説明

カルボキシメチルセルロースの製造方法

【課題】モノハロ酢酸又はその塩の反応効率が極めて高く、選択的にカルボキシメチルセルロースを製造する方法を提供する。
【解決手段】低結晶性の粉末セルロースを、塩基の存在下、かつ有機溶媒の非存在下で、モノハロ酢酸又はその塩と反応させる、カルボキシメチルセルロースの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロースの製造方法の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう)は、増粘剤、分散剤、乳化剤、保護コロイド剤、安定化剤等として極めて広範に利用されている。このCMCは、工業的には、セルロースを大量のアルカリ水で処理してアルカリセルロースとして活性化(アルセル化)した後、含水有機溶媒中に分散させてモノハロ酢酸と反応させる溶媒法により製造されている。この溶媒法では、イソプロパノール等の親水性溶媒が用いられるが、これらの溶媒や水とモノハロ酢酸との副反応が避けられず、モノハロ酢酸のセルロースへの反応率が低いため、目的とする置換度を得るためには過剰量が必要となる。また、過剰のアルカリに由来する中和塩や、副反応物として得られるヒドロキシメチル酢酸塩等を洗浄等により除去する精製工程の負荷が高くなるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、モノハロ酢酸の利用効率を高めるため、グルコース単位に対して過剰モルのアルカリ金属成分とセルロースとの反応によりアルカリセルロースを生成させ、モノハロ酢酸及び有機酸を含む酸成分で中和し、中性〜弱塩基性域を維持しつつエーテル化するカルボキシメチルセルロース又はその塩の製造方法が開示されている。しかしながら、モノハロ酢酸の有効利用率は58〜65%であり、満足できるものではない。
【0004】
【特許文献1】特開平9−176201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、モノハロ酢酸又はその塩の反応効率が極めて高く、選択的にカルボキシメチルセルロースを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、反応原料として低結晶性の粉末セルロースを用いることにより、モノハロ酢酸又はその塩との反応を極めて効率的かつ選択的に進行できることを見出した。
すなわち本発明は、低結晶性の粉末セルロースを、塩基の存在下、モノハロ酢酸又はその塩と反応させる、カルボキシメチルセルロースの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、カルボキシメチルセルロースを極めて効率的、選択的、かつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のカルボキシメチルセルロースの製造方法は、低結晶性の粉末セルロースを、塩基の存在下、モノハロ酢酸又はその塩(以下、「モノハロ酢酸等」ともいう)と反応させることを特徴とする。以下、本発明方法に用いられる各成分、反応条件等について説明する。
【0009】
〔低結晶性の粉末セルロース〕
セルロースには幾つかの結晶構造が知られており、また一部に存在するアモルファス部と結晶部の全量に対する結晶部の割合から、一般に結晶化度が算出される。
本発明においては、「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を意味し、粉末X線結晶回折スペクトル法による回折強度値からSegal法により算出したもので、下記式(1)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
また、「低結晶性」とは、セルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、具体的には上記式(1)によるセルロースI型結晶化度が好ましくは50%以下であることを意味し、該結晶化度が0%の完全非晶化の場合を含む。
通常の粉末セルロースは、少量のアモルファス部を有し、それらの結晶化度は、上記式(1)によれば概ね60〜80%の範囲に含まれるいわゆる結晶性セルロースである。この結晶性セルロースは、一般的なセルロース誘導体合成における反応性が極めて低いのに対し、本発明で用いられる低結晶性の粉末セルロースは、化学反応性が優れている。
【0010】
本発明に用いられる低結晶性の粉末セルロースの結晶化度は、化学反応性の観点から、前記式(1)による結晶化度が好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。該結晶化度が50%以下であれば、塩基によるモノハロ酢酸等との反応が極めて良好に進行するため、セルロースエーテル化反応の選択率を向上させることができ、また、置換基導入部位の位置的な偏りを低減できる。この観点から、特に完全に非晶質化した、すなわち前記式(1)による結晶化度がほぼ0%となる、いわゆる非晶化セルロースを用いることが最も好ましい。
なお、前記式(1)で定義されたセルロースI型結晶化度では計算上マイナスの値になる場合があるが、マイナスの値の場合はセルロースI型結晶化度は0%とする。
【0011】
低結晶性の粉末セルロースの平均粒径は、低結晶性セルロースを工業原料として用いる際の化学反応性の観点、及び粉体として流動性の良い状態が保つ観点から、300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましい。また、工業的な操作性の観点から、該平均粒径は20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。
また、凝集等による微量な粗大粒子の混入を避けるため、反応には必要に応じて25〜100μm程度の篩を用いた篩下品を用いるのが好ましい。
低結晶性の粉末セルロースの重合度は、化学反応性の観点、及び原料パルプや工業的に実施する際の操作性の観点から、100〜2000であり、より好ましくは100〜1000である。
【0012】
〔低結晶性の粉末セルロースの調製〕
本発明に用いられる低結晶性の粉末セルロースは、汎用原料として得られるシート状やロール状のセルロース純度の高いパルプから調製することができる。例えば、特開昭62−236801号公報、特開2003−64184号公報、特開2004−331918号公報等に記載の方法により調製することができる。
また、低結晶性の粉末セルロースをより効率的に得る方法として、例えば、シート状パルプを粗粉砕して得られる、好ましくは1〜50mm角、より好ましくは1〜30mm角のチップ状パルプを、押出機で処理した後、更にボールミルで処理することにより調製する方法が挙げられる。
【0013】
ここで、押出機としては単軸又は二軸の押出機を用いることができるが、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものがより好ましい。
ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相でずらしながら組み合わせたものである。例えば3〜20枚、好ましくは6〜16枚のニーディングディスクを90°の位相で互い違いにずらしながら組み合わせたものが挙げられる。ニーディングディスク部は、スクリューの回転にともなって、その狭い隙間にチップ状パルプ等を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与しながら、連続的に処理することができる。押出機処理におけるせん断速度としては、600〜3000sec-1が好ましく、6000〜2000sec-1がより好ましい。
【0014】
また、ボールミルとしては、公知の振動ボールミル、媒体攪拌ミル、転動ボールミル、遊星ボールミル等を用いることができる。媒体として用いるボールの材質に特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。ボールの外径は、効率的にセルロースの結晶化度を下げる観点から、好ましくは0.1〜100mmである。また媒体としては、ボール以外にもロッド状のものやチューブ状のものも用いることが可能である。
ボールミルの処理時間としては、結晶化度を低下させる観点から、好ましくは5分〜72時間である。またボールミル処理の際には、発生する熱による変性や劣化を最小限に抑えるためにも、250℃以下、好ましくは5〜200℃の範囲で処理を行うことが好ましく、さらには必要に応じて、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
前述のような方法を用いれば、分子量の制御も可能であり、一般には入手困難な、重合度が高く、かつ低結晶性の粉末セルロースを容易に調製することが可能である。
【0015】
〔カルボキシメチルセルロースの製造〕
本発明のカルボキシメチルセルロースの製造方法は、前記の低結晶性の粉末セルロースを、塩基の存在下、モノハロ酢酸又はその塩と反応させる。
本発明で用いられるモノハロ酢酸又はその塩としては、モノクロロ酢酸、モノブロモ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸カリウム等が挙げられるが、特にモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。
本発明で用いられ塩基としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類等が挙げられる。これらの中では、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムが更に好ましい。
上記のモノハロ酢酸等と塩基は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明では、セルロースの分散性、並びに塩基及びモノハロ酢酸との混合性を改善する目的で、有機溶剤の存在下、反応を行うこともできる。
用いられる溶剤として、非水極性溶剤としては、イソプロパノール、tert−ブタノールなどの2級又は3級の低級アルコール;1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのジグライム、トリグライム等のエーテル系溶剤;ジメチルスルホキシド等の親水性極性溶剤が挙げられる。一方、トルエン、ベンゼン、ヘキサンや他の炭化水素油といった非水低極性又は非極性溶剤を用いることも可能である。
上記の溶剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(塩基及びモノハロ酢酸等の添加)
塩基の添加方法に特に制限はなく、例えば、(i)予め低結晶性の粉末セルロースとモノハロ酢酸等を混合した後、塩基水溶液として滴下する方法、又は(ii)予め低結晶性の粉末セルロースと塩基を混合した後、モノハロ酢酸等を添加する方法等が挙げられる。これらの中では、反応温度の制御や塊状(ダマ)化を防止する観点から、前記(i)の方法がより好ましい。
添加する塩基の性状についても特に制限はなく、したがって塩基は無水状態や水溶液として混合・添加することが可能であるが、前記(i)の方法で添加する場合には、塩基を水溶液として添加することが好ましく、その濃度は特に限定されないが、20〜50質量%の範囲が好ましい。
モノハロ酢酸等の添加方法も特に制限はなく、例えば、(iii)粉末セルロースに塩基を添加した後にモノハロ酢酸等を徐々に滴下する方法や、(iv)粉末セルロースにモノハロ酢酸等を一括で添加し、その後に塩基を加えて反応させる方法等が挙げられる。
【0017】
(塩基及びモノハロ酢酸等の使用量)
本発明においては、粉末セルロースとモノハロ酢酸又はその塩との反応効率が極めて高く、反応がほぼ定量的に進行する。そのため、塩基の使用量は、特にモノハロ酢酸塩の使用量に対して、1〜1.05モル倍用いるだけで十分である。ただしモノハロ酢酸を用いる場合には、更にカルボキシル基を完全に中和できる量が必要となる。
また、モノハロ酢酸又はその塩の使用量は、反応が極めて定量的に進行することから、所望の置換度(セルロース分子中のグルコース単位あたりの導入モル量)に相当する量を用いて、該置換度を適宜調整することができる。得られるカルボキシメチルセルロース中のカルボキシメチル基は、セルロース分子中のグルコース単位におけるいかなる位置の水酸基と結合していてもよい。
【0018】
(反応条件)
本発明における反応温度は、モノハロ酢酸等の沸点以下の温度が好ましく、具体的には30〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。
反応は、常圧下で行うことが好ましく、反応時の着色を避ける観点から、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
本発明においては、低結晶性の粉末セルロース、塩基及びモノハロ酢酸等を、流動性のある粉末状態で反応させることが好ましく、より具体的には、粉末セルロースと塩基、又は粉末セルロースとモノハロ酢酸等を、予めミキサー等の混合機や振とう機で均一に混合した後に、モノハロ酢酸等又は塩基と反応させることが好ましい。前記粉末状態で反応を行えば、反応終了後の有機溶媒除去工程の負担はが小さいか、又は不要であり、工業的に簡便であり有利である。
【0019】
低結晶性の粉末セルロースとモノハロ酢酸等との反応においては、反応に用いる粉末セルロースや塩基水溶液等の原料由来の水分等、反応時の反応容器内(反応系中ともいう)に存在する水分により、原料や生成物が凝集する可能性がある。そこで、反応系中に存在する水分量を粉末セルロースに対して、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、特に好ましくは5〜50質量%とする。反応系中に存在する水分量が前記範囲内であれば、原料の粉末セルロースや生成物であるカルボキシメチルセルロースが過度に凝集することがなく、流動性のある粉末状態で反応させることができる。
粉末セルロースに対する水分量を前記の範囲に保つためには、塩基水溶液の滴下及び反応とともに減圧条件下等で脱水することも好ましく、その際の圧力は13.3〜101kPaが好ましく、6.6〜13.3kPaがより好ましい。
有機溶剤の使用量としては、流動性のある粉末状態で反応させるという観点から、前記水分量と併せた量が、粉末セルロースに対して100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特には50質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
(反応装置)
本発明で用いる反応装置としては特に制限はないが、前記流動性のある粉末状態で反応を行うには、低結晶性の粉末セルロース、塩基及びモノハロ酢酸等をできるだけ均一に混合できるものが好ましい。例えば、特開2002-114801号公報明細書段落〔0016〕で開示しているような、樹脂等の混錬に用いられる、いわゆるニーダー等の混合機が好ましい。
ここで、ニーダー等の混合機としては、攪拌が十分できるものであれば特に限定されないが、例えば化学工学協会編「化学工学便覧」改訂五版(丸善株式会社発行)、917〜919頁に記載されているように、単軸型ニーダーとしてはリボンミキサー、コニーダー、ボテーター、スクリュー型ニーダー等が挙げられ、二軸型ニーダーとしては、双腕型ニーダー等が挙げられる。
これらの混合機は、塩基水溶液の滴下や脱水ができるような部位を備えていることがより好ましい。
【0021】
本発明においては、モノハロ酢酸等のセルロースに対する反応選択率が極めて高いことから、モノハロ酢酸等に由来する副生成物が極めて少ないため、反応終了後の精製等の後処理も容易である。すなわち、本発明においては、反応終了後に、微量の未反応のモノハロ酢酸等や副生した中和塩を除去するために、必要に応じて、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等で洗浄した後、乾燥する等、簡便な精製処理によって目的のカルボキシメチルセルロースを得ることができる。
また、反応終了後に中和塩除去等の精製処理を行わずに、必要に応じて触媒量の塩基等を添加した後、更なる誘導体化反応を行い、種々のセルロースエーテル誘導体を、粉末セルロースからワンポットで合成することもできる。
【実施例】
【0022】
製造例で得られた低結晶性セルロースの結晶化度、重合度、平均粒径、水分含量の測定は、下記の方法で行った。
【0023】
(1)結晶化度の算出
セルロースI型結晶化度は、サンプルのX線回折強度を、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、前記式(1)に基づいて算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA、測定範囲:回折角2θ=5〜45°で測定した。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。X線のスキャンスピードは10°/minで測定した。
【0024】
(2)重合度の測定
セルロースの重合度はISO−4312法に記載の銅アンモニア法により測定した。
(3)平均粒径の測定
平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、体積基準のメジアン径を、温度25℃にて測定した。なお、用いた屈折率は、1.2である。
(4)水分含量の測定
水分含量は、赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製、「FD−610」)を使用し、150℃にて測定を行った。
【0025】
製造例1(非晶化粉末セルロースの製造)
まず市販の木材パルプシート(ボレガード社製パルプシート、結晶化度74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけて1cm角のチップ状にした。次に、得られたチップ状パルプをスクリューの中央部にニーディングディスク部を備えた二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpmの条件で、外部から冷却水を流しながら、1パス処理して粉末状にした。次いで得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌型ボールミル(三井鉱山株式会社製「アトライタ」:容器容積800mL、6mmφ鋼球を1400g充填、攪拌翼の直径65mm)に前記粉末状のセルロース100gを投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数600rpmで3時間粉砕処理を行い、粉末セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm)を得た。この粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品を使用した。
【0026】
実施例1
1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV―1型)に、製造例1で得られた非晶化粉末セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm、含水量5質量%)80.0g(グルコース単位換算0.47mol)及びクロロ酢酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製試薬)58.0g(0.50mol)を加え、窒素雰囲気下6時間攪拌した。次いで窒素雰囲気下50℃に昇温した後、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液42.0g(NaOH量0.50mol)を2時間かけて滴下した後、そのまま50℃で6時間攪拌した。その間、セルロース及び生成物は全く凝集することなく流動性のある粉末状態を保っていた(セルロース及びその他原料由来の水分量の総和:セルロースに対して13質量%)。
反応終了後、室温まで冷却し、生成物をニーダーから取り出し、副生塩及び未反応物等を含水イソプロパノール(含水量15質量%)3000ml、及びイソプロパノール1000mlで洗浄して除去し、乾燥して114gの白色固体を得た。
赤外分光光度計(株式会社堀場製作所製FT−IR測定装置FT−710)を用いて、この白色固体をカルボキシメチルセルロース(Na塩)と同定した。その赤外吸収スペクトルを図1に示す。
置換基の導入量から求められるグルコース単位あたりのカルボキシメチル基の置換度は1.0であった。また、原料クロロ酢酸ナトリウム基準でのセルロースへの反応選択率は95%であり、反応はほぼ定量的に進行していた。
【0027】
実施例2
1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV―1型)に、製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm、含水量5質量%)70.0g(グルコース単位換算0.41mol)及びクロロ酢酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製試薬)70.0g(0.60mol)を加え、窒素雰囲気下6時間攪拌した。次いで窒素雰囲気下50℃に昇温した後、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液52.0g(NaOH量0.62mol)を5時間かけて滴下した後、そのまま50℃で12時間攪拌した。その間、セルロース及び生成物は全く凝集することなく流動性のある粉末状態を保っていた(セルロース及びその他原料由来の水分量の総和:セルロースに対して15質量%)。
反応終了後、室温まで冷却し、生成物をニーダーから取り出し、副生塩及び未反応物等を含水イソプロパノール(含水量15質量%)3000ml、及びイソプロパノール1000mlで洗浄して除去し、乾燥した結果、115gのカルボキシメチルセルロース(Na塩型)を白色固体として得た。
置換基の導入量から求められるグルコース単位あたりのカルボキシメチル基の置換度は1.4であった。また原料クロロ酢酸ナトリウム基準でのセルロースへの反応選択率は97%であり、反応はほぼ定量的に進行していた。
【0028】
比較例1
粉末セルロースとして、市販の粉末セルロース(日本製紙ケミカル株式会社製セルロースパウダー;KCフロック、結晶化度74%、平均粒径45μm、含水量5質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行ったところ、反応の進行とともに部分的な凝集が見られ、反応混合物は極めて不均一で十分な混合は行えていなかったが、そのまま操作を続行し、実施例1と同様に副生塩及び未反応物等の除去、乾燥を行った。
置換基の導入量から求められるグルコース単位あたりのカルボキシメチル基の置換度は0.93、原料クロロ酢酸ナトリウム基準でのセルロースへの反応選択率は89%であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法によれば、カルボキシメチルセルロースを効率的、選択的、かつ簡便に製造することができる。このため、本発明方法は工業的に極めて有利である。
また、得られるカルボキシメチルセルロースは、増粘剤、分散剤、乳化剤、保護コロイド剤、安定化剤等の配合成分として、また他のセルロースエーテル誘導体製造の出発原料として広範に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られたカルボキシメチルセルロース(Na塩)の赤外吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低結晶性の粉末セルロースを、塩基の存在下、モノハロ酢酸又はその塩と反応させる、カルボキシメチルセルロースの製造方法。
【請求項2】
低結晶性の粉末セルロースの結晶化度が50%以下である、請求項1に記載のカルボキシメチルセルロースの製造方法。
【請求項3】
塩基がアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物である、請求項1又は2に記載のカルボキシメチルセルロースの製造方法。
【請求項4】
反応時の反応容器内の水分量が、低結晶性の粉末セルロースに対して100質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のカルボキシメチルセルロースの製造方法。
【請求項5】
低結晶性の粉末セルロースの平均粒径が20〜300μmである、請求項1〜4のいずれかに記載のカルボキシメチルセルロースの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−106197(P2010−106197A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281760(P2008−281760)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】