説明

カラーフィルター用顔料分散体、これを用いた顔料分散レジストおよびカラーフィルター

【課題】加熱や長時間経過によっても変質や着色を起こさない熱安定性の高い分散剤を用いた、顔料の分散性が良好な顔料分散体、およびそれを用いた顔料分散レジスト、カラーフィルターを提供する。
【解決手段】ポリビニルアセタールとポリエステルとがグラフト結合を形成した特定構造のポリビニルアセタール・ポリエステルグラフト共重合体を分散剤として用いた顔料分散体を得て、この顔料分散体を用いて顔料分散レジスト及びカラーフィルターを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等に用いられるカラーフィルター用顔料分散体、これを用いた顔料分散レジストおよびカラーフィルターに関し、特に分散剤の選択により分散性や熱安定性を従来より向上させたこれらのものに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等に用いられるカラーフィルターは、透明基板上にブラックマトリックスと呼ばれる黒色格子状の構造を形成し、その格子の目の中に、赤色画素、緑色画素、青色画素などの各色の画素を配置したものである。
【0003】
これらの各色画素やブラックマトリックスには、耐熱性、着色性などの観点から、顔料が主に用いられている。カラーフィルターを作製するには、顔料を分散媒中に分散させた分散体に光硬化性の成分やバインダー樹脂などを添加して顔料分散レジストとなし、これを塗布後に光照射などで硬化させて、未硬化部分をアルカリ現像して除去することで目的の形状を得るのが一般的である。また、顔料分散体に必要な成分を添加したインクを用いて、インクジェット法や印刷法などで目的の形状を直接得る方法もある。
【0004】
カラーフィルター用の顔料としては、ブラックマトリックスにはカーボンブラックなど、赤色画素にはジケトピロロピロール顔料やアンスラキノン顔料など、緑色画素にはハロゲン化したフタロシアニン顔料など、青色画素には銅フタロシアニン顔料などが主に用いられている。またこれらの主色に加えて、緑色画素には青色光の透過を抑えるためのキノフタロン顔料やアゾ顔料などの黄色顔料が、また青色画素には、緑色光の透過を抑えるためのジオキサジン顔料などの紫色顔料が添加される場合が多い。
【0005】
液晶表示装置では、液晶層を通り抜けてきた偏光をカラーフィルターに通すことで発色させるので、カラーフィルターには、高い透明性と、偏光を乱すことのない低散乱性といった光学的な特性が求められる。これらの要求を満足させるには、フィルター内部で有機顔料が光の波長に比べて十分に小さいサイズで均一に分散していることが必要であり、そのためには、使用される顔料分散体中における顔料の分散性が極めて重要となる。
【0006】
ところが、一般に微細な有機顔料は分散媒中に分散しにくく、容易に凝集して大粒径化したり、粘度が異常に増加したりして、所定の膜厚に均一に塗布することが困難である場合が多い。
【0007】
分散媒中に顔料を安定に分散させるためには、顔料と分散媒の両方に親和性のある分散剤を用いるのが通常である。これまで、ポリエステル系、アクリル系などの様々な汎用分散剤が用いられており、また特許文献1〜3に開示されているような種々の分散剤が検討されてきているが、テレビやモニターなどの液晶表示装置に対する性能向上への要求は高く、分散性のさらなる改善が望まれている。
【0008】
また、従来の分散剤では、窒素原子などを含む官能基によって顔料との親和性を発現させている場合が多いが、これらの官能基の影響で分散剤そのものが着色したり、加熱や経時変化によって着色を起こしたりすることがある。分散剤に着色があると、カラーフィルターの色特性に悪影響を及ぼし、また熱などによって変質や着色する場合は、分散体やカラーフィルターの熱安定性を低下させる原因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−65062号公報
【特許文献2】特開2010−59224号公報
【特許文献3】特開平10−213898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、加熱や長期保存によっても変質や着色を起こしにくく、分散性が良好な顔料分散体、及びそれを用いた顔料分散レジストを提供することを目的とする。また、これを用いた光学的な特性に優れるカラーフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは上記課題を解決するために種々検討した結果、分子内に窒素を含有しない特定構造の高分子分散剤を用いることにより、顔料が微粒子状に安定に分散した顔料分散体が調製でき、これを用いて光学的特性や熱安定性に優れた顔料分散レジスト及びカラーフィルターが得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明のカラーフィルター用顔料分散体(以下、単に顔料分散体ともいう)は、顔料と、この顔料を分散させる分散剤とを含有するカラーフィルター用顔料分散体であって、上記の課題を解決するために、分散剤が下記一般式(1)〜(3)で表される構成単位をそれぞれ1個以上有し、重量平均分子量が100〜100,000であるポリビニルアセタールと、重量平均分子量が100〜50,000であるポリエステルとを骨格に持ち、前記ポリビニルアセタールが有する水酸基の1〜95モル%が、前記ポリエステルとグラフト結合を形成したポリビニルアセタール・ポリエステルグラフト共重合体であるものとする。
【化1】

【0013】
ただし、式(1)中、Rは水素原子あるいは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキル基またはアリール基を表し、これらは窒素原子を含まない置換基を有していてもよい。
【化2】

【化3】

【0014】
ただし、式(3)中、Rは水素原子あるいは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキル基またはアリール基を表し、これらは窒素原子を含まない置換基を有していてもよい。
【0015】
本発明のカラーフィルター用顔料分散レジスト(以下、単に顔料分散レジストともいう)は、上記本発明の顔料分散体と硬化性成分とを少なくとも含有するものとする。
【0016】
さらに、本発明のカラーフィルターは、カラーフィルター基板の少なくとも一部に、上記本発明の顔料分散レジストにより形成された硬化塗膜層を有するものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加熱や長時間経過によっても変質や着色をほとんど起こさない熱安定性の高い分散剤を用いることにより、熱安定性が高く、分散性が向上した顔料分散体を得ることができる。従って、これを顔料分散レジストに用いて、光学的特性に優れるカラーフィルターを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.カラーフィルター用顔料分散体
本発明で使用する分散剤は、下記一般式(1)〜(3)で表される構成単位をそれぞれ1個以上有し、重量平均分子量が100〜100,000であるポリビニルアセタールと、重量平均分子量が100〜50,000であるポリエステルとを骨格に持ち、前記ポリビニルアセタールが有する水酸基の1〜95モル%が、前記ポリエステルとグラフト結合を形成したポリビニルアセタール・ポリエステルグラフト共重合体である。
【化4】

【0019】
ただし、式(1)中、Rは水素原子あるいは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはアリール基を表し、これらは窒素原子を含まない置換基を有していてもよい。置換基の例としては直鎖状又は分岐状のアルキル基、アリール基等が挙げられる。
【化5】

【化6】

【0020】
ただし、式(3)中、Rは水素原子あるいは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはアリール基を表し、これらは窒素原子を含まない置換基を有していてもよい。置換基の例としては直鎖状又は分岐状アルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0021】
上記分散剤は、顔料の分散性に優れるのみならず、窒素原子を含まず、加熱や長時間経過による変質や着色をほとんど起こさないため、これを用いて、光学的特性や熱安定性に優れる、顔料分散レジスト、及びカラーフィルターを得ることができる。
【0022】
なお、本発明においては、顔料の分散性を評価するのに、ずり速度を種々変化させてずり速度とずり応力を測定し、それぞれの平方根をプロットして得られる直線のずり応力軸切片を降伏値と定義し、この降伏値を分散性の指標とした。一般的に「粘度」と呼ばれるのは、ずり応力をずり速度で除した値であるが、分散体ではずり速度によって粘度が変化する傾向がしばしば見られる。特に粒子どうしが緩やかに結合した軟凝集が存在する場合、低ずり速度の領域で粘度が急激に上昇し、その後一定値に落ち着く、いわゆる降伏現象が見られる。降伏値はこのような降伏現象の大小を示し、降伏値が大きい分散体は分散状態は良好とは言えず、カラーフィルターに用いるには不適である。
【0023】
本発明で用いる顔料の種類は特に限定されず、例えば黒色顔料としては、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック7、C.I.ピグメントブラック11、C.I.ピグメントブラック12、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0024】
赤色顔料としては、C.I.ピグメントレッド101、C.I.ピグメントレッド102、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントオレンジ38、C.I.ピグメントオレンジ73などが挙げられる。
【0025】
緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン18、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン58などが挙げられる。
【0026】
青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー11、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントブルー29などが挙げられる。
【0027】
黄色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー37、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー181などが挙げられる。
【0028】
紫色顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23などが挙げられる。
【0029】
これらの顔料は単独で使用することも、複数種類を混合して使用することもでき、また、これらの顔料に表面処理を施したものや、顔料の誘導体などを用いることもできる。さらに、体質顔料として、C.I.ピグメントホワイト4、C.I.ピグメントホワイト6、C.I.ピグメントホワイト18、C.I.ピグメントホワイト19、C.I.ピグメントホワイト21、C.I.ピグメントホワイト25、C.I.ピグメントホワイト27などの白色顔料やそれらを表面処理した顔料を含有させることもできる。
【0030】
本発明で用いる上記分散剤は、これらの顔料の中でも特に青色顔料及び紫色顔料との相性が優れ、従来の分散剤を用いた場合と比較して、分散性を顕著に向上させることができる。
【0031】
本発明の分散体における分散剤の量は、顔料の種類にもよるが、一般的には顔料100重量部に対して1〜100重量部が好ましく、10〜50重量部がより好ましい。分散剤が1重量部よりも少ないと十分な分散効果が得られず、100重量部よりも多いと、粘度の増加や、カラーフィルターを作製した時の着色力の低下を招くことがある。また分散体中の顔料の量は、分散体全体中の顔料の濃度として1〜20重量%が一般的であるが、塗布方法や目的とする膜厚に応じて調整すればよく、この範囲に限定されるものではない。
【0032】
本発明で用いる分散媒は特に限定されないが、本発明で用いる上記分散剤が分子状で溶解するか、あるいはミセルを形成して分散することが必要である。具体的には、例えばギ酸アミル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノンなどのケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ブトキシエタノール、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類等を用いることができる。これらの分散媒は1種単独で使用することも、複数種類を混合して使用することもできる。
【0033】
本発明の分散体の調製方法は特に限定されず、顔料と分散剤と分散媒とを十分に混合すればよい。具体的には、分散剤を分散媒に溶解又は分散させ、これに顔料を投入して、ボールミル等で粉砕、撹拌する方法が挙げられる。あるいは、分散剤を少量の分散媒と混合し、これに顔料を投入して、ニーダー等で混練した後、必要に応じて分散媒で希釈することもできる。
【0034】
本発明の分散体には、本発明の目的に反しない範囲であれば、顔料誘導体等のカラーフィルター用顔料分散体に通常用いられる添加剤を含有させることもできる。
【0035】
2.カラーフィルター用顔料分散レジスト
カラーフィルター用顔料分散レジストは、本発明の上記顔料分散体と、硬化反応に関与する反応性成分(以下、硬化性成分という)とを少なくとも含有する。
【0036】
硬化性成分としては、重合性を有する多官能モノマーやオリゴマーが好適に用いられる。好ましい具体例としては、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレートなどを挙げることができる。また、ポリエステル、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂などのオリゴアクリレート、オリゴメタクリレート等も使用可能である。上記以外でも、感光性樹脂(フォトレジスト)として従来使用されている各種樹脂のモノマーやオリゴマーが使用可能である。これら硬化性成分は、必要に応じ、溶媒で希釈されていてもよい。
【0037】
また、顔料分散レジストには、これらの多官能モノマーやオリゴマーの反応を開始させる重合開始剤が必要に応じ添加される。重合開始剤としては、光照射によって活性種を発生させる化合物、例えばベンゾイン誘導体やビイミダゾール系の化合物などが利用できる。具体的には、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の「イルガキュア」シリーズや、日本化薬(株)製の「カヤキュア」シリーズなどが使用可能である。
【0038】
さらに、顔料分散レジストは、カラーフィルターの画素の強度を増す働きや表面の平滑性を高める働きを有する他の高分子化合物をバインダーとして含有していてもよい。これらの高分子化合物は、上記のような機能を有し、かつ画素形成時にアルカリ現像で溶解、除去される性質を備えていればよく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体の重合物や、これらの不飽和単量体と他のエチレン性不飽和単量体との共重合物等を用いることができる。
【0039】
本発明の顔料分散レジストの製造方法は特に限定されず、本発明の顔料分散体と上記硬化性成分等とを混合することにより得られる。
【0040】
3.カラーフィルター
本発明のカラーフィルターは、カラーフィルター基板上の少なくとも一部に上記本発明の顔料分散レジストの硬化塗膜層を有するカラーフィルターである。すなわち、赤色、緑色、青色等の各色画素の少なくとも1色のパターンを、本発明の顔料分散レジストにより形成したものである。
【0041】
カラーフィルターの形成方法は特に限定されず、従来から公知の方法に準じて形成すればよく、例えば以下のような方法を用いることができる。
【0042】
まず、ガラスなどの透明基板上に上記顔料分散レジストを、スピンコート法、バーコート法、あるいはスプレー法などを用いて塗布し、分散媒を蒸発させて塗膜を作製する。次いで、塗膜上に必要に応じてフォトマスクを被せて紫外線等で露光し、未露光部分をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液などのアルカリ性の現像液で溶解除去することにより、目的とするパターンを形成することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下において、特にことわらない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」とする。
【0044】
1.分散剤の調製及び評価
〔合成例1〕
還流冷却器を備えた反応容器に、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、商品名「エスレックBL−1」、平均分子量約19,000、水酸基約36モル%、アセチル基3モル%以下、ブチラール化度約63モル%)46.8重量部、ポリカプロラクトン(ダイセル化学工業(株)製、商品名「プラクセルH1P」、分子量10,000)53.2重量部、ジオクチルスズネオデカネート0.05重量部を入れ、窒素雰囲気下で200℃まで昇温し、7時間加熱を行なって、ポリビニルブチラール−ポリエステルグラフト共重合体を得た。得られた共重合体は黄色粘稠液体で、重量平均分子量は36,100であった。
【0045】
〔合成例2〕
還流冷却器を備えた反応容器に、2,2−ジメチロールプロピオン酸100重量部、ε−カプロラクトン850重量部、テトラブチルチタネート0.05重量部を仕込み、窒素雰囲気下で160℃まで4時間かけて昇温し、残存するε−カプロラクトンが1%以下になるまで160℃で加熱して、重量平均分子量2,000のポリエステルを合成した。このポリエステル64.2重量部と、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、商品名「エスレックBL−10」、平均分子量約15,000、水酸基約28モル%、アセチル基3モル%以下、ブチラール化度約71モル%)12.3重量部、ジオクチルスズネオデカネート0.05重量部を、還流冷却器を備えた反応容器に入れ、窒素雰囲気下で200℃まで昇温し、6時間加熱を行なって、ポリビニルブチラール−ポリエステルグラフト共重合体を得た。得られた共重合体は黄色粘稠液体で、重量平均分子量は50,000、であった。
【0046】
〔合成例3〕
還流冷却器を備えた反応容器に、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、商品名「エスレックBL−1」、平均分子量約19,000、水酸基約36モル%、アセチル基3モル%以下、ブチラール化度約63モル%)6.1重量部、ε−カプロラクトン114重量部、ジオクチルスズネオデカネート0.2重量部を入れ、窒素雰囲気下で、残存するε−カプロラクトンが1%以下になるまで180℃で加熱して、ポリビニルブチラール−ポリエステルグラフト共重合体を得た。得られた共重合体は淡黄色粘稠液体で、重量平均分子量は416,000であった。
【0047】
〔比較合成例〕
還流冷却器を備えた反応容器に、12−ヒドロキシステアリン酸50重量部、ε−カプロラクトン800重量部、テトラブチルチタネート0.1重量部を入れ、窒素雰囲気下で160℃まで4時間かけて昇温し、残存するε−カプロラクトンが1%以下になるまで160℃で加熱して、ポリエステルを合成した。このポリエステル91.9重量部と、ポリエチレンイミン(BASF社製、商品名「Lupasol PR8515」、平均分子量2,000)8.1重量部、テトラブチルチタネート0.05重量部を、還流冷却器を備えた反応容器に入れ、窒素雰囲気下で200℃まで昇温し、6時間加熱を行なって、ポリエチレンイミン−ポリエステルグラフト共重合体を得た。得られた共重合体は茶褐色固体で、アミン価は45.5mgKOH/g、酸価は1.1mgKOH/gであった。
【0048】
〔分散剤の熱安定性の評価〕
上記合成例1〜3および比較合成例の分散剤を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに5重量%の濃度で溶解させ、40℃で一週間保管した後の可視光(波長:400nm、550nm、650nm)の透過率(%)を測定した。光透過率の測定には(株)島津製作所製、UV−2100S型紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いた。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示された結果から、各合成例の分散剤は、分子内に窒素を含む比較合成例の分散剤と比べて熱による着色が少なかったことが分かる。
【0051】
2.顔料分散体の調製及び評価
上記により得られた分散剤を用いて顔料分散体を調製し、得られた分散体につき、以下の方法で分散性を評価し、平均粒子径を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
〔分散体の分散性の評価方法〕
ずり速度を38〜380s−1の範囲で変化させて、ずり速度とずり応力を測定し、それぞれの平方根をプロットして得られる直線のずり応力軸切片を降伏値とし、この降伏値で顔料の分散性を評価した。降伏値が小さいほど、分散性が良好であることを示す。ずり速度とずり応力の測定には、東機産業(株)製、TV−22型粘度計を用い、顔料の濃度が4重量%になるように分散体を使用分散媒で希釈した。
【0053】
〔平均粒子径の測定方法〕
顔料分散体や顔料分散レジスト中の顔料の粒子径は、顔料濃度が0.005重量%になるように分散体を使用分散媒で希釈した上で、動的光散乱測定装置(堀場製作所(株)製、LB−550)を用いて測定した。
【0054】
〔実施例1〕
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100重量部に、15重量部のC.I.ピグメントブルー15:6と合成例1で示した分散剤6重量部を投入し、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだビーズミルで8時間分散させて顔料分散体を得た。
【0055】
〔実施例2〜8〕
分散剤と顔料を表2に示すものに代えた以外は、実施例1と同様の方法で顔料分散体を得た。
【0056】
〔比較例1〕
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100重量部に、15重量部のC.I.ピグメントブルー15:6と比較合成例で示した分散剤6重量部を投入し、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだビーズミルで8時間分散させて顔料分散体を得た。
【0057】
〔比較例2〜6〕
顔料を表2に示すものに代えた以外は、比較例1と同様の方法で顔料分散体を得た。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示された結果から、実施例1〜8の分散体においては、同じ顔料を比較合成例の分散剤で分散させた比較例の分散体と比較して、降伏値が小さく、従って分散性が向上し、かつ分散している顔料の粒子径が小さい顔料分散体が得られたことが分かる。特に、実施例5と比較例5との比較から分かるように、顔料としてC.I.ピグメントバイオレット23を用いた場合は効果が顕著であった。
【0060】
3.顔料分散体レジストの調製及び評価
上記により得られた顔料分散体を用いて顔料分散体レジストを調製し、その平均粒子径を測定した。平均粒子径は、上記顔料分散体と同様、顔料濃度が0.005重量%になるように分散体を使用分散媒で希釈した上で、動的光散乱測定装置(堀場製作所(株)製、LB−550)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0061】
〔実施例9〕
メチルメタクリレート50重量部、ベンジルメタクリレート10重量部、メタクリル酸10重量部を、フラスコに入れた100重量部のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに投入し、窒素雰囲気下、90〜95℃で8時間重合してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液20重量部に、実施例1で作製した顔料分散体80重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート5重量部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製、「イルガキュアー369」)0.2重量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10重量部を混合し、孔径1.0μmのフィルターで濾過して、顔料分散レジストを得た。粒子径の測定結果は表3に示すとおりで、実施例1の顔料分散体における粒子径をほぼ維持していた。
【0062】
〔実施例10〜16〕
顔料分散体として、実施例1の代わりに実施例2〜8のものを用いて、実施例9と同様の方法で顔料分散レジストを得た。粒子径の測定結果を表3に示す。
【0063】
〔比較例7〕
メチルメタクリレート50重量部、ベンジルメタクリレート10重量部、メタクリル酸10重量部を、フラスコに入れた100重量部のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに投入し、窒素雰囲気下、90〜95℃で8時間重合してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液20重量部に、比較例1で作製した顔料分散体80重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート5重量部、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュアー369」)0.2重量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10重量部を混合し、孔径1.0μmのフィルターで濾過して、顔料分散レジストを得た。粒子径の測定結果を表3に示す。
【0064】
〔比較例8〜12〕
顔料分散体として、比較例1の代わりに比較例2〜6のものを用いて、比較例7と同様の方法で顔料分散レジストを得た。粒子径の測定結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示されたように、実施例9〜16の顔料分散レジストは、実施例1〜8の顔料分散体における粒子径をほぼ維持していた。
【0067】
4.カラーフィルターの作成及び評価
上記により得られた顔料分散レジストを用いてカラーフィルターを作成し、以下の方法でその光学的特性を評価した。結果を表4に示す。
【0068】
〔カラーフィルターの光学的特性の評価方法〕
カラーフィルターを2枚の偏光板で挟み、偏光板が平行配置の時と垂直配置の時の透過光を色彩輝度計(コニカミノルタ社製、CS−200)で測定した。目的の色度になるように膜厚を調整した塗膜に関して、偏光板が平行配置の時と垂直配置の時の透過光の強度比をコントラストとし、透過光の色度をyとし、xy表色系で表現した時のY値を明度として評価した。
【0069】
〔実施例17〕
実施例10の顔料分散レジストをスピンコート法でガラス基板に塗布し、80℃で30分間乾燥させて塗膜を得た。この塗膜にフォトマスクをかけ、高圧水銀灯を用いて200mJ/cmの光量で露光した後、30℃に保持したテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの1重量%水溶液に浸して未露光部分を溶出して現像した。その後、220℃で1時間ベークし、カラーフィルターを得た。なお、スピンコートする際の回転数を変えることで膜厚を調整し、カラーフィルターの透過光色をYxy表色系で表した時のy値が0.26になるようにした。
【0070】
〔実施例18〜24〕
顔料分散レジストとして実施例9のものに替えて実施例10〜16のものを用いた以外は実施例17と同様の方法でカラーフィルターを得た。なお、それぞれの塗膜の厚さは、カラーフィルターのy値がそれぞれ表4に示した値になるように調整した。
【0071】
〔比較例13〕
比較例7の顔料分散レジストをスピンコート法でガラス基板に塗布し、80℃で30分間乾燥させて塗膜を得た。この塗膜にフォトマスクをかけ、高圧水銀灯を用いて200mJ/cmの光量で露光した後、30℃に保持したテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの1重量%水溶液に浸して未露光部分を溶出して現像した。その後、220℃で1時間ベークし、カラーフィルターを得た。なお、スピンコートする際の回転数を変えることで膜厚を調整し、カラーフィルターの透過光色をYxy表色系で表した時のy値が0.26になるようにした。
【0072】
〔比較例14〜18〕
顔料分散レジストとして比較例7の代わりに比較例8〜12のものを用いて、比較例13と同様の方法でカラーフィルターを得た。なお、それぞれの塗膜の厚さは、カラーフィルターのy値がそれぞれ表4に示した値になるように調整した。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示されたように、実施例17〜24においては、コントラスト、明度共に、比較例のものより向上したカラーフィルターが得られた。顔料により向上の程度は異なるが、顔料としてC.I.ピグメントバイオレット23を用いた実施例21は、特に効果が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の顔料分散体、顔料分散レジスト、およびカラーフィルターは、液晶表示装置を初めとする各種カラー表示装置に広範に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、この顔料を分散させる分散剤とを含有するカラーフィルター用顔料分散体であって、
前記分散剤として下記一般式(1)〜(3)で表される構成単位をそれぞれ1個以上有し、重量平均分子量が100〜100,000であるポリビニルアセタールと、重量平均分子量が100〜50,000であるポリエステルとを骨格に持ち、前記ポリビニルアセタールが有する水酸基の1〜95モル%が、前記ポリエステルとグラフト結合を形成したポリビニルアセタール・ポリエステルグラフト共重合体を用いたことを特徴とするカラーフィルター用顔料分散体。
【化1】

ただし、式(1)中、Rは水素原子あるいは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキル基またはアリール基を表し、これらは窒素原子を含まない置換基を有していてもよい。
【化2】

【化3】

ただし、式(3)中、Rは水素原子あるいは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキル基またはアリール基を表し、これらは窒素原子を含まない置換基を有していてもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の顔料分散体と硬化性成分とを少なくとも含有するカラーフィルター用顔料分散レジスト。
【請求項3】
カラーフィルター用基板上の少なくとも一部に、請求項2に記載の顔料分散レジストにより形成された硬化塗膜層を有するカラーフィルター。

【公開番号】特開2012−252207(P2012−252207A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125389(P2011−125389)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000231280)日本資材株式会社 (9)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】