説明

カリックスアレーン誘導体およびそのフィルムおよびそのパターン形成方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、多種の有機溶剤に対し高溶解性を示すカリックスアレーン誘導体に関するものである。
(従来の技術)
カリックスアレーンは、フェノール・ホルムアルデヒドの縮合により生成する環状オリゴマーである。カリックスアレーンおよびカリックスアレーン誘導体は、シクロデキストリンやクラウンエーテル類と同様に包接能を有することが近年明らかにされ、水溶性カリックスアレーンの合成が研究され、水溶液中の包接が報告さており、海水中ウラニルイオンの回収などを目的としたカリックスアレーン誘導体の研究なども行われている。また、カリックスアレーンは、その特徴から優れた機能性材料となることが期待でき、本出願人は既にカリックスアレーンをフィルム化することを提案した。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、機能性材料として用いるには、有機溶剤に対し高溶解性を示すカリックスアレーン誘導体が必要である。今までに知られているカリックスアレーンおよびカリックスアレーン誘導体は、非常に溶解性が低く(0.1wt%以下)、これを機能性材料として用いた報告(マルコヴィッツ,ヤヌート,カストナー,リーガン(Michael A Markowitz,Vaclaw Janouut,David G.Gastner,and Steven L.Regen)ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエテイ(J.Am.Chem.Soc.)1989,111,8192−8200)は500Å以下のフイルムについてのみであった。本発明者は有機溶剤に対する溶解度を向上させる手段として大きなアルキル基を有するカリックスアレーン、例えば、オクチル−カリックスアレーン、ドデシル−カリックスアレーンなどを合成し検討したが、溶解性の向上はなかった。また、アセチル化も効果的と思われたのでt−ブチル−カリックスアレーンをアセチル化したが溶解性に大きな向上は見られなかった。
本発明の目的は、有機溶剤に対して高溶解性を示すカリックスアレーン誘導体を提供することにあり、また、そのフィルムおよびそのパターン形成方法を提供するものである。
(課題を解決するための手段)
本発明者は、新規な化合物としてメチル−カリックスアレーンのアセチル化物の合成に成功し、この材料が多くの溶剤(例;ピリジン、クロロホルム、ジクロロメタン)などに対して高溶解性を示すのみでなく、その化合物を有機溶剤(例;トルエン、モノクロロベンゼン、キシレン)に溶かし、スピンコート法により、膜厚のフィルムを得ることが可能であること見だした。
(実施例)
実施例1(合成)
p−クレーゾール18.7gをキシレン150mlに溶かしパラホルムアルデヒド9gを加え、さらに、10Nの水酸化カリウム水溶液0.4mlを加えた。これを、4時間加熱還流し、析出物ろ過し、アセトン、エタノールで洗浄、乾燥した。さらに、エタノールと水の混合溶液で洗浄、乾燥し、メチル−カリックスアレーンを10.3g得た。
得られたメチル−カリックスアレーン3.0gをピリジン30mlに溶かし無水酢酸1mlを加え、室温で30分攪はんした。この反応溶液を300mlの水にあけ、析出物をろ過、乾燥し、メチル−カリックスアレーンのアセチル化物3.7gを得た。
IR(第1図)、NMR(第2図)、マススペクトルデータ(972)より、生成物はメチルカリックス[6]アレーン・アセチル化物と同定できた。
この生成物をアセトンに溶解させ強く攪はんすると、数分後に析出物を得、これを濾過・乾燥して、メチル−カリックス[6]アレーンのアセチル化物の異性体を得た。この異性体についてはIR,NMR,マススペクトルのデータは同じである。
実施例2(フィルム)
メチル−カリックスアレーンのアセチル化物の10wt%トルンエン溶液を調整し、それを0.2μmフィルターに通した後に、スピンコート法によりシリコン基板上にフィルム化した。スピンコートは回転数300rpmで5秒、ひきつづき、1500rpmで60秒行った。これを、窒素中100℃で30分ベーキングを行った。膜厚約0.45μmの均一なフィルムが得られた。
実施例3(パターン形成)
実施例2で得られたフィルムにイオンビームを選択的に照射(日本電子JIBL−150集束イオンビーム描画装置、イオン種;Be++、加速エネルギー;260KeV,ビーム電流;9.6pA,ビーム径;約0.1μm,露光量;.4.0×1013ions/cm2)して重合し、ついで、エタノールで30秒未照射部を溶解除去させ、80℃で30分ポストベークを行うことによりパターンを形成した。SEMでパターン形状を観察したところ、角型性の良いパターンが0.1μm幅のパターンも正確に形成された。また、300℃で30分加熱したが、形状に変化はなかった。これは、電子線、X線でも同様であった。
以上の実施例は6量体について述べたが、4〜8量体は、1ユニットずつ縮合させる逐次合成法によって任意のn量体(n=4〜8)を合成することができる。
(発明の効果)
以上の説明から明らかなように、多種の有機溶剤に対し高溶解性を示すカリックスアレーン誘導体であるメチル−カリックスアレーンのアセチル化物を得、また、この化合物により、厚いフィルムを得ることが可能となり、また、それのパターン形成も可能となった。このように、高溶解性カリックスアレーン誘導体を得たことにより、カリックスアレーンの機能性材料への応用の可能性を広げた。
【図面の簡単な説明】
第1図、第2図はそれぞれメチル−カリックスアレーンのアセチル化物の赤外吸収スペクトルの図とプロトンNMRのスペクトルの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下の構造式で示されるメチル−カリックスアレーンのアセチル化物。


【請求項2】メチル−カリックスアレーンのアセチル化物より形成されたフィルム。
【請求項3】基板上に形成された請求項2のフィルムに、高エネルギー線を選択的に照射し、次いで溶剤により未照射部を溶解除去するパターン形成方法。

【第1図】
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【第2図】
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【公告番号】特公平7−23340
【公告日】平成7年(1995)3月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−249151
【出願日】平成2年(1990)9月19日
【公開番号】特開平4−128253
【公開日】平成4年(1992)4月28日
【出願人】(999999999)日本電気株式会社