説明

カルボスチリル誘導体およびドネペジルを含むアルツハイマー病治療剤

【課題】アルツハイマ−病治療剤を提供する。
【解決手段】一般式:


[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、及びドネペジル又はその塩を有効成分とするアルツハイマー治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病治療剤、さらに詳しくは、一般式(1)
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合または二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、およびドネペジルまたはその塩を有効成分とするアルツハイマー病治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前記一般式(1)で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩ならびにその製法は、特許文献1および特許文献2に記載されており、それが血小板凝集抑制作用、ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用及び消炎作用を有し、抗血栓症剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗潰瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤などとして有用であることが知られている。さらに、この化合物がアレルギー疾患治療剤として有用であることも知られている(特許文献3)。また、アルツハイマー治療剤としても知られている(特許文献4)。
【0003】
本邦の認知症患者数は2005年で189万人、有病率は7.6%と推計され、高齢化社会の進展に伴い増加の一途をたどっている。認知症患者の中でアルツハイマー病(AD)患者が全認知症患者の過半数を占めると考えられる。
【0004】
ADの大半は弧発例であり、一方アミロイド前駆蛋白質遺伝子、プレセニリン1および2などの遺伝子ミスセンス変異により常染色体優性遺伝形式で発症する家族性ADは約10%と考えられている。特に女性に多い傾向にある。ADの最大の危険因子は加齢であり、加齢とともに有病率は増加するため、ADの多くは65歳以降に発症する晩発性ADである。AD患者は、アセチルコリンに代表される神経伝達物質の障害、アミロイドβ蛋白の脳内への蓄積に伴う老人斑の形成、リン酸化タウなどからなる異常線維の神経細胞内への蓄積、神経細胞の脱落に伴う脳の著しい萎縮などにより様々な病態を呈する。ADの中核症状として、記憶障害、失語、失認、実行機能の障害、随伴症状として、多くは多幸的であるが、しばしば早期から無気力となったり、抑うつ状態を呈し、不機嫌で易怒的になることがある。
【0005】
ADの中核症状に対しては臨床では、塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)が広く用いられている(特許文献5)。不眠、易怒性、妄想などの随伴症状に対しては、対症的な薬剤である塩酸ドネペジルの投与が有効である(精神科治療学Vol.21 増刊号 Page.302-305、2006.10.15 黄田常嘉, 新井平伊)。しかしながら、塩酸ドネペジルによる対症療法においては、長期に使用されるにつれその効果は下降する傾向にあり、長期投与を余儀なくされる本剤においては、病状の進行を継続的に十分に抑えることが困難な場合もあるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−20235号公報
【特許文献2】特開昭55−35019号公報
【特許文献3】特開平5−320050号公報
【特許文献4】特表2006−518732号公報
【特許文献5】特許番号第2578475号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上記のとおり、アルツハイマー病に対する治療薬としては、塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)が広く用いられてはいるものの、長期投与で生じる塩酸ドネペジルの治療効果の低下を抑えるような、更に効果的なアルツハイマー病治療剤が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々研究を重ねるうちに、前記一般式(1)で表されるカルボスチリル誘導体、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)またはその塩と、ドネペジルまたはその塩を併用あるいは合剤として投与した場合に、効果的にアルツハイマー病治療に増強効果があることを見出し、本発明を完成するにいたった。特に併用することによって、従来塩酸ドネペジルの長期投与によって生じていた治療効果の低下を顕著に改善する効果も有しうることを見出した。しかも、これらの併用又は合剤により速効性があり、毒性も少なく、長期に渡って投与することができる。本発明は安全面の上で有効なアルツハイマー病治療剤である。
【0009】
本発明によれば、一般式:
【化2】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合または二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、およびドネペジルまたはその塩を有効成分とするアルツハイマー病治療剤を提供する。
【0010】
また本発明によれば、6-[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)またはその塩、およびドネペジルまたはその塩を有効成分とするアルツハイマー病治療剤を提供する。
【0011】
また本発明によれば、上記カルボスチリル誘導体、および塩酸ドネベジルを有効成分とするアルツハイマー病治療剤を提供する。
【0012】
本発明によれば、アルツハイマー病治療用の上記の有効成分を含む組成物を提供する。
【0013】
本発明によればまた、アルツハイマー病治療剤の製造における、カルボスチリル誘導体(1)またはその塩と、塩酸ドネベジルまたはその塩の使用を提供する。
【0014】
本発明によればまた、治療が必要な患者にカルボスチリル誘導体(1)またはその塩と、塩酸ドネベジルまたはその塩の有効量を投与することを特徴とする、アルツハイマー病の治療方法を提供する。
【0015】
本発明によれば、カルボスチリル誘導体(1)、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩と、塩酸ドネベジルとの併用で、効果的にアルツハイマー病に対する治療および予防効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】塩酸ドネペジルのアルツハイマー病治療におけるシロスタゾールの併用効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の塩酸ドネベジルまたはその塩との合剤の1つの成分として含有される、または併用して用いられるカルボスチリル誘導体は、式:
【化3】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合または二重結合を示す]
のテトラゾリルアルコキシ−ジヒドロカルボスチリル誘導体またはその塩である。
【0018】
上記式(1)において、シクロアルキル基には、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルのようなC3〜C8シクロアルキル基が含まれる。好ましいシクロアルキル基はシクロヘキシルである。低級アルキレン基には、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、テトラメチレン、ブチレンおよびペンチレンのようなC1〜C6アルキレン基が含まれ、好ましいのはテトラメチレンである。
【0019】
好ましいカルボスチリル誘導体は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルであり、抗血小板薬としてシロスタゾールの商品名で市場に出ている。
【0020】
本発明のカルボスチリル誘導体(1)は医薬的に許容される酸を作用させることによって容易に塩を形成し得る。該酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。
【0021】
これらのカルボスチリル誘導体(1)およびその塩、並びにその製造方法については、特許文献2(対応米国特許第4,277,479号)に開示されている。
【0022】
もう一つの活性成分であるドネペジルは、化学名が1−ベンジル−4−[(5,6−ジメトキシ−1−インダノン)−2−イル]メチルピペラジンである化合物であり、すでに塩酸塩はアルツハイマー治療剤として市場に出ている(塩酸ドネペジル、商品名:アリセプト)。この化合物は特許文献5に開示されている。本発明の1−ベンジル−4−[(5,6−ジメトキシ−1−インダノン)−2−イル]メチルピペラジンは医薬的に許容される酸を作用させることによって容易に塩を形成し得る。該酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。中でも塩酸塩である塩酸ドネベジルが最も好ましい。
【0023】
これらの活性成分、カルボスチリル誘導体(1)またはその塩、およびドネペジルまたはその塩は、一緒に投与してもよく、または同時にもしくは別の時に別々に投与してもよい。これらの成分は通常、従前の医薬製剤形に用いてもよい。そして、これらの成分は、単一製剤形または分離した製剤形での医薬製剤に調製してもよい。
【0024】
本発明のカルボスチリル誘導体(1)またはその塩、およびドネペジルまたはその塩を含む治療剤は、アルツハイマー病を含む広く認知症一般に認められるものであり、アルツハイマー型認知症、老人性認知症、若年性認知症等の認知機能障害のほか、ハンチントン舞踏病、ピック病、晩発性運動異常症等も適用範囲に含まれる。
【0025】
これらの活性成分の用量は、特定の範囲に制限されない。カルボスチリル(1)またはその塩は、成人(体重50kg)で50〜200mg/日の量で用いてもよく、1日1回または1日2回〜数回に分けて投与される。ドネペジルは、成人(体重50kg)で約0.1〜300mg/日、好ましくは約1〜10mgであり、これを通常1日1〜4回に分けて投与する。これらの成分が単一の製剤で調製される場合、カルボスチリル誘導体(1)またはその塩の1重量部あたりドネペジルが0.025〜1.0重量部の比率で混合される。また、合剤の製剤においては、これに限らないが、例えばその活性成分の和がその製剤の組成物に対して0.1〜70重量%含まれている。
【0026】
本発明の合剤あるいは併用して用いる場合のそれぞれの製剤の形態としては、例えば、特開平10−175864号公報に挙げられている製剤が挙げられ、その代表的なものとして、錠剤、カプセル剤などの経口固形剤、シロップ剤、エリキシル剤などの経口液剤、注射剤など非経口投与用製剤、並びに吸入剤などが挙げられる。
【0027】
錠剤、カプセル剤、経口液剤のような製剤は、常法によって製造できる。錠剤は、活性成分を、ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムなどのような通常の医薬担体と混合することで製造してもよい。カプセル剤は、医薬的に不活性な充填剤または希釈剤と混合し、硬ゼラチンカプセルまたは軟カプセルに充填することで製造してもよい。シロップ剤またはエリキシル剤のような経口液剤は、活性成分と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、および香料などとを混合して製造される。非経口投与用製剤もまた、常法、例えば、本発明の活性成分を無菌の水性担体(好ましくは水または生理食塩水)に溶かして調製してもよい。非経口投与に適した好ましい液剤は、上述の活性成分の1日用量を水および有機溶媒に溶かし、更に分子量300〜5000を有するポリエチレングリコールに溶かして、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールのような潤滑剤と混ぜて製造される。上記の液剤は好ましくは更に、殺菌剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール、チメロサール)、殺真菌剤、および更に適宜等張剤(例えば、ショ糖、塩化ナトリウム)、局所麻酔剤、安定剤、および緩衝剤などと混合してもよい。安定性を維持する観点から、非経口投与用製剤をカプセルに充填し、続いて通常の凍結乾燥技術で水溶媒を除いてもよく、使用に際しては、水溶媒に溶かして液剤に戻される。吸入剤は常法に従って製造される。すなわち、活性成分化合物を粉末または液状にして、吸入噴射剤および/または担体中に配合し、適当な吸入容器に充填することにより製造される。また上記活性成分化合物が粉末の場合は通常の機械的粉末吸入器を、液状の場合はネブライザー等の吸入器をそれぞれ使用することもできる。さらに吸入剤には、必要に応じて従来より使用されている界面活性剤、油、調味料、シクロデキストリンまたはその誘導体等を適宜配合することができる。
上記で挙げられた添加剤の具体的な例示、調製方法等については、これに制限されないが、特開平10−175864号公報に開示されているものが挙げられる。
【実施例】
【0028】
アルツハイマー病の患者である63歳女性および52歳女性に、塩酸ドネペジル(アリセプト)を5mg/日で12ヶ月間、および9ヶ月間投与行っていた。その間ミニ・メンタルステート試験(MMSE)を行い(Journal of psychiatric research. 1975 Nov;12 (3):189-98.)、その結果を表1および図1に表した。0ヶ月時点でシロスタゾール100mg/日の塩酸ドネペジルとの併用を開始すると、それまで下降していたMMSEスコアーが急激に上昇した。これにより、塩酸ドネペジルの長期投与によって下降傾向にあったその効果が、シロスタゾールとの併用により大きく回復し、塩酸ドネペジルとシロスタゾールを併用することでアルツハイマー病に代表される認知症の顕著な治療効果が得られることがわかった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は一重結合または二重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、およびドネペジルまたはその塩を有効成分として含むアルツハイマー病治療剤。
【請求項2】
カルボスチリル誘導体が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
ドネペジルの塩が塩酸ドネペジルである請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
アルツハイマー病治療剤の製造における、請求項1または2に記載のカルボスチリル誘導体またはその塩と、塩酸ドネベジルまたはその塩の使用。
【請求項5】
ドネペジルの塩が塩酸ドネペジルである請求項4に記載の使用。
【請求項6】
治療が必要な患者に請求項1または2に記載のカルボスチリル誘導体またはその塩と、塩酸ドネベジルまたはその塩の有効量を投与することを特徴とする、アルツハイマー病の治療方法。
【請求項7】
ドネペジルの塩が塩酸ドネペジルである請求項6に記載の治療方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−527993(P2010−527993A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509026(P2010−509026)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【国際出願番号】PCT/JP2008/059763
【国際公開番号】WO2008/143361
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【Fターム(参考)】