カット鋏
刃部と柄部を有する刃体の2本を枢着させた理美容用のカット鋏において、柄部の開き角度に対して、刃部が比較的奥まで開き、また髪の切り易いく理美容用の鋏を提供する。
その為に、刃体の少なくとも1方の刃先線が、刃体先端と枢着軸とを結ぶことにより枢着部分の刃体幅の刃側端部よりも後退した線と成るようにした。また他方の刃体は、刃先線の中間部分が、前記一方の刃体の刃先線の前記後退に追従するように膨出した形状に形成基端から先端までの刃先線が凸状に湾曲して形成させてもよい。
その為に、刃体の少なくとも1方の刃先線が、刃体先端と枢着軸とを結ぶことにより枢着部分の刃体幅の刃側端部よりも後退した線と成るようにした。また他方の刃体は、刃先線の中間部分が、前記一方の刃体の刃先線の前記後退に追従するように膨出した形状に形成基端から先端までの刃先線が凸状に湾曲して形成させてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、刃部と柄部を有する刃体の2本を枢着させた理美容用のカット鋏の改良に関し、詳しくは、鋏を握る手の開閉操作が僅かでも鋏が奥まで開くことのできるカット鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
理美容用の鋏には、2本の刃体が共に直線状の刃を備えている通常の鋏と、一方の刃が櫛状になった梳鋏があるが、本明細書では、通常の鋏をカット鋏と呼ぶ。また、刃体の先端側半分の刃の付いた部分を本明細書では「刃部」と云う。
【0003】
カット鋏で髪を切る時には、理美容作業の各段階に応じて鋏の使い方も様々である。例えばこの刃部の先端で髪を切る場合や、刃部の中央付近で切ったり、或いは比較的、刃部の基端寄り(枢着軸より)から切るなど、様々に使い分けている。鋏で髪を切る時は、押し切りよりも引き切りの方がよく切れるのであるが、髪は、閉じる鋏の刃先を滑りながら切られるので、引き切りされているのである。また1回の閉じ操作で多くの髪を切ろうとする場合には、鋏は刃部をなるべく奥まで開いて深く髪をくわえさせ、これにより髪の滑る長さを長く確保しておくのである。
【0004】
例えば図9に示したのはカット鋏100を15度開いている様子であり、2本の刃体110,120は、その中心線(枢着の軸芯Qと、刃部111,121の先端Yとを繋いだ直線)La,Lb同士が、15度に開いた角度αになっている。また開いた刃部111,121の開口は、その奥行きWが図示された様な深さになる。中心線La,Lb同士の交点Qは当然枢着軸の位置となるが、開口の奥行きWは刃先線A,B同士の交点位置Pとなる。そしてこの奥行きW(即ち交点位置P)は、刃先線A,Bが中心線La,Lbから離れると浅くなる。逆に、刃先線A,Bが中心線La,Lbに近づくと、奥行きWは深くなる関係にある。
【0005】
尚この時、柄部112,122同士も15度開いた状態となる。例えば図9に示した様に、「指環112aが相手の指環122aと当接する点Ra,Rb」と、「枢着の軸芯Q」とを結ぶ線Ma、Mb(以下、「当接線Ma、Mb」という)が、15度に開いた角度βになっているのである。カット鋏100を閉じた時には、指環112a,122a同士が図10に示す様に当接するのであり、よって当接線Ma、Mbも重なるのである。また刃部の中心線La、Lbも同様に重なるのである。
【0006】
以上の例は、刃部の中心線La,Lbと、柄部の当接線Ma,Mbとが、一直線に繋がっていた例である。
しかし図11に示すカット鋏200の様に、柄部212,222の設け方によっては、中心線La,Lbと当接線Ma,Mbが必ずしも一直線にはならず、異なった方向になることもある。この場合でも図12に示す様に、柄部の当接線Ma,Mbの開き角度βと、中心線La,Lbの開き角度αはいつも同じになり、柄部を15度開いたら刃部もその中心線が15度開く点は同じである。
【0007】
また理美容用の鋏は、刃体の裏面が、図13の概念図に示す様な円筒200の内面状を成した湾曲凹部に形成されている。つまり、理美容用の鋏は、図13の円筒200から、部分202を曲線201で切り落とし、残りの部分203が刃部となり、204が刃先となっている。この図13中に示された一点鎖線Kは、この図中で一番低い部分に引かれた母線Kである。
刃体の刃裏にこの様な湾曲凹部が設けられている理由は、鋏を開閉操作させる時に、2本の刃体の刃先が確実に触れあう様にするためである。つまり、鋏は刃先同士が接触しなければ髪を切ることができないのである。ところが、刃体の裏面が凹んでいないと鋏はその裏面同士が触れ合ってしまう事があり、この様に裏面同士の触れ合うと刃先同士の接触を妨げてしまう事となってしまう。よってこの様に刃裏同士の触れあうことのない様に、刃裏は湾曲凹部に形成されているのである。
【0008】
この母線Kは、原則、図13に示す様に刃先線204と平行に成るのが技術的に正しいとされている。図14は実際の刃体210の刃裏211を示しているが、刃先線212は、図14に示す様に僅かにカーブしていて完全な直線ではなく、そのカーブは刃部の中央で僅かに突き出ている。この突き出しは、刃先線の両端を結ぶ直線に対して、0.3〜0.5mmとか、或いは大きくても0.数mm程度の突き出しであり、よって刃先線212は直線に近似している。従って母線Kもこれに沿って、僅かにカーブした直線に近似する線となっている。またその際に、この母線Kは刃体の枢着用のネジ穴213を通る様にして、1本の線に引かれている。そして図14に示した様に、母線Kが刃先線212に沿っていて、刃体の背側214に抜ける様にして、円筒の内面状の湾曲凹部が形成されている。
【0009】
刃裏211のこの湾曲凹部は、一般には図15に示す様に円盤砥石300で研削されている。そしてこの円盤砥石300を、その頂点301が上述した母線Kを描く様に移動させながら、刃裏の湾曲凹部を研削するのである。その際には刃部の部分だけではなく、ネジ穴の上も通過させて、枢着部分215の刃裏も同時に研削させるのである。これにより枢着部分215に現れた湾曲凹部の周縁216が、図14に示した様に半円状となり、この周縁の周囲には、図14で黒く塗りつぶして示した触面217が形成される。この触面217は、刃裏の研削されなかった平らな面が残ったものであるが、2本の刃体をネジで枢着した時には、この触面217が互いに触れ合う面となる。更に、刃先に沿って黒く塗りつぶして示した部分218は、相手の刃先と触れあう部分である。要する図14で黒く塗りつぶした部分217、218が相手の刃体と触れあう部分であり、その他の白い部分全ては湾曲凹部となって、相手の刃体とは触れ合わない部分なのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
カット鋏を奥まで開くには、その分、柄部を大きく開かなければならず、その結果、鋏を持つ指をその分大きく開かなければならない。しかし理美容師は終日鋏を使っており、その間は、絶えず鋏の開閉操作を繰り返して行っているので、この開閉操作の負担はなるべく少ないのが好ましい。その為には、柄部の開閉幅が僅かであっても、刃部の奥行きが深くなる様に開かれるのが望ましい。指の開閉幅が小さくても、鋏の開口が深く開けば、理美容師の負担が軽くなるからである。
よって本願発明では、柄部の開き角度に対して、刃部が比較的奥まで開き、また髪の切り易いく理美容用のカット鋏を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本願発明に関する手段を、後述する実施形態で用いる図を引用しながら説明する。
(1)本願発明では、2本の刃体を枢着した理美容用のカット鋏であって、一方の刃体の刃先線が、刃体先端と、刃体の枢着部分(図3の符号14参照)の刃側端部(同図の符号15参照)よりも後退した位置と、を通る様に形成されることにより、前記端部よりも刃体の背側に後退した線に形成される様にした。一般に、カット鋏の刃先線は僅かに湾曲しているがほぼ直線に近似されるのであり、この直線に近似される刃先線が後退する様に設けたものである。
(2)また他方の刃体の刃先線は、この刃先線の中間部分(図4の符号Z参照)が、前記一方の刃体の刃先線の前記後退に追従するように膨出した形状に形成される様にした。
(3)また2本の刃体の刃裏は、円筒の内面状を成す湾曲凹部が、前記円筒が刃体長手方向となる向きで刃裏に設けられている。
その際に、一方の刃体の前記凹部は、以下の第一の凹部と第二の凹部とを有している。即ち第一の凹部は、この凹部の底に引かれる第一の母線が、枢着部分に設けられた枢着用のネジ穴を通過する様に設けられた凹部である。また第二の凹部は、この凹部の底に引かれる第二の母線が、刃部の基端において、前記第一の母線よりも背側に後退した位置から発進する様に形成されたものである(以上、請求項1参照)。
【0012】
(4)請求項1においては、一方の刃体は、その刃先線の通る位置として、刃体先端と「刃側端部よりも後退した位置」とを示したが、この「…後退した位置」を、「枢着軸」に限定してもよい(請求項2参照)。なお、この枢着軸は刃側端部よりも後退した位置である。
つまり直線に近似した刃先線Aが、図3に示す様に、枢着軸の軸芯近傍を通過するようなものをいう。又この軸芯近傍とは、例えば枢着部分の刃体幅が11mmであれば、軸心を中心とする半径1mm、或いは1.5mmの小円内を通過する様なものであってもよい。或いは刃体幅の10%以内となる半径の小円内を通過する様なものであってもよい。
【0013】
以上の(1)或いは(4)の構成を有することにより、本願のカット鋏においては、その双方の刃先線は異なった形状の線となる。即ち、一方の刃先線は膨出した形状であるのに対し、他方の刃先線は直線に近似した形状の線である。
この点、一般のカット鋏は、双方の刃先線は共に直線に近似しており、厳密に見た場合には僅かにカーブしていてもそのカーブは同じ形状であるが、本願は異なっている。
【発明の効果】
【0014】
以上により、本願のカット鋏は、刃部が後退していないカット鋏に較べて、鋏の開きの奥行きが深くなる。即ち、一方の刃先が後退していると、その刃先線は、開いた鋏の相手の刃先線から、後退している分だけ遠ざかることとなり、その分、鋏の開きの奥行きが深くなるのである。
【0015】
例えば、請求項2に記載した様な、刃先線の基端側が枢着軸を通る様な線であると、図4に示す様に、この刃先線Aは中心線Laに近接することとなる。この点、図9や図11に示した様な一般的なカット鋏では、その刃先線Bは、本願の様には後退しておらず、詳しくは「枢着部分の幅方向の端部(図9の符号125、図11の符号225)」を結ぶ線となっている。
そしてこの様な一般的な刃先線Bと比べると、本願は背13側に後退した刃先線となっており、図4に示した様に、中心線La,Lbの開き角度が同じでも、刃先線の交点が奥まった位置となる。つまり刃部が後退していないカット鋏に較べて、鋏の開きの奥行きが深くなるのである。
【0016】
また(2)の構成は、この刃先線の中間部分が、前記一方の刃体の刃先線の後退に追従するように膨出した形状であるが、これにより、鋏を閉じる時にスムーズに髪を切ることができるのである。これは次の様な理由による。
【0017】
一般に髪を切る時には、鋏は、その刃先線同士の交点での交叉角度(以下、「交点角度」という)に適切な角度範囲があり、この角度は狭すぎても広すぎても適切ではない。それは、交点角度が広過ぎると、2本の刃体で挟んだ髪が、鋏を閉じる時に刃先を滑り過ぎるので、髪が逃げて捉えることができず、その為に髪を切ることができないからである。
また逆に狭すぎると滑らなくなり、髪を押し切りすることとなるので、切る時の閉じ操作に負荷がかかって切り難くなるのである。
【0018】
一方、中心線が同じ開き角度であっても、鋏の開口の奥行きを深くしようとすると、交点角度が小さくなる傾向にある。図16は、鋏の開き角度を同じにしながらも、刃先線の設け方を2パターンにした鋏を概念的に示した図である。この図に示した2パターンの刃先線((A1,B)と(A2,B))の様に、中心線La,Lbの開き角度が同じでも、その交点P1とP2とでは、奥行きが深い交点P2の方が、交点角度が(θ1>θ2)と小さくなるのである。これは、奥行きを深くすることのできる本願発明のカット鋏は、交点角度が小さくなってしまうことを意味する。
そして、交点角度が狭いと、髪を押し切りするための切り難さの問題が出てしまう。
【0019】
ところで、この交点角度に関しては、更に以下の様な別の事情がある。即ち、図17の(a)と(b)に示す様に、鋏は一般にその交点Pが刃部の先端に近いほど交点角度θが小さくなる。本願発明の様に交点角度が小さくなる鋏の場合には、鋏の先端寄りの交点角度の方が一層小さくなる。その結果、鋏の先端寄りでは、交点角度が髪を切るのに適した角度範囲を下回ってしまい、髪が切り難くなってしまう。つまり、交点角度θが小さくなると2本の刃先線は次第に平行に近づき、髪は滑ることができず、髪を押し切りする状態になって閉じ抵抗も大きくなり、切り難くなってしまうのである。この様に、交点角度が狭いために切りにくくなる問題は、鋏の先端側で生じ易い問題である。
【0020】
これに対して本願発明の(2)の構成では、図18に例示する様に、一方の刃先線Aの後退に追従するように、もう一方の刃先線B1を凸状に膨出した形状に形成した。この様に、他方の刃先線B1が、基端Xから先端Yにかけて湾曲して形成されていると、この刃先線B1は、先端Y寄りでは刃部21の背側23に反り返った形状が得られる。その為に同じ交点位置Pであっても、この様な凸状に湾曲していない刃先線B2の交点角度θ2に較べて、大きな交点角度θ1を得ることができるのである。この様に交点角度を大きくすることにより、髪を切るのに適した交点角度の確保ができるのであり、髪も切りやすくなるのである。
【0021】
また(3)の様な構成を有すことにより、互いの刃先は、切断に必要な確実な接触をすることができる。
即ち、図19に示す様に、刃先線が後退している一方の刃体10の刃裏に、第一の凹部18aの母線Kaと同じ母線で第二の凹部18bを形成させると、刃先Sが相手刃先から離れてしまって(図19の符号G参照)、接触することかできなくなってしまう不都合が生じるからである。その為に、後退した刃先線Aに対応して湾曲強凹部(第二の凹部)も後退させる必要があり、それを母線の後退という形で表現したものである。これにより、刃裏の湾曲凹部を第二の凹部として適切な配置とすることができ、刃先同士の接触が良好となるのであり、結果的に良好な切断性能を得ることができるのである。
【0022】
(5)また本願発明は、一方の刃体の背(刃の反対側)を、刃先線の後退分に相当するだけ、後退させてある(請求項3参照)。鋏は一般に、その2本の刃先が、刃裏面に垂直方向の力で互いに押し合う力(これを「側圧」という)必要があり、この側圧が切断性能を維持する要素の一つになっている。この様な側圧がないと、髪を切る時に、刃先同士が(刃裏面の垂直方向に)離れて、刃先同士に隙間ができてしまい、切断性能に支障をきたす事があるからである。従って刃部は、この様な側圧を出せるだけの強度や太さが必要である。
この点、刃先線が後退すると、その後退した分だけ刃部の幅が狭くなり、よって刃部の強度も弱くなるが、本願においては峰を後退させたので刃部の幅を狭くなることを避けることができ、よってその強度を維持することができ、これにより十分な側圧を得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この図は、実施の形態に示したカット鋏の平面図である。
【図2】この図は、図1のカット鋏の底面図である。
【図3】この図は、図1のカット鋏を開いた時の底面図である。
【図4】この図は、カット鋏を開いたときの鋏の外形線を透視して描いた図である。
【図5】この図は、他方の刃体である静刃の刃裏を示す図である。
【図6】この図は、一方の刃体である動刃の刃裏を示す図である。
【図7】この図は、(a)本願発明の実施例のカット鋏と、(b)本願発明以外のカット鋏とを共に同じ15度の角度だけ開いた時の、それぞれの奥行きを比較した図である。
【図8】この図は、(a)本願発明の実施例のカット鋏と、(b)本願発明以外のカット鋏とを、共に図7よりは小さい5度の角度だけ開いた図であり、それぞれの奥行きを比較するとともに、交点角度がほぼ同じであることを示している。
【図9】この図は、従来のカット鋏を15度開いた図である。
【図10】この図は、図9のカット鋏を閉じた図である。
【図11】この図は、従来の別のカット鋏の図である。
【図12】この図は、図9のカット鋏を15度開いた図である。
【図13】この図は、刃裏の湾曲凹部が、円筒の内面状をなしていることを説明する図である。
【図14】この図は、刃裏に設けられた湾曲凹部とその母線を説明し、合わせて相手の刃体と接触する面B,Cを説明する図である。
【図15】この図は、刃体の刃裏を円盤砥石で研削して円筒の内面状の湾曲凹部を形成する行程を説明する図である。
【図16】この図は、刃先線が後退する様に設けられると、カット鋏の開き角度が同じでもカット鋏の開き奥行きが深くなることを説明する図である。
【図17】この図は、カット鋏は、刃先と刃先の交点が先端に近いほど、その交点角度が小さくなることを説明する図である。
【図18】この図は、カット鋏の刃先線が凸状であると、鋏の先端寄りでの交点角度が広くなることを説明する図である。
【図19】この図は、刃先線が後退した時には刃裏の凹部も後退しなければならないことを説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 カット鋏
10 一方の刃体としての動刃
20 他方の刃体としての静刃
11,21 刃部
12,22 柄部
13,23 背
14,24 枢着部分
15,25 刃側端部
18a 第一の凹部
18b 第二の凹部
26 凹部
27 ネジ穴
28 湾曲凹部の周縁
29 触面
A 一方の刃体(動刃)の刃先線
B 他方の刃体(静刃)の刃先線
K 母線
Ka 第一の母線
Kb 第二の母線
La,Lb 中心線
Ma,Mb 当接線
P 刃先線同士の交点
Q 枢着の軸心
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次ぎに本願発明の実施形態を、図をもって説明する。
この実施例のカット鋏1は、図1〜2に示す様に、刃部11,21と柄部12,22を有する刃体の2本(動刃10、静刃20)を枢着させた理美容用のカット鋏である。
【0026】
一方の刃体である動刃10は、図3に示す様に、刃先線Aが、刃体先端と枢着軸とを結ぶ様に形成されている。またこれにより、刃先線Aは枢着部分14の刃体幅の刃側端部15よりも、背13側に後退した線と成る。また鋏の外形線だけを透視させた図4に示す様に、この刃先線Aは、中心線Laにほぼ重なる様な近接したものとなっている。
【0027】
また枢着部分14と刃部11との接続部分に段部16を有して、刃部11自身が背13側に枢着部分14の刃体幅の約半分程度後退した配置関係になっている。つまり、一方の刃体の背は、刃先線の後退分に相当するだけの後退させてあるのである。そして、この背13側も、枢着部分14との境界部分が凹曲形状を介した突部17になっていて、特異なデザインとなっている。
【0028】
他方の刃体である静刃20の刃先線Bは、図4に示す様に、刃体先端と枢着部分24の刃側端部25付近とを結ぶ線と成るように形成されている。更に、刃先線Bの中間部分Zは、動刃10の刃先線Aの後退に追従するように膨出した形状に形成されている。具体的には、刃先線の両端を結ぶ直線から2.0mmだけ突き出ている。これにより、一方の刃先線Aは直線に近似した形状であり、他方の刃先線Bの形状は、後退している一方の刃先線Aよりも膨出した形状になっていて、双方は刃先線の形状が異なっている。
なお、この実施例のカット鋏は、一方の刃先線の後退が大きいものであるが、後退がこの例ほど大きくなければ、膨出により突き出す量が、1.8mm、或いは1.6mm程度であってもよい。
【0029】
以上の様に、他方の刃体である静刃20は、その刃体21の基端Xから先端Yまでの刃先線Bが、凸状に湾曲して形成されている。そして基端X寄りでは刃先線Bは中心線Lbと平行に近い状態であり、この刃先線Bが先端Yに近づくと次第に背23側に反り返る状態に湾曲している。またこの静刃20は、その背23の基端Xから先端Yにかけての形状が、刃先線Bの凸状形状に概ね沿った凹状に形成されている。
【0030】
図5には、カット鋏を分解した際の、他方の刃体20の刃裏を示した。この他方の刃体20の刃裏には、湾曲凹部26が設けてあり、この凹部26の一番低い位置の母線Kは、枢着部分24からネジ穴27を通って発進し、刃先線Bに平行な母線Kを描きながら凹部26が形成してある。具体的には図15に示した様な円盤砥石300を宛って研削したものであり、その頂点301をこの母線K上に移動させたものである。
ただこの母線Kは、実際には先端Yに近づくにつれて、刃先線Bから少しづつ離れる様になっており、よって正確には平行ではない。この様に母線Kを刃先線Bから離してゆくと、2本の刃体を枢着した時には、先端Yになるほど、刃先が相手刃体側に向けたカーブした状態となり、2本の刃体は互いの刃先が押し合うこととなるので、側圧が得られやすくなり、その結果、鋏の切断には良好な状態となるからである。
また枢着部分24に宛う時は、刃裏から離してある円盤砥石300を移動させながら次第に近づけるので、図5に示す様に、湾曲凹部の周縁28が半円状となり、この周縁28の周囲には、相手刃体と接触する触面29が設けられている。
【0031】
また図6には、分解した時の一方の刃体10の刃裏を示したが、この刃裏には、第一の凹部18aと第二の凹部18bが設けられている。
第一の凹部18aは、そのネジ穴を中心とした枢着部分14に設けられたものであり、その第一の母線Kaが、刃部の長手方向に揃っている。また第一の凹部18aの周縁も半円状となっていて、この周縁の周囲に形成されている触面19が相手刃体20の触面29と接触する様になっている。
第二の凹部18bは、第一の凹部18aに隣接した刃部の基端Xから発進しており、その第二の母線Kbは、第一の母線Kaよりも背側13に後退させた位置から発進させてある。そして、刃先線Aからの距離は基端Xの幅半分離れた距離Dで発進し、刃先線Aから僅かづつ離れながら延びさせ、背側13に抜ける様に描かせてある。よって第二の凹部18bは、この第二の母線Kbに従った配置と形状の湾曲凹部に形成されている。
【0032】
このカット鋏1を開く時、図7(a)に示す様に、仮に柄部12,22を15度開いた時のカット鋏1は、奥行きがW1となる。これを、図7(b)に示す様な、従来技術で示したカット鋏100を同じく15度開いた時の奥行きW2と較べると、実施例のカット鋏1の方が、刃部11及び刃先線Aの後退量に見合った分だけ奥行きW1が広くなっている。
そのため髪を切る時には、カット鋏1の柄部12,22を開く角度が小さくても、開かれた鋏1の奥行きが比較的深くなり、従って、鋏1を持つ手は、指の開閉幅が少ない動きであっても、鋏を必要な奥行きに開くことができるのであり、結果、理美容師の負担が軽減されるのである。
【0033】
又この鋏1を、開き角度を5度にして、鋏1の先端付近を使う時には図8(a)に示す様な交点角度θ1となる。このθ1は、図8(b)に示した鋏の交点角度θ2とほぼ同じであり、つまり刃先の先端Y付近での交点角度は、小さくなり過ぎることなく、髪を切るのに適した大きさの交点角度が確保されているのである。これはその静刃20の刃先線Bが、先端Y付近で背23側に反り返っているからであり、つまり静刃20の刃先線Bの凸状によるものである。
そのため、鋏の先端で髪を切る時にも、髪は程良く滑って切ることができ、滑らない場合の閉じ抵抗が生じることもなく、スムーズに髪を切ることができる。
【0034】
また以上の様に、一方の刃体の刃先線が後退しているが、その刃裏の湾曲凹部は、その第二の母線を後退させて設けてあるので、相手となる他方の刃先と確実の接触することができ、髪を確実に切ることができるのである。
【技術分野】
【0001】
この発明は、刃部と柄部を有する刃体の2本を枢着させた理美容用のカット鋏の改良に関し、詳しくは、鋏を握る手の開閉操作が僅かでも鋏が奥まで開くことのできるカット鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
理美容用の鋏には、2本の刃体が共に直線状の刃を備えている通常の鋏と、一方の刃が櫛状になった梳鋏があるが、本明細書では、通常の鋏をカット鋏と呼ぶ。また、刃体の先端側半分の刃の付いた部分を本明細書では「刃部」と云う。
【0003】
カット鋏で髪を切る時には、理美容作業の各段階に応じて鋏の使い方も様々である。例えばこの刃部の先端で髪を切る場合や、刃部の中央付近で切ったり、或いは比較的、刃部の基端寄り(枢着軸より)から切るなど、様々に使い分けている。鋏で髪を切る時は、押し切りよりも引き切りの方がよく切れるのであるが、髪は、閉じる鋏の刃先を滑りながら切られるので、引き切りされているのである。また1回の閉じ操作で多くの髪を切ろうとする場合には、鋏は刃部をなるべく奥まで開いて深く髪をくわえさせ、これにより髪の滑る長さを長く確保しておくのである。
【0004】
例えば図9に示したのはカット鋏100を15度開いている様子であり、2本の刃体110,120は、その中心線(枢着の軸芯Qと、刃部111,121の先端Yとを繋いだ直線)La,Lb同士が、15度に開いた角度αになっている。また開いた刃部111,121の開口は、その奥行きWが図示された様な深さになる。中心線La,Lb同士の交点Qは当然枢着軸の位置となるが、開口の奥行きWは刃先線A,B同士の交点位置Pとなる。そしてこの奥行きW(即ち交点位置P)は、刃先線A,Bが中心線La,Lbから離れると浅くなる。逆に、刃先線A,Bが中心線La,Lbに近づくと、奥行きWは深くなる関係にある。
【0005】
尚この時、柄部112,122同士も15度開いた状態となる。例えば図9に示した様に、「指環112aが相手の指環122aと当接する点Ra,Rb」と、「枢着の軸芯Q」とを結ぶ線Ma、Mb(以下、「当接線Ma、Mb」という)が、15度に開いた角度βになっているのである。カット鋏100を閉じた時には、指環112a,122a同士が図10に示す様に当接するのであり、よって当接線Ma、Mbも重なるのである。また刃部の中心線La、Lbも同様に重なるのである。
【0006】
以上の例は、刃部の中心線La,Lbと、柄部の当接線Ma,Mbとが、一直線に繋がっていた例である。
しかし図11に示すカット鋏200の様に、柄部212,222の設け方によっては、中心線La,Lbと当接線Ma,Mbが必ずしも一直線にはならず、異なった方向になることもある。この場合でも図12に示す様に、柄部の当接線Ma,Mbの開き角度βと、中心線La,Lbの開き角度αはいつも同じになり、柄部を15度開いたら刃部もその中心線が15度開く点は同じである。
【0007】
また理美容用の鋏は、刃体の裏面が、図13の概念図に示す様な円筒200の内面状を成した湾曲凹部に形成されている。つまり、理美容用の鋏は、図13の円筒200から、部分202を曲線201で切り落とし、残りの部分203が刃部となり、204が刃先となっている。この図13中に示された一点鎖線Kは、この図中で一番低い部分に引かれた母線Kである。
刃体の刃裏にこの様な湾曲凹部が設けられている理由は、鋏を開閉操作させる時に、2本の刃体の刃先が確実に触れあう様にするためである。つまり、鋏は刃先同士が接触しなければ髪を切ることができないのである。ところが、刃体の裏面が凹んでいないと鋏はその裏面同士が触れ合ってしまう事があり、この様に裏面同士の触れ合うと刃先同士の接触を妨げてしまう事となってしまう。よってこの様に刃裏同士の触れあうことのない様に、刃裏は湾曲凹部に形成されているのである。
【0008】
この母線Kは、原則、図13に示す様に刃先線204と平行に成るのが技術的に正しいとされている。図14は実際の刃体210の刃裏211を示しているが、刃先線212は、図14に示す様に僅かにカーブしていて完全な直線ではなく、そのカーブは刃部の中央で僅かに突き出ている。この突き出しは、刃先線の両端を結ぶ直線に対して、0.3〜0.5mmとか、或いは大きくても0.数mm程度の突き出しであり、よって刃先線212は直線に近似している。従って母線Kもこれに沿って、僅かにカーブした直線に近似する線となっている。またその際に、この母線Kは刃体の枢着用のネジ穴213を通る様にして、1本の線に引かれている。そして図14に示した様に、母線Kが刃先線212に沿っていて、刃体の背側214に抜ける様にして、円筒の内面状の湾曲凹部が形成されている。
【0009】
刃裏211のこの湾曲凹部は、一般には図15に示す様に円盤砥石300で研削されている。そしてこの円盤砥石300を、その頂点301が上述した母線Kを描く様に移動させながら、刃裏の湾曲凹部を研削するのである。その際には刃部の部分だけではなく、ネジ穴の上も通過させて、枢着部分215の刃裏も同時に研削させるのである。これにより枢着部分215に現れた湾曲凹部の周縁216が、図14に示した様に半円状となり、この周縁の周囲には、図14で黒く塗りつぶして示した触面217が形成される。この触面217は、刃裏の研削されなかった平らな面が残ったものであるが、2本の刃体をネジで枢着した時には、この触面217が互いに触れ合う面となる。更に、刃先に沿って黒く塗りつぶして示した部分218は、相手の刃先と触れあう部分である。要する図14で黒く塗りつぶした部分217、218が相手の刃体と触れあう部分であり、その他の白い部分全ては湾曲凹部となって、相手の刃体とは触れ合わない部分なのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
カット鋏を奥まで開くには、その分、柄部を大きく開かなければならず、その結果、鋏を持つ指をその分大きく開かなければならない。しかし理美容師は終日鋏を使っており、その間は、絶えず鋏の開閉操作を繰り返して行っているので、この開閉操作の負担はなるべく少ないのが好ましい。その為には、柄部の開閉幅が僅かであっても、刃部の奥行きが深くなる様に開かれるのが望ましい。指の開閉幅が小さくても、鋏の開口が深く開けば、理美容師の負担が軽くなるからである。
よって本願発明では、柄部の開き角度に対して、刃部が比較的奥まで開き、また髪の切り易いく理美容用のカット鋏を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本願発明に関する手段を、後述する実施形態で用いる図を引用しながら説明する。
(1)本願発明では、2本の刃体を枢着した理美容用のカット鋏であって、一方の刃体の刃先線が、刃体先端と、刃体の枢着部分(図3の符号14参照)の刃側端部(同図の符号15参照)よりも後退した位置と、を通る様に形成されることにより、前記端部よりも刃体の背側に後退した線に形成される様にした。一般に、カット鋏の刃先線は僅かに湾曲しているがほぼ直線に近似されるのであり、この直線に近似される刃先線が後退する様に設けたものである。
(2)また他方の刃体の刃先線は、この刃先線の中間部分(図4の符号Z参照)が、前記一方の刃体の刃先線の前記後退に追従するように膨出した形状に形成される様にした。
(3)また2本の刃体の刃裏は、円筒の内面状を成す湾曲凹部が、前記円筒が刃体長手方向となる向きで刃裏に設けられている。
その際に、一方の刃体の前記凹部は、以下の第一の凹部と第二の凹部とを有している。即ち第一の凹部は、この凹部の底に引かれる第一の母線が、枢着部分に設けられた枢着用のネジ穴を通過する様に設けられた凹部である。また第二の凹部は、この凹部の底に引かれる第二の母線が、刃部の基端において、前記第一の母線よりも背側に後退した位置から発進する様に形成されたものである(以上、請求項1参照)。
【0012】
(4)請求項1においては、一方の刃体は、その刃先線の通る位置として、刃体先端と「刃側端部よりも後退した位置」とを示したが、この「…後退した位置」を、「枢着軸」に限定してもよい(請求項2参照)。なお、この枢着軸は刃側端部よりも後退した位置である。
つまり直線に近似した刃先線Aが、図3に示す様に、枢着軸の軸芯近傍を通過するようなものをいう。又この軸芯近傍とは、例えば枢着部分の刃体幅が11mmであれば、軸心を中心とする半径1mm、或いは1.5mmの小円内を通過する様なものであってもよい。或いは刃体幅の10%以内となる半径の小円内を通過する様なものであってもよい。
【0013】
以上の(1)或いは(4)の構成を有することにより、本願のカット鋏においては、その双方の刃先線は異なった形状の線となる。即ち、一方の刃先線は膨出した形状であるのに対し、他方の刃先線は直線に近似した形状の線である。
この点、一般のカット鋏は、双方の刃先線は共に直線に近似しており、厳密に見た場合には僅かにカーブしていてもそのカーブは同じ形状であるが、本願は異なっている。
【発明の効果】
【0014】
以上により、本願のカット鋏は、刃部が後退していないカット鋏に較べて、鋏の開きの奥行きが深くなる。即ち、一方の刃先が後退していると、その刃先線は、開いた鋏の相手の刃先線から、後退している分だけ遠ざかることとなり、その分、鋏の開きの奥行きが深くなるのである。
【0015】
例えば、請求項2に記載した様な、刃先線の基端側が枢着軸を通る様な線であると、図4に示す様に、この刃先線Aは中心線Laに近接することとなる。この点、図9や図11に示した様な一般的なカット鋏では、その刃先線Bは、本願の様には後退しておらず、詳しくは「枢着部分の幅方向の端部(図9の符号125、図11の符号225)」を結ぶ線となっている。
そしてこの様な一般的な刃先線Bと比べると、本願は背13側に後退した刃先線となっており、図4に示した様に、中心線La,Lbの開き角度が同じでも、刃先線の交点が奥まった位置となる。つまり刃部が後退していないカット鋏に較べて、鋏の開きの奥行きが深くなるのである。
【0016】
また(2)の構成は、この刃先線の中間部分が、前記一方の刃体の刃先線の後退に追従するように膨出した形状であるが、これにより、鋏を閉じる時にスムーズに髪を切ることができるのである。これは次の様な理由による。
【0017】
一般に髪を切る時には、鋏は、その刃先線同士の交点での交叉角度(以下、「交点角度」という)に適切な角度範囲があり、この角度は狭すぎても広すぎても適切ではない。それは、交点角度が広過ぎると、2本の刃体で挟んだ髪が、鋏を閉じる時に刃先を滑り過ぎるので、髪が逃げて捉えることができず、その為に髪を切ることができないからである。
また逆に狭すぎると滑らなくなり、髪を押し切りすることとなるので、切る時の閉じ操作に負荷がかかって切り難くなるのである。
【0018】
一方、中心線が同じ開き角度であっても、鋏の開口の奥行きを深くしようとすると、交点角度が小さくなる傾向にある。図16は、鋏の開き角度を同じにしながらも、刃先線の設け方を2パターンにした鋏を概念的に示した図である。この図に示した2パターンの刃先線((A1,B)と(A2,B))の様に、中心線La,Lbの開き角度が同じでも、その交点P1とP2とでは、奥行きが深い交点P2の方が、交点角度が(θ1>θ2)と小さくなるのである。これは、奥行きを深くすることのできる本願発明のカット鋏は、交点角度が小さくなってしまうことを意味する。
そして、交点角度が狭いと、髪を押し切りするための切り難さの問題が出てしまう。
【0019】
ところで、この交点角度に関しては、更に以下の様な別の事情がある。即ち、図17の(a)と(b)に示す様に、鋏は一般にその交点Pが刃部の先端に近いほど交点角度θが小さくなる。本願発明の様に交点角度が小さくなる鋏の場合には、鋏の先端寄りの交点角度の方が一層小さくなる。その結果、鋏の先端寄りでは、交点角度が髪を切るのに適した角度範囲を下回ってしまい、髪が切り難くなってしまう。つまり、交点角度θが小さくなると2本の刃先線は次第に平行に近づき、髪は滑ることができず、髪を押し切りする状態になって閉じ抵抗も大きくなり、切り難くなってしまうのである。この様に、交点角度が狭いために切りにくくなる問題は、鋏の先端側で生じ易い問題である。
【0020】
これに対して本願発明の(2)の構成では、図18に例示する様に、一方の刃先線Aの後退に追従するように、もう一方の刃先線B1を凸状に膨出した形状に形成した。この様に、他方の刃先線B1が、基端Xから先端Yにかけて湾曲して形成されていると、この刃先線B1は、先端Y寄りでは刃部21の背側23に反り返った形状が得られる。その為に同じ交点位置Pであっても、この様な凸状に湾曲していない刃先線B2の交点角度θ2に較べて、大きな交点角度θ1を得ることができるのである。この様に交点角度を大きくすることにより、髪を切るのに適した交点角度の確保ができるのであり、髪も切りやすくなるのである。
【0021】
また(3)の様な構成を有すことにより、互いの刃先は、切断に必要な確実な接触をすることができる。
即ち、図19に示す様に、刃先線が後退している一方の刃体10の刃裏に、第一の凹部18aの母線Kaと同じ母線で第二の凹部18bを形成させると、刃先Sが相手刃先から離れてしまって(図19の符号G参照)、接触することかできなくなってしまう不都合が生じるからである。その為に、後退した刃先線Aに対応して湾曲強凹部(第二の凹部)も後退させる必要があり、それを母線の後退という形で表現したものである。これにより、刃裏の湾曲凹部を第二の凹部として適切な配置とすることができ、刃先同士の接触が良好となるのであり、結果的に良好な切断性能を得ることができるのである。
【0022】
(5)また本願発明は、一方の刃体の背(刃の反対側)を、刃先線の後退分に相当するだけ、後退させてある(請求項3参照)。鋏は一般に、その2本の刃先が、刃裏面に垂直方向の力で互いに押し合う力(これを「側圧」という)必要があり、この側圧が切断性能を維持する要素の一つになっている。この様な側圧がないと、髪を切る時に、刃先同士が(刃裏面の垂直方向に)離れて、刃先同士に隙間ができてしまい、切断性能に支障をきたす事があるからである。従って刃部は、この様な側圧を出せるだけの強度や太さが必要である。
この点、刃先線が後退すると、その後退した分だけ刃部の幅が狭くなり、よって刃部の強度も弱くなるが、本願においては峰を後退させたので刃部の幅を狭くなることを避けることができ、よってその強度を維持することができ、これにより十分な側圧を得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この図は、実施の形態に示したカット鋏の平面図である。
【図2】この図は、図1のカット鋏の底面図である。
【図3】この図は、図1のカット鋏を開いた時の底面図である。
【図4】この図は、カット鋏を開いたときの鋏の外形線を透視して描いた図である。
【図5】この図は、他方の刃体である静刃の刃裏を示す図である。
【図6】この図は、一方の刃体である動刃の刃裏を示す図である。
【図7】この図は、(a)本願発明の実施例のカット鋏と、(b)本願発明以外のカット鋏とを共に同じ15度の角度だけ開いた時の、それぞれの奥行きを比較した図である。
【図8】この図は、(a)本願発明の実施例のカット鋏と、(b)本願発明以外のカット鋏とを、共に図7よりは小さい5度の角度だけ開いた図であり、それぞれの奥行きを比較するとともに、交点角度がほぼ同じであることを示している。
【図9】この図は、従来のカット鋏を15度開いた図である。
【図10】この図は、図9のカット鋏を閉じた図である。
【図11】この図は、従来の別のカット鋏の図である。
【図12】この図は、図9のカット鋏を15度開いた図である。
【図13】この図は、刃裏の湾曲凹部が、円筒の内面状をなしていることを説明する図である。
【図14】この図は、刃裏に設けられた湾曲凹部とその母線を説明し、合わせて相手の刃体と接触する面B,Cを説明する図である。
【図15】この図は、刃体の刃裏を円盤砥石で研削して円筒の内面状の湾曲凹部を形成する行程を説明する図である。
【図16】この図は、刃先線が後退する様に設けられると、カット鋏の開き角度が同じでもカット鋏の開き奥行きが深くなることを説明する図である。
【図17】この図は、カット鋏は、刃先と刃先の交点が先端に近いほど、その交点角度が小さくなることを説明する図である。
【図18】この図は、カット鋏の刃先線が凸状であると、鋏の先端寄りでの交点角度が広くなることを説明する図である。
【図19】この図は、刃先線が後退した時には刃裏の凹部も後退しなければならないことを説明する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 カット鋏
10 一方の刃体としての動刃
20 他方の刃体としての静刃
11,21 刃部
12,22 柄部
13,23 背
14,24 枢着部分
15,25 刃側端部
18a 第一の凹部
18b 第二の凹部
26 凹部
27 ネジ穴
28 湾曲凹部の周縁
29 触面
A 一方の刃体(動刃)の刃先線
B 他方の刃体(静刃)の刃先線
K 母線
Ka 第一の母線
Kb 第二の母線
La,Lb 中心線
Ma,Mb 当接線
P 刃先線同士の交点
Q 枢着の軸心
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次ぎに本願発明の実施形態を、図をもって説明する。
この実施例のカット鋏1は、図1〜2に示す様に、刃部11,21と柄部12,22を有する刃体の2本(動刃10、静刃20)を枢着させた理美容用のカット鋏である。
【0026】
一方の刃体である動刃10は、図3に示す様に、刃先線Aが、刃体先端と枢着軸とを結ぶ様に形成されている。またこれにより、刃先線Aは枢着部分14の刃体幅の刃側端部15よりも、背13側に後退した線と成る。また鋏の外形線だけを透視させた図4に示す様に、この刃先線Aは、中心線Laにほぼ重なる様な近接したものとなっている。
【0027】
また枢着部分14と刃部11との接続部分に段部16を有して、刃部11自身が背13側に枢着部分14の刃体幅の約半分程度後退した配置関係になっている。つまり、一方の刃体の背は、刃先線の後退分に相当するだけの後退させてあるのである。そして、この背13側も、枢着部分14との境界部分が凹曲形状を介した突部17になっていて、特異なデザインとなっている。
【0028】
他方の刃体である静刃20の刃先線Bは、図4に示す様に、刃体先端と枢着部分24の刃側端部25付近とを結ぶ線と成るように形成されている。更に、刃先線Bの中間部分Zは、動刃10の刃先線Aの後退に追従するように膨出した形状に形成されている。具体的には、刃先線の両端を結ぶ直線から2.0mmだけ突き出ている。これにより、一方の刃先線Aは直線に近似した形状であり、他方の刃先線Bの形状は、後退している一方の刃先線Aよりも膨出した形状になっていて、双方は刃先線の形状が異なっている。
なお、この実施例のカット鋏は、一方の刃先線の後退が大きいものであるが、後退がこの例ほど大きくなければ、膨出により突き出す量が、1.8mm、或いは1.6mm程度であってもよい。
【0029】
以上の様に、他方の刃体である静刃20は、その刃体21の基端Xから先端Yまでの刃先線Bが、凸状に湾曲して形成されている。そして基端X寄りでは刃先線Bは中心線Lbと平行に近い状態であり、この刃先線Bが先端Yに近づくと次第に背23側に反り返る状態に湾曲している。またこの静刃20は、その背23の基端Xから先端Yにかけての形状が、刃先線Bの凸状形状に概ね沿った凹状に形成されている。
【0030】
図5には、カット鋏を分解した際の、他方の刃体20の刃裏を示した。この他方の刃体20の刃裏には、湾曲凹部26が設けてあり、この凹部26の一番低い位置の母線Kは、枢着部分24からネジ穴27を通って発進し、刃先線Bに平行な母線Kを描きながら凹部26が形成してある。具体的には図15に示した様な円盤砥石300を宛って研削したものであり、その頂点301をこの母線K上に移動させたものである。
ただこの母線Kは、実際には先端Yに近づくにつれて、刃先線Bから少しづつ離れる様になっており、よって正確には平行ではない。この様に母線Kを刃先線Bから離してゆくと、2本の刃体を枢着した時には、先端Yになるほど、刃先が相手刃体側に向けたカーブした状態となり、2本の刃体は互いの刃先が押し合うこととなるので、側圧が得られやすくなり、その結果、鋏の切断には良好な状態となるからである。
また枢着部分24に宛う時は、刃裏から離してある円盤砥石300を移動させながら次第に近づけるので、図5に示す様に、湾曲凹部の周縁28が半円状となり、この周縁28の周囲には、相手刃体と接触する触面29が設けられている。
【0031】
また図6には、分解した時の一方の刃体10の刃裏を示したが、この刃裏には、第一の凹部18aと第二の凹部18bが設けられている。
第一の凹部18aは、そのネジ穴を中心とした枢着部分14に設けられたものであり、その第一の母線Kaが、刃部の長手方向に揃っている。また第一の凹部18aの周縁も半円状となっていて、この周縁の周囲に形成されている触面19が相手刃体20の触面29と接触する様になっている。
第二の凹部18bは、第一の凹部18aに隣接した刃部の基端Xから発進しており、その第二の母線Kbは、第一の母線Kaよりも背側13に後退させた位置から発進させてある。そして、刃先線Aからの距離は基端Xの幅半分離れた距離Dで発進し、刃先線Aから僅かづつ離れながら延びさせ、背側13に抜ける様に描かせてある。よって第二の凹部18bは、この第二の母線Kbに従った配置と形状の湾曲凹部に形成されている。
【0032】
このカット鋏1を開く時、図7(a)に示す様に、仮に柄部12,22を15度開いた時のカット鋏1は、奥行きがW1となる。これを、図7(b)に示す様な、従来技術で示したカット鋏100を同じく15度開いた時の奥行きW2と較べると、実施例のカット鋏1の方が、刃部11及び刃先線Aの後退量に見合った分だけ奥行きW1が広くなっている。
そのため髪を切る時には、カット鋏1の柄部12,22を開く角度が小さくても、開かれた鋏1の奥行きが比較的深くなり、従って、鋏1を持つ手は、指の開閉幅が少ない動きであっても、鋏を必要な奥行きに開くことができるのであり、結果、理美容師の負担が軽減されるのである。
【0033】
又この鋏1を、開き角度を5度にして、鋏1の先端付近を使う時には図8(a)に示す様な交点角度θ1となる。このθ1は、図8(b)に示した鋏の交点角度θ2とほぼ同じであり、つまり刃先の先端Y付近での交点角度は、小さくなり過ぎることなく、髪を切るのに適した大きさの交点角度が確保されているのである。これはその静刃20の刃先線Bが、先端Y付近で背23側に反り返っているからであり、つまり静刃20の刃先線Bの凸状によるものである。
そのため、鋏の先端で髪を切る時にも、髪は程良く滑って切ることができ、滑らない場合の閉じ抵抗が生じることもなく、スムーズに髪を切ることができる。
【0034】
また以上の様に、一方の刃体の刃先線が後退しているが、その刃裏の湾曲凹部は、その第二の母線を後退させて設けてあるので、相手となる他方の刃先と確実の接触することができ、髪を確実に切ることができるのである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の刃体を枢着した理美容用のカット鋏であって、一方の刃体の刃先線が、
刃体先端と、刃体の枢着部分の刃側端部よりも後退した位置と、を通る様に形成されることにより、前記刃側端部よりも刃体の背側に後退した線に形成されると共に、
他方の刃体の刃先線は、この刃先線の中間部分が、前記一方の刃体の刃先線の前記後退に追従するように膨出した形状に形成され、
前記2本の刃体の刃裏は、円筒の内面状を成す湾曲凹部が、前記円筒が刃体長手方向となる向きで刃裏に設けられ、
且つ、前記一方の刃体の前記凹部は、この凹部の底に引かれる母線が、
前記枢着部分に設けられた枢着用のネジ穴を通過する様に設けられた第一の母線による第一の凹部と、
刃部の基端において、前記第一の母線よりも背側に後退した位置から発進する様に形成された第二の母線、による第二の凹部と
を有する事を特徴とするカット鋏。
【請求項2】
請求項1記載のカット鋏であって、一方の刃体の刃先線が、刃体先端と枢着軸とを通る様に形成された事を特徴とするカット鋏。
【請求項3】
請求項1又は2記載のカット鋏であって、一方の刃体の背を刃先線の後退分に相当するだけの後退させた事を特徴とするカット鋏。
【請求項1】
2本の刃体を枢着した理美容用のカット鋏であって、一方の刃体の刃先線が、
刃体先端と、刃体の枢着部分の刃側端部よりも後退した位置と、を通る様に形成されることにより、前記刃側端部よりも刃体の背側に後退した線に形成されると共に、
他方の刃体の刃先線は、この刃先線の中間部分が、前記一方の刃体の刃先線の前記後退に追従するように膨出した形状に形成され、
前記2本の刃体の刃裏は、円筒の内面状を成す湾曲凹部が、前記円筒が刃体長手方向となる向きで刃裏に設けられ、
且つ、前記一方の刃体の前記凹部は、この凹部の底に引かれる母線が、
前記枢着部分に設けられた枢着用のネジ穴を通過する様に設けられた第一の母線による第一の凹部と、
刃部の基端において、前記第一の母線よりも背側に後退した位置から発進する様に形成された第二の母線、による第二の凹部と
を有する事を特徴とするカット鋏。
【請求項2】
請求項1記載のカット鋏であって、一方の刃体の刃先線が、刃体先端と枢着軸とを通る様に形成された事を特徴とするカット鋏。
【請求項3】
請求項1又は2記載のカット鋏であって、一方の刃体の背を刃先線の後退分に相当するだけの後退させた事を特徴とするカット鋏。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【国際公開番号】WO2005/065895
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516806(P2005−516806)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017000
【国際出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(390038209)足立工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/017000
【国際出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(390038209)足立工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
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