説明

カテーテル及び検査システム

【課題】 対象物にレーザ光を効果的に照射可能なカテーテル及び対象物としての血栓を有効に溶解できる検査システムを提供する。
【解決手段】 金属マーカ5の位置と光ファイバ6とは位置関係は固定されており、金属マーカ5を血栓等の目的箇所の直近まで移動させることができる。なお、光ファイバ6の先端面の光ファイバ長手方向位置は、金属マーか5の先端面の光ファイバ長手方向位置に一致している。すなわち、目的箇所と光ファイバ6の先端との距離がX線撮影によって判明するため、多量の造影剤を使用したり、技能や勘に頼ってレーザ光を照射する必要が無くなり、効果的なレーザ光の照射が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル及び検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、直径2mm、長さが1m程度の柔らかい細管である。カテーテルは、大腿部の動脈から挿入して心臓や脳などの目的箇所まで進められる。カテーテルの先端から造影剤を流すと、X線撮影を行うことができる。
【0003】
カテーテルの孔にガイドワイヤーを通すものが知られている。大腿部からカテーテルを挿入する場合には、まず、ワイヤーを大腿部に挿入した後、カテーテルをガイドワイヤーに沿って送り出すことで、カテーテルを目的箇所まで到達させることができる。
【0004】
脳や心臓血管中の血栓の溶解治療においては、カテーテルを体内に挿入し、その先端部から血栓溶解剤(ウロキナーゼ薬)を放出することが行われている。また、レーザ光を用いた血栓溶解治療も知られている。レーザ光は血液によって減衰するため、幾つかの工夫が提案されている。
【0005】
下記特許文献1に記載の血栓溶解治療では、カテーテルの先端部から造影剤を放出しつつ、この造影剤内をレーザ光を進行させることでレーザ光の減衰を抑制し、血栓を溶解することができる旨が記載されている。レーザ光は、カテーテルに設けられた孔内を通って移動可能な光ファイバから出射されるとされている。
【0006】
下記特許文献2に記載の血栓溶解治療では、細管の先端部から突き出た光ファイバの先端からパルスレーザ光を出射し、超音波振動を生じさせ、血栓を溶解することができるとされている。
【特許文献1】特許第322885号公報
【特許文献2】特表2000−508938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のカテーテルではレーザ光と血栓との距離が不明瞭であるため、多量の造影剤を使用したり、技能や勘に頼ってレーザ光を出射していたため、効果的に血栓等の対象物にレーザ光を照射することができなかった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、対象物にレーザ光を効果的に照射可能なカテーテル及び対象物としての血栓を有効に溶解できる検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明に係るカテーテルは、ワイヤーを通すための孔を有する樹脂製の細管と、細管の先端部に取り付けられたマーカと、細管内に埋め込まれ、マーカとの位置関係が固定された光ファイバとを備えることを特徴とする。
【0010】
大腿部からカテーテルを挿入する場合には、まず、ワイヤーを大腿部に挿入した後、カテーテルをワイヤーに沿って送り出すことで、カテーテルを目的箇所まで到達させる。この場合、X線撮影を行うと、マーカが画面上に表示される。マーカとしてはX線を吸収する金属マーカが好適に使用される。この金属マーカの位置と光ファイバとは位置関係が固定されているので、金属マーカを血栓等の目的箇所の直近まで移動させることができる。すなわち、目的箇所と光ファイバの先端との距離が判明するため、多量の造影剤を使用したり、技能や勘に頼ってレーザ光を照射する必要が無くなり、効果的なレーザ光の照射が可能となる。
【0011】
光ファイバと前記細管との間に介在する樹脂材料を更に備えることが好ましい。樹脂材料は、カテーテルの湾曲時においても曲がり、光ファイバへの血液中の微量元素の進入を抑制することができる。したがって、光ファイバの劣化を防止することができる。
【0012】
このカテーテルを有する検査システムは、上記カテーテルと、カテーテルの光ファイバに入力する光を出射する光源とを備えることを特徴とする。ここで、光源がレーザ光源であって、レーザ光の中心波長λ、パルス幅T、繰り返し周波数fは、以下のように、設定されることが好ましい。
520nm≦λ≦590nm)
1μsec≦T≦100μsec
1Hz≦f≦10Hz
【0013】
この場合、血栓溶解に有効に作用し、また血管壁に対しては作用しないので、血栓を効率良く安全に短時間で溶解することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカテーテル及び検査システムによれば、対象物にレーザ光を効果的に照射することができ、対象物としての血栓を有効に溶解できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施の形態に係るカテーテル及び検査システムについて説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
図1はカテーテルの縦断面図である。
【0017】
カテーテル1は、ワイヤー2を通すための孔3を有する樹脂製の細管4と、細管4の先端部に取り付けられた金属のマーカ5と、細管4内に埋め込まれ、金属マーカ5との位置関係が固定された光ファイバ6とを備えている。
【0018】
細管4は、分岐部4aを有しており、分岐した一方の枝細管4X内を孔3が通り、他方の枝細管4Y内を光ファイバ6が通っている。細管4の先端部には白金等の金属からなる環状の金属マーカ5が嵌められ、細管4に固定されている。金属マーカ5は、金属材料の樹脂細管4へのメッキ又は蒸着によって形成してもよい。
【0019】
枝細管4Xの基端部には、Y型の分岐アダプタ7が固定されている。分岐アダプタ7は、ワイヤー挿入用貫通孔7aと、造影剤導入用貫通孔7bを有しており、これらの貫通孔7a及び7bは、枝細管4X側で接続して共通貫通孔7cを構成し、枝細管4Xの孔3に連通している。枝細管4Xと分岐アダプタ7とは、コネクタ8によって結合している。
【0020】
分岐アダプタ7の枝細管4X側の結合部7dは、外周に螺子部7yを有し、内側に共通貫通孔7cに連通する枝細管挿入穴7xを備えている。枝細管挿入穴7x内には枝細管4Xの基端部4X1が挿入されており、基端部4X1の外周は螺子部4X1Tを有する。
【0021】
コネクタ8は、有底筒体のキャップを構成しており、筒部の内面に螺子部8aを有し、底部の開口の内側に螺子部8bを有する。キャップとしてのコネクタ8を捩じ込むと、その内側の螺子部8a,8bが、結合部7dの外周及び基端部4X1の外周に形成された螺子部7y,4X1Tに螺合して、分岐アダプタ7が枝細管4Xに固定される。
【0022】
分岐アダプタ7の造影剤導入管9側の結合部7eは、外周に螺子部7fを有し、内側に造影剤導入用貫通孔7bに連通する造影剤導入管挿入穴7gを備えている。造影剤導入管挿入穴7g内には造影剤導入管9の基端部91が挿入されており、基端部91の外周は螺子部91Tを有する。
【0023】
コネクタ10は、有底筒体のキャップを構成しており、筒部の内面に螺子部10aを有し、底部の開口の内側に螺子部10bを有する。キャップとしてのコネクタ10を捩じ込むと、その内側の螺子部10a,10bが、結合部7eの外周及び基端部91の外周に形成された螺子部7f,91Tに螺合して、分岐アダプタ7に造影剤導入管9が固定される。
【0024】
分岐アダプタ7のワイヤー挿入用終端部7hは、外周に螺子部7iを有し、終端面上にワイヤー挿入用貫通孔7aを塞ぐパッキン11を備えている。
【0025】
終端キャップ12は有底筒体であり、筒部の内面に螺子部12aを有している。キャップ12を捩じ込むと、その内側の螺子部12aが、ワイヤー挿入用終端部7hの外周に形成された螺子部7iに螺合して、パッキン11がワイヤー挿入用終端部7hに押し付けられる。円柱状のパッキン11は中央にワイヤー通し孔11aを有しており、ワイヤー通し孔11a内をワイヤー2が通っている。
【0026】
枝細管4Yの基端部には、コネクタ13を介して別の光ファイバ61が固定され、枝細管4Y内部の光ファイバ6は光ファイバ61と光学的に結合している。光ファイバ61の外周にはフェルール61aが装着されている。コネクタ13は、コネクタ本体13Xと、コネクタ本体13Xの両端に設けられたキャップ13Y,13Zからなる。コネクタ本体13Xは、枝細管挿入穴13aと、フェルール挿入用穴13bを有しており、これらの挿入穴13a及び13bは、コネクタ内部で連通している。
【0027】
コネクタ本体13Xの枝細管4Y側の結合部13dは、外周に螺子部13yを有している。枝細管挿入穴13a内には枝細管4Yの基端部4Y1が挿入されており、基端部4Y1の外周は螺子部4Y1Tを有する。
【0028】
キャップ13Yは有底筒体を構成しており、その筒部の内面に螺子部13Yaを有し、底部の開口の内側に螺子部13Ybを有する。キャップ13Yを捩じ込むと、その内側の螺子部13Ya,13Ybが、結合部13dの外周及び基端部4Y1の外周に形成された螺子部13y,4Y1Tに螺合して、枝細管4Yがコネクタ13に固定される。
【0029】
コネクタ本体13Xのフェルール側の結合部13eは、外周に螺子部13fを有している。フェルール挿入穴13b内には光ファイバ61を内包したフェルール61aが挿入されている。キャップ13Zは有底筒体を構成しており、その筒部の内面に螺子部13Zaを有する。キャップ13Zを捩じ込むと、その内側の螺子部13Zaが、結合部13eの外周に形成された螺子部13fに螺合して、フェルール61aがコネクタ13に固定される。したがって、フェルール61a及び枝細管4Yがコネクタ13によって結合し、それぞれの内部に存在する光ファイバ61と光ファイバ6が光学的に結合する。
【0030】
光ファイバ61にはレーザダイオードLD(光源)からレーザ光が導入されているため、レーザ光は光ファイバ6に入力され、カテーテル1の先端から出射される。
【0031】
大腿部から体内にカテーテル1を挿入する場合には、まず、細管4の内部をスライドするワイヤー2を大腿部に挿入した後、カテーテル1をワイヤーに沿って送り出すことで、カテーテル1を目的箇所まで到達させる。この場合、カテーテル先端部のX線撮影を行うと、金属マーカ5が、X線撮影装置の画面上に表示される。
【0032】
金属マーカ5の位置と光ファイバ6とは位置関係は固定されており、金属マーカ5を血栓等の目的箇所の直近まで移動させることができる。なお、光ファイバ6の先端面の光ファイバ長手方向位置は、金属マーか5の先端面の光ファイバ長手方向位置に一致している。すなわち、目的箇所と光ファイバ6の先端との距離がX線撮影によって判明するため、多量の造影剤を使用したり、技能や勘に頼ってレーザ光を照射する必要が無くなり、効果的なレーザ光の照射が可能となる。
【0033】
換言すれば、光ファイバ6の先端を血栓に接触する程度まで近づけることができる。このような状態であれば、光ファイバ6からの特定波長、特定のパルス幅、繰り返し周期のレーザ光を照射するのみで、より安全に血栓を溶解することが可能となる。
【0034】
なお、目的箇所のX線撮影を行う場合には、必要に応じて造影剤(ヨード含有水性造影剤)を造影剤導入管9を介して導入し、貫通孔7b、7c、3を通って、カテーテル1の先端から放出させる。なお、造影剤の導入時には、ワイヤー2をカテーテル1の細管4から抜くことが好ましい。
【0035】
図2は図1に示したカテーテルのII−II矢印断面図である。
【0036】
光ファイバ6は、樹脂製の細管(本体)4内に埋設されており、その長手方向が細管4の長手方向に一致している。光ファイバ6の中心位置は、細管4の長手方向に垂直な断面内の中心位置からずれており、光ファイバ6に併設して設けられた孔3の内部にはワイヤー2が通っている。細管4の材料は、テフロン(登録商標)等である。
【0037】
光ファイバ6と細管4との間には樹脂材料14が介在している。樹脂材料14は、カテーテル1の湾曲時においても曲がり、光ファイバ6への血液中の微量元素の進入を抑制し、光ファイバ6の劣化を防止することができる。樹脂材料14は弾性材料であって、シリコーン樹脂等から構成される。なお、樹脂材料14を用いず、直接、細管4内に光ファイバ6を埋設してもよい。
【0038】
光ファイバ6の埋設する方法としては、金型成型にて1つの孔の空いた細管4を構成した後、一方の細孔内に固化前の樹脂材料14を被覆した光ファイバ6を通し、樹脂材料14の固化後に細管4の先端部を光ファイバ6と共に切断する方法が挙げられる。この先端部は機械研磨を行う。
【0039】
また、別の方法としては、固化した樹脂材料14で被覆した光ファイバ6と、ピアノ線等の成型用ワイヤーとを、細管4の金型内に配置し、この金型内に細管形成材料を導入して固化させた後、成型用ワイヤーを細管4から引き抜き、しかる後、細管4の先端部を光ファイバ6と共に切断する方法が挙げられる。この先端部は機械研磨を行う。
【0040】
更に、細管4を分岐する方法は、上記金型成型の他、完成後の1本の細管を途中まで引き裂くことで分岐させる方法が挙げられる。
【0041】
光ファイバ6は、石英ガラスからなるコア6a及びコア6aの周囲に位置するクラッド6bからなる。光ファイバ6のコア6a内を通過したレーザ光が、先端面から出射する。
【0042】
図3は図1に示したカテーテルを接続する検査システムのブロック図である。
【0043】
上述のように、この検査システムでは、光ファイバ6からの特定波長、特定のパルス幅、繰り返し周期のレーザ光を照射するのみで、より安全に血栓を溶解することができる。本検査システムは、カテーテル1と、カテーテル1の光ファイバ6に入力するレーザ光を出射するレーザダイオードLDと、レーザダイオードLDの駆動回路DRVとを備えている。
【0044】
レーザ光の中心波長λ、パルス幅T、繰り返し周波数fは、以下の関係を有する。
中心波長λ:532nm(有効波長:520nm≦λ≦590nm)
1μsec≦T≦100μsec
1Hz≦f≦10Hz
【0045】
この場合、血栓溶解に有効に作用し、また血管壁に対しては作用しないので、血栓を効率良く安全に短時間で溶解することができる。なお、レーザ光の出力は10〜100mJに設定される。
【0046】
駆動回路DRVのレーザ駆動条件は、制御装置CONによって設定される。カテーテル1の体内への挿入後、ワイヤー2を引き抜き、必要に応じて造影剤注入装置INJから造影剤を造影剤導入管9内へ放出する。造影剤注入装置INJは、制御装置CONによって制御される。
【0047】
血栓とマーカ5(図1参照)の画像が、X線撮影装置XIで取得されると、この画像データは制御装置CONの表示器DSPに転送され、表示器DSP上に表示される。血栓とマーカ5が画面上の目視で接触するまで近接したら、制御装置CONから駆動回路DRVに制御信号を入力し、レーザダイオードLDを上記条件で駆動する。これにより、非常に安全で効率的に血栓を溶解することができる。
なお、上記実施形態では、光源として、レーザ光源(レーザダイオードLD)を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、発光ダイオードや、DPSSレーザ(Diode Pumped Solid-State Laser)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、カテーテル及び検査システムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】カテーテルの縦断面図である。
【図2】図1に示したカテーテルのII−II矢印断面図である。
【図3】図1に示したカテーテルを接続する検査システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0050】
1・・・カテーテル、2・・・ワイヤー、3・・・孔、5・・・マーカ、6・・・光ファイバ、7・・・分岐アダプタ、8・・・コネクタ、9・・・造影剤導入管、10・・・コネクタ、11・・・パッキン、12・・・終端キャップ、13・・・コネクタ、61a・・・フェルール、61・・・光ファイバ、DRV・・・駆動回路、DSP・・・表示器、INJ・・・造影剤注入装置、LD・・・レーザダイオード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーを通すための孔を有する樹脂製の細管と、
前記細管の先端部に取り付けられたマーカと、
前記細管内に埋め込まれ、前記マーカとの位置関係が固定された光ファイバと、
を備えることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記光ファイバと前記細管との間に介在する樹脂材料を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
請求項1に記載のカテーテルと、
前記カテーテルの前記光ファイバに入力する光を出射する光源と、
を備えることを特徴とする検査システム。
【請求項4】
前記光源はレーザ光源であって、
前記レーザ光の中心波長λ、パルス幅T、繰り返し周波数fは:
520nm≦λ≦590nm
1μsec≦T≦100μsec
1Hz≦f≦10Hz
のように、設定されることを特徴とする請求項3に記載の検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−117189(P2007−117189A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310218(P2005−310218)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(505399063)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】