説明

カチオン性電着塗料組成物

【課題】
塗膜品質、塗装作業性を低下させることなく、優れた塗膜平滑性を発揮するカチオン性電着塗料組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)平均一次粒子径が0.01〜1μmであり、かつその粒度分布の指標であるD50が平均一次粒子径の110〜140%、D90が210〜240%である体質顔料を含むカチオン性電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた塗膜平滑性を発揮するカチオン性電着塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、自動車車体およびその部品、電気器具等の袋部構造を有する部材に対して、エアースプレー塗装や静電スプレー塗装と比較して、つきまわり性に優れ、また環境汚染も少ないことから、プライマー塗装として広く実用化されている。そして、工程塗膜の仕上がり向上を目的として、電着塗膜の平滑性を向上させるために樹脂的、顔料的な技術手法が導入されている。
【0003】
平滑性を向上させるための代表的な技術手法としては、基剤樹脂の分子量及びTgの調整、乳化物の粒子径の調整、塗膜中の顔料量(P/B)の調整等があり、それぞれの技術で実用化されている。
【0004】
これらの技術手法を導入したカチオン性電着塗料組成物としては、樹脂の分子量、Tg及び乳化粒子径を調整した電着塗料組成物(特許文献1、特許文献2参照)、塗膜中の顔料量を調整した組成物(特許文献3参照)を挙げることができる。しかしながら、これらの技術は、塗膜の化学特性(防錆品質、耐薬品性)や物理特性(耐衝撃性、塗膜強度)及び塗装作業性において従来の標準的なカチオン性電着塗料組成物に比べて十分な結果が得られないという問題がある。
【0005】
また、昨今の被塗物の事情を勘案すると、その平滑性は大きく変動しているのが現状であり、被塗物の平滑性の程度に依存せず、常に一定レベル以上の塗装塗面の平滑性が達成されるように要求が高まっているが、これらの技術においては不十分である。
【特許文献1】特開平8−3488号公報
【特許文献2】特開2004−307773号公報
【特許文献3】特開平10−43674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み創案されたものであり、その目的は、従来の標準的なカチオン性電着塗料組成物に比べて塗膜品質及び塗装作業性の低下を伴わず、しかも被塗物の平滑性が損なわれている場合においても従来のものより優れた塗面平滑性を発揮する、新規なカチオン性電着塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、体質顔料として、平均粒子径が小さくかつ粒度分布の狭いものを選び、これに組合せる基剤樹脂として、ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させたエポキシ樹脂から得られるカチオン性アミン変性エポキシ樹脂を用いると、塗膜品質及び塗膜作業性を低下させずに優れた塗面平滑性を達成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、(A)ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)平均一次粒子径が0.01〜1μm、好ましくは0.01〜0.5μmであり、かつその粒度分布の指標であるD50が平均一次粒子径の110〜140%、D90が210〜240%である体質顔料を含むことを特徴とするカチオン性電着塗料組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカチオン性電着塗料組成物によれば、塗膜品質や塗装作業性を悪化させずに、被塗物の表面平滑性が不良な状態においても、従来の標準的なカチオン性電着塗料組成物より優れた塗面平滑性が達成される。従って、本発明のカチオン性電着塗料組成物は、自動車車体およびその部品、電気器具等の電着塗装に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、(A)特定のカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)特定の平均一次粒子径と粒度分布を有する体質顔料を含むカチオン性電着塗料組成物である。
【0011】
本発明の(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)は、ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化することによって得られる。エポキシ樹脂のエポキシ当量としては、300〜5000が好ましく、特に好ましくは400〜2000である。
【0012】
本発明の(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)は、分子鎖に適度な硬さを付与する2価フェノールの部分、および分子鎖に適度の柔軟性を付与するポリオールの部分を共有しているため、本発明の(C)体質顔料の塗面平滑性の効果を十分に顕在化させることができる。カチオン性アミン変性エポキシ樹脂がポリオールのグリシジルエーテルのみで構成される場合は、塗膜の平滑性はある程度確保されるものの防錆品質に不具合を生じる。また2価フェノールのグリシジルエーテルのみで構成される場合は、塗膜の平滑性が確保されず物性にも不具合を生じる。
【0013】
上記ポリオールのグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0014】
また、上記2価フェノールのグリシジルエーテルとしては、レゾルシンジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタンジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニールジグリシジルエーテル等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0015】
また、上記2価フェノールとしては、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−(2,4’−ジヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニール等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0016】
エポキシ樹脂と反応させるアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。エポキシ樹脂とアミンの反応は、1級アミノ基をあらかじめケトンと反応させてブロック化した後、残りの活性水素とエポキシ基を反応させてもよい。
【0017】
ポリオールのジグリシジルエーテルと2価フェノールのジグリシジルエーテルと2価フェノールとの反応は、溶剤なしの溶融体中で行うことができるが、少量の溶剤を添加した系で行うことも可能である。反応に使用する溶剤としては、エポキシ基と反応しない溶剤であれば特に限定されない。反応温度は、70〜180℃が適当である。エポキシ樹脂にアミンを反応させるアミノ化は、溶剤中または溶剤なしの溶融体中で行うことができ、反応温度は40〜150℃が適当である。
【0018】
アミン変性エポキシ樹脂のカチオン化の方法としては、アミノ基をプロトン酸で中和することにより行うことができる。好ましいプロトン酸としては、ギ酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0019】
本発明の(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応物である。ポリイソシアネートは、芳香族あるいは脂肪族(脂環式を含む)のポリイソシアネートであり、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートおよびこれらの混合物、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3あるいは1,4−ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ビス−(イソシアネートメチル)−ノルボルナン、3あるいは4−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート、m−あるいはp−キシリレンジイソシアネート、m−あるいはp−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、さらには上記イソシアネートのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体等を挙げることができる。
【0020】
さらには上記イソシアネートのイソシアネート基の一部を、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトンジオール等のオリゴマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールで連結したポリイソシアネートあるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0021】
ブロック剤としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール化合物、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のセロソルブ系化合物、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール系化合物、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクタム等のラクタム化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系化合物、アセト酢酸エチルエステル、マロン酸ジエチルエステル等の活性メチレン基含有化合物を挙げることができる。
【0022】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、溶剤中あるいは溶融体中で実施することができる。反応に使用する溶剤としては、ポリイソシアネートと反応しない溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサン、イソホロン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素を挙げることができる。反応温度については特に限定はないが、好ましくは30〜150℃である。
【0023】
本発明の(C)体質顔料は、主として塗膜の補強、増量を目的として使用され、比較的屈折率が低い顔料である。本発明の(C)体質顔料としては、カオリン・クレー・陶土・チャイナクレー等の含水珪酸アルミニウム、タルク等の含水珪酸マグネシウム、沈降性バリウム等の硫酸バリウムの中の特殊なグレードが使用できるが、含水珪酸アルミニウム、硫酸バリウムが好ましく、特にホフマンミネラル社のシリコロイドP87、シリチンZ86Puriss、堺化学工業(株)製のBLANC FIXE#100、BARIFINE BF−30シリーズ等が好ましい。
【0024】
本発明の(C)体質顔料は、平均一次粒子径が0.01〜1μmであり、かつその粒度分布の指標であるD50が平均一次粒子径の110〜140%、D90が210〜240%であることが必要である。ここでD50、D90とは、粒度分布測定における粒子径の小さい方からの累積粒度分布50%,90%の粒子径をそれぞれ表わし、同じ平均一次粒子径を持つものならこの数字の小さいものほど粒度分布幅が小さいことを表す。従来の標準的なカチオン性電着塗料組成物に使用される一般的なカオリンは、平均一次粒子径0.4μmに対してD50=1.2μm、D90=3.8μmであり、本発明には使用できない。一方、本発明に使用可能な体質顔料であるシリコロイドP87は平均一次粒子径0.5μm、D50=0.6μm、D90=1.1μmであり、またBARIFINE BF−30は平均一次粒子径0.3μm、D50=0.4μm、D90=0.7μmである。粒度分布幅の大きい一般的なカオリンを使用した場合、平均一次粒子径が同じであっても最大、最小一次粒子径の差が大きくなるため、電着塗装時に緻密な析出物が得られず結果として平滑性の良好な塗膜を得ることができない。本発明に規定した狭い粒度分布幅を有する体質顔料を使用することで、被塗物の表面平滑性が不良な状態においても平滑性に優れた塗膜が得られる。
【0025】
本発明のカチオン性電着塗料組成物に用いる(C)体質顔料の含有量は従来技術と同程度であり、(C)体質顔料/樹脂((A)基剤樹脂+(B)硬化剤)の重量比率は5〜20%が一般的である。(C)体質顔料の効果を十分に発揮させるためには、この重量比率は8〜15%の範囲で選択されるのが好ましい。これにより、(C)体質顔料および(A)基剤樹脂の両成分の効果を相乗的に発揮させることができ、その結果として従来の標準的なカチオン性電着塗料組成物より優れた塗膜性能、塗装作業性が確保され、しかも被塗物の平滑性の程度にかかわらず、従来のものでは得られない電着塗面の平滑性を達成することができる。このことは本発明の特徴であり、他の従来技術においては達成されることができない。
【0026】
(A)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)と(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)の含有比率は、固形分重量比で90〜40/10〜60であり、好ましくは85〜40/15〜60、より好ましくは80〜55/20〜45である。また、(A)成分の一部を、(A)成分以外の通常のアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化した樹脂に代えて配合することもできるが、その量は成分(A)に対して30重量%以下が好ましい。
【0027】
本発明のカチオン性電着塗料組成物には、上記の(A),(B)および(C)成分以外に、さらに必要に応じて通常の塗料添加物、例えばチタンホワイト、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ビスマス化合物等の防錆顔料、消泡剤、ハジキ防止剤等の添加剤、水性溶剤あるいは硬化触媒等を含有させることができる。またその他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂等を含有させることができる。
【0028】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、通常、水に分散した状態で既知のカチオン電着塗装方法によって所望の基材表面に塗装することができる。具体的には塗料の固形分濃度は、好ましくは約5〜40重量%、さらに好ましくは15〜25重量%であり、pHは5〜8に調整し、浴温15〜35℃、負荷電圧100〜450Vの条件で、被塗物を陰極として塗装することができる。被塗物の塗装後、被塗物を水洗し、焼付け炉中で100〜200℃で10〜30分焼き付けることによって硬化塗膜を得ることができる。本発明のカチオン性電着塗料組成物から得られる塗膜の膜厚には特に制限はないが、硬化塗膜において5〜60μm、好ましくは10〜40μmが適当である。
【実施例】
【0029】
本発明のカチオン性電着塗料組成物の優れた効果を以下の実施例により示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(基剤樹脂A1の製造)
表1に示す原料を用い、下記に示す方法により基剤樹脂A1を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を仕込み、攪拌、加熱を行って150℃まで昇温した。150℃で6時間保持した後、原料(5)を徐々に投入し、80℃まで冷却した。次いで原料(6)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して基剤樹脂A1を取り出した。得られた基剤樹脂A1は、固形分70%であった。
【0031】
【表1】

【0032】
(基剤樹脂A2の製造)
表2に示す原料を用い、下記に示す方法により基剤樹脂A2を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を仕込み、攪拌、加熱を行って150℃まで昇温した。150℃で6時間保持した後、原料(5)を徐々に投入し、80℃まで冷却した。次いで原料(6)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して基剤樹脂A2を取り出した。得られた基剤樹脂A2は、固形分70%であった。
【0033】
【表2】

【0034】
(基剤樹脂A3の製造)
表3に示す原料を用い、下記に示す方法により基剤樹脂A3を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)を仕込み、攪拌、加熱を行って100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、80℃まで冷却した。次いで原料(4)、(5)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して基剤樹脂A3を取り出した。得られた基剤樹脂A3は、固形分70%であった。
【0035】
【表3】

【0036】
(基剤樹脂A4の製造)
表4に示す原料を用い、下記に示す方法により比較の基剤樹脂A4を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)を仕込み、攪拌、加熱を行って80℃まで昇温した。次いで原料(2)、(3)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して基剤樹脂A4を取り出した。得られた基剤樹脂A4は、固形分100%であった。
【0037】
【表4】

【0038】
(硬化剤Bの製造)
表5に示す原料を用い、下記に示す方法により硬化剤Bを製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)を仕込み、攪拌、加熱を行って100℃まで昇温した。その後フラスコ内温度を100℃に保ちながら予め原料(3)に溶解した原料(4)の溶液を1時間かけて仕込み、100℃で2時間反応させた。次いで同温度を保持して原料(5)を1時間かけて滴下し、滴下後さらに100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して硬化剤Bを取り出した。得られた硬化剤Bは、固形分75%であった。
【0039】
【表5】

【0040】
実施例1〜4、比較例1〜4
表6に示す配合で基剤樹脂と硬化剤の混合物をジエチレングリコールモノブチルエーテル、ギ酸、脱イオン水の混合液中によく攪拌しながら仕込み、各樹脂水分散液を得た。次に、表6に示す配合で基剤樹脂、ギ酸、脱イオン水、カーボンブラック、酸化チタン、体質顔料(BF−30(堺化学工業(株)製:硫酸バリウム)、シリコロイドP87(ホフマンミネラル社製:カオリン)、あるいはASP−200(ENGELHARD社製:カオリン))、ジブチル錫オキサイド、水酸化ビスマスをディゾルバーで充分攪拌した後、横型サンドミルで粒ゲージ粒度10μm以下になるまで分散し、各顔料ペーストを得た。このとき使用したBF−30は、平均一次粒子径=0.3μm、D50=0.4μm、D90=0.7μm、シリコロイドP87は、平均一次粒子径=0.5μm、D50=0.6μm、D90=1.1μm、ASP−200は、平均一次粒子径=0.4μm、D50=1.2μm、D90=3.8μmであった。これらの各樹脂水分散液と各顔料ペーストを表6に示す重量比率で混合して実施例1〜4および比較例1〜4のカチオン性電着塗料を得た。
【0041】
【表6−1】

【表6−2】

【0042】
上記で得られたカチオン性電着塗料を用いて、カーボン電極を陽極とし、脱脂した冷延鋼板(パルテック社製、0.8×70×150mm、化成処理無し)を陰極とし、焼付け後の膜厚が20μmとなる条件で電着塗装を行い、170℃で20分間焼付けを行って各試験板を得た。
【0043】
この電着塗装された試験板に関して下記の(1)〜(5)の性能評価を行なった。
(1)表面粗度(Ra):ミツトヨ製表面粗度計(カットオフ=2.5mm)で測定した。Raの数字が大きいほど塗膜の表面粗さが大きい。
(2)耐溶剤性:塗膜をエタノール/アセトンの混合液(重量比1/1)で拭き、塗膜の状態が良好なものを○、不良なものを△とした。
(3)耐塩水噴霧性:JIS−Z−2731に準じて行った。電着塗装面に素地に達する傷をカッターナイフで入れ、480時間後の錆幅を評価した。錆幅が3mm未満であるものを○、それ以上であるものを×とした。
(4)塩水浸漬試験:50℃、5%の食塩水に塗装試験板を480時間浸漬した後、水洗、風乾して、試験面全体にセロハン粘着テープを気泡を含まないように貼った後、テープを引き剥がして、試験面全体に対する塗膜剥離面積の割合(%)を測定した。剥離面積の割合が5%未満であるものを○、それ以上であるものを△とした。
(5)耐衝撃性:DuPont衝撃試験機(500g×50cm)で測定した。500g×50cmで塗膜にヒビを生じないものを○、ヒビが発生したものを△とした。
【0044】
また、カチオン性電着塗料に関して下記の(6)〜(10)の作業性評価を行なった。
(6)はじき敏感性:ウェット膜上のアルミカップに、機械油/水=1/9を入れ標準条件で焼付けし、はじきの個数、形状で判定した。浅いはじきが5個未満であるものを○、深いはじきが5個未満または浅いはじきが5個以上20個未満であるものを△、深いはじきが5個以上または浅いはじきが20個以上のものを×とした。
(7)コンタミ跡性:希釈したりん酸亜鉛処理液を化成処理板上にスポット乾燥させたものを被塗物として塗装し、りん酸亜鉛処理液のスポット跡が残らないものを○とし、残るものを△とした。
(8)水平部仕上がり性:テストパネルをL字状に変形させたものを電着浴液中で無攪拌で三分間放置した後、攪拌開始と共に通電塗装し、水平部にブツがなく、水平部の垂直部に対する光沢比率が95%以上のものを○、80%以上のものを△とした。
(9)化成処理敏感性:りん酸亜鉛処理板の表面半分を#400サンドペーパーで研磨したものを塗装し、研磨部と未研磨部の間で膜厚・外観に差のないものを○とし、差のあるものを△とした。
(10)乾きムラ性:標準の電着塗装後、無水洗で5分間放置した後、水洗・焼付けを行い、電着浴液の跡の残らないものを○とし、残るものを△とした。
【0045】
実施例1〜4、比較例1〜4のカチオン性電着塗料の評価結果を下記表7に示す。
【表7−1】

【表7−2】

【0046】
表7の評価結果から、本発明のカチオン性電着塗料(実施例1〜4)は、塗面平滑性(表面粗度)及び水平部仕上がり性の点で従来の標準的なカチオン性電着塗料(比較例1〜4)より優れていることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、優れたつきまわり性を発揮し、塗膜品質や塗装作業性を悪化させずに、課題であった被塗物の表面平滑性が不良な状態においても、従来の標準的なカチオン電着塗装方法より優れた塗膜の平滑性が達成されるため、自動車車体およびその部品、電気器具等の袋部構造を有する部材の電着塗装に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオールのグリシジルエーテルと2価フェノールのグリシジルエーテルと2価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)平均一次粒子径が0.01〜1μmであり、かつその粒度分布の指標であるD50が平均一次粒子径の110〜140%、D90が210〜240%である体質顔料を含むことを特徴とするカチオン性電着塗料組成物。
【請求項2】
体質顔料の平均一次粒子径が0.01〜0.5μmである請求項1記載のカチオン性電着塗料組成物。

【公開番号】特開2009−221408(P2009−221408A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69449(P2008−69449)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(397068528)デュポン神東・オートモティブ・システムズ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】