説明

カテーテル

【課題】遠位端部を良好に屈曲させることができるとともに、さまざまな角度に分岐する体腔に対して自在に進入させることのできるカテーテルを提供する。
【解決手段】カテーテル10は、長尺の管状本体(シース16)の内部に、メインルーメンと、メインルーメンよりも小径のサブルーメン30とが管状本体(シース16)の軸AXに沿って形成されている。そして、カテーテル10は、サブルーメン30に摺動可能に挿通されてカテーテル10の遠位端部15に固定された操作線40の近位端部17を牽引することにより、カテーテル10の遠位端部15が、軸AXに対して屈曲するとともに軸AXまわりに旋回する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠位端部を屈曲させることにより体腔への進入方向が操作可能なカテーテルが提供されている。この種の技術に関し、下記特許文献1には、カテーテルの遠位端を屈曲させる態様の一つとして、遠位端に固定された押し/引きワイヤを近位端側で操作する発明が記載されている。
押し/引きワイヤは、ガイドワイヤを挿通する主管腔よりも小径のワイヤ管腔に貫通されており、これを引っ張ることでワイヤ管腔側にカテーテルの遠位端が屈曲し、押し込むことで逆側に屈曲するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−507305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載の発明では、以下の二つの問題が生じる。
第一に、押し/引きワイヤをカテーテルに押し込んだ場合に、カテーテルの遠位端部はワイヤ管腔と逆側には必ずしも屈曲しない。すなわち、押し/引きワイヤを引っ張った場合にはカテーテルの遠位端部がワイヤ管腔側に屈曲することが予想されるものの、押し/引きワイヤを押し込んだ場合には、遠位端部はもっぱら真っ直ぐ伸張されるに留まり、ワイヤ管腔の逆側にはほとんど屈曲しない。
第二に、上記発明では、押し/引きワイヤを牽引した場合にも、カテーテルの遠位端部はまっすぐワイヤ管腔側に屈曲するのみである。このため、さまざまな方向に分岐する体腔に対してカテーテルを進入させるためには、その都度、カテーテルに回転トルクを与えて、分岐方向に屈曲方向を一致させる必要がある。
【0005】
しかしながら、カテーテルは体腔に密着して挿通されるため自在に回転することはできず、カテーテルの近位端に回転トルクを与えたとしても、遠位端を迅速に、また所望の角度で回転させることはできない。このため、従来のカテーテルでは、分岐する体腔に進入させる際の操作性に問題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、遠位端部を良好に屈曲させることができるとともに、さまざまな角度に分岐する体腔に対して自在に進入させることのできるカテーテルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のカテーテルは、長尺の管状本体の内部に、メインルーメンと、前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンとが前記管状本体の軸に沿って形成されたカテーテルであって、
前記サブルーメンに摺動可能に挿通されて前記カテーテルの遠位端部に固定された操作線の近位端部を牽引することにより、前記カテーテルの遠位端部が、前記軸に対して屈曲するとともに前記軸まわりに旋回することを特徴とする。
【0008】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記操作線の牽引長さに応じて、前記カテーテルの遠位端部の旋回角度が変化してもよい。
【0009】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記管状本体のうち少なくとも遠位端部に、第一領域と、前記軸に対する傾斜方向に延在するとともに前記第一領域と剛性の異なる第二領域とが、前記メインルーメンの周囲に形成されていてもよい。
【0010】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記管状本体が樹脂材料からなるとともに、
前記第二領域が、前記第一領域を構成する前記樹脂材料と剛性の異なる他の樹脂材料からなってもよい。
【0011】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記管状本体が、前記メインルーメンの周囲にワイヤを編成してなるブレード層を含むとともに、
前記ブレード層における前記ワイヤの編組密度が、前記第一領域と前記第二領域とで相違してもよい。
【0012】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記操作線が挿通された前記サブルーメンが、前記メインルーメンの周囲、前記軸に対する傾斜方向に延在して形成されていてもよい。
【0013】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記管状本体の可撓性が、近位端側から遠位端側にむかって増大してもよい。
【0014】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカテーテルは、操作線を牽引することで遠位端が軸まわりに旋回するため、さまざまな角度に分岐する体腔に対して自在に進入させることができる。また、本発明のカテーテルは操作線を牽引して遠位端部を屈曲させる方式であるため、遠位端部を十分に屈曲させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態にかかるカテーテルの動作を説明する側面図であり、(a)は自然状態のカテーテルを示す模式図であり、(b)は操作線を僅かに牽引した状態のカテーテルを示す模式図であり、(c)は操作線の牽引長を増加した状態のカテーテルを示す模式図である。
【図2】カテーテルの遠位端部の部分縦断面図である。
【図3】図2のIII-III断面図(横断面図)である。
【図4】カテーテルの遠位端部の部分斜視図である。
【図5】(a)〜(c)は、第一実施形態のカテーテルの使用状態を説明する模式図である。
【図6】第二実施形態にかかるカテーテルの遠位端部の部分縦断面図である。
【図7】第二実施形態のシースの遠位端部の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0018】
<第一実施形態>
はじめに、本実施形態のカテーテル10の概要について説明する。
図1(a)は、自然状態、すなわち操作線40の非牽引状態におけるカテーテル10を長手方向に対して側方から見た模式図である。同図(b)は操作線40を僅かに牽引した状態のカテーテル10を示す模式図であり、同図(c)は操作線40の牽引長を増加した状態のカテーテル10を示す模式図である。
図2は、本実施形態のカテーテル10の遠位端部15を長手方向に切った部分縦断面図である。図3は、本実施形態のカテーテル10の遠位端部15を径方向に切った横断面図であり、図2のIII-III断面図である。
【0019】
図1、2に示すように、本実施形態のカテーテル10は、長尺の管状本体(シース16)の内部に、メインルーメン20と、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30とが管状本体(シース16)の軸AXに沿って形成されている。
そして、本実施形態のカテーテル10は、サブルーメン30に摺動可能に挿通されてカテーテル10の遠位端部15に固定された操作線40の近位端部17を牽引することにより、カテーテル10の遠位端部15が、軸AXに対して屈曲するとともに軸AXまわりに旋回する。
【0020】
本実施形態のカテーテル10は、操作線40が挿通されたサブルーメン30がメインルーメン20の周囲に、軸AXに対する傾斜方向に延在して形成されている。
ここで、軸AXに対する傾斜方向とは、軸AXに対して平行または直交な方向を除く角度方向を意味する。
本実施形態のカテーテル10では、操作線40およびこれが挿通されたサブルーメン30が、メインルーメン20の周囲に複数巻きの螺旋状に形成されている。
【0021】
ここで、シース16の軸AXとは、自然状態における、シース16の径方向の中心を延在方向に結ぶ直線または曲線をいう。
本発明においてメインルーメン20やサブルーメン30が軸AXに沿って形成されているとは、メインルーメン20やサブルーメン30の延在方向が軸AXに平行な成分をもつことを意味し、メインルーメン20やサブルーメン30の延在方向が軸AXと完全に平行であることを必ずしも要しない。
たとえば、本実施形態においては、メインルーメン20の延在方向は軸AXと一致しているのに対し、サブルーメン30の延在方向はメインルーメン20および軸AXに対する傾斜方向であって軸AXとは一致しない。
【0022】
つぎに、本実施形態のカテーテル10について詳細に説明する。
本実施形態のカテーテル10は、自然状態にある図1(a)の状態から操作線40の近位端41を図中右上方向に牽引すると、カテーテル10の遠位端部15には引張力が与えられる。遠位端部15は、横断面における剛心から操作線40の方向に向かって、その一部または全部が屈曲する。
このとき、本実施形態のカテーテル10は、操作線40が遠位端部15に対して軸方向に対する傾斜方向に引張力を与えるため、遠位端部15は軸AXに対して交差する方向(屈曲方向)とともに、軸AXまわりに旋回する方向(回転方向)に変形する。
このため、カテーテル10の遠位端部15は、図1(b)および(c)に示すようにトルク回転して、遠位端DEにおけるメインルーメン20の開口方向、すなわち遠位端DEの指向方向DR(DR、DR)は、軸AXに対する交差方向の成分をもつ。
【0023】
一方、操作線40は軟質材料からなり、その近位端41をカテーテル10に対して押し込んだ場合には、当該操作線40からカテーテル10の遠位端部15に対して押込力が実質的に与えられることはない。
【0024】
なお、カテーテル10の遠位端部15とは、カテーテル10の遠位端DEを含む所定の長さ領域をいう。同様に、カテーテル10の近位端部17とは、カテーテル10の近位端PEを含む所定の長さ領域をいう。
また、カテーテル10が屈曲するとは、カテーテル10の一部または全部が、湾曲または折れ曲がって曲がることをいう。
【0025】
図1各図に示すように、カテーテル10には、操作線40を近位端側に牽引してカテーテル10の遠位端部15を屈曲させる操作部70が、カテーテル10の近位端部17に設けられている。
【0026】
操作部70は、カテーテル10の長手方向に延びる軸部71と、軸部71に対してカテーテル10の長手方向に進退するスライダ72と、軸部71を軸回転するハンドル部74と、シース16が回転可能に挿通された把持部75とを備えている。
シース16の近位端部17は軸部71に固定されている。また、ハンドル部74と軸部71とは一体に構成されている。そして、把持部75とハンドル部74とを相対的に軸回転させることで、操作線40を含むシース16全体が軸部71とともにトルク回転する。
すなわち、本実施形態の操作部70は、シース16をトルク回転させる回転操作部としてのハンドル部74と、シース16を屈曲させるための屈曲操作部としてのスライダ72とが一体に設けられている。
【0027】
操作線40が挿通されたサブルーメン30は、シース16の近位端部17で開口している。操作線40の近位端41は、シース16の近位端部17から基端側に突出し、操作部70のスライダ72に接続されている。
そして、スライダ72を軸部71に対して基端側にスライドさせることにより、これに接続された操作線40が牽引され、シース16の遠位端部15に引張力が与えられる。これにより、操作線40の側に遠位端部15が屈曲する。
【0028】
本実施形態のカテーテル10は、操作線40の牽引長さに応じて、カテーテル10の遠位端部15の旋回角度θが変化する。
具体的には、図1(a)の初期状態にあるカテーテル10から、同図(b)に白抜矢印で示すように所定の牽引長Lだけスライダ72を基端側に牽引したとする。このときの遠位端DEの旋回角度をθとする。
一方、同図(a)の初期状態のカテーテル10から、Lよりも大きい所定の牽引長Lだけスライダ72を基端側に牽引して同図(c)の状態に至ったとする。このときの遠位端DEの旋回角度θは、同図(b)の状態における旋回角度θよりも大きい。
【0029】
操作線40を牽引してカテーテル10の遠位端DEを旋回させることにより、遠位端部15の指向方向DRは、軸AXに対する傾斜角度および回転角度が、操作線40の牽引長Lに応じて漸増する。そして、遠位端DEを所定の指向方向DRに向けた状態でカテーテル10を体腔に押し込むことにより、カテーテル10を当該指向方向DRに向かって進入させることができる。
【0030】
また、本実施形態のカテーテル10によれば、カテーテル10の全体をトルク回転させずとも、操作線40の牽引長Lの調整によって遠位端DEの指向方向DRを多様に変化させることができる。これにより、さまざまな角度に分岐する体腔に対してカテーテル10を自在かつ迅速に進入させることができる。
カテーテル10を体腔に進入させる際の具体的な操作方法は、図5を用いて後述する。
【0031】
本実施形態のカテーテル10において、操作線40が挿通されたサブルーメン30と軸AXとの傾斜角度αは特に限定されない。ここで、サブルーメン30の傾斜角度αとは、図2に示すように、カテーテル10を径方向に切った横断面に対する、サブルーメン30の中心線の立ち上がり角をいう。傾斜角度αが0度に近づくほどサブルーメン30のピッチは小さくなり、傾斜角度αが90度に近づくほどサブルーメン30はピッチが大きくなって軸AXと平行に近づく。
本実施形態のカテーテル10においては、遠位端部15に十分な旋回角度を得る観点から、傾斜角度αは45度以上、90度未満が好ましい。また、遠位端部15において屈曲角度と旋回角度とをバランスして得る観点から、傾斜角度αは60度以上がより好ましい。さらに、傾斜角度αを75度以上とすることにより、三次元的に任意の角度で分岐する人体の体腔の進行方向に対して遠位端部15を指向させつつ、これを十分な深さに進入させることができる。
また、メインルーメン20に対するサブルーメン30の巻回数(螺旋回転数)は特に限定されない。すなわち、カテーテル10の遠位端DEから近位端PEに亘る全長において、サブルーメン30の螺旋回転数は1未満であってもよく、または1以上であってもよい。
ただし、シース16に螺旋状に周設した操作線40の牽引によって遠位端DEの指向方向DRを自在に回転させるという本実施形態の観点からは、かかる螺旋回転数は1以上であることが好ましい。一方、操作線40を牽引した際に体腔内で遠位端部15が過度に旋回することを防止する観点からは、螺旋回転数を10以下とすることが好ましい。
また、操作線40およびサブルーメン30は、遠位端DEから近位端PEに亘る全長において螺旋状であってもよく、または遠位端DE側の一部長さ領域においてのみ螺旋状であってもよい。図1各図に示すように、本実施形態のカテーテル10では、操作線40およびサブルーメン30は、シース16の遠位端DE側の一部長さ領域において螺旋状に形成され、近位端PE側の長さ領域においては軸AX方向に形成されている。
【0032】
図2、3に示すように、本実施形態のカテーテル10は、樹脂材料からなりメインルーメン20が内部に形成された管状の内層21と、内層21の周囲にワイヤ52を編成してなるブレード層50と、内層21と同種または異種の樹脂材料からなり内層21の周囲に形成されてブレード層50を内包する外層60と、を有している。
【0033】
外層60の周囲には、カテーテル10の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性のコート層64が任意で設けられている。
カテーテル10の遠位端部15には、X線等の放射線が不透過な材料からなるリング状のマーカー66が設けられている。具体的には、マーカー66には白金などの金属材料を用いることができる。本実施形態のマーカー66は、メインルーメン20の周囲であって外層60の内部に設けられている。
【0034】
操作線40の先端(遠位端)は、カテーテル10の遠位端部15に固定されている。操作線40の先端を遠位端部15に固定する態様は特に限定されない。たとえば、操作線40の先端をマーカー66に締結してもよく、シース16の遠位端部15に溶着してもよく、または接着剤によりマーカー66またはシース16の遠位端部15に接着固定してもよい。
【0035】
図4は、本実施形態のカテーテル10の遠位端部15に関する部分斜視図である。同図では、サブルーメン30が穿設された外層60とコート層64は図示を省略し、操作線40がブレード層50の周囲に螺旋状に巻回された状態を図示している。
ブレード層50は、所定の交差角で交差するワイヤ52を編み上げ機によって内層21の周囲に編組したものである。
同図に示すように、本実施形態のカテーテル10において、操作線40が挿通されたサブルーメン30は、外層60の内部、かつブレード層50の外側に形成されている。
したがって、本実施形態のカテーテル10は、操作線40がカテーテル10の剛心よりも径方向の外方に偏心して設けられることとなる。このため、操作線40を牽引した際に遠位端部15を当該偏心方向に良好に屈曲させることができる。
【0036】
ここで、図2に示すように、操作線40を挿通するサブルーメン30をメインルーメン20と離間して設けることにより、メインルーメン20を通じて薬剤等を供給したり光学系を挿通したりする際に、これらがサブルーメン30に脱漏することがない。
そして、本実施形態のようにサブルーメン30をブレード層50の外部に設けることにより、シース16内を摺動する操作線40に対して、ブレード層50の内部、すなわちメインルーメン20が保護される。このため、かりに操作線40がカテーテル10の遠位端部15から外れたとしても、操作線40がメインルーメン20の周壁を開裂してしまうことがない。
【0037】
内層21には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。
内層21にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル10のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0038】
外層60には熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0039】
ブレード層50を構成するワイヤ52には、ステンレス鋼(SUS)やニッケルチタン合金などの金属細線のほか、PI、PAIまたはPETなどの高分子ファイバーの細線を用いることができる。
ワイヤ52の断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
【0040】
操作線40をサブルーメン30に挿通する方法は、種々をとることができる。予めサブルーメン30が貫通して形成されたカテーテル10のシース16に対して、その一端側から操作線40を挿通してもよい。または、シース16の押出成形時に、樹脂材料と共に操作線40を押し出してサブルーメン30の内部に挿通してもよい。
【0041】
ここで、本実施形態のカテーテル10においては、サブルーメン30がメインルーメン20の周囲に螺旋状に形成されている。かかる螺旋状のサブルーメン30をシース16の内部かつメインルーメン20の周囲に形成するにあたっては、一例として、軸回転するダイから、シース16の樹脂材料とともに操作線40を押し出して成形することができる。
より具体的には、ダイには、軸中心に大径の主孔を設け、軸中心から所定の径位置に主孔よりも小径の副孔を設けておく。ダイを軸回転することで、副孔は主孔のまわりを回転する。
そして、メインルーメン20を形成するための芯線を主孔に挿通し、操作線40を副孔に挿通した状態で樹脂材料を押し出す。このとき、ダイを所定の角速度で回転させながら押出成形をおこなうことで、芯線の周囲を螺旋状に延在する操作線40をシース16の内部に形成することができる。
なお、ダイを軸回転させる上記製法に代えて、ダイを固定しつつ、押し出された樹脂材料を所定の速度で引き取る引取側を軸回転させてもよい。
【0042】
操作線40を樹脂材料と共に押し出してサブルーメン30に挿通する場合、操作線40には、シース16を構成する樹脂材料の溶融温度以上の耐熱性が求められる。かかる操作線40の場合、具体的な材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。
また、成形後のサブルーメン30に対して操作線40を摺動可能とするため、サブルーメン30の内壁と操作線40との間には所定のクリアランスが存在することが好ましい。したがって、操作線40に熱収縮性の樹脂材料を用い、押出成形後のシース16を熱処理して操作線40を径方向に収縮させ、サブルーメン30との間にクリアランスを形成してもよい。
【0043】
一方、予め成形されたシース16のサブルーメン30に対して操作線40を挿通する場合など、操作線40に耐熱性が求められない場合は、上記各材料に加えて、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。
【0044】
コート層64には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。
【0045】
本実施形態のカテーテル10の代表的な寸法について説明する。
メインルーメン20の半径は200〜300μm程度、内層21の厚さは10〜30μm程度、外層60の厚さは100〜150μm程度、ブレード層50の厚さは20〜30μmとすることができる。そして、カテーテル10の軸心からサブルーメン30の中心までの半径は300〜350μm程度、サブルーメン30の内径は40〜100μmとし、操作線40の太さを30〜60μmとすることができる。そして、カテーテル10の最外径を350〜450μm程度とすることができる。
すなわち、本実施形態のカテーテル10の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル10に関しては、操作線40の牽引により進行方向が自在に操作されるため、たとえば分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル10を進入させることが可能である。
【0046】
ここで、本実施形態のカテーテル10では、管状本体(シース16)の可撓性は、近位端PE側から遠位端DE側にむかって増大する。
すなわち、図1各図に示すように、カテーテル10は長手方向に沿って先端部11、中間部12および基端部13に区画されており、基端部13よりも中間部12において可撓性が高く、さらに中間部12よりも先端部11において可撓性が高くなっている。
ここで、カテーテル10の可撓性とは、径方向に単位荷重を付与した場合の曲がりやすさをいう。
なお、シース16の可撓性は、近位端PE側から遠位端DE側にむかって不連続かつ段階的に増大してもよく、または連続的かつ無段階に増大してもよい。
本実施形態のカテーテル10において、先端部11と遠位端部15とは一致してもよく、または一方が他方を包含してもよい。本実施形態の場合、図1では、先端部11および中間部12の一部を含む長さ領域として遠位端部15を図示している。
【0047】
カテーテル10の可撓性を変化させるためには種々の方法をとることができる。たとえば、シース16の径の太さ順を、基端部13、中間部12、先端部11の順としてもよい。または、ブレード層50の編組密度の高さ順を、基端部13、中間部12、先端部11の順としてもよい。
【0048】
また、カテーテル10の少なくとも一部の長さ領域において、近位端PE側から遠位端DE側に向かってカテーテル10の可撓性を連続的に増大させてもよい。
具体的には、基端部13において、近位端PEから中間部12に向かって硬度を連続的に増大させている。すなわち、基端部13は、近位端PE近傍よりも、中間部12に隣接する遠位側において、より高い可撓性を有している。
これにより、カテーテル10を先端部11から中間部12に至るまで屈曲させる際に、基端部13の剛性に拘束されて中間部12の変形が阻害されることがない。言い換えると、本実施形態によれば、カテーテル10の近位端PE近傍における耐モーメント性を維持しつつ、中間部12を十分に屈曲変形させることができる。
【0049】
そして、本実施形態のようにカテーテル10を先端部11においてもっとも柔軟にすることにより、操作線40の牽引による遠位端部15の追従性が良好となり、遠位端部15を含む先端部11を当該操作線40の側に容易に屈曲させることができる。
一方、カテーテル10の自重に起因する曲げモーメントがもっとも負荷される基端部13の剛性を高くすることにより、カテーテル10のコシを強くして形態安定性を保つことができる。
また、本実施形態のカテーテル10のように近位端PE側の剛性を高めておくことにより、操作線40の近位端41を所定以上の牽引長Lで牽引した場合に、近位端PE側の剛性によってカテーテル10の過大な変形や旋回を抑制することができる。
【0050】
図5(a)〜(c)は、本実施形態のカテーテル10の使用状態を説明する模式図である。
同図(a)は、血管100内に挿通されたカテーテル10の遠位端DEが、血管100の分岐部101に至った状態を示している。
ここで、分岐部101より血管枝102に向かって、図中の矢印で示す方向Xにカテーテル10を進行させる。
そこで、同図(b)に示すように、操作線40の近位端41を牽引して、カテーテル10の遠位端部15を屈曲および旋回させる。このとき、近位端41を牽引長Lで牽引することにより、カテーテル10の遠位端DEの指向方向DRを方向Xに対して略一致させる。この状態でカテーテル10の全体を血管100に押し込むことにより、遠位端部15が血管枝102に対して深く進入する。このため、遠位端部15に案内されて、カテーテル10の全体を血管枝102に進入させることができる。
【0051】
つぎに、同図(b)に示す分岐部103において、カテーテル10を血管枝102から血管枝104に進入させる場合は、同図(c)に示すように、遠位端DEの指向方向DRが血管枝104の延在方向Yと略一致するように、操作線40の近位端41を牽引長Lで牽引する。
さらに、同図(c)に示す分岐部105において、カテーテル10を血管枝104から血管枝106に進入させる場合は、同図(c)に示すように、遠位端DEの指向方向DRが血管枝106の延在方向と略一致するように、操作線40の近位端41を牽引長Lで牽引するとよい。
これにより、カテーテル10の全体を、血管枝102から血管枝104、そして血管枝104から血管枝106へと、さまざまな分岐角度に進入させることができる。
そして、本実施形態のカテーテル10では、操作線40の牽引長Lを変化させることにより遠位端DEの指向方向DRが変化する。このため、カテーテル10の全体をトルク回転させずとも、遠位端DEを所望の方向に指向させた状態でカテーテル10を体腔に押し込むことにより、さまざまな分岐角度の体腔に対してカテーテル10を迅速に進入操作することが可能である。
【0052】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0053】
たとえば上記実施形態においては、シース16がサブルーメン30を一つのみ有し、一本の操作線40によってシース16を屈曲および旋回させる態様を例示的に説明したが、本発明はこれに限られない。すなわち、本発明のカテーテル10は、シース16に操作線40がそれぞれ挿通される二つ以上のサブルーメン30を有してもよい。
【0054】
<第二実施形態>
図6は、本実施形態にかかるカテーテル10の遠位端部15の部分縦断面図である。
図7は、本実施形態のカテーテル10におけるシース16の遠位端部15の部分斜視図である。図6は、図7のVI-VI方向断面にあたる。ただし、図7では、マーカー66、外層60およびコート層64は図示を省略している。
【0055】
本実施形態のカテーテル10は、メインルーメン20が内部に形成された管状の内層21と、内層21の外周に設けられた外層60と、外層60の先端に取り付けられたマーカー66と、最外層のコート層64とを有する点で第一実施形態と共通する。
そして、本実施形態のカテーテル10では、操作線40が挿通されたサブルーメン30が内層21の内部に形成されている。
サブルーメン30に挿通された操作線40の先端は、図6に示すように内層21の遠位端部15に対して溶着されている。
【0056】
そして、本実施形態のカテーテル10は、管状本体(シース16)のうち少なくとも遠位端部15に、第一領域161と、軸AXに対する傾斜方向に延在するとともに第一領域161と剛性の異なる第二領域162とが、メインルーメン20の周囲に形成されている。
【0057】
管状本体(シース16)は、メインルーメン20の周囲にワイヤ52を編成してなるブレード層50を含んでいる。
そして、本実施形態のブレード層50におけるワイヤ52の編組密度は、第一領域161と第二領域162とで相違する。
【0058】
より具体的には、本実施形態のブレード層50は、内層21の周囲にそれぞれワイヤ52を巻回した第一層53、第二層54および第三層55を内側からこの順に積層してなる。
第一層53は、内層21の外周面のうち第二領域162にあたる、軸AXまわりに螺旋状に延びる縦ワイヤ52aからなる層である。
第二層54は、第一層53の外周に、軸AXに交差して巻回された横ワイヤ52bからなる層である。
第三層55は、第二層54の外周に、軸AXに交差して巻回された横ワイヤ52cからなる層である。
横ワイヤ52bと52cは、軸AXに対する交差角度が正負反転しており、第一層53および第二層54の二層を併せると、横ワイヤ52b,52cは軸AXまわりに疑似等方的に巻回されている。
【0059】
そして、本実施形態のカテーテル10では、内層21に対して螺旋状に巻回した縦ワイヤ52aの剛性を用いて、高剛性の第二領域162を螺旋状に形成している。そして、縦ワイヤ52aの非巻回領域が低剛性の第一領域161にあたる。ここで、第一領域161、第二領域162の剛性とは軸AX方向の圧縮剛性を意味している。
【0060】
また、図6、7に示すように、本実施形態のサブルーメン30は、内層21の内部において軸AXに沿って直線状に形成されている。また、サブルーメン30は、縦ワイヤ52aの先端部の直下に設けられている。
【0061】
サブルーメン30に挿通された操作線40の近位端41を牽引した場合の引張荷重は、操作線40の先端からブレード層50に伝えられる。このとき、操作線40の先端は縦ワイヤ52aの直下にあることから、操作線40の引張荷重は内層21から主として縦ワイヤ52aに伝達され、高剛性の第二領域162を介して近位端PE側に伝えられる。
ここで、カテーテル10の操作部70を保持して近位端41を牽引すると、操作線40からの引張荷重を受けたシース16は、縦ワイヤ52aに沿って螺旋状に座屈して屈曲する。このため、シース16の遠位端部15は、操作線40の牽引により、軸AXに対して屈曲するとともに、軸AXまわりに旋回する。
【0062】
なお、縦ワイヤ52aの螺旋回転数は特に限定されず、1未満でもよく、または1度以上でもよい。ただし、操作線40を牽引した際に体腔内で遠位端部15が過度に旋回することを防止する観点からは、螺旋回転数を10以下とすることが好ましい。
また、本実施形態のカテーテル10においては、縦ワイヤ52aの傾斜角度α(図7を参照)は、0度より大きく90度未満の範囲で特に限定されないが、45度以上、好ましくは60度以上、さらに好ましくは75度以上である。縦ワイヤ52aの傾斜角度αとは、カテーテル10を径方向に切った横断面に対する、縦ワイヤ52aの立ち上がり角をいう。
また、本実施形態では、ブレード層50に縦ワイヤ52aを巻回して、第二領域162におけるワイヤ本数を第一領域161よりも増やすことにより第二領域162の剛性を高めているが、本実施形態はこれに限られない。たとえば、縦ワイヤ52aを設けることなく、横ワイヤ52bと52cの巻線間隔を近接させた高ピッチ領域を、内層21に対して螺旋状に形成してもよい。すなわち、第二層54および第三層55の編成密度を局所的に増減調整し、横ワイヤ52b,52cの高密度領域を軸AXまわりに螺旋状にずらすことによって第二領域162を形成することもできる。
【0063】
また、本実施形態では、螺旋状の第二領域162の圧縮剛性を、第一領域161よりも高くしているが、本発明はこれに限られない。すなわち、本実施形態の第一変形例として、螺旋状の第二領域162の圧縮剛性を第一領域161よりも低くし、シース16に螺旋状の低剛性領域を形成してもよい。この場合、操作線40を牽引した際の引張荷重は主として第一領域161を伝達され、遠位端部15は第一領域161に沿って屈曲する。ここで、第一領域161、すなわち第二領域162の非形成領域は、軸AXまわりの螺旋状であることから、本変形例の場合も、遠位端部15は操作線40の牽引によって屈曲するとともに軸AXまわりに旋回する。
【0064】
また、本実施形態の第二変形例として、管状本体(シース16)を樹脂材料で成形するとともに、第二領域162を、第一領域161を構成する樹脂材料と剛性の異なる他の樹脂材料で形成してもよい。
ここで、第二領域162と第一領域161の材料が異なるとは、互いに異種の樹脂材料で成形する場合のほか、共通の樹脂材料に対して、添加する無機または有機の異種材料の配合態様を相違させる場合を含む。
【0065】
すなわち、第一領域161と第二領域162は、圧縮弾性率が互いに異なる異種の樹脂材料である第一材料と第二材料とを共押出して作成してもよく、または、第二領域162に無機または有機のフィラーを充填して第一領域161に比して剛性を高めてもよい。または、第一領域161および第二領域162を光硬化性の樹脂材料により円筒状に成形したのち、第二領域162を露光硬化してもよい。
【0066】
そして、シース16における支配的な肉厚を有する外層60を押出成形するにあたり、たとえば、ダイを軸回転させながら第一材料と第二材料とを共押出して、第二領域162を螺旋状に形成するとよい。
これにより、第一領域161と圧縮剛性の異なる第二領域162を螺旋状に形成することができる。
【0067】
なお、第一領域161と第二領域162との間には、いずれにも属さない所定幅の境界領域を備えてもよい。すなわち、第一領域161を構成する第一材料と、第二領域162を構成する第二材料とは、境界領域において無段階に連続的に、または不連続に段階的に変化してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 カテーテル
11 先端部
12 中間部
13 基端部
15 遠位端部
16 シース
161 第一領域
162 第二領域
17 近位端部
20 メインルーメン
21 内層
30 サブルーメン
40 操作線
41 近位端
50 ブレード層
52 ワイヤ
60 外層
64 コート層
66 マーカー
70 操作部
71 軸部
72 スライダ
74 ハンドル部
75 把持部
AX 軸
DE 遠位端
PE 近位端
θ 旋回角度
DR 指向方向
L 牽引長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の管状本体の内部に、メインルーメンと、前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンとが前記管状本体の軸に沿って形成されたカテーテルであって、
前記サブルーメンに摺動可能に挿通されて前記カテーテルの遠位端部に固定された操作線の近位端部を牽引することにより、前記カテーテルの遠位端部が、前記軸に対して屈曲するとともに前記軸まわりに旋回することを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記操作線の牽引長さに応じて、前記カテーテルの遠位端部の旋回角度が変化することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記管状本体のうち少なくとも遠位端部に、第一領域と、前記軸に対する傾斜方向に延在するとともに前記第一領域と剛性の異なる第二領域とが、前記メインルーメンの周囲に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記管状本体が樹脂材料からなるとともに、
前記第二領域が、前記第一領域を構成する前記樹脂材料と剛性の異なる他の樹脂材料からなる請求項3に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記管状本体が、前記メインルーメンの周囲にワイヤを編成してなるブレード層を含むとともに、
前記ブレード層における前記ワイヤの編組密度が、前記第一領域と前記第二領域とで相違することを特徴とする請求項3または4に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記操作線が挿通された前記サブルーメンが、前記メインルーメンの周囲に、前記軸に対する傾斜方向に延在して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記管状本体の可撓性が、近位端側から遠位端側にむかって増大することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−227137(P2010−227137A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74967(P2009−74967)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】