説明

カルニチンの製造方法

【課題】不純物が低減された純度の高いカルニチンを製造する方法を提供する。
【解決手段】ジクロロプロパノールを酵素反応によりシアノ化及びアミド化した後、4級化し、加水分解を行うことにより得られるカルニチンの製造方法において、さらに、得られた加水分解物を、40Torr以下の圧力下で乾燥させる工程を含み、これにより、組成式C89NO3で示され、かつ、式(1)で表される構造を有する不純物が低減されたカルニチンを製造する方法。


(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルニチンの製造方法及び当該方法により製造されたカルニチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患治療剤、過脂肪質血症治療剤、静脈疾患治療剤等として注目されているL−カルニチンは、ビタミンBTとも言われ、生体内で脂肪酸の代謝に関係している重要な化合物である。
【0003】
従来のL−カルニチン製造方法としては、D−マンニトールを原料として製造する方法(特許文献1)、γ−ハロアセト酢酸エステルを原料として酵素により不斉還元することを特徴とする方法(特許文献2)、リパーゼを用いて光学選択的に(R)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを合成することを特徴とする方法(特許文献3)、γ−ブチロベタイン又はクロトノベタインから微生物によってL−カルニチンを製造する方法(特許文献4)、カルニチンアミドハライドをd−樟脳酸により光学分割してL−カルニチンに導く方法(特許文献5)等が知られている。
【0004】
従来の方法よりも副反応を抑制できる製造方法として、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを原料として、シアノ化反応、水和反応、4級アミノ化反応を経るカルニチンの製造方法が知られている(特許文献6)。この方法では、特に4級アミノ化反応時の副反応を大幅に抑制できる点で、他の製造方法よりも純度の高いカルニチンを得ることができる。
【0005】
しかしながら、カルニチンは医薬品、食品等に利用されるため、副反応により生成した不純物の製品中への残留は極力抑えなければならない。例えば、ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)では1000ppm以上含まれる未知不純物については構造決定をして明らかにすること、100ppm以上含まれる未知不純物については構造決定をするように努力するように定められている。
よって、不純物がより少ない、カルニチンが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−165352号公報
【特許文献2】特開昭59−118093号公報
【特許文献3】特開平02−27995号公報
【特許文献4】特開昭61−199793号公報
【特許文献5】特公昭45−9172号公報
【特許文献6】WO2008/056827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、不純物が低減された純度の高いカルニチンを得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、乾燥温度・時間・減圧度を規定する事により、カルニチンの不純物生成を低減することが出来ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、カルニチンの製造工程において副生成する、組成式C89NO3で示され、かつ式(1)で表される構造および/または式(2)で表わされる構造を有する不純物を、低減させる方法に関する。
【0010】
【化1】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0011】
【化2】

(式中、R4〜R6は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0012】
より具体的には、本発明は、(1)1,3−ジクロロ−2−プロパノールと、青酸または青酸塩とを、酵素触媒の存在下で反応させ、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する工程、(2)前記4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを酵素反応によりアミド化して4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを製造する工程、(3)前記4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを4級アミノ化する工程、(4)前記4級アミノ化された4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを加水分解する工程、を含む、カルニチンの製造方法において、さらに、(5)工程(4)により得られた加水分解物を、40Torr以下の圧力下で乾燥させる工程を含み、これにより、組成式C89NO3で示され、かつ、式(1)で表される構造および/または式(2)で表わされる構造を有する不純物が低減されたカルニチンを製造する方法である。
【0013】
【化3】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0014】
【化4】

(式中、R4〜R6は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0015】
また、本発明は、上記工程(5)において、50〜90℃の温度で乾燥させることを特徴とする上記の方法である。
【0016】
また、本発明は、上記工程(5)において、1〜31時間乾燥させることを特徴とする上記の方法である。
【0017】
また、本発明は、上記工程(5)において、70〜90℃の温度で、2時間以上11時間未満乾燥させることを特徴とする上記の方法である。
【0018】
また、本発明は、上記工程(5)において、50〜70℃の温度で、2時間以上31時間未満乾燥させることを特徴とする上記の方法である。
【0019】
また、本発明は、上記工程(5)において、60℃の温度で、21時間乾燥させることを特徴とする上記の方法である。
【0020】
また、本発明は、上記工程(5)において、80℃の温度で、1Torrの圧力下で、8時間乾燥させることを特徴とする、上記の方法である。
【0021】
また、本発明は、カルニチンおよび不純物を含む組成物であって、上記不純物は、組成式C89NO3で示され、かつ、式(1)で表される構造および/または式(2)で表わされる構造を有し、
【0022】
【化5】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0023】
【化6】

(式中、R4〜R6は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
上記カルニチンの総量に対して上記不純物の含有量が100ppm以下である、上記組成物である。
【0024】
また、本発明は、上記カルニチンの総量に対して上記不純物の含有量が1〜100ppmである上記の組成物である。
【0025】
また、本発明は、上記組成物が、カルニチンおよび上記不純物のみからなる組成物である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、不純物が低減されたカルニチンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明により低減される不純物を示すNMRスペクトルである(図中星印は、不純物のピークを表す)。なお、不純物は、HPLCにおいて、不純物と予測されるピーク部分のサンプルを分取し、NMR測定を行った。この際の、面積値および二次元NMRの分析値より、図中の星印が、不純物のピークを示すスペクトルであると特定した。
【0028】
【図2】「HPLC条件2」による不純物の測定例を示すグラフである(図中矢印は、不純物のピークを表す)。なお、不純物は、HPLCにおいて、不純物と予測されるピーク部分のサンプルを分取し、NMR測定を行った。この際の、面積値および二次元NMRの分析値より、分取したピークが不純物のピークであると特定した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
(1)カルニチン
本発明の対象となるカルニチンとしては、特に制限はなく、いずれのカルニチンを用いることもできる。カルニチンの光学活性の種類は、特に限定されず、例えば、光学的に純粋なカルニチン、ラセミ体のカルニチン、光学活性に偏りがあるカルニチンを使用することができる。なかでも、L−カルニチンを好ましく用いることができる。
【0031】
本発明の対象となるカルニチンとしては、以下の製造方法で調製されたカルニチンを使用することができる。すなわち、ジクロロプロパノールを酵素反応によりシアノ化及びアミド化した後、4級化し、加水分解等を行うことにより得られるL−カルニチンを用いることができる(特許文献6参照)。
【0032】
より具体的には、1,3−ジクロロ−2−プロパノールと、青酸または青酸塩とを、ハロヒドリンエポキシターゼなどの酵素触媒の存在下で反応させ、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造し、得られた4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルをニトリルヒドラターゼなどの酵素触媒の存在下でアミド化して4−クロロ−3−ヒドロキシブタンアミドを製造する。そして、得られた4−クロロ−3−ヒドロキシブタンアミドをトリメチルアミンを用いて4級アミノ化し、これをNaOHなどを用いて加水分解することにより、カルニチンを製造する。
【0033】
使用するカルニチンの状態としては、特に限定されるものではなく、結晶状のもの、溶液に溶解されているものなどを、使用することができる。カルニチンの溶液としては、合成直後のカルニチン水溶液の他、当該溶液をイオン交換カラム、電気透析等の精製工程を経たものも使用することができる。また、カルニチン水溶液から溶媒置換を行って得られたカルニチン溶液も使用可能である。
【0034】
上記の製造方法で得られるカルニチンには、カルニチンの他に以下に記載する不純物が含まれる場合があり、本発明ではこの不純物を低減することができる。
【0035】
(2)不純物
本発明において低減の対象となる不純物は、下記の組成式、分子量、式(1)で表される構造および/または式(2)で表わされる構造を有する。
組成式 C89NO3
分子量 167.08
【0036】
【化7】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0037】
【化8】

(式中、R4〜R6は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【0038】
これらの不純物としては、例えば、上記(1)に記載の方法(特許文献6に記載の方法)によりカルニチンを製造した場合、不純物として生成する可能性のある化合物である(図1参照)。
【0039】
これらの不純物は、対象となるカルニチン中に1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0040】
(3)カルニチン中の不純物の低減
(3−1)減圧度
本発明において、上記の不純物を含むカルニチンの乾燥時の圧力は40Torr以下であり、8Torr以下がより好ましい。圧力が40Torrを超えると上記の不純物が充分に低減されず、また、溶媒の除去が不充分となり、溶媒が残留する場合がある。
【0041】
(3−2)乾燥温度
本発明において、上記の不純物を含むカルニチンの乾燥温度は50℃〜90℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。乾燥温度が90℃を超えると上記の不純物が充分に低減されない場合がある。また、温度が50℃未満では溶媒の除去が不充分となり、大量に溶媒が残留してしまう場合がある。
【0042】
(3−3)乾燥時間
本発明において、上記の不純物を含むカルニチンの乾燥時間は1〜30時間が好ましい。そして、乾燥温度が70℃以上の場合は、乾燥時間は11時間未満が好ましく、8時間以下がより好ましい。乾燥温度が70℃未満の場合は、乾燥時間は30時間以下が好ましく、21時間以下がより好ましい。乾燥時間が長くなると、上記の不純物が充分に低減されない場合がある。
【0043】
また、本発明では、上記の(3−1)、(3−2)、(3−3)の各条件を組み合わせて用いることも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に記載するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特段の断りがない限り、「%」は、「質量%」を表すものとする。
【0045】
以下の実施例において、表1〜6の条件に従い、上記の不純物の分析・定量及び残留溶媒の確認を行った。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
また、発明により低減される不純物を示すNMRスペクトルは、以下の条件で測定した。
【0052】
【表6】

【0053】
<実施例1>乾燥温度の検討
[L-カルニチンの合成]
【0054】
(1)1,3−ジクロロ−2−プロパノールとHCNからの4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの合成
pH電極,pHコントローラーにより制御されたアルカリ投入管を装着し,攪拌器およびジャケット付きの1m3 のタンクに水637.8kg,HCN22.2kgを入れ,30%NaOH3.3kgでpH7.5に調整した。1,3−ジクロロ−2−プロパノール50.0kgを入れ均一になるまで攪拌した。
ヒドロキシエポキシターゼ活性を持つ菌体縣濁液100.0kgを加え,20℃で反応を開始した。系内のpH7.5〜7.6に維持するように30%NaOHを投入するようにpHコントローラーを設定し,投入されてNaOHとほぼ等モルの割合で1,3−ジクロロ−2−プロパノールとHCNを追加してゆくことで系内の1,3−ジクロロ−2−プロパノール濃度を0.5mol/kgを超えないよう,また,系内のシアンイオン濃度を1.1mol/kgを超えないようにした。
23時間後,4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを0.753mol/kg蓄積することができ,その光学純度は94.8%e.e.(R)−体過剰であった。反応により消費された1,3−ジクロロ−2−プロパノールからの収率は96.3%であった。
この反応液を塩酸でpH5.0に調節し,60℃,140torrで減圧して11時間蒸留し,未反応のHCN,1,3−ジクロロ−2−プロパノールを除去し,反応系内のHCNを硝酸銀で滴定し,1ppm以下であることを確認した。このときの液の組成は4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル 17.0%,Di−CN 1.5%,水 81.5%であった。
【0055】
(2)4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの合成
(培養及び反応用菌体液の調整方法)
二トリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodchchrous)J−1(FERM BP−1478)を30L溶ジャーファーメーター(高杉製作所社製)にてグリコース2%,尿素1%,ペプトン0.5%,酵母エキス0.3%,塩化コバルト0.05%を含む,20Lの培地(pH7.0)に植菌し,温度30℃で好気的に60時間培養した。上記の方法により培養した菌体を遠心分離により集菌し,50mMリン酸緩衝液(pH7.7)にて同量で2回洗浄後,縣濁し,反応用菌体液とした。
(4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの合成)
攪拌器およびジャケット付きの1m3のタンクに,(1)で合成した4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル水溶液500kgを投入し,NaOH水溶液で中和してpH7.06とした。次いで,J−1菌6.0kgを滴下し反応温度2℃で反応を開始した。4時間に−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの転化率は100%に達し,この時の反応液の組成は,4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド13.0%,Di−CN 0.3%,J−1菌0.1%,水 86.6%であった。
【0056】
(3)4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの4級アミノ化反応
(2)で合成した4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミド水溶液に30%トリメチルアミン水溶液を114.0kg加え,30℃で反応を開始した。4時間後に4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドの転化率は100%に達し,この時の反応液の組成は,塩化カルニチンアミド 13.9%,Di−CN 0.2%,J−1菌0.1%,水 85.8%であった。
【0057】
(4)pH調整,活性炭処理,濾過
(3)で得られた粗塩化カルニチンアミド水溶液を,塩酸水溶液で中和し,活性炭6.0kgを添加し,1時間攪拌後,遠心分離機により活性炭を分離し,塩化カルニチンアミド 14.7%,Di−CN 0.3%,HCAm 0.4%,水 84.6%の組成の水溶液を610.0kg得た。
ここで得た水溶液を,塩化カルニチンアミド濃度が7.63%になるように希釈した。
【0058】
(5)アミド膜精製
(4)で得られた粗塩化カルニチンアミド水溶液20kgを電気透析装置の脱塩側貯留槽に入れ、次いで、濃縮水として純水60kgを濃縮側貯留槽に入れた。脱塩槽の入口圧力を15kPa、濃縮槽の入口圧力を45kPaとして、電圧60Vで電気透析を126分間行った。その結果、塩化カルニチンアミド7.63%、Di−CN0.12%、HCAm0.22%の濃縮液26.1kgを回収した(脱塩液53.9kg)。
【0059】
(6)加水分解、中和
得られた精製塩化カルニチンアミド水溶液26.1kgに25%水酸化ナトリウム水溶液1.82kgを添加し、30℃で10時間加水分解反応を行った。そして、前述のHPLC分析条件3により、塩化カルニチンアミドのピークの消失が確認できた時点を転化率が100%に達したものとした。加水分解終了後、反応液を減圧下(8kPa)45℃で60%まで濃縮後、35%塩酸1.78kgで中和した。その結果、カルニチン4.95%、NaCl7.9%、Di−CN140ppm、HCAm216ppmの粗カルニチン水溶液18.55kgを得た。
【0060】
(7)脱塩
得られた粗カルニチン水溶液18.55kgを電気透析装置の脱塩側貯留槽に入れ、純水17.0kgを濃縮側貯留槽に入れて、電圧10Vで電気透析を25分間行った。脱塩液としてカルニチン7.81%、NaCl0.01%、Di−CN1.1ppm、HCAm3.5ppmの精製カルニチン水溶液を回収した。ここで得た水溶液を,60℃でカルニチン濃度が50%になるように濃縮した。
【0061】
(8)粗晶
(7)で得られた濃縮液に混合物:水及びn−ブタノールが1:5となるように、n−ブタノールを添加した。50℃にて減圧下で濃縮したところ、結晶が発生した。その時の溶媒比は水:n−ブタノールが3:100であった。
さらに50℃で減圧を続け、n−ブタノールを溜出させた。ブタノールを含む溶液中の水の濃度が0.2%となるまで濃縮したのち、液温が20℃となるまで冷却した。得られた溶液から濾過により結晶と溶液を分離したところ、水:ブタノール混合溶液を26%含有したL−カルニチンの結晶が17.1g得られた。
【0062】
(9)精晶
(8)で得られた結晶11.0gに、メタノールを結晶:メタノールが1:1となるように添加し、60℃で結晶を溶解させた。その後、20℃まで徐々に冷却し結晶を発生させ、次いでn−ブタノールをメタノール:n−ブタノールが1:3となるまでゆっくり添加した。得られた結晶溶液を45℃に加熱しながら減圧下で濃縮した後、濾過により結晶と溶液を分離したところ、メタノール:ブタノール混合溶液を20%含有したL−カルニチンの結晶が6.6g得られた。
【0063】
(10)乾燥
(9)で得られた湿結晶5gを40Torr、6時間で下記の温度条件を変えて乾燥させた。HPLC分析条件2で分析したところ、下記の不純物検出結果が得られた。なお、100ppmのカルニチン面積値が25ppbのメサコン酸面積値と等しいことから、メサコン酸の面積値を持って不純物の対カルニチン濃度を算出した。
【0064】
【表7】

【0065】
<実施例2>乾燥時間の検討
実施例1と同様のカルニチン湿結晶5gを、80℃、1Torr下で加熱しながら経時的にサンプリングした。HPLC分析条件1で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0066】
【表8】

【0067】
<実施例3>乾燥時の減圧度の検討
実施例1と同様のカルニチン湿結晶5gを、80℃、8時間、1Torrで乾燥させた。HPLC分析条件1で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0068】
【表9】

【0069】
<実施例4>温度と時間の検討
実施例1と同様のカルニチン湿結晶5gを、8Torrの圧力下、60℃で乾燥させて、経時的にサンプリングした。
【0070】
HPLC分析条件2で分析したところ、下記の不純物検出結果が得られた。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0071】
【表10】

【0072】
<実施例5>温度と減圧度の検討
実施例1と同様のカルニチン湿結晶5gを、21時間、60℃で減圧条件を変えて乾燥させた。
【0073】
HPLC分析条件2で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0074】
【表11】

【0075】
<比較例1>
実施例1と同様のカルニチン湿結晶5gを、80℃、31時間、60Torrで乾燥させた。HPLC分析条件1で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。
【0076】
【表12】

【0077】
<比較例2>乾燥時間の検討
実施例2と同様のカルニチン湿結晶5gを、80℃、1Torrで乾燥させて11時間後にサンプリングした。HPLC分析条件1で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0078】
【表13】

【0079】
<比較例3>乾燥時の減圧度の検討
実施例3と同様のカルニチン湿結晶5gを、80℃、8時間、40Torrで乾燥させた。HPLC分析条件1で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0080】
【表14】

【0081】
また、(3)のHS−GC分析条件で残留溶媒を測定したところ、320ppmであった。
【0082】
<比較例4>温度と時間の検討
実施例4と同様のカルニチン湿結晶5gを、8Torrの圧力下、80℃で乾燥させて経時的にサンプリングした。
HPLC分析条件2で分析したところ、下記の不純物検出結果が得られた。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0083】
【表15】

【0084】
<比較例5>温度と減圧度の検討
実施例1と同様のカルニチン湿結晶5gを、21時間、80℃で減圧条件を変えて乾燥させた。
HPLC分析条件2で分析したところ、下記の値の不純物が検出された。なお、不純物の対カルニチン濃度は100ppmのカルニチン相当面積値から算出した値である。
【0085】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)1,3−ジクロロ−2−プロパノールと、青酸または青酸塩とを、酵素触媒の存在下で反応させ、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する工程、
(2)前記4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを酵素反応によりアミド化して4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを製造する工程、
(3)前記4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを4級アミノ化する工程、
(4)前記4級アミノ化された4−クロロ−3−ヒドロキシブチルアミドを加水分解する工程、
を含む、カルニチンの製造方法において、さらに、
(5)工程(4)により得られた加水分解物を、40Torr以下の圧力下で乾燥させる工程を含み、
これにより、組成式C89NO3で示され、かつ、式(1)で表される構造および/または式(2)で表わされる構造を有する不純物が低減されたカルニチンを製造する方法。
【化1】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【化2】

(式中、R4〜R6は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【請求項2】
前記工程(5)において、50〜90℃の温度で乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(5)において、1〜31時間乾燥させることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(5)において、70〜90℃の温度で、2時間以上11時間未満乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(5)において、50〜70℃の温度で、2時間以上31時間未満乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(5)において、60℃の温度で、21時間乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(5)において、80℃の温度で、1Torrの圧力下で、8時間乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カルニチンおよび不純物を含む組成物であって、
前記不純物は、組成式C89NO3で示され、かつ、式(1)で表される構造および/または式(2)で表わされる構造を有し、
【化3】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
【化4】

(式中、R4〜R6は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素原子数1〜5の炭化水素基、窒素、または酸素を表す。)
前記カルニチンの総量に対して前記不純物の含有量が100ppm以下である、前記組成物。
【請求項9】
前記カルニチンの総量に対して前記不純物の含有量が1〜100ppmである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、カルニチンおよび前記不純物のみからなる、請求項8または9に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193141(P2012−193141A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57601(P2011−57601)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】