説明

カリシウイルスウイルス様粒子上の標的化異種抗原提示

本発明は、カリシウイルスキャプシドタンパク質と1つ以上の異種抗原配列とを含む粒子形成キメラタンパク質を提供する。特定的には、本発明は、修飾キャプシドタンパク質が宿主細胞内で発現されたときにウイルス様粒子形成能を維持するように内部位置に融合された異種エピトープを含有する工学操作されたカリシウイルスキャプシドタンパク質配列を開示する。キメラタンパク質を含むウイルス様粒子およびワクチン製剤も記述する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月21日出願の米国仮特許出願第61/297,109号(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)に基づく利益を請求する。
【0002】
電子申請テキストファイルに関する記述
添付の電子申請テキストファイル、すなわち、配列リストのコンピューター可読形式コピー(ファイル名:LIG0_023_01 WO_SeqList_ST25.txt、記録日:2011年1月21日、ファイルサイズ20キロバイト)の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0003】
発明の分野
本発明は、ウイルス学、分子生物学、およびワクチン開発の分野に関する。特に、本発明は、修飾キャプシドタンパク質から生成されるウイルス様粒子の表面上に異種抗原エピトープを提示できるように、異種抗原エピトープをタンパク質配列中に挿入するように修飾することができるカリシウイルスキャプシドタンパク質に関する。そのような修飾キャプシドタンパク質およびウイルス様粒子は、ワクチン製剤に有用である。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
多くの現在のワクチンでは、病原体に対する防御免疫応答を誘導するために弱毒化微生物が利用される。これらのタイプのワクチンは、典型的には、強力な免疫応答を生じるが、病原性微生物に戻る可能性があるので感染の潜在的リスクが存在し、したがって、これらのワクチンは、いくつかの患者集団では禁忌となることもある。組換え抗原を利用した他のワクチンでは、感染のリスクは回避されるが、一般的には、弱毒化生ワクチンよりも弱い免疫応答を生じる。組換え抗原によるそのような弱い免疫応答は、免疫系への抗原提示が効果的でないためと考えられる。したがって、自然感染時に起こる免疫系への抗原提示をより良好に模倣しうるワクチンプラットフォームが必要とされる。
【0005】
近年、ウイルス様粒子(VLP)または偽ビリオンは、効果的な免疫応答を誘導する抗原を提示するために使用されてきている。VLPおよび偽ビリオンは、構造的には天然に存在する感染性粒子に類似していているが、複製に必要なウイルス遺伝情報を含有していない。VLP上または偽ビリオン上に提示される抗原に対する免疫応答は、典型的には、可溶性抗原に対する応答よりもかなり大きい。VLPは、免疫系に抗原を効果的に提示するのに有用なプラットフォームであるにように思われるが、VLPの効率的産生は、いくつかのウイルスでは達成困難であることが判明している。さらにまた、ウイルスキャプシドタンパク質配列の操作およびウイルス粒子中への外来抗原タンパク質または断片の組込みにより、多くの場合、インタクトVLPの効率的生成が排除または低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、弱毒化生ワクチンに付随するリスクを伴うことなく免疫系に抗原を効果的に提示する実用性のある安全なワクチンプラットフォームを開発することが当技術分野で依然として必要とされている。さらにまた、対象となる任意の抗原またはさまざまな病原性生物に由来する複数の抗原を容易に組み込むことが可能なワクチンプラットフォームが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、一部には、キャプシドタンパク質がVLP形成能を維持するように異種抗原エピトープをカリシウイルスのキャプシドタンパク質中に挿入可能であるという発見に基づく。したがって、本発明は、カリシウイルスキャプシドタンパク質と少なくとも1つの異種抗原またはその断片とを含むキメラタンパク質を提供する。ただし、このキメラタンパク質は、宿主細胞内で発現されたときにVLPを形成可能である。一実施形態では、少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、カリシウイルスキャプシドタンパク質のP2ドメイン中に挿入される。他の実施形態では、少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、カリシウイルスキャプシドタンパク質のP2ドメインの1つ以上の溶媒露出ループ中に挿入される。カリシウイルスは、たとえば、ノロウイルス、サポウイルス、ラゴウイルス、またはベシウイルスでありうる。
【0008】
異種抗原またはその断片は、キャプシド配列からいずれのアミノ酸も欠失させることなくカリシウイルスキャプシド配列のアミノ酸配列中に直接挿入可能である。あるいは、異種抗原または断片は、カリシウイルスキャプシドタンパク質の1つ以上の残基と置き換わる。異種抗原は、ウイルス、細菌、および真核病原体などの種々の病原体に由来しうる。いくつかの実施形態では、異種抗原は、腫瘍関連抗原またはアレルゲンに由来しうる。異種抗原は、T細胞またはB細胞を刺激するエピトープでありうる。
【0009】
本発明はまた、本発明のキメラキャプシドタンパク質を含むウイルス様粒子、さらには新規なキメラキャプシドタンパク質をコードする単離された核酸およびベクターを包含する。いくつかの実施形態では、キメラキャプシドタンパク質は、ノロウイルスに由来するキャプシドタンパク質と少なくとも1つの異種抗原またはその断片とを含む。ノロウイルスは、たとえば、遺伝子群Iまたは遺伝子群IIのノロウイルスでありうる。
【0010】
本発明は、本発明のキメラタンパク質を含有するウイルス様粒子を含むワクチン製剤を提供する。いくつかの実施形態では、ワクチン製剤はさらに、アジュバントを含む。ワクチン製剤は、液状製剤または乾燥粉末製剤でありうる。本明細書に記載のワクチン製剤を投与することにより外来因子に対する免疫応答を誘導する方法も、本発明に包含される。
【0011】
本発明はまた、キメラウイルス様粒子の作製方法を包含する。一実施形態では、この方法は、宿主細胞内で本明細書に記載のキメラタンパク質を発現することと、ウイルス様粒子が形成される条件で宿主細胞を増殖することと、を含む。いくつかの実施形態では、宿主細胞は昆虫細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】GI.1ノロウイルスNorwalk VP1サブユニット中の溶媒接触(solvent-accessible)P2ドメインループ。GI.1 Norwalk VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)。P2ドメイン残基は灰色で陰影付けされ、一方、このドメイン内の溶媒接触ループ残基は下線付き太字で示される。
【図1B】ノロウイルスGII.4コンセンサスVP1サブユニット中の溶媒接触P2ドメインループ。GII.4コンセンサスVP1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)。P2ドメイン残基は灰色で陰影付けされ、一方、このドメイン内の溶媒接触ループ残基は下線付き太字で示される。
【図2】同定された溶媒接触P2ドメインループが強調表示されたノロウイルスGII.4コンセンサスVP1サブユニットの構造モデル。
【図3A】テンプレートとしてNorwalk VP1原子構造を用いたサポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1サブユニットの構造モデル。
【図3B】テンプレートとしてSMSV VP1原子構造を用いたサポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1サブユニットの構造モデル。
【図4A】テンプレートとしてNorwalk VP1原子構造を用いたサポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1サブユニット中の溶媒接触P2ドメインループ。サポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)。Norwalk VP1テンプレートに基づいて、P2ドメイン残基は灰色で陰影付けされ、一方、このドメイン内の溶媒接触ループ残基は下線付き太字で示される。
【図4B】テンプレートとしてSMSV VP1原子構造を用いたサポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1サブユニット中の溶媒接触P2ドメインループ。サポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)。SMSV VP1テンプレートに基づいて、P2ドメイン残基は灰色で陰影付けされ、一方、このドメイン内の溶媒接触ループ残基は下線付き太字で示される。
【図5】ノロウイルスNorwalk(配列番号1)およびベシウイルスSan Miguelアシカ(SMSV;配列番号4)のVP1キャプシドタンパク質間のアミノ酸配列アライメント。アステリスクは同一残基を表し、コロンは保存的置換を表し、ピリオドは半保存的置換を表し、かつ空白スペースは非保存的置換を表す。
【図6】ノロウイルスGI.1 Norwalk VP1サブユニット中の外来エピトープの残基置換え部位および残基挿入部位(強調表示)。
【図7】キメラNorwalk VLPのエピトープ挿入部位および部分的置換え部位。インフルエンザ赤血球凝集素抗原に由来する9アミノ酸のエピトープ(配列番号5)をNorwalk VP1タンパク質配列中の指定のアミノ酸残基の直後に挿入したかまたは指定の残基と置き換えた。
【図8】キメラNorwalk VLP産生のSDS−PAGE解析。インフルエンザ赤血球凝集素抗原に由来する9アミノ酸のエピトープをNorwalk VP1タンパク質配列中のアミノ酸残基362または296の直後に挿入した。ウイルス様粒子を修飾VP1配列から生成し、SDS−PAGEにより解析した。レーン1、分子量標準;レーン2、362挿入の遠心分離後の上清;レーン3、362の遠心分離ペレット画分;レーン4、362挿入の濾液;レーン5、296挿入の遠心分離後の上清;レーン6、296の遠心分離ペレット画分;およびレーン7、296挿入の濾液。約57kDaのタンパク質バンドは、キメラNorwalk VP1タンパク質を表す。
【図9】キメラNorwalk VLP産生のウェスタンブロット解析。赤血球凝集素(HA)エピトープを含有するキメラVLPのウェスタンブロットを抗Norwalk抗体(左側パネル)または抗HA抗体(右側パネル)でプローブした。レーン1、分子量標準;レーン2、VP1残基336にHAエピトープ挿入を有するキメラVLP;レーン3、VP1残基337〜341のHAエピトープ置換えを有するキメラVLP;およびレーン4、野生型Norwalk VP1。約57kDaのタンパク質バンドは、キメラNorwalk VP1タンパク質を表す。
【図10】連続流遠心分離(CFC)によるキメラNorwalk VLPの精製。アステリスクはインタクトキメラNorwalk VLPを表す。
【図11】サイズ排除クロマトグラフィーによるキメラノロウイルスVLPの解析。赤色トレース − 220nmの吸収;青色トレース − 280nmの吸収。
【図12】電子顕微鏡法によるキメラノロウイルスVLPの解析。
【図13】連続流遠心分離(CFC)によるキメラNorwalk VLP(29残基のRSV−Fタンパク質エピトープを含有する)の精製。アステリスクはインタクトキメラNorwalk VLPを表す。
【図14】電子顕微鏡法によるキメラノロウイルスVLP(29残基のRSV-Fタンパク質エピトープを含有する)の解析。
【図15】血清希釈の関数としてのODの増加倍率。ここでは、6匹の動物のうち2匹が抗RSV−F IgG抗体の4倍超の増加を示した。
【図16】2つの修飾表面ループを含有するキメラNorwalk VLP産生のSDS−PAGE解析。RSV−F抗原に由来する9アミノ酸のエピトープを残基338および363に同時に挿入したか、または残基337〜341と置き換えかつ同時に残基363に挿入した。ウイルス様粒子を修飾VP1配列から生成し、SDS−PAGEにより解析した。レーン1、分子量標準;レーン2、338および363挿入の遠心分離後の上清;レーン3、338および363挿入の遠心分離ペレット画分;レーン4、338および363挿入の濾液;レーン5、337〜341置換えかつ363挿入の遠心分離後の上清;レーン6、337〜341置換えかつ363挿入の遠心分離ペレット画分;およびレーン7、337〜341置換えかつ363挿入の濾液。約57kDaのタンパク質バンドは、キメラNorwalk VP1タンパク質を表す。
【図17】HAタンパク質配列をNorwalk VP1タンパク質のアミノ酸338および339の間に挿入したか、またはVP1のアミノ酸337〜341と置き換えた。0日目および7日目にアジュバントを用いずにHA−NVLPを腹腔内投与した。14日目に血清を採取し、ELISAにより抗原特異的IgMの存在に関して解析した。群の幾何平均を表す水平バーと共に個別の結果を示す。
【図18】図17のマウスに37日目にAlOH/MPLと共に製剤化されたHA−NVLPの追加免疫を施した。64日目に血清を採取し、ELISAによりHA特異的IgGの存在に関して解析した。群の幾何平均を表す水平バーと共に個別の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、キャプシドタンパク質がVLP形成能を維持するように異種ペプチドをカリシウイルスキャプシドタンパク質の特定の溶媒露出(solvent-exposed)領域中に挿入可能であるという発見に基づく。本発明者らは、修飾キャプシドタンパク質から形成されるVLPの表面上に1つ以上の異種抗原が効果的に提示されるようにカリシウイルスキャプシドタンパク質を工学操作する有効な戦略を開発した。したがって、本発明は、カリシウイルスに由来するキャプシドタンパク質と少なくとも1つの異種抗原またはその断片とを含む新規なキメラタンパク質を提供する。ただし、このキメラタンパク質は、宿主細胞内で発現されたときにVLPを形成可能である。
【0014】
本明細書で用いられる場合、「キメラタンパク質」とは、2つ以上の生物に由来するペプチドを含む融合タンパク質を意味する。2つ以上のペプチドは、それらのアミノ末端またはカルボキシ末端で融合可能である。あるいは、1つ以上のペプチドは、他のペプチド中の内部位置で融合可能である。好ましくは、本発明のキメラタンパク質は、カリシウイルスに由来するキャプシドタンパク質またはその一部分を含む。カリシウイルスまたはカリシウイルス科(Caliciviridae)は、ベシウイルス属、ノロウイルス属、ラゴウイルス属、およびサポウイルス属を包含する。本発明のキメラタンパク質のキャプシドタンパク質は、これらの4つの属のいずれかのキャプシドタンパク質に由来しうる。たとえば、いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、ベシウイルスのSan Miguelアシカウイルスに由来する。一実施形態では、キャプシドタンパク質は、配列番号4で示される配列を有する。
【0015】
特定の実施形態では、キャプシドタンパク質は、ノロウイルスに由来する。ノロウイルス属は、5つの遺伝子群(GI、GII、GIII、GIV、およびGV)に分類される。GI、GII、およびGIVのノロウイルスは、ヒトで感染性であり、一方、GIIIのノロウイルスは、主にウシ科動物種に感染する。GVは、最近、マウスから単離された(Zheng et al. (2006) Virology, Vol 346: 312-323)。GIIIの代表は、Jena株およびNewbury株であり、一方、Alphatron株、Fort Lauderdale株、およびSaint Cloud株は、GIVの代表である。GIおよびGIIの群は、遺伝子分類に基づいて遺伝子クラスターまたは遺伝子型にさらに細分可能である(Ando et al. (2000) J. Infectious Diseases, Vol. 181(Supp2):S336-S348; Lindell et al. (2005) J. Clin. Microbial., Vol. 43(3): 1086-1092)。本明細書で用いられる場合、遺伝子クラスターという用語は、遺伝子型という用語と同義的に用いられる。遺伝子群I内には、これまでに知られている8つのGIクラスター(プロトタイプウイルス株名で)、すなわち、GI.1 (Norwalk (NV-USA93))、GI.2 (Southhampton (SOV-GBR93))、GI.3 (Desert Shield (DSV-USA93))、GI.4 (Cruise Ship virus/Chiba (Chiba-JPN00))、GI.5 (318/Musgrove (Musgrov-GBR00))、GI.6 (Hesse (Hesse-DEU98))、GI.7 (Wnchest-GBR00)、およびGI.8 (Boxer-USA02)が存在する。遺伝子群II内には、これまでに知られている19のGIIクラスター(プロトタイプウイルス株名で)、すなわち、GII.1 (Hawaii (Hawaii-USA94))、GII.2 (Snow Mountain/Melksham (Msham-GBR95))、GII.3 (Toronto (Toronto-CAN93))、GII.4 (Bristol/Lordsdale (Bristol-GBR93))、GII.5 (290/Hillingdon (Hilingd-GBR00))、GII.6 (269/Seacroft (Seacrof-GBR00))、GII.7 (273/Leeds (Leeds-GBR00))、GII.8 (539/Amsterdam (Amstdam-NLD99))、GII.9 (378 (VABeach-USA01))、GII.10 (Erfurt-DEU01)、GII.11 (SW9180JPN01)、GII.12 (Wortley-GBR00)、GII.13 (Faytvil-USA02)、GII.14 (M7-USA03)、GII.15 (J23-USA02)、GII.16 (Tiffin-USA03)、GII.17 (CSE1-USA03)、GII.18 (QW101/2003/US)、およびGII.19 (QW170/2003/US)が存在する。一実施形態では、キャプシドタンパク質は、遺伝子群Iまたは遺伝子群IIのノロウイルスに由来する。他の実施形態では、キャプシドタンパク質は、遺伝子群Iの遺伝子型1(GI.1)または遺伝子群IIの遺伝子型4(GII.4)のノロウイルスに由来する。
【0016】
好ましくは、本発明のキメラタンパク質中に組み込まれるノロウイルスキャプシドタンパク質は、オープンリーディングフレーム(ORF)2によりコードされる主要キャプシドタンパク質VP1である。一実施形態では、キャプシドタンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。新規なキメラタンパク質のキャプシドタンパク質成分は、公知のノロウイルス株のいずれかの主要キャプシドタンパク質に由来しうる。たとえば、次のGenBank登録を参照されたい:ノロウイルス遺伝子群1の株Hu/NoV/West Chester/2001/USA, GenBank受託番号AY502016、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Braddock Heights/1999/USA, GenBank受託番号AY502015、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV /Fayette/1999/USA, GenBank受託番号AY502014、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Fairfield/1999/USA, GenBank受託番号AY502013、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Sandusky/1999/USA, GenBank受託番号AY502012、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Canton/1999/USA, GenBank受託番号AY502011、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Tiffin/1999/USA, GenBank受託番号AY502010、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/CS-E1/2002/USA, GenBank受託番号AY50200、ノロウイルス遺伝子群1の株Hu/NoV/Wisconsin/2001/USA, GenBank受託番号AY502008、ノロウイルス遺伝子群1の株Hu/NoV/CS-841/2001/USA, GenBank受託番号AY502007、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Hiram/2000/USA, GenBank受託番号AY502006、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Tontogany/1999/USA, GenBank受託番号AY502005、Norwalkウイルス, 完全ゲノム, GenBank受託番号NC.sub.--001959、ノロウイルスHu/GI/Otofuke/1979/JPゲノムRNA, 完全ゲノム, GenBank受託番号AB187514、ノロウイルスHu/Hokkaido/133/2003/JP, GenBank受託番号AB212306、ノロウイルスSydney 2212, GenBank受託番号AY588132、Norwalkウイルス株SN2000JA, GenBank受託番号AB190457、Lordsdaleウイルス完全ゲノム, GenBank受託番号X86557、Norwalk様ウイルスゲノムRNA, Gifu'96, GenBank受託番号AB045603、Norwalkウイルス株Vietnam 026, 完全ゲノム, GenBank受託番号AF504671、ノロウイルスHu/GII.4/2004/N/L, GenBank受託番号AY883096、ノロウイルスHu/GII/Hokushin/03/JP, GenBank受託番号AB195227、ノロウイルスHu/GII/Kamo/03/JP, GenBank受託番号AB195228、ノロウイルスHu/GII/Sinsiro/97/JP, GenBank受託番号AB195226、ノロウイルスHu/GII/Ina/02/JP, GenBank受託番号AB 195225、ノロウイルスHu/NLV/GII/Neustrelitz260/2000/DE, GenBank受託番号AY772730、ノロウイルスHu/NLV/Dresden174/pUS-NorII/1997/GE, GenBank受託番号AY741811、ノロウイルスHu/NLV /Oxford/B2S16/2002/UK, GenBank受託番号AY587989、ノロウイルスHu/NLV/Oxford/B4S7/2002/UK, GenBank受託番号AY587987、ノロウイルスHu/NLV/Witney/B7S2/2003/UK, GenBank受託番号AY588030、ノロウイルスHu/NLV /Banbury/B9S23/2003/UK, GenBank受託番号AY588029、ノロウイルスHu/NLV /ChippingNorton/2003/UK, GenBank受託番号AY588028、ノロウイルスHu/NLV/Didcot/B9S2/2003/UK, GenBank受託番号AY588027、ノロウイルスHu/NLV/Oxford/B8S5/2002/UK, GenBank受託番号AY588026、ノロウイルスHu/NLV /Oxford/B6S4/2003/UK, GenBank受託番号AY588025、ノロウイルスHu/NLV/Oxford/B6S5/2003/UK, GenBank受託番号AY588024、ノロウイルスHu/NLV /Oxford/B5S23/2003/UK, GenBank受託番号AY588023、ノロウイルスHu/NLV/Oxford/B6S2/2003/UK, GenBank受託番号AY588022、ノロウイルスHu/NLV/Oxford/B6S6/2003/UK, GenBank受託番号AY588021、Norwalk様ウイルス単離株Bo/Thirsk10/00/UK, GenBank受託番号AY126468、Norwalk様ウイルス単離株Bo/Penrith55/00IUK, GenBank受託番号AY126476、Norwalk様ウイルス単離株Bo/Aberystwyth24/00IUK, GenBank受託番号AY126475、Norwalk様ウイルス単離株Bo/Dumfries/94/UK, GenBank受託番号AY126474、ノロウイルスNLV /IF2036/2003/Iraq, GenBank受託番号AY675555、ノロウイルスNLV/IF1998/2003/Iraq, GenBank受託番号AY675554、ノロウイルスNLV /BUDS/2002/USA, GenBank受託番号AY660568、ノロウイルスNLV/Paris Island/2003/USA, GenBank受託番号AY652979、Snow Mountainウイルス, 完全ゲノム, GenBank受託番号AY134748、Norwalk様ウイルスNLV/Fort Lauderdale/560/1998/US, GenBank受託番号AF414426、Hu/Norovirus/hiroshima/1999/JP(9912-02F), GenBank受託番号AB044366、Norwalk様ウイルス株11MSU-MW, GenBank受託番号AY274820、Norwalk様ウイルス株B-1SVD, GenBank受託番号AY274819、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Fannington Hills/2002/USA, GenBank受託番号AY502023、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV /CS-G4/2002/USA, GenBank受託番号AY502022、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV /CS-G2/2002/USA, GenBank受託番号AY502021、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/CS-G12002/USA, GenBank受託番号AY502020、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Anchorage/2002/USA, GenBank受託番号AY502019、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/CS-D1/2002/CAN, GenBank受託番号AY502018、ノロウイルス遺伝子群2の株Hu/NoV/Gennanton/2002/USA, GenBank受託番号AY502017、ヒトカリシウイルスNLV/GII/Langen1061/2002/DE, 完全ゲノム, GenBank受託番号AY485642、ネズミノロウイルス1ポリタンパク質, GenBank受託番号AY228235、Norwalkウイルス, GenBank受託番号AB067536、ヒトカリシウイルスNLV /Mex7076/1999, GenBank受託番号AF542090、ヒトカリシウイルスNLV/Oberhausen 455/01/DE, GenBank受託番号AF539440、ヒトカリシウイルスNLV/Herzberg 385/01/DE, GenBank受託番号AF539439、ヒトカリシウイルスNLV/Boxer/2001/US, GenBank受託番号AF538679、Norwalk様ウイルスゲノムRNA, 完全ゲノム, GenBank受託番号AB081723、Norwalk様ウイルスゲノムRNA, 完全ゲノム, 単離株:Saitama U201, GenBank受託番号AB039782、Norwalk様ウイルスゲノムRNA, 完全ゲノム, 単離株:Saitama U18, GenBank受託番号AB039781、Norwalk様ウイルスゲノムRNA, 完全ゲノム, 単離株:Saitama U25, GenBank受託番号AB039780、Norwalkウイルス株:U25GII, GenBank受託番号AB067543、Norwalkウイルス株:U201 GII, GenBank受託番号AB067542、Norwalk様ウイルス株416/97003156/1996/LA, GenBank受託番号AF080559、Norwalk様ウイルス株408/97003012/1996/FL, GenBank受託番号AF080558、Norwalk様ウイルスNLV/Burwash Landing/331/1995/US, GenBank受託番号AF414425、Norwalk様ウイルスNLV/Miami Beach/326/1995/US, GenBank受託番号AF414424、Norwalk様ウイルスNLV/White River/290/1994/US, GenBank受託番号AF414423、Norwalk様ウイルスNLV /New Orleans/306/1994/US, GenBank受託番号AF414422、Norwalk様ウイルスNLV/Port Canaveral/30111994/US, GenBank受託番号AF414421、Norwalk様ウイルスNLV/Honolulu/314/1994/US, GenBank受託番号AF414420、Norwalk様ウイルスNLV/Richmond/283/1994/US, GenBank受託番号AF414419、Norwalk様ウイルスNLV/Westover/302/1994/US, GenBank受託番号AF414418、Norwalk様ウイルスNLV/UK3-17/12700/1992/GB, GenBank受託番号AF414417、Norwalk様ウイルスNLV/Miami/81/1986/US, GenBank受託番号AF414416、Snow Mountain株, GenBank受託番号U70059、Desert ShieldウイルスDSV395, GenBank受託番号U04469、Norwalkウイルス, 完全ゲノム, GenBank受託番号AF093797、Hawaiiカリシウイルス, GenBank受託番号U07611、Southamptonウイルス, GenBank受託番号L07418、Norwalkウイルス(SRSV-KY-89/89/J), GenBank受託番号L23828、Norwalkウイルス(SRSV-SMA/76/US), GenBank受託番号L23831、Camberwellウイルス, GenBank受託番号U46500、ヒトカリシウイルス株Melksham, GenBank受託番号X81879、ヒトカリシウイルス株MX, GenBank受託番号U22498、ミニレオウイルスTV24, GenBank受託番号U02030、およびNorwalk様ウイルスNLV/Gwynedd/273/1994/US, GenBank受託番号AF414409。これらのすべての配列(本出願の出願日までに登録されたもの)は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。このほかのノロウイルス配列は、次の公開特許に開示されている:国際公開第2005/030806号、国際公開第2000/79280号、特開2002−020399号、米国特許出願公開第2003129588号、米国特許第6,572,862号、国際公開第1994/05700号、および国際公開第05/032457号(これらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)。また、配列比較ならびにノロウイルスの遺伝子多様性および系統発生的解析の考察のために、Green et al. (2000) J. Infect. Dis., Vol. 181(Suppl. 2):S322-330、Wang et al. (1994) J. Viral., Vol. 68:5982-5990、Chen et al. (2004) J. Viral., Vol. 78: 6469-6479、Chakravarty et al. (2005) J. Viral., Vol. 79: 554-568、Hansman et al. (2006) J. Gen. Viral., Vol. 87:909-919、Bullet et al. (2006) J. Clin. Micro., Vol. 44(2):327-333、Siebenga, et al. (2007) J. Viral., Vol. 81 (18):9932-9941、およびFankhauser et al. (1998) J. Infect. Dis., Vol. 178: 1571-1578も参照されたい。
【0017】
他の実施形態では、キメラタンパク質のキャプシドタンパク質成分は、2つ以上のノロウイルス流行株に由来する複合キャプシドタンパク質である。2つ以上のノロウイルス流行株に由来するアミノ酸配列が組み込まれた複合キャプシドタンパク質配列は、2009年8月10日出願の国際出願PCT/US2009/053249号(参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載されている。一実施形態では、複合キャプシドタンパク質は、2つ以上の遺伝子群II.4ノロウイルス流行株に由来する。特定の一実施形態では、複合キャプシドタンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する。
【0018】
特定の実施形態では、本発明のキメラタンパク質は、サポウイルスに由来するキャプシドタンパク質を含む。サポウイルス属はさらに、5つの異なる遺伝子群(GI〜GV)に分類可能である。キャプシドタンパク質は、5つの遺伝子群のいずれかのサポウイルスのVP1キャプシドタンパク質に由来しうる。たとえば、いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、Sapporoウイルス、London/29845ウイルス、Hu/Yokohama16-4/2007/JPウイルス、Manchesterウイルス、Houston/86ウイルス、Houston/90ウイルス、およびParkvilleウイルスのキャプシドタンパク質に由来する。特定の一実施形態では、キャプシドタンパク質は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する。新規なキメラタンパク質のキャプシドタンパク質成分は、公知のサポウイルス株のいずれかの主要キャプシドタンパク質に由来しうる。たとえば、GenBank登録:サポウイルスMc10, GenBank受託番号NC.sub.--010624、サッポロウイルス, GenBank受託番号U65427、サポウイルスM10, GenBank受託番号AY237420、サポウイルスSaKaeo-15/Thailand, GenBank受託番号AY646855、Sapporoウイルス, GenBank受託番号NC.sub.--006269、サポウイルスC12, GenBank受託番号NC.sub.--006554、サポウイルスC12, GenBank受託番号AY603425、サポウイルスHu/Dresden/pJG-Sap01/DE, GenBank受託番号AY694184、ヒトカリシウイルスSLY /cruise ship/2000/USA, GenBank受託番号AY289804、ヒトカリシウイルスSLV/Arg39, GenBank受託番号AY289803、ブタ腸カリシウイルス株LL14, GenBank受託番号AY425671、ブタ腸カリシウイルス, GenBank受託番号NC.sub.--000940、ヒトカリシウイルス株Mc37, GenBank受託番号AY237415、ミンク腸カリシウイルス株Canada 151A, GenBank受託番号AYl44337、ヒトカリシウイルスSLV/Hou7-1181, GenBank受託番号AF435814、ヒトカリシウイルスSLV/Mex14917/2000, GenBank受託番号AF435813、ヒトカリシウイルスSLV/Mex340/1990, GenBank受託番号AF435812、ブタ腸カリシウイルス, GenBank受託番号AF182760、Sapporoウイルス-London/29845, GenBank受託番号U95645、Sapporoウイルス-Manchester, GenBank受託番号X86560、Sapporoウイルス-Houston/86, GenBank受託番号U95643、Sapporoウイルス-Houston/90, GenBank受託番号U95644、およびヒトカリシウイルス株HuCV/Potsdam/2000/DEU, GenBank受託番号AF294739。これらのすべての配列(本出願の出願日までに登録されたもの)は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。配列比較ならびにSapoウイルスの遺伝子多様性および系統発生的解析の考察のために、Schuffenecker et al. (200I) Arch Virol., Vol. I46(I1):2I15-2132; Zintz et al. (2005) Infect. Genet. Evol., Vol. 5:28I-290; Farkas et al. (2004) Arch. Virol., Vol. I49:1309-I323も参照されたい。
【0019】
カリシウイルスの主要キャプシドタンパク質は、異なるドメイン、すなわち、シェル(shell)または「S」ドメインおよび突出ドメインまたは「P」ドメイン(これはP1およびP2ドメインにさらに細分される)で構成されている。キャプシド単量体の「S」ドメインは、合体してウイルスコートのシェルを形成し、一方、幹様P1ドメインおよび球状P2ドメインは、アーチ状構造をなしてシェルから外向きに突出する。カリシウイルス構造の特徴付けについては、Prasad et al. (2000) Journal of Infectious Diseases, Vol. 181: S317-S321を参照されたい。P2球状ドメインは、ウイルスキャプシドの表面上に位置しており、抗原決定基を含有しかつ宿主特異性を決定付けると考えられる(たとえば、Crisci et al. (2009) Virology, Vol. 387: 303-312、Kumar et al. (2007) Journal ofVirology, Vol. 81: 1119-1128、Katpally et al. (2008) Journal ofVirology, Vol. 82: 2079-2088を参照されたい)。P1ドメインおよびP2ドメインの一部分は、キャプシド構造を安定化させるのに必要とされる。本発明者らは、キャプシド構造を撹乱せずに異種抗原に由来するアミノ酸配列を挿入可能であるP2ドメインの特定の溶媒露出ループ領域を同定した(実施例1参照)。したがって、一実施形態では、少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、カリシウイルスキャプシドタンパク質のP2ドメイン中に挿入され、本発明のキメラタンパク質を形成する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、カリシウイルスキャプシドのP2ドメインの少なくとも1つの溶媒露出ループ中に挿入される。本明細書で用いられる場合、「溶媒露出」または「溶媒接触」とは、単量体がその天然のコンフォメーションに折り畳まれて集合VLPの形態をとったときに、(疎水性コアやVLP内部やタンパク質間界面ではなく)キャプシド単量体の外側表面上に位置するアミノ酸残基を意味する。本発明者らは、本明細書に記載されるように配列アライメント、3D構造解析、および3D構造モデリングを利用して、カリシウイルスキャプシドタンパク質中のP2ドメインさらには溶媒露出ループドメインを同定した(実施例1参照)。類似の方法およびGeno3D2やSwiss PDB viewerなどのソフトウェアアプリケーションを本発明に従って使用してキャプシドタンパク質中の他の好適な溶媒露出ループ残基を同定することが可能である。
【0020】
特定の実施形態では、異種抗原またはその断片を挿入可能なノロウイルスキャプシドタンパク質中の好適な溶媒露出ループは、配列番号1で示されるアミノ酸293〜300、配列番号1で示されるアミノ酸305〜313、配列番号1で示されるアミノ酸335〜342、配列番号1で示されるアミノ酸348〜351、配列番号1で示されるアミノ酸362〜368、配列番号1で示されるアミノ酸380〜386、配列番号1で示されるアミノ酸397〜405、配列番号2で示されるアミノ酸293〜300、配列番号2で示されるアミノ酸306〜317、配列番号2で示されるアミノ酸338〜346、配列番号2で示されるアミノ酸354〜357、配列番号2で示されるアミノ酸366〜375、および配列番号2で示される388〜405のアミノ酸(たとえば、図1AおよびB中の下線付き太字で示された領域を参照されたい)を含むが、これらに限定されるものではない。他の実施形態では、異種抗原またはその断片を挿入可能なサポウイルスキャプシドタンパク質中の好適な溶媒露出ループは、配列番号3で示されるアミノ酸296〜315、配列番号3で示されるアミノ酸327〜334、配列番号3で示されるアミノ酸355〜363、配列番号3で示されるアミノ酸374〜377、配列番号3で示されるアミノ酸388〜394、配列番号3で示されるアミノ酸404〜410、配列番号3で示されるアミノ酸414〜429、配列番号3で示されるアミノ酸281〜297、配列番号3で示されるアミノ酸304〜307、配列番号3で示されるアミノ酸313〜317、配列番号3で示されるアミノ酸327〜339、配列番号3で示されるアミノ酸349〜354、配列番号3で示されるアミノ酸365〜389、配列番号3で示されるアミノ酸396〜402、および配列番号3で示されるアミノ酸421〜424(たとえば、図4AおよびB中の下線付き太字で示された領域を参照されたい)を含むが、これらに限定されるものではない。1つ以上の異種抗原またはその断片は、溶媒露出ループ中の1つ以上またはすべてのアミノ酸に挿入可能であるか、またはそれらと置換え可能である。
【0021】
1つ以上異種抗原またはその断片は、P2ドメインの複数の溶媒露出ループ中に、たとえば、P2ドメインの2、3、4、5、6、または7つの溶媒露出ループ中に挿入可能である。同一の異種抗原配列の複数のコピーを種々の溶媒露出ループ中に挿入してもよい。さらにまたはあるいは、さまざまな異種抗原配列をさまざまな溶媒露出ループ中に挿入して、複数の生物に由来するペプチド配列、1つ以上の生物に由来する複数のタンパク質、または1つ以上タンパク質に由来する複数の領域を含有するキメラタンパク質を生成することが可能である。
【0022】
いくつかの実施形態では、本発明のキメラタンパク質を形成するために、異種抗原またはペプチドのアミノ酸配列が、キャプシドアミノ酸残基の欠失を伴うことなくカリシウイルスキャプシド配列中に直接挿入される。好ましくは、異種アミノ酸配列は、P2ドメインの溶媒露出ループ領域内に直接融合される。特定の実施形態では、少なくとも1つの異種抗原配列は、GI.1 Norwalk VP1キャプシド配列(配列番号1)中に挿入される。Norwalk VP1キャプシド配列中への異種抗原配列の好ましい挿入部位は、配列番号1で示される295位のアスパラギン残基、296位のグリシン残基、308位のプロリン残基、336位のグリシン残基、338位のセリン残基、362位のアスパラギン残基、363位のグリシン残基、382位のプロリン残基、383位のセリン残基、399位のイソロイシン残基、または402位のアラニン残基の直後への挿入を含む。
【0023】
他の実施形態では、異種抗原またはペプチドのアミノ酸配列は、本発明のキメラタンパク質中のカリシウイルスキャプシドタンパク質の1つ以上のアミノ酸と置き換わる。たとえば、少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、キャプシドタンパク質の約1〜約50アミノ酸、約2〜約40アミノ酸、約4〜約20アミノ酸、約8〜約15アミノ酸、または約10〜約30アミノ酸と置き換わる。特定の一実施形態では、少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、キャプシドタンパク質の約5アミノ酸と置き換わる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの異種抗原配列は、Norwalk VP1キャプシド配列(配列番号1)の少なくとも1つのアミノ酸と置き換わる。一実施形態では、配列番号1で示されるアミノ酸337〜341は、異種アミノ酸配列と置き換えられる。他の実施形態では、配列番号1で示されるアミノ酸294〜298、アミノ酸307〜311、アミノ酸362〜366、アミノ酸381〜385、またはアミノ酸401〜405は、異種アミノ酸配列と置き換えられる。いくつかの実施形態では、異種アミノ酸配列は、キャプシドタンパク質の溶媒露出ループ中のすべてのアミノ酸と置き換わる。
【0024】
本発明のキメラタンパク質は、任意選択によりリンカー配列(たとえば、約1〜約10アミノ酸もしくはそれを超える)を介してまたはキャプシドタンパク質配列もしくはその内部に融合された、少なくとも1つの異種抗原またはその断片を含む。「異種抗原」とは、キャプシドタンパク質の由来源である種と異なる種に由来する免疫原性タンパク質またはペプチドを意味する。
【0025】
いくつかの実施形態では、異種抗原またはその断片は、抗原エピトープを含む。「抗原エピトープ」とは、免疫系の抗体または細胞により認識される三次元構造を意味する。本明細書で用いられる場合、抗原エピトープは、T細胞およびB細胞のエピトープさらには抗体結合エピトープを含む。一実施形態では、異種抗原またはその断片は、ミモトープを含む。ミモトープは、エピトープの構造を模倣した線状アミノ酸配列であり、したがって、エピトープに結合する抗体により認識される。他の実施形態では、異種抗原またはその断片は、不連続エピトープを表す複合線状アミノ酸配列または不連続エピトープの一部分を含有する線状アミノ酸配列を含む。たとえば、不連続エピトープの一部分を含む異種抗原配列は、挿入配列が互いに接触して不連続エピトープを生成するように隣接する溶媒露出ループ領域中に挿入可能である。抗原エピトープおよびミモトープは、一般的な病原因子の技術分野で公知である。たとえば、本明細書に記載の本発明に有用なT細胞エピトープは、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質上の免疫優性T細胞エピトープ(Levely et al. (1991) Journal of Virology, Vol. 65: 3789-3796)またはRSVに由来する核タンパク質特異的細胞傷害性T細胞エピトープ(Venter et al. (2003) Journal of Virology, Vol. 77: 7319-7329)でありうる。当業者であれば、タンパク質マイクロアレイ、ELISPOTアッセイ、およびELISAアッセイを用いたエピトープマッピング、ファージディスプレイ解析、ならびに抗原/抗体複合体の構造モデリング(ただし、これらに限定されるものではない)を含む当技術分野の慣用法を用いて、本発明のキメラタンパク質中に挿入するのに好適な他のエピトープを確定することが可能である。
【0026】
特定の実施形態では、複数のエピトープを本発明のキメラタンパク質中に挿入して、後続のスクリーニングのための1つ以上のエピトープライブラリーを提供することが可能である。
【0027】
他の実施形態では、カリシウイルスキャプシドタンパク質中に挿入される外来配列は、特定の外来抗原に対する高親和性結合部位を含む。この手法では、高親和性結合部位の認識は、外来抗原の固有の性質でありうるか、または高親和性結合部位を認識するタンパク質に外来抗原が融合された構築物を生成しうる。たとえば、高親和性結合部位は、外来抗原に結合する抗体のパラトープまたは抗原結合部位でありうるか、またはレセプターなどの外来抗原と相互作用するタンパク質の結合領域でありうる。いくつかの実施形態では、高親和性結合部位は、ポリプロリンモチーフ(SH2ドメインにより認識される)、ロイシンジッパー(同様にロイシンジッパーモチーフを含有する結合パートナーにより認識される)、またはエピトープ(抗体フラグメントの抗原結合部位により認識される)などの短い線状結合モチーフでありうる。そのような実施形態では、外来抗原は、短い線状ペプチド結合モチーフを認識する結合部位に結合され(VP1サブユニットに工学操作により導入される)、外来抗原結合部位を含有するキメラタンパク質を含むウイルス様粒子に非共有結合される。
【0028】
異種抗原またはその断片は、任意の長さ、より特定的には約5〜約70アミノ酸長、約8〜約50アミノ酸長、約10〜約40アミノ酸長、約15〜約35アミノ酸長、または約20〜約30アミノ酸長でありうる。いくつかの実施形態では、異種抗原またはその断片は、約5〜約20アミノ酸長である。異種抗原またはその断片は、任意選択のリンカー配列を介してカリシウイルスキャプシド配列に融合可能である。リンカー配列は、約1〜約10アミノ酸またはそれを超えうる。
【0029】
異種抗原またはその断片は、ウイルス、細菌、および真核病原体などの種々の病原因子に由来しうる。たとえば、一実施形態では、異種抗原はウイルスに由来する。異種抗原の由来源であるウイルスは、レトロウイルス科(Retroviridae)(たとえば、HIV−1などのヒト免疫不全ウイルス(HTLV−III、LAV、もしくはHTLV−III/LAV、またはHIV−IIIとしても参照される)およびHIV−LPなどの他の単離株)、ピコルナウイルス科(Picomaviridae)(たとえば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルス、ヒトCoxsackieウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス)、カリシウイルス科(Calciviridae)(たとえば、Norwalkウイルスおよび関連ウイルスを含む、胃腸炎を引き起こす株)、トガウイルス科(Togaviridae)(たとえば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス)、フラビウイルス科(Flaviridae)(たとえば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱ウイルス)、コロナウイルス科(Coronoviridae)(たとえば、コロナウイルス)、ラブドウイルス科(Rhabdoviradae)(たとえば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス)、フィロウイルス科(Filoviridae)(たとえば、エボラウイルス)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)(たとえば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、メタニューモウイルス(metaneumovirus))、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)(たとえば、インフルエンザウイルス)、ブニヤウイルス科(Bungaviridae)(たとえば、ハンターンウイルス、ブニヤウイルス(bunga virus)、フレボウイルス、およびナイロウイルス)、アレナウイルス科(Arenaviridae)(出血熱ウイルス)、レオウイルス科(Reoviridae)(たとえば、レオウイルス、オルビウイルス(orbiviurses)、およびロタウイルス)、ビルナウイルス科(Bimaviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)(B型肝炎ウイルス)、パルボウイルス科(Parvovirida)(パルボウイルス)、パポバウイルス科(Papovaviridae)(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス)、アデノウイルス科(Adenoviridae)(ほとんどのアデノウイルス)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)(単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス科(Poxviridae)(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス)、およびイリドウイルス科(Iridoviridae)(たとえば、アフリカブタ熱ウィルス)、ならびに未分類ウイルス(たとえば、海綿状脳症の病原因子、デルタ型肝炎の因子(B型肝炎ウイルスの欠損サテライトであると考えられる)、非A非B型肝炎の因子(クラス1=内部感染、クラス2=非経口感染(すなわちC型肝炎)、ならびにアストロウイルスを含む。特定の実施形態では、ウイルスは、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、およびメタニューモウイルス(metaneumovirus)よりなる群から選択される。たとえば、呼吸器合胞体ウイルスFタンパク質に由来する、260LINDMPITN268(配列番号6)または250YMLTNSELLSLINDMPITNDQKKLMSNNV278(配列番号7)などの標的配列を用いてキメラカリシウイルスVLPを生成することができる。他の実施形態では、ウイルスはカリシウイルスである。たとえば、異種抗原は、本明細書に記載のカリシウイルス株のいずれかに由来しうる。
【0030】
いくつかの実施形態では、異種抗原は細菌病原体に由来する。異種抗原の由来源でありうる細菌は、病原性パスツレラ属(Pasteurella)の種(たとえば、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida))、スタフィロコッカス属(Staphylococci)の種(たとえば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))、ストレプトコッカス属(Streptococcus)の種(たとえば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(A群ストレプトコッカス属(Streptococcus))、ストレプトコッカス・アガラクチアエ(Streptococcus agalactiae)(B群ストレプトコッカス属(Streptococcus))、ストレプトコッカス属(Streptococcus)(ビリダンス群)、ストレプトコッカス・ファエカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)(嫌気性種)、ストレプトコッカス・ニューモニアエ(Streptococcus pneumoniae))、ナイセリア属(Neisseria)の種(たとえば、ナイセリア・ゴノロエアエ(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis))、エシェリキア属(Escherichia)の種(たとえば、腸毒素原性大腸菌(ETEC)、腸病原性大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、および腸管侵入性大腸菌(EIEC))、ボルデテラ属(Bordetella)の種、カンピロバクター属(Campylobacter)の種、レジオネラ属(Legionella)の種(たとえば、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila))、シュードモナス属(Pseudomonas)の種、シゲラ属(Shigella)の種、ビブリオ属(Vibrio)の種、エルシニア属(Yersinia)の種、サルモネラ属(Salmonella)の種、ヘモフィラス属(Haemophilus)の種(たとえば、ヘモフィラス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae))、ブルセラ属(Brucella)の種、フランシセラ属(Francisella)の種、バクテロイデス属(Bacterioides)の種、クロストリジウム属(Clostridium)の種(たとえば、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、クロストリジウム・ペルフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani))、ミコバクテリア属(Mycobacteria)の種(たとえば、M.ツベルクロシス(M. tuberculosis)、M.アビウム(M. avium)、M.イントラセルラレ(M. intracellulare)、M.ランサイイ(M. kansaii)、M.ゴルドナエ(M. gordonae))、ヘリコバクター・ピロリス(Helicobacter pyloris)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borelia burgdorferi)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、エンテロコッカス属(Enterococcus)の種、バシラス・アントラシス(Bacillus anthracis)、コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae)、エリジペロトリックス・ルシオパチアエ(Erysipelothrix rhusiopathiae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトバシラス・モニリフォルミス(Streptobacillus moniliformis)、トレポネマ・パリジウム(Treponema pallidium)、トレポネマ・ペルテヌエ(Treponema pertenue)、レプトスピラ属(Leptospira)、リケッチア属(Rickettsia)、およびアクチノマイセス・イスラエリ(Actinomyces israeli)を含む。
【0031】
本発明の他の実施形態では、異種抗原またはその断片は、病原性菌類や寄生生物などの真核病原体に由来する。異種抗原の由来源でありうる菌類は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ヒストプラスマ・カプスラタム(Histoplasma capsulatum)、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)、ブラストミセス・デルマティティディス(Blastomyces dermatitidis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、アスペルギルス・フミガタ(Aspergillus fumigata)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、およびスポロトリクス・シェンキイ(Sporothrix schenckii)を含むが、これらに限定されるものではない。異種抗原の由来源でありうる他の真核病原体は、病原性原生動物、蠕虫、マラリア原虫、たとえば、プラスモジウム・ファルシパラム(Plasmodium falciparum)、プラスモジウム・マラリアエ(Plasmodium malariae)、プラスモジウム・オバレ(Plasmodium ovale)、およびプラスモジウム・ビバックス(Plasmodium vivax)、トキソプラズマ・ゴンディー(Toxoplasma gondii)、トリパノソーマ・ブルセス(Trypanosoma brucei)、トリパノソーマ・クルーズ(Trypanosoma cruzi)、シストソーマ・ハエマトビウム(Schistosoma haematobium)、シストソーマ・マンソニ(Schistosoma mansoni)、シストソーマ・ジャポニカル(Schistosoma japonicum)、リーシュマニア・ドノバニ(Leishmania donovani)、ジアルジア・インテスチナリス(Giardia intestinalis)、クリプトスポリジウム・パルバム(Cryptosporidium parvum)などを含む。
【0032】
本発明の特定の実施形態では、異種抗原またはその断片は、腫瘍関連抗原(TAA)に由来する。さまざまな公知の腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原(TAA)はいずれも、本発明のキメラタンパク質中に組み込まれる1つ以上の異種抗原またはその断片として使用可能である(Hirohashi, et al. (2009) Cancer Sci., Vol. 100(5):798-806)。本発明のキメラタンパク質で使用可能な腫瘍関連抗原(またはそのエピトープ含有断片)は、MAGE−2、MAGE−3、MUC−1、MUC−2、HER−2、高分子量黒色腫関連抗原MAA、GD2、癌胎児性抗原(CEA)、TAG−72、卵巣関連抗原OV−TL3およびMOV18、TUAN、α−フェトプロテイン(AFP)、OFP、CA−125、CA−50、CA−19−9、腎臓腫瘍関連抗原G250、EGP−40(EpCAMとしても知られる)、S100(悪性黒色腫関連抗原)、p53およびp21rasを含むが、これらに限定されるものではない。以上のいずれかを含む任意のTAA(またはそのエピトープ)の合成類似体を使用してもよい。
【0033】
他の実施形態では、異種抗原またはその断片は、アレルゲンに由来する。1つ以上の異種抗原またはその断片の由来源でありうるアレルゲンは、環境空中アレルゲン、ラグウィードなどの植物花粉/枯草熱、雑草花粉アレルゲン、イネ科草本花粉アレルゲン、セイバンモロコシ、樹木花粉アレルゲン、ライグラス、ハウスダストダニアレルゲンなどのクモ形動物アレルゲン(たとえば、Der p I、Der f Iなど)、貯蔵庫ダニアレルゲン、スギ花粉/枯草熱、カビ胞子アレルゲン、動物性アレルゲン(たとえば、イヌ、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ラット、マウスなどのアレルゲン)、食物アレルゲン(たとえば、甲殻類、ラッカセイなどのナッツ類、柑橘類のアレルゲン)、昆虫アレルゲン、毒液:(膜翅目(Hymenoptera)、スズメバチ、ミツバチ、カリバチ、クマンバチ、フシアリ)、ゴキブリ、ノミ、カなどに由来する他の環境昆虫アレルゲン、連鎖球菌性抗原などの細菌性アレルゲン、回虫性抗原などの寄生生物アレルゲン、ウイルス性抗原、菌類胞子、薬剤性アレルゲン、抗生物質、ペニシリン類および関連化合物、他の抗生物質、ホルモン(インスリン)、酵素(ストレプトキナーゼ)などの全タンパク質、穀粉(たとえば、小麦粉喘息を引き起こすアレルゲン)、トウゴマ、コーヒー豆などの職業性アレルゲン、ノミアレルゲン、および非ヒト動物中のヒトタンパク質を含むが、これらに限定されるものではない。特定の天然の動物および植物アレルゲンは、次の属に特有のタンパク質:イヌ科動物(カニス・ファミリアリス(Canis familiaris))、ヒョウヒダニ属(Dermatophagoides)(たとえば、デルマトファゴイデス・ファリナエ(Dermatophagoides farinae))、フェリス(felis)(フェリス・ドメスチカス(Felis domesticus))、ブタクサ属(Ambrosia)(アンブロシア・アルテミイスフェリア(Ambrosia artemiisfolia))、ドクムギ属(Lolium)(たとえば、ロリウム・ペレンネ(Lolium perenne)またはロリウム・ムルチフロルム(Lolium multiflorum))、スギ属(Cryptomeria)(クリプトメリア・ジャポニカ(Cryptomeria japonica))、アルテルナリア属(Alternaria)(アルテルナリア・アルテマタ(Alternaria altemata))、ハンノキ類、ハンノキ属(Alnus)(アルナス・グルチノアス(Alnus gultinoas))、カバノキ属(Betula)(ベツラ・ベルコサ(Betula verrucosa))、コナラ属(Quercus)(クエルカス・アルバ(Quercus alba))、オリーブ属(Olea)(オレア・エウロパ(Olea europa))、ヨモギ(アルテミシア・ブルガリス(Artemisia vulgaris))、オオバコ属(Plantago)(たとえば、プランタゴ・ランセオラタ(Plantago lanceolata))、ヒカゲミズ属(Parietaria)(たとえば、パリエタリア・オフィシナリス(Parietaria officinalis)またはパリエタリア・ジュダイカ(Parietaria judaica))、ブラッテラ(Blattella)(たとえば、ブラッテラ・ゲルマニカ(Blattella germanica))、ミツバチ(たとえば、アピス・ムルチフロラム(Apis multiflorum))、イトスギ属(Cupressus)(たとえば、クプレッサス・センペルビレンス(Cupressus sempervirens)、クプレッサス・アリゾニカ(Cupressus arizonica)およびクプレッサス・マクロカルパ(Cupressus macrocarpa))、ビャクシン属(Juniperus)(たとえば、ジュニペラス・サビノイデス(Juniperus sabinoides)、ジュニペラス・ビルギニアナ(Juniperus virginiana)、ジュニペラス・コンムニス(Juniperus communis)、およびジュニペラス・アスヘイ(Juniperus ashei))、クロベ属(Thuya)(たとえば、チュヤ・オリエンタリス(Thuya orientalis))、ヒノキ属(Chamaecyparis)(たとえば、カマエシパリス・オブツサ(Chamaecyparis obtusa))、ペリプラネタ(Periplaneta)(たとえば、ペリプラネタ・アメリカナ(Periplaneta americana))、コムギダマシ属(Agropyron)(たとえば、アグロピロン・レペンス(Agropyron repens))、ライムギ属(Secale)(たとえば、セカレ・セレアレ(Secale cereale))、コムギ属(Triticum)(たとえば、トリチカム・アエスチバム(Triticum aestivum))、カモガヤ属(Dactylis)(たとえば、ダクチリス・グロメラタ(Dactylis glomerata))、ウシノケグサ属(Festuca)(たとえば、フェスツカ・エラチオル(Festuca elatior))、イチゴツナギ属(Poa)(たとえば、ポア・プラテンシス(Poa pratensis)またはポア・コンプレッサ(Poa compressa))、カラスムギ属(Avena)(たとえば、アベナ・サチバ(Avena sativa))、シラゲガヤ属(Holcus)(たとえば、ホルカス・ラナタス(Holcus lanatus))、ハルガヤ属(Anthoxanthum)(たとえば、アントキサンタム・オドラタム(Anthoxanthum odoratum))、オオカニツリ属(Arrhenatherum)(たとえば、アレナテラム・エラチウス(Arrhenatherun elatius))、ヌカボ属(Agrostis)(たとえば、アグロスチス・アルバ(Agrostis alba))、アワガエリ属(Phleum)(たとえば、フレウム・プラテンセ(Phleum pratense))、クサヨシ属(Phalaris)(たとえば、ファラリス・アルンジナセア(Phalaris arundinacea))、スズメノヒエ属(Paspalum)(たとえば、パスパラム・ノタタム(Paspalum notatum))、モロコシ属(Sorghum)(たとえば、ソルガム・ハレペンシス(Sorghum halepensis))、およびスズメノチャヒキ属(Bromus)(たとえば、ブロマス・イネルミス(Bromus inermis))を含むが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明は、本明細書に記載のキメラタンパク質をコードする単離された核酸およびベクターを包含する。一実施形態では、単離された核酸は、P2ドメインを有するカリシウイルスキャプシドタンパク質と少なくとも1つの異種抗原またはその断片とを含むキメラタンパク質をコードする。ただと、前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片は、前記キャプシドタンパク質の前記P2ドメイン中に挿入される。他の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のキメラタンパク質をコードする単離された核酸を含むベクターを提供する。さらに他の実施形態では、本発明は、本発明のキメラタンパク質をコードするベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または哺乳動物細胞でありうる。
【0035】
本発明のキメラタンパク質およびそれをコードする単離された核酸は、当技術分野で公知の慣用法により調製可能である。キャプシドタンパク質は、天然に存在する特定のカリシウイルスから単離および精製することにより調製可能であるか、または組換え技術により調製可能である。所望の粒子形成ポリペプチドのコード配列を単離または合成した後、それらは、発現のための任意の好適なベクター中またはレプリコン中にクローニング可能である。多数のクローニング/発現ベクターが当業者に公知であり、適切なクローニング/発現ベクターの選択は、当業者の技能の範囲内である。DNA合成、PCR突然変異誘発、ならびに制限エンドヌクレアーゼ消化およびそれに続くDNAライゲーションを含む慣用的技術および分子生物学的方法を用いて、1つ以上異種抗原配列をカリシウイルスキャプシドタンパク質配列内の指定位置に挿入することが可能である。
【0036】
クローニング、突然変異などの本発明に適用可能な分子生物学的技術を記載した一般的テキストとしては、Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology volume 152 Academic Press, Inc., San Diego, Calif. (Berger)、Sambrook et al., Molecular Cloning--A Laboratory Manual (3rd Ed.), Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 2000 ("Sambrook")、およびCurrent Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., ("Ausubel")が含まれる。これらのテキストには、突然変異誘発、ベクター、プロモーターの使用、およびたとえば、キメラキャプシドタンパク質のクローニングおよび発現に関する多くの他の関連トピックスが記載されている。
【0037】
本発明のキメラタンパク質は、宿主細胞内で発現されたときにウイルス様粒子(VLP)を形成可能である。したがって、本発明はまた、本明細書に記載のキメラタンパク質を含むウイルス様粒子を包含する。本発明者らは、VLPを形成するキャプシドタンパク質の能力を維持した状態で異種アミノ酸配列を組み込むようにカリシウイルスのキャプシドタンパク質配列を工学操作する独特の戦略を見いだした。いくつかの実施形態では、キメラタンパク質は、副次量のキャプシドタンパク質VP2などのカリシウイルスに由来する1つ以上の構造タンパク質と共に共発現される。追加の構造タンパク質は、キメラタンパク質の由来源と同一のカリシウイルスに由来するか、または異なるカリシウイルスに由来する。
【0038】
特定の実施形態では、VLPは、本発明のキメラタンパク質とカリシウイルスに由来する天然のキャプシドタンパク質とを含む。単なる例にすぎないが、VLPは、キメラタンパク質とNorwalk VP1キャプシドタンパク質とを含みうる。VLP中のキメラタンパク質と天然のキャプシドタンパク質との比は、VLP形成を増強するように調整可能である。たとえば、キメラタンパク質と天然のキャプシドタンパク質との比は、約1:10〜約10:1、約1:5〜約5:1、または約1:1でありうる。キメラタンパク質と天然のキャプシドタンパク質との混合物を含有するVLPは、キャプシドタンパク質のそれぞれ(すなわち、キメラおよび天然)を独立して発現させ、タンパク質を精製し、混合VLPを形成するのに望ましい比で2つの精製キャプシドタンパク質を混合することにより、生成可能である。あるいは、キメラおよび天然のキャプシドタンパク質は、2つの異なるプロモーターから宿主細胞内で共発現させることが可能である。異なる強さのプロモーターを用いることにより、得られるVLP中のキメラタンパク質と天然のキャプシドタンパク質との比を制御することが可能である。
【0039】
他の実施形態では、本発明のキメラタンパク質は、VLP形成を増強するようにさらに修飾可能である。たとえば、キャプシドアミノ酸配列および/または異種抗原アミノ酸配列の溶媒露出ループ領域は、キメラタンパク質のコンフォメーションを制御する1つ以上のモチーフを含有するように工学操作可能である。そのような安定化用モチーフは、イオン性相互作用(たとえば塩橋)、金属配位(たとえばジンクフィンガー)、疎水性相互作用(たとえばロイシンジッパー)、または共有結合性相互作用(たとえばジスルフィド結合形成)を含む機序を介して所望のタンパク質接触を誘導するように設計可能である。
【0040】
本発明は、キメラVLPの作製方法を包含する。一実施形態では、この方法は、宿主細胞内で本発明のキメラタンパク質を発現することと、VLPが形成される条件で前記宿主細胞を増殖することと、を含む。本明細書に記載のキメラタンパク質配列をコードするベクターを使用して、適切な宿主細胞を形質転換する。好適な組換え発現系は、細菌(たとえば、E.コリ(E. coli)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、およびストレプトコッカス属(Streptococcus))、バキュロウイルス/昆虫、ワクシニア、Semliki森林ウイルス(SFV)、アルファウイルス属(Alphavirus)(たとえば、シンドビス、ベネズエラウマ脳炎(VEE))、哺乳動物(たとえば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK−293細胞、HeLa細胞、仔ハムスター腎臓(BHK)細胞、マウス骨髄腫(SB20))、およびサル腎臓細胞(COS)、酵母(たとえば、S.セレビシアエ(S. cerevisiae)、S.ポンベ(S. pombe)、ピチア・パストリ(Pichia pastori)、および他のピチア属(Pichia)発現系)、植物、およびゼノパス属(Xenopus)発現系、さらには当技術分野で公知の他のものを含むが、これらに限定されるものではない。とくに好ましい発現系は、哺乳動物細胞系、細菌、昆虫細胞、および酵母発現系である。無細胞転写翻訳系は、キメラVLPの産生のためのそのほかの方法を提供する。
【0041】
特定の実施形態では、キメラVLPは、アエデス・アエギプチ(Aedes aegypti)、ボンビクス・モリ(Bombyx mori)、ドロソファラ・メラノガステル(Drosophila melanogaster)、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf9)、およびトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)(たとえば、High Five、TniPro)などの昆虫細胞から調製される。昆虫細胞培養でVLPを生成する手順は、当技術分野で周知である(たとえば、米国特許第6,942,865号(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい)。簡潔に述べると、標的遺伝子をコードする合成またはクローン化のリーディングフレームを挿入することにより、キメラキャプシド配列を有する組換えバキュロウイルスを構築する。次いで、組換えバキュロウイルスを用いて昆虫細胞培養物(たとえば、Sf9、High Five、およびTniPro細胞)に感染させ、キメラVLPを細胞培養物から単離することが可能である。「キメラVLP」は、本明細書に記載のキメラアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むVLPである。
【0042】
VLPが細胞内で形成されるのであれば、細胞を溶解するがVLPを実質的にインタクト保持する化学的、物理的、または機械的手段を用いて細胞を破壊する。そのような方法は、当業者に公知のあり、たとえば、Protein Purification Applications: A Practical Approach, (E. L. V. Harris and S. Angal, Eds., 1990)に記載されている。
【0043】
次いで、粒子は、その完全性を保存する方法を用いて、たとえば、スクロース勾配などの密度勾配遠心分離、PEG沈殿、ペレット化など(たとえば、Kim bauer et al. J. Virol. (1993) 67:6929-6936を参照されたい)、さらにはイオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法を含む標準的精製技術により、単離される(または実質的に精製される)。
【0044】
いくつかの実施形態では、キメラVLPは、キメラタンパク質をコードする単離された核酸を含むベクターを投与することによりin vivoで作製される。好適なベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)ベクター、ウマ脳炎ウイルス(EEV)ベクター、ポックスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクター、およびpFastBac1、pWINEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、pSG、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVLなどの発現プラスミドを含むが、これらに限定されるものではない。他の好適なベクターは、当業者には自明であろう。
【0045】
特定の実施形態では、キメラタンパク質中のカリシウイルスキャプシドタンパク質は、ノロウイルスまたはサポウイルスのキャプシドタンパク質である。特定の一実施形態では、キメラタンパク質は、ノロウイルス遺伝子群Iまたは遺伝子群IIノロウイルスに由来するキャプシドタンパク質を含む。他の実施形態では、キメラタンパク質は、GI.1またはGII.4のノロウイルスに由来するキャプシドタンパク質を含む。
【0046】
特定の実施形態では、本発明の少なくとも1つのキメラVLPを含むワクチン製剤は、アジュバントを含有しない。いくつかの実施形態では、ワクチン製剤は、アジュバントをさらに含みうる。ほとんどのアジュバントは、急速な異化から抗原を保護するようにデザインされた物質、たとえば、水酸化アルミニウムまたは鉱油、および免疫応答の刺激剤、たとえば、ボルデテラ・ペルツッシス(Bordatella pertussis)またはマイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)に由来するタンパク質を含有する。好適なアジュバントは、たとえば、フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Pifco Laboratories, Detroit, Mich.)、メルクアジュバント65(Merck Adjuvant 65)(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.)、水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、およびカルシウム、鉄、または亜鉛の塩を含むミネラル塩、アシル化チロシンアシル化糖の不溶性懸濁液、カチオン誘導体化ポリサッカリドまたはアニオン誘導体化ポリサッカリド、ポリホスファゼン、生分解性マイクロスフェア、およびキルA(Quil A)として市販されている。
【0047】
好適なアジュバントはまた、toll様レセプター(TLR)アゴニスト、モノホスホリルリピドA(MPL)、合成リピドA、リピドA模倣体または類似体、アルミニウム塩、サイトカイン、サポニン、ムラミルジペプチド(MDP)誘導体、CpGオリゴ、グラム陰性菌のリポポリサッカリド(LPS)、ポリホスファゼン、乳濁液、ビロソーム、コクリエート(cochleate)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)微粒子、ポロキサマー粒子、微粒子、リポソーム、水中油型乳濁液、MF59、およびスクアレンを含むが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、補助剤は細菌で派生したエキソトキシンである。他の実施形態では、3DMPLやQS21などのTh1型応答を刺激するアジュバントを使用することが可能である。特定の実施形態では、アジュバントは、MPLと水酸化アルミニウムとの組合せである。
【0048】
特定の実施形態では、アジュバントはモノホスホリルリピドA(MPL)である。MPLは、サルモネラ属(Salmonella)に由来するリピドAの非毒性誘導体であり、ワクチンアジュバントとして開発されてきた強力なTLR−4アゴニストである(Evans et al. (2003) Expert Rev Vaccines, Vol. 2: 219-229)。前臨床ネズミ試験では、鼻腔内MPLは、分泌さらには全身的体液性応答を増強することが示されている(Baldridge et al. (2000) Vaccine, Vol. 18: 2416-2425; Yang et al. (2002) Infect Immun., Vol. 70: 3557-3565)。それはまた、120,000名超の患者の臨床試験でワクチンアジュバントとして安全かつ有効であることが明らかにされている(Baldrick et al. (2002) Regul Toxicol Pharmacal, Vol. 35: 398-413)。MPLは、TLR−4レセプターを介する先天性免疫の誘導を刺激するので、グラム陰性およびグラム陽性の両方の細菌、ウイルス、ならびに寄生生物を含む広範にわたる感染性病原体に対する非特異的免疫応答を誘導可能である(Persing et al. (2002) Trends Microbial, Vol. 10: S32-37)。ワクチン製剤中へのMPLの組込みは、自然(innate)応答の急速な誘導を提供し、ウイルスチャレンジからの非特異的免疫応答を誘導する一方、ワクチンの抗原性成分により生成される特異的応答を増強するはずである。いくつかの実施形態では、MPLは、1つ以上の追加のアジュバントと組み合わせることが可能である。たとえば、MPLを水酸化アルミニウムと組み合わせて、ワクチン製剤の筋肉内投与に好適なアジュバントを生成することが可能である。
【0049】
他の実施形態では、アジュバントは、スクアレンなどの天然に存在する油である。スクアレンは、植物により産生されるトリテルペノイド炭化水素油(C3050)であり、多くの食品中に存在する。スクアレンはまた、ヒトにより豊富に産生され、ヒトに対して、コレステロールおよびステロイドホルモンの前駆体として機能する。それは、肝臓中および皮膚中で合成され、極低密度リポタンパク質(VLDL)および低密度リポタンパク質(LDL)により血液で輸送され、脂腺により大量に分泌される。
【0050】
スクアレンは、人体の天然成分でありかつ生分解性であるので、ワクチンアジュバントの成分として使用されてきた。これらのスクアレンアジュバントの1つは、Chironにより開発された水中油型乳濁液のMF59である。MF59は、種々前臨床試験および臨床試験で多種多様なワクチン抗原に対する免疫応答を有意に増強することが示されている。MF59は、1997年以来、欧州諸国で認可されているインフルエンザサブユニットワクチンの一部分である。このワクチンは、2000万回を超えて投与されてきており、優れた安全性プロファイルを有することが示されている。MF59アジュバントを含むワクチンの安全性はまた、生後1〜3日の新生児を含む種々の年齢群で、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウィルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、尿路病原性大腸菌(Escherichia coli)などに由来する組換え抗原を用いて、種々の調査臨床試験により示されている。
【0051】
「有効アジュバント量」または「アジュバントの有効量」という用語は、当業者であればよくわかるであろう。また、これは、投与された抗原に対する免疫応答を刺激しうる1つ以上のアジュバントの量、すなわち、鼻洗浄液中のIgAレベル、血清中のIgGもしくはIgMレベル、またはB細胞およびT細胞の増殖に関して測定したときに、投与された抗原組成物の免疫応答を増大させる量を含む。免疫グロブリンレベルの好適に有効な増加は、いかなるアジュバントも用いない同一の抗原組成物と比較して、5%超、好ましくは25%超、特定的には50%超の増加を含む。
【0052】
本発明の他の実施形態では、ワクチン製剤は、宿主ムコ多糖の部分脱水、送達剤の物理的性質の単独効果もしくは組合せ効果による液体粘度の増加に基づいて、またはデポ効果を提供する暴露部位での送達剤と宿主組織との間のイオン性相互作用を介して(ただし、これらに限定されるものではない)、抗原取込みを増強するように機能する送達剤をさらに含みうる。あるいは、送達剤は、送達部位での抗原保持時間を増大させる(たとえば、抗原放出を遅延する)ことが可能である。そのような送達剤は、生体接着剤でありうる。いくつかの実施形態では、生体接着剤は、グリコサミノグリカン(たとえば、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸コンドロイチン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロナン)、炭水化物ポリマー(たとえば、ペクチン、アルギネート、グリコーゲン、アミラーゼ、アミロペンチン、セルロース、キチン、スタキオース、イヌリン、デキストリン、デキストラン)、ポリ(アクリル酸)の架橋誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリサッカリド(ムチン、他のムコ多糖、およびGelSite(登録商標)(アロエ植物から抽出された天然の酸性ポリサッカリド)を含む)、ポリイオン、セルロース誘導体(たとえば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、タンパク質(たとえば、レクチン、線毛タンパク質)、およびデオキシリボ核酸よりなる群から選択される粘膜付着剤でありうる。一実施形態では、ワクチン製剤は、キトサン、キトサン塩、キトサン塩基、または天然ポリサッカリド(たとえば、GelSite(登録商標))などのポリサッカリドを含む。
【0053】
甲殻類の外殻中のキチンに由来する正荷電線状ポリサッカリドであるキトサンは、上皮細胞およびそれを覆う粘液層の生体接着剤である。キトサンを含む抗原の製剤では、鼻粘膜との接触時間が増大するので、デポ効果により取込みが増大する(Illum et al. (2001) Adv Drug Deliv Rev, Vol. 51: 81-96、Illum et al. (2003) J Control Release, Vol. 87: 187-198、Davis et al. (1999) Phann Sci Technol Today, Vol. 2: 450-456、Bacon et al. (2000) Infect Immun., Vol. 68: 5764-5770、van der Lubben et al. (2001) Adv Drug Deliv Rev, Vol. 52: 139-144、van der Lubben et al. (2001) Eur J Pharm Sci, Vol. 14: 201-207、Lim et al. (2001) AAPS Pharm Sci Tech, Vol. 2: 20)。キトサンは、動物モデルおよびヒトの両方で、インフルエンザ、百日咳、およびジフテリアを含めて、いくつかのワクチンで経鼻送達系として試験されてきた(Illum et al. (200 1) Adv Drug Deliv Rev, Vol. 51: 81-96、Illum et al. (2003) J Control Release, Vol. 87: 187-198、Bacon et al. (2000) Infect Immun., Vol. 68: 5764-5770、Jabbal-Gill et al. (1998) Vaccine, Vol. 16: 2039-2046、Mills et al. (2003) A Infect Immun, Vol. 71: 726-732、McNeela et al. (2004) Vaccine, Vol. 22: 909-914)。これらの試験では、キトサンは、非経口ワクチン接種と等価なレベルまで全身性免疫応答を増強することが示された。それに加えて、有意な抗原特異的IgAレベルも、粘膜分泌で測定された。したがって、キトサンは、経鼻ワクチンの有効性を大幅に増強しうる。さらには、その物理的特性に起因して、キトサンは、粉末剤として製剤化された鼻腔内ワクチンにとくによく適する(van der Lubben et al. (2001) Eur J Pharm Sci, Vol. 14: 201- 207、Mikszta et al. (2005) J Infect Dis, Vol. 191: 278-288; Huang et al. (2004) Vaccine, Vol. 23: 794-801)。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態では、とくに、ワクチン製剤は、キトサン、キトサン塩、またはキトサン塩基を含む。キトサンの分子量は、10kDa〜800 kDa、好ましくは200kDa〜600kDa、より好ましくは100kDa〜700kDaでありうる。組成物中のキトサンの濃度は、典型的には、約80%(w/w)まで、たとえば、5%、10%、30%、50%、70%、または80%であろう。キトサンは、好ましくは少なくとも75%脱アセチル化されたものであり、たとえば80〜90%、より好ましくは82〜88%脱アセチル化されたものであり、特定例では、83%、84%、85%、86%、および87%の脱アセチルである。
【0055】
ワクチン製剤は、薬学的に許容しうる担体をさらに含みうる。任意の好適な希釈剤または賦形剤を含めて、薬学的に許容しうる担体は、それ自体はワクチン製剤を摂取した被験者に有害な免疫応答の生成を誘導せずかつ過度の毒性を伴うことなく投与可能な任意の医薬剤を含む。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容しうる」という用語は、連邦政府または州政府の監督官庁により認可されているか、または米国薬局方、欧州薬局方、もしくは哺乳動物で、より特定的にはヒトで使用するための他の一般に公認された薬局方に列挙されていることを意味する。薬学的に許容しうる担体は、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、無菌等張水性緩衝液、およびそれらの組合せを含むが、これらに限定されるものではない。薬学的に許容しうる担体、希釈剤、および他の賦形剤についての十分な考察は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Pub. Co. N.J. current edition)に示されている。製剤は、投与形態に適したものでなければならない。好ましい実施形態では、製剤は、ヒトに投与するのに好適であり、好ましくは、製剤は、殺菌、非微粒子状、および/または非発熱原性である。ワクチン製剤はまた、所望により、副次量の湿潤剤もしくは乳化剤またはpH緩衝剤を含有しうる。
【0056】
本発明のVLPまたはキメラタンパク質は、ワクチン製剤または抗原製剤として投与するために製剤化可能である。本明細書で用いられる場合、「ワクチン」という用語は、脊椎動物(たとえば、哺乳動物)に投与可能でありかつ感染の予防および/もしくは改善ならびに/または感染の少なくとも1つの症状の軽減および/または追加用量のVLPもしくはキメラタンパク質の有効性の増強を行う免疫性を誘導するのに十分な防御免疫応答を誘導する、上記の本発明のVLPまたはキメラタンパク質を含有する製剤を意味する。いくつかの実施形態では、ワクチン製剤はアジュバントを含有しない。他の実施形態では、ワクチン製剤は、本明細書に記載のアジュバントを含有しうる。本明細書で用いられる場合、「抗原製剤」または「抗原組成物」という用語は、脊椎動物たとえば哺乳動物に投与したときに免疫応答を誘導する製剤を意味する。本明細書で用いられる場合、「免疫応答」という用語は、体体液性免疫応答および細胞媒介性免疫応答の両方を意味する。体液性免疫応答は、Bリンパ球による抗体産生の刺激を含み、これにより、たとえば、感染性因子の中和、細胞に進入する感染性因子の阻害、前記感染性因子の複製の阻害、ならびに/または感染および破壊からの宿主細胞の防護が行われる。細胞媒介性免疫応答は、脊椎動物(たとえば、ヒト)が呈する、感染性因子に対する、Tリンパ球および/または他の細胞たとえばマクロファージにより媒介される免疫応答を意味し、これにより、感染の予防もしくは改善またはその少なくとも1つの症状の軽減が行われる。特定的には、「防御免疫」または「防御免疫応答」は、脊椎動物(たとえば、ヒト)が呈する、感染性因子に対する免疫または免疫応答の誘導を意味し、これにより、感染の予防もしくは改善またはその少なくとも1つの症状の軽減が行われる。特定的には、ワクチン投与に基づく防御免疫応答の誘導は、キメラタンパク質中に存在する異種抗原の由来源である病原生物に関連する1つ以上の症状の存在の解消または低減によりはっきりと認められる。ワクチン製剤は、Vaccine Design ("The subunit and adjuvant approach" (eds Powell M. F. & Newman M. J.) (1995) Plenum Press New York)に概説されている。本発明の組成物は、たとえば、粘膜投与経路または非経口投与経路(たとえば、筋肉内、静脈内、皮下、真皮内、真皮下、経真皮)による被験者への投与用に製剤化可能である。そのような粘膜投与は、胃腸、鼻腔内、経口、または膣への送達を介しうるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、ワクチン製剤は、経鼻スプレー剤、点鼻剤、または乾燥粉末剤の形態をとる。他の実施形態では、ワクチン製剤は、筋肉内投与に好適な形態である。
【0057】
本発明のワクチン製剤は、液状製剤または乾燥粉末製剤でありうる。呼吸器(たとえば鼻)粘膜への送達が意図される組成物の場合、典型的には、エアロゾル剤もしくは点鼻剤として投与するための水性溶液剤として、あるいは、たとえば鼻道内への急速な堆積のための乾燥粉末剤として製剤化される。点鼻剤として投与に供される組成物は、そのような組成物に通常含まれるタイプの1つ以上の賦形剤、たとえば、保存剤、粘度調整剤、等張化剤、緩衝剤などを含有しうる。粘性剤は、微結晶セルロース、キトサン、デンプン、ポリサッカリドなどでありうる。乾燥粉末剤として投与に供される組成物はまた、そのような組成物に通常含まれるタイプの1つ以上の賦形剤、たとえば、粘膜付着剤、増量剤、適切な粉末流動特性およびサイズ特性を供給する作用剤を含有しうる。増量剤および粉末流動剤およびサイズ剤は、マンニトール、スクロース、トレハロース、およびキシリトールを含みうる。
【0058】
一実施形態では、ワクチン製剤は、免疫原として1つ以上のキメラVLPと、MPL(登録商標)、スクアレン、またはMF59(登録商標)などのアジュバントと、粘膜表面への接着を促進するキトサンまたはGelSite(登録商標)などのバイオポリマーと、マンニトールおよびスクロースなどの増量剤と、を含有する。
【0059】
たとえば、ワクチンは、本明細書に論述される1つ以上のキメラVLPと、MPL(登録商標)アジュバントと、キトサン粘膜付着剤と、増量剤としてマンニトールおよびスクロースと、を含有し、かつ適正流動特性を提供する、10mgの乾燥粉末剤として製剤化可能である。製剤は、約7.0mg(25〜90% w/wの範囲)のキトサンと、約1.5mgのマンニトール(0〜50% w/wの範囲)と、約1.5mgのスクロース(0〜50% w/wの範囲)と、25μgのMPL(登録商標)(0.1〜5% w/wの範囲)と、約100μgのキメラVLP抗原(0.05〜5% w/wの範囲)と、を含みうる。
【0060】
キメラVLP/抗原は、約0.01%(w/w)〜約80%(w/w)の濃度で存在しうる。一実施形態では、VLPは、両方の鼻孔中への投与のため(各鼻孔あたり10mg)、10mgの乾燥粉末製剤あたり、約5μg、約15μg、約25μg、約50μg、約75μg、約100μg、約150μg、約200μg、約500μg、および約1mgまたは一方の鼻孔中への投与のため、20mgの乾燥粉末製剤あたり、約10μg、約30μg、約50μg、約100μg、約200μg、約400μg、および約1mg(0.05、0.15、0.25、0.5、1.0、2.0、5.0、および10.0%w/w)の投与量で製剤化可能である。製剤は、各投与時、一方または両方の鼻孔中に投与可能である。免疫応答を改善するために1回目の投与の1〜12週間後に追加免疫投与を行ってもよい。ワクチン製剤および抗原製剤中の各VLP/抗原の含有量は、1μg〜100mgの範囲内、好ましくは1〜1000μgの範囲内、より好ましくは5〜500μg、最も典型的には10〜200μgの範囲内でありうる。各用量で投与される全VLP/抗原は、約10μg、約30μg、約200μg、約250μg、約400μg、約500μg、または約1000μgのいずれかでありうる。全ワクチン用量は、一方の鼻孔中に投与可能であるか、または半分にして両方の鼻孔中に投与可能である。乾燥粉末特性として、粒子の10%未満は直径10μm未満である。平均粒子サイズは、直径で10〜500のμmの範囲内である。
【0061】
本発明の他の実施形態では、乾燥粉末製剤は、製剤を1回以上投与するために1つ以上のデバイスと組み合わせてもよい。そのようなデバイスは、使い捨ての経鼻投与デバイスでありうる。他の実施形態では、1回以上の用量はユニット用量である。
【0062】
いくつかの実施形態では、抗原製剤およびワクチン製剤は、被験者への逐次投与に供される液状製剤である。鼻腔内投与が意図された液状製剤は、キメラVLP/抗原、アジュバント、およびキトサンなどの送達剤を含であろう。非経口(たとえば、皮下、真皮内、または筋肉内(i.m.))投与に供される液状製剤は、送達剤(たとえばキトサン)を用いずに、キメラVLP/抗原、アジュバント、および緩衝剤を含むであろう。
【0063】
好ましくは、以上に記載した抗原製剤およびワクチン製剤は、凍結乾燥されて無水状態で貯蔵され、使用準備が整った時点で希釈剤を用いて再構成される。あるいは、組成物の異なる成分は、キット中に独立して貯蔵可能である(成分はいずれかまたはすべてが凍結乾燥される)。成分は、乾燥製剤では凍結乾燥された形態で維持可能でありまたは液状製剤では再構成可能であり、かつ使用前に混合可能でありまたは患者に独立して投与可能である。乾燥粉末投与では、ワクチン製剤または抗原製剤は、鼻腔内送達デバイス中にあらかじめ充填して使用時まで貯蔵可能である。好ましくは、そのような鼻腔内送達デバイスは、その内容物を保護し安定性を確保するであろう。
【0064】
本発明は、被験者において外来因子に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、被験者に本明細書に記載のワクチン製剤を投与することを含む。ただし、ワクチン製剤は、キメラタンパク質を含み、キメラタンパク質中に存在する異種抗原またはその断片は、外来因子由来のタンパク質に由来する。被験者は、外来因子の感染を獲得するリスクがあってもよいし、または外来因子の感染の被害を受けていてもよいし、または外来因子により引き起こされた再発感染を有していてもよい。したがって、本発明は、外来因子に由来する異種抗原を含有する本明細書に記載のキメラタンパク質を含む本発明のワクチン製剤または抗原製剤を投与することにより外来因子に関連する感染を予防および治療する方法を包含する。いくつかの実施形態では、本発明のキメラVLPを含む本発明のワクチン製剤または抗原製剤は、アジュバントを含有しない。他の実施形態では、ワクチン製剤または抗原製剤は、本明細書に記載のアジュバントを含みうる。
【0065】
次に、以下の実施例に記載の特定の実施形態を参照して、本発明をより詳細に例示する。実施例は、本発明を単に例示することを意図したものであり、なんらその範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1.カリシウイルスVLP中の抗原挿入部位の同定
ノロウイルスウイルス様粒子(VLP)のバイオリアクター産生および下流処理は、十分に特徴付けられており、キメラカリシウイルスVLPの生成を実証する初期概念実証試験で使用した。GI.1 Norwalk VP1サブユニットに対して、外来エピトープの挿入に好適な表面露出ループ領域(図1Aを参照)の同定は、高分解能X線結晶構造(PDBコード1IHM)の評価により行った。複合GII.4ノロウイルスキャプシドタンパク質(GII.4コンセンサス)の類似の評価は、プログラムGeno3D2を用いて原子構造モデルを作製した後で行った(図1B参照)。このソフトウェアは、テンプレートとして相同タンパク質(GII.2コンセンサスの場合のG1.I Norwalk)の原子構造を使用して、十分な配列類似性を有しかつ原子構造データの欠失した任意のカリシウイルスキャプシドタンパク質の構造モデルを生成するために同様に使用される戦略を提供する。
【0067】
ノロウイルスGI.1 NorwalkおよびGII.4コンセンサスVP1サブユニット中のP2ドメイン表面露出ループ領域の同定は、Swiss PDB viewerを用いて残基接触度を分析することにより行った。ノロウイルスキャプシドタンパク質のP2ドメイン境界は、すでに同定されている(たとえば、Prasad et al. (2000) Journal of lnfectious Diseases, Vol. 181: S317-S321を参照されたい)。同一のソフトウェアを用いた原子構造のマニュアル検査により、P2ドメイン表面ループの適切な帰属を確認した。図1は、P2ドメイン残基に灰色で陰影付けしかつこのドメイン内の溶媒接触ループ領域を下線付き太字フォントで記して、GI.1 Norwalk(1A;配列番号1)およびGII.4コンセンサス(1B;配列番号2)のVP1サブユニットのアミノ酸配列を示している。図2は、溶媒接触P2ドメインループを強調表示して、GII.4コンセンサス構造モデル(90°回転)を示している。
【0068】
以上に概説した方法を他のカリシウイルスに拡張するために、サポウイルスHu/Yokohama16-4/2007/JP VP1サブユニットに対して溶媒接触P2ドメインループの構造モデリングおよび同定を追加的に行った。この特定のサポウイルスは、ヒト胃腸炎で原因因子になるものとして選択した。カリシウイルス科では、原子構造は、Norwalk(ノロウイルス)およびSan Miguelアシカ(SMSV;ベシウイルス)のVP1キャプシドタンパク質に関して現在入手可能である。図3に示されるように、プログラムGeno3D2を用いたサポウイルスキャプシドタンパク質の評価により、構造テンプレートとしてのNorwalk(図3A)およびSMSV(図3B)のVP1サブユニットの両方から導出される原子構造モデルを生成した。
【0069】
サポウイルスVP1構造モデルのそれぞれのP2ドメイン表面露出ループ領域の同定は、Swiss PDB viewerを用いて残基接触度を解析することにより行った。サポウイルスキャプシドタンパク質のP2ドメイン境界は、構造モデリングに使用したテンプレートとの配列アライメントにより規定した。図4は、P2ドメイン残基に灰色で陰影付けしかつこのドメイン内の溶媒接触ループ領域中にアミノ酸配列を下線付き太字フォントで記して、Hu/Yokohamal6-4/2007/JP VP1サブユニット(配列番号3)を示している。
【0070】
以上の解析では、モデル生成のためのテンプレートとして使用した原子構造に依存して構造モデルおよび同定された表面P2ドメインループの両方に実質的な差を生じる。両方のキャプシドタンパク質がカリシウイルス科に属するという事実にもかかわらず、NorwalkおよびSMSVのVP1サブユニット間の有意な構造差は、配列アライメント中の比較的低い全配列同一性および大きいギャップを考慮すれば予想外なことではない(図5;P2ドメイン残基は灰色で陰影付けされている)。標的と最大の配列相同性を示す利用可能なテンプレート構造を用いて、追加のカリシウイルスサブユニットの原子構造モデルの生成を行った。あるいは、追加のカリシウイルスサブユニットの構造モデルでは、配列相同性がほぼ等価である場合、多数の利用可能なカリシウイルスVP1構造が用いられる。標的との類似の配列相同性である場合の多数の構造テンプレートの使用を、好適なエピトープ挿入部位をうまく同定できる可能性が増大するように設計する。
【0071】
実施例2.カリシウイルスVP1オープンリーディングフレーム中への外来エピトープの挿入
GI.1 Norwalk VP1サブユニットの好ましい部位への外来エピトープ挿入の包括的スクリーニングのために、2つの異なる戦略、すなわち、1)P2ドメインの溶媒接触ループ中の種々の残基位置での単純挿入、および2)P2ドメインの溶媒接触ループ残基の置換えを利用した。
【0072】
突然変異原性プライマーとして適切な合成オリゴヌクレオチドを用いて、9アミノ酸のインサートを含む突然変異誘発を行い、一方、遺伝子合成により、より大きいインサートを有する構築物を作製した。より大きいインサートを有するキメラVLPを生成する代替的戦略は、適切なエピトープ配列をコードする合成DNAまたはPCR産物のいずれかをライゲートするためにVP1リーディングフレームの所望の領域に独特の制限部位を工学的に導入することを含む。追加のカリシウイルスキャプシドタンパク質中へのエピトープ挿入のために同様の戦略を実施する。
【0073】
第一世代構築物では、QuickChange Lightning突然変異誘発キット(Stratagene; La Jolla, CA)を用いてPCR突然変異誘発によりNorwalk VP1サブユニット中にモデルエピトープを挿入した。Norwalk VP1を含有するシャトルベクターをDNA鋳型として用いて構築物を作製し、得られたキメラ配列をPCRおよびDNA塩基配列解析により確認した。次いで、組換えバキュロウイルスの生成を可能にするためにキメラVP1リーディングフレームを導入ベクターpVL1393中にサブクローニングした。サブクローニングのためのインサートを作製する前にPCR増幅を用いた場合、DNA配列解析により最終的リーディングフレームを確認した。この方法では、多数のエピトープ/インサート部位の組合せを迅速かつ効率的に生成することが可能である。より大きいエピトープ挿入を有するキメラVP1リーディングフレームをDNA合成により作製し、続いて、組換えバキュロウイルスの生成を可能にするために導入ベクターpVL1393中にサブクローニングした。図6は、強調表示された外来抗原と置き換えられた残基を有するNorwalk VP1 X線構造(90°回転)を示している。図6に示される第一世代構築物は、9アミノ酸のモデルエピトープと置き換えられたP2ドメイン中の5つの溶媒露出ループ残基を表している(実施例3参照)。また、図6で強調表示されたループ中の所定の残基間にモデルエピトープの直接挿入を含有する第一世代構築物を作製した(すなわち、VP1残基をなんら欠失させることなく)。Norwalk VP1アミノ酸配列中の溶媒露出残基の位置については実施例1および図1Aを参照されたい。
【0074】
実施例3.キメラカリシウイルスVLPの産生
接着性Sf9昆虫細胞中に導入ベクター(pVL1393−Norwalk VP1)および線状バキュロウイルスDNAを共トランスフェクトし、続いてウイルス増殖を行って高力価ストックを作製することにより、キメラNorwalk VP1サブユニットをコードする組換えバキュロウイルスの産生を行った。キメラVLP産生の初期概念実証スクリーニングとして、インフルエンザ赤血球凝集素抗原に由来するモデルエピトープ(HAエピトープ配列−YPYDVPDYA(配列番号5))をNorwalk VP1残基296、336、362、383、または399の後に直接挿入した。それに加えて、このモデル抗原をNorwalk VP1残基337〜341または残基362〜366と置き換えた構築物で発現実験を行った。図7は、モデル赤血球凝集素エピトープによる直接挿入を含有するかまたはそれにより置き換えられたNorwalk VP1残基を示している。
【0075】
キメラVLPの産生のために、Sf9昆虫細胞を50mLスピンナーフラスコ培養物中で2×10細胞/mlまで増殖させ、次いで、推定感染多重度(MOI)=1.0で組換えバキュロウイルスのP1ストックを感染させた。感染に続いて、感染後T=96〜120時間で低速遠心分離およびそれに続く0.2μmフィルターを用いた清澄化により、培養物を採取した。この際、VLPは、自然の細胞溶解の結果として培養上清中に放出された。図8に示されるSDS−PAGE解析は、VP1残基296または362の後に挿入されたモデルHA抗原を含有するキメラNorwalk VLPの発現試験から得られた結果を示している(レーン1、分子量標準;レーン2、362挿入の遠心分離後の上清; レーン3、362の遠心分離ペレット画分;レーン4、362挿入の濾液;レーン5、296挿入の遠心分離後の上清;レーン6、296の遠心分離ペレット画分;およびレーン7、296挿入の濾液)。362挿入キメラの遠心分離後の上清(レーン2)および濾液(レーン4)の画分中の予測分子量(約57kDa)の顕著なNorwalk VP1泳動バンドは、天然のNorwalk VP1に類似した発現パターンを呈したことから、この溶媒接触P2ループが外来抗原挿入を効率的に許容する能力が実証される。図8はまた、norwalk VP1残基296の直後に挿入されたモデルHAエピトープを含有する構築物では、以上の画分中でかなり低いVP1発現レベルを示している(レーン5および7)。これらの試験では、296挿入構築物の発現低下は、細胞溶解前のVP1サブユニットのタンパク質分解から生じ、これは、おそらく、VP1サブユニットの一部分のVLP集合の欠如から生じるので、表面露出ループの同定だけでは、キメラVLPの効率的産生を確認するには十分でない。
【0076】
以上の戦略を用いてキメラVLPを作製する能力は、VP1残基336の後に挿入されたまたは残基337〜341と置き換えられたモデルHAエピトープを含有するNorwalk VP1サブユニットについて、図9で確認される。ウェスタンブロット解析を用いて、抗Norwalkおよび抗HAエピトープのモノクローナル抗体との特異的かつ適切な反応性を示した予測分子量(約57kDa)のSDS−PAGE泳動バンドが示された(レーン1、分子量標準;レーン2、VP1残基336にエピトープ挿入を有するキメラVLP;レーン3、VP1残基337〜341のエピトープ置換えを有するキメラVLP;およびレーン4、野生型Norwalk VP1)。
【0077】
キメラNorwalk VLPの小スケールの発現および精製では、Sf9昆虫細胞をSf900 II培地(1L振盪フラスコ培養物)中で2×10細胞/mlまで増殖させ、次いで、MOI=0.5で組換えバキュロウイルスを感染させた。VLP発現に続いて(感染後96〜120時間)、低速遠心分離およびそれに続く0.2μmフィルターを用いた清澄化により培養物を採取した。集合VLPは特徴的に高分子量(約10 MDa)を有するので、材料は、スクロース勾配遠心分離法およびサイズ排除クロマトグラフィーなどの表面化学に依存しない方法により、容易に精製可能である。図10は、連続流遠心分離(CFC)によるキメラNorwalk VLP(336挿入)の精製を示している。この際、精製出発材料は、TCF−32ローターを用いた約16時間にわたる100,000×gでの遠心分離により0〜60%の直線スクロース勾配で単離された。この解析では、出発馴化培地(CM)中でのキメラVLPの高レベルの産生およびウイルス様粒子の予測スクロース密度でバンド形成するキメラVP1サブユニットの顕著なピークが示される。
【0078】
実施例4.キメラカリシウイルスVLPの特徴付け
キメラカリシウイルスVP1サブユニットの適切なタンパク質発現およびVLP形成を確認するために、SDS−PAGE、ウェスタンブロット解析、高分解能質量分析、サイズ排除クロマトグラフィー、および電子顕微鏡法を含むいくつかの分析方法を用いて、産生プロセス全体にわたり特徴付けを行った。実施例3では、SDS−PAGEおよびウェスタンブロット解析の使用に重点を置いた。これらの方法により、キメラNorwalk VLPの適切なサブユニット分子量および外来抗原の存在が示された。ノロウイルスVLPは高分子量(>10MDa)であるので、粗精製出発材料でさえも、サイズ排除クロマトグラフィーにより直接解析可能である。VLP形成を評価するこの方法の有用性は、図11で示される。ここでは、Norwalk VP1−HAキメラ(336挿入)の馴化培地をサイズ排除クロマトグラフィーにより解析した。この試験では、予測保持時間(約8分)を有するピークの存在によりキメラVLPの適切な形成が示された(赤色トレース−220nmでの吸収(Y軸上に示される)、および青色トレース−280nmでの吸収)。
【0079】
プール化連続流遠心分離画分(実施例3参照)中のVLPの適切な形成を電子顕微鏡法により追加的に確認した。これにより、VP1残基336の後に挿入されたまたはVP1残基337〜341と置き換えられたモデルHAエピトープを含有するキメラNorwalk VLPの約32nmの予測粒子が示された(図12)。
【0080】
実施例5.キメラカリシウイルスVLPのスケールアップバイオリアクター産生および下流処理
Waveバイオリアクタープラットフォームおよびバイオリアクター槽としての使い捨てのWavebagを用いて、キメラVLPの初期スケールアップバイオリアクター産生を行った。これらの試験では、感染前の細胞密度、感染多重度、および採取前の感染時間を含む基本パラメータの最適化に焦点をあてる。初期最適化はまた、複数の昆虫細胞系/培地の組合せおよび培地補充のスクリーニングを含む。これらの試験は、スケーラブル産生戦略の開発および下流処理への材料供給の両方に役立つ。Waveバイオリアクターシステムおよびさまざまな昆虫細胞/無血清培地の組合せを用いて、ノロウイルスVLPについて、>50mg/Lの範囲内でバイオリアクター産生性を慣例に従って観測した。
【0081】
従来のクロマトグラフィー、膜クロマトグラフィー、およびタンジェンシャルフロー濾過を含む十分に確立された測定可能な方法により、採取されたバイオリアクター培養物からキメラVLPの下流処理を行う。クロマトグラフィースクリーニングでは、宿主細胞のタンパク質/核酸に関して、結合/溶離条件の最適化、流量効果の評価、工程回収率の推定、および精製因子の特徴付けを行うために、小スケールで初期パイロット試験を行う。
【0082】
実施例6.外来エピトープの他の提示方法
実施例1に概説されるように、外来エピトープの好ましい挿入部位は、カリシウイルスVP1原子構造モデルの評価による溶媒接触P2ドメイン表面ループの同定に基づくものであった。エピトープ挿入の最適位置を同定する相補的方法として、以上の構造解析をアミノ酸配列および生化学的データと組み合わせて許容部位の同定に役立てる。構造解析により同定された表面ループ領域に含まれる超可変P2ドメイン残基を同定するために、アミノ酸配列データを多重アライメントで用いる。両方の手段により同定された位置は、外来エピトープ配列の直接挿入に最適であると考えられる。同様に、構造解析により同定された単一表面露出ループに含まれる複数の超可変P2残基を有する位置は、VP1残基の部分的置換えに最適であると考えられ、VP1欠失境界を確立する指針を与えるであろう。カリシウイルスエスケープ突然変異体および/または抗体エピトープのP2ドメイン残基の同定などの生化学的データの使用は、外来エピトープの挿入に好適な位置を際立たせるのに役立つ。
【0083】
実施例2〜4に概説されるように、9アミノ酸の外来エピトープ挿入を第一世代キメラNorwalk VLPの作製に使用した。VLP産生および/または外来エピトープ免疫原性を最適化するために、5〜10残基、11〜20残基、21〜30残基、31〜40残基、または41〜50残基の配列を含む、種々の長さの挿入エピトープ配列を評価する。カリシウイルス残基の欠失が外来エピトープの挿入のきわめて重要な因子になりうるので、5〜10残基、11〜20残基、21〜30残基、31〜40残基、または41〜50残基を含む、種々の長さのVP1欠失を評価する。
【0084】
キメラVLPの組換え発現は、カリシウイルスP2ドメインの2つ以上の溶媒接触ループ中への複数の外来抗原の同時挿入を含みうる。同定されたループのいくつかは、比較的近い空間的近接度で存在するので、挿入配列の直接接触により不連続エピトープを形成するように、複数のループの挿入を工学操作することが可能である。
【0085】
キメラカリシウイルスVLPを発現するために、標的抗原は、不連続エピトープを示すミモトープ配列または複合線状配列に由来しうる。ミモトープ配列は、高い親和性で中和抗体に結合する線状ペプチドであるが、標的抗原中に見いだされる実際のアミノ酸配列を示さない。この性質の配列は、文献から導出されるか、またはファージディスプレイ解析やコンビナトリアルペプチドライブラリーなどの方法による中和抗体のエピトープマッピングにより決定される。不連続エピトープを示す複合線状配列は、同様に文献から、コンビナトリアル法から、または抗体:抗原複合体の構造解析から導出可能である。
【0086】
キメラVLP産生の効率を向上させるために、外来エピトープ配列のコンフォメーション空間を構造的に束縛してカリシウイルスVP1表面ループ境界により良好に適合させるべくプラットフォームをデザインすることが可能である。この目的は、共有結合性または非共有結合性のタンパク質間相互作用モチーフを工学操作によりVP1サブユニットの表面露出ループまたは外来抗原配列のいずれかに導入することにより遂行される。
【0087】
以上に概説した方法の変法は、VP1サブユニットの小部分のみがP2ドメインの溶媒接触ループ上に外来エピトープを提示するキメラVLPの作製を含む。この戦略は、とくに比較的大きい外来エピトープがVP1サブユニット中で挿入される場合、所望のVLP集合を維持するうえで重要になることもある。この性質のVLPを作製するために、最初に、VLP集合に好適な高精製状態(すなわち、完全変性単量体、天然様二次/三次構造含有単量体、または低次VP1集合状態)で個別のカリシウイルスVP1サブユニット(天然および修飾の両方)を作製する。次いで、天然サブユニットおよび修飾サブユニットを所望の比で混合して効率的なVLP集合を促進する条件を確立することにより、キメラVLPを作製する。あるいは、天然サブユニットおよび修飾サブユニットの発現が2つの異なるプロモーターにより調節されるように構築物を作製することにより、この性質のVLPを培養下で直接作製する。この方法を用いる場合、天然のVP1サブユニットは、修飾サブユニットを超える発現レベルになるように比較的強力なプロモーター下に配置される。キメラVLPの集合は、VLP表面の小部分上に提示される修飾VP1サブユニットを有する細胞内で行われる。
【0088】
より汎用的なディスプレイプラットフォームを形成可能なさらなる変法は、溶媒接触P2ドメイン表面への所望の外来抗原の特異的高親和性結合を促進する標的配列を含有する(たとえば、相補的結合モチーフを含有する)ノロウイルスVLPの作製を含む。この性質のキメラVLPを作製するために、ノロウイルスサブユニットおよび標的抗原の発現および精製を独立して行い、次いで、結合を可能にする条件下で混合する。この方法を用いる場合、標的抗原は、完全集合VLP上のVP1サブユニットに結合されるか、またはVLP集合前にVP1サブユニットに結合される。最適なVLP安定性および抗原提示を提供する条件を評価するために、VP1サブユニットの各コピー上または一部分上のみに標的配列を発現させることにより、キメラVLPを作製する。
【0089】
実施例7.キメラNorwalk VLPによるマウスの免疫化
30μgの天然Norwalk VLPまたは実施例3に記載のキメラNorwalk VLP(たとえば、Norwalk VP1の296、336、362、383、もしくは399残基の後に挿入されたHAエピトープまたはHAエピトープによるNorwalk VP1残基337〜341もしくは残基362〜366の置換え)の1つを用いて、約10〜12週齢の雌C57/BL6マウスを腹腔内免疫する。免疫後21日目にマウスから採血し、血清を抗原特異的ELISAで解析して天然およびキメラのNorwalk VLPの抗体価を決定する。結果から、キメラVLPが抗Norwalk抗体および抗HA抗体の両方で有意な力価を生じることが示されると予想される。
【0090】
実施例8.29残基の医療適合性外来抗原を含有するキメラカリシウイルスVLPの産生、特徴付け、および免疫原性
より大きい医療適合性外来抗原を含有するキメラノロウイルスVLPを作製するために、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)Fタンパク質に由来する29アミノ酸配列(RSV Fエピトープ配列−YMLTNSELLSLINDMPITNDQKKLMSNNV(配列番号7)(これは中和抗体Synagisにより認識される))をNorwalk VP1残基308、338、または363の後に直接挿入した。それに加えて、Norwalk VP1残基307〜311、337〜341、または残基362〜366と置き換えられたRSV Fエピトープを含有する構築物を作製した。組換えバキュロウイルスの作製およびSf9昆虫細胞内でのVLP産生に続いて、キメラVLPを精製し、特徴付けし、免疫原性に関してを調べた。図13は、連続流遠心分離(CFC)によるキメラNorwalk VLP(308挿入)の精製を示している。この際、精製出発材料は、TCF−32ローターを用いた約16時間にわたる100,000×gでの遠心分離により0〜60%の直線スクロース勾配で単離された。この解析では、出発馴化培地(CM)中でのキメラVLPの産生およびウイルス様粒子の予測スクロース密度でバンド形成するキメラVP1サブユニットの顕著なピークが示される。連続流遠心分離により精製された材料でのVLPの形成は、透過型電子顕微鏡法により確認された(図14)。免疫原性を評価するために、20mMヒスチジン(pH−6.5)、150mM NaCl中200μg/mLで、CFC精製キメラVLPを製剤化した。6匹のBalb/cマウスを試験0日目に20μgのキメラVLP(約1μgのRSVエピトープ)で免疫し、試験21日目に追加の20μgのキメラVLPで追加免疫した。試験35日目に血液を採取し、RSV−FおよびNorwalkタンパク質特異的ELISAの両方を用いて全IgG力価を解析した。この試験では、キメラVLPを投与された6匹の動物のうち2匹はまた、抗RSV−F IgGが4倍超の増加を示した(図15)。
【0091】
実施例9.多重修飾表面ループを含有するキメラカリシウイルスVLPの産生
多重修飾ループを含有するキメラノロウイルスVLPを作製するために、RSV Fタンパク質の9アミノ酸配列(RSV Fエピトープ配列−LINDMPITN(配列番号6))を同一構築物内の2つのNorwalk VP1表面ループに付加した。これらの試験では、残基338および363への挿入が同時に行われたまたは残基337〜341との置換えと残基363への挿入とが同時に行われたRSV Fエピトープを含有する構築物を作製した。図16に示されるSDS−PAGE解析は、9残基のRSV−F抗原を含有するキメラNorwalk VLPの発現試験の結果を示している(レーン1、分子量標準;レーン2、338および363挿入の遠心分離後の上清;レーン3、338および363挿入の遠心分離ペレット画分;レーン4、338および363挿入の濾液;レーン5、337〜341置換えかつ363挿入の遠心分離後の上清;レーン6、337〜341置換えかつ363挿入の遠心分離ペレット画分;およびレーン7、337〜341置換えかつ363挿入の濾液)。各キメラの遠心分離後上清(レーン2および5)ならびに濾液(レーン4および7)の画分中の予測分子量(約57kDa)の顕著なNorwalk VP1泳動バンドは、天然のNorwalk VP1に類似した発現パターンを呈したことから、この溶媒接触P2ループが外来抗原挿入を効率的に許容する能力が実証される。これらのキメラでは、粒子形成は、SECデータにより示唆され、これらの試験は、実施例6に概説される概念を支持する。
【0092】
実施例10.赤血球凝集素エピトープを含有するキメラカリシウイルスVLPの免疫原性。
インフルエンザ赤血球凝集素抗原に由来するモデルエピトープ(HAエピトープ配列−YPYDVPDYA(配列番号5))をVP1上のNorwalk VP1残基アミノ酸338−339間に直接挿入し、本明細書では「HA挿入」と記した。HAエピトープをVP1中のNorwalk VP1残基アミノ酸337〜341と置き換えた追加の構築物を作製し、本明細書では「HA置換え」と記した。免疫前に各構築物の全タンパク質含有量を調べた。「HA挿入」構築物を調べたところ、34μg/mlの全タンパク質を含有し、「HA置換え」構築物を調べたところ、42μg/mlの全タンパク質を含有していた。各チューブから50マイクロリットルを取り出して、0および7日目にマウスの腹腔内に注入した。14日目に血清を採取したが、測定可能な抗原特異的IgGは、ELISAにより検出できなかった。しかしながら、ほぼすべてのマウスで低レベルのHA特異的IgMを検出することができた(図17)。キメラVLPのHA含有量は全タンパク質のわずか1.7%にすぎないので、IgMのみの応答の理由は、低いHA濃度(「HA挿入」では29ngのHAおよび「HA置換え」では36ngのHA)である可能性が高い。アジュバントの存在によりHAに対する免疫応答が増強されるかを調べるために、37日目にAlOH/MPL上に吸着されたキメラVLPをすでに処置されたマウスに投与した。64日目に血清を採取し、HA特異的IgGに関して解析した(図18)。アジュバントの添加により、「HA挿入」で免疫された5匹のマウスのうちの4匹および「HA置換え」で免疫された5匹のマウスのうちの2匹は、検出可能なHA特異的IgG応答を有するようになった。この試験では、マウスはすべて、旧来の値に類似したNorwalk特異的IgGを産生した。結論として、HAエピトープが提示され、免疫系に認識される。この試験で使用される低濃度のHA抗原では、アジュバントを用いて免疫応答を増大させることが可能である。あるいは、HAエピトープの量を増大させれば、免疫応答が増大するであろう。
【0093】
本発明の範囲は、本発明の個別の態様の一例であることを意図して記載した特定の実施形態により限定されるものではなく、機能的に等価な方法および成分は本発明の範囲内である。実際に、以上の説明および添付の図面から、通常の実験の域を出ることなく、本明細書に提示および説明した形態に加えて本発明のさまざまな変更形態が当業者に自明なものとなるであろう。そのような変更形態および等価形態は、添付の特許請求の範囲に包含されるものとみなされる。
【0094】
本明細書に挙げた出版物、特許、および特許出願はすべて、個々の公開公報、特許、または特許出願が具体的かつ個別的に明示されて参照により組み入れられたのと同程度まで、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0095】
本明細書における参考文献の引用または検討は、本発明に対する先行技術であることを承認するものと解釈してはならない。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
P2ドメインを有するカリシウイルスキャプシドタンパク質と少なくとも1つの異種抗原またはその断片とを含むキメラタンパク質であって、前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の前記P2ドメイン中に挿入され、かつ前記キメラタンパク質が宿主細胞内で発現されたときにウイルス様粒子を形成可能である、キメラタンパク質。
【請求項2】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記P2ドメインの少なくとも1つの溶媒露出ループ中に挿入される、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項3】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の少なくとも1つのアミノ酸と置き換えられる、請求項2に記載のキメラタンパク質。
【請求項4】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の約2〜約50アミノ酸と置き換えられる、請求項3に記載のキメラタンパク質。
【請求項5】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の約4〜約20アミノ酸と置き換えられる、請求項4に記載のキメラタンパク質。
【請求項6】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の約5アミノ酸と置き換えられる、請求項5に記載のキメラタンパク質。
【請求項7】
前記カリシウイルスがノロウイルスである、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項8】
前記キャプシドタンパク質がVP1である、請求項7に記載のキメラタンパク質。
【請求項9】
前記キャプシドタンパク質が配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項8に記載のキメラタンパク質。
【請求項10】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が、配列番号1中の295位のアスパラギン残基、296位のグリシン残基、308位のプロリン残基、336位のグリシン残基、338位のセリン残基、362位のアスパラギン残基、363位のグリシン残基、382位のプロリン残基、383位のセリン残基、399位のイソロイシン残基、または402位のアラニン残基の後に直接挿入される、請求項9に記載のキメラタンパク質。
【請求項11】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が、配列番号1中のアミノ酸294〜298、アミノ酸307〜311、アミノ酸337〜341、アミノ酸362〜366、アミノ酸381〜385、またはアミノ酸401〜405と置き換えられる、請求項9に記載のキメラタンパク質。
【請求項12】
前記キャプシドタンパク質がノロウイルスの2つ以上の流行株に由来する複合キャプシドタンパク質である、請求項7に記載のキメラタンパク質。
【請求項13】
前記複合キャプシドタンパク質が配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載のキメラタンパク質。
【請求項14】
前記ノロウイルスが遺伝子群Iまたは遺伝子群IIのノロウイルスである、請求項7に記載のキメラタンパク質。
【請求項15】
前記ノロウイルスが遺伝子群I遺伝子型Iのノロウイルスまたは遺伝子群II遺伝子型4のノロウイルスである、請求項14に記載のキメラタンパク質。
【請求項16】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が約5〜約70アミノ酸長である、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項17】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が抗原エピトープを含む、請求項16に記載のキメラタンパク質。
【請求項18】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が、ウイルス、細菌、真核病原体、腫瘍関連抗原、またはアレルゲンに由来する、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項19】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、およびメタニューモウイルスよりなる群から選択されるウイルスに由来する、請求項18に記載のキメラタンパク質。
【請求項20】
請求項1に記載のキメラタンパク質を含むウイルス様粒子。
【請求項21】
請求項20に記載のウイルス様粒子を含むワクチン製剤。
【請求項22】
アジュバントをさらに含む、請求項21に記載のワクチン製剤。
【請求項23】
請求項1に記載のキメラタンパク質をコードする単離された核酸。
【請求項24】
請求項23に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項25】
請求項24に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項26】
前記宿主細胞が、細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または哺乳動物細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
請求項1に記載のキメラタンパク質を宿主細胞内で発現することと、
ウイルス様粒子が形成される条件で前記宿主細胞を増殖させることと、
を含む、キメラウイルス様粒子の作製方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記P2ドメインの少なくとも1つの溶媒露出ループに融合される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の少なくとも1つのアミノ酸と置き換えられる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の1〜約50アミノ酸と置き換えられる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の約4〜約20アミノ酸と置き換えられる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記キャプシドタンパク質の約5アミノ酸と置き換えられる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が約5〜約70アミノ酸長である、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が抗原エピトープを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記カリシウイルスがノロウイルスである、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記ノロウイルスが遺伝子群Iまたは遺伝子群IIのノロウイルスである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ノロウイルスが遺伝子群I遺伝子型Iのノロウイルスまたは遺伝子群II遺伝子型4のノロウイルスである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項21に記載のワクチン製剤を被験者に投与することを含む、外来因子に対する免疫応答を誘導する方法であって、前記少なくとも1つの異種抗原またはその断片が前記外来因子由来のタンパク質に由来する、方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2013−517773(P2013−517773A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550162(P2012−550162)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2011/022094
【国際公開番号】WO2011/091279
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(507028479)リゴサイト ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】