説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】本発明は、着色顔料および防錆顔料の含有量をともに低減し、望ましくは、防錆顔料を配合しなくとも、優れた耐食性を提供することのできるカチオン電着塗料組成物の提供を目的とする。
【解決手段】アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料を含むカチオン電着塗料組成物であって、
前記顔料の含有量が、塗料固形分に対して、10質量%以下であり、
前記アミン変性エポキシ樹脂は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応によって得られる、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が部分的にブロック化された部分ブロック化ポリイソシアネートが導入された樹脂であり、
エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が前記部分ブロック化ポリイソシアネートで変性されている、
カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料を含むカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に鋼板などの被塗物を陰極として浸漬し、被塗物、すなわち陰極と陽極との間に電圧を印加することによって行われる塗装方法である。この塗装方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。また、カチオン電着塗装は、一般に防錆顔料を含み、被塗物に高い耐食性(防食性)を与えることができ、被塗物の保護効果にも優れている。
【0003】
例えば、特許文献1は、基体樹脂として特定のポリウレタン樹脂を含むカチオン電着塗料組成物を開示し、特許文献1に開示のカチオン電着塗料組成物によって、良好な耐食性が得られる。特許文献1の実施例にて調製されたカチオン電着塗料組成物には、着色顔料および防錆顔料などの顔料が高い含有量(塗料固形分に対して約20質量%)で含まれている。
【特許文献1】特開平5−239385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されるようなカチオン電着塗料組成物は、塗装の際に撹拌せずに放置すると、顔料などの固形分が沈降し、電着槽中に沈降物が生じるため、カチオン電着塗料組成物の撹拌が必須となり、エネルギーおよび費用の面から、工業生産に不利益を与える。そこで、近年、当該分野では、省エネルギーおよびコストダウンの観点から、低固形分のカチオン電着塗料組成物の検討が行われている。
【0005】
ここで電着塗膜の耐食性に関して、耐食性は、一般に、防錆性、密着性および遮断性の3つの特性によって評価することができる。これら3つの特性は、いずれも一定のレベルを満たす必要があり、いずれか1つが非常に高いレベルにあると高い耐食性が得られることが多く、逆に、いずれか1つでも低いレベルにあると所望の耐食性を得ることができない。
【0006】
従来のカチオン電着塗料組成物のように防錆顔料を配合すれば防錆性は向上する一方で顔料が沈降し易くなるという問題がある。また、顔料の沈降防止を目的として、防錆顔料を配合しないと防錆性が著しく低下し、所望の耐食性が得られないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、着色顔料および防錆顔料の含有量をともに低減し、望ましくは、防錆顔料を配合しなくとも、優れた耐食性を提供することのできるカチオン電着塗料組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、カチオン電着塗料組成物に含まれるカチオン性基体樹脂として、硬化反応可能な官能基(架橋性基)が導入されたアミン変性エポキシ樹脂を使用することによって、硬化電着塗膜において架橋構造、すなわち網目構造を構築することができることを見出した。その結果、硬化電着塗膜の遮断性が飛躍的に向上し、防錆性が顕著に向上することを見出した。このように遮断性および防錆性が向上することによって、耐食性が顕著に向上し、防錆顔料の使用を低減または排除することができる。その結果、低顔料濃度(塗料固形分に対して10質量%以下)を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は以下を提供する。
【0009】
アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料を含むカチオン電着塗料組成物であって、
前記顔料の含有量が、塗料固形分に対して、10質量%以下であり、
前記アミン変性エポキシ樹脂は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応によって得られる、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が部分的にブロック化された部分ブロック化ポリイソシアネートが導入された樹脂であり、
エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が前記部分ブロック化ポリイソシアネートで変性されている、
カチオン電着塗料組成物。
【0010】
上記顔料は酸化チタンであることが好ましい。
【0011】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応によって得られる、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が部分的にブロック化された部分ブロック化ポリイソシアネートが導入されたアミン変性エポキシ樹脂をカチオン電着塗料組成物に配合し、電着塗装後に得られる硬化電着塗膜の遮断性を向上させる方法であって、エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が前記部分ブロック化ポリイソシアネートで変性されている、方法。
【0012】
上記のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装を行うことによる、硬化電着塗膜の遮断性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性基体樹脂として、アミン変性エポキシ樹脂を含む。このアミン変性エポキシ樹脂は、部分ブロック化ポリイソシアネートによって導入された硬化反応可能な官能基(架橋性基)を有することを特徴とする。この架橋性基によって、得られる硬化電着塗膜において架橋構造、すなわち、網目構造が構築され、電硬化着塗膜の遮断性および防錆性が飛躍的に顕著に向上し、優れた耐食性が得られる。
また、耐食性が向上することによって、防錆顔料の使用を低減または排除することができ、低顔料濃度(塗料固形分に対して10質量%以下)を達成することができる。従って、本発明のカチオン電着塗料組成物によると、顔料の沈降を抑制することができ、塗装後、優れた塗膜外観を得ることができる。さらに、顔料沈降の抑制によって、電着槽における常時撹拌が不要となり、省エネルギーおよびコストダウンを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
カチオン電着塗料組成物
本発明は、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料を含むカチオン電着塗料組成物に関する。本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性基体樹脂として、アミン変性エポキシ樹脂を含み、本発明で使用するアミン変性エポキシ樹脂はその中に硬化反応可能な官能基(架橋性基)が導入されていることを特徴とする。架橋性基は、アミン変性エポキシ樹脂に含まれる水酸基を部分ブロック化ポリイソシアネートでその一部を変性することによって導入することができる。以下、本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0015】
アミン変性エポキシ樹脂
一般に、カチオン電着塗料組成物は、カチオン性基体樹脂として、カチオン性エポキシ樹脂を含むことが多く、好ましくはアミンで変性されたエポキシ樹脂を含む。カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、カチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0016】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはYD−7011R(東都化成(株)社製、エポキシ当量460〜490)、エピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0017】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0018】
【化1】

【0019】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。
【0020】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0021】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例および製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0022】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオールまたはジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0023】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0024】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィドおよび酸混合物がある。1級、2級または/および3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには、1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いてアミン化することが好ましい。
【0025】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用してもよい。
【0026】
上述の通り、当該分野では、様々なカチオン性エポキシ樹脂が知られているが、本発明では、上述のアミン化の前に部分ブロック化ポリイソシアネートでエポキシ樹脂に含まれる水酸基を変性することによって、硬化反応可能な官能基であるブロック化ポリイソシアネート基(架橋性基)が導入されたアミン変性エポキシ樹脂を使用することを特徴とする。本発明において、部分ブロック化ポリイソシアネートによる変性は、当業者に知られた一般的な方法によって行うことができる。
【0027】
部分ブロック化ポリイソシアネートは、ポリイソシアネートとブロック剤との反応によって調製することができ、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基がブロック剤によって部分的にブロック化されていることを特徴とする。
【0028】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、およびナフタレンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートなどのような芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネートなどのような炭素数3〜12の脂肪族ポリイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、および1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)などのような炭素数5〜18の脂環式ポリイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、およびテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などのような芳香環を有する脂肪族ポリイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物);などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基を部分的にブロック化することのできるブロック剤は、ポリイソシアネートのイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。ブロック剤として、通常使用されるアルコール類、セロソルブ類(例えば、2−エチルヘキシルセロソルブなど)、フェニール類、ε−カプロラクタム、オキシム類、活性メチレン化合物類などを用いることができる。ポリイソシアネートのイソシアネート基の部分ブロック化は、当業者に知られた一般的な方法によって行うことができる。
【0030】
上記ブロック剤によるポリイソシアネートのブロック化は、ブロック後にポリイソシアネート1分子中に残るイソシアネート基が平均で1個未満となるように行うことが望ましい。1個以上残る場合、部分ブロック化ポリイソシアネートをエポキシ樹脂に導入する際、ゲル化する恐れがある。
【0031】
本発明で用いるアミン変性エポキシ樹脂におけるブロック化ポリイソシアネート基の割合、すなわち部分ブロック化ポリイソシアネートの導入率は、エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が望ましい。導入率が5%未満の場合、所望する効果が得られず、30%を超えると焼付け前の電着塗膜の粘度が上昇し、焼付け時に十分フローせず外観を損なう恐れがある。本発明において、エポキシ樹脂に含まれる水酸基とは、エポキシ樹脂に含まれ得る全ての水酸基を意味し、主に、ビスフェノール型エポキシ樹脂が有するエポキシ基が変性時または鎖延長時に開環することによって生じる2級水酸基などが挙げられる。
【0032】
このように、エポキシ樹脂に含まれる水酸基の一部(望ましくは5〜30%)と部分ブロック化ポリイソシアネートとを反応させることによって、アミン変性エポキシ樹脂は、側鎖として、部分ブロック化ポリイソシアネート由来の硬化反応可能な官能基、すなわち、ブロック化ポリイソシアネート基(架橋性基)を有することとなる。架橋性基は、電着塗装後の焼き付け硬化において、ブロック基が脱離し、反応性の高いイソシアネート基が再生する。この再生したイソシアネート基が、電着塗料中に存在するアミン変性エポキシ樹脂由来の水酸基やアミノ基および/またはブロックイソシアネート硬化剤のイソシアネート基と反応し、硬化電着塗膜内において網目構造を構築することができる。これによって、電着塗膜に要求される耐食性に関与する重要な因子である防錆性、密着性および遮断性のうち、遮断性を飛躍的に向上させることができる。遮断性が向上することによって、硬化電着塗膜の防錆性が向上し、その結果、耐食性が顕著に向上することとなる。このような効果は、本発明によって初めて明らかとなった効果である。
【0033】
本発明において、硬化電着塗膜の遮断性は、硬化電着塗膜の湿潤塗膜抵抗測定によって評価することができる。
【0034】
図1は、湿潤塗膜抵抗の測定装置を模式的に示す図である。湿潤塗膜抵抗測定法(高抵抗計法)によって、湿潤塗膜抵抗値(単位面積当たりの電着塗膜の湿潤時の電気抵抗値)を測定し、硬化電着塗膜が有する腐食電流の遮断機能、すなわち、硬化電着塗膜の遮断性を評価することができる。なお、湿潤塗膜抵抗値が高いほど、硬化電着塗膜は、水などの極性分子を遮断することができ、遮断性に優れる。
【0035】
図1において、硬化電着塗膜(1)を有する被塗物(2)を測定セル(3)に配置し、測定セル(3)内に塩水またはイオン交換水(IEW)(4)を充填する。測定セル(3)は電極(5)(好ましくは白金電極)を備え、電極(5)および被塗物(2)は高抵抗計(8)と電気的に接続されている。また、測定セル(3)は、温度センサ(6)を備え、温度センサ(6)は温度計(7)と電気的に接続されている。温度計(7)および高抵抗計(8)は、電子計算機(9)と電気的に接続されている。
【0036】
温度センサ(6)および温度計(7)から得られた温度情報に基づき、電子計算機(9)を介して、恒温槽またはヒーター(図1において簡略化のため省略)等の加熱手段を用いて測定セル(3)内の温度を30℃〜70℃の間で一定に維持する。電源(図1において簡略化のため省略)を用いて被塗物(2)と電極(5)との間に電圧を印加し、高抵抗計(8)からの電圧および電流に関する情報に基づいて、電子計算機(9)を用いて電着塗膜の湿潤塗膜抵抗値を決定する。
【0037】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のカチオン電着塗料組成物において使用することのできるブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロック化することによって得られるブロックイソシアネート硬化剤である。本発明で使用することのできるブロックイソシアネートの調製の際に使用することのできるポリイソシアネートとしては、例えば、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物などが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族系、脂肪族系、脂環式系、芳香族−脂肪族系などのポリイソシアネート化合物が挙げられる。なかでも、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。
【0038】
ポリイソシアネートとしては、具体例には、
芳香族ジイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなど);
炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなど);
炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート(例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)など);
芳香属−脂肪族ジイソシアネート(例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)など);
上記ジイソシアネートの変性物(例えば、ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物など);などが挙げられる。
【0039】
これらのポリイソシアネートは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0040】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤として使用してもよい。
【0041】
ブロック剤は、ポリイソシアネートのイソシアネート基に付加してイソシアネートをブロックする。このイソシアネートのブロックは、常温では安定であるが、解離温度以上に加熱すると脱ブロックし、遊離のイソシアネート基を再生する。
【0042】
ブロック剤としては、例えば、1−クロロ−2−プロパノール等の脂肪族または複素環式アルコール類、フェノール等のフェノール類、メチルエチルケトンオキシム等のオキシム類、アセチルアセトン等の活性メチレン化合物、ε−カプロラクタム等の芳香族アルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)等のエーテルなどを挙げることができる。
【0043】
また、ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤として、有機キレート化合物および/または配位化合物を使用もしくは上記ブロック剤と併用してもよい。これらの有機キレート化合物そして配位化合物は、ポリイソシアネートのブロック剤として機能する。その一方で、塗膜焼き付け硬化時の加熱により脱ブロックし再生した有機キレート化合物および配位化合物は、腐食抑制機能を発揮することとなる。そしてこの腐食抑制機能によって、電着塗膜の防錆性が向上することとなる。有機キレート化合物そして配位性化合物が、ブロックイソシアネート硬化剤から再生されることによって防錆作用が得られる理由としては、再生した有機キレート化合物あるいは配位性化合物が塗膜から微量溶け出し、被塗物の傷部または塗膜下の被塗物(金属)表面に配位して、薄いバリヤー層を形成すること(吸着型インヒビター作用)が考えられる。さらに、腐食に伴って被塗物から生じる金属イオンに対して、再生した腐食抑制機能を有する有機キレート化合物そして配位性化合物が配位してその不溶性配位化合物が金属表面に沈着したり、塗膜の電気抵抗の低下を抑制することによって、効果的に防錆効果が発揮されるためと考えられる。ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤として、有機キレート化合物および/または配位化合物を用いることによって、カチオン電着塗料組成物中に防錆顔料を配合しなくとも、より優れた耐食性が発揮されることとなるという利点もある。
【0044】
本明細書中において「有機キレート化合物」とは、腐食抑制機能を有し、2またはそれ以上の配位原子を有し、これらの配位原子がともに1つの金属イオンに配位する有機化合物を意味する。また「配位性化合物」とは、1つの配位原子を有し、この配位原子が金属イオンに配位する化合物を意味する。
【0045】
有機キレート化合物として、ヒドロキシアゾ化合物、ヒドロキシキノリン化合物、β−ジケトン化合物、アントラキノン化合物、ナフタレン化合物、アミノ酸およびその誘導体、そしてトロポロン化合物などが挙げられる。
【0046】
ヒドロキシアゾ化合物として、具体的には、2−ヒドロキシアゾベンゼン、2,2’−ジヒドロキシアゾベンゼン、2−ヒドロキシ−5−メチルアゾベンゼンなどが挙げられる。
【0047】
ヒドロキシキノリン化合物として、具体的には、8−キノリノール、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジクロロ−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジヨード−8−ヒドロキシキノリン、5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン、2−メチル−8−ヒドロキシキノリン、5−アミノ−8−ヒドロキシキノリンなどが挙げられる。
【0048】
β−ジケトン化合物として、具体的には、アセト酢酸2−メトキシエチルエステル、ベンジルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、アセト酢酸イソブチルエステル、ターシャリーブチルアセトアセテート、N−メチルアセトアセタミド、N−ベンジルアセトアセタミド、N,N−ジメチルアセトアセタミド、1−(2−テノイル)−3,3,3−トリフルオロアセトンなどが挙げられる。
【0049】
アントラキノン化合物として、具体的には、1,5−ジアミノ−4,8−ジヒドロキシアントラキノン、1−アセトアミド−4−ヒドロキシアントラキノン、1−アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシ−3−アミノアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシ−3−アミノアントラキノン、1,2−ジヒドロキシアントラキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン、1,5−ジヒドロキシアントラキノン、1,8−ジヒドロキシアントラキノン、1,2,4−トリヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0050】
ナフタレン化合物として、具体的には、1’−ヒドロキシ−2’−アセトナフタレン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2’−ヒドロキシ−1’−アセトナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
【0051】
アミノ酸およびその誘導体として、具体的には、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファンなどが挙げられる。
【0052】
トロポロン化合物として、具体的には、2−ヒドロキシシクロヘプタ−2,4,6−トリエン−1−オン、2−ヒドロキシシクロヘプタ−2,4,6−トリエン−1−オン、5−フェニルアゾトロポロンなどが挙げられる。
【0053】
上記有機キレート化合物を用いることによって、カチオン電着塗料組成物の貯蔵安定性をより向上させることができる。また上記有機キレート化合物は、アニオン電荷を有しない化合物であることが好ましく、具体的にはスルホニウム基またはカルボン酸基などのアニオン性基を有しない化合物であることが好ましい。これらのアニオン性基を有する化合物を用いる場合は、得られるカチオン電着塗料組成物の凝集安定性が劣ることとなるおそれがある。
【0054】
上記有機キレート化合物のうち、ヒドロキシアゾ化合物、ヒドロキシキノリン化合物、β−ジケトン化合物、アントラキノン化合物およびナフタレン化合物がより好ましく用いられる。特に、アセト酢酸2−メトキシエチルエステル、1’−ヒドロキシ−2’−アセトナフタレン、2−メチル−8−ヒドロキシキノリン、8−キノリノール、1−ヒドロキシアントラセン、2−ヒドロキシアゾベンゼンがさらに好ましく用いられる。これらの腐食抑制機能を有する有機キレート化合物を用いることによって、より優れた防錆効果を得ることができる。
【0055】
本発明で用いることができる配位性化合物は、腐食抑制機能を有し、不対電子を有する原子を含む化合物が好ましい。
【0056】
上記配位性化合物を用いることによって、カチオン電着塗料組成物の貯蔵安定性をより向上させることができる。また、上記配位性化合物は、アニオン電荷を有しない化合物であることが好ましく、具体的にはスルホニウム基またはカルボン酸基などのアニオン性基を有しない化合物であることが好ましい。これらのアニオン性基を有する化合物を用いる場合は、得られるカチオン電着塗料組成物の凝集安定性が劣ることとなるおそれがある。
【0057】
本発明で好ましく用いることができる配位性化合物として、例えば、環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物が挙げられる。環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物として、例えば、ピラゾール化合物、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物、チアゾール化合物、ピロール化合物、カルバゾールなどが挙げられる。
【0058】
ピラゾール化合物として、具体的には、2,3−ジヒドロ−1H−ピラゾール−3−オン(3−ピラゾロン)、4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−4−オン(4−ピラゾロン)、4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−5−オン(5−ピラゾロン)、4,5−ジヒドロ−3−メチル−1H−ピラゾール−5−オン(3−メチル−5−ピラゾロン)などが挙げられる。
【0059】
トリアゾール化合物として、具体的には、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、メチル−1H−ベンゾトリアゾール(混合物)、1,2,4−トリアゾールなどが挙げられる。
【0060】
イミダゾール化合物として、具体的には、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0061】
チアゾール化合物として、具体的には、2−メルカプトベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0062】
ピロール化合物として、具体的には、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0063】
さらに、配位性化合物として、環内に窒素原子または硫黄原子を1またはそれ以上有する5員環を含む化合物以外にも、例えば、ベンズアミドなどのアミド化合物、アセトンチオセミカルバゾンなどのチオセミカルバゾン化合物などを用いることができる。
【0064】
上記配位性化合物のうち、カルバゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、ベンズアミド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−メルカプトベンゾチアゾール、1,2,4−トリアゾール、アセトンチオセミカルバゾン、ベンゾイミダゾール、3−メチル−5−ピラゾロンがより好ましく用いられる。このような配位性化合物を用いることによって、より優れた防錆効果を得ることができる。
【0065】
なお上記腐食抑制機能を有する有機キレート化合物および/または配位性化合物は、1種のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。本発明においては、2種以上の有機キレート化合物および/または配位性化合物を併用することによって、ブロックイソシアネート硬化剤の結晶析出性を低くすることができ、ブロックイソシアネート硬化剤がカチオン電着塗料組成物中において結晶化して析出してしまうことを防止できる。
【0066】
なお、上記有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量は、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して0.1〜10重量%であるのが好ましい。有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量が0.1重量%未満である場合は、十分な防錆効果が得られないおそれがある。また有機キレート化合物および/または配位性化合物の含有量が10重量%を超える場合は、カチオン電着塗料組成物中において、ブロックイソシアネート硬化剤の含有量が多くなってしまい、防錆性が低下するおそれがある。
【0067】
顔料
本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる顔料は、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト(酸化チタン)、カーボンブラック、ベンガラなどの着色顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、安息香酸ビスマス、クエン酸ビスマス、ケイ酸ビスマスなどの防錆顔料等が挙げられる。また、粘性制御を目的として、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレーなどの体質顔料を添加してもよい。
【0068】
本発明において用いる顔料としては酸化チタンが特に好ましい。酸化チタンを使用した場合、優れた下地色隠蔽性が得られ、電着塗膜の膜厚を薄くすることができる。また、電着塗膜を薄膜化することによって、省エネルギーおよびコストダウンにも貢献することができる。さらに、酸化チタンを使用した場合、良好な下地色隠蔽性が得られるので、上塗りの塗色が淡彩色であっても悪影響が出にくいなどの利点が得られる。また、これらの利点から、酸化チタンを使用した場合、本発明は、より簡便な複層塗膜形成方法(好ましくは3コート2ベーク(3C2B)法、より好ましくは3コート1ベーク(3C1B))法において有益である。
【0069】
顔料の含有量(濃度)は、カチオン電着塗料組成物の塗料固形分に対して、10質量%以下、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。10質量%を超えると、顔料の沈降、電着塗膜の水平外観の低下などの問題のおそれがある。
【0070】
本発明では、カチオン電着塗料組成物において、上述の架橋性基を有するアミン変性エポキシ樹脂をカチオン性基体樹脂として使用するので、硬化電着塗膜の遮断性が飛躍的に向上し、その結果、硬化電着塗膜の耐食性が有意に向上する。そのため、本発明においては、顔料として上記防錆顔料を全く配合しない場合であっても、優れた耐食性を得ることができる。このように本発明においては耐食性低下を伴うことなく防錆顔料の量を減らすことができる。防錆顔料の量を減らすことができるため、着色顔料の量を必要以上に減らす必要がなくなる。これにより、耐食性を維持しつつ顔料濃度を低減することができさらに下地色隠蔽性をも維持することができるという、優れた利点を有する。
【0071】
顔料をカチオン電着塗料組成物の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。なぜなら、通常は、顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0072】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散用樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散用樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0073】
一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散用樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0074】
その他の成分
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記成分の他に、必要に応じて、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の含有量(濃度)は、カチオン電着塗料組成物中のバインダー樹脂100固形分重量部に対して0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0075】
その他、当該分野で用いられる添加剤、例えば、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを本発明のカチオン電着塗料組成物に必要に応じて適宜添加してもよい。
【0076】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上述のアミン変性エポキシ樹脂、すなわち部分ブロック化ポリイソシアネートによって導入された架橋性基を含むアミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料(好ましくは顔料分散ペースト)、および必要に応じて、その他の成分を水性媒体中に分散させることによって調製することができる。
【0077】
通常、水性媒体には、アミン変性エポキシ樹脂を中和して分散性を向上させるために、中和酸を含有させる。中和酸としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、硝酸、リン酸など)および有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシンなど)が挙げられる。
【0078】
本発明のカチオン電着塗料組成物において使用することのできる水性媒体としては、例えば、水、水と有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。水としては、例えば、純水、蒸留水、工業用水、イオン交換水などが挙げられ、イオン交換水が好ましい。水と有機溶媒との混合溶媒において使用することのできる有機溶媒としては、例えば、キシレン等の炭化水素類、メチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類、ならびにそれらの混合有機溶媒などが挙げられる。
【0079】
ブロックイソシアネート硬化剤の使用量は、硬化時にアミン変性エポキシ樹脂中の活性水素含有官能基(例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、水酸基等)と反応して良好な硬化電着塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般に、アミン変性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)が、通常90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0080】
顔料の使用量は、上述の通り、カチオン電着塗料組成物の塗料固形分に対して、10質量%以下、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。本発明では、上述のアミン変性エポキシ樹脂として、架橋性基を有するアミン変性エポキシ樹脂を使用し、その架橋性基によって、硬化電着塗膜内に架橋構造が構築され、優れた防錆性および遮断性ならびに耐食性を与えることができる。従って、本発明によると、防錆顔料の使用を低減または排除することが可能となり、低顔料濃度(塗料固形分に対して10質量%以下)を達成することができる。その結果、顔料の沈降を防止することができ、塗装後、優れた塗膜外観を与えることができる。また、顔料沈降の防止によって、電着槽における撹拌が不要となり、省エネルギーおよびコストダウンを達成することができる。
【0081】
カチオン電着組成物の塗装方法
カチオン電着塗装方法としては、特に限定はなく、当該分野で公知の方法を使用することができる。例えば、カチオン電着塗装方法は、通常、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する工程、および、被塗物(陰極)と陽極との間に電圧を印加(すなわち、陰極電着塗装)して、電着塗膜を析出させる工程を含む。被塗物としては、例えば、導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、金属(例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金など)、鉄板、鋼板、アルミニウム板およびこれらに表面処理(例えば、リン酸塩、クロム酸塩等を用いた化成処理)を施したもの、ならびに、これらの成型物などが挙げられる。
【0082】
カチオン電着塗装方法として、上記カチオン電着塗料組成物の浴温を10〜45℃に維持しながら、印加電圧を50〜450V、好ましくは100〜400Vに設定する。
通電時間(処理時間)は、30〜300秒、好ましくは30〜180秒である。
電着塗装後、水洗またはそのまま、120〜260℃、好ましくは140〜220℃にて硬化反応を行うことによって、高い架橋度の電着硬化塗膜を得ることができる。電着塗膜の膜厚は、一般に5〜25μmの範囲で形成することができる。
【0083】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて形成した電着塗膜の遮断性は湿潤塗膜抵抗測定によって評価することができる。湿潤塗膜抵抗値は、その値が高い程、電着塗膜の遮断性が良好であることを示す。本発明の上記方法に従って、厚さ15μmの電着塗膜を形成した場合、湿潤塗膜抵抗値は、1×1010Ω・cm以上が好ましい。湿潤塗膜抵抗値が、1×1010Ω・cm未満であると、本発明のように防錆顔料を配合しない場合において、耐食性能が悪いなどの問題のおそれがある。
【0084】
複層塗膜形成方法
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上述の通り、優れた耐食性を提供し、さらに、低顔料濃度を達成することができるので、省エネルギーおよびコストダウンを達成することができ、良好な水平外観を得ることができる。さらに、本発明を3コート1ベーク(3C1B)法などの複層塗膜形成方法と組み合わせることによって、さらなる省エネルギーおよびコストダウンを達成することが可能となり、良好な水平外観を得ることができる。
【0085】
3コート2ベーク(3C2B)法
3コート2ベーク(3C2B)法は、基本的に、被塗物の上に形成した上述の電着塗膜の上に、中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、焼付けを行う。次に、前記中塗り塗膜上にベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、さらに、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成した後、ベース塗膜とクリヤー塗膜を同時に焼付け硬化させて、複層塗膜を形成する方法である。3コート2ベーク(3C2B)は自動車塗装の当該分野ではよく当業者に知られている。
【0086】
3コート1ベーク(3C1B)法
さらに簡便な塗装方法として、当該分野では、3コート1ベーク(3C1B)法が知られており、3コート1ベーク(3C1B)法は、被塗物の上に形成した上述の電着塗膜の上に、中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成し、次に、ウェットオンウェットで前記中塗り塗膜上にベース塗料を塗装してベース塗膜を形成し、さらに、ウェットオンウェットで前記ベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成した後、前記中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼付け硬化させて、複層塗膜を形成する方法である。3コート1ベーク(3C1B)法では中塗り塗料、ベース塗料およびクリヤー塗料を全てウェットオンウェットで塗り重ねることができ、焼き付け硬化工程もわずか1回で終了するので、自動車塗装の当該分野では、最も簡便な塗装方法として当業者に知られている。
【0087】
3コート1ベーク(3C1B)法を使用することによって、上述の通り焼き付け工程を減らすことができる。これは塗装工程において必要とされるエネルギーの削減およびCO排出量の削減に寄与する。その一方で、3C2B法および3C1B法によって得られる複層塗膜は、塗膜の膜厚が薄くなる傾向があり、これにより塗膜隠蔽性が減少するという傾向がある。これに対して本発明においては、顔料濃度が低いにもかかわらず下地色隠蔽性に優れる電着塗膜を得ることができるため、塗膜隠蔽性の性能を電着塗膜で補填することができるという利点がある。このように本発明においては、顔料濃度が少ないため沈降安定性に優れることから、電着塗料組成物の常時撹拌必要性がなく塗装エネルギーの削減およびCO排出量の削減が可能であり、さらに複層塗膜形成において3C2B法または3C1B法を用いることにより焼き付け工程を減らすことにより塗装エネルギーの削減およびCO排出量の削減が可能である。そして、本発明においては、このように塗装エネルギーの削減およびCO排出量の削減ができることに加えて、得られる塗膜において耐食性および塗膜隠蔽性の低下を伴わないという優れた利点を有する。
【実施例】
【0088】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0089】
製造例1:部分ブロック化ポリイソシアネートの調製
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにトリレンジイソシアネート(TDI−100:日本ポリウレタン(株)製)994部とメチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)133部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を秤りとり、攪拌し、窒素をバブリングしながら、2−エチルヘキシルセロソルブ1093部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ60℃まで昇温した。そのあと5時間反応を継続し、1分子中に平均0.9個のNCO基を有する部分ブロック化ポリイソシアネートを得た(不揮発分94%)。
【0090】
製造例2:アミン変性エポキシ樹脂の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0091】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0092】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。
【0093】
製造例1で調製した部分ブロック化ポリイソシアネートを93部添加し、110℃にて1時間反応させることによって、架橋性基であるブロック化ポリイソシアネート基を導入した(IRスペクトルによりNCOピーク消失を確認)。
【0094】
その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分:80%、ブロック化ポリイソシアネート基:30%)を得た。
【0095】
製造例3:アミン変性エポキシ樹脂の調製
製造例2に従って、製造例1で調製した部分ブロック化ポリイソシアネートの使用量を93部から47部に変更し、製造例2と同様にして、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分:80%、ブロック化ポリイソシアネート基:15%)を調製した。
【0096】
製造例4:アミン変性エポキシ樹脂の調製
製造例2に従って、製造例1で調製した部分ブロック化ポリイソシアネートの使用量を93部から23部に変更し、製造例2と同様にして、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分:80%、ブロック化ポリイソシアネート基:7.5%)を調製した。
【0097】
製造例5:アミン変性エポキシ樹脂の調製
製造例2に従って、製造例1で調製した部分ブロック化ポリイソシアネートの使用量を93部から0部に変更し、すなわち、部分ブロック化ポリイソシアネートを添加せずに、製造例2と同様にして、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分:80%、ブロック化ポリイソシアネート基:0%)を調製した。
【0098】
製造例6:アミン変性エポキシ樹脂の調製
製造例2に従って、製造例1で調製した部分ブロック化ポリイソシアネートの使用量を93部から9.3部に変更し、製造例2と同様にして、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分:80%、ブロック化ポリイソシアネート基:3%)を調製した。
【0099】
製造例7:アミン変性エポキシ樹脂の調製
製造例2に従って、製造例1で調製した部分ブロック化ポリイソシアネートの使用量を93部から155部に変更し、製造例2と同様にして、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分:80%、ブロック化ポリイソシアネート基:50%)を調製した。
【0100】
製造例8:ブロックイソシアネート硬化剤(1)の調製
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてガラス転移温度が0℃のブロックイソシアネート硬化剤(1)を得た。
【0101】
製造例9:ブロックイソシアネート硬化剤(2)の調製
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1330部とジブチル錫ラウレート2部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、8−キノリノールのMIBK溶液(重量比50/50)2323部を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し7時間保温した。その後、ブチルセロソルブ236部を0.5時間かけて滴下した。滴下終了後100℃に昇温し一時間保温した。IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックポリイソシアネート硬化剤(2)を得た。
【0102】
製造例10:顔料分散用樹脂の調製
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を秤り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた顔料分散用樹脂はイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0103】
製造例11:顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例10で得た顔料分散用樹脂を120部、二酸化チタン192.0部、ジブチルスズオキシド8.0部およびイオン交換水184部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分48%)。
【0104】
製造例12:エマルション(1)の調製
製造例2で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:30%)と製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)とを固形分比で802/380[(製造例2で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0105】
製造例13:エマルション(2)の調製
製造例3で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:15%)と製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)とを固形分比で756/426[(製造例3で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合したこと以外は製造例12と同様の手順により、固形分が36%のエマルションを得た。
【0106】
製造例14:エマルション(3)の調製
製造例4で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:7.5%)と製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)とを固形分比で732/450[(製造例4で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合したこと以外は製造例12と同様の手順により、固形分が36%のエマルションを得た。
【0107】
製造例15:エマルション(4)の調製
製造例5で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:0%)と製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)とを固形分比で709/473[(製造例5で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合したこと以外は製造例12と同様の手順により、固形分が36%のエマルションを得た。
【0108】
製造例16:エマルション(5)の調製
製造例6で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:3%)と製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)とを固形分比で718/463[(製造例6で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合したこと以外は製造例12と同様の手順により、固形分が36%のエマルションを得た。
【0109】
製造例17:エマルション(6)の調製
製造例7で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:50%)と製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)とを固形分比で864/318[(製造例7で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例8で調製したブロックイソシアネート硬化剤(1)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合したこと以外は製造例12と同様の手順により、固形分が36%のエマルションを得た。
【0110】
製造例18:エマルション(7)の調製
製造例2で調製したアミン変性エポキシ樹脂(ブロック化ポリイソシアネート基:30%)と製造例9で調製したブロックイソシアネート硬化剤(2)とを固形分比で802/380[(製造例2で調製したアミン変性エポキシ樹脂から部分ブロック化ポリイソシアネートを除いた重量)/(部分ブロック化ポリイソシアネートおよび製造例9で調製したブロックイソシアネート硬化剤(2)の合計重量)=6/4)]で均一になるよう混合したこと以外は製造例12と同様の手順により、固形分が36%のエマルションを得た。
【0111】
実施例1:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例11で調製した顔料分散ペースト5.5部、製造例12で調製したエマルション(1)を187部およびイオン交換水807部を混合して、塗料固形分7%のカチオン電着塗料組成物を得た。このカチオン電着塗料組成物の固形分に含まれる顔料の濃度は3質量%であった。なお、塗料固形分は、180℃で30分間加熱した後の残渣の質量の、元の質量に対する百分率として求めることができる(JIS K5601に準拠)。
【0112】
実施例2:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)の代わりに製造例13で調製したエマルション(2)を使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:3質量%)を調製した。
【0113】
実施例3:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)の代わりに製造例14で調製したエマルション(3)を使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:3質量%)を調製した。
【0114】
実施例4:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)の代わりに製造例18で調製したエマルション(7)を使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:3質量%)を調製した。
【0115】
実施例5:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)を192部、水を806部、顔料分散ペーストを1.8部使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:1質量%)を調製した。
【0116】
実施例6:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)を182部、水を809部、顔料分散ペーストを9.2部使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:5質量%)を調製した。
【0117】
比較例1:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)の代わりに製造例15で調製したエマルション(4)を使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:3質量%)を調製した。
【0118】
比較例2:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)の代わりに製造例16で調製したエマルション(5)を使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:3質量%)を調製した。
【0119】
比較例3:カチオン電着塗料組成物の調製
製造例12で調製したエマルション(1)の代わりに製造例17で調製したエマルション(6)を使用した以外は実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物(顔料濃度:3質量%)を調製した。
【0120】
比較例4:カチオン電着塗料組成物(従来のカチオン電着塗料)の調製
アミン変性エポキシ樹脂の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0121】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0122】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0123】
ブロックイソシアネート硬化剤の調製
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてガラス転移温度が0℃のブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0124】
顔料分散用樹脂の調製
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0125】
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0126】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0127】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0128】
顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに上記顔料分散用樹脂を100部、カオリン50部、二酸化チタン40部、リンモリブデン酸アルミニウム10部、およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分50%)。
【0129】
エマルションの調製
上記アミン変性エポキシ樹脂と上記ブロックイソシアネート硬化剤とを固形分比で80/20で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0130】
上記顔料分散ペースト120部、上記エマルション333部およびイオン交換水543部ならびに10%酢酸セリウム水溶液2部およびジブチル錫オキサイド2部を混合して、固形分20%のカチオン電着塗料組成物を得た。このカチオン電着塗料組成物の固形分に含まれる顔料の濃度は20質量%であった。
【0131】
実施例および比較例で調製した各カチオン電着塗料組成物を用いて、以下の評価試験を行った。
【0132】
<湿潤塗膜抵抗測定>
冷延鋼板(JIS G3141 SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、リン酸亜鉛処理剤 SD−6350(日本ペイント社製)を用いて化成処理を行った。化成処理を行った鋼板に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物をそれぞれ用いて、乾燥塗膜の膜厚が15μmになるように電着塗装し、これを160℃で15分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜(試験片)を得た。
【0133】
図1に模式的に示す湿潤塗膜抵抗の測定装置を用いて湿潤塗膜抵抗を測定した。図1において、硬化電着塗膜(1)を有する被塗物(2)は電着塗膜形成後の冷延鋼板(JIS G3141 SPCC−SD)に相当し、高抵抗計(8)はKEITHLEY社製6517A ELECTROMETER/HIGH RESISTANCE METERを用いた。
【0134】
測定条件は以下の通りである。
【0135】
上記試験片を測定セルに設置し、その後、測定セルにイオン交換水を50mL注入した。測定セルを恒温槽(55℃)に配置し、セル内の液温を55℃で維持した。
【0136】
試験片と電極との間に0.5Vの交流電圧(波高:±0.5V、波長:1分の矩形波パルス)を1分間印加し、湿潤塗膜抵抗値を測定した。5回測定後の平均値を湿潤塗膜抵抗値とした。
【0137】
湿潤塗膜抵抗値が高いほど、水などの極性分子を遮断することができ、電着塗膜は遮断性に優れる。
【0138】
湿潤塗膜抵抗値が1×1010Ω・cm以上である場合を遮断性が特に優れている(◎)と判断し、湿潤塗膜抵抗値が1×10Ω・cm以上1×1010Ω・cm未満である場合を遮断性が高い(○)と判断し、1×10Ω・cm未満である場合を遮断性が悪い(×)と判断した。
【0139】
実施例および比較例の電着塗膜について、測定した湿潤塗膜抵抗値(55℃)を以下の表に示す。
【0140】
<塩温水浸漬試験>
冷延鋼板(JIS G3141 SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、リン酸亜鉛処理剤 SD−6350(日本ペイント社製)を用いて化成処理を行った。化成処理を行った鋼板に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物をそれぞれ用いて、乾燥塗膜の膜厚が15μmになるように電着塗装し、これを160℃で15分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜を得た。得られた塗膜に、基材に達するようにナイフで平行に2本のカット傷を入れ、55℃の5%塩化ナトリウム水溶液に240時間浸漬した。その後、カット部周辺にテープを貼り、このテープを剥がした際に生じた塗膜剥離幅を計測した。塩温水浸漬試験によって、電着塗膜の防錆性および密着性を評価することができる。評価結果を以下の表に示す。
【0141】
◎:テープ剥離の最大幅がカット部両側で3mm未満
○:テープ剥離の最大幅がカット部両側で3mm以上5mm未満
×:テープ剥離の最大幅がカット部両側で5mm以上
【0142】
<塗膜外観>
冷延鋼板(JIS G3141 SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、リン酸亜鉛処理剤 SD−6350(日本ペイント社製)を用いて化成処理を行った。化成処理を行った鋼板に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物をそれぞれ用いて、乾燥塗膜の膜厚が15μmになるように電着塗装し、これを160℃で15分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜を得た。目視にて硬化電着塗膜における異常の有無を判断した。評価結果を以下の表に示す。
【0143】
○:問題なし
×:肌荒れ等の外観不良あり
【0144】
<水平外観>
冷延鋼板(JIS G3141 SPCC−SD)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂した。得られた鋼板に、リン酸亜鉛処理剤 SD−6350(日本ペイント社製)を用いて化成処理を行った。化成処理を行った鋼板を無攪拌状態の実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物それぞれに水平状態で設置し、乾燥塗膜の膜厚が15μmになるように電着塗装し、これを160℃で15分間焼き付けて硬化させて、硬化電着塗膜を得た。硬化電着塗膜の外観を目視にて評価した。評価結果を以下の表に示す。
【0145】
◎:非常に良好
○:問題なく良好
△:顔料が少し沈降し、ややザラザラ感がある
×:顔料が沈降し、外観不良
【0146】

【0147】

【0148】
本発明の実施例1〜6のカチオン電着塗料組成物では、カチオン性エポキシ樹脂として、部分ブロック化ポリイソシアネートによって導入された架橋性基であるブロック化ポリイソシアネート基を有するアミン変性エポキシ樹脂を使用することによって、得られた硬化電着塗膜は高い湿潤塗膜抵抗値を有し、優れた遮断性を顕著に示す。このような効果は、アミン変性エポキシ樹脂に含まれる架橋性基によって硬化電着塗膜内に構築された架橋構造、すなわち網目構造に起因する。また、これは、ブロック化ポリイソシアネート基の割合が5〜30%であることにも起因する。このような効果およびメカニズムは本発明で初めて明らかとなったものである。また、塩温水浸漬試験結果から明らかなように、遮断性が飛躍的に向上するとともに、防錆性も飛躍的に向上することが分かった。その結果、本発明のカチオン電着塗料組成物では、顔料濃度を塗料固形分に対して10質量%以下、特に好ましくは0.5〜5質量%とすることができ、さらに、防錆顔料の使用を排除することができた。また、本発明では、低顔料濃度とすることによって、顔料などの固形分の沈降を防止することができ、塗装後、優れた塗膜外観を得ることができる。さらに、固形分の沈降防止によって、電着槽における常時撹拌が不要となり、省エネルギーおよびコストダウンを達成することができた。
【0149】
本発明では、エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が部分ブロック化ポリイソシアネートで変性されている(ブロック化ポリイソシアネート基の割合:5〜30%)。対して、比較例1では、ブロック化ポリイソシアネート基の割合は0%であり、比較例2では3%であり、ともに本発明で規定する範囲の下限を逸脱するために硬化電着塗膜の遮断性が低く、防錆顔料を含まないので、耐食性が悪くなる(塩温水浸漬試験の結果を参照のこと)。また、比較例3では、ブロック化ポリイソシアネート基の割合は50%であり、本発明で規定する範囲の上限を逸脱するので、フロー粘度が過剰に上昇し、塗膜外観が著しく低下する。
【0150】
比較例4は、従来のカチオン電着塗料組成物であり、使用するアミン変性エポキシ樹脂は硬化反応可能な官能基(架橋性基)を全く含まない。また、塗料固形分に対する顔料濃度は20質量%であり、着色顔料および防錆顔料を含む。比較例4の従来のカチオン電着塗料組成物は、防錆顔料を含むので良好な防錆性(塩温水浸漬試験の結果を参照のこと)を有するが、顔料濃度が高いために、顔料が沈降し、良好な水平外観を得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、耐食性に優れるカチオン電着塗料組成物等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1は、湿潤塗膜抵抗測定法(高抵抗計法)を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0153】
1 電着塗膜
2 被塗物
3 測定セル
4 塩水またはイオン交換水
5 電極
6 温度センサ
7 温度計
8 高抵抗計
9 電子計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料を含むカチオン電着塗料組成物であって、
前記顔料の含有量が、塗料固形分に対して、10質量%以下であり、
前記アミン変性エポキシ樹脂は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応によって得られる、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が部分的にブロック化された部分ブロック化ポリイソシアネートが導入された樹脂であり、
エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が前記部分ブロック化ポリイソシアネートで変性されている、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記顔料が酸化チタンである、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応によって得られる、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が部分的にブロック化された部分ブロック化ポリイソシアネートが導入されたアミン変性エポキシ樹脂をカチオン電着塗料組成物に配合し、電着塗装後に得られる硬化電着塗膜の遮断性を向上させる方法であって、エポキシ樹脂に含まれる全水酸基量の5〜30%が前記部分ブロック化ポリイソシアネートで変性されている、方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装を行うことによる、硬化電着塗膜の遮断性を向上させる方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24288(P2010−24288A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184912(P2008−184912)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】