説明

カチオン電着塗装方法

【課題】 本発明は、カチオン電着塗料の固形分含量を低減させると共に、ターンオーバー速度を小さくし、しかもつきまわり性の高いカチオン電着塗装方法を提供する。
【解決手段】 カチオン電着塗料を用いて被塗物に電着塗装を施すカチオン電着塗装方法において、
該カチオン電着塗料が通常より低い固形分含量を有し、かつ高つきまわり性を有することを特徴とするカチオン電着塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン電着塗装方法、特に固形分含量の低くかつ高いつきまわり性を有する塗料を用いたカチオン電着塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、複雑な形状を有する塗装物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、自動車車体などの大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として汎用されている。また、他の塗装方法と比較して、塗料の使用効率が極めて高いことから経済的であり、工業的な塗装方法として広く普及している。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。
【0003】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料が満たされた電着浴と呼ばれる大きな塗料浴中に被塗物、例えば自動車の車体などを浸漬してそれが電圧を印加されて塗装され、それを電着浴から引揚げて水洗などの工程を経て加熱硬化される。電着浴中には、カチオン電着塗料と呼ばれるカチオン性のビヒクルと硬化剤等を水あるいは水性溶媒に分散または溶解したものが満たされる。この電着塗料中には、塗料成分(固形分と呼ばれている)が存在し、それが被塗物の上に析出・沈着して被膜として系外に持ち出される。
【0004】
電着浴には、ターンオーバー速度と呼ばれる電着浴中の固形分すべてが塗膜となって持ち出されるまでの時間を表わす指数がある。すなわち「ターンオーバー速度が6ヶ月」とは、電着浴に最初に投入したカチオン電着塗料中の固形分のすべてが塗装(消費される)されるのに6ヶ月を有するということである。この間、塗料は、常に補給されているので、ターンオーバー速度は、見かけ上、塗料が新たな塗料にすべて置き換わるのに要する時間を意味していることになる。このターンオーバー速度が長くなればなるほど一定時間当たりの塗料の消費量が少なくなり、塗料が浴中に滞在する期間が長くなるので、エマルジョン粒子からの溶剤離脱や粒子の凝集などが起りやすく、塗料の品質を安定に維持することが困難になる。
【0005】
したがって、ターンオーバーは基本的には低いほうが有利である。カチオン電着塗料から言えば、低い固形分含量のカチオン電着塗料を用いると、ターンオーバー速度が低くなり、好ましい。一方、低い固形分含量のカチオン電着塗料にすると、つきまわり性と呼ばれる塗料が電極から遠い複雑な形状の奥の部分まで塗装される性能が悪くなる傾向にある。したがって、低い固形分含量にすると、つきまわり性が悪くなり、カチオン電着塗料に利用することができなかった。
【特許文献1】特開平9−78290号公報
【特許文献2】特開2004−231989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、通常よりも低い固形分含量であっても、つきまわり性が高く、その他の塗膜性能も優れている電着塗装方法を提供する。
【0007】
特開平9−78290号公報(特許文献1)には、従来よりも低い固形分含有率5〜10重量%であり、ターンオーバー速度が6ヶ月以上のものでも、塗料の劣化が起らない電着塗装方法が開示されている。しかし、この方法は、ターンオーバー速度が長い場合に適用されるものであって、ターンオーバー速度を短くするという技術ではない。
【0008】
特許文献2(特開2004−231989号公報)には、カチオン電着塗料の固形分濃度5〜12重量%にして、塗料の循環や撹拌が容易でかつ仕上や防食性に問題のないカチオン電着塗料を記載する。しかしながら、ここで用いているカチオン電着塗料は、固形分含量が少ないものであるので、つきまわり性に改善が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明はカチオン電着塗料を用いて被塗物に電着塗装を施すカチオン電着塗装方法において、
【0010】
該カチオン電着塗料が通常より低い固形分含量を有し、かつ高つきまわり性を有することを特徴とするカチオン電着塗装方法を提供する。
【0011】
本発明のカチオン電着塗料は固形分含量7〜15重量%、好ましくは10〜12重量%であり、塗料中に含まれる顔料灰分が10〜25重量%、好ましくは15〜23重量%である。
【0012】
本発明のカチオン電着塗装方法に用いるカチオン電着塗料は、被塗物に対して電着された電着塗膜の抵抗値が700〜1800kΩ・cmを有する。
【0013】
本発明のカチオン電着塗料はバインダー樹脂としてスルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低い固形分含量でも、高いつきまわり性を有する塗料を用いることにより、ターンオーバー速度を低くすることができ、しかも塗膜性能、特につきまわり性などに変化が生じないカチオン電着塗装方法を提供することができる。固形分含量が低いということは、循環や撹拌などのエネルギーが固形分含量の高いものよりも少なくてすみ、塗料の劣化が防止でき、しかも塗料の在庫を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のカチオン電着塗装方法においては、カチオン電着塗料が低い固形分含量と高いつきまわり性を有することを特徴としている。低い固形分含量とは通常カチオン電着塗料の固形分含量は20重量%近辺である。これより低い固形分含量であれば、特に限定的ではないが、本発明の効果をより十分に発揮するためには7〜15重量%、より好ましくは10〜12重量%の固形分含量であることが好ましい。7重量%より低い固形分含量の場合は、つきまわり性が大きく低下する。
【0016】
本発明のカチオン電着塗料は、高いつきまわり性を有することを必要とする。つきまわり性は、バインダー樹脂に、一般に用いられているアミン変性エポキシ樹脂とブロックポリイソシアネート硬化剤の組み合わせに、スルホニウム変性エポキシ樹脂を加えることにより達成できる。
【0017】
本発明で使用されるカチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解した、バインダー樹脂、中和酸、有機溶媒、顔料、金属触媒等添加剤を含有する。バインダー樹脂は、スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックポリイソシアネート硬化剤とを含む。水性媒体としては、イオン交換水等が一般に用いられる。
【0018】
スルホニウム変性エポキシ樹脂
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物には、スルホニウム変性エポキシ樹脂が含まれる。スルホニウム変性エポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂にスルフィド化合物及び中和酸を反応させてそのエポキシ基が開環されると同時にスルホニウム塩基が導入された樹脂をいう。このスルホニウム変性エポキシ樹脂は、例えば、特開平6−128351号公報、特開平7−206968号公報などに記載されているような従来公知のものであってよい。スルホニウム変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環をスルフィド化合物及び中和酸で開環して製造される。
【0019】
エポキシ樹脂と反応させるスルフィド化合物は、エポキシ基と反応し、かつ妨害基を含まない全てのスルフィド化合物が含まれる。尚、エポキシ樹脂とスルフィド化合物との反応は中和酸の存在下で行う必要があり、その結果、エポキシ樹脂にスルホニウム基が導入される。
【0020】
スルフィド化合物の具体例としては、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィドまたは環状スルフィドであり得る。使用しうるスルフィド化合物の例には、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド等が挙げられる。
【0021】
特に好ましいスルフィド化合物は、式
【0022】
【化1】

【0023】
[式中、R及びR'はそれぞれ独立して炭素数2〜8の直鎖又は分枝鎖アルキレン基である。]
で表されるチオジアルコールである。かかるスルホニウム変性エポキシ樹脂は電着開始直後の短時間(約10秒間)塗膜抵抗の形成を遅くする機能を有し、かつバインダー樹脂に水分散安定性を付与する。
【0024】
チオジアルコールの例には、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノ−ル、及び1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノールなどがある。最も好ましくは、スルフィド化合物は、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノールである。
【0025】
アミン変性エポキシ樹脂
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物には、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂が含まれる。このアミン変性エポキシ樹脂は、例えば、特開昭54−4978号、同昭56−34186号などに記載されているような従来公知のものでよい。アミン変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0026】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0027】
特開平5−306327号公報第0004段落の式、化3に記載のような、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をアミン変性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0028】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0029】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0030】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されている。
【0031】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0032】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩が含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンが特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0033】
アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0034】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明のブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0035】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0036】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0037】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0038】
ブロック剤としては、ε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等通常使用されるものを用いることができる。しかしながら、これらの内、揮発性のブロック剤はHAPsの対象として規制されているものが多く、使用量は必要最小限とすることが好ましい。
【0039】
顔料
本発明の電着塗料組成物には通常用いられる顔料を含有させてもよい。使用し得る顔料の例としては、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛、ケイ酸化合物のような防錆顔料等が挙げられる。
【0040】
顔料の量は、本発明では顔料灰分(顔料の重量/塗料固形分重量×100)として表され、10〜25重量%、好ましくは15〜23重量%になる量とする。顔料灰分が10重量%未満であると、塗膜にハジキとよばれる欠陥が発生し、25重量%を越えると顔料の沈降や塗膜仕上がりの低下が起こる。
【0041】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0042】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂分散物と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂分散物とは、顔料分散樹脂を水性媒体中に分散させたものである。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0043】
金属触媒
本発明のカチオン電着塗料組成物には塗膜の耐食性を改良するための触媒として、金属触媒を金属イオンとして含有させてもよい。金属イオンとしては、セリウムイオン、ビスマスイオン、銅イオン、亜鉛イオンが好ましい。これらは適当な酸と組み合わせた塩や金属イオンを含有する顔料からの溶出物として電着塗料組成物に含まれる。酸としては、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を中和するための中和酸として後に説明する塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸のいずれかであればよい。好ましい酸は酢酸である。
【0044】
電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上に述べた金属触媒、スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、及び顔料分散ペーストを水性媒体中に分散することによって調製される。また、通常、水性媒体にはスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0045】
スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、及び硬化剤としてブロックイソシアネートを配合し、水性媒体にこれらを分散させる方法については、スルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂それぞれ、又はいずれかひとつにブロックイソシアネートを溶液状態で混合し、それぞれをエマルションとし、その後それぞれのエマルションを混合してよく、又はスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂を予め溶液状態で混合しておき、これにブロックイソシアネートを加えた混合溶液を、エマルションにしてもよい。
【0046】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にスルホニウム変性エポキシ樹脂およびアミン変性エポキシ樹脂の合計と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分質量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0047】
スルホニウム変性エポキシ樹脂とアミン変性エポキシ樹脂との混合割合は、質量比で、1/99〜50/50、好ましくは10/90〜50/50の範囲である。スルホニウム変性エポキシ樹脂の質量比が上記混合割合25/75を下まわると塗料の耐ガスピン性が劣ることとなり、上記混合割合50/50を超えると、塗膜の外観不良が解消され難くなる。
【0048】
塗料組成物は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。但し本発明のカチオン電着塗料組成物は鉛を実質的に含まないため、その量は樹脂固形分の0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0049】
有機溶媒はスルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必ず必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0050】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0051】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0052】
本発明のカチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜(未硬化)を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0053】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0054】
電着過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。本明細書中「電着塗膜」とは、上記の、被膜を析出させる過程後であって、焼付硬化前の、電着塗装後の未硬化の塗膜をいう。
【0055】
電着塗膜の膜厚は、好ましくは5〜25μm、より好ましくは15μmとする。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分であり、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。また、電着塗膜の膜抵抗は膜厚15μmにおいて700〜1800kΩ・cmであることが好ましい。塗膜の膜抵抗が700kΩ・cm未満であると十分な電気抵抗が得られていない状態であり、つきまわり性に劣る状態となり、1800kΩ・cmを越えると塗膜外観が著しく劣ることとなる。塗膜の膜抵抗は、より好ましくは800〜1300kΩ・cmである。
【0056】
電着塗膜の膜抵抗は、析出膜の電荷移動媒体量や粘性を制御することにより調節できる。
【0057】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させる。本明細書中において、この焼付硬化後の塗膜を「硬化塗膜」という。
【実施例】
【0058】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0059】
製造例1
ブロックイソシアネート硬化剤の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0060】
製造例2
スルホニウム変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0061】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0062】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、SHP−100(1−(2―ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、三洋化成製)52部、イオン交換水21部、88%乳酸39部を加え、80℃で反応させた。反応は酸価が5を下回るまで継続し、3級スルホニウム塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0063】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、イオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションを得た。またこのエマルションの樹脂固形分100g当たりの塩基のミリ当量は10であった。
【0064】
製造例3
アミン変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0065】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂650部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量300になるまで130℃で反応させた。
【0066】
続いて、ビスフェノールA165部及びオクチル酸29部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1160となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン85部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0067】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるようギ酸を加え、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0068】
製造例4
アミン変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0069】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂492部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量360になるまで130℃で反応させた。
【0070】
続いて、ビスフェノールA70部及びオクチル酸29部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は850となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、メチルエタノールアミン48部およびジエチレントリアミンをケチミン化したもの70部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0071】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるようギ酸を加え、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0072】
製造例5
アミン変性エポキシ樹脂の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(質量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0073】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂834部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を加え、エポキシ当量270になるまで130℃で反応させた。
【0074】
続いて、ビスフェノールA194部及びオクチル酸29部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1540となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン85部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0075】
得られた樹脂に製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤と固形分比で60/40で均一になるように混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリ当量数が25になるようギ酸を加え、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性エポキシ樹脂エマルションを得た。
【0076】
製造例6
顔料分散樹脂分散物の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここへジブチルスズジラウリート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0077】
次いで適当な反応容器に、ジメチルエタノール87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0078】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させて、次いで、120℃に冷却した後、先に調整した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0079】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を加えた。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散樹脂分散物を得た(樹脂固形分50%)。
【0080】
製造例7
顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例6で得た顔料分散樹脂分散物を120部、カーボンブラック2.0部、焼成カオリン50重量部、ケイ酸化合物50.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料ペーストを得た(固形分48%)。
【0081】
実施例1
製造例2で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたアミン変性エポキシ樹脂エマルションとを混合して、樹脂固形分比10/90とし、次いで製造例7で得られた顔料分散ペーストを混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が15重量%、顔料灰分25重量%および膜抵抗値(15μ時)1260kΩ・cmを有するカチオン電着塗料組成物を得た。
【0082】
このように調製したカチオン電着塗料のつきまわり性(4枚ボックス法)およびターンオーバー(計算値)を評価した。評価結果を表1に示した。
【0083】
実施例2
製造例2で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたアミン変性エポキシ樹脂エマルションとを混合して、樹脂固形分比50/50とし、次いで製造例7で得られた顔料分散ペーストを混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分が75重量%、顔料灰分10重量%、膜抵抗値(15μ時)890kΩ・cmを有するカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得た電着塗料組成物を、実施例1と同様にして評価した。結果については表1に示した。
【0084】
実施例3
製造例2で得られたスルホニウム変性エポキシ樹脂エマルションと製造例3で得られたアミン変性エポキシ樹脂エマルションとを混合して、樹脂固形分比1/99とし、次いで製造例7で得られた顔料分散ペーストを混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分75重量%、顔料灰分15重量%および膜抵抗値(15μ時)790kΩ・cmを有するカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得た電着塗料組成物を、実施例1と同様にして評価した。結果については表1に示した。
【0085】
比較例1
製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂エマルションに、製造例7で得られた顔料分散ペーストを混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分20重量%、顔料灰分25重量%および膜抵抗値(15μ時)650kΩ・cmを有するカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得た電着塗料組成物を、実施例1と同様にして評価した。結果については表1に示した。
【0086】
比較例2
製造例5で得られたアミン変性エポキシ樹脂エマルションに、製造例7で得られた顔料分散ペーストを混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1質量%分とイオン交換水を加えて、固形分20重量%、顔料灰分15重量%および膜抵抗値(15μ時)510kΩ・cmを有するカチオン電着塗料組成物を得た。こうして得た電着塗料組成物を、実施例1と同様にして評価した。結果については、表3に示した。
【0087】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物を電着塗装して得られた電着塗膜および硬化塗膜について、以下の方法により評価を行なった。
【0088】
〈つきまわり性〉
つきまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1にしめすように、4枚のリン酸亜鉛処理鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SD、サーフダインSD−5000(日本ペイント社製)を用いて処理)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。
【0089】
カチオン電着塗料4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着浴とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0090】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、鋼鈑にカチオン電着塗装を行なった。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間、短時間電着では115秒間その電圧を維持することにより行った。
【0091】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)によりつきまわり性を評価した。一般に、この値が50%を超えた場合は良好であり、この値が50%以下の場合を不良と判断できる。結果を表1に示す。
【0092】
〈電着塗膜の膜抵抗〉
カチオン電着塗料組成物を含む電着浴に、リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−2500処理)(寸法:70mm×150mm、厚さ0.7mm)を電着塗料に10cm浸漬した。この鋼板に電圧を印加し、30秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、150秒間電着した。浴温28℃における塗膜厚15μmの塗装電圧および電着終了時の残余電流を測定して、塗膜抵抗値(kΩ・cm2)を算出した。
【0093】
〈ターンオーバー〉
各ターンオーバー値は比較例1を6ヶ月のターンオーバーを有するとして、次の計算値により規定する。
【0094】
【数1】

【0095】
即ち、実施例1の場合は、6×15÷20=4.5ヶ月である。
【0096】
【表1】

【0097】
以上の結果より、低い固形分であっても、従来のものに比べて高いつきまわり性のカチオン電着塗装方法が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】つきまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】つきまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0099】
10…ボックス、11〜14…リン酸亜鉛処理鋼板、15…貫通穴、20…電着塗装容器、21…電着塗料、22…対極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料を用いて被塗物に電着塗装を施すカチオン電着塗装方法において、
該カチオン電着塗料が通常より低い固形分含量を有し、かつ高つきまわり性を有することを特徴とするカチオン電着塗装方法。
【請求項2】
該カチオン電着塗料が固形分含量7〜15重量%および顔料灰分10〜25重量%を有する請求項1記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項3】
該カチオン電着塗料が、被塗物に対して厚さ15μmに電着された電着塗膜の抵抗値が700〜1800kΩ・cmを有する請求項1記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項4】
該カチオン電着塗料が、スルホニウム変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂およびブロック化ポリイソシアネート硬化剤をバインダー樹脂として含む請求項1記載のカチオン電着塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265689(P2006−265689A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88965(P2005−88965)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】