説明

カチオン電着塗料組成物および電着塗膜形成方法

【課題】強い毒性を有したり大きな比重を有する重金属系の防錆顔料を含まず、かつ、優れた防錆性を有する塗膜を形成することができる、カチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】カチオン性エポキシ樹脂(A);および、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B);を含むカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比重の大きい無機系の防錆顔料を含まず、かつ、優れた防食性を有する塗膜を形成することができる、カチオン電着塗料組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。
【0003】
このようなカチオン電着塗料組成物には、一般に、重金属を含む無機系の防錆顔料が含まれており、これにより得られる塗膜の防錆性が向上されている。非常に優れた防錆性を有する防錆顔料として、例えば鉛化合物およびクロム化合物が挙げられる。しかしながらこれらの重金属系防錆顔料は、非常に強い毒性を有しており、環境に対して多大な負荷を与える。そのため、環境保護の観点から、このような鉛化合物またはクロム化合物などの重金属系防錆顔料を含まず、かつ防錆性に優れた、カチオン電着塗料組成物の開発が求められている。
【0004】
例えば特開2000−290542号公報(特許文献1)には、珪酸ビスマス(A)、珪モリブデン酸ビスマス(B)、水酸化ビスマス(C)、およびジルコニウム化合物(D)からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有し、かつ鉛化合物および錫化合物を含有しないことを特徴とするカチオン電着塗料組成物が記載されている。また特開2001−329221号公報(特許文献2)には、カチオン電着塗料用樹脂(A)、縮合リン酸アルミニウム及び/又は亜鉛化合物(B)、ならびに酸化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウム(C)を含有することを特徴とするカチオン電着塗料が記載されている。そしてこれらのカチオン電着塗料組成物を用いることによって、鉛化合物やクロム化合物などの有害物質を含有させることなく、防錆性に優れた塗膜を形成することができると記載されている。しかしながら、鉛化合物系防食顔料を含む電着塗料組成物と比較すると、これらのカチオン電着塗料組成物の防錆性はまだ十分なものではない。さらに、これら比重の大きな無機系の防錆顔料は塗料浴中で沈降し易いため、塗料組成物の安定性の低下および塗膜外観の悪化(沈降しやすい顔料が含まれることによって、塗装の水平面へ顔料の降り積もりが生じ、垂直面と比較して塗膜外観が悪くなること)のおそれがある。このため、このような不具合を伴わない、低比重である防錆成分の開発が望まれている。
【0005】
ところで、カチオン電着塗装を施す被塗物には、通常、電着塗装の前に化成処理が施される。化成処理を施すことによって、耐食性、塗膜密着性等の性質を向上させることができる。この化成処理として、リン酸亜鉛を含む化成処理剤が広く用いられている。しかしながら、リン酸亜鉛系処理剤は、金属イオン及び酸濃度が高くそして非常に反応性の強い処理剤であるため、排水処理における経済性および作業性が劣るという欠点がある。更に、リン酸亜鉛系処理剤を用いて金属表面処理を行う際には、水に不溶である塩類が生成して沈殿となって析出する。このような沈殿物は一般にスラッジと呼ばれる。リン酸亜鉛系処理剤を用いる場合は、塗装工程において発生するこのスラッジを除去し、廃棄するのに必要とされるコストの発生などが問題となっている。さらに、リン酸亜鉛系処理剤中に含まれるリン酸イオンは、環境に富栄養化をもたらすことがあり、これにより環境に対して負荷を与えるおそれがある。そのため、リン酸亜鉛系処理剤は、廃液の処理に際して多大な労力を必要とするという問題もある。
【0006】
このようなリン酸亜鉛系処理剤以外の金属表面処理剤として、ジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤が知られている(例えば、特開平7−310189号公報(特許文献3参照))。しかしながら、このようなジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤を用いて化成処理された被塗物に形成された硬化電着塗膜は、リン酸亜鉛系処理剤を用いた場合と比較して防錆性に劣るという問題があった。
【0007】
特開平6−32824号公報(特許文献4)には、キレート形成基であるキノリノール基を分子中に少なくとも1個有する被膜形成可能なキレート形成性樹脂が記載されている。このキレート形成性樹脂を用いることによって耐腐食能を付与することができ、そしてこのキレート形成性樹脂は有機溶剤塗料そして電着塗料などに用いることができると記載されている。しかしながら、このキレート形成性樹脂を用いた電着塗料の防錆性は十分なものではない。その理由として、キレート形成基がいわゆる塗膜樹脂の側鎖として導入されているため、塗膜の金属素材への密着性の向上は期待できるが、キノリノールが塗膜から溶出して基材の傷部を保護する機能は本質的に有していないことが挙げられる。
【0008】
特開昭56−110717号公報(特許文献5)には、親水性ポリイソシアネートと、ヒドロキシキノリンなどのフェノール類とを含む、常温水硬性ウレタン組成物が記載されている。この組成物は上記の通り、常温で水と反応するウレタン組成物である。従って、この発明と、水分散系の塗料組成物である本願発明のカチオン電着塗料組成物とは、その技術分野が大きく異なっている。
【0009】
特開平3−17116号公報(特許文献6)には、芳香族性かつ含窒素の六員環又は縮合六員環化合物を含有するイソシアネート用ブロック剤、およびこのブロック剤でブロックしたイソシアネート化合物が記載されている。このブロックイソシアネート化合物は、低温での加熱により解離してイソシアネートを再生することが記載されている。しかしながらこの発明においては、このブロックイソシアネート化合物は、非水系で使用される低温解離型のブロックイソシアネート化合物として記載されている(明細書第2頁右上欄第3〜11行および明細書第6〜13頁の実施例を参照)。従って、この発明と、水分散系の塗料組成物である本願発明のカチオン電着塗料組成物とは、その技術分野が大きく異なっている。
【0010】
【特許文献1】特開2000−290542号公報
【特許文献2】特開2001−329221号公報
【特許文献3】特開平7−310189号公報
【特許文献4】特開平6−32824号公報
【特許文献5】特開昭56−110717号公報
【特許文献6】特開平3−17116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、強い毒性を有していたり、大きな比重を有する、重金属系の防錆顔料を含まず、かつ、優れた防錆性を有する塗膜を形成することができる、カチオン電着塗料組成物を提供することを課題とする。更に、本発明は、化成処理剤を用いることなく電着塗膜を形成する電着塗膜形成方法、さらに環境への負荷が少ない化成処理剤を用いて電着塗膜を形成する電着塗膜形成方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
カチオン性エポキシ樹脂(A)、および
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされた、ブロックイソシアネート硬化剤(B)、
を含むカチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0013】
上記ブロックイソシアネート硬化剤(B)をブロックする腐食抑制機能を有する有機キレート化合物は、ヒドロキシアゾ化合物、ヒドロキシキノリン化合物、β−ジケトン化合物、アントラキノン化合物、ナフタレン化合物、アミノ酸およびその誘導体、およびトロポロン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であるのが好ましい。
【0014】
また上記ブロックイソシアネート硬化剤(B)をブロックする腐食抑制機能を有する配位性化合物は、環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物、アミド化合物またはチオセミカルバゾン化合物であるのが好ましい。
【0015】
さらに、上記ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物(a)、および、
この(a)以外の他のブロック剤(b)、
によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤であるのが好ましい。
【0016】
この他のブロック剤(b)は、炭素数4〜15のアルコール類、炭素数2〜15のグリコール類および炭素数3〜15のグリコールモノアルキルエーテル類から選択される少なくとも1種(b)であるのがより好ましい。
【0017】
なお上記カチオン電着塗料組成物は防錆顔料を含まないのが好ましい。
【0018】
また上記カチオン電着塗料組成物の塗料固形分濃度は0.5〜9.0重量%であるのが好ましい。
【0019】
また、ブロックイソシアネート硬化剤(B)をブロックする、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量は、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して0.1〜10重量%であるのがより好ましい。
【0020】
本発明はさらに、電着塗膜形成方法も提供する。電着塗膜形成方法の1態様として、
化成処理されていない被塗物を、上記カチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する電着塗膜形成工程、を包含する電着塗膜形成方法が挙げられる。
【0021】
電着塗膜形成方法の他の1態様として、
化成処理剤を用いて化成処理された被塗物を、上記カチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗膜形成工程、
を包含する、電着塗膜形成方法であって、
この化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)およびフッ素(B)を含有する化成処理剤である、
電着塗膜形成方法、が挙げられる。
【0022】
本発明はさらに、上記電着塗膜形成方法により得られる塗膜も提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて形成される塗膜は、強い毒性を有していたり、大きな比重を有する、重金属系の防錆顔料を含まないにもかかわらず、防錆性に非常に優れている。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに、塗料安定性も良好である。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて形成される塗膜はこのように防錆性に非常に優れているため、被塗物に予め化成処理を施すことなく被塗物に直接電着塗装を行う場合であっても、防錆性に非常に優れた塗膜を得ることができる。また本発明のカチオン電着塗料組成物を用いることによって、環境への負荷が少ない化成処理剤を用いて、優れた塗膜物性を有する塗膜を得ることができる。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いることによって、強い毒性を有していたり大きな比重を有する重金属系の防錆顔料およびスラッジなどが生じるリン酸亜鉛化成処理剤を用いることなく、防錆性に非常に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、
カチオン性エポキシ樹脂(A)、および
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)、
を少なくとも含む。そして本発明のカチオン電着塗料組成物においては、ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック剤として腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物が用いられていることを特徴とする。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに、必要に応じて顔料、硬化触媒および他の成分などを含有してもよい。
【0025】
有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)
本発明で用いられるブロックイソシアネート硬化剤は、ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック剤として腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物が用いられているという特徴がある。
【0026】
ブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックすることにより得ることができる。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0027】
ポリイソシアネートの具体例には、
トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;
1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;
キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;および
これらのジイソシアネートの変性物(例えば、ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット(二量体)およびイソシアヌレート(三量体)など);が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0028】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーを、ポリイソシアネートとして使用することもできる。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、HDI、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0030】
ブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートが有する遊離のイソシアネート基を、ブロック剤と反応させて常温において不活性化することにより調製される。こうして調製されたブロックイソシアネート硬化剤は、加熱されることによって、ブロック剤が解離してイソシアネート基が再生されることとなる。ブロックイソシアネート硬化剤は、理論上では、ポリイソシアネートが有する遊離のイソシアネート基全てがブロック剤によってブロックされているのが望ましい。
【0031】
本発明で用いられるブロックイソシアネート硬化剤は、ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック剤として腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物が用いられているという特徴がある。本明細書中において「有機キレート化合物」とは、2またはそれ以上の配位原子を有し、これらの配位原子がともに1つの金属イオンに配位する有機化合物を意味する。また「配位性化合物」とは、1つの配位原子を有し、この配位原子が金属イオンに配位する化合物を意味する。
【0032】
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物として、ヒドロキシアゾ化合物、ヒドロキシキノリン化合物、β−ジケトン化合物、アントラキノン化合物、ナフタレン化合物、アミノ酸およびその誘導体、そしてトロポロン化合物などが挙げられる。
ヒドロキシアゾ化合物として、具体的には、2−ヒドロキシアゾベンゼン、2,2’−ジヒドロキシアゾベンゼン、2−ヒドロキシ−5−メチルアゾベンゼンなどが挙げられる。
ヒドロキシキノリン化合物として、具体的には、8−キノリノール、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジクロロ−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジヨード−8−ヒドロキシキノリン、5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン、2−メチル−8−ヒドロキシキノリン、5−アミノ−8−ヒドロキシキノリンなどが挙げられる。
β−ジケトン化合物として、具体的には、アセト酢酸2−メトキシエチルエステル、ベンジルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、アセト酢酸イソブチルエステル、ターシャリーブチルアセトアセテート、N−メチルアセトアセタミド、N−ベンジルアセトアセタミド、N,N−ジメチルアセトアセタミド、1−(2−テノイル)−3,3,3−トリフルオロアセトンなどが挙げられる。
アントラキノン化合物として、具体的には、1,5−ジアミノ−4,8−ジヒドロキシアントラキノン、1−アセトアミド−4−ヒドロキシアントラキノン、1−アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシ−3−アミノアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシ−3−アミノアントラキノン、1,2−ジヒドロキシアントラキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン、1,5−ジヒドロキシアントラキノン、1,8−ジヒドロキシアントラキノン、1,2,4−トリヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
ナフタレン化合物として、具体的には、1’−ヒドロキシ−2’−アセトナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2’−ヒドロキシ−1’−アセトナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
アミノ酸およびその誘導体として、具体的には、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファンなどが挙げられる。
トロポロン化合物として、具体的には、2−ヒドロキシシクロヘプタ−2,4,6−トリエン−1−オン、2−ヒドロキシシクロヘプタ−2,4,6−トリエン−1−オン、5−フェニルアゾトロポロンなどが挙げられる。
【0033】
上記有機キレート化合物は、ブロックイソシアネートから再生された状態において活性水素基を1つのみ有するものがより好ましい。このような有機キレート化合物を用いることによって、カチオン電着塗料組成物の貯蔵安定性をより向上させることができる。また上記有機キレート化合物は、アニオン電荷を有しない化合物であることが好ましく、具体的にはスルホニウム基またはカルボン酸基などのアニオン性基を有しない化合物であることが好ましい。これらのアニオン性基を有する化合物を用いる場合は、得られるカチオン電着塗料組成物の凝集安定性が劣ることとなるおそれがある。
【0034】
上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物のうち、ヒドロキシアゾ化合物、ヒドロキシキノリン化合物、β−ジケトン化合物、ナフタレン化合物およびアントラキノン化合物がより好ましく用いられる。特に、アセト酢酸2−メトキシエチルエステル、1’−ヒドロキシ−2’−アセトナフタレン、2−メチル−8−ヒドロキシキノリン、8−キノリノール、1−ヒドロキシアントラセン、2−ヒドロキシアゾベンゼンがさらに好ましく用いられる。これらの腐食抑制機能を有する有機キレート化合物を用いることによって、より優れた防錆効果を得ることができる。
【0035】
本発明で用いることができる腐食抑制機能を有する配位性化合物として、不対電子を有する原子を含む化合物が挙げられる。
【0036】
また上記腐食抑制機能を有する配位性化合物は、ブロックイソシアネートから再生された状態において活性水素基を1つのみ有するものがより好ましい。このような配位性化合物を用いることによって、カチオン電着塗料組成物の貯蔵安定性をより向上させることができる。また上記配位性化合物は、アニオン電荷を有しない化合物であることが好ましく、具体的にはスルホニウム基またはカルボン酸基などのアニオン性基を有しない化合物であることが好ましい。これらのアニオン性基を有する化合物を用いる場合は、得られるカチオン電着塗料組成物の凝集安定性が劣ることとなるおそれがある。
【0037】
本発明で好ましく用いることができる腐食抑制機能を有する配位性化合物として、環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物が挙げられる。環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物として、例えばピラゾール化合物、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物、チアゾール化合物、ピロール化合物、カルバゾールなどが挙げられる。
ピラゾール化合物として、具体的には、2,3−ジヒドロ−1H−ピラゾール−3−オン(3−ピラゾロン)、4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−4−オン(4−ピラゾロン)、4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−5−オン(5−ピラゾロン)、4,5−ジヒドロ−3−メチル−1H−ピラゾール−5−オン(3−メチル−5−ピラゾロン)などが挙げられる。
トリアゾール化合物として、具体的には、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、メチル−1H−ベンゾトリアゾール(混合物)、1,2,4−トリアゾールなどが挙げられる。
イミダゾール化合物として、具体的には、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリンなどが挙げられる。
チアゾール化合物として、具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾールなどが挙げられる。
ピロール化合物として、具体的には、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0038】
腐食抑制機能を有する配位性化合物として、環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物以外にも、例えば、ベンズアミドなどのアミド化合物、アセトンチオセミカルバゾンなどのチオセミカルバゾン化合物などを用いることができる。
【0039】
上記配位性化合物のうち、カルバゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、ベンズアミド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−メルカプトベンゾチアゾール、1,2,4−トリアゾール、アセトンチオセミカルバゾン、ベンゾイミダゾール、3−メチル−5−ピラゾロンがより好ましく用いられる。このような腐食抑制機能を有する配位性化合物を用いることによって、より優れた防錆効果を得ることができる。
【0040】
なお上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物は、1種のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。本発明においては、2種以上の有機キレート化合物および/または配位性化合物を併用することによって、得られるブロックイソシアネート硬化剤(B)の結晶析出性を低くすることができる。これは複数の化合物を用いることによって、結晶配列が乱れることによるものである。得られるブロックイソシアネート硬化剤(B)の結晶析出性を低くできることの利点として、得られるブロックイソシアネート硬化剤(B)が電着塗料組成物中において結晶化して析出してしまうことを防止できることが挙げられる。
【0041】
上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物を用いてポリイソシアネートをブロックする方法として、例えばポリイソシアネートと上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物とを、不活性有機溶媒中で混合する方法が挙げられる。これにより、ポリイソシアネートが有する遊離のイソシアネート基と、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および配位性化合物が有する活性水素基とが反応し、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネートが得られることとなる。こうして得られたブロックイソシアネートは、加熱されることによって、ブロック剤である腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物が解離して、イソシアネート基が再生される。同時に、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物も再生されることとなる。そして再生された腐食抑制機能を有する有機キレート化合物そして配位性化合物が、防錆効果を発揮することとなる。
【0042】
上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物そして配位性化合物が、ブロックイソシアネート硬化剤から再生されることによって防錆作用が得られる理由としては、再生した有機キレート化合物あるいは配位性化合物が塗膜から微量溶け出し、被塗物の傷部または塗膜下の被塗物(金属)表面に配位して、薄いバリヤー層を形成すること(吸着型インヒビター作用)が考えられる。さらに、腐食に伴って被塗物から生じる金属イオンに対して、再生した腐食抑制機能を有する有機キレート化合物そして配位性化合物が配位してその不溶性配位化合物が金属表面に沈着したり、塗膜の電気抵抗の低下を抑制することによって、効果的に防錆効果が発揮されるためと考えられる。腐食抑制機能を有する有機キレート化合物を下記式(1)のように略記すると、再生した腐食抑制機能を有する有機キレート化合物が金属表面あるいは金属イオンに配位するモデルは下記のように示される。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

金属表面に対する配位モデル
(吸着型インヒビター作用)
【0045】
【化3】

3価の金属イオンに対する配位モデル
【0046】
【化4】

2価の金属イオンに対する配位モデル
【0047】
本発明で用いられる、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)は、必要に応じて腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および配位性化合物以外の他のブロック剤によってもブロックされていてもよい。このような他のブロック剤として、例えばフェノール、m−クレゾール、p−ニトロフェノール、p−クロロフェノール、ノニルフェノールなどのフェノール類;メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのカプロラクタム類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、フルフリルアルコール、アルキル基置換フルフリルアルコールなどの脂肪族アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;および
1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールなどのジアルコール類;
などを挙げることができる。これらの他のブロック剤は、1種のみ単独で用いてもよく、また2種以上のものを併用してもよい。
【0048】
上記の他のブロック剤のうち、炭素数4〜15のアルコール類、炭素数2〜15のグリコール類および炭素数3〜15のグリコールモノアルキルエーテル類から選択される少なくとも1種を用いるのがより好ましい。
このような炭素数4〜15のアルコール類として、具体的には、ペンタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、4−メチル−2−プロパノールなどが挙げられる。
炭素数2〜15のグリコール類として、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。
また炭素数3〜15のグリコールモノアルキルエーテル類として、具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、メトキシブタノールなどが挙げられる。
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物と、このようなアルコール類、グリコール類および/またはグリコールモノアルキルエーテル類と、を用いてポリイソシアネートをブロックすることによって、得られるブロックイソシアネート硬化剤のカチオン電着塗料組成物中における分散安定性を向上させることができ、またブロックイソシアネート硬化剤のハンドリング性を向上させることができる。
【0049】
これらの他のブロック剤を用いてポリイソシアネートをブロックする方法は、上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物を用いたブロック方法と同様の方法により行うことができる。
【0050】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)の調製において他のブロック剤を用いる場合において、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物(a)と、他のブロック剤(b)との割合は、モル比で(a):(b)=2:8〜9.5:0.5であるのが好ましい。腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物(a)の量が上記範囲より少ない場合は、十分な防錆効果が得られなくなるおそれがある。ブロックイソシアネート硬化剤(B)の調製において、このように、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物(a)と、他のブロック剤(b)とを用いることによる利点として、得られるブロックイソシアネート硬化剤(B)が結晶化して析出することを防止できることが挙げられる。腐食抑制機能を有する有機キレート化合物、配位性化合物の中には、結晶化能力が非常に高い化合物も含まれている。このような化合物は、その高い結晶化能力により防錆性能に優れている。その一方で、その高い結晶化能力により、得られるブロックイソシアネート硬化剤の結晶析出性も高くなり、これによりカチオン電着塗料組成物の調製が困難となるおそれがあり、さらにカチオン電着塗料組成物中における分散安定性が低下するおそれがある。このような場合において、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物(a)と、他のブロック剤(b)とを用いてブロックイソシアネート硬化剤(B)を調製することによって、高い防錆性能を維持しつつ、ブロックイソシアネート硬化剤(B)が結晶化し析出することを防ぐことができる。
【0051】
上記の腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)を、カチオン電着塗料組成物に用いることによって、得られる塗膜中に、より多くの量のキレート化合物および/または配位性化合物を導入することができる。これにより、優れた防錆性を有する塗膜を得ることができる。
【0052】
本発明のカチオン電着塗料組成物はまた、塗料安定性にも優れているという利点を有する。得られる塗膜にキレート効果を付与することを目的として、例えば8−キノリノールなどをそのままカチオン電着塗料組成物に添加する場合は、カチオン電着塗料組成物中において8−キノリノールがキレート作用を発揮してしまうという問題がある。カチオン電着塗料組成物中は水分散型塗料であり、種々の成分の水中分散性を向上させるために、種々の成分がイオン化され水中分散されている。そして電着塗料組成物に8−キノリノールが加えられることによって、これらのイオン化された成分と8−キノリノールとが錯体を形成し沈殿が形成してしまう。このように腐食抑制機能を有する有機キレート化合物または配位化合物を、そのままの状態で電着塗料組成物に添加することによって、塗料安定性は著しく損なわれてしまう。また、有機キレート化合物または配位性化合物は、その極性の高さに由来して、水に対する溶解性が高い化合物が多く含まれる。このような化合物は、水に対する溶解性が高いため、電着塗装時に塗膜として有効に析出し難くなる。そのため、有効な腐食抑制機能を得ることができないという問題がある。
【0053】
これに対して、本発明においては、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物はカチオン電着塗料組成物中においてはブロック剤として機能している。このため、電着塗料組成物中のイオン化成分とは、ほとんど反応しない状態となっている。また水に対する溶解性が高い有機キレート化合物または配位性化合物を用いる場合においては、これらがブロック剤として機能しているため、電着塗膜として有効に析出する。そして、電着塗装され焼付け加熱されることによって、ブロック剤として機能していた腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および配位性化合物は再生され、塗膜中に存在することとなる。そしてこれらの腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物が塗膜中に存在することによって、優れた防錆効果が得られることとなる。
【0054】
なお、上記有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量は、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して0.1〜10重量%であるのが好ましい。有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量が0.1重量%未満である場合は、十分な防錆効果が得られないおそれがある。また有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量が10重量%を超える場合は、カチオン電着塗料組成物中において、ブロックイソシアネート硬化剤(B)の含有量が多くなってしまい、防錆性が低下するおそれがある。
【0055】
上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)を、カチオン電着塗料組成物に用いることによって、さらに、電着塗装の焼付炉内におけるヤニ、ススの発生量を低減することができるという利点もある。被塗物上に形成された未硬化の電着塗膜は、焼付炉内に搬送され、一般に140℃以上の温度で加熱硬化される。そしてこの加熱硬化において、焼付炉内では被塗物の塗膜からブロック剤などの各種揮発性成分が揮散し、それが焼付炉内壁に付着して蓄積する。こうして付着して蓄積した揮発性成分は、いわゆる「ヤニ、スス」を形成する。焼付炉の内壁にヤニ・ススが多量付着すると、それが被塗物の塗膜上に落下して塗膜の仕上り外観を低下させることになる。従って、従来のカチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装においては、焼付炉内に付着したヤニ・ススを定期的に除去し清掃する必要があり、そのための作業に多大の労力と時間が費やされるという問題があった。
【0056】
これに対して、本発明のカチオン電着塗料組成物を用いる場合は、加熱硬化において脱ブロック化する腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物は、塗膜中に残存することとなる。これにより、焼付炉内における揮発性成分の発生量が低減されることとなり、焼付炉内におけるヤニ、ススの発生量を低減することができる。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いることによって、焼付炉の内壁におけるヤニ・ススの付着量を低減することが可能となり、さらに焼付炉の清掃作業回数も低減することが可能となる。
【0057】
カチオン性エポキシ樹脂(A)
カチオン性エポキシ樹脂(A)として、アミン変性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。アミン変性エポキシ樹脂は、電着塗料組成物において一般に使用されるアミンで変性されたエポキシ樹脂などを特に制限なく用いることができる。カチオン性エポキシ樹脂(A)として、当業者に公知のカチオン性エポキシ樹脂、市販のエポキシ樹脂をアミン変性したものなどを使用することができる。
【0058】
好ましいカチオン性エポキシ樹脂(A)として、樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるアミン変性エポキシ樹脂が挙げられる。一般に、アミン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などである。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載され公知であるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものである。
【0059】
上記出発原料樹脂は、必要に応じて、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖長延長して用いることができる。
【0060】
また、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0061】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用することができるアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0062】
上記カチオン性エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は1,500〜5,000の範囲であるのが好ましく、1,600〜3,000の範囲であるのがより好ましい。数平均分子量が1,500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。また5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難となるおそれがあり、さらに得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱、硬化時のフロー性が悪く、塗膜外観を損ねる場合がある。
【0063】
上記カチオン性エポキシ樹脂(A)は、ヒドロキシル価が50〜200mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50mmol/100g未満では塗腹の硬化不良を招くことがある。またヒドロキシル価が250mmol/100gを超える場合は、硬化後に塗膜中に過剰の水酸基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0064】
また、上記カチオン性エポキシ樹脂(A)は、アミン価が40〜150mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が40mmol/100g未満では下記で詳説する酸処理による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150mmol/100gを超えると硬化後に塗膜中に過剰のアミノ基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0065】
顔料
本発明のカチオン電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用し得る顔料の例としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄及びベンガラのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー及びシリカのような体質顔料などが挙げられる。なお本発明のカチオン電着塗料組成物は、必要に応じて、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、ケイ酸ビスマスのような、毒性の少ない無機系の防錆顔料を含んでもよい。
【0066】
なお、本発明のカチオン電着塗料組成物は腐食抑制機能を有する化合物を含むため、上記防錆顔料を含まない塗料組成物であるのが好ましい。しかし必要に応じて上記防錆顔料を含有させてもよい。
【0067】
顔料は、一般に、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して下限1重量%、上限60重量%を占める量でカチオン電着塗料組成物に含有されるのが好ましい。上記上限は30重量%であるのがより好ましい。
【0068】
顔料分散ペースト
上記顔料を電着塗料の成分として用いる場合は、顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状にするのが好ましい。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。このようなペーストを顔料分散ペーストという。顔料分散ペーストには、一般に、顔料および顔料分散樹脂が含まれる。
【0069】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂と顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0070】
他の成分
上記カチオン電着塗料組成物は、上記成分の他にブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離のための解離触媒を含んでもよい。このような解離触媒として、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物や、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅など金属の金属塩が使用できる。解離触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤合計の100固形分重量部に対し0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0071】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂(A)、および腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)を水性溶媒中に分散させたもの(バインダー樹脂エマルション)、脱イオン水、そして必要に応じた顔料分散ペーストおよび硬化触媒などを、所定の割合で混合することによって調製することができる。
【0072】
カチオン電着塗料組成物に用いられる水性溶媒としては、イオン交換水、純水などを用いることができる。水性溶媒は、必要に応じて少量のアルコール類などを含んでいてもよい。そして水性溶媒にはカチオン性エポキシ樹脂(A)の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0073】
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂(A)中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が用いられる。一般に、カチオン性エポキシ樹脂(A)のブロックイソシアネート硬化剤(B)に対する重量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。カチオン性エポキシ樹脂(A)と、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤(B)とを含むバインダー樹脂は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の25〜85重量%、好ましくは40〜70重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0074】
本発明のカチオン電着塗料組成物が、低固形分型カチオン電着塗料組成物である場合は、その塗料組成物の固形分濃度は、従来の20重量%と比較してより少なく、例えば固形分濃度が0.5〜9重量%であるのが好ましく、さらには3〜9重量%であるのがより好ましい。このような低固形分型カチオン電着塗料組成物は、電着塗装後の水洗工程が少なくてよいため、水洗工程が短くなり、水洗工程に必要とされるエネルギーを低減することができるという利点がある。
なお低固形分型カチオン電着塗料組成物において、固形分濃度が0.5重量%未満である場合は、電着塗料組成物の電導度が低くなり、電着塗膜の析出性が低下するおそれがある。一方、固形分濃度は9重量%を超えても構わないが、この場合は低固形分型カチオン電着塗料組成物とは分類されず、また水洗工程の短縮および水洗工程に必要とされるエネルギーコストを減らすことは困難である。
【0075】
電着塗装
本発明の電着塗料組成物は当業者に周知の方法で被塗物に電着塗装することができ、これにより硬化電着塗膜を得ることができる。被塗物としては、例えば冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛−鉄合金系めっき鋼板、亜鉛−マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板、鉛−錫合金系めっき鋼板、クロム系めっき鋼板などの鋼材、さらにこれらの鋼板に化成処理を施した鋼材、などが挙げられる。
【0076】
電着塗装においては、カチオン電着塗料組成物に被塗物を陰極として浸漬し、次いで陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させることによって、未硬化の電着塗膜が形成される。電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0077】
電着塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として5〜25μmであるのが好ましく、20μm程であるのがさらに好ましい。膜厚が5μm未満である場合は防錆性が不充分となるおそれがあり、また25μmを超えると塗料の浪費につながるおそれがある。
【0078】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、焼付けすることによって、未硬化の電着塗膜が加熱硬化し、硬化電着塗膜が形成される。焼付けの温度は、120〜200℃であるのが好ましく、140〜180℃であるのがより好ましい。焼付け温度が120℃未満である場合は、ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック剤が十分に解離しないおそれがある。一方、焼付け温度が200℃を超える場合は、ブロックイソシアネート硬化剤(B)から生成する腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物の塗膜残存量が少なくなり、十分な防錆効果が得られなくなるおそれがある。焼付け時間は、焼付け温度に応じて変更しうるが、一般に10〜30分間であるのが好ましい。
【0079】
化成処理
本発明のカチオン電着塗料組成物は防錆性に非常に優れているため、未処理の被塗物に電着塗装を行ってもよく、また化成処理などの表面処理が施された被塗物に電着塗装を行ってもよい。電着塗装される被塗物に予め化成処理を施すことによって、得られる電着塗膜と被塗物との密着性をさらに向上させることも可能である。
【0080】
本発明で好ましく用いることができる化成処理剤は、
ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)、フッ素(ii)を含有する化成処理剤である。この化成処理剤はさらに、亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン;アルカリ土類金属イオン;13族元素の金属イオン;銅イオン;ケイ素含有化合物;ポリアミン水溶性樹脂;アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物;またはシランカップリング剤および/またはその加水分解物;などの密着性および耐食性付与剤を含んでもよい。この化成処理剤は、リン酸イオン、そして有害な重金属イオンを実質的に含有しないという特徴を有する。
【0081】
ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)
上記化成処理剤に含まれるジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)は、化成処理膜形成成分である。ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)を含む化成処理膜が被塗物に形成されることにより、被塗物の耐食性や耐磨耗性を向上させ、更に、次に形成される塗膜との密着性を高めることができる。
【0082】
上記ジルコニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、KZrF等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NHZrF等のフルオロジルコネート;HZrF等のフルオロジルコネート酸等の可溶性フルオロジルコネート等;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0083】
上記チタンの供給源としては特に限定されず、例えば、アルカリ金属フルオロチタネート、(NHTiF等のフルオロチタネート;HTiF等のフルオロチタネート酸等の可溶性フルオロチタネート等;フッ化チタン;酸化チタン等を挙げることができる。
【0084】
上記ハフニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、HHfF等のフルオロハフネート酸;フッ化ハフニウム等を挙げることができる。上記ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)の供給源としては、皮膜形成能が高いことからZrF2−、TiF2−、HfF2−からなる群より選択される少なくとも一種を有する化合物が好ましい。
【0085】
上記化成処理剤に含まれる、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)の含有量は、金属換算で下限20ppm、上限10000ppmの範囲であることが好ましい。上記下限未満であると得られる化成処理膜の性能が不充分であり、上記上限を超えると、それ以上の効果は望めず経済的に不利である。上記下限は50ppmがより好ましく、上記上限は2000ppmがより好ましい。
【0086】
フッ素(ii)
上記化成処理剤に含まれるフッ素(ii)は、被塗物のエッチング剤としての役割を果たすものである。上記フッ素の供給源としては特に限定されず、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物としては、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩が挙げられ、その具体例としてケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等を挙げることができる。
【0087】
密着性および耐食性付与剤
本発明において用いることができる化成処理剤は、さらに、密着性および耐食性付与剤を含有してもよい。密着性および耐食性付与剤として、亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオン;アルカリ土類金属イオン;13族元素の金属イオン;銅イオン;ケイ素含有化合物;ポリアミン水溶性樹脂;アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物;またはシランカップリング剤および/またはその加水分解物;などが挙げられる。密着性および耐食性付与剤を配合することにより、化成処理膜の安定性及び塗膜密着性を改善し、従来のジルコニウム化合物からなる表面処理剤による処理が不適であった鉄系基材に対しても良好な化成処理膜を形成することができる。
【0088】
密着性および耐食性付与剤が含まれる場合の量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であるのが好ましい。1ppm未満であると、充分な効果が得られず好ましくない。5000ppmを超えると、皮膜形成を阻害するおそれがある。上記下限は、3ppmが好ましく、5ppmがより好ましい。上記上限は、2000ppmが好ましく、1500ppmがより好ましい。
【0089】
化成反応促進剤
本発明にかかる化成処理剤は、必要に応じてさらに化成反応促進剤を含有してもよい。化成反応促進剤を含有することにより、得られる化成処理膜の膜厚をより均一にさせることができる。
【0090】
上記化成反応促進剤は、亜硝酸イオン、ニトロ基含有化合物、硫酸ヒドロキシルアミン、過硫酸イオン、亜硫酸イオン、次亜硫酸イオン、過酸化物、鉄(III)イオン、クエン酸鉄化合物、臭素酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、並びに、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種であるが、なかでも、エッチング反応を効率よく促進するため、酸化作用を有するもの又は有機酸が好ましい。これらの化成反応促進剤を化成処理剤に配合することにより、皮膜析出の偏りを調整し、被塗物のエッジ部及び平面部においてもムラのない良好な化成処理膜を得ることができる。
【0091】
化成反応促進剤が含まれる場合の量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であるのが好ましい。1ppm未満であると、充分な効果が得られず好ましくない。5000ppmを超えると、皮膜形成を阻害するおそれがある。上記下限は、3ppmが好ましく、5ppmがより好ましい。上記上限は、2000ppmが好ましく、1500ppmがより好ましい。
【0092】
化成処理剤の調製
化成処理剤は、上記ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(i)、フッ素(ii)、そして必要に応じて用いられる密着性および耐食性付与剤ならびに化成反応促進剤を、水性溶媒中に混合することによって、調製することができる。水性溶媒としては水道水、イオン交換水、純水などを特に制限なく用いることができる。水性溶媒は、必要に応じて少量のアルコール類などを含んでいてもよい。なお、本発明にかかる化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含有しないものであることが好ましい。実質的にリン酸イオンを含まないとは、リン酸イオンが化成処理剤中の成分として作用する程含まれていないことを意味する。本発明にかかる化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含まないことから、環境負荷の原因となるリンを実質的に使用することがなく、リン酸亜鉛処理剤を使用する場合に発生するリン酸鉄、リン酸亜鉛等のようなスラッジの発生を抑制することができる。
【0093】
本発明にかかる化成処理剤は、pHが下限1.5、上限6.5での範囲内であることが好ましい。1.5未満であると、エッチング過剰となり充分な皮膜形成ができなくなる。6.5を超えると、エッチングが不充分となり良好な皮膜が得られない。上記下限は、2.0がより好ましく、上記上限は、5.5がより好ましい。上記下限は、2.5が更に好ましく、上記上限は、5.0が更に好ましい。pHを調整するために、硝酸、硫酸等の酸性化合物、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用することができる。
【0094】
化成処理
上記化成処理剤を用いて被塗物の表面を化成処理する方法は、特に限定されるものではなく、通常の処理条件によって化成処理剤と被塗物表面とを接触させることによって行うことができる。上記化成処理における処理温度は、下限20℃、上限70℃の範囲内であることか好ましい。上記下限は30℃であることがより好ましく、上記上限は50℃であることがより好ましい。上記化成処理における化成時間は、下限5秒、上限1200秒の範囲内であることが好ましい。上記下限は30秒がより好ましく、上記上限は120秒がより好ましい。化成処理方法としては特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法等を挙げることができる。
【0095】
被塗物の表面は、化成処理を行う前に、予め脱脂処理、脱脂後水洗処理を行っておくのが好ましい。また、化成処理後には化成後水洗処理を行うのが好ましい。
【0096】
上記化成処理剤は、毒性の強い重金属類を含まないため、環境に対する負荷が少ないという利点を有している。上記化成処理剤はまた、リン酸イオンを実質的に含まないため、環境に対する負荷が少なく、スラッジ(汚泥)も発生しないという利点を有している。そしてこのような化成処理剤および本発明のカチオン電着塗料組成物を用いることによって、上記利点を有しつつ、さらに防錆性に優れた塗膜を形成することができるという利点がある。
【実施例】
【0097】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0098】
製造例1 カチオン性エポキシ樹脂の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、液状エポキシ940部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)61.4部およびメタノール24.4部を仕込んだ。反応混合物は撹拌下室温から40℃まで昇温したあと、ジブチル錫ラウレート0.01部およびトリレンジイソシアネート(以下TDIと略す)21.75部を投入した。40〜45℃で30分間反応を継続した。反応はIRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0099】
上記反応物にポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル82.0部、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート 125.0部を添加した。反応は55℃〜60℃で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。続いて昇温し100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン2.0部投入し、130℃で保持、分留管を用いメタノールを分留すると共に反応させたところ、エポキシ当量は284となった。
【0100】
その後、MIBKで不揮発分95%となるまで希釈し反応混合物を冷却し、ビスフェノールA268.1部と2-エチルヘキサン酸93.6部を投入した。反応は120℃〜125℃で行いエポキシ当量が1320となったところでMIBKで不揮発分85%となるまで希釈し反応混合物を冷却した。ジエチレントリアミンの1級アミンをMIBKブロックしたもの93.6部、N−メチルエタノールアミン65.2部を加え、120℃で1時間反応させた。その後、カチオン性基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂(樹脂固形分85%)を得た。
【0101】
製造例2 顔料分散樹脂の製造
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器にイソホロンジイソシアネート(以下IPDIと略す)2220部MIBK342.1部を仕込み、昇温し50℃でジブチル錫ラウレート2.2部を投入し60℃でメチルエチルケトンオキシム(以下MEKオキシムと略)878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温しIRでNCOピークが消失していることを確認後60℃を超えないよう冷却しながら50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入して4級化剤を得た。ついで異なる反応容器にTDI870部およびMIBK49.5部を仕込み、50℃以上にならないように2−エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後MIBK35.5部を投入し、30分保温した。その後NCO当量が330〜370になっていることを確認しハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0102】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、液状エポキシ940.0部メタノール38.5部で希釈した後、ここへジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、TDI87.1部投入さらに昇温した。100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン1.4部を加え130℃で2時間保温した。このとき分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、MIBKを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールA270.3部、2−エチルヘキサン酸39.2部を仕込み125℃で2時間加熱攪拌した後、前述のハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱攪拌した。ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却後、前述の四級化剤を加え、70〜80℃に保ち酸価2以下を確認して顔料分散樹脂を得た。(樹脂固形分30%)
【0103】
製造例3 ブロックイソシアネート硬化剤(1)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK 154部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、60℃に保温した8−キノリノールのMIBK溶液(重量比50/50)1452部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し5時間保温した。その後、エチレングリコールモノブチルエーテル591部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(1)を得た。
【0104】
製造例4 ブロックイソシアネート硬化剤(2)の製造
クルードMDI 1330部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、60℃に保温した8−キノリノールのMIBK溶液(重量比50/50)2323部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し7時間保温した。その後、エチレングリコールモノブチルエーテル236部を0.5時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(2)を得た。
【0105】
製造例5 ブロックイソシアネート硬化剤(3)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK 349部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、60℃に保温した8−キノリノールのMIBK溶液(重量比50/50)581部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。その後、エチレングリコールモノブチルエーテル945部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(3)を得た。
【0106】
製造例6 ブロックイソシアネート硬化剤(4)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK 181部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、1−ヒドロキシアントラキノンのMIBK溶液(重量比50/50)2242部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し5時間保温した。その後、エチレングリコールモノブチルエーテル591部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(4)を得た。
【0107】
製造例7 ブロックイソシアネート硬化剤(5)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK 110部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、3−メチル−5−ピラゾロンのMIBK溶液(重量比50/50)981部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し5時間保温した。その後、エチレングリコールモノブチルエーテル591部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(5)を得た。
【0108】
製造例8 ブロックイソシアネート硬化剤(6)の製造
コロネート2357(日本ポリウレタン製:商品名) 1990部、8−キノリノール 726部およびMIBK 365部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを50℃まで加熱し、1時間保温した後、100℃に昇温し5時間保温した。その後、メチルエチルケトンオキシム435部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(6)を得た。
【0109】
製造例9 化成処理剤の調製
ジルコンフッ化水素酸、硝酸亜鉛およびアミノ基含有シランカップリング剤であるKBM−603(N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン:有効濃度100%:信越化学工業株式会社製)を使用して化成処理剤を調製した。これらを、ジルコニウム濃度250ppm、アミノ基含有シランカップリング剤濃度100ppm、亜鉛濃度500ppmとなるように、イオン交換水に加えて混合し、さらにクエン酸鉄(III)アンモニウムを化成反応促進剤として、濃度200ppmとなるように添加し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH4に調整することによって、化成処理剤を得た。
【0110】
比較製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤(7)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK 853部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、エチレングリコールモノブチルエーテル835部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し1時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックイソシアネート硬化剤(7)を得た。
【0111】
比較製造例2 ブロックイソシアネート硬化剤(8)の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK 44部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、8−キノリノールのMIBK溶液(重量比50/50)2903部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し48時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失せず、その後、96時間まで反応させたが、イソシアネート基に基づく吸収が消失しなかった。また、ガスクロマトグラフィー測定で、8−キノリールの残存が確認された。不完全なブロックイソシアネート硬化剤(8)を得た。
【0112】
比較製造例3 防錆顔料分散ペースト(1)の製造
サイドグラインドミルに、製造例2で得た顔料分散樹脂を100部、LF−PM303W(キクチカラー社製)100部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、防錆顔料分散ペーストを得た。(固形分65%)
【0113】
実施例1 カチオン電着塗料組成物(1)の製造
製造例1で得られたカチオン基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂と製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)を固形分比で70/30で均一になるよう混合した。さらに2−エチルヘキシルグリコールを樹脂固形分に対し3%添加したものに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量が33になるよう氷酢酸で中和し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0114】
このエマルション1730部、イオン交換水1400部と10%酢酸セリウム水溶液20部およびジブチル錫オキサイド10部とが十分に分散するまで混合して、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(1)を得た。
【0115】
実施例2 カチオン電着塗料組成物(2)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、製造例4で得られたブロックイソシアネート硬化剤(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(2)を得た。
【0116】
実施例3 カチオン電着塗料組成物(3)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、製造例5で得られたブロックイソシアネート硬化剤(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(3)を得た。
【0117】
実施例4 カチオン電着塗料組成物(4)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、製造例6で得られたブロックイソシアネート硬化剤(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(4)を得た。
【0118】
実施例5 カチオン電着塗料組成物(5)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、製造例7で得られたブロックイソシアネート硬化剤(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(5)を得た。
【0119】
実施例6 カチオン電着塗料組成物(6)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、製造例8で得られたブロックイソシアネート硬化剤(6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(6)を得た。
【0120】
実施例7 カチオン電着塗料組成物(7)の製造
製造例1で得られたカチオン基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂と製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)を固形分比で70/30で均一になるよう混合した。さらに2−エチルヘキシルグリコールを樹脂固形分に対し3%添加したものに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量が33になるよう氷酢酸で中和し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0121】
このエマルション652部およびイオン交換水3318部と10%酢酸セリウム水溶液20部およびジブチル錫オキサイド3部とが十分に分散するまで混合して、塗料固形分6%のカチオン電着塗料組成物(7)を得た。
【0122】
比較例1 カチオン電着塗料組成物(8)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、比較製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(7)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(8)を得た。
【0123】
比較例2 カチオン電着塗料組成物(9)の製造
製造例3で得られたブロックイソシアネート硬化剤(1)の代わりに、比較製造例2で得られたブロックイソシアネート硬化剤(8)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(9)を得た。
【0124】
比較例3 カチオン電着塗料組成物(10)の製造
比較例1で得られたカチオン電着塗料組成物(8)と比較例2で得られたカチオン電着塗料組成物(9)を重量比50:50で混合、撹拌して、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(10)を得た。
【0125】
比較例4 カチオン電着塗料組成物(11)の製造
比較例1のカチオン電着塗料組成物の全固形分100部に対して、比較製造例3の防錆顔料分散ペースト(1)を固形分比で1部を含むこと以外は、実施例1と同様にして、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(11)を得た。
【0126】
比較例5 カチオン電着塗料組成物(12)の製造
製造例1で得られたカチオン基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂と比較製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(7)を固形分比で70/30で均一になるよう混合した。更に2−エチルヘキシルグリコールを樹脂固形分に対し3%添加したものに、8−キノリノールを樹脂固形分に対し6%添加し、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量が33になるよう氷酢酸で中和し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0127】
このエマルション1730部、イオン交換水1400部と10%酢酸セリウム水溶液20部及びジブチル錫オキサイド10部とが十分に分散するまで混合して、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物(12)を得た。
なおこのカチオン電着塗料組成物(12)は塗料分散安定性が非常に悪く、調製後一晩静置した場合であっても沈殿物の生成が確認された。生じた沈殿は、カチオン電着塗料組成物に含まれるイオン成分と8−キノリノールとの錯体と考えられる。
【0128】
上記実施例1〜7および比較例1〜5より得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、以下の評価試験を行った。
【0129】
化成処理未処理鋼板に対する塩水噴霧試験(未処理SST)
冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、化成処理を施すことなく、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物を用いて、乾燥塗膜の膜厚が20μmになるように電着塗装し、これを160℃で20分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜を得た。得られた塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を480時間行った。その後、クロスカット部からの錆およびフクレの発生について下記基準により評価を行った。評価結果を表1〜3に示す。
○:発生した錆またはフクレの最大幅が、クロスカット部より2mm未満
△:発生した錆またはフクレの最大幅が、クロスカット部より2mm以上4mm未満
×:発生した錆またはフクレの最大幅が、クロスカット部より4mm以上
上記評価中、○を合格とする。
【0130】
塩温水浸漬試験
冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、酸化ジルコン処理剤(日本ペイント社製、サーフダインEC3200)を用いて化成処理を行った。化成処理を行った鋼板に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物を用いて、乾燥塗膜の膜厚が20μmになるように電着塗装し、これを160℃で20分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜を得た。得られた塗膜に、基材に達するようにナイフで平行に2本のカット傷を入れ、55℃の5%塩化ナトリウム水溶液に240時間浸漬した。その後、カット部周辺にテープを貼り、このテープを剥がした際に生じた塗膜剥離幅を計測した。評価結果を表1〜3に示す。
○:テープ剥離の最大幅がカット部両側で2mm未満
△:テープ剥離の最大幅がカット部両側で2mm以上4mm未満
×:テープ剥離の最大幅がカット部両側で4mm以上
上記評価中、○を合格とする。
【0131】
複合サイクル腐食試験(JASO−CCT)
冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、酸化ジルコン処理剤(日本ペイント社製、商品名:サーフダインEC3200)を用いて化成処理を行った。化成処理を行った鋼板に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物を用いて、乾燥塗膜の膜厚が20μmになるように電着塗装し、これを160℃で20分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜を得た。得られた塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASO M609−91複合サイクル腐食試験(自動車用材料腐食試験方法)を100サイクル行った。その後、クロスカット部からの錆およびフクレの発生について下記基準により評価を行った。評価結果を表1〜3に示す。
○:発生した錆またはフクレの最大幅が、クロスカット部両側で3mm未満
△:発生した錆またはフクレの最大幅が、クロスカット部両側で3mm以上6mm未満
×:発生した錆またはフクレの最大幅が、クロスカット部両側で6mm以上
上記評価中、○を合格とする。
【0132】
沈降・再分散性試験
カチオン電着塗料組成物を、直径100mmのステンレス容器に13cmの高さまで入れ、この容器を静置して沈降を生成させた。静置7日間後に、サイズ30mm×40mmの平板撹拌羽を60rpmで撹拌させ、沈降が液中に均一に再分散するまでの時間を計測し、沈降再分散性を評価した。
4:5分間以内
3:5分間を超え、10分間以内
2:10分間を超え、30分間以内
1:30分間を超える
上記評価中、3以上を合格とする。
【0133】
生産効率
実施例または比較例のカチオン電着塗料組成物の調製において、ブロックイソシアネート硬化剤の合成時間により生産性(生産効率)を評価した。
3:8時間以内
2:8時間を超え、24時間以内
1:24時間を超える
上記評価中、2以上を合格とする。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

*1:ブロック剤でブロックされた比率は、使用した原料の量に基づく理論値である。
*2:防錆性評価用試料の作成に用いた電着塗料組成物は、カチオン電着塗料組成物(12)中に生成していた沈殿を濾過し、得られた残渣を用いた。
【0137】
表1〜3に示される通り、実施例により得られたカチオン電着塗料組成物を用いる場合は、ジルコン処理剤を用いて化成処理された被塗物に電着塗装した場合であっても、防錆性に優れた塗膜が得られた。さらに、化成処理を施していない未処理の被塗物に電着塗装した場合であっても、防錆性に優れた塗膜が得られた。そしてこれらのカチオン電着塗料組成物は沈降再分散性および生産性何れも優れていることが確認された。実施例のカチオン電着塗料組成物はいずれも、重金属由来の防錆顔料を含んでいない。本発明によって、環境に対する負荷が大きい強い毒性の重金属防錆顔料、そしてスラッジ等が発生するリン酸亜鉛化成処理剤を用いることなく、防錆性に優れる塗膜が得られることが確認された。
【0138】
一方、比較例1の、ブロック剤として腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および配位性化合物を含まない硬化剤を用いた例では、防錆性に劣ることが確認された。また比較例3の、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物または配位性化合物でブロックされた硬化剤と、それ以外のブロック剤でブロックされた硬化剤とを混合して用いた例では、沈降再分散性および生産性が劣ることが確認された。比較例4は、防錆顔料(LF−PM303W、重金属系防錆顔料)を含むカチオン電着塗料組成物を用いた例である。評価結果から明らかであるように、本願発明のカチオン電着塗料組成物は、大きな比重を有する防錆顔料を含まないにもかかわらず、重金属系防錆顔料を含むカチオ電着塗料組成物と同等以上の防錆性を有することが確認された。またカチオン電着塗料組成物に、8−キノリノールをそのまま加えた比較例5のカチオン電着塗料組成物(12)は、分散安定性が非常に悪く、短時間の静置によってすぐに沈殿が生成してしまうものであり、さらにその沈殿を再分散させることは非常に困難であった。生成した沈殿物は、電着塗料組成物中に含まれるイオン化された成分と8−キノリノールとの錯体であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、防錆性能に非常に優れたものであり、さらに塗料の安定性も良好である。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて形成される塗膜はこのように防錆性に非常に優れているため、被塗物に予め化成処理を施すことなく被塗物に直接電着塗装を行う場合であっても、防錆性に非常に優れた塗膜を得ることができる。このため、本発明のカチオン電着塗料組成物を用いることによって、塗装工程の簡略化を図ることができる。また本発明のカチオン電着塗料組成物を用いる場合は、環境への負荷が少ない化成処理剤を用いる場合であっても優れた塗膜物性を有する塗膜を得ることができる。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いることによって、強い毒性を有したり大きな比重を有する重金属系の防錆顔料およびスラッジなどが生じるリン酸亜鉛化成処理剤を用いることなく、防錆性に非常に優れた塗膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性エポキシ樹脂(A)、および
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物によってブロックされた、ブロックイソシアネート硬化剤(B)、
を含むカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記ブロックイソシアネート硬化剤(B)をブロックする腐食抑制機能を有する有機キレート化合物は、ヒドロキシアゾ化合物、ヒドロキシキノリン化合物、β−ジケトン化合物、アントラキノン化合物、ナフタレン化合物、アミノ酸およびその誘導体、およびトロポロン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記ブロックイソシアネート硬化剤(B)をブロックする腐食抑制機能を有する配位性化合物は、環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物、アミド化合物またはチオセミカルバゾン化合物である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、
腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物(a)、および、
該(a)以外の他のブロック剤(b)、
によってブロックされたブロックイソシアネート硬化剤である、請求項1〜3いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記他のブロック剤(b)は、炭素数4〜15のアルコール類、炭素数2〜15のグリコール類および炭素数3〜15のグリコールモノアルキルエーテル類から選択される少なくとも1種である、請求項4記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
防錆顔料を含まないことを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
カチオン電着塗料組成物の塗料固形分濃度が0.5〜9.0重量%である、請求項1〜6いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
前記ブロックイソシアネート硬化剤(B)をブロックする、腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量は、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して0.1〜10重量%である、請求項1〜7いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項9】
化成処理されていない被塗物を、請求項1〜8いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗膜形成工程、
を包含する、電着塗膜形成方法。
【請求項10】
化成処理剤を用いて化成処理された被塗物を、請求項1〜8いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物中に浸漬して電着塗膜を形成する、電着塗膜形成工程、
を包含する、電着塗膜形成方法であって、
該化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選択される少なくとも一種(A)およびフッ素(B)を含有する化成処理剤である、
電着塗膜形成方法。
【請求項11】
請求項9または10記載の電着塗膜形成方法により得られる塗膜。

【公開番号】特開2009−167319(P2009−167319A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8143(P2008−8143)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】