説明

カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類、及び、その製造方法

【課題】良好な重合防止効果があり、かつ良好な生産性を達成でき、また着色を充分に低減させることが可能であり、カルバゾール基に起因する優れた特性が要求される各種ポリマー製品の原料として用いられるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を好適に製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】カルバゾール基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程によって、1分子内にカルバゾール基と(メタ)アクリロイル基とを有するカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造する方法であって、上記製造方法は、反応工程を芳香族アミン系化合物の存在下で行うことを特徴とするカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類、及び、その製造方法に関する。より詳しくは、カルバゾール基に起因して優れた特性を発揮するポリマー製品の原料等として有用なカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、カルバゾール基といった特徴的な有機基を持った重合性単量体として有用なものであり、この単量体から得られるポリマー及びそれを含む化学製品は、導電性、高屈折率、光増感作用等の優れた特性を発揮することができる。このようなカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を工業的に製造するに際しては、通常では、カルバゾール基及び反応性官能基を有する化合物と重合性二重結合及び反応性官能基を有する化合物とを用い、それぞれの官能基同士を反応させて目的生成物を得ることになる。この場合、水酸基とカルボキシル基による脱水エステル化やエステル交換が一般的であり、適当な脱水触媒やエステル交換触媒を用いて反応を進行させることができる。
【0003】
従来のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法に関し、N−エチロールカルバゾールとアクリル酸とを通常のエステル化反応に付すことによってβ−N−カルバゾリルエチル(メタ)アクリレートを製造することが開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。エステル化反応は、酸類、特に少量のパラトルエンスルホン酸を触媒として適当な溶媒中脱水しながら行い、また、(メタ)アクリル酸の安定剤として少量のハイドロキノンを添加するのが好ましいことが示されている。
【0004】
また少なくとも二つの芳香環に結合している三級アミノ基を側鎖に有するメタクリル酸エステル類に基づく構成単位を特定量含有し、数平均分子量等が特定された立体制御型メタクリル系重合体が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。特定の有機金属触媒の存在下に、メタクリル酸エステル類を含むメタクリル系単量体を重合することにより、メタクリル系シンジオタクチック重合体やメタクリル系アイソタクチック重合体を製造することになる。この文献に示された実施例においては、カルバゾイルプロピルメタクリレート等の合成が特定のカルバゾールアルコールとメタクロイルクロリドとを反応させることにより行われている。
【0005】
更に、一対の電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって、発光層がりん光発光材料と、ホール移動度及び最低励起三重項エネルギー準位が特定されたホストポリマーとを含有する有機電界発光素子が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。ホストポリマーにおいて、ホール輸送を担うクロモフォアの骨格としてカルバゾールが用いられている。また、その製法の具体例として、9−エトキシカルバゾールと塩化アクリロイルとを反応させる方法が示されている。
【特許文献1】特開昭53−116369号公報(第1、2頁)
【特許文献2】特開昭54−3061号公報(第1、2頁)
【特許文献3】特開2003−321516号公報(第2、6−10頁)
【特許文献4】特開2005−285381号公報(第2、4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の技術において、β−N−カルバゾリルエチル(メタ)アクリレートの製造方法は、実験室的な製法であり、工業的製造を行うには生産効率が悪く、適当ではない。すなわち、このような製造方法は、反応温度が高くなることを防止するために多量の溶媒を使用し、脱水しながら反応を進行させるものであり、原料アルコールに対して質量比で約6〜8倍の溶媒を用いるものであった。このように多量の溶媒を用いる方法は、工業的製造において生産コストや設備面で有利なものといえるものではない。
このような方法において溶媒量を減じることが考えられるが、単純に溶媒量を減じると、溶媒による反応熱の吸収作用等が充分ではなくなり、反応温度が高くなり、それにともない重合性二重結合を有する原料や生成物が著しく重合しやすくなる。このように原料や生成物が重合しやすくなるのは、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造に特有のことであり、カルバゾール基が悪影響を及ぼしているものと考えられる。なお、溶媒量を減じると、通常では溶媒の蒸留(還流脱水)を維持するために反応系の温度を高くすることが好ましいといえる。
【0007】
したがって、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を工業的に製造するに際しては、原料及び生成物が重合性二重結合を有し、カルバゾール基が重合性に悪影響を与えることから、これらが製造工程において重合することを防止しながら反応等を進めることが必要となる。従来の技術では、(メタ)アクリル酸の安定剤として少量のハイドロキノンを添加するのが好ましいことが示されているが、ハイドロキノン等の安定剤、重合防止剤を使用しても、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造においては、重合防止効果が薄く、生産性が充分には向上しない。
また従来の技術における製法によれば、得られる生成物単量体の着色が大きくなり、ポリマー製品の原料として好適なものとならず、この点においても工夫の余地があった。着色が大きくなる原因としては、カルバゾール基の変質によるものであると考えられる。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、カルバゾール基に影響を受けていると考えられる製造工程中の重合を防止し、特に、少量の溶媒量であったり反応温度が高かったりしても重合を充分に防止することができ、工業的生産において優れた生産効率を達成することができ、しかも着色が低減されたものとすることによって、カルバゾール基に起因する優れた特性が要求される各種ポリマー製品等の原料として好適なものとすることができるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造する方法、及び、当該製造方法により得られるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法について種々検討したところ、カルバゾール基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程によってカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造するに際し、カルバゾール基の影響により原料や生成物が著しく重合しやすくなっていること、これを充分に防止することが生産効率や製品品質において重要であることが判った。
そして、当該製造方法における重合防止剤を従来の技術とは異なる特定のものとすると、製造工程において著しく重合しやすくなっていることを防止し、しかも、少量の溶媒量であったり反応温度が高かったりしても際立った重合防止効果が発揮されることを見いだしたものである。少量の溶媒量を用いる場合でも、また、溶媒量を少量とすること等に起因して反応温度が高くなり、より重合しやすい状態となった場合でも製造工程中の重合を充分に防止できれば、工業的な生産において有利なものとすることができる。ここにも本発明の技術的意義があるといえる。更に、上記のように重合防止剤を特定すれば、着色が低減されたものとすることができ、製品品質を向上することができる。
このように、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法において、特定の重合防止剤、すなわち、芳香族アミン系化合物を用いることによって、カルバゾール基に起因した製造工程及び製造された製品品質の不具合を解消することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、カルバゾール基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程によって、1分子内にカルバゾール基と(メタ)アクリロイル基とを有するカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造する方法であって、上記製造方法は、反応工程を芳香族アミン系化合物の存在下で行うカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法である。
本発明はまた、上述した製造方法により得られるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法は、カルバゾール基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程を芳香族アミン系化合物の存在下で行うものである。これによって、反応中や反応後における重合防止効果を向上させることができる。例えば、反応工程における重合防止だけでなく、精製工程や製造後の保存工程においても、原料や生成物に対する重合防止効果を発揮することができるものである。
また、得られる生成物単量体の着色を充分に低減させることができる。これは、芳香族アミン系化合物の存在下で反応工程を行うことにより、芳香族アミン系化合物の化学的な特性に起因してカルバゾール基の変質が充分に抑制されるためであると考えられる。
本発明において、重合防止剤の添加時期としては、本発明の効果が発揮される限り適宜選択すればよいが、反応前に使用する重合防止剤全量を反応原料の反応容器への投入と同様な時期に添加することが好ましい。
【0012】
上記芳香族アミン系化合物は、分子内に芳香環を有するアミン又はその誘導体であり、カルバゾール基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程において重合防止剤としての作用を発揮するものであればよい。本発明においては、芳香族アミン系化合物を製造工程における重合防止剤として用いることによって、カルバゾール基による製造工程における重合への悪影響を抑えることができる。
中でも、分子内に芳香環を有する第二級アミン、分子内に芳香環を有する第三級アミン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、分子内に芳香環を有する第二級アミン及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは、下記一般式(1);
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又は、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアリール基を表す。RとRとは、結合してアルキレン基を形成していてもよい。)で表される化合物、又は、下記一般式(2);
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を表す。)で表される化合物である。
例えば、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N´−ジナフチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類;フェノチアジン等のフェノチアジン類;オクチル化ジフェニルアミン(例えば、ノンフレックスOD−3〔商品名〕、精工化学社製)、4,4´−ビス(α,α´−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(例えば、ノンフレックスDCD〔商品名〕、精工化学社製)等のジフェニルアミン類等が好適であり、これらをそれぞれ単独で用いたり、二種以上を混合して用いることができる。中でも、フェニレンジアミン類及び/又はフェノチアジン類がより好ましい。更に好ましくは、フェノチアジン類である。特に好ましくは、フェノチアジンである。
【0017】
上記芳香族アミン系化合物の含有量としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に対して、100〜100000ppmであることが好ましい。100ppm未満であると、本発明の反応工程中及び反応工程後に重合反応を充分に防止することができないおそれがあり、100000ppmを超えると、本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類から重合体を得た際に、着色により製品品質が損なわれるおそれがある。
より好ましい下限は、200ppmであり、更に好ましくは、500ppmである。また、より好ましい上限は、50000ppmであり、更に好ましい上限は、10000ppmである。
【0018】
本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法における上記反応工程は、更にキノン系化合物の存在下で行うことが好ましい。
本発明の製造方法においては、芳香族アミン系化合物とキノン系化合物とを組み合わせて使用することで、本発明の効果が特に顕著に発揮され、特に、少量の溶剤量であっても高温下での反応であっても製造工程における重合を充分に抑制して反応を進行させ、目的物を得ることができる。この形態によって、例えば後述するように、従来の溶剤量(カルバゾール基を有する化合物に対して質量比で約6〜8倍の溶媒)の5分の1から20分の1で重合を充分に抑えて反応を進行させることができ、特に好ましい形態としては、従来の10分の1以下の量で製造が可能となる。
なお、反応工程においてキノン系化合物を全く使わないとすれば、そもそも原料単量体である(メタ)アクリル酸エステル類に安定剤としてキノン系化合物が入っているため、工業的に実施することが現状では難しいといえる。一般的には、(メタ)アクリル酸エステル類等の原料単量体には、100ppm程度のキノン系化合物が含まれている。
このことから、上述した芳香族アミン系化合物とキノン系化合物とを組み合わせて使用する形態においては、キノン系化合物として、(1)原料単量体に元々含まれているキノン系化合物のみを使用する形態と、(2)原料単量体に元々含まれているキノン系化合物に加えて更にキノン系化合物を添加する形態とがあるということになる。
上記(1)原料単量体に元々含まれているキノン系化合物のみを使用する形態においては、一般的にキノン系化合物の量が少ないため、当該キノン系化合物は主として原料単量体に対する安定剤としての作用を発揮するものと考えられる。したがって、芳香族アミン系化合物とキノン系化合物とを組み合わせて使用する場合において、キノン系化合物による重合防止の作用効果を発揮させるためには上記(2)更にキノン系化合物を添加する形態によることが好ましいといえる。工業的には、上述のように(メタ)アクリル酸エステル類にキノン系化合物が元々含まれているのが通常であることから、このキノン系化合物を少しでも利用しつつ、芳香族アミン系化合物による作用効果とともに更にキノン系化合物の作用効果の発現を期待するという観点から、上記(2)更にキノン系化合物を添加する形態が好適な実施形態であるといえる。
【0019】
上記キノン系化合物としては、本発明の技術分野において一般に重合防止剤として作用すると認められるキノン及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であればよい。例えば、ハイドロキノン系化合物、ベンゾキノン系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。中でも、ハイドロキノン系化合物が好ましい。ハイドロキノン系化合物としては、下記一般式(3);
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、Rは、同一又は異なって、炭素数1〜8のアルキル基若しくはアリール基を表す。Rは、水素原子、又は、炭素数1〜8のアルキル基若しくはアリール基を表す。aは、0〜4の整数である。)で表される化合物であることが好ましい。例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル(本明細書中、メトキノンともいう。)、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(本明細書中、TBHともいう。)、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノン等が好適なものとして挙げられる。特に好ましくは、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノンである。
上記ベンゾキノン系化合物としては、ベンゾキノン、ジフェニルベンゾキノン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0022】
上記キノン系化合物の含有量としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に対して、100〜100000ppmであることが好ましい。100ppm未満であると、本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造する際に重合反応を充分に防止することができないおそれがあり、100000ppmを超えると、反応工程により得られるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の着色が大きくなって品質が損なわれるおそれがある。
より好ましい下限は、200ppmであり、更に好ましくは、300ppmである。また、より好ましい上限は、50000ppmであり、更に好ましい上限は、10000ppmである。
【0023】
上記芳香族アミン系化合物、キノン系化合物以外の、その他の1次酸化防止剤(ラジカル連鎖禁止剤)を更に重合防止剤として用いることができる。
上記その他の1次酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤等が挙げられ、上述した芳香族アミン系化合物、キノン系化合物以外の、本発明の技術分野において一般に重合防止剤として作用すると認められるフェノール基を有する化合物又はその誘導体であればよい。中でも、アルキルフェノール類が好ましい。
上記アルキルフェノール類としては、例えば、下記一般式(4);
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、R、R、R10、及び、R11は、同一又は異なって、水素原子、又は、炭素数1〜8のアルキル基若しくはアリール基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数1〜18の有機基を表す。m及びnは、それぞれ0〜4の整数であり、m+n≧1である。)で表される化合物であることが好ましい。例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、ブチル化ヒドロキシアニソール(本明細書中、BHAともいう。)、6−tert−ブチル−2,4−キシレノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−{3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル}プロピオネート(例えば、アデカスタブ AO−50〔商品名〕、ADEKA社製)等のモノフェノール系酸化防止剤;2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、アンテージW−400〔商品名〕、川口化学工業社製)、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、アンテージW−500〔商品名〕、川口化学工業社製)、4,4´−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4´−ブチリデンビス (3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、アデカスタブ AO−40〔商品名〕、ADEKA社製)、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−〔β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕−ウンデカン(例えば、アデカスタブ AO−80〔商品名〕、ADEKA社製)等のビスフェノール系酸化防止剤;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(例えば、アデカスタブ AO−30〔商品名〕、ADEKA社製)、テトラキス−〔メチレン−3−(3´,5´−ジ−tert−ブチル−4´−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ビス〔3,3´−ビス−(4´−ヒドロキシ−3´−tert−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5−トリス (3´,5´−ジ−tert−ブチル−4´−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](例えば、アデカスタブ AO−60〔商品名〕、ADEKA社製)、トリ−エチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート](例えば、アデカスタブ AO−70〔商品名〕、ADEKA社製)、トコフェロール(類)等の高分子型フェノール系酸化防止剤が好適であり、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明の製造方法においては、上述した1次酸化防止剤に加えて、更に2次酸化防止剤(過酸化物分解剤)を好適に用いることができる。これにより、より長時間の安定性(重合防止効果)を発揮することができる。
上記2次酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及び銅系酸化防止剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
上記リン系酸化防止剤は、本発明の技術分野において2次酸化防止剤として作用すると認められるリンを有する化合物であればよく、リン酸誘導体、亜リン酸誘導体及び次亜リン酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、ホスファイト系化合物が好ましい。ホスファイト系化合物とは、ホスファイト及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。例えば、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4´−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル ジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ及び/又はジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル) ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス (2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が好適である。特に好ましくは、トリフェニルホスフィンである。
【0027】
上記硫黄系酸化防止剤としては、本発明の技術分野において2次酸化防止剤として作用すると認められる硫黄を含む化合物であり、通常酸化数が二価以上のものが好ましい。中でも、チオエーテル系化合物が好ましい。チオエーテル系化合物とは、チオエーテル基を有する化合物及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を意味する。例えば、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン(例えば、アデカスタブ AO−412S〔商品名〕、ADEKA社製)、ジラウリル3,3´−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3´−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3´−チオジプロピオネート等が好適である。
上記銅系酸化防止剤としては、本発明の技術分野において2次酸化防止剤として作用すると認められる銅を含む化合物であり、通常酸化数が一価のものが好ましい。例えば、酸化第一銅、塩化第一銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅等が好適である。
上記2次酸化防止剤は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
中でも、充分に重合を防止し、かつ着色を充分に防ぐことができる点で、リン系酸化防止剤及び/又は硫黄系酸化防止剤が好ましい。より好ましくは、ホスファイト系化合物及び/又はチオエーテル系化合物である。特に好ましくは、ホスファイト系化合物である。本発明における芳香族アミン系化合物とホスファイト系化合物とを組み合わせて使用することで、本発明の効果が特に顕著に発揮される。なお、チオエーテル系化合物は、若干着色するおそれがある。最も好ましくは、トリフェニルホスフィンである。
【0028】
上記2次酸化防止剤の添加量としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に対して、100〜100000ppmであることが好ましい。100ppm未満であると、本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造する際に重合反応を充分に防止することができないおそれがあり、100000ppmを超えると、本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の着色が充分に低減されないおそれがある。
より好ましい下限は、200ppmであり、更に好ましくは、500ppmである。また、より好ましい上限は、50000ppmであり、更に好ましい上限は、10000ppmである。
【0029】
本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法における上記反応工程は、カルバゾール基を有する化合物と溶媒との質量比が1/2〜1/0.1である溶媒中で行うことが好ましい。
上記質量比が1/2より少ないと、生産効率が顕著に優れたものとならず、本発明の効果を充分に発揮できないおそれがある。1/0.1を超えると、カルバゾール基を有する化合物を充分に溶媒和することかできず、反応を充分に促進することができないおそれがある。上限は、より好ましくは、1/0.2であり、更に好ましくは、1/0.3である。下限は、より好ましくは、1/1.8であり、更に好ましくは、1/1.4である。
【0030】
上記溶媒としては、エステル化反応において用いることができるものであれば特に限定されないが、非極性溶媒であることが好ましい。例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、シメン等が好適なものとして挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。中でも、トルエンが好ましい。
【0031】
本発明における反応工程は、110℃以上の反応温度で行うことが好適である。工業的実施においては、上述したように少量の溶媒量で反応工程を行うことが生産効率の観点から有利であるが、そのような溶媒量においては反応温度が上昇し、工業的な工程管理において110℃未満で実施することは難しい。本発明における反応工程では、溶媒量を減らし、工業的生産効率にとって有利となる範囲に設定した場合、110℃以上に反応温度を設定すれば工程管理が容易となる。本発明においては、製造工程における重合防止剤を選択することによって、反応工程等におけるカルバゾール基の影響と考えられる重合を防止し、カルバゾール基の変質等を抑制するという顕著な効果を奏し、しかも少量の溶媒量とし、それにともなって反応温度が上昇してもこれらの作用効果を発揮しつつ反応工程を行うことが可能となる、という点から、110℃以上の反応温度で実施する形態は、生産効率の観点から本発明の好適な実施形態であるといえる。より好ましくは、120℃以上であり、更に好ましくは、130℃以上であり、特に好ましくは、140℃以上である。
上限は、例えば300℃であることが好ましい。300℃を超えると、重合反応を充分に防止することができなくなるおそれがある。より好ましくは、280℃であり、更に好ましくは、250℃であり、特に好ましくは、180℃である。
【0032】
本発明における反応工程は、反応中に重合したりカルバゾール基が変質したりしてしまうまでの時間を3時間以上に延ばすことができる。すなわち、反応開始後、重合反応等が確認されるまでの時間を従来よりも延長させることができる。したがって、重合反応やカルバゾール基の変質を充分に防止して反応を進行させる時間を確保することができるという点から、反応時間を3時間以上とする形態は、本発明の好ましい実施形態であるといえる。
より好ましい形態としては、4時間以上であり、更に好ましい形態としては、5時間以上である。また反応時間としては、50時間以下であることが好ましい。より好ましくは、20時間以下である。
【0033】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法は、以下の3通りがある。例えば、(1)脱水エステル化反応、(2)エステル交換反応、(3)酸クロライドによるエステル化反応によって行うことが好適である。
上記(1)脱水エステル化反応、(2)エステル交換反応を行う形態は、上記(3)酸クロライドによるエステル化反応を行う形態と較べて、反応性の点から通常高い反応温度で実施されることになる。本発明の製造方法を上記(1)又は(2)の形態に適用すると、このような高い温度条件下においても重合防止効果が優れ、着色を充分に低減することができるという顕著な効果を発揮することができる。このため本発明の製造方法を上記(1)又は(2)の形態に適用することにより、本発明の有利な効果を充分に奏することができる。
なお、工業化の際には、原料単量体の入手のしやすさ、原料単量体に起因する副生成物の抑制といった観点からも上記(1)又は(2)の形態が好ましい。
上記(1)脱水エステル化反応を行う形態においては、溶媒の蒸留(還流脱水)を維持して脱水反応を促進することになる。したがって、溶媒を用い、蒸留を促すために反応温度を高める必要が生じるが、本発明の製造方法を上記(1)の形態に適用すると、少量の溶媒量においても、またそれにともない反応温度が更に高くなっても重合防止効果が優れたものとすることができる。このことから、本発明を上記(1)の形態に適用することにより、本発明の有利な効果をより充分に奏することができる。
これらの形態が本発明の製造方法における好ましい形態である。
【0034】
本発明の製造方法における上記反応工程は、触媒の存在下で行うことが好ましい。
上記触媒としては、通常用いられるエステル化触媒であればよく、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、陽イオン交換樹脂等の酸触媒(脱水触媒)、アルカリ金属アルコラート、マグネシウムアルコラート、アルミニウムアルコラート、チタンアルコラート、ジブチルスズオキシド、陰イオン交換樹脂等のエステル交換触媒等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
中でも、上記反応工程が、酸触媒の存在下で行うことが本発明の製造方法における好ましい実施形態である。これにより本発明の効果を更に充分に発揮することができる。
上記酸触媒は、p−トルエンスルホン酸であることが最も好ましい。
【0035】
上記触媒の使用量は、例えば、反応の総仕込量100質量%に対して、0.01〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜5質量%であり、更に好ましくは、0.1〜3質量%である。なお、反応後は、通常の手法により触媒を除去することが好適である。
本明細書中、反応の総仕込量とは、原料単量体、溶媒等の仕込み成分の全量を意味する。
【0036】
本発明の製造方法における原料単量体、生成物単量体について、以下に説明する。
上記(1)脱水エステル化反応においては、上記カルバゾール基を有する化合物は、通常カルバゾール基を有するアルコール化合物である。
例えば、本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法において、上記反応工程は、(a1)カルバゾール基を有するアルコール化合物と、(b1)α,β−不飽和カルボン酸、そのエステル類及び酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを反応させる工程であることが好ましい。
これにより、反応がより効率的に進むことになり、生成効率が更に向上することになる。
【0037】
上記カルバゾール基を有するアルコール化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との仕込みモル比(カルバゾール基を有するアルコール化合物中の水酸基:(メタ)アクリロイル基)としては、例えば、1:1〜1:5であることが好ましい。より好ましくは、1:1.1〜1:3であり、更に好ましくは、1:1.2〜1:2である。
【0038】
上記カルバゾール基を有するアルコール化合物は、アルキレンオキシド単位を有するものとすることが好ましい。ここで、アルキレンオキシド単位の末端酸素原子がアルコール化合物における水酸基の酸素原子であってもよく、このような形態が好ましい。
上記カルバゾール基を有するアルコール化合物は、下記一般式(5);
【0039】
【化5】

【0040】
(式中、R12は、水素原子、メチル基及びエチル基からなる群より選択される少なくとも1種を表す。nは、1〜100である。)で表されるものであることが更に好ましい。これにより、本発明の効果を更に充分に発揮することができる。なお、nは、アルキレンオキシド単位の繰り返し数を意味する。
上記R12は、より好ましくは、水素原子又はメチル基である。更に好ましくは、水素原子である。
上記nは、1〜10であることが好ましい。より好ましくは、1〜8であり、更に好ましくは、1〜3であり、特に好ましくは、1である。
上記カルバゾール基を有するアルコール化合物は、カルバゾールアルキルアルコールであることがより好ましい。
【0041】
例えば、本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法において、上記反応工程は、(a2)カルバゾールアルキルアルコールと、(b2)α,β−不飽和カルボン酸とを反応させる工程であることが好ましい。
これにより、反応がより効率的に進むことになり、生成効率が更に向上することになる。
上記カルバゾールアルキルアルコールは、カルバゾールエタノールであることが最も好ましい。
【0042】
上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、α,β−不飽和カルボン酸、そのエステル類及び酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むものであることが好ましい。中でも、α,β−不飽和カルボン酸がより好ましい。
上記α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノメチルマイエート、モノエチルマイエート等の不飽和カルボン酸類又はその誘導体等が挙げられる。中でも、下記一般式(6);
【0043】
【化6】

【0044】
(式中、R13は、水素原子又はメチル基である。)で表されるものであることが好ましい。
言い換えれば、上記α,β−不飽和カルボン酸は、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0045】
上記α,β−不飽和カルボン酸のエステル類としては、例えば、エステル交換反応に使用可能なものであればよいが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が好ましい。
上記α,β−不飽和カルボン酸の酸無水物としては、例えば、上述したα,β−不飽和カルボン酸の酸無水物を用いることができる。
上述した化合物について、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の製造方法における上記1分子内にカルバゾール基と(メタ)アクリロイル基とを有するカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、
下記一般式(7);
【0047】
【化7】

【0048】
(式中、R12、R13及びnは、上述したのと同様である。)で表されるものであることが好ましい。
例えば、上述した(1)脱水エステル化反応の好ましい実施形態として、例えば、上記反応工程は、下記一般式(8);
【0049】
【化8】

【0050】
で表されるものであることが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法は、上記反応工程後に、通常の精製方法を適宜用いることができる。例えば、生成物単量体を中和後水洗し、溶媒交換を行って、再結晶を行うことが好ましい。
本発明の製造方法によると、得られるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の色相(YI)を15以下にすることができる。特に再結晶後の色相を15以下とすることが可能である。この理由は、反応工程等におけるカルバゾール基の変質等を本発明において選択された重合防止剤が効果的に抑制しているためであると考えられる。工業原料であるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の色相は、低く透明である程良いが、この単量体から得られるポリマー及びそれを含む化学製品が高屈折率、光増感作用等の優れた特性を発揮することができる。そのような用途に用いられることを考慮すれば、色相を15以下と低く透明に抑えることができることは、本発明における有利な効果の一つであり、そのような形態は本発明の好ましい実施形態の一つであるといえる。
より好ましくは、色相14以下の形態であり、更に好ましくは、色相13以下の形態である。
上記色相は、例えば、JIS K7105に準拠する方法により測定することができる。
また、上記測定におけるサンプル調整は、例えば試料を乳鉢で粉砕して粉末とすることにより行なうことが好ましい。
上記測定は、色差計を用いて反射測定を行うことが好ましい。例えば、色差計SZ−Σ90(日本電色工業株式会社製)を用いて反射測定を行うことが特に好ましい。
【0052】
本発明はまた、上述した製造方法により得られるカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類でもある。
本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、生産効率良く生産されたものであり、そのために製造コストが低く、かつ着色が充分に低減され品質に優れた工業製品とすることができるものである。このことから、カルバゾール基に起因する優れた特性が要求される各種ポリマー製品の原料等として好適に用いることができるものであるといえる。
【発明の効果】
【0053】
本発明のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法は、カルバゾール基に影響を受けていると考えられる製造工程中の重合を防止し、特に、少量の溶媒量であったり反応温度が高かったりしても重合を充分に防止することができ、工業的生産において優れた生産効率を達成することができ、しかも着色が低減されたものとすることによって、カルバゾール基に起因する優れた特性が要求される各種ポリマー製品等の原料として好適なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0055】
実施例1
反応容器内に、原料アルコールとメタクリル酸、トルエン、パラトルエンスルホン酸一水和物、重合防止剤を仕込み、酸素7%を混合した窒素ガス流通下で還流脱水によってカルバゾールエチルメタクリレートの製造を行った。
(反応条件:原料アルコール/メタクリル酸/パラトルエンスルホン酸(PTS)/トルエン=50/24/2/15〔質量比〕、反応液温度140℃以上、150℃以下、原料アルコールの組成は、2−(9−カルバゾール)エタノール 90%、2−(9−カルバゾール)エトキシエタノール 10%。)
すべての系で反応3時間で転化率99%に到達した。反応中及び反応後も加熱を続け、重合物の観察されるまでの時間、及び、3時間反応後に得られた生成物を中和水洗して、かつ溶媒交換を行って、再結晶にて精製した際の着色を測定し、著しく着色した場合を「不良」とした。
なお、原料であるメタクリル酸は、元々1次酸化防止剤であるメトキノンが入っているものである。メトキノン含有量は、メタクリル酸に対して100ppmである。
実施例2〜5、比較例1〜8、参考例1について、下記表1及び表2に示したように添加成分を変更した以外は実施例1と同様にして、重合するまでの時間を測定した。また、「再結晶後の色相」、「評価」、「安定性評価」等を行った。
なお、重合するまでの時間とは、反応工程において単量体が重合し始める時間をいう。
【0056】
比較例9
反応容器内に、原料アルコールとメタクリル酸、トルエン、パラトルエンスルホン酸一水和物、重合防止剤を仕込み、酸素7%を混合した窒素ガス流通下で還流脱水によってカルバゾールエチルメタクリレートの製造を行った。
(反応条件:原料アルコール/メタクリル酸/パラトルエンスルホン酸(PTS)/トルエン=20/9.5/1.4/140〔質量比〕、反応液温度105℃以上、113℃以下、原料アルコールの組成は、2−(9−カルバゾール)エタノール 90%、2−(9−カルバゾール)エトキシエタノール 10%。重合防止剤としては、1次酸化防止剤がフェノチアジン(芳香族アミン系化合物)、メトキノン(キノン系化合物)、2次酸化防止剤がトリフェニルホスフィン(ホスファイト系化合物)。それぞれの重合防止剤の(メタ)アクリロイル基を有する化合物に対する量が1000ppm。)
反応3時間で転化率80%、反応6時間で転化率92%であった。
【0057】
評価は、重合に対する安定性、生成物の着色の低減度、工業的生産における有利性等を総合的に考慮して下記のように判断した。
◎:重合に対する安定性、生成物の着色の低減度に優れ、原料単量体に含まれるキノン系化合物に加えて更に当該化合物を加え、アミン系化合物と組み合わせた工業的に特に有用な形態である。
○:重合に対する安定性、生成物の着色の低減度に優れた形態である。
△:安定性は充分に優れてはいるが、着色が充分に低減されていない形態である。
×:安定性が充分ではない形態である。
【0058】
安定性評価は、重合するまでの時間等を考慮した、重合に対する安定性を判断したものである。
◎:安定性が際立って優れた形態である。
○:安定性が良好であり、反応中や反応後において重合反応が充分に防止された形態である。
×:安定性が充分ではなく、反応中や反応後において重合が起こった形態である。
【0059】
再結晶後の色相の測定方法は、JIS K7105に準拠した。
サンプル調整は、試料を乳鉢で粉砕して粉末とした。
測定は、色差計SZ−Σ90(日本電色工業株式会社製)を用いて反射測定を行った。
なお、表1及び表2の各実施例の欄内において、実線の上側に記載された化合物は、1次酸化防止剤及びその添加量を意味し、実線の下側に記載された化合物は、2次酸化防止剤及びその添加量を意味する。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1、2、4、5は、芳香族アミン系化合物を添加したものであること、またメタクリル酸が元々1次酸化防止剤であるメトキノンを含むことから、重合を防止する効果が優れたものである。実施例3は、更にキノン類を添加したものであり、これは、本発明の実施形態として優れるものである。
【0063】
芳香族アミン系化合物の存在下で反応工程を行うことにより、重合するまでの時間を充分に長いものとすることができ、着色を充分に低減しながら、優れた生産効率を達成することができる。1次酸化防止剤(キノン系化合物、芳香族アミン系化合物)、2次酸化防止剤としてチオエーテル系化合物とホスファイト系化合物との組み合わせを検討した。結果として、いずれの系でも重合防止効果は高いものであったが、フェノチアジンとトリフェニルホスフィンとの組み合わせが特に好ましい。1次酸化防止剤では、特に、芳香族アミン系化合物とキノン系化合物の効果が高いことが判明した。なお、2次酸化防止剤(特に、酸化第一銅)との組み合わせでは、キノン類は効果が弱かった。
上述した実施例では、N−(9−カルバゾール)エチルメタクリレートとメタクリル酸との反応工程によってカルバゾールエチルメタクリレートを製造しているが、反応工程においてカルバゾール基の影響がある形態である限り、原料単量体や生成物単量体の重合、大量の溶媒を用いることによる生産効率低下、高着色といった問題を生じさせる機構は同様である。したがって、反応工程を芳香族アミン系化合物の存在下で行うものとすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、カルバゾール基を有するアルコール化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程によって、カルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を調製する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバゾール基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応工程によって、1分子内にカルバゾール基と(メタ)アクリロイル基とを有するカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類を製造する方法であって、
該製造方法は、反応工程を芳香族アミン系化合物の存在下で行うことを特徴とするカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程は、キノン系化合物の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程は、カルバゾール基を有する化合物と溶媒との質量比が1/2〜1/0.1である溶媒中で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程は、110℃以上の反応温度で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程は、酸触媒の存在下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項6】
前記反応工程は、
(a1)カルバゾール基を有するアルコール化合物と、
(b1)α,β−不飽和カルボン酸、そのエステル類及び酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを
反応させる工程であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程は、
(a2)カルバゾールアルキルアルコールと、
(b2)α,β−不飽和カルボン酸とを
反応させる工程であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とするカルバゾール基含有(メタ)アクリル酸エステル類。

【公開番号】特開2010−132817(P2010−132817A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311455(P2008−311455)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】