説明

カルジオリピン調製の方法および工程

本発明は様々な脂肪酸鎖長を有するカルジオリピンおよびカルジオリピン類似体、特に1,1’,2,2’−テトラミリストイルカルジオリピンを調製する新規な方法を提供する。本方法は、1,2−O−sn−ジアシルグリセリンなどの出発化合物および2−保護グリセリンをホスホロアミダイト試薬と反応させて保護されたカルジオリピンを得て、この保護されたカルジオリピンを脱保護してカルジオリピンを調製することを含む。カルジオリピンおよびカルジオリピン類似体は、トリフルオロ酢酸ピリジニウムなどの活性化剤の存在下で調製してよい。本発明の方法を使用してカルジオリピンおよびカルジオリピン類似体を大量に調製する。本発明の方法によって調製されたカルジオリピンはリポソーム中に組み込むことができ、このリポソームは疎水性または親水性の薬剤などの活性薬剤をも含むことができる。かかるリポソームは疾患を治療するためにまたは診断および/もしくは分析アッセイにおいて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルジオリピンおよびカルジオリピン類似体の調製のための新規な方法に関する。より詳しくは、本発明は活性化剤を使用するホスホロアミダイト法によってカルジオリピンおよびカルジオリピン類似体を調製する方法に関する。さらに、本発明の方法はカルジオリピンおよびカルジオリピン類似体を大量に調製するために使用される。
【背景技術】
【0002】
(ジホスファチジルグリセリンとしても知られている)カルジオリピンは、通常心筋および骨格筋のミトコンドリアを含む高代謝活性を伴う組織の細胞膜から精製される複合体アニオン性リン脂質の一群を構成する。カルジオリピンの負の表面電荷は、リポソームを凝集依存性の取り込みに対して安定化させる。しかし、カルジオリピンの脂肪酸鎖の長さおよび性格(すなわち飽和か不飽和か)が、リポソームの凝集に対して与える可能性がある効果は解明されていない。
【0003】
カルジオリピンを合成するための知られている方法は、主に2つのグループに分けられる:(a)ホスホリル化剤を使用して2−保護グリセリンの第一級ヒドロキシル基を、1,2−ジアシル−sn−グリセリンとカップリングさせること、および(b)2−保護グリセリンの両方の第一級ヒドロキシル基における、ホスファチジン酸との2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニルクロリド(TPS)またはピリジンの存在下での縮合(Ramirez et al.,Synthesis,11,769−770(1976)、Duralski et al.,Tetrahedron Lett.,39,1607−1610(1998)、Saunders and Schwarz,J.Am.Chem.Soc.88,3844−3847(1966)、 Mishima et al.Bioorg.Khim.,11,992−994(1985)、およびStepanov et al.,Zh.Org.,Khim.,20,985−988(1984)を参照されたい。)。カルジオリピンは、ジアシルグリセロ燐酸エステルの銀塩と1,3−ジヨードプロパノールベンジルエーテルまたは1,3−ジヨードプロパノールt−ブチルエーテルとの間の反応によっても生成されてきた(De Haas et al.,Biochim.Biophys.Acta,116,114−124(1966)、およびInoue et al.,Chem.Pharm.Bull.,11,1150−1156(1963)を参照されたい。)。これらの方法は構造を確認するためのカルジオリピンの分析用量の調製には適当であるが、関与する多くのステップ、中間体の注意深い精製の必要性ならびに高度に感光性の銀塩中間体および不安定なヨウ素中間体の使用のために、製造目的での大量の日常的調製のためには実用的でない。
【0004】
リン酸トリエステルおよびホスホロアミダイトエステルは、核酸の合成においてリン酸結合を形成させるために幅広く、またリン脂質の合成においてより狭い範囲で使用されてきた(Browne et al.,J.Chem.Soc.Perkin Trans,1,653−657(2000)を参照されたい。)。これに関しては、上記のBrowneらは、ホスホロアミダイト法を使用するリン脂質類似体、特にホスホリルコリン類似体の調製を記載している。ホスファチジルイノシトールPtdIns(4,5)PおよびPtdIns(3,4,5)P、ならびにこれらの誘導体は、様々なホスホロアミダイト試薬を使用して調製されており、N,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Watanabe et al.,Tetrahedron Lett,35,123−124(1994)を参照されたい。)、ジフルオレニルホスホロアミダイト(例えば、Watanabe et al.,Tetrahedron Lett.,38,7407−7410(1997))およびジアシルグリセリンを(ベンジルオキシ)(N,N−ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィンと反応させることによって生成する試薬(例えば、Chen et al.,J.Org.Chem,61,6305−6312(1996)およびPrestwich et al.,Acc.Chem.Res.,29,503−513(1996)を参照されたい。)が含まれる。加えて、PtdIns(4,5)PおよびPtdIns(3,4,5)Pのホスホトリエステル類似体が、ホスホロアミダイト試薬2−シアノ−エチルN,N,N,N−テトライソプロピルホスホロジアミダイトを利用して調製されている(例えば、Gu et al.,J.Org.Chem,61,8642−8647(1996)を参照されたい。)。さらに、Murakami et al.,J.Org.Chem,64,648−651(1999)は、メチルテトライソプロピルホスホロジアミダイトをホスホリル化剤として利用する2,5−ジベンジル−D−マンニトールからのホスファチジルグリセリンの合成を記載している。
【0005】
最近、カルジオリピン、特に様々な長さの脂肪鎖を有するカルジオリピン種などのリン脂質の調製におけるホスホロアミダイトエステルの使用が報告されている(例えば、Lin et al.,Lipids,39,285−290(2004)、Krishna et.al.,Tetrahedron Lett,45,2077−2079(2004)、Krishna et.al.,Lipids,39,595−600(2004)、Ahmad et.al.の米国特許出願第2005/0181037A1号およびArmad et.al.,の米国特許出願第2005/0266068A1号を参照されたい。)。前述の合成スキームの全てにおいて、第1ステップは1,2−O−ジアシル−sn−グリセリンの1つまたは複数のホスホロアミダイト試薬との反応を含み、これに2−保護グリセリンとのカップリングが続き、ここで保護されたカルジオリピンが生成する。これらの反応におけるホスホロアミダイト試薬は1H−テトラゾールによって活性化された。
【0006】
1H−テトラゾールはホスフィチル化反応において使用される最も一般的な活性化剤である。しかし、大規模な合成における1H−テトラゾールの使用は、これの爆発性および強い毒性のために制限される。これは使用、投棄および貯蔵の間に特別な取り扱いが必要である。さらに、1H−テトラゾールは、極めて高価でもあり、それ故にコスト効率的なカルジオリピンの合成のためには実用的でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
様々な脂肪酸鎖長を有する飽和および不飽和のカルジオリピン種の大量を調製するために使用することができる新規の合成方法に対する必要性が存在する。より幅広い種類のカルジオリピン種の入手可能性を増大し、および現在入手可能なものよりも明確な組成を含む活性薬剤を含有する新規のリポソーム配合物の開発のために利用可能な脂質を多様化する、新規の合成方法に対する必要性も存在する。
【0008】
本発明はこうした方法を提供する。本発明のこれらのおよび他の利点は、発明のさらなる特徴と同様に、本明細書に提示する本発明の記載から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本発明は様々な脂肪酸鎖長を有するカルジオリピンを調製するための方法を提供する。この方法は、(a)光学的に純粋な1,2−二置換−sn−グリセリンを1つまたは複数のホスホロアミダイト試薬と反応させるステップと;(b)(a)の生成物を2−O保護または2−O置換グリセリンと活性化剤の存在下で反応させるステップとを含む。本発明の方法は、カルジオリピンおよびカルジオリピン類似体を大量に製造するために使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は一般式I、IIおよびIII
【0011】
【化8】

【0012】
【化9】

を有するカルジオリピンの変形体および類似体を調製する方法を記載する。
【0013】
式IIIにおいて、YおよびYは、同一でありまたは異なり、−O−C(O)−、−O−、−S−、−NH−C(O)−などである。式I、IIおよびIIIにおいて、RおよびRは、同一でありまたは異なり、H、飽和および/または不飽和のアルキル基、好ましくはCからC34の飽和および/または不飽和のアルキル基である。式IIIにおいて、Rは(CHであり、n=0−15である。式IIIにおいて、Rは、水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ペプチド、ジペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物(グルコース、マンノース、ガラクトース、多糖類など)、複素環、ヌクレオシド、ポリヌクレオチドなどである。式IIIにおいて、Rはリンカーであり、このリンカーは必要性および用途に応じて分子中に加えても(加えなくても)よい。しかし、加える場合は、Rは、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルコキシ、ポリアルキルオキシ[例えば、約1から500個のアルキルオキシ体を含有する(および少なくとも約10個のアルキルオキシ体、例えば少なくとも約50個のアルキルオキシ体または少なくとも約100個のアルキルオキシ体、例えば少なくとも約200個のアルキルオキシ体、または少なくとも約300個のアルキルオキシ体または少なくとも約400個のアルキルオキシ体を有することができる)PEG化されたエーテル、置換ポリアルキルオキシなど]、
【化10】

ペプチド、ジペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物例(例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、多糖類など)を含むことができる。式I、IIおよびIIIにおいて、Xは無毒のカチオン、好ましくは、水素、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムイオンなどである。
【0014】
最も好ましい実施形態によれば、式III中のYおよびYは−O−C(O)−または−O−であり、RおよびRは同一であり、CからC24の飽和および/または不飽和のアルキル基、より好ましくは4から18個の間の炭素原子(約6から14個の炭素原子など)である。Rは最も好ましくはCHである。Xは最も好ましくは水素またはアンモニウムイオンである。リンカー(R)が不在の場合は、カルジオリピンの一般的構造が開示される。
【0015】
本発明は式IV
【0016】
【化11】

のアルコールを、活性化剤の存在下で1つまたは複数のホスホロアミダイト試薬および2−O−保護グリセリンまたは式Vのジオールと反応させることを含む、式I、IIまたはIIIのカルジオリピンまたはこれの類似体を調製する方法を提供する。式IVにおいて、R、R、R、Y、およびYは、上記で式I、IIまたはIIIに関して示した通りでよい。式Vにおいて、RおよびRは、上記で式IIIに関して示した通りでよい。本発明の方法によれば、活性化剤は反応を促進させることができるどの適当なピリジニウム塩であってもよい。かかるピリジニウム塩の例には、ピリジニウム塩酸塩、ピリジニウムトリフレート、酢酸ピリジニウム、クロロ酢酸ピリジニウム、ジクロロ酢酸ピリジニウム、トリクロロ酢酸ピリジニウムおよびトリフルオロ酢酸ピリジニウムが含まれる。本発明の方法によれば、カップリングホスホロアミダイトは式VIまたはVII
【0017】
【化12】

を有することができる。
【0018】
好ましい手順に従えば、本発明は式I、IIまたはIIIのカルジオリピンまたはこれの類似体を調製する方法を提供する。この方法は、2−O保護グリセリンまたはジオールを1つまたは複数のホスホトリエステルとピリジニウムトリブロマイドの存在下で反応させるステップを含む。好ましいホスホトリエステルは、式IVのアルコールの一般式VIIIのホスホロアミダイトとの活性化剤の存在下での反応によって製造することができる。
【0019】
【化13】

【0020】
式VI、VIIまたはVIII中のRはリン酸保護基、好ましくはメチル基、ベンジル基または2−シアノエチルもしくはシリル基である。適当な保護基の他の例には、エチル、シクロヘキシル、t−ブチルを含むアルキルホスフェート;2−シアノエチル、4−シアノ−2−ブテニル、2−(メチルジフェニルシリル)エチル、2−(トリフェニルシリル)エチルを含む2−置換エチルホスフェート;2,2,2−トリクロロエチル、2,2,2−トリブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチルを含むハロエチルホスフェート;4−クロロベンジル、フルオレニル−9−メチル、ジフェニルメチルを含むベンジルホスフェートおよびアミデートが含まれる。
【0021】
本発明の方法によれば、好ましい活性化剤は式IXを有するピリジニウムトリフルオロ酢酸塩である。ピリジニウムトリフルオロ酢酸塩は、安価、安定性、無毒、有機溶媒に高溶解性、より低酸性および1−H−テトラゾールよりも取り扱いが安全である。しかし、次だけには限定されないが、ピリジニウム塩酸塩、ピリジニウムトリフレート、酢酸ピリジニウム、クロロ酢酸ピリジニウム、ジクロロ酢酸ピリジニウムおよびトリクロロ酢酸ピリジニウムを含む他の任意の他のピリジニウム塩も使用することができることが企図されている。
【0022】
【化14】

【0023】
本発明によるカルジオリピンまたはこれの類似体の合成のための反応の一般的な順序を図1および2に例示する。本発明は、様々な脂肪酸鎖長を有するカルジオリピン1を調製するための、(a)光学的に純粋な1,2−二置換−sn−グリセリンIVを一般式VI(図1)またはVII(図2)の1つまたは複数のホスホロアミダイト試薬と反応させるステップと、(b)(a)の生成物2を2−O−保護グリセリンX(式X中のRはヒドロキシル保護基、好ましくはアルキル基など、またはシリル保護基である。)と塩素化された溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなど)中でカップリングさせ、続いてm−クロロペルオキシ安息香酸(m−CPBA)または過酸化水素またはtert−ブチルヒドロペルオキシド(t−BuOOH)を用いる酸化が保護されたカルジオリピン3の生成をもたらすステップとを含む、一般的方法を提供する。その後、保護されたカルジオリピンの脱保護に続くアンモニウム塩への転化がカルジオリピン1(アンモニウム塩)の生成をもたらす。合成方法のこの状況において好ましい活性化剤はトリフルオロ酢酸ピリジニウムである。
【0024】
光学的に純粋な1,2−二置換−sn−グリセリンIVとの反応のためには、例えばBrowne et al.の上記文献に記載されているものなどの、任意の適当なホスホロアミダイト試薬または方法でも使用することができる。適当なホスホロアミダイト試薬の例には、N,N−ジイソプロピルメチルホスホンアミジッククロリド(例えば、Bruzik et al.,Tetrahedron Lett.,36:2415−2418(1995)を参照されたい。)、(ベンジルオキシ)(N,N−ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィン(例えば、Prestwich et al.,J.Am.Chem.Soc.,113,1822−1825,(1991)を参照されたい。)、ベンジルオキシビス(ジイソプロピルアミノ)ホスフィン(例えば、Dreef et al.,Tetrahedron Lett.,29,6513−6516,(1988)を参照されたい。);2−シアノエチル−N,N,N,N−テトライソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Browne et al.,J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,653−657,(2000)を参照されたい。)、(2−シアノエチル)(N,N,−ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィン(例えば、Prestwich et al.J.Org.Chem.63,6511−6522,(1998)を参照されたい。)ジフルオレニルジイソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Watanabe et al.Tetrahedron Lett.38,7407−7410.(1997)を参照されたい。)、メチル−N,N,N,N−テトライソプロピルホスホロジアミダイト(例えば、Murakami et al.,J.Org.Chem.64,648−651(1999)を参照されたい。)、ジメチルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Watanabe et al.,Tetrahedron Lett.34,497−500(1993)を参照されたい。)、ジベンジルジイソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Watanabe et al.,Tetrahedron Lett.41、8509−8512(2000)を参照されたい。)、ジ−tert−ブチル−N,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Lindberg et al.,J.Org.Chem.67,194−199,(2002)を参照されたい。)、2−(ジフェニルメチルシリル)エチル−N,N,N,N−テトライソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Chevallier et al.,Org.Lett.2,1859−1861,(2000)を参照されたい。)、(N−トリフルオロアセチルアミノ)ブチルおよび(N−トリフルオロアセチルアミノ)ペンチル−N,N,N,N−テトライソプロピルホスホロアミダイト(例えば、Wilk et al.,J.Org.Chem.62,6712−6713,(1997)を参照されたい。)が含まれる。
【0025】
本発明の他の実施形態を図3に示す。この方法では、光学的に純粋な1,2−二置換−sn−グリセリンIVをホスホロアミダイトVIIIおよびトリフルオロ酢酸ピリジニウムを使用してホスホリル化し、ホスファイトトリエステル4を得ることができ、このトリエステルは任意の適当な2−O−保護グリセリンX、例えばベンジルオキシ1,3−プロパンジオールまたは2−レブリノイル−1,3−プロパンジオールなどとピリジニウムペルブロミドおよびホスホニウム塩法を使用してカップリングさせて(Watanabe et al.の上記文献を参照されたい。)保護されたカルジオリピン3を得ることができる。合成方法のこの状況において好ましいカップリング試薬はジベンジルジイソプロピルホスホロアミダイトであり、好ましい活性化剤はトリフルオロ酢酸ピリジニウムである。
【0026】
本発明の最も好ましい方法を図4に示す。この図には1,1’ ,2,2’−テトラミリストイルカルジオリピン(C14:0)11の合成スキームの概要を示す。この合成は光学的に純粋な1,2−ジミリストイル−sn−グリセリン5のN,N−ジイソプロピルメチルホスホロアミダイトクロリド6とのN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)などの塩基の存在下におけるジクロロメタンなどの適当な溶媒中での反応を含む。得られた中間体7は、in situでベンジルオキシ1,3−プロパンジオール8とトリフルオロ酢酸ピリジニウムの存在下における塩素化された溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルムなど)中でカップリングさせ、続いてm−クロロペルオキシ安息香酸(m−CPBA)または過酸化水素を用いて酸化することにより保護されたカルジオリピン9の生成に至る。次いで保護されている前駆体9のメチル基を、ヨウ化ナトリウムを用いる反応によって除去するとカルジオリピンのナトリウム塩が生成し、次いでこのカルジオリピンのナトリウム塩を希HClに続いて希水酸化アンモニウムを用いる処理によってアンモニウム塩10に転化させる。接触水素化によるベンジル保護基の脱保護はテトラミリストイルカルジオリピン11(アンモニウム塩)をもたらす。
【0027】
本発明の中間体および最終生成物は、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、メタノールおよびアセトンなどの一般的な有機溶媒の単一物または混合物を使用してカラムクロマトグラフィーによって精製することができる。
【0028】
本発明において中間体および生成物の結晶化に使用することができる適当な溶媒には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素;メチレンクロリド、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどの塩素化された溶媒;アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコールなど;ケトン、例えば、アセトン、2−ブタノンなど、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、トルエンなどが含まれる。結晶化用の溶媒は単一溶媒または溶媒の混合物、例えば、ヘキサン−酢酸エチル、クロロホルム−アセトン、クロロホルム−メタノール、ジクロロメタン−メタノールなどを使用することができる。本発明において溶媒の混合物を使用する場合は、1つの溶媒と他の溶媒の比は、9:1から1:9、例えば8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9などである。
【0029】
本発明は中間体を一般的な溶媒を用いる結晶化によって得る好都合な方法をも提供し、それによって大掛かりなカラムクロマトグラフィー精製の必要性を排除する。最終の粗生成物はカラムクロマトグラフィーによって精製することができる。本発明の1つの目的は、少なくとも80%の純度を有する、例えば少なくとも90%純粋なまたは少なくとも95%純粋なまたは少なくとも98%純粋なまたは少なくとも99%純粋なまたは少なくとも100%純粋なカルジオリピンを調製する方法を提供することである。本発明のもう1つの目的は、カルジオリピンをコスト効率のよい仕方で調製する方法を提供することである。
【0030】
「アルキル」という用語は、飽和または不飽和で直鎖および分岐鎖の炭化水素部分を包含する。「置換アルキル」という用語は、ヒドロキシ、(低級アルキル基の)アルコキシ、(低級アルキル基の)メルカプト、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、アミド、イミド、イミノ、チオ、−C(O)H、アシル、オキシアシルカルボキシルなどから選択された1つまたは複数の置換基をさらに持っているアルキル基を含む。
【0031】
本発明の方法は、様々な長さおよび飽和の脂肪酸鎖を含むカルジオリピン種を調製するために使用することができる。リン脂質脂肪酸の一般的構造は、1つの炭化水素鎖および1つのカルボン酸基を含む。一般には、脂肪酸の炭化水素鎖の長さは約4個から約34個の炭素原子の範囲であるが、炭素鎖はより通常には約12個から24個の間の炭素原子である。一部の実施形態においては、炭化水素鎖は、例えば少なくとも約5個の炭素原子または少なくとも約10個の炭素原子または少なくとも約15個の炭素原子を含むことが望ましい。通常、脂肪酸の炭化水素の長さは約30個の炭素原子よりも短く、例えば約25個の炭素原子より短いまたは約20個の炭素原子より短くさえある。
【0032】
最も好ましくは、本発明の方法によって調製されるカルジオリピンは、脂肪酸鎖を含み(すなわち「短鎖」カルジオリピン)、本発明は短鎖カルジオリピンを提供する。短い脂肪酸鎖は約4個から約14個の間の炭素原子を含み、および約6個から約12個の間の炭素原子、例えば約8個から約10個の間の炭素原子を有することができる。あるいは、本発明の方法によって製造されるカルジオリピンは長鎖脂肪酸を含むことができる(すなわち「長鎖」カルジオリピン)。長鎖脂肪酸は、約22個から約30個の間の炭素原子、例えば約24個から約28個の間の炭素原子を含む。本発明の方法は短鎖または長鎖のカルジオリピン種の製造に排他的に限定されるものではない。実際に、中間的な長さの脂肪酸鎖を含有するカルジオリピンも本発明の方法によって調製することができることが企図されている。
【0033】
リン脂質の脂肪酸は通常、炭化水素鎖中の二重および/または三重結合(すなわち不飽和)の数によって分類される。飽和脂肪酸は二重または三重結合を含まず、鎖中のそれぞれの炭素は最大数の水素原子に結合している。脂肪酸の不飽和度は、炭化水素鎖中において存在する二重または三重結合の数によって決まる。これに関しては、一価不飽和脂肪酸は1つの二重結合を含有し、多価不飽和脂肪酸は2つ以上の二重結合を含有する(例えば、「オックスフォード生化学・分子生物学辞書(Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology)」,rev.ed.,A.D.Smith(ed.)Oxford University Press(2000)、および「細胞の分子生物学(Molecular Biology of the Cell)」,3rd ed.,B.A.Alberts(ed.),Garland Publishing,New York(1994)を参照されたい。)。本発明の方法によって調製されるカルジオリピンの脂肪酸鎖は、短くても長くても、飽和であることも不飽和であることもできる。
【0034】
記載した方法は様々な新規のカルジオリピン分子を調製するために使用することができる。例えば、これらの方法は、短い脂肪酸鎖や長い脂肪酸鎖を含有する純粋な形態のカルジオリピン変形体を調製するために使用することができる。好ましい脂肪酸は約CからC34、好ましくは約Cから約C24の間にわたり、とりわけテトラ酸(C4:0)、ペンタン酸(C5:0)、ヘキサン酸(C6:0)ヘプタン酸(C7:0)、オクタン酸(C8:0)、ノナン酸(C9:0)、デカン酸(C10:0)、ウンデカン酸(C11:0)、ドデカン酸(C12:0)、トリデカン酸(C13:0)、テトラデカン(ミリスチン)酸(C14:0)、ペンタデカン酸(C15:0)、ヘキサデカン(パルミチン)酸(C16:0)、ヘプタデカン酸(C17:0)、オクタデカン(ステアリン)酸(C18:0)、ノナデカン酸(C19:0)、エイコサン(アラキジン)酸(C20:0)、ヘンエイコサン酸(C21:0)、ドコサン(ベヘン)酸(C22:0)、トリコサン酸(C23:0)、テトラコサン酸(C24:0)、10−ウンデセン酸(C11:1)、11−ドデセン酸(C12:1)、12−トリデセン酸(C13:1)、ミリストオレイン酸(C14:1)、10−ペンタデセン酸(C15:1)、パルミトオレイン酸(C16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、エイコセン酸(C20:1)、エイコサジエン酸(C20:2)、エイコサトリエン酸(C20:3)、アラキドン酸(cis−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、およびcis−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸を含む。エーテル類似体についても、アルキル鎖はCからC34、好ましくは約Cから約C24の間にわたる。他の脂肪酸鎖もRおよび/またはR置換基として使用することができる。例には飽和脂肪酸、例えばエタン(または酢)酸、プロパン(またはプロピオン)酸、ブタン(または酪)酸、ヘキサコサン(またはセロチン)酸、オクタコサン(モンタン)酸、トリアコンタン(またはメリシン)酸、ドトリアコンタン(またはラッセル)酸、テトラトリアコンタン(またはゲダ)酸、ペンタトリアコンタン(またはセロプラスン)酸など;モノエチレン性不飽和脂肪酸、例えばtrans−2−ブテン(またはクロトン)酸、cis−2−ブテン(またはイソクロトン)酸、2−ヘキセン(またはイソヒドロソルビン)酸、4−デカン(またはオブツシル)酸、9−デカン(またはカプロレイン)酸、4−ドデセン(またはリンデル)酸、5−ドデセン(またはデンチセチン)酸、9−ドデセン酸(またはラウロレイン)酸、4−テトラデセン(またはツズ)酸、5−テトラデセン(またはフィセテリン)酸、6−オクタデセン(またはペトロセレン)酸、trans−9−オクタデセン(エライジン)酸、trans−11−オクタデセン(またはバクシン)酸、9−エイコセン(またはガドレイン)酸、11−エイコセン(またはゴンドイン)酸、11−ドコセン(またはセトレイン)酸、13−ドコセン(またはエルカ)酸、15−テトラコセン(またはネルボン)酸、17−ヘキサコセン(またはキシメン)酸、21−トリアコンテン(またはルメクエン)酸など;ジエン性不飽和脂肪酸、例えば2,4−ペンタジエン(またはβ−ビニルアクリル)酸、2,4−ヘキサジエン(またはソルビン)酸、2,4−デカジエン(またはスチリンギン)酸、2,4−ドデカジエン酸、9,12−ヘキサデカジエン酸、cis−9,cis−12−オクタデカジエン(またはα−リノール)酸、trans−9,trans−12−オクタデカジエン(またはリノレンエライジン)酸、trans−10,trans−12−オクタデカジエン酸、11,14−エイコサジエン酸、13,16−ドコサジエン酸、17,20−ヘキサコサジエン酸など;トリエン性不飽和脂肪酸、例えば6,10,14−ヘキサデカトリエン(またはヒラゴン)酸、7,10,13−ヘキサデカトリエン酸、cis−6,cis−9−cis−12−オクタデカトリエン(またはγ−リノール)酸、trans−8,trans−10−trans−12−オクタデカトリエン(またはβ−カレンディン)酸、cis−8,trans−10−cis−12−オクタデカトリエン酸、cis−9,cis−12−cis−15−オクタデカトリエン(またはα−リノレン)酸、trans−9,trans−12−trans−15−オクタデカトリエン(またはα−リノールエライジン)酸、cis−9,trans−11−trans−13−オクタデカトリエン(またはα−エレオステアリン)酸、trans−9,trans−11−trans−13−オクタデカトリエン(またはβ−エレオステアリン)酸、cis−9,trans−11−cis−13−オクタデカトリエン(またはプニカ)酸、5,8,11−エイコサトリエン酸、8,11,14−エイコサトリエン酸など;テトラエン性不飽和脂肪酸、例えば4,8,11,14−ヘキサデカテトラエン酸、6,9,12,15−ヘキサデカテトラエン酸、4,8,12,15−オクタデカテトラエン(モロクチン)酸、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、9,11,13,15−オクタデカテトラエン(またはα−またはβ−パリナリン)酸、9,12,15,18−オクタデカテトラエン酸、4,8,12,16−エイコサテトラエン酸、6,10,14,18−エイコサテトラエン酸、4,7,10,13−ドコサテトラエン酸、7,10,13,16−ドコサテトラエン酸、8,12,16,19−ドコサテトラエン酸など;ペンタ−およびヘキサエン性不飽和脂肪酸、例えば4,8,12,15,18−エイコサペンタエン(またはチムノドン)酸、4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸、4,8,12,15,19−ドコサペンタエン(またはクルパノドン)酸、7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸、4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸、4,8,12,15,18,21−テトラコサヘキサエン(またはニシン)酸など;分岐鎖脂肪酸、例えば3−メチルブタン(またはイソ吉草)酸、8−メチルドデカン酸、10−メチルウンデカン(またはイソラウリン)酸、11−メチルドデカン(またはイソウンデシル)酸、12−メチルトリデカン(またはイソミリスチン)酸、13−メチルテトラデカン(またはイソペンタデシル)酸、14−メチルペンタデカン(またはイソパルミチン)酸、15−メチルヘキサデカン酸、10−メチルヘプタデカン酸、16−メチルヘプタデカン(またはイソステアリン)酸、18−メチルノナデカン(またはイソアラキジン)酸、20−メチルヘンエイコサン(またはイソベヘン)酸、22−メチルトリコサン(またはイソリグノセリン)酸、24−メチルペンタコサン(またはイソセロチン)酸、26−メチルヘプタコサン(またはisomonatonic)酸、2,4,6−トリメチルオクタコサン(またはmycoceranicまたはmycoserosic)酸、2−メチル−cis−2−ブテン(アンゲリカ)酸、2−メチル−trans−2−ブテン(チグリン)酸、4−メチル−3−ペンテン(またはpyroterebic)酸などを含む。
【0035】
本明細書で使用する「ヒドロキシ保護基」という用語は、T.W.Greene and P.G.Wuts,「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」,3rd edition,John Wiley & Sons,New York(1999)によって開示されている一般に使用される保護基を指す。かかる保護基には、メチルエーテル、メトキシメチル、ベンジルオキシメチル、p−メトキシベンジルオキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニルエーテルを含む置換メチルエーテル;1−エトキシエチルのような置換エチルエーテル、1−メチル−1−ベンジルオキシエチル、アリル、プロパルギル;ベンジルおよびp−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、トリフェニルメチルを含む置換ベンジルエーテル;トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、ジフェニルメチルシリルを含むシリルエーテル;ホルメート、アセテート、クロロアセテート、ジクロロアセテート、トリクロロアセテート、ベンゾエート、レブリニレートおよびカーボネートを含むエステルが含まれる。
【0036】
本明細書で使用する「リン酸保護基」という用語は、T.W.Greene and P.G.Wuts,「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」,3rd edition,John Wiley & Sons,New York(1999)によって記載されている一般に使用される保護基を指す。かかる保護基には、メチル、エチル、シクロヘキシル、t−ブチルを含むアルキルホスフェート;2−シアノエチル、4−シアノ−2−ブテニル、2−(メチルジフェニルシリル)エチル、2−(トリメチルシリル)エチル、2−(トリフェニルシリル)エチルを含む2−置換エチルホスフェート;2,2,2−トリクロロエチル、2,2,2−トリブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチルを含むハロエチルホスフェート;4−クロロベンジル、フルオレニル−9−メチル、ジフェニルメチルを含むベンジルホスフェートおよびアミデートが含まれる。
【0037】
本明細書で記載しているカルジオリピン分子および本発明の方法によって製造されるカルジオリピンは脂質製剤中で使用することができる。本発明のカルジオリピンを含んでいる複合体、エマルジョンおよび他の製剤も本発明の範囲内である。本発明によるかかる製剤は任意の適当な技法によって調製することができる。リポソーム組成物、複合体、エマルジョンなどは、本発明のカルジオリピンに加えて、他の成分のうち安定剤、吸収促進剤、酸化防止剤、リン脂質、生分解性ポリマーおよび医薬的に活性な薬剤を含むことができる。一部の実施形態では、本発明の組成物、特にリポソーム組成物は、1つまたは複数の標的化剤、例えば炭水化物、タンパク質または抗体(またはその断片)もしくは細胞の受容体を識別するリガンドなどの特定の基質に結合する他のリガンドを含むことが好ましい。かかる剤(炭水化物または抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチドホルモン、細胞受容体に対する抗体などの受容体リガンドおよびこれらの混合物からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質など)の包含はリポソームが所定の組織または細胞種を標的とすることを促進することができる。
【0038】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するが、言うまでもなく、決してその範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例1】
【0039】
本実施例は、1,1’ ,2,2’−テトラミリストイルカルジオリピン11を調製する方法を実例によって説明する。化合物11
【0040】
【化15】

は、図4に概要を示す合成経路によって合成することができる。1,2−O−ミリストイル−sn−グリセリン5(148g、282.20mmol)および乾燥N,N−ジイソプロピルエチルアミン(59mL、338.8mmol)のCHCl(1.7L)中溶液に、N,N−ジイソプロピルメチルホスホンアミドクロリド6(59g、299mmol)を室温で30分間かけて滴加した。反応混合物を室温で2時間撹拌後、トリフルオロ酢酸ピリジニウム(65.6g、339.2mmol)を加えた。この反応混合物にCHCl(280mL)中の2−ベンジルオキシ−1,3−プロパンジオール8(25g、137.20mmol)を滴加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した。次いで反応混合物を5−10℃(内部温度)まで冷却し、35%過酸化水素溶液(35mL、424.8mmol)を、反応混合物の温度が10℃未満に保たれるように加えた。25℃まで温まったら混合物を分液ロートへ移して10%チオ硫酸ナトリウム溶液(340mL)、水(2×500mL)、食塩水(2×500mL)で洗浄した。有機相を真空濃縮して残留オイルを得た。粗製オイルをアセトニトリル(3.5L)中で30分間磨砕し、次いで冷凍庫(−20℃)中で24時間保管した。固体をコールドフィンガーフリット(10−20μm)付きガラスロート(ドライアイス/アセトンを用いて−30℃まで冷却)上で真空ろ過した。固体をフリット付きロートから4Lフラスコに移した。ヘプタン(2L)を加えて30分間磨砕した後、冷凍庫(−20℃)中で24時間保管した。固体をコールドフィンガーフリット(10−20μm)付きガラスロート(ドライアイス/アセトンを用いて−30℃まで冷却)上で真空ろ過した。固体をヘキサン中に溶解させることによって集めた。溶媒を除去すると2−O−ベンジル−1,3−ビス(1,2−O−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホリル)グリセリンジメチルエステル9の174gが無色のオイルとして得られた。R0.27(ヘキサン−酢酸エチル、容積比1:1)。
【0041】
2−ブタノン(1.74L)中の十分に保護されたカルジオリピン9(174g)の撹拌された溶液に、NaI(48.02g)を加えて反応混合物を1.5時間還流させ、および25℃まで冷却し、次いで−20℃で2時間冷却した。得られた白色沈殿をろ過し、冷たい(−20℃)アセトン(400mL)で洗浄した。これを酢酸エチル(1.6L)および0.5MのHCl(720mL)中に溶解し、室温で1時間撹拌することによって二ナトリウム塩を対応するアンモニウム塩に転化させた。有機層を分離し、HOで洗浄した。有機層を5MのNHOH(120mL)の添加によって中和した。撹拌は15分間続け、次いで冷凍庫に1時間保管した。固体をフリット(10−20μm)付きガラスロートを通して真空ろ過し、冷たい(−20℃)アセトン(400mL)で洗浄した。固体をヘキサン中に溶解させることによって集めた。溶媒を真空乾燥して2−O−ベンジル−1,3−ビス(1,2−O−ジミリストイル−sn−グリセリロ−3−ホスホリル)グリセリンジアンモニウム塩10の159gを白色固体として得た。R0.53(CHCl/MeOH/NHOH、容積比65/25/5)。2−O−ベンジル−1,3−ビス(1,2−O−ジミリストイル−sn−グリセリロ−3−ホスホリル)グリセリン二アンモニウム塩10(159.0g)を酢酸エチル(500mL)中に30℃で1時間溶解させた。溶液を真空下で0.2μmPTFE膜を通してろ過した。ろ液を2Lの水素化圧力容器中に移して酢酸エチル(500mL)で希釈した。10%Pd−C(64g)を加えて混合物を水素化装置中50psiで16時間撹拌した。沈殿した生成物および触媒を、セライト(865g)を入れてろ過し、ろ液を廃棄した。セライトケーキをクロロホルム中の50%メタノール(3×6L)で洗浄し、洗浄液を濃縮し、高真空乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラム(2.5kg)でまずCHCl:MeOH:NHOH(100:15:1、4L)で、次いでCHCl:MeOH:NHOH(65:15:1、23L)で溶出して精製した。純粋な生成物を含有する画分をプールし、0.2μmのPTFE膜を通してろ過した。溶媒を除去し、高真空乾燥して1,3−ビス(1,2−O−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホリル)グリセリン二アンモニウム塩(テトラミリストイルカルジオリピン)11の72g(全収率41%)を得た。TLC(CHCl/MeOH/NHOH 65:25:5)R=0.29;H NMR(500MHz,CDCl)δ 7.32(br s,NH)、5.26(m,2H,RCOOCH)、4.34−3.92(m,13H,RCOOCH,POCH,HOCH)、2.33(m,8H,−CHCOO−)、2.29(t,J=7.5,1H,CHOH)、1.58(m,8H,−CHCHCOO−)、1.30(br s,80H,CH)、0.88(t,J=6.5,12H,CH);FTIR(ATR)3231s、2918s、2850s、1738s、1467w、1378w、1203ms、1067s cm−1;ESI−MS、m/z(M−2NH2− 619.9、(M−2NH−RCOO) 1011.9、(M−2NH+H) 1240.2。
【0042】
本明細書で引用した出版物、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、あたかもそれぞれの参考文献が個別におよび具体的に参照により組み入れられることが示され、またこれの全体が本明細書に記載されたかのごとく同程度に参照により本明細書によって組み入れられる。
【0043】
本発明を記載する文脈における(特に添付の特許請求の範囲の文脈における)「a」および「an」および「the」という用語ならびに類似の指示語の使用は、本明細書において別の表示がされるかまたは文脈によって明らかに否定されるかしない限りは単数および複数の両方に及ぶものと解釈すべきである。「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」という用語は、別途に断りのない限り非限定的用語(すなわち「含むがこれに限定されない」)と解釈すべきである。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書において別途に示さない限りは、その範囲内に入るそれぞれの個々の値に個別に言及する簡略法として働くことを意図するに過ぎず、それぞれの個々の値はあたかも本明細書において個別に記載されたかのように本明細書に組み入れられる。本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書において別の指示があるかまたは文脈によって明らかに否定されるかしない限り、任意の適当な順序で行うことができる。本明細書で使用する任意および全ての例または例を示す言葉(例えば、「など、例えば(such as)」)の使用は単に本発明をより良く例示することが意図されており、別の特許請求がされない限り、本発明の範囲に制限を加えない。本明細書中のどの言葉も特許請求されていないいずれかの要素が本発明の実施に対して不可欠であることを示すものと解釈してはならない。
【0044】
本発明の好ましい実施形態は、本発明者らに知られている本発明を実施するための最良の形態を含めて本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態は、先の記載を読めば当業者には明らかとなりうる。本発明者らは、当業者はかかる変形を適切なものとして採用するものと考えており、さらに本発明者らは本発明が本明細書で詳細に記載した方法以外の方法で実施されることをも意図している。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲に記載の主題の全ての変形形態および等価形態を該当する法律によって認められる通りに包含する。さらに、全ての可能な変形形態における上記の要素の任意の組合せは、本明細書において別の指示があるかまたは文脈によって明らかに否定されるかしない限り本発明によって包含される。
【0045】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】カルジオリピンを合成するための一般的スキームの図である。
【図2】カルジオリピンを合成するための一般的な代替スキームの図である。
【図3】カルジオリピンを合成するための一般的な代替スキームの図である。
【図4】1,1’,2,2’−テトラミリストイルカルジオリピンを合成するための一般的スキームの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IV
【化1】

のアルコールを、1つまたは複数のホスホロアミダイト試薬および2−O−保護グリセリンまたは2−O−置換グリセリンと、活性化剤の存在下で反応させることを含む、
式I、IIまたはIII
【化2】

[式I、II、IIIまたはIV中の
およびYは、同一でありまたは異なり、−O−C(O)−、−O−、−S−または−NH−C(O)−であり、
およびRは、同一でありまたは異なり、H、CからC34までの飽和または不飽和のアルキル基であり、
は(CHであり、n=0−15であり、
は、水素、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ペプチド、ジペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、複素環、ヌクレオシド、ポリヌクレオチドであり、
は、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルキルオキシ、ポリアルキルオキシ、ペプチド、ジペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物を含むリンカーであり、
Xは無毒のカチオンである。]
のカルジオリピンまたはこれの類似体を調製する方法。
【請求項2】
カップリングホスホロアミダイトの少なくとも1つが、式VI
【化3】

を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カップリングホスホロアミダイトの少なくとも1つが、式VII
【化4】

を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
2−O保護グリセリンを1つまたは複数のホスホトリエステルと三臭化ピリジニウムの存在下で反応させることを含む、式I、IIまたはIIIのカルジオリピンまたはこれの類似体を調製する方法。
【請求項5】
ホスホトリエステルの1つまたは複数が、式IVのアルコールを一般式VIIIのホスホロアミダイトと活性化剤の存在下で反応させることによって製造される、請求項4に記載の方法。
【化5】

【請求項6】
活性化剤が、ピリジニウム塩酸塩、ピリジニウムトリフレート、酢酸ピリジニウム、クロロ酢酸ピリジニウム、ジクロロ酢酸ピリジニウム、トリクロロ酢酸ピリジニウムおよびトリフルオロ酢酸ピリジニウムからなる群から選択される、請求項1または5に記載の方法。
【請求項7】
好ましい活性化剤が、式IXを有するトリフルオロ酢酸ピリジニウムである、請求項1、5または6のいずれかに記載の方法。
【化6】

【請求項8】
式VI、VIIまたはVIII中のRが、メチル、ベンジル、エチル、シクロヘキシル、t−ブチルを含むアルキルホスフェート;2−シアノエチル、4−シアノ−2−ブテニル、2−(メチルジフェニルシリル)エチル、2−(トリメチルシリル)エチル、2−(トリフェニルシリル)エチルを含む2−置換エチルホスフェート;2,2,2−トリクロロエチル、2,2,2−トリブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチルを含むハロエチルホスフェート;4−クロロベンジル、フルオレニル−9−メチル、ジフェニルメチルを含むベンジルホスフェートおよびアミデートを含むリン酸保護基である、請求項2、4または5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
好ましいリン酸保護基が、メチル、ベンジル基またはシアノエチル基である、請求項2、3、5または8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
および/またはRの少なくとも1つが、2個から34個の間の炭素を有する飽和または不飽和のアルキル基である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
カルジオリピンが、4個から18個の間の炭素を有する短鎖脂肪酸を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
カルジオリピンが、6個から14個の間の炭素を有する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
カルジオリピンが14個から34個の間の炭素を有する長鎖脂肪酸を含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
カルジオリピンが、飽和および/または不飽和である、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれかに記載の方法によって調製される、カルジオリピンまたはカルジオリピン類似体。
【請求項16】
式5の1,2−ジミリストイル−sn−グリセリンを式6のホスホロアミダイト試薬および式8の2−O−保護グリセリンと活性化剤の存在下で反応させるステップ、これに続く保護基の除去を含む、式11の1,1’,2,2’−テトラミリストイルカルジオリピンを調製する方法。
【化7】

【請求項17】
活性化剤がトリフルオロ酢酸ピリジニウムである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
中間体および最終生成物が、結晶化および/またはカラムクロマトグラフィー技法によって精製される、請求項1、4または16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
結晶化および/またはカロムクロマトグラフィーが、一般的な有機溶媒の単一物または混合物を使用して行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
一般的な有機溶媒が、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、2−ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルおよびトルエンからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
カルジオリピンまたはカルジオリピン類似体を請求項1から20に記載の方法のいずれかによって調製するステップと、前記カルジオリピンまたはカルジオリピン類似体をリポソーム中に含めるステップとを含む、リポソームを調製する方法。
【請求項22】
請求項1から20のいずれかに記載の方法によって調製されたカルジオリピンまたはカルジオリピン類似体および活性薬剤を含むリポソーム組成物。
【請求項23】
請求項1から20に記載の方法のいずれかによってカルジオリピンまたはカルジオリピン類似体を調製するステップと、活性薬剤と複合させた前記カルジオリピンまたはカルジオリピン類似体をリポソーム中に含めるステップと、前記リポソームを、それを必要としている対象に投与するステップとを含む、ヒトの疾患または動物の疾患を治療する方法。
【請求項24】
請求項1から20に記載の方法のいずれかによってカルジオリピンまたはカルジオリピン類似体を調製するステップと、前記カルジオリピンまたはカルジオリピン類似体および活性薬剤をリポソーム中に含めるステップと、前記リポソームを細胞に送達するステップとを含む、活性薬剤を細胞に送達する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−527576(P2009−527576A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556473(P2008−556473)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/005038
【国際公開番号】WO2007/100808
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(508255388)ネオフアーム・インコーポレイテツド (1)
【Fターム(参考)】