説明

カチオン性電着塗料組成物

【課題】 鉛化合物やクロム化合物等の有害物質を含有することなく、限界の防錆性、無処理鋼板上での防錆性に優れ、かつ塗装作業性、塗膜外観が良好なカチオン性電着塗料組成物を提供する。
【解決手段】 (A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)金属の酢酸塩の混合物を水分散して得られるエマルションを含有するカチオン性電着塗料組成物。(C)金属の酢酸塩は酢酸ジルコニウムまたは酢酸亜鉛が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有することなく、特に無処理鋼板に対して優れた防錆性を発揮しうるカチオン性電着塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、自動車車体およびその部品、電気器具等の袋部構造を有する部材に対して、エアースプレー塗装や静電スプレー塗装と比較して、つきまわり性に優れ、また環境汚染も少ないことから、プライマー塗装として広く実用化されるに至っているが、防錆品質を一層向上させる目的で防錆顔料を添加することが行われている。
【0003】
代表的な防錆顔料として鉛化合物やクロム化合物があるが、昨今の環境規制および法規制の動向を勘案すれば、このような有害物質を含有する塗料は好ましくない。そこで近年において無毒性ないしは低毒性の防錆顔料が開発され、これらを用いたカチオン性電着塗料組成物による塗装が実用化に至っている。
【0004】
無毒性ないしは低毒性の防錆顔料を使用したカチオン性電着塗料組成物としては下記の特許が例示される。防錆顔料についてビスマス化合物を開示する特許文献1、特許文献2、酸化タングステンを開示する特許文献3、縮合リン酸アルミニウム化合物を開示する特許文献4、亜リン酸化合物を開示する特許文献5等を挙げることができる。しかしながら、これらの技術は、限界の防錆性、無処理鋼板上の防錆性においては、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有する防錆顔料を用いた従来のカチオン性電着塗料組成物に比べて、十分な防錆力が得られないという問題がある。
【0005】
一方、特許文献6において、特定のアミン変性エポキシ樹脂とブロック化イソシアネートおよび有機酸のジルコニウム塩を含有するカチオン性電着塗料組成物が記載されており、限界の防錆性、無処理鋼板上の防錆性において、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有する防錆顔料を用いた従来のカチオン性電着塗料組成物と同等の防錆力が得られるとされている。
【0006】
しかしながら、上述の従来法に従い、有機酸を使用して電着塗料用樹脂を中和、エマルション化した後、金属の酢酸塩を添加すると、エマルション中の中和剤量が過剰となり、電着塗装時の析出性の低下、クーロン効率の低下、つきまわり性の低下、再溶解性の低下等の塗装作業性の問題や塗膜外観(平滑性)の低下等の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−230151号公報
【特許文献2】特開平11−106687号公報
【特許文献3】特開平6−220371号公報
【特許文献4】特開2001−329221号公報
【特許文献5】特開平9−241546号公報
【特許文献6】特願2007−215843号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、金属の酢酸塩以外の防錆剤を含む電着塗料は、限界の防錆性、無処理鋼板上の防錆性において、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有する防錆顔料を用いた、従来のカチオン性電着塗料組成物による塗装と比較して十分ではなく、一方、金属の酢酸塩を含む電着塗料は、限界の防錆性、無処理鋼板上の防錆性において、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有する防錆顔料を用いた従来のカチオン性電着塗料組成物による塗装と同等の防錆力が得られるものの、その塗装作業性や塗膜外観においては未だ不十分である。このような従来技術の現状に鑑み、本発明は、金属の酢酸塩を含む電着塗料において、より優れた塗装作業性や塗膜外観(平滑性)を発揮するカチオン性電着塗料組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、金属の酢酸塩を含有するカチオン性電着塗料組成物の製造において、電着塗料用樹脂(基剤と硬化剤の混合物)に金属の酢酸塩を添加した後(有機酸は使用せずに)、脱イオン水を混合してエマルション化を行うこと、さらに溶剤を一部除去する必要がある場合は、脱イオン水を加えて溶剤留去とエマルション化を同時に行うことにより、エマルション中の有機酸の量が過剰とならずにエマルション化を行うことができ、かつ、優れた塗装作業性や塗膜外観(平滑性)を発揮できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)金属の酢酸塩の混合物を水分散して得られるエマルションを含有するカチオン性電着塗料組成物である。
本発明のカチオン性電着塗料組成物の好ましい態様は以下の通りである。
(1)(A)アミン変性エポキシ樹脂が、ポリオールのグリシジルエーテル、2価フェノールのグリシジルエーテルおよび2価フェノールを反応させて得られるエポキシ樹脂に、アミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂である。
(2)(C)金属の酢酸塩が酢酸ジルコニウムまたは酢酸亜鉛である。
(3)カチオン性電着塗料組成物が、(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)金属の酢酸塩の混合物に水を加えて、溶剤留去を行うと同時にエマルション化を行う方法で得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉛化合物やクロム化合物等の有害物質を含有せずに、限界の防錆性、無処理鋼板上の防錆性において、鉛化合物やクロム化合物等を含有する防錆顔料を用いた従来のカチオン性電着塗料組成物による塗装と同等以上の特性が達成され、かつ塗装作業性や塗膜外観にも優れるカチオン性電着塗料組成物が提供される。このため、自動車車体およびその部品、電気器具等の電着塗装に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明のカチオン性電着塗料組成物を具体的に説明する。
本発明のカチオン性電着塗料組成物においては、(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)と(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)の混合物に(中和剤としての有機酸を添加せずに)、(C)金属の酢酸塩を添加し、脱イオン水を加えてエマルション化を行う。また、本発明のカチオン性電着塗料組成物は、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有しない。
【0013】
通常、カチオン性電着塗料組成物の製造においては、ギ酸、酢酸、乳酸等の有機酸を添加して電着塗料用樹脂(基剤と硬化剤の混合物)を中和し、水を加えてエマルション化を行う。従って、これに金属の酢酸塩を加えた場合、エマルション中の有機酸の量が過剰となり、電着塗装時の析出性の低下、クーロン効率の低下、つきまわり性の低下、再溶解性の低下等の塗装作業性の問題や塗膜外観(塗面平滑性)の低下等の問題が発生する。
【0014】
上述したように、本発明のカチオン性電着塗料組成物は、有機酸を添加せずに、金属の酢酸塩由来の酢酸成分を利用して、本発明の(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)を中和し、脱イオン水を加えてエマルション化を行うことを特徴としている。このため、アミン変性エポキシ樹脂を有機酸で中和した後、金属の酢酸塩を添加する従来法と比較して、エマルション中の有機酸の量が過剰にならず、必要最小限の電気量で電着塗装することができる。従って、電着塗装時の析出性の低下、クーロン効率の低下、つきまわり性の低下、再溶解性の低下等の塗装作業性の問題が解消される。また、塗膜外観(塗面平滑性)については、過剰の中和有機酸が存在しないため、電着塗装時に発生する水素ガス量が低減され、水素ガスに起因する析出膜(未硬化塗膜)の多孔質化が抑制されることで、焼付塗膜の塗面平滑性の向上に大きな効果を発揮する。
【0015】
また、基剤と硬化剤の混合物に含まれる溶剤の一部を除去する必要がある場合は、脱イオン水を加えた後、溶剤留去とエマルション化を同時に行うことが好ましい。この場合、加える水の量は完全にエマルション化されるために必要な量よりも減じた量としておき、溶剤留去とエマルション化が完了した後、さらに脱イオン水を加えてエマルションの固形分調整を行うようにする。完全にはエマルション化されない状態で、十分な攪拌下、徐々に溶剤を留去していくことで、分散状態が向上するものと考えられ、また分散状態の向上により、本発明においては良好な塗膜外観(塗面平滑性)を達成することができる。
【0016】
溶剤留去の条件としては、減圧下にできるだけ低温で実施することが好ましく、減圧の条件については、実施する温度条件、あるいは留去する溶剤の種類により変わるが、300〜500mmHg(ゲージ圧)の条件が一般的である。
【0017】
(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)について
本発明における(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)は、エポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂である。
【0018】
上記エポキシ樹脂としては、市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂、例えばJER1001(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量450〜500)、JER1002(同、エポキシ当量600〜700)、JER1004(同、エポキシ当量875〜975)、JER1007(同、エポキシ当量1750〜2200)、JER1010(同、エポキシ当量3000〜5000)、また市販のビスフェノールF型エポキシ樹脂、例えばJER4004P(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量880)、JER4005P(同、エポキシ当量1070)、JER4007P(同、エポキシ当量2270)、JER4010P(同、エポキシ当量4400)などがある。
【0019】
また、本発明においてさらに好ましいエポキシ樹脂は、ポリオールのグリシジルエーテル、2価フェノールのグリシジルエーテルおよび2価フェノールを反応させて得られるエポキシ樹脂である。
【0020】
このエポキシ樹脂は、分子鎖に適度な硬さを付与する2価フェノールの部分、および分子鎖に適度の柔軟性を付与するポリオールの部分を共有しており、このようにエポキシ樹脂を特定することで、本発明の(C)成分である金属の酢酸塩の防錆性能を十分に顕在化させることができる。
【0021】
上記ポリオールのグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0022】
また、上記2価フェノールのグリシジルエーテルとしては、レゾルシンジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタンジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニールジグリシジルエーテル等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0023】
また、上記2価フェノールとしては、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−(2,4’−ジヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニール等あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0024】
ポリオールのジグリシジルエーテルと2価フェノールのジグリシジルエーテルと2価フェノールとの反応は、溶剤なしの溶融体中で行うことができるが、少量の溶剤を添加した系で行うことも可能である。溶剤としては、エポキシ基と反応しない溶剤であれば特に限定されない。反応温度は、70〜180℃が適当である。
【0025】
エポキシ樹脂のエポキシ当量としては、300〜5000が好ましく、より好ましくは400〜2000である。
【0026】
また、エポキシ樹脂と反応させるアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等あるいはこれらの混合物を挙げることができ、また1級アミノ基をあらかじめケトンと反応させてブロック化後、残りの活性水素とエポキシ基を反応させてもよい。
【0027】
(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)について
本発明における(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応物である。ポリイソシアネートとしては、芳香族あるいは脂肪族(脂環式を含む)のポリイソシアネートであり、例示すると、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートおよびこれらの混合物、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3あるいは1,4−ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ビス−(イソシアネートメチル)−ノルボルナン、3あるいは4−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート、m−あるいはp−キシリレンジイソシアネート、m−あるいはp−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、さらには上記イソシアネートのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体、あるいは上記イソシアネートのイソシアネート基の一部を、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトンジオール等のオリゴマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールで連結したポリイソシアネートあるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
ブロック剤としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール化合物、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のセロソルブ系化合物、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール系化合物、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクタム等のラクタム化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系化合物、アセト酢酸エチルエステル、マロン酸ジエチルエステル等の活性メチレン基含有化合物を挙げることができる。
【0029】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、溶剤中あるいは溶融体中で実施することができる。反応に使用する溶剤としては、ポリイソシアネートと反応しない溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサン、イソホロン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素を例示することができる。反応温度については、特に限定されないが、好ましくは30〜150℃である。
【0030】
(C)金属の酢酸塩について
本発明における(C)金属の酢酸塩としては、酢酸ジルコニウム(ZrO(CHCOO))、酢酸亜鉛、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸銅を挙げることができる。この中で好ましいものは、酢酸ジルコニウムまたは酢酸亜鉛である。本発明では、(C)金属の酢酸塩が(A)成分と(B)成分に混合されてから水分散してエマルション化を図るため、(C)金属の酢酸塩中の金属の部分が防錆性に寄与し、酢酸の部分が(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)の中和に寄与するように作用する。
【0031】
本発明のカチオン性電着塗料組成物に用いる(C)金属の酢酸塩の含有量は、特に限定されないが、好ましくは(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)と(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)の合計含有量の固形分100重量部に対して1〜15重量部である。より好ましくは3〜10重量部である。(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)と(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)の含有割合は、固形分重量比で90〜40/10〜60であり、好ましくは85〜40/15〜60、より好ましくは80〜55/20〜45である。
【0032】
本発明のカチオン性電着塗料組成物には、さらに必要に応じて通常の塗料添加物、例えばチタンホワイト、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料、カオリン、タルク、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ等の体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ビスマス化合物等の防錆顔料、消泡剤、ハジキ防止剤等の添加剤、水性溶剤あるいは硬化触媒等を含有することができる。また、その他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂等を含有することができる。
【0033】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、通常、水に分散した状態で既知のカチオン電着塗装方法によって所望の基材表面に塗装することができる。具体的には、塗料の固形分濃度は、好ましくは約5〜40重量%、さらに好ましくは15〜25重量%であり、pHは5〜8に調整し、浴温15〜35℃、負荷電圧100〜450Vの条件で、被塗物を陰極として塗装することができる。塗装された被塗物を水洗した後、焼付け炉中で100〜200℃で10〜30分焼き付けることによって硬化塗膜を得ることができる。本発明のカチオン性電着塗料組成物から得られる塗膜の膜厚は特に制限されないが、硬化塗膜において5〜60μm、好ましくは10〜40μmが適当である。
【実施例】
【0034】
本発明のカチオン性電着塗料組成物の優れた効果を以下の実施例により示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。数字(部)は特記しない限り、重量部を表す。
【0035】
(基剤樹脂A1の製造)
表1に示す原料を用い、下記に示す方法によりアミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂A1)を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)、(4)を仕込み、攪拌、加熱を行って150℃まで昇温した。150℃で6時間保持した後、原料(5)を徐々に投入し、80℃まで冷却した。次いで原料(6)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたアミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)A1は、固形分70%であった。
【0036】
【表1】

【0037】
(基剤樹脂A2の製造)
表2に示す原料を用い、下記に示す方法によりアミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂A2)を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)を仕込み、攪拌、加熱を行って100℃まで昇温し、エポキシ樹脂を溶解させた後、80℃まで冷却した。次いで原料(3)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたアミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)A2は、固形分70%であった。
【0038】
【表2】

【0039】
(硬化剤Bの製造)
表3に示す原料を用い、下記に示す方法によりブロック化イソシアネート(硬化剤B)を製造した。撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)を仕込み、攪拌、加熱を行って100℃まで昇温した。その後フラスコ内温度を100℃に保ちながら予め原料(3)に溶解した原料(4)の溶液を1時間かけて仕込み、100℃で2時間反応させた。次いで同温度を保持して原料(5)を1時間かけて滴下し、滴下後さらに100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)Bは、固形分75%であった。
【0040】
【表3】

【0041】
[実施例1]
基剤樹脂A1 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、ジルコゾールZA−30(第一稀元素工業(株)製 酢酸ジルコニウム水溶液 有効成分55%)100部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水1900部を徐々に添加して水分散しエマルション化を行った。続いて約70℃で300〜500mmHg(ゲージ圧)の圧力下で所定量の脱溶剤を行い、固形分30%のエマルションAを得た。
【0042】
[実施例2]
基剤樹脂A1 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、ジルコゾールZA−30 50部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水586部を添加して水分散した。約70℃で300〜500mmHg(ゲージ圧)の圧力下で所定量の脱溶剤を行いながら同時にエマルション化を行った。その後、脱イオン水1364部を加え、固形分30%のエマルションBを得た。
【0043】
[実施例3]
実施例2のジルコゾールZA−30の添加量を100部に変更し、ジルコゾールZA−30添加後の脱イオン水の添加量を536部に変更した以外は実施例2と同様に行い、固形分30%のエマルションCを得た。
【0044】
[実施例4]
基剤樹脂A2 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、ジルコゾールZA−30 100部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水1643部を徐々に添加して水分散しエマルション化を行い、固形分30%のエマルションDを得た。
【0045】
[実施例5]
基剤樹脂A1 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、酢酸亜鉛54部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水582部を添加した。約70℃で300〜500mmHg(ゲージ圧)の圧力下で所定量の脱溶剤を行いながら同時にエマルション化を行った。その後、脱イオン水1364部を加え、固形分30%のエマルションEを得た。
【0046】
[比較例1]
基剤樹脂A1 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、酢酸16部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水1884部を徐々に添加して水分散しエマルション化を行った。続いて約70℃で300〜500mmHg(ゲージ圧)の圧力下で所定量の脱溶剤を行った後、ジルコゾールZA−30 100部を加えて固形分30%のエマルションFを得た。
【0047】
[比較例2]
基剤樹脂A2 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、酢酸16部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水1884部を徐々に添加して水分散しエマルション化を行った。続いて約70℃で300〜500mmHg(ゲージ圧)の圧力下で所定量の脱溶剤を行った後、ジルコゾールZA−30 100部を加えて固形分30%のエマルションGを得た。
【0048】
[比較例3]
基剤樹脂A2 857部、硬化剤B 400部を、攪拌機、温度計、冷却器および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。十分に混合した後、酢酸16部を加えて40〜70℃で30分間攪拌し、次いで脱イオン水1577部を徐々に添加して水分散しエマルション化を行った後、ジルコゾールZA−30 150部を加えて固形分30%のエマルションHを得た。
【0049】
実施例1〜5及び比較例1〜3で得られたエマルションA〜Hの組成を下記表4に示す。
【表4】

【0050】
[顔料ペーストの調製]
基剤樹脂A1 147部、ギ酸7部、脱イオン水294部、カーボンブラック2部、酸化チタン126部、カオリン133部、ジブチル錫オキサイド7部、水酸化ビスマス21部をディゾルバーで充分攪拌した後、横型サンドミルで粒ゲージ粒度10μm以下になるまで分散し、顔料ペーストを得た。
【0051】
[電着塗料の調製]
実施例1〜5、比較例1〜3で得られたエマルションA〜Hの各々1862部に、上記の顔料ペースト454部、脱イオン水1684部を添加し、電着塗料を得た。
【0052】
[試験板の作製方法]
上記で得られたカチオン性電着塗料を用いて、カーボン電極を陽極とし、脱脂した冷延鋼板(パルテック社製、0.8×70×150mm、化成処理無し)を陰極とし、焼付け後の膜厚が20μmとなる条件で電着塗装を行い、170℃で20分間焼付けを行って各試験板を得た。
【0053】
[評価方法]
この電着塗装された試験板に関して下記の(1)〜(6)の評価を行った。
(1)塗面平滑性
表面粗度計(ミツトヨ社製)でRa(中心線平均粗さ)を測定し、評価する。
Raが0.15μm以下であれば◎、0.15〜0.20μmであれば○、0.20〜0.25μmであれば△、0.25μm以上であれば×とする。
(2)クーロン効率
塗膜重量を電着塗装に要したクーロン量で除して算出する。
クローン量が25mg/C以上であれば○、20〜25mg/Cであれば△、20mg/Cであれば×とする。
(3)再溶解性
通電終了後塗料中に15分間放置し、塗膜重量減少率を測定する。
減少率が5%以下であれば○、5〜15%であれば△、15%より大きければ×とする。
(4)耐塩水噴霧性
JIS−Z−2731に準じて行った。電着塗装面に素地に達する傷をカッターナイフで入れ、480時間後の錆幅を評価する。錆幅が小さくなるほど性能が良好である。
(5)塩水浸漬試験
50℃、5%の食塩水に塗装試験板を480時間浸漬した後、水洗、風乾して、試験面全体にセロハン粘着テープを気泡を含まないように貼った後、テープを引き剥がして、試験面全体に対する塗膜剥離面積の割合を測定し、%で表示する。剥離面積が小さくなるほど性能が良好である。
【0054】
実施例1〜5、比較例1〜3のエマルションを使用したカチオン性電着塗料の評価結果を下記表5に示す。
【表5】

【0055】
表5の塗膜評価結果からわかるように、実施例1〜5では全ての評価において優れた結果が得られており、一方、これらの実施例と比べると、比較例1では塗面平滑性がやや低下し、クーロン効率、再溶解性に不具合が発生し、比較例2および3では、塗面平滑性、クーロン効率、再溶解性に不具合が発生し、耐塩水噴霧性、耐温塩水浸漬試験等の防錆品質も低下している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、鉛化合物やクロム化合物等の有害物質を含有せずに、限界の防錆性、無処理鋼板上の防錆性において、鉛化合物やクロム化合物等を含有する防錆顔料を用いた従来のカチオン性電着塗料組成物による塗装と同等以上の特性が達成され、かつ塗装作業性や塗膜外観にも優れるカチオン性電着塗料組成物が提供される。このため、自動車車体およびその部品、電気器具等の電着塗装を行う業界においてに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)金属の酢酸塩の混合物を水分散して得られるエマルションを含有するカチオン性電着塗料組成物。
【請求項2】
(A)アミン変性エポキシ樹脂が、ポリオールのグリシジルエーテル、2価フェノールのグリシジルエーテルおよび2価フェノールを反応させて得られるエポキシ樹脂に、アミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のカチオン性電着塗料組成物。
【請求項3】
(C)金属の酢酸塩が酢酸ジルコニウムまたは酢酸亜鉛であることを特徴とする請求項1または2に記載のカチオン性電着塗料組成物。
【請求項4】
(A)アミン変性エポキシ樹脂(基剤)、(B)ブロック化ポリイソシアネート(硬化剤)、および(C)金属の酢酸塩の混合物に水を加えて、溶剤留去を行うと同時にエマルション化を行う方法で得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカチオン性電着塗料組成物。

【公開番号】特開2010−248332(P2010−248332A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98018(P2009−98018)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(397068528)デュポン神東・オートモティブ・システムズ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】