説明

カチオン電着塗料組成物および複層塗膜形成方法

【課題】非常に優れたつきまわり性を発現し、かつ塗膜外観が良好な硬化電着塗膜を得ることができるカチオン電着塗料組成物および複層塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】ジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物の電着塗装に用いられるカチオン電着塗料組成物であって;カチオン電着塗料組成物は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションを含むカチオン電着塗料組成物であり;アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分またはアルキレンオキサイド部分を有する樹脂であり;樹脂成分のSP値は11.7以下であり;塗膜粘度が3000Pa・s以下であり;電着塗装において30kΩ・cmに到達する初期抵抗形成時間が10秒以内であり;電着塗膜の膜抵抗が900〜1600kΩ・cmである;カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への負荷が少ないジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物に対して電着塗装する場合において、非常に優れたつきまわり性を発現し、かつ、塗膜外観が良好な硬化電着塗膜を得ることができる、カチオン電着塗料組成物および複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。さらに電着塗装は、被塗物に高い防食性を与えることができ、被塗物の保護効果にも優れている。
【0003】
このようなカチオン電着塗装を施す被塗物には、通常、電着塗装の前に化成処理が施される。化成処理を施すことによって、耐食性、塗膜密着性等の性質を向上させることができる。しかしながら、塗膜の密着性や耐食性をより向上させることができる観点から、従来用いられてきたクロメート処理は、近年、クロムの有害性が指摘されるようになっており、クロムを含まない化成処理剤の開発が必要とされてきた。このようなクロムを含まない化成処理剤として、リン酸亜鉛を含む化成処理剤が用いられている(例えば、特開平10−204649号公報(特許文献1参照))。
【0004】
しかしながら、リン酸亜鉛系化成処理剤は、金属イオンおよび酸濃度が高く、そして非常に反応性の強い処理剤であるため、排水処理における経済性および作業性が劣るという欠点がある。更に、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いて金属表面処理を行う際には、水に不溶である塩類が生成して沈殿となって析出する。このような沈殿物は一般にスラッジと呼ばれる。リン酸亜鉛系化成処理剤を用いる場合は、塗装工程において発生するこのスラッジを除去し、廃棄するのに必要とされるコストの発生などが問題となっている。さらに、リン酸亜鉛系化成処理剤中に含まれるリン酸イオンは、環境に富栄養化をもたらすことがあり、これにより環境に対して負荷を与える恐れがある。そのため、リン酸亜鉛系化成処理剤は、廃液の処理に際して多大な労力を必要とするという問題もある。更に、リン酸亜鉛系化成処理剤による金属表面処理においては、表面調整を行うことが必要とされており、工程が長くなるという問題もある。
【0005】
このようなリン酸亜鉛系化成処理剤およびクロメート化成処理剤以外の処理剤としては、ジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤が知られている(例えば、特開平7−310189号公報(特許文献2参照)。しかしながら、このようなジルコニウム化合物からなる処理剤により得られる化成処理膜は、被塗物と電着塗膜との間の密着性が悪く、特に鉄系基材に対する密着性が悪いという問題があった。また、ジルコニウム化合物を含む化成処理剤によって形成される化成処理膜の膜厚は、リン酸亜鉛系化成処理剤によって形成される化成処理膜の膜厚と比較して、一般に、1/10〜1/30程と、非常に薄い。そしてジルコニウム化合物を含む化成処理剤によって形成される化成処理膜の膜厚がこのように薄いことによって、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が劣ることとなるという問題がある。化成処理膜の膜厚が薄いことはまた、電着塗料組成物のつきまわり性をも下げる要因となる。ここで「つきまわり性」とは、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質をいう。つきまわり性が低下すると、電着塗装において被塗物の隅々まで塗膜が形成される性能が悪くなっていくという不具合がある。下塗り塗装である化成処理および電着塗装においては、高つきまわり性であることが求められるため、つきまわり性低下の不具合は大きな問題となりうる。
【0006】
塗料の電導度を適切な値に調整することで好適なつきまわり性を付与できることは一般的に知られている。特許文献として、塗料の電導度とつきまわり性について言及されたものとして、特開2004−269627号公報(特許文献3)が存在する。しかしながらこのカチオン電着塗料組成物は、スルホニウム変性エポキシ樹脂を含むものであり、本発明のカチオン電着塗料組成物とは塗料組成が異なるものである。
【0007】
【特許文献1】特開平10−204649号公報
【特許文献2】特開平7−310189号公報
【特許文献3】特開2004−269627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境への負荷が少ないジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物に対して電着塗装する場合における上記問題を解決するものである。すなわち本発明は、特定のジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物を用いる場合において、非常に優れたつきまわり性を発現し、かつ、塗膜外観が良好な硬化電着塗膜を得ることができる、カチオン電着塗料組成物および複層塗膜形成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
ジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物の電着塗装に用いられるカチオン電着塗料組成物であって、
このカチオン電着塗料組成物は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルション;を含む、カチオン電着塗料組成物であり、
このアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は、下記式(I)
【0010】
【化1】

[式中、Rは飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸のカルボン酸基を除いた残基を示す。]
で示される、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、
下記式(II)
【0011】
【化2】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立してCまたはCを示し、m+nは2〜20である。]
で示される、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または
下記式(III)
【0012】
【化3】

[式中、Rは水素またはメチル基を示し、kは2〜20である。]
で示される、アルキレンオキサイド部分、
を有する樹脂であり、
このカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値は11.7以下であり、
このカチオン電着塗料組成物から得られる電着塗膜の50℃における塗膜粘度が3000Pa・s以下であり、
このカチオン電着塗料組成物を用いた所定条件下での電着塗装において、電圧印加開始から、析出した電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間が10秒以内であり、この所定条件は、塗装面積が140cmである被塗物に対して、塗装温度30℃における180秒間の電圧印加により乾燥膜厚15μmの塗膜が形成される条件であり、および
このカチオン電着塗料組成物を用いて形成される、厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗が900〜1600kΩ・cmであり、そして
このジルコニウム化成処理剤が、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物を含み、
このジルコニウムイオン濃度が10〜10000ppmであり、
このジルコニウム化成処理剤のpHが3.0である場合におけるフリーのフッ素イオン濃度が0.1〜50ppmであり、
このジルコニウム化成処理剤のpHが1.5〜6.5である、
カチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0013】
上記カチオン電着塗料組成物は、さらにアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を含むのが好ましい。
【0014】
また、上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)における、上記飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量が3〜20質量%であるのがより好ましい。
【0015】
また、上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)における、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分のRは、炭素数20〜50の飽和または不飽和炭化水素基であるのが好ましい。
【0016】
また、上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)がオキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂であるのが好ましい。
【0017】
本発明はまた、
ジルコニウム化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する、化成処理膜形成工程、および
化成処理膜が形成された被塗物を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗膜形成工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
この電着塗膜形成工程で用いられるカチオン電着塗料組成物は、上記カチオン電着塗料組成物であり、
この化成処理膜形成工程で用いられるジルコニウム化成処理剤は、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物を含み、
このジルコニウムイオン濃度が10〜10000ppmであり、
このジルコニウム化成処理剤のpHが3.0である場合におけるフリーのフッ素イオン濃度が0.1〜50ppmであり、
このジルコニウム化成処理剤のpHが1.5〜6.5である、
複層塗膜形成方法、も提供する。
【0018】
上記複層塗膜形成方法において、ジルコニウム化成処理剤がさらに錫イオンを含み、かつこのジルコニウム化成処理剤におけるジルコニウムイオンの濃度に対する錫イオンの濃度が0.5〜100%であるのが好ましい。
【0019】
なお本明細書においては、焼き付け硬化前の未硬化の電着塗膜を「電着塗膜」といい、焼き付け硬化後の塗膜を「硬化電着塗膜」という。
【発明の効果】
【0020】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、ジルコニウム化成処理剤によって形成される膜厚の薄い化成処理膜を有する被塗物に電着塗装する場合において、リン酸亜鉛系化成処理剤によって処理された被塗物に塗装する場合と同様に、塗膜外観が良好な硬化電着塗膜を得ることができるという特徴を有する。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに、上記化成処理膜を有する被塗物に電着塗装する場合においても、非常に優れたつきまわり性を発現するという特徴も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルション、および中和酸、有機溶媒、そして必要に応じた顔料を含む、カチオン電着塗料組成物である。このカチオン電着塗料組成物は、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)をさらに含むのがより好ましい。
【0022】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)
本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれるバインダー樹脂エマルションを構成するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂である。アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、アミンで開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0023】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0024】
ビスフェノール型エポキシ樹脂として、オキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いて、アミン変性オキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂を調製してもよい。耐熱性および耐食性に優れた塗膜が得られるからである。エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールなどのブロック剤でブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコール(ブロック剤)を系内より留去する方法がある。
【0025】
より具体的には、上記オキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えば下記工程:
ジイソシアネート化合物とブロック剤とを反応させてハーフブロックイソシアネートを得る、ブロック工程、
得られたハーフブロックイソシアネートと、モノオールまたはポリオールなどと、を反応させてブロックプレポリマーを得る、ブロックプレポリマー調製工程、
得られたブロックプレポリマーを脱ブロック化し、次いでビスフェノール型エポキシ樹脂を反応させてオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を得る、オキサゾリドン環生成工程:
を包含する方法によって調製することができる。
【0026】
上記ブロック工程で用いられるジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族および脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
ジイソシアネート化合物のブロックに使用されるブロック剤は、この分野で通常用いられるブロック剤を用いることができる。使用できるブロック剤として、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノール等の脂肪族アルコール;フェノール、ニトロフェノール、エチルフェノール等のフェノール類;メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類;ε−カプロラクタム等のラクタム類が挙げられる。メタノールまたはエタノールが好ましく用いられる。ジイソシアネート化合物とブロック剤とを反応させることによって、ジイソシアネート化合物が有するイソシアネート基の一方がブロックされたハーフブロックイソシアネートを得ることができる。
【0028】
こうして得られたハーフブロックイソシアネートは、次いでポリオールなどの水酸基含有化合物と反応させて、ブロックプレポリマーを得る(ブロックプレポリマー調製工程)。ここでポリオールと併せてモノオールを併用してもよい。好ましいポリオールとして、例えば、エチレングリコールもしくはプロピレングリコールなどの脂肪族ジオールまたはビスフェノールなどが挙げられる。また好ましいモノオールとして、例えば2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールもしくはプロピレングリコールのモノ2−エチルヘキシルエーテルなどの脂肪族モノアルコール、そしてアルキルフェノールまたはグリコールモノエーテルなどが挙げられる。これらを反応させることによって、分子量および/またはアミン当量を調節することができ、これにより熱フロー性などを改善することができる。この工程により、イソシアネート化合物のイソシアネート基とポリオールの水酸基とが反応して、アミド結合により連結されたブロックプレポリマーが得られる。
【0029】
次いで、得られたブロックプレポリマーを脱ブロック化し、そして上記ビスフェノール型エポキシ樹脂を反応させることにより、オキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる(オキサゾリドン環生成工程)。
【0030】
本発明においては、ビスフェノール型エポキシ樹脂(上記より得られたオキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂であってもよい)を、
飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸、
アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA、および/または
アルキレンオキサイド、
と反応させる。
これにより、ビスフェノール型エポキシ樹脂に、下記式(I)、(II)および/または(III)で示される変性部分が、ビスフェノール型エポキシ樹脂に導入されることとなる。
【0031】
【化4】

【0032】
[式中、Rは飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸のカルボン酸基を除いた残基を示す。]
なお本明細書においては、式(I)で示される部分を「飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分」という。
【0033】
【化5】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立してCまたはCを示し、m+nは2〜20である。]
なお本明細書においては、式(II)で示される部分を「アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分」という。
【0034】
【化6】

[式中、Rは水素またはメチル基を示し、kは2〜20である。]
なお本明細書においては、式(III)で示される部分を「アルキレンオキサイド部分」という。
【0035】
上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分の導入は、飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸を反応させることによって導入される。上記式(I)中のRは、炭素数20〜50の飽和または不飽和炭化水素基であるのが好ましく、炭素数24〜40の飽和または不飽和炭化水素基であるのがより好ましい。Rの具体例として、例えば、直鎖または分岐状である、炭素数20〜50のアルキル基、アルキニル基、アルカジイニル基、アルカトリイニル基、アルケニル基、アルカジエニイル基、アルカトリエニイル基、シクロアルキル基、シクロアルキニル基、シクロアルカジイニル基、シクロアルカトリイニル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニイル基、シクロアルカトリエニイル基などが挙げられる。
【0036】
飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸は、例えばダイマー酸など重合脂肪酸であってもよい。ダイマー酸は、一般に乾性油または半乾性油などから得られる不飽和脂肪酸の重合反応によって製造される重合脂肪酸であり、脂肪酸の二量体を主成分としている。ダイマー酸の主な例は、C18不飽和脂肪酸の重合によって得られるC36二塩基酸などを主成分とするものである。但し、このダイマー酸は重合脂肪酸であるために、その構造は単一ではなく、非環、単環および多環の混合物である。また、市販のダイマー酸には、少量のモノマー酸、トリマー酸などが含まれる場合もある。ダイマー酸の原料となる脂肪酸としては、トール油、大豆油、ヤシ油、ひまし油、パーム油または米ぬか油等の植物油系脂肪酸、および牛脂系脂肪酸または豚脂系脂肪酸などの動物油系脂肪酸などが挙げられる。
【0037】
上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分のビスフェノール型エポキシ樹脂への導入は、好ましくは、上記オキサゾリドン環生成工程を経て得られたオキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂に、飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸を反応させて調製するのがより好ましい。
【0038】
上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分は、ビスフェノールAにアルキレンオキサイドを付加させて変性した、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAが用いられる。アルキレンオキサイドの付加に用いられる化合物として、エチレングリコールまたはプロピレングリコールが挙げられる。
【0039】
上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分のビスフェノール型エポキシ樹脂への導入は、好ましくは、上記ブロックプレポリマー生成工程において、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAを用いてハーフブロックイソシアネートと反応させて、ブロックプレポリマーを調製し、次いで得られたブロックプレポリマーを用いてオキサゾリドン環生成工程を経て調製するのがより好ましい。
【0040】
上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分のビスフェノール型エポキシ樹脂への導入は、好ましくは、上記ブロックプレポリマー生成工程において、エチレングリコールまたはプロピレングリコールなどのポリオールを用いてハーフブロックイソシアネートと反応させて、ブロックプレポリマーを調製し、次いで得られたブロックプレポリマーを用いてオキサゾリドン環生成工程を経て調製するのがより好ましい。
【0041】
本発明のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)における、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量は、3〜20質量%であるのが好ましい。ここで、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分の含有量とは、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)の質量に対しての、飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸の質量の比率を意味し、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分の含有量とは、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)の質量に対しての、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAの質量の比率を意味し、そしてアルキレンオキサイド部分の含有量とは、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)の質量に対しての、アルキレンオキサイドの質量の比率を意味する。飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量が3質量%未満である場合は、電着塗膜の50℃における塗膜粘度を3000Pa・s以下に調節することが困難となるおそれがある。また、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量が20質量%を超える場合は、厚さ15μmの電着塗膜の抵抗値を所定の範囲に制御できないという不具合が生じるおそれがある。
【0042】
こうして得られる、上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分を有する、ビスフェノール型エポキシ樹脂に、アミン類を反応させることにより、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)が得られる(アミン変性工程)。このアミン変性工程により、エポキシ樹脂中のエポキシ基とアミン類とが反応する。用いることができるアミンとしては、1級アミン、2級アミンが含まれる。ビスフェノール型エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。さらに、1級アミノ基および2級アミノ基を有する樹脂を用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を調製することができる。ここで、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。
【0043】
1級アミン、2級アミンおよびケチミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどがある。さらに、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ブロックされた1級アミンを有する2級アミン、がある。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0044】
上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)の数平均分子量は、1500〜5000の範囲であるのが好ましく、1600〜3000の範囲であるのがより好ましい。数平均分子量を1500以上とすることで、硬化塗膜を形成した際、良好な耐溶剤性や耐食性を得ることができる。また数平均分子量を5000以下とすることで、樹脂溶液の粘度を適切な範囲に制御することができる。
【0045】
上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は、アミン価が50〜200mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が50mmol/100g未満では下記で詳説する酸処理による水媒体中での乳化分散不良を招くおそれがある。一方、200mmol/100gを超えると硬化後に塗膜中に過剰のアミノ基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0046】
ブロックイソシアネート硬化剤(b)
カチオン電着塗料組成物には、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られるブロックイソシアネート硬化剤(b)が含まれる。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0047】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、クルードMDI、p−フェニレンジイソシアネート、およびナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネートまたは芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、および1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、およびテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0048】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤として使用してよい。
【0049】
脂肪族ポリイソシアネートまたは脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0050】
ブロックイソシアネート硬化剤(b)は、イソシアネート基末端前駆体の遊離のイソシアネート基を活性水素基含有化合物(ブロック剤)と反応させて常温では不活性としたものであり、これを加熱するとブロック剤が解離してイソシアネート基が再生されるという性質を持つものである。
【0051】
ブロックイソシアネート硬化剤(b)のブロック剤として、例えば1−クロロ−2−プロパノール等の脂肪族または複素環式アルコール類、フェノール等のフェノール類、メチルエチルケトンオキシム等のオキシム類、アセチルアセトン等の活性メチレン化合物、ε−カプロラクタム等の芳香族アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルなど、を挙げることができる。なおこれらのブロック剤は、1種のみ単独で用いてもよく、また2種以上のものを併用してもよい。
【0052】
本発明においては、ブロックイソシアネート硬化剤(b)として、芳香族ジイソシアネートまたは芳香族ポリイソシアネートをブロックしたブロックイソシアネートを用いるのがより好ましい。このようなブロックイソシアネート硬化剤を用いることによって、電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を11.7以下に調節することが容易となる。これにより電着塗膜が未硬化の状態であっても電着塗膜中の樹脂成分の融着が生じることとなる。そして、塗膜析出部分における過剰な電流の流れが抑制されることとなり、ガスピンホールなどの塗膜異常の発生が抑制され、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が良好なものとなる。
【0053】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)
本発明のカチオン電着塗料組成物には、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)が含まれるのが好ましい。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)は、典型的にはノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。ノボラック型エポキシ樹脂としては、式
【0054】
【化7】

【0055】
[式中、R''、R'''およびR''''はそれぞれ独立して水素または、炭素数1〜5の直鎖または分枝鎖アルキレン基である。また繰り返し単位nは、0〜25である。]
で示されるものを用いることができる。
【0056】
ノボラック型エポキシ樹脂の典型例は、フェノールノボラック樹脂またはクレゾールノボラック樹脂である。前者の市販品としては、YDPN−638(東都化成社製)、後者の市販品としては、YDCN−701(同)、YDCN−704(同)などがある。
【0057】
ノボラック型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンには、1級アミン、2級アミンが含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンが特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0058】
アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。エポキシ樹脂とアミンとの反応については、例えば、特開平5−306327号公報、および特開平2000−128959号公報に記載されており公知である。
【0059】
また、ノボラック型エポキシ樹脂に複数存在するエポキシ環には、酢酸などのカルボン酸類、アリルアルコールなどのアルコール類、ノニルフェノールのようなフェノール類を一部付加させてもよい。
【0060】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)が含まれる場合は、電着塗料組成物中に含まれるバインダー樹脂の固形分質量部100質量部に対して5.0質量部までの範囲の量で用いるのが好ましく、3.0質量部の範囲の量で用いるのがより好ましい。例えばアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を0.1〜5.0質量部の範囲の量で用いるのがより好ましく、0.5〜3.0質量部の範囲の量で用いるのがさらに好ましい。
【0061】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を用いることによって、塗膜にピンホールやクレーターの生じる可能性を低減させることができ、得られる電着塗料組成物の塗膜外観を向上させることができる。アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)はまた、カチオン電着塗料組成物の電気伝導率を、つきまわり性に優れる範囲に調整する役割を有しており、これによりつきまわり性を向上させることができる。
【0062】
顔料
本発明のカチオン電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウムおよびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、ケイ酸ビスマスのような防錆顔料等、が挙げられる。
【0063】
上記顔料が電着塗料組成物中に含まれる場合の含有量は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して30質量%以下の範囲で含まれるのが好ましい。顔料は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して1〜25質量%の範囲で含まれるのがより好ましい。顔料濃度が30質量%を超える場合は、得られる電着塗膜の水平外観が低下する恐れがある。
【0064】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料組成物の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0065】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性またはノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基および/または3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は5〜40質量部、顔料は10〜30質量部の固形分比で用いる。
【0066】
上記顔料分散樹脂および顔料を混合し、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0067】
他の成分
上記カチオン電着塗料組成物は、上記成分の他にブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤の解離のための触媒を含んでもよい。このような触媒として、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩などが使用できる。触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤合計の100固形分質量部に対し0.1〜6質量部であるのが好ましい。
【0068】
カチオン電着塗料組成物およびカチオン電着塗料組成物の調製
本発明の電着塗料組成物は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルション、および必要に応じたアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)、顔料分散ペーストおよび触媒を水性媒体中に分散することによって調製することができる。バインダー樹脂エマルションの調製は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を用いた任意の方法により調製することができる。
【0069】
本発明の電着塗料組成物には中和酸が含まれる。中和酸は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるものである。この中和酸はバインダー樹脂エマルションの調製に用いられる水性媒体に含める。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。中和酸の量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0070】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂中の1級、2級または/および3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分質量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0071】
有機溶媒は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0072】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。このような有機溶媒を、カチオン電着塗料組成物の調製に用いられる水性媒体に含めてもよい。
【0073】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0074】
本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値は11.7以下である。ここで「カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分」とは、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)、およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を意味する。カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)、およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)それぞれのSP値を用いて、カチオン電着塗料組成物中における固形分質量比を元に平均値を算出することによって、求めることができる。
【0075】
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)、およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)それぞれのSP値は、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(n−ヘキサン、イオン交換水)を用いた下記方法によって測定することができる。
SP値は溶解性パラメータとも言われ、溶解性の尺度であり、数値が大きいほど極性が高く、数値が小さいほど極性が低いことを示す。溶解性パラメータの測定は、例えば次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…テトラヒドロフラン
貧溶媒…n−ヘキサン、イオン交換水など
濁点測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
【0076】
樹脂の溶解性パラメータδは次式によって与えられる。
【0077】
【数1】

【数2】

【数3】

【0078】
i:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0079】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、ジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物または未処理の被塗物を電着塗装する場合であっても、リン酸亜鉛系化成処理剤によって処理された被塗物を塗装する場合と遜色ない塗膜外観を達成することができる。一般に、ジルコニウムを含む化成処理剤によって形成される化成処理膜の膜厚は、リン酸亜鉛系化成処理剤によって形成される化成処理膜の膜厚の1/10〜1/30程度と非常に薄い。そのため、ジルコニウム系化成処理膜が形成された被塗物を電着塗装する場合、リン酸亜鉛系化成処理膜が形成された場合に比べ、電着塗膜が析出した部分においても塗膜抵抗値が低くなってしまう。これにより、塗膜析出部分において、過剰な電流の流れが生じ、電着塗料組成物のつきまわり性を下げる要因となる。塗膜析出部分において、過剰な電流の流れが生じることはまた、水素ガスの発生量が多くなり、ガスピンホールなどの塗膜異常が発生する要因となる。
【0080】
これに対して、本発明は、カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を11.7以下とすることにより、電着塗装において析出する電着塗膜において疎水性を確保することができる。これにより電着塗装における電圧印加開始から、析出した電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間が10秒以内となる。つまりカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を11.7以下に調整することによって、電圧印加開始により析出する塗膜の塗膜抵抗値が、電圧印加開始から短時間の間で上昇する(塗膜抵抗値の立ち上がりが早い)こととなる。そして、電着塗膜が析出した部分において塗膜抵抗値の立ち上がりが早いことにより、塗膜析出部分における過剰な電流の流れが抑制されることとなり、ガスピンホールなどの塗膜異常の発生が抑制され、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が良好なものとなる。
【0081】
さらに、カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を11.7以下とすることによって、つきまわり性をも向上させることができる。つきまわり性が向上する理由は以下のように考えられる。樹脂成分のSP値を11.7以下とすることによって、上記の通り、電着塗装で被塗物上に析出する電着塗膜において疎水性を確保することができる。そしてこれにより、析出した電着塗膜中に存在する水成分の量を低減することができる。電着塗膜中に存在する水成分の量が低減されることによって、電着塗膜の塗膜抵抗値が高くなり、これによりつきまわり性が向上することとなると考えられる。
【0082】
カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を11.7以下に調整する方法として、上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分を有する、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)を用いる方法が挙げられる。他の方法として、例えば、ブロックイソシアネート硬化剤として芳香族ジイソシアネートまたは芳香族ポリイソシアネートをブロックしたブロックイソシアネートを用いる方法、などが挙げられる。
【0083】
本発明のカチオン電着塗料組成物から得られる電着塗膜の50℃における塗膜粘度は、3000Pa・s以下である。カチオン電着塗料組成物からの析出によって得られる未硬化の電着塗膜の50℃における塗膜粘度が3000Pa・s以下であることによって、電着塗膜が未硬化の状態において電着塗膜中の樹脂成分の融着が生じることとなる。そして、塗膜析出部分における過剰な電流の流れが抑制されることとなり、ガスピンホールなどの塗膜異常の発生が抑制され、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が良好なものとなる。さらに、電着塗膜が未硬化の状態において電着塗膜中の樹脂成分の融着が生じることによって、塗膜抵抗値がすばやく上昇することとなり、これによりつきまわり性が向上することとなる。なお塗膜粘度は、500Pa・s以上であることが好ましい。
【0084】
本発明において、電着塗膜の粘度を50℃で測定する理由は以下の通りである。電着塗膜は、電圧の印加により被塗物表面に析出した塗膜である。電着塗膜は一般に、耐食性を確保するため、上塗り塗料組成物、中塗り塗料組成物と比較して、より高粘度(高Tg)に設計されている。そのため、一般的な電着槽の温度(例えば30℃)において電着塗膜の粘度を測定すると、粘度が非常に高いため測定が不能となることさえある。このため、30℃において電着塗膜の塗膜粘度を測定することは困難である。一方、析出した電着塗膜は、加熱によって熱フローが生じて粘度が下がり、塗膜表面が滑らかになる。そしてさらに加熱することによって、電着塗膜中に含まれるブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤が熱解離して、これがカチオン性エポキシ樹脂中の水酸基、アミノ基などと架橋反応し、塗膜粘度は急上昇する。これによって電着塗膜は硬化し、硬化電着塗膜となる。つまり、電着塗膜は加熱によって一旦粘度が下がり、その後粘度が上昇することとなる。
【0085】
さらに、電着塗装時においては、ジュール熱が発生することにより、被塗物付近は、40〜50℃程に上昇している。つまり50℃での粘度測定は、電着塗膜析出時の物理的性質を再現させた状態であるということができる。以上より50℃という温度は、電着塗料組成物の上記性質から塗膜粘度の測定に好ましい温度であり、かつ、バインダー樹脂の架橋も生じていない温度、つまり未硬化の電着塗膜の析出時の性質を判断するのに適切な温度であると考えられる。
【0086】
本発明のカチオン電着塗料組成物において、カチオン電着塗料組成物からの析出によって得られる未硬化の電着塗膜の50℃における塗膜粘度を3000Pa・s以下に調整する方法として、例えば、上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分を有する、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)を用いる方法、電着塗料組成物中に含まれる溶媒の量を調節する方法、カチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との混合比率を調節する方法などが挙げられる。
【0087】
なお、電着塗膜の塗膜粘度は、次のようにして測定することができる。まず被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除く。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製する。こうして得られた試料を、動的粘弾性測定装置を用いて、50℃における塗膜粘度を測定することができる。
【0088】
本発明においては、カチオン電着塗料組成物を用いて形成される厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗が、900〜1600kΩ・cmである。電着塗膜の膜抵抗が900〜1600kΩ・cmであることによって、電着塗料組成物のつきまわり性が向上し、これにより電着塗装における電着塗料使用量を削減することができる。なお本明細書における「つきまわり性の向上効果」は、下記する実施例において詳述するように、従来技術におけるつきまわり性向上効果を超える、いわゆる「超高つきまわり性」を達成できる効果を意味する。
【0089】
カチオン電着塗料組成物を用いて得られる厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗を、900〜1600kΩ・cmに調節する手法として、例えば、上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分を有する、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)を用いる方法、およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を用いる方法などが挙げられる。上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)を用いることによって、樹脂成分のSP値を低下させることができ、該カチオン電着塗料組成物を用いて形成される未硬化電着塗膜中に含まれる水が排斥されやすくなり、塗膜抵抗が上昇する。さらにアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を併用ことによって、より強固な骨格が形成され、塗膜抵抗を上昇させることができ、厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗を900〜1600kΩ・cmの範囲に好適に調節することができる。
【0090】
塗膜の膜抵抗値は、最終塗装電圧(V)における、塗膜の残余電流値(A)より、下記の式にて求められる。
膜抵抗値(FR)=V/A × 塗装面積(cm2
【0091】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた、塗装温度30℃における電着塗装においては、電圧印加開始から、析出した電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間(この時間を、本明細書において「抵抗形成時間」という)が10秒以内であることを特徴とする。なおこの電着塗装における電圧は、塗装面積が140cmである被塗物に対して、約3分間通電した場合において膜厚が15μmの範囲となる電圧である。抵抗形成時間の具体的な測定方法は以下の通りである。まず特定の電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合における「180秒の通電により膜厚が15μmとなる電圧」を決定する。この電圧の決定方法は、例えば任意の電圧(50V、100V)を印加した場合の膜厚測定結果に基づき、膜厚15μmとなる電圧を算出するなどの方法によって決定される。その後、その決定した電圧を印加する条件において、新たな被塗物を電着塗装し、この場合における電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間(抵抗形成時間)を測定することによって、測定される。
【0092】
抵抗形成時間が10秒以内であることは、電圧印加開始により析出する塗膜の塗膜抵抗値が、電圧印加開始から非常に短時間の間で上昇する(塗膜抵抗値の立ち上がりが非常に早い)ことを意味する。このように本発明のカチオン電着塗料組成物において、電着塗膜が析出した部分において塗膜抵抗値の立ち上がりが非常に早いことにより、塗膜析出部分における過剰な電流の流れが抑制されることとなり、ガスピンホールなどの塗膜異常の発生が抑制され、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が良好なものとなる。また、電着塗膜が析出した部分において塗膜抵抗値の立ち上がりが非常に早いことによって、つきまわり性も向上することとなる。
【0093】
抵抗形成時間を10秒以内に調節する方法として、例えば、上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分を有する、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)を用いる方法、およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を用いる方法などが挙げられる。上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)を用いることによって、電着塗装において析出した電着塗膜における塗膜抵抗値の立ち上がりが非常に早くなることとなる。また、アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を用いることによって、カチオン電着塗料組成物の電気抵抗値が下がることとなり、これにより電着塗装時に被塗物に実際に印加される実効電圧が大きくなり、塗膜析出速度が上昇し、これにより塗膜抵抗値の立ち上がりが非常に早くなることとなる。
【0094】
また、本発明のカチオン電着塗料組成物の電気伝導率は1200〜2000μS/cmであるのが好ましく、1200〜1600μS/cmであるのがより好ましい。1200μS/cm未満であると十分なつきまわり性の向上が得られない恐れがある。また、2000μS/cmを超えると、ガスピンが発生し塗膜表面の外観が悪化する恐れがある。電気伝導率は、市販の電気伝導率計を使用してJIS K 0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して測定することができる。
【0095】
なお、本発明のカチオン電着塗料組成物においては、上記式(I)で示される飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、上記式(II)で示されるアルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または上記式(III)で示されるアルキレンオキサイド部分を有する、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の両方を用いて、樹脂成分のSP値、塗膜粘度、膜抵抗、塗膜析出速度などを上記範囲に調節するのがより好ましい。上記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の両方を用いて上記パラメータを調節することによって、塗膜硬度などの塗膜物性をより良好な範囲に保ちつつ、樹脂成分のSP値、塗膜粘度、膜抵抗、塗膜析出速度などをより良好な範囲に調節することができるという利点がある。
【0096】
複層塗膜形成方法
本発明における複層塗膜形成方法は、
ジルコニウム化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する、化成処理膜形成工程、および
化成処理膜が形成された被塗物を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗膜形成工程、
を包含する方法である。
【0097】
被塗物
本発明における被塗物として、カチオン電着可能な金属基材が挙げられる。上記金属基材としては、カチオン電着可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、鉄系金属基材、アルミニウム系金属基材、亜鉛系金属基材等を挙げることができる。
【0098】
ジルコニウム化成処理剤
本発明において用いられるジルコニウム化成処理剤は、
ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物を含み、
ジルコニウムイオン濃度が10〜10000ppmであり、
ジルコニウム化成処理剤のpHが3.0である場合におけるフリーのフッ素イオン濃度が0.1〜50ppmであり、
ジルコニウム化成処理剤のpHが1.5〜6.5である、
ジルコニウム化成処理剤である。
【0099】
ジルコニウム化成処理剤におけるジルコニウムイオンの濃度は10〜10000ppmである。10ppm未満である場合はジルコニウム化成処理膜の析出が十分でないため充分な防食性が得られない。また10000ppmを超えると、ジルコニウム化成処理膜の析出量が増加しない上、塗膜密着性が低下して防食性能(塩水噴霧防食性評価など)が劣るおそれがあり、それに見合うだけの効果が得られない。ジルコニウムイオンの濃度は100〜5000ppmであるのがより好ましい。
【0100】
なお、本明細書におけるジルコニウム化成処理剤中の金属イオンの濃度についての表記は、錯体や酸化物を形成している場合において、その錯体や酸化物中の金属原子のみに着目した、金属元素換算濃度で表すものとする。例えば、錯イオンZrF2−(分子量205)100ppmのジルコニウムの金属元素換算濃度は100×(91/205)の計算により44ppmと算出される。なお、本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤において金属化合物(ジルコニウム化合物、錫化合物、その他の金属化合物)は、一部が酸化物など非イオンの状態で存在しているとしてもその割合はごくわずかであり、ほぼ金属イオンとして存在すると考えられる。従って、本明細書におけるジルコニウム化成処理剤での金属イオン濃度は、一部が非イオンとして存在しているか否かにかかわらず、100%解離して金属イオンとして存在する場合の金属イオン濃度をいう。
【0101】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤には、フッ素イオンが含まれる。なお上記フッ素イオンの濃度はpHによって変化するので、特定のpHにおけるフリーなフッ素イオン量を規定することとする。本発明では、pHが3.0である場合のフリーなフッ素イオン量が0.1〜50ppmである。0.1ppm未満では、金属基材のエッチングが充分に行われないため、化成処理膜量が少なくなり、充分な防食性を得ることができない。また、ジルコニウム化成処理剤の安定性が充分でないおそれがある。50ppmを超えると、エッチングが過剰となり充分な化成処理膜形成ができなくなる場合や、化成処理膜の付着量および膜厚が不均一となって、塗装外観等に悪影響を与えたりするおそれがある。好ましい下限値および上限値は、それぞれ、0.5ppmおよび10ppmである。
【0102】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤はポリアミン化合物を含む。ポリアミン化合物が含まれることによって、化成処理膜と、電着塗装において形成されるカチオン電着塗膜との密着性が高くなるという利点がある。本発明において用いられるポリアミン化合物は、アミノ基を有する有機分子であることに本質的な意味があると考えられる。すなわち、以下は実験に基づいた推測ではあるが、アミノ基は、金属基材上に化成処理膜として析出するジルコニウム酸化物や金属基材との化学的作用により、化成処理膜中に取り込まれると考えられる。また、有機分子であるポリアミン化合物は、化成処理膜が形成された金属基材上に設けられる塗膜との密着性に寄与すると考えられる。従って、アミノ基を有する有機分子であるポリアミン化合物を用いると、金属基材と化成処理膜との密着性が格段に向上し、優れた耐食性が得られるようになる。上記ポリアミン化合物としては、アミノシランの加水分解縮合体、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アミノ基を有する水溶性フェノール樹脂等が挙げられる。自由にアミンの量が調整可能なことから、アミノシランの加水分解縮合体が好ましい。従って、本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤としては、例えば、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびアミノシランの加水分解縮合体を含むジルコニウム化成処理剤、ジルコニウムイオン、フッ素イオン、およびポリアリルアミンを含むジルコニウム化成処理剤、ジルコニウムイオン、フッ素イオン、およびアミノ基を有する水溶性フェノール樹脂を含むジルコニウム化成処理剤が挙げられる。また、これらのジルコニウム化成処理剤に、後述する錫イオンを含有してもよい。
【0103】
上記アミノシランの加水分解縮合体は、アミノシラン化合物を加水分解縮合して得られるものである。上記アミノシラン化合物として、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)−プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。また、市販されているものとして、「KBM−403」、「KBM−602」、「KBM−603」、「KBE−603」、「KBM−903」、「KBE−903」、「KBE−9103」、「KBM−573」、「KBP−90」(いずれも商品名、信越化学工業社製)、「XS1003」(商品名、チッソ社製)等を使用することができる。
【0104】
上記アミノシランの加水分解縮合は、当業者によく知られた方法により行うことができる。具体的には、少なくとも1種のアミノシラン化合物にアルコキシシリル基が加水分解するのに必要な水を加え、必要に応じて加熱撹拌することにより行うことができる。なお、用いる水の量によって縮合度を制御することができる。
【0105】
上記アミノシランの加水分解縮合体の縮合度は高いほうが、ジルコニウムが酸化物として析出する際に、その中に取り込まれやすい傾向にあるため、好ましい。例えば、アミノシランの全量中、2量体以上のアミノシランの割合が質量換算で40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることがよりさらに好ましい。このため、アミノシランを加水分解縮合反応で反応させる際には、溶媒としてアルコールおよび酢酸等の触媒を含む水性溶媒を用いる等、アミノシランがより加水分解しやすく、縮合しやすい条件下で反応させることが好ましい。また、アミノシラン濃度が比較的高い条件で反応させることによって、縮合度の高い加水分解縮合体が得られる。具体的にはアミノシラン濃度が5質量%以上50質量%以下の範囲で加水分解縮合させることが好ましい。なお、縮合度は、29Si−NMR測定により求めることができる。
【0106】
上記ポリビニルアミンおよびポリアリルアミンとしては、市販されているものを使用することができる。ポリビニルアミンの例として、「PVAM−0595B」(商品名、三菱化学社製)等を、ポリアリルアミンの例として、「PAA−01」、「PAA−10C」、「PAA−H−10C」、「PAA−D−41HCl」(いずれも商品名、日東紡績社製)等をそれぞれ挙げることができる。
【0107】
上記ポリビニルアミンおよびポリアリルアミンの数平均分子量は、150〜500000であることが好ましい。150未満である場合は充分な密着性を有する化成処理膜が得られないおそれがある。分子量が500000を超える場合には化成処理膜形成を阻害するおそれがある。さらに好ましい下限値および上限値は、それぞれ5000および70000である。
【0108】
上記ポリアミン化合物は、アミノ基の量が多すぎると化成処理膜に悪影響を及ぼすおそれがあり、少なすぎるとアミノ基による化成処理膜との密着性向上の効果が得られにくいため、固形分1gあたり0.1ミリモル以上17ミリモル以下の1級および/または2級アミノ基を有することが好ましく、固形分1gあたり3ミリモル以上15ミリモル以下の1級および/または2級アミノ基を有することが好ましい。
【0109】
なお、ポリアミン化合物の固形分1gあたりの1級および/または2級アミノ基のモル数は、下記数式(1)により求めることができる。
【0110】
【数4】

【0111】
(数式(1)中、ポリアミン化合物と、官能基Aおよび/または官能基Bを有する化合物との固形分質量比を、m:nとすると、官能基Aおよび/または官能基Bを有する化合物1gあたりの官能基Aおよび/または官能基Bのミリモル数をYとし、上記官能基Aおよび/または官能基Bを有する化合物がジルコニウム化成処理剤に含有されていない場合のポリアミン化合物1gあたりに含まれる1級および/または2級アミノ基のミリモル数をXとする。)。
【0112】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤における上記ポリアミン化合物の含有量は、ジルコニウム化成処理剤中に含まれるジルコニウムの金属換算質量に対して、1〜200%とすることができる。1%未満である場合は目的とする効果が得られず、200%を超えると化成処理膜が充分に形成されないおそれがある。含有量の上限値としては、120%がより好ましく、100%がより好ましく、80%が更に好ましく、60%がより更に好ましい。
【0113】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、そのpHが1.5〜6.5である。6.5を超えると、金属基材のエッチングが充分に行われないため、化成処理膜量が少なくなり、充分な防食性を得ることができない。また、ジルコニウム化成処理剤の安定性が充分でないおそれがある。一方、1.5未満では、エッチングが過剰となり充分な化成処理膜形成ができなくなる場合や、化成処理膜の付着量および膜厚が不均一となって、塗装外観等に悪影響を与えたりするおそれがある。上記下限値および上限値は、それぞれ2.0および5.5であることが好ましく、2.5および5.0であることがさらに好ましい。
【0114】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は錫イオンを含むのが好ましい。そしてこの錫イオンは、2価のカチオンであることが好ましい。ただし、錫イオンは2価のカチオンに限られず、金属基材上に析出しうるものであれば本発明に用いることができる。例えば、錫イオンが錯体を形成している場合は4価のカチオンである場合があるが、この4価の錫イオンも本発明において用いることができる。上記錫イオンの濃度は、上記ジルコニウムイオンの濃度に対して、0.5%〜100%であるのが好ましい。0.5%未満である場合は所望の効果が得られないおそれがある。また100%を超えると、ジルコニウムが析出しにくくなるおそれがある。より好ましい下限値および上限値は、それぞれ、2%および20%である。ただし、ジルコニウムイオンおよび錫イオンの合計量が少なすぎると、本発明の効果が得られないおそれがあるため、本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤中の上記ジルコニウムイオンの濃度と錫イオンの濃度との合計が、15ppm以上であることが好ましい。
【0115】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤中の錫イオンの含有量としては、1〜100ppmであることが好ましい。1ppm未満である場合には、ジルコニウムが化成処理膜を形成できなかった部分に対する錫の析出が不十分となり、防食性能(塩水噴霧防食性評価など)が劣ることとなるおそれがある。100ppmを超えるとジルコニウム化成処理膜が析出しにくくなり、防食性および塗装外観が劣りやすい。上記含有量は5〜100ppmがより好ましく、5〜50ppmがさらに好ましい。
【0116】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、必要に応じて、さらに銅イオンを含んでいてよい。銅イオンが含まれることによって、防食性が向上することとなる。上記銅イオンの量は、上記錫イオンの濃度に対して、10〜100%となる濃度であることが好ましい。10%未満では目的とする効果が得られないおそれがあり、錫イオンの濃度を超えると、錫イオンの場合と同様にジルコニウムが析出しにくくなるおそれがある。本発明で用いることのできるジルコニウム化成処理剤の例として、ジルコニウムイオン、フッ素イオン、ポリアミン化合物、錫イオンおよび銅イオンを含むジルコニウム化成処理剤が挙げられる。
【0117】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、必要に応じて、さらにキレート化合物を含んでいてもよい。キレート化合物を含むことで、ジルコニウム化成処理剤中でジルコニウム以外の金属の析出を抑制し、ジルコニウム酸化物の化成処理膜を安定に形成することができる。上記キレート化合物として、アミノ酸、アミノカルボン酸、フェノール化合物、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸等を挙げることができる。なお、従来からキレート剤として知られているクエン酸やグルコン酸は、本発明ではその機能を充分に発現することができない。
【0118】
上記アミノ酸としては、各種天然アミノ酸および合成アミノ酸の他、1分子中に少なくとも1つのアミノ基および少なくとも1つの酸基(カルボキシル基やスルホン酸基等)を有するアミノ酸を広く利用することができる。この中でも、アラニン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、フェニルアラニン、アスパラギン、アルギニン、グルタミン、システイン、ロイシン、リジン、プロリン、セリン、トリプトファン、バリン、および、チロシン、ならびに、これらの塩からなる群から選択される少なくとも一種を好ましく使用することができる。また、アミノ酸に光学異性体が存在する場合、L体、D体、ラセミ体を問わず、いずれも好適に使用することができる。
【0119】
また、上記アミノカルボン酸としては、上記アミノ酸以外で、1分子中にアミノ基とカルボキシル基との両方の官能基を有する化合物が広く利用可能である。この中でも、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラアミン6酢酸(TTHA)、1,3−プロパンジアミン4酢酸(PDTA)、1,3−ジアミノ−6−ヒドロキシプロパン4酢酸(DPTA−OH)、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、グリコールエーテルジアミン4酢酸(GEDTA)、ジカルボキシメチルグルタミン酸(CMGA)、(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸(EDDS)、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ニトリロ3酢酸(NTA)および、これらの塩からなる群から選択される少なくとも一種を好ましく使用することができる。
【0120】
さらに、上記フェノール化合物としては、2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物、これらを基本骨格とするフェノール系化合物を挙げることができる。前者の例として、カテコール、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸等が挙げられる。一方、後者の例として、フラボン、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノール、アントシアニジン、オーロン、カルコン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキン、テアフラビン、ダイズイン、ゲニスチン、ルチン、ミリシトリン等のフラボノイド、タンニン、カテキン等を包含するポリフェノール系化合物、ポリビニルフェノールや水溶性レゾール、ノボラック樹脂等、リグニン等を挙げることができる。中でも、タンニン、没食子酸、カテキンおよびピロガロールが特に好ましい。
【0121】
また、上記スルホン酸としては、メタスルホン酸、イセチオン酸、タウリン、ナフタレンジスルホン酸、アミノナフタレンジスルホン酸、スルホサリチル酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸等および、これらの塩からなる群から選択される少なくとも一種を好ましく使用することができる。
【0122】
スルホン酸を用いると、化成処理後の被処理物の塗装性・耐食性が向上しうる。そのメカニズムは明らかではないが、次の2つの理由が考えられる。
【0123】
まず一つは、鋼板等の被処理物の表面にはシリカ偏析物などがあり表面組成が不均一であるため、化成処理におけるエッチングされにくい部分があるが、スルホン酸を添加することによりそのようなエッチングされにくい部分を特にエッチングすることができ、その結果、被処理物表面に均一な金属酸化膜が形成されやすくなるものと推測される。すなわち、スルホン酸は、エッチング促進剤として作用するものと推測される。
【0124】
もう一つは、化成処理時においては化成反応により発生しうる水素ガスが、界面の反応を妨げている可能性があり、スルホン酸は復極作用として水素ガスを取り除き、反応を促進しているものと推測される。
【0125】
中でも、タウリンを用いると、アミノ基とスルホン基を両方もっている点で好ましい。スルホン酸の含有量としては、0.1〜10000ppmが好ましく、1〜1000ppmがより好ましい。含有量が0.1ppm未満であると、効果が得られにくく、10000ppmを超えるとジルコニウムの析出を阻害する可能性がある。
【0126】
アスコルビン酸を用いると、化成処理によって被処理物表面にジルコニウム酸化物、錫酸化物等の金属酸化膜が均一に形成され、塗装性、耐食性が向上しうる。そのメカニズムは明らかではないが、化成処理におけるエッチング作用が鋼板等の被処理物に対して均一に行われ、その結果、エッチングされた部分にジルコニウム酸化物および/または錫酸化物が析出して全体として均一な金属酸化膜が形成されるものと推測される。また、錫が存在する場合は、錫が何らかの影響により金属界面において錫金属として析出し易くなる結果、錫金属の析出部位にジルコニウム酸化物が析出し、全体として被処理物に対する表面被覆性が向上するものと推測される。アスコルビン酸の含有量としては、5〜5000ppmが好ましく、20〜200ppmがより好ましい。含有量が5ppm未満であると、効果が得られにくく、5000ppmを超えるとジルコニウムの析出を阻害する可能性がある。
【0127】
上記キレート剤を含む場合、その含有量は、ジルコニウム以外の錫イオンなどのその他のカチオンの合計濃度に対して、0.5〜10倍の濃度であることが好ましい。0.5倍未満では、目的とする効果が得られず、10倍を超えると化成処理膜形成に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0128】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、さらに窒素、硫黄および/またはフェノール系防錆剤を含有させることができる。防錆剤は、金属表面に防食化成処理膜を形成し腐食を抑制しうるものである。窒素、硫黄、フェノール系防錆剤としては、ヒドロキノン、エチレン尿素、キノリノール、チオ尿素、ベンゾトリアゾール等、およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤に窒素、硫黄、フェノール系防錆剤を用いた場合は、化成処理によって被処理物表面にジルコニウム酸化物、錫酸化物等の金属酸化膜が均一に形成され、塗装性、耐食性が向上しうる。そのメカニズムは明らかではないが、次のことが推測される。
【0129】
すなわち、鋼板表面にはシリカ偏析物などがあり表面組成が不均一であるため、化成処理においてエッチングされて化成処理膜が形成される部分と、エッチング挙動が違うために化成処理膜が形成されず鉄酸化物となってしまう部分がある。窒素、硫黄、フェノール系防錆剤は、化成処理中に化成処理膜が形成されなかった部分に吸着して金属界面を被覆することで一次防錆性を向上させ、結果として、化成処理後の被処理物の塗装性、耐食性を向上させることができるものと推測される。
【0130】
窒素、硫黄および/またはフェノール系防錆剤の含有量としては、0.1〜10000ppmが好ましく、1〜1000ppmがより好ましい。含有量が0.1ppm未満であると、効果が得られにくく、10000ppmを超えるとジルコニウムの析出を阻害する可能性がある。
【0131】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、さらにアルミニウムイオンおよび/またはインジウムイオンを含有していてよい。これらのカチオンは、錫イオンと同様の機能を有しているので、錫イオンだけでは効果がない場合に併用して用いることができる。中でも、アルミニウムがより好ましい。アルミニウムイオンおよび/またはインジウムイオンの含有量は、10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmがより好ましく、100〜300ppmがさらに好ましい。上記アルミニウムイオンおよびインジウムイオンの量は、ジルコニウムイオンの濃度に対して、例えば、2〜1000%に相当する濃度とすることができる。本発明で用いることのできるジルコニウム化成処理剤の一例として、ジルコニウムイオン、フッ素イオン、ポリアミン化合物、錫イオン、およびアルミニウムイオンを含むジルコニウム化成処理剤を挙げることができる。
【0132】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、上記成分以外に、種々のカチオンを含有していてもよい。上記カチオンの例として、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、ガリウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銀などが挙げられる。これら以外にも、pH調製の目的で加えられる、塩基や酸から由来したり、上記成分のカウンターイオンとして含まれたりするカチオンやアニオンが存在する。
【0133】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、上記各成分そのもの、および/または、これを含有する化合物を水に投入して混合することで製造することができる。
【0134】
上記ジルコニウムイオンを供給する化合物として、例えば、フッ化ジルコン酸、フッ化ジルコン酸カリウムおよびフッ化ジルコン酸アンモニウム等のフッ化ジルコン酸の塩、フッ化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムコロイド、硝酸ジルコニル、ならびに炭酸ジルコニウム等を挙げることができる。
【0135】
また、錫イオンを供給する化合物として、例えば、硫酸錫、酢酸錫、フッ化錫、塩化錫、硝酸錫等を挙げることができる。一方、フッ素イオンを供給する化合物として、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物を供給源とすることも可能であり、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩、具体的には、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等を挙げることができる。また、ジルコニウムイオンを供給する化合物で錯フッ化物であるものであってもよい。さらに銅イオンを供給する化合物として、酢酸銅、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅等を、アルミニウムイオンを供給する化合物として、硝酸アルミニウム、フッ化アルミニウム等を、また、インジウムイオンを供給する化合物として硝酸インジウム、塩化インジウム等を、それぞれ挙げることができる。
【0136】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、これらを混合した後、硝酸、硫酸等の酸性化合物、および、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用して、所定のpH値になるよう、調整することができる。
【0137】
本発明で用いられるジルコニウム化成処理剤は、酸化剤を含んでいてもよい。酸化剤としては特に硝酸、亜硝酸、過酸化水素、臭素酸等およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。酸化剤は、被処理物の表面に金属酸化膜を均一に形成させ、被処理物の塗装性、耐食性を向上させることができる。
【0138】
酸化剤を用いることによるメカニズムは明らかではないが、酸化剤を所定量用いることにより、化成処理におけるエッチング作用が鋼板等の被処理物に対して均一に行われ、エッチングされた部分にジルコニウム酸化物および/または錫酸化物が析出して全体として均一な金属酸化膜が形成されるものと推測される。また、所定量の酸化剤により、錫が金属界面において錫金属として析出し易くなり、錫金属の析出部位にジルコニウム酸化物が析出し、全体として被処理物に対する表面被覆性が向上するものと推測される。
【0139】
このような作用を奏させるためには、各酸化剤の含有量は次のとおりである。すなわち、硝酸の含有量としては100〜100000ppmが好ましく、1000〜20000ppmがより好ましく、2000〜10000ppmがさらに好ましい。亜硝酸、臭素酸の含有量としては5〜5000ppmが好ましく、20〜200ppmがより好ましい。亜硝酸、臭素酸の含有量としては5〜5000ppmが好ましく、20〜200ppmがより好ましい。過酸化水素の含有量としては1〜1000ppmが好ましく、5〜100ppmがより好ましい。各含有量が下限値未満であると、上記効果が得られにくく、上限値を超えるとジルコニウムの析出を阻害する可能性がある。
【0140】
化成処理
上記ジルコニウム化成処理剤を用いて、被塗物に対して処理を行うことによって、化成処理膜が形成される。化成処理は、上記ジルコニウム化成処理剤を、被塗物である上記金属基材に接触させることによって行われる。ジルコニウム化成処理剤を被塗物に接触させる方法の具体例として、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、流しかけ処理法等を挙げることができる。
【0141】
上記処理における処理温度は、20〜70℃の範囲内であることが好ましい。20℃未満では、十分な化成処理膜形成が行われない可能性があり、70℃を超えても、それに見合う効果が期待できない。さらに好ましい下限値および上限値は、それぞれ30℃および50℃である。
【0142】
上記処理における処理時間は、2〜1100秒であることが好ましい。2秒未満では、十分な化成処理膜量が得られないおそれがあり、1100秒を超えても、それに見合う効果が期待できない。さらに好ましい下限値および上限値は、それぞれ30秒および120秒である。このようにして上記金属基材上に化成処理膜が形成される。
【0143】
上記化成処理膜におけるジルコニウムの含有量は、鉄系金属基材の場合、10mg/m以上であることが好ましい。10mg/m未満である場合は、十分な防食性が得られない。より好ましくは20mg/m以上、さらに好ましくは30mg/m以上である。上限は特に規定されないが、化成処理膜量が多すぎると、防錆化成処理膜にクラックが発生しやすくなり、均一な化成処理膜を得ることが困難となる。この点で、上記化成処理膜におけるジルコニウムの含有量は、1g/m以下であることが好ましく、800mg/m以下であることがさらに好ましい。
【0144】
また、化成処理剤が錫イオンを含む場合は、ジルコニウムおよび錫を含む化成処理膜が形成されることとなる。この場合の化成処理膜におけるジルコニウム/錫の元素比率は質量換算で1/10〜10/1であることが好ましい。この範囲内に調整することでつきまわり性がさらに向上するという利点がある。
【0145】
本発明における化成処理膜形成工程は上述の通りである。こうして化成処理膜が形成された被塗物は、そのまま、あるいは、洗浄して、後続の電着塗装工程を行うことができる。
【0146】
カチオン電着塗装
一般的な電着塗装工程は、電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、および、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、化成処理膜を析出させる過程、から構成される。通電時間は、電着条件によって異なるが、一般には2〜4分程である。印加電圧は、被塗物を陰極として陽極との間において、例えば50〜450Vの電圧が印加される。
【0147】
電着塗装した後、必要に応じた水洗処理などを行う。次いで、通常は140〜180℃で10〜30分間焼き付けることによって、硬化電着塗膜が形成される。
【0148】
本発明において用いられる上記ジルコニウム化成処理剤は、リン酸イオンを含まない化成処理剤であるにも関わらず、優れたつきまわり性を発揮するという特徴を有している。なおジルコニウムを含む化成処理剤自体は、従来から用いられている。従来のジルコニウムを含む化成処理剤においては、化成処理剤中に溶出した金属イオンがZrF2−のフッ素イオンを引き抜き、または、界面pHの上昇により、ジルコニウムの水酸化物または酸化物が生成され、このジルコニウムの水酸化物または酸化物が被塗物表面に析出すると考えられる。ところがこのようなジルコニウムを含む化成処理剤を用いる場合は、化成処理膜の厚みムラの発生や、特に鉄系基材においては充分な密着性が得られない等の問題がある。このような化成処理膜の厚みムラの不具合は、被塗物のエッジ部および平面部等のように形状の違う部位における化成処理膜析出量が異なることに由来する。
【0149】
また、化成処理方法として汎用されているリン酸亜鉛処理に代えて、このような従来のジルコニウムを含む化成処理剤により被処理物を処理する場合は、特に鉄系基材においては充分な塗膜密着性が得られない等の不具合がある。これに対して、本発明における化成処理剤を用いることによって、上記のような問題は解決され、そして化成処理膜のムラを引き起こさず、鉄系基材に対しても充分な安定性および塗膜密着性を有する化成処理膜を形成することができることとなる。
【0150】
本発明における上記ジルコニウム化成処理剤は、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物を含み、ジルコニウムイオン濃度が10〜10000ppmであり、ジルコニウム化成処理剤のpHが3.0である場合におけるフリーのフッ素イオン濃度が0.1〜50ppmであり、ジルコニウム化成処理剤のpHが1.5〜6.5である、化成処理剤である。そして本発明におけるこのジルコニウム化成処理剤は、化成処理膜の安定性を改善すると思われることから、従来のジルコニウムを含む化成処理剤での前処理が不適であった冷延鋼板または亜鉛めっき鋼板などの鉄系基材に化成処理膜を良好に形成することができる。そしてさらに本発明における電着塗料組成物を用いることによって、優れたつきまわり性が発揮されることとなる。
【0151】
上記ジルコニウム化成処理剤はさらに、リン酸イオンを実質的に含まないため、環境に対する負荷が少なく、スラッジ(汚泥)も発生しないという利点も有している。さらに、上記化成処理剤を使用する化成処理は、表面調整工程を必要としないため、より少ない工程で被塗物の化成処理を行うことができる。本発明においては、上記ジルコニウム化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成して、次いで上記カチオン電着塗料組成物を用いて電着塗膜を形成することにより、良好な塗膜外観を有する硬化電着塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0152】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0153】
製造例1 ジルコニウム化成処理剤の製造
製造例1−1 アミノシランの加水分解縮合体の調製
アミノシランとしてKBE603(3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、有効濃度100%、信越化学工業社製)5質量部を滴下漏斗から、脱イオン水47.5質量部とイソプロピルアルコール47.5質量部の混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下、25℃で24時間反応を行った。その後、反応溶液を減圧することにより、イソプロピルアルコールを蒸発させ、さらに脱イオン水を加え、有効成分5%のアミノシランの加水分解縮合体を得た。
【0154】
製造例1−2 化成処理剤Aの調製
ジルコニウムイオン供給源としての40%ジルコン酸水溶液を、ジルコニウムイオン濃度が500ppmとなる量で、錫イオン供給源としての酢酸錫を錫イオン濃度が30ppmとなる量で、製造例1−1のアミノシランの加水分解縮合体を200ppmとなる量で、および硝酸アルミニウムをアルミニウムイオン濃度が200ppmとなる量で加え、フッ化水素酸を加え、さらに硝酸と水酸化ナトリウムとを用いてpHが3.5となるよう調整を行い、化成処理剤Aを得た。得られた化成処理剤AにおけるSn/Zr比は0.06であった。また、この処理剤をpH3.0に調製した場合におけるフッ素イオンメーターを用いて測定した際のフリーフッ素イオン濃度は5ppmであった。
【0155】
製造例1−3 化成処理剤Bの調製
錫イオンを添加しなかった以外は製造例1−2と同一の方法により、化成処理剤Bを得た。この処理剤をpH3.0に調製した場合におけるフッ素イオンメーターを用いて測定した際のフリーフッ素イオン濃度は5ppmであった。
【0156】
製造例2 カチオン電着塗料組成物に関する製造例
製造例2−1 ブロックイソシアネート硬化剤(b)の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。得られたブロックイソシアネート硬化剤のTgは8℃であった。
このブロックイソシアネート硬化剤(b)のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.3であった。
【0157】
尚、本明細書中のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤のTgは、DSC(Differental Scaning Calorymeter)セイコー電子工業を用いて測定した。
【0158】
製造例2−2 アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を装備したフラスコにMIBK204部を仕込み100℃まで昇温させた。そこにクレゾールノボラック樹脂YD−CN703(東都化成製、エポキシ当量204)204部を少しずつ加え溶解し、エポキシ樹脂の50%溶液を得た。続いて、攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備した先のフラスコとは別のフラスコに、N−メチルエタノールアミン75.1部およびMIBK32.2部を仕込み120℃まで昇温した。先に得られたエポキシ樹脂の50%溶液408部を3時間かけて滴下した。その後、120℃で2時間保持した。のち、80℃まで冷却した。さらに、88%ギ酸24.8部をイオン交換水15.9部で希釈した水溶液を加えて30分間80℃で混合した。引き続いて、脱イオン水489.4部を加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が34%のアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を得た。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂についてGPCによる分子量測定を行なった結果、数平均分子量は1800であった。
このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、14.3であった。
【0159】
製造例2−3 アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−1)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)48部及びジブシル錫ジラウレート1.0部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール7部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル11部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物にビスフェノールA−プロピレンオキサイド5モル付加体33部を添加した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂376部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量263になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA79部、オクチル酸71部及びダイマー酸(C18不飽和脂肪酸のダイマー酸)42部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1420となった。
【0160】
得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン31部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79質量%MIBK溶液39部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分88%まで希釈した。こうしてアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂の数平均分子量(GPC法)は、1570であった。得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるオキサゾリドン環含有量は6質量%であり、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分の含有量は5質量%であり、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分の含有量は4質量%であり、そして飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量は9質量%であった。
また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.6であった。
【0161】
製造例2−4 アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−2)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)52部及びジブシル錫ジラウレート1.0部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール7部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル11部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物にビスフェノールA−プロピレンオキサイド5モル付加体33部を添加した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂376部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量263になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA79部、オクチル酸27部及びダイマー酸(ダイマー酸(C18不飽和脂肪酸のダイマー酸)133部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1520となった。
【0162】
得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン31部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79質量%MIBK溶液39部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分88%まで希釈した。こうしてアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂の数平均分子量(GPC法)は、2490であった。得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるオキサゾリドン環含有量は6質量%であり、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分の含有量は15質量%であり、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分の含有量は4質量%であり、そして飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量は19質量%であった。
また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.3であった。
【0163】
製造例2−5 アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−3)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)48部及びジブシル錫ジラウレート1.0部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール7部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、ポリプロピレングリコール(商品名P−1000、三洋化成(株)製、数平均分子量1000)33部およびビスフェノールA−エチレンオキサイド5モル付加体33部を添加した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂376部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量275になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA90部、オクチル酸78部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1420となった。
【0164】
得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン31部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79質量%MIBK溶液39部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分88%まで希釈した。こうしてアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂の数平均分子量(GPC法)は、2490であった。得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるオキサゾリドン環含有量は6質量%であり、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分の含有量は4質量%であり、アルキレンオキサイド部分の含有量は4質量%であり、そして飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量は8質量%であった。
また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.6であった。
【0165】
製造例2−6 アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−4)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)47部及びジブシル錫ジラウレート1.0部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール7部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル35部を滴下漏斗より滴下した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂376部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量258になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA79部、オクチル酸72部及びダイマー酸(C18不飽和脂肪酸のダイマー酸)41部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1400となった。
【0166】
得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン31部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79質量%MIBK溶液39部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分88%まで希釈した。こうしてアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂の数平均分子量(GPC法)は、1540であった。得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるオキサゾリドン環含有量は6質量%であり、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分の含有量は5質量%であり、そして飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量は5質量%であった。
また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.6であった。
【0167】
製造例2−7 顔料分散樹脂ワニスの製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を秤り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた樹脂ワニスはイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0168】
製造例2−8 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例2−7で得た顔料分散樹脂ワニスを120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン72.0部、ジブチルスズオキシド8.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水184部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分48%)。
【0169】
製造例2−9 アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−5)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)47部及びジブシル錫ジラウレート1.0部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール7部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル35部を滴下漏斗より滴下した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂376部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量258になるまで130℃で反応させた。続いて、ビスフェノールA79部、オクチル酸84部及びダイマー酸(C18不飽和脂肪酸のダイマー酸)16部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1380となった。
【0170】
得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン31部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79質量%MIBK溶液39部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分88%まで希釈した。こうしてアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂の数平均分子量(GPC法)は、1400であった。得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるオキサゾリドン環含有量は6質量%であり、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分の含有量は2質量%であり、そして飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量は2質量%であった。
また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.7であった。
【0171】
比較製造例1 飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の何れも有しないアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)45部及びジブシル錫ジラウレート1.0部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール7部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル35部を滴下漏斗より滴下した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂406部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量258になるまで130℃で反応させた。
【0172】
続いて、ビスフェノールA102部及びオクチル酸63部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1340となった。得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン31部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79質量%MIBK溶液39部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分88%まで希釈した。こうしてアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂の数平均分子量(GPC法)は、1580であり、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるオキサゾリドン環含有量は、6質量%であった。
また、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂のSP値を、良溶媒(テトラヒドロフラン)および貧溶媒(イオン交換水)を用いた濁点測定法によって測定したところ、11.8であった。
【0173】
実施例1
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−1)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
製造例2−3で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−1)と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0174】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して1.5%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1370μS/cmであった。なお、本明細書中の電気伝導率は、東亜電波工業製、CM−30Sを用いて、JIS K0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して、液温25℃で測定した。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.5であった。
【0175】
化成処理および電着塗装
40℃に加温した製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bの液中に、脱脂処理後に水洗した被塗物(冷延鋼板)を60秒間浸漬して表面処理を行った。化成処理膜の被膜量は、75mg/mであった。なお被膜量は、水洗処理後の冷延鋼板を電気乾燥炉において、80℃で5分間乾燥したうえで「XRF1700」(島津製作所製蛍光X線分析装置)を用いて、化成処理剤に含まれる金属の合計量として分析した。この「化成処理膜の被膜量」は、化成処理剤に含まれる金属の合計量を示している。
こうして化成処理膜が形成された被塗物を、次いで水道水で30秒間スプレー処理し、更にイオン交換水で10秒間スプレー処理した。
【0176】
その後、乾燥工程を特に経ることなく、風乾のみ行い、その後電着塗装を行った。上記調製により得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、液温30℃で、硬化電着塗膜の膜厚が15μmとなる塗装電圧にて電着塗装した。水洗した後、170℃で25分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た。
【0177】
実施例2
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−1)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
製造例2−3で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−1)と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0178】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して2.0%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1550μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.6であった。
【0179】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0180】
実施例3
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−2)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
製造例2−4で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−2)と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0181】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して1.5%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1450μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.3であった。
【0182】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0183】
実施例4
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−3)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
製造例2−5で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−3)と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0184】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して1.5%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1370μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.5であった。
【0185】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0186】
実施例5
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−4)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
製造例2−6で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−4)と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0187】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して1.5%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1370μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.6であった。
【0188】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0189】
実施例6
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bの代わりに、製造例1−2のジルコニウム化成処理剤Aを用いて化成処理を行ったこと以外は、実施例2と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0190】
比較例1
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
比較製造例1で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0191】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して2.5%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1660μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.9であった。
【0192】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0193】
比較例2
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
製造例2−9で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a−5)と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0194】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して1.0%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1190μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、11.5であった。
【0195】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0196】
比較例3
アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルションの調製
比較製造例1で得られたアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と製造例2−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これを樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるように氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。
【0197】
カチオン電着塗料組成物の調製
得られたバインダー樹脂エマルションに、製造例2−2で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)の水溶液を、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹脂エマルションの固形分質量100質量部に対して3.0%質量部となる量で加えた。
得られた混合物1100質量部に対して、製造例2−8で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。
この電着塗料組成物の電気伝導率は、1700μS/cmであった。
また、得られたカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値を、各樹脂成分(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤(b)およびアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(c))のSP値に基づいて算出したところ、12.5であった。
【0198】
化成処理および電着塗装
製造例1−3のジルコニウム化成処理剤Bおよび得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に化成処理および電着塗装を行った。
【0199】
上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、以下の測定および評価を行った。
【0200】
電着塗膜の50℃における塗膜粘度の測定
上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分な電着塗料組成物を取り除いた。次いで水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製した。こうして得られた試料を、回転型動的粘弾性測定装置であるRheosol G−3000(株式会社ユービーエム社製)を用いて、動的粘弾性における周波数依存測定を、設定条件:歪み0.5deg、周波数0.02Hzで行った。調製した試料をセットし、測定温度を50℃に保った。測定開始後、コーンプレート内で電着塗膜が均一に広がった状態となった時点で塗膜の粘度の測定を行った。得られた結果を下記表3、表4に示す。
【0201】
電着塗膜の膜抵抗
被塗物として、脱脂処理後に水洗した冷延鋼板(寸法:70mm×150mm、厚さ0.7mm)を、各実施例または比較例で用いたジルコニウム化成処理剤中に60秒間浸漬して表面処理を行った鋼板(ジルコン化成処理鋼板)を用いた。
各実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を含む電着浴において、上記鋼板を、電着塗料組成物に10cm浸漬した。この鋼板に電圧を印加し、30秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、150秒間電着した。浴温28℃における塗膜厚15μmの塗装電圧および電着終了時の残余電流を測定して、塗膜抵抗値(kΩ・cm2)を算出した。結果を表3、表4に示す。
【0202】
電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間(抵抗形成時間)の測定
被塗物として、脱脂処理後に水洗した冷延鋼板を、各実施例または比較例で用いたジルコニウム化成処理剤中に60秒間浸漬して表面処理を行った鋼板(ジルコニウム化成処理鋼板)を用いた。
各実施例または各比較例記載のカチオン電着塗料組成物4リットルを塩ビ製容器に移して電着槽とした。次いで、上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、上記鋼板を塗装する場合における、「塗装面積が140cmである被塗物に対して、180秒の通電により膜厚が15μmとなる電圧」を、150V、200V、および250Vの電圧を印加した場合の膜厚を測定した結果に基づいて求めた。得られた印加電圧(V)を下記表1、表2に示す。
【0203】
【表1】

【0204】
【表2】

【0205】
各実施例または各比較例記載のカチオン電着塗料組成物4リットルが入った塩ビ製容器中を電着槽とし、上記鋼板を陰極とし、そして極比(被塗物と対極(陽極)の面積比)を1/2とし、また極間距離(被塗物と対極(陽極)の距離)を10cmに設定した。塗装温度を30℃に設定し、上記表中の印加電圧を印加して、析出した電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間を、オシロスコープ(GRAPHTEC社製 DATA PLATFORM DM3100V2)を用いて測定した。なお塗膜抵抗値は、電着塗装時における、測定器による、時間−電圧カーブ、および時間−電流カーブから算出した。得られた抵抗形成時間を表3、表4に示す。
【0206】
複層塗膜の外観評価
ジルコニウム系化成処理剤
各実施例および比較例により得られた、化成処理膜および硬化電着塗膜を有する複層塗膜の塗膜外観について、下記基準により塗膜外観を目視評価した。
◎:硬化電着塗膜にうねり肌がなく、表面がきわめて平滑である。
○:硬化電着塗膜の表面が平滑であり、凹凸の存在は認められない。
×:硬化電着塗膜の表面に凹凸が認められる。
【0207】
リン酸亜鉛系化成処理剤
比較として、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いた場合についての評価を行った。脱脂処理した冷延鋼板を、サーフファイン5N−8M(日本ペイント社製)を用いて室温で30秒間表面処理を行い、次いでリン酸亜鉛系化成処理剤であるサーフダインSD−6350(日本ペイント社製、温度35℃)中に120秒間浸漬処理して化成処理膜を形成した。化成処理膜の被膜量は、2200mg/mであった。なお被膜量は、水洗処理後の冷延鋼板を電気乾燥炉において、80℃で5分間乾燥したうえで「XRF1700」(島津製作所製蛍光X線分析装置)を用いて、化成処理剤に含まれる金属の合計量として分析した。化成処理膜が形成された被塗物を、次いで水道水で30秒間スプレー処理し、更にイオン交換水で10秒間スプレー処理した。
【0208】
その後、乾燥工程を特に経ることなく、風乾のみ行い、その後、上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装を行った。電着塗装は、液温30℃で、硬化電着塗膜の膜厚が15μmとなる塗装電圧にて電着塗装した。水洗した後、170℃で25分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た。
形成された複層塗膜について、上記基準により塗膜外観を目視評価した。
なお、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いた表面処理においては、スラッジの発生が確認された。
【0209】
つきまわり性の評価
つきまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1に示すように、各実施例または比較例で用いたジルコニウム化成処理剤で処理した4枚の冷延鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SD)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通孔15が設けられている。
【0210】
各実施例または各比較例記載のカチオン電着塗料組成物4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着槽とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通孔15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0211】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、化成処理を行った冷延鋼板にカチオン電着塗装を行った。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間その電圧を維持することにより行った。
【0212】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)によりつきまわり性を評価した。
この値が60%を超えた場合は超高つきまわり性を有しており、つきまわり性が特に優れていると判断できる。一方でこの値が50%以下の場合はつきまわり性が低いと判断できる。
【0213】
【表3】

:ジルコニウム化成処理膜を有する鋼板を用いた評価である。
【0214】
【表4】

:ジルコニウム化成処理膜を有する鋼板を用いた評価である。
【0215】
上記表3、表4に示されるとおり、実施例のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装した場合はいずれも、つきまわり性が非常に高く、超高つきまわり性を有することが確認された。
また、実施例のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装する場合においては、製造例1のジルコニウム化成処理剤によって処理された被塗物を電着塗装する場合であっても、リン酸亜鉛系化成処理剤によって処理された被塗物を電着塗装する場合と同程度の塗膜外観を有する複層塗膜が得られることが確認できた。ここで、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物に加えて錫イオンを含むジルコニウム化成処理剤(化成処理剤A)を用いた実施例6については、得られた複層塗膜の塗膜外観がより良好であり、つきまわり性も向上することが確認された。
一方で、比較例1〜3のカチオン電着塗料組成物を用いる場合は、いずれもつきまわり性に劣ることが確認された。
また、カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値が11.7を超える比較例1および3のカチオン電着塗料組成物を用いる場合、および電着塗膜の50℃における塗膜粘度が3000Pa・sを超える比較例2のカチオン電着塗料組成物を用いる場合においては、リン酸亜鉛系化成処理剤によって処理された被塗物を電着塗装する場合においては塗膜外観が良好な硬化電着塗膜が得られるものの、ジルコニウム系化成処理剤によって処理された被塗物を電着塗装する場合においてはつきまわり性および塗膜外観が劣ることとなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0216】
本発明においては、ジルコニウム化成処理剤によって処理された被塗物に電着塗装する場合であっても、リン酸亜鉛系化成処理剤によって処理された被塗物に塗装する場合と同様に、塗膜外観が良好な複層塗膜を得ることができるという特徴を有する。このため、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いる必要性がなくなるため、環境に対する負荷が少なく、スラッジ(汚泥)も発生しないという利点がある。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに、ジルコニウム化成処理膜を有する被塗物に電着塗装する場合においても、非常に優れたつきまわり性を発現するという特徴も有している。
【図面の簡単な説明】
【0217】
【図1】つきまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】つきまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0218】
10:ボックス
11〜14:化成処理鋼板
15:貫通孔
20:電着塗装容器
21:電着塗料
22:対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム化成処理剤で処理された被塗物の電着塗装に用いられるカチオン電着塗料組成物であって、
該カチオン電着塗料組成物は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を含むバインダー樹脂エマルション;を含む、カチオン電着塗料組成物であり、
該アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)は、下記式(I)
【化1】

[式中、Rは飽和または不飽和炭化水素基含有ジカルボン酸のカルボン酸基を除いた残基を示す。]
で示される、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、
下記式(II)
【化2】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立してCまたはCを示し、m+nは2〜20である。]
で示される、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分、および/または
下記式(III)
【化3】

[式中、Rは水素またはメチル基を示し、kは2〜20である。]
で示される、アルキレンオキサイド部分、
を有する樹脂であり、
該カチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂成分のSP値は11.7以下であり、
該カチオン電着塗料組成物から得られる電着塗膜の50℃における塗膜粘度が3000Pa・s以下であり、
該カチオン電着塗料組成物を用いた所定条件下での電着塗装において、電圧印加開始から、析出した電着塗膜の塗膜抵抗値が30kΩ・cmに到達するまでの時間が10秒以内であり、該所定条件は、塗装面積が140cmである被塗物に対して、塗装温度30℃における180秒間の電圧印加により乾燥膜厚15μmの塗膜が形成される条件であり、および
該カチオン電着塗料組成物を用いて形成される、厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗が900〜1600kΩ・cmであり、そして
該ジルコニウム化成処理剤が、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物を含み、
該ジルコニウムイオン濃度が10〜10000ppmであり、
該ジルコニウム化成処理剤のpHが3.0である場合におけるフリーのフッ素イオン濃度が0.1〜50ppmであり、
該ジルコニウム化成処理剤のpHが1.5〜6.5である、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
さらにアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(c)を含む、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)における、前記飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールA部分およびアルキレンオキサイド部分の総含有量が3〜20質量%である、請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)における、飽和または不飽和炭化水素基含有ジエステル部分のRは、炭素数20〜50の飽和または不飽和炭化水素基である、請求項1〜3いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)がオキサゾリドン環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1〜4いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
ジルコニウム化成処理剤を用いて被塗物に化成処理膜を形成する、化成処理膜形成工程、および
化成処理膜が形成された被塗物を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗膜形成工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
該電着塗膜形成工程で用いられるカチオン電着塗料組成物は、請求項1〜5いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物であり、
該化成処理膜形成工程で用いられるジルコニウム化成処理剤は、ジルコニウムイオン、フッ素イオンおよびポリアミン化合物を含み、
該ジルコニウムイオン濃度が10〜10000ppmであり、
該ジルコニウム化成処理剤のpHが3.0である場合におけるフリーのフッ素イオン濃度が0.1〜50ppmであり、
該ジルコニウム化成処理剤のpHが1.5〜6.5である、
複層塗膜形成方法。
【請求項7】
前記ジルコニウム化成処理剤がさらに錫イオンを含み、かつ
該ジルコニウム化成処理剤におけるジルコニウムイオンの濃度に対する錫イオンの濃度が0.5〜100%である、
請求項6記載の複層塗膜形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−95678(P2010−95678A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269792(P2008−269792)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】