ樹脂が有するエポキシ基と例えば、ヒドロキシ基とアミン基をともに有する化合物のアミン基を反応させることにより、エポキシ樹脂に水酸基とカチオン性基を導入して得ることができる。好ましいポリオールは、エポキシポリオール、アクリルポリオール、ポリエステルポリオールである。これらポリオールの水酸基価は30〜400mgKOH/g、アミン価0〜400mgKOH/gの中から選択される。特に水性ウレタン組成物に用いる場合のアミン価は30〜400mgKOH/gの中から必要に応じて選択される。
【0045】
(ブロックポリイソシアネートのイソシアネート基)/(ポリオールの水酸基)の当量比は0.5〜1.5であり、この比は必要物性に応じて、適宜選択される。
【0046】
このようにして、得られたカチオン性ブロックポリイソシアネート及びこれを含むウレタン組成物は、例えば、金属、プラスチック、繊維(植物系、動物系、炭素繊維など)などの無機、有機の材料などの素材にプライマー又は上中塗り用塗料として、また、接着剤、粘着剤、エラストマー、フォーム、表面処理剤などとしても有用である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。部はすべて重量部である。
(数平均分子量の測定)
数平均分子量は下記の装置を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下GPCという)測定によるポリスチレン基準の数平均分子量である。
【0048】
装置:東ソー(株)HLC−802A
カラム:東ソー(株)G1000HXL×1本
G2000HXL×1本
G3000HXL×1本
キャリアー:テトラヒドロフラン
検出方法:示差屈折計
(未反応ジイソシアネートモノマー濃度)
前記GPC測定で得られる未反応ジイソシアネート相当の分子量(例えばHDIであれば168)のピークの濃度をその面積%で表した。
(粘度の測定)
E型粘度計(トキメック社製VISCONIC ED型)を用いて、25℃で測定した。
(水分散性)
ブロックポリイソシアネート溶液と同じ質量の水を混合し、24Hr後、外観を肉眼観察した。混合直後と24Hr後の溶液状態の変化がなく、沈降物のない状態を○(良好)、沈降物が存在するなど溶液状態に変化のあったものを×(不良)として表した。
(ゲル分率)
硬化塗膜を、アクリルポリオールを使用した場合はアセトン中に、エポキシポリオールを使用した場合はメタノール中に20℃、24時間浸漬後、未溶解部分重量を浸漬前重量で除し、%で示し、80%未満の場合は×(不良)、80%以上90%未満の場合は○(良好)、90%以上の場合は◎(優良)で表した。
(製造例1)
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、HDI 1000部を仕込み、撹拌下反応器内温度を70℃に保持した。イソシアヌレート化触媒テトラメチルアンモニウムカプリエートを加え、収率が40%になった時点(触媒添加から3時間)で燐酸を添加し反応を停止した。反応液をろ過した後、薄膜蒸発缶を用いて未反応のHDIを除去した。得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は2800mPa・s、イソシアネート基含有量は21.7質量%、ジイソシアネートモノマー濃度は0.2質量%、数平均分子量は660、イソシアネート官能平均数は3.4であった。赤外スペクトル測定により、イソシアヌレート基の吸収が認められた。
(製造例2)
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、HDI 600部、3価アルコールであるポリカプロラクトン系ポリエステルポリオール「プラクセル303」(ダイセル化学の商品名 分子量300)30部を仕込み、撹拌下反応器内温度を90℃で1時間保持しウレタン化反応を行った。その後反応器内温度を60℃に保持し、イソシアヌレート化触媒テトラメチルアンモニウムカプリエートを加え、収率が54%になった時点で燐酸を添加し反応を停止した。反応液をろ過した後、薄膜蒸発缶を用いて未反応のHDIを除去した。得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は9500mPa・s、イソシアネート含有量は19.2%、HDI濃度は0.2重量%、数平均分子量は1100、イソシアネート官能平均数は5.1であった。
(製造例3)
製造例1と同様の装置を用いて、窒素雰囲気下、HDI 600部、5価アルコールである、ポリエーテルポリオール(ADEKA社の製品名「HP−1030」)134部を仕込み、撹拌下反応器内温度を160℃で5時間保持した。反応液をろ過した後、薄膜蒸発缶を用いて未反応のHDIを除去した。得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は31000mPa・s、イソシアネート含有量は12.0%、HDI濃度は0.2重量%、数平均分子量は2520、イソシアネート官能平均数は7.2であった。
(実施例1)
製造例1と同様の装置を用いて、窒素雰囲気下、製造例1で得られたポリイソシアネート500部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 319部を仕込み、混合した。混合物を60℃に保持した後。カチオン性基1個を有する、ジメチルエタノールアミン46部を追加した。30分後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを除く、ポリイソシアネートのイソシアネート基濃度は15.8%であり、ポリイソシアネートとジエチルエタノールアミンが反応したことを確認した。その後、3,5−ジメチルピラゾール208部を添加した。反応液の赤外線吸収スペクトルの測定を行い、イソシアネート基の吸収が消失したことを確認した。樹脂分濃度70質量%のブロックポリイソシアネート溶液を得た。3,5−ジメチルピラゾールにより封鎖されたブロックイソシアネート基とジエチルエタノールアミンの当量比は80:20であった。
(実施例2〜5)
表1に記載した条件を用いた以外は、実施例1と同様に反応を実施した。結果を表1に示す。
(比較例1、2)
表1に記載した条件を用いた以外は、実施例1と同様に反応を実施した。結果を表1に示す。比較例1に関しては水分散性を評価し、結果を表3に示す。
(比較例3)
カチオン性化合物に代えて、メトキシポリエチレングリコール(日本油脂株式会社の商品名「ユニオックスM550」、分子量550)を284部(カチオン性化合物同モル量)用いた以外は実施例1と同様に実施した。水分散性を評価し、結果を表3に示す。
(実施例6)(非水性ウレタン組成物)
実施例1のブロックポリイソシアネートとアクリルポリオール(Nuplex社の商品名Setalux1767、樹脂分水酸基価 150mgKOH/g)をイソシアネート基/水酸基当量比=1/1となるように混合し、更に酢酸ブチル部を混合し、固形分50%の塗料を調整した。この塗料をPP板に樹脂膜厚40μmになるようにアプリケーター塗装した。室温で10分セッテングした後、120℃のオーブンに30分間保持した。硬化塗膜物性を評価した。評価結果を表2に示す。
(実施例7〜10、比較例4〜6)
表2に示すブロックポリイソシアネートを使用した以外は実施例5と同様に反応を実施した。結果を表2に示す。
(実施例11)水性ブロックポリイソシアネートの製造
実施例1のブロックポリイソシアネート溶液100部に酢酸2.9部(当量中和)を添加し、水分散性を評価した。結果を表3に示す。
(実施例12〜15、比較例7)
表3に示すブロックポリイソシアネートを用いた以外は実施例11と同様に当量中和を行い反応を実施した。結果を表3に示す。比較例1及び3の水分散性も合わせて評価した。
(製造例4)エポキシポリオールの製造
実施例1と同様の装置を用いて、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社の商品名AER260、エポキシ当量190)300部、エチレングリコールモノブチルエーテル777部を仕込み、仕込み液温度を90℃に保持しながら、ジエタノールアミン166部を30分かけて滴下した。滴下終了後、反応液温度を120℃に上げ、1時間保持した。樹脂固形分60%、樹脂分水酸基価400mgKOH/gのエポキシポリオール溶液を得た。
(実施例16)
実施例1のブロックポリイソシアネート溶液100部と製造例4のエポキシポリオール溶液233部、酢酸37部(当量中和)を添加し、混合した。更に純水236部を添加し、固形分40%の水性ウレタン組成物を得た。ブロックポリイソシアネート樹脂とエポキシポリオール樹脂の重量比は1:2である。この水性ウレタン組成物をポリプロピレン板に樹脂膜厚40μmになるようにアプリケーター塗装し、160℃、30分間硬化させた。ゲル分率を測定した。結果を表4に示す。
(実施例17〜20、比較例8)
表4に示すブロックポリイソシアネート用いた以外は実施例16と同様に反応を実施した。結果を表4に示す。
(比較例9)
比較例3のブロックポリイソシアネートを用い、酸中和を実施しなかった(比較例3はノニオン型ブロックポリイソシアネート)以外は実施例16と同様に実施した。結果を表4に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のブロックポリイソシアネート及びこれを含むウレタン組成物は各種表面処理を含む塗料分野で低温硬化性を有し、好適に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラゾール化合物でブロックされたイソシアネート基と、カチオン性基との両方を同一分子内に有し、その当量比が50:50〜95:5であることを特徴とするブロックポリイソシアネート。
【請求項2】
前記ブロックポリイソシアネートの前駆体であるポリイソシアネートに含まれるジイソシアネートモノマー濃度が3質量%以下である請求項1記載のブロックポリイソシアネート。
【請求項3】
ポリイソシアネートが脂肪族及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマーから誘導されたものである請求項1又は2記載のブロックポリイソシアネート。
【請求項4】
前記カチオン性基が中和された、請求項1から3のいずれか一項記載のブロックポリイソシアネート。
【請求項5】
ポリオールと請求項1から4のいずれか一項記載のブロックポリイソシアネートを含むウレタン組成物。
【請求項6】
水性ウレタン組成物である、請求項5記載のウレタン組成物。


【公開番号】特開2010−59089(P2010−59089A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225801(P2008−225801)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】