説明

カルボヒドラジド構造を有する化合物を化学反応させることにより得られうる化合物

【課題】カルボヒドラジド構造を有する化合物を、酸および塩基から選ばれた薬品により化学反応させることにより、温和な条件で安価に脱水環化させること。
【解決手段】カルボヒドラジド構造を有する化合物を、酸および塩基から選ばれた薬品により化学反応させることにより得られうる化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高耐熱高剛性を有する芳香族高分子、それを用いたフィルム、カルボヒドラジド化合物の新規な化学反応、電解質膜、および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐熱高剛性高分子として、芳香族ポリアミドが知られている。芳香族ポリアミドはその高い耐熱性、機械強度から工業材料として有用なポリマーである。特に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと記す)に代表されるようなパラ配向性芳香核からなる芳香族ポリアミドはその剛直性から上記特性に加え強度および弾性率に優れた成形体を与えるのでその利用価値は高い。しかしながらPPTAのごときパラ配向性芳香族ポリアミドは、溶媒に対する溶解性が低く、硫酸等極めて限定された溶媒にしか溶解しないためにプロセス上の制約が大きい。また、その溶液も光学異方性を与えるため、繊維を得る場合には大きな問題はないが、フィルムなど2次元以上の成形体とするには、特殊な成形法による必要があり、その改善が求められている。
【0003】
一方で、溶解性を改善する手段として、酸素あるいはメチレン基等のブリッジを有する構造単位の導入が、米国特許第4075172号、特開昭52−98795号公報等で知られているが、一般にかかる構造単位の導入は、パラ配向性芳香族ポリアミド本来のヤング率、強度等の優れた機械特性を損ねることとなる。また、別な手段として特開昭52−84246号公報、特開昭54−106564号公報等には芳香核に塩素原子を導入した芳香族ポリアミドが提案されているが、かかる芳香族ポリアミドはモノマが高価な上に、ハロゲン含有高分子を好まない最近の風潮に合致しない。
【0004】
芳香族ポリアミド以外の高耐熱高剛性高分子としては、芳香族カルボヒドラジドが特許第2853117号公報に記載されており、延伸後、一方向ではあるが極めてヤング率の高いフィルムが得られることが開示されている。しかし、このフィルムはポリマー構造上、吸湿率が大きくなる。
【0005】
さらに米国特許第3642711号公報には芳香族カルボヒドラジドを熱的に脱水環化させ、高耐熱性の高分子を得る方法が開示されているが、この環化反応には減圧下で、350℃の高温を必要とするため工業的には不利であった。また、熱的な環化反応では反応時間が短いと環化が不十分であり、反応時間を長くすると、分解反応などの副反応が起きるという問題があった。
【0006】
ところで、電解質膜としては、デュポン社のナフィオン(登録商標)が、広く用いられているが、ポリマーにフッ素樹脂を用いるためコストが非常に大きく、耐熱温度が低いという問題がある。炭化水素系電解質膜はコスト的に有利であるが、機械強度が小さいという問題がある。高い耐熱温度および機械強度を持つ安価な電解質膜が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、非プロトン性極性溶媒可溶で、フィルムに成形した場合にヤング率が高く、破断点伸度が大きくかつ吸湿率の低い芳香族高分子を得ることにある。本発明の他の目的は、カルボヒドラジド構造を温和な条件で安価に脱水環化させることにある。本発明の他の目的は高耐熱温度および高剛性の電解質膜を低コストで得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルボヒドラジド構造を有する化合物を、酸および塩基から選ばれた薬品により化学反応させることにより得られうる化合物を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
また、本発明の方法によれば、カルボヒドラジド構造を温和な条件で安価に反応させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1図は、燃料電池の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の芳香族高分子は、下記化学式(I)および(II)で示される芳香族ポリアミド構造、および、化学式(III)で示される芳香族カルボヒドラジド構造を含むことにより溶媒可溶性、高剛性および耐熱性を両立することができる。
【0012】
【化1】

【0013】
:任意の芳香族基
:任意の芳香族基
【0014】
【化2】

【0015】
:エーテル(−O−)、メチレン(−CH−)、スルホン(−SO−)からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数12以上の芳香族基
:任意の芳香族基
【0016】
【化3】

【0017】
:任意の芳香族基
:任意の芳香族基
また、上記各化学式における、R〜Rとしては任意の芳香族基を用いることができる。R〜Rとしては、ハロゲン原子を含まない芳香族基が、ハロゲン含有高分子を好まない最近の風潮に合致するため好ましい。さらには下記化学式(V)で示される構造単位のいずれかであることが非プロトン性極性溶媒可溶で、フィルムに成形した場合にヤング率が高く、かつ吸湿率の低い芳香族高分子を得るという本発明の目的を実現するために好ましい。
【0018】
【化4】

【0019】
Xとしては水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子を含有しない炭素数1〜4の有機基が好適に用いられるが、さらに好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびシアノ基が挙げられる。分子内において、これらの複数の置換基が混在していてもよい。
【0020】
は、好ましくはエーテル基(−O−)、メチレン基(−CH−)またはスルホン基(−SO−)からなる群から選ばれる置換基を有さない芳香族基である。これらの置換基は化学式(II)で示される構造単位について必須である。しかし、これらの置換基は高分子に柔軟性を付与するので、化学式(II)で示される構造単位に加えて、化学式(I)で示される構造単位が、これらの柔軟な置換基を有すると、ヤング率が5GPa未満になることがある。Rは、さらに好ましくはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフタレン基、アントラセン基、ジアミノベンズアニリド残基、および、9,9ビス(4−アミノフェニル)フルオレン残基から選ばれる基である。ただし、芳香環の一部または全ての水素が、他の原子または置換基で置換されていてもよい。また、Rとしては、ハロゲン原子を含まない芳香族基が、ハロゲン含有高分子を好まない最近の風潮に合致するため好ましい。
【0021】
としては、パラ配向フェニレン基(ただし、芳香環の2、3、5、6位の水素原子はそれぞれ他の原子または置換基で置換されていてもよい)が好ましい。
【0022】
はエーテル基(−O−)、メチレン基(−CH−)およびスルホン基(−SO−)からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数12以上の芳香族基である。好ましくは、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフタレン基、アントラセン基、ジアミノベンズアニリド残基、および9,9ビス(4−アミノフェニル)フルオレン残基から選ばれる基(ただし一部または全ての水素は他の基に置換しても構わない)から独立して選ばれた2個の芳香族基が、エーテル基(−O−)、メチレン基(−CH−)およびスルホン基(−SO−)からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基で結合された構造を有する炭素数12以上、100以下の芳香族基である。Rはより好ましくはフェニル基がエーテル基(−O−)、メチレン基(−CH−)およびスルホン基(−SO−)からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基で結合した芳香族基である。ただし、芳香環の一部または全ての水素が、他の原子または置換基で置換されていてもよい。
【0023】
としては、ビスフェノキシベンゼン基がより好ましく、最も好ましくは化学式(IV)で示される1,3−ビス(4−フェノキシ)ベンゼン基である。
【0024】
【化5】

【0025】
としては、パラ配向フェニレン基(ただし、芳香環の2、3、5、6位の水素原子はそれぞれ他の原子または置換基で置換されていてもよい)が好ましい。
【0026】
としては、フェニル基、ビフェニル基およびナフタレン基から選ばれた基が好ましく、2,6−ナフタレン基がより好ましい。ただし、芳香環の水素原子はそれぞれ他の原子または置換基で置換されていてもよい。
【0027】
としては、パラ配向フェニレン基(ただし、芳香環の2、3、5、6位の水素原子はそれぞれ他の原子または置換基で置換されていてもよい)が好ましい。
【0028】
ここで、R〜Rの芳香環の水素を置換する元素または置換基としては特に限定はないが、ハロゲン、無機基、有機基、有機金属基などが例示できる。これらの置換基は機能の付加には寄与するが側鎖の置換基であることから、耐熱性、機械特性への寄与は小さい。付加する機能と置換基の組み合わせとしては、以下のような例が挙げられる。ハロゲン原子で置換することにより、芳香族高分子の吸湿率を低減することができる。スルホン酸、ホスホン酸等の酸性基で置換することにより、芳香族高分子のイオン伝導度を向上することができる。嵩高い基で置換することにより、芳香族高分子の溶解性を向上することができる。シリルカップリング剤、エポキシ基、熱硬化ポリイミドなどの反応性基あるいは反応性オリゴマーを側鎖に結合することにより、芳香族高分子の接着性を向上することができる。フラーレン類を側鎖に結合することにより、芳香族高分子の滑り性や電気特性を向上することができる。
【0029】
さらに本発明の芳香族高分子(アミドカルボヒドラジド)は、化学式(I)、(II)および(III)で示される構造単位のモル分率(%)をそれぞれl、m、nとしたとき、次式(1)〜(3)を満足している。
【0030】
80≦l+m+n≦100 ・・・ (1)
5≦m≦90 ・・・ (2)
10≦n≦90 ・・・ (3)
ともに高剛性かつ高耐熱性である化学式(I)、(II)および(III)で示される構造単位のモル分率l+m+n(%)を80≦l+m+n≦100とすることにより、本発明の芳香族高分子は、高剛性および高耐熱性を示す。l+m+nは、より好ましくは90〜100%であり、さらに好ましくは95〜100%である。l+m+nが80%未満の場合、ヤング率が5GPa未満となることがある。
【0031】
本発明の芳香族高分において、化学式(I)で示される芳香族ポリアミド構造単位のモル分率l(%)は、好ましくは0≦l≦75であり、さらに好ましくは0≦l≦40である。また、20≦l+n≦95であることが好ましい。化学式(I)、(II)および(III)で示される構造単位の中でも、特に化学式(I)および(III)は剛直な成分であり、これらの合計が20モル%未満の場合はヤング率が5GPa未満となることがある。一方、95モル%を越えると、脆く、割れやすいフィルムになることがある。nが適切な範囲内にあれば、lは0でもよい。
【0032】
本発明の芳香族高分子において、化学式(II)で示される芳香族ポリアミド構造単位のモル分率m(%)は5≦m≦90である。mが5%未満の場合には、吸湿率が高くなりすぎることがある。また90%を超えると、ヤング率が5GPa未満になることがある。モル分率m(%)は、10≦m≦80が好ましく、20≦m≦70がより好ましい。
【0033】
本発明の芳香族高分子において、化学式(III)で示される芳香族ジカルボヒドラジド構造単位のモル分率n(%)は10≦n≦90である。−NH−NH−で示されるヒドラジド基は吸湿率の増大に大きく寄与するため、nが90%を超えると、得られるフィルムの吸湿率が高くなりすぎることがある。また、化学式(III)で示される構造の原料である芳香族ジカルボヒドラジド、例えばナフタレンジカルボヒドラジド、は有機溶媒にほぼ不溶であるため、固体状態で反応し、ポリマーの状態となって初めて溶解する。このためnが90%を超えると、反応の進行が極めて遅くなり、高分子量の高分子を得ることが困難になることがある。一方、nが10%未満の場合は得られるフィルムの剛性が低くなることがある。nは、好ましくは20≦n≦90、さらに好ましくは30≦n≦70であり、最も好ましくは40≦n≦60である。
【0034】
ここで、化学式(III)で示される芳香族カルボヒドラジド構造は、その一部または全部が化学式(VII)に記載のように、脱水環化されて、ポリオキサゾール構造に変換されていることも好ましい。すなわち、本発明の芳香族高分子には、カルボヒドラジド構造を含む芳香族アミドカルボヒドラジドポリマー、カルボヒドラジド構造が脱水環化したオキサジアゾール構造を含む芳香族アミドオキサジアゾールポリマーおよび両者の複合体のいずれもが含まれる。カルボヒドラジド構造の一部または全部がポリオキサゾール構造に変化された場合は、芳香族高分子のヤング率が飛躍的に向上する。
【0035】
【化6】

【0036】
:任意の芳香族基
:任意の芳香族基
芳香族カルボヒドラジド構造を脱水環化し、オキサジアゾール環を形成せしめる方法は、熱的な方法が広く知られている。しかし、熱的な方法は減圧下で350℃の高温を必要とする。発明者らは鋭意検討の結果、カルボヒドラジド構造を有する化合物を薬品により反応せしめ、オキサジアゾール構造を有する化合物に変換する、新規な化学反応を見出した。この方法によれば、室温、常圧でオキサジアゾール構造を有する化合物を製造できるため、工業的に有利であり好ましい。
【0037】
この脱水環化に用いる薬品としては、酸および塩基から選ばれた薬品が用いられる。ここで、酸には、酸無水物も含む。酸としては、例えば無水酢酸などの脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物等が好ましく用いられる。塩基としては、有機塩基、無機塩基等が好ましく用いられる。有機塩基としては、具体的には、トリエチルアミンなどの脂肪族アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類、アンモニア、ヒドラジド類などがあげられる。特に炭素数0〜10の含窒素化合物が安全性に優れるため好適に用いられる。炭素数が0〜10の含窒素化合物として、特に好ましくはトリエチルアミンやエタノールアミン類などの炭素数1〜3の脂肪族アミンであり、最も好ましくはジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンである。脱水環化に用いる薬品は単一で、複数の薬品を混合して、もしくは、これらを溶媒に希釈して使用することができる。濃硫酸の様な危険な脱水剤を用いることなく、また高温や減圧を必要とせず、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの安全な薬品で高効率に脱水環化を行うことができるため、本発明は工業的に非常に有利な製造方法を提供できる。従来、オキサジアゾール環を持つ化合物の簡便な合成方法は知られておらず、本発明は、新規で、かつ有用なオキサジアゾール環を持つ化合物の製造方法である。
【0038】
ここで、「化学反応」とはカルボヒドラジド構造が、他の構造に変化することを意味する。脱水環化に用いる薬品は、反応前後で変化の無い触媒であってもよい。アミン類など塩基を用いる場合、これらは触媒として作用し、脱水環化反応が起こると考えられる。また、酸無水物を用いる場合は酸無水物の脱水作用により脱水環化反応が起こると考えられる。酸無水物および塩基は、例えば無水酢酸とピリジンなど、両者が反応しない組み合わせにおいては、両者を混合して使用することもできる。
【0039】
カルボヒドラジド構造を含む化合物は高分子であっても低分子であっても、この反応によりオキサジアゾール構造に変換することが可能である。カルボヒドラジド構造を含む化合物が芳香族高分子の場合、得られるオキサジアゾール構造を含む高分子は高耐熱および高剛性を持つ芳香族高分子として、非常に有用である。これ以外にも、オキサジアゾール構造を含む化合物は、有機EL材料、有機導電材料、有機半導体などとしても有用である。
【0040】
薬品による脱水環化の方法は、特に限定されないが、高分子の場合、ポリマー溶液を支持体上に平面状に展開した後、薬品に浸す方法や、脱水環化反応が進行しない低温下でポリマーに薬品を混ぜた後、支持体上に展開することにより、脱水環化する方法が例示できる。ポリマーを展開する形を例えば繊維状にすれば、繊維が形成される。脱水環化反応は常温および常圧で進行するが、ポリマー溶液の乾燥または熱固定を主目的に、熱処理を行っても良い。
【0041】
低分子の場合は、さらに多様な方法で薬品による脱水環化が可能である。溶液中の反応や、蒸着重合により、蒸着と同時に環化する方法などが例示できる。
【0042】
芳香族高分子の構造は、一般にその原料であるジアミンおよびジカルボヒドラジド(以下「ジアミン類」と言う)とジカルボン酸クロライドによって決定される。イソシアネートや、カルボン酸などから本発明の芳香族高分子を合成する場合も、同様である。原料が不明である場合は芳香族ポリアミド組成物から構造分析を行うが、この手法としては、質量分析、核磁気共鳴法による分析、分光分析などを用いることができる。
【0043】
本発明において、ジアミンとしては例えばp−フェニレンジアミン、2−ニトロ−1,4−フェニレンジアミン、2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’− ジメチルベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニルなどが挙げられるが、最も好ましくは1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。
【0044】
本発明において、ジカルボヒドラジドとしては、2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド、1,5−ナフタレンジカルボヒドラジド、ビフェニルジカルボヒドラジド、テレフタル酸ジカルボヒドラジド、イソフタル酸ジカルボヒドラジドなどが挙げられるが、好ましくは2,6−ナフタレンジカルボヒドラジドが用いられる。
【0045】
本発明において、ジカルボン酸クロライドとしてはテレフタル酸ジクロライド、2クロロ−テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ナフタレンジカルボニルクロライド、ビフェニルジカルボニルクロライド、ターフェニルジカルボニルクロライドなどが挙げられるが、好ましくはテレフタル酸ジクロライドまたは2クロロ−テレフタル酸ジクロライドが用いられる。
【0046】
本発明において「高剛性」とは引張り弾性率(ヤング率)が大きいことを意味する。磁気記録媒体として利用する場合、本発明の高分子フィルムは少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上であることが加工時および使用時に負荷される力に対して抵抗でき、平面性が良好となるため好ましい。また少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上であることによりフィルムの薄膜化が可能になる。
【0047】
全ての方向のヤング率が5GPa未満であると、加工時に変形を起こすことがある。また、ヤング率に上限はないが、ヤング率が20GPaを超えると、フィルムの靱性が低下し、製膜および加工が困難になることがある。ヤング率は、好ましくは、5〜20GPa、より好ましくは7〜18GPaであり、さらに好ましくは、10〜16GPaである。
【0048】
また、ヤング率の最大値(Em)とそれと直交する方向のヤング率(Ep)の比、Em/Epが、1.1〜3であると、加工時の裁断性が向上するため好ましい。より好ましくは、1.2〜2.5であり、さらに好ましくは1.5〜2.5である。Em/Epが3を超えると、却って、破断しやすくなることがある。
【0049】
本発明のフィルムは、25℃/75RH%での吸湿率が7%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下であると、使用時および加工時の湿度変化による特性の変化が少なくなるため好ましい。ここでいう吸湿率は、以下に述べる方法で測定する。まず、フィルムを約0.5g採取し、脱湿のため120℃で3時間の加熱を行った後、吸湿しないようにして25℃まで降温し、その降温後の重量を0.1mg単位まで正確に秤量する(この時の重量をW0とする)。次いで、25℃で75RH%の雰囲気下に48時間静置し、その後の重量を測定し、これをW1として、以下の式を用いて吸湿率を求める。
【0050】
吸湿率(%)=((W1−W0)/W1)×100
吸湿率は低い方が好ましいが、現実的には下限は0.03%程度である。
【0051】
ただし、電解質膜として使用する場合は、低い吸湿率は求められない。むしろ、電解質膜を極性基で修飾をしたり、酸をドープすることにより、水との親和性を向上して使用する。
【0052】
また、本発明のフィルムは、JIS−C2318に基づく測定において、少なくとも一方向の破断点伸度が、20%以上であることが好ましい。さらに好ましくは20〜300%、より好ましくは30〜250%であると製膜時および加工時の破断が少なくなるため好ましい。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には、250%程度である。
【0053】
また、本発明のフィルムは、1kHzでの誘電率が4以下であることが好ましい。さらに好ましくは3.5以下であり、最も好ましくは2以下である。誘電率が小さいことにより本発明のフィルムを電子回路基板として使用する場合に信号の遅延を少なくできる。
【0054】
誘電率の測定は、自動平衡ブリッジを用い、測定周波数:1k・1M・10MHz(3水準)、測定温度:室温(21℃)で実施することができる。また、試験片には3端子電極を塗装し供試試料とする。測定条件の一例を挙げると以下のとおりである。
装 置 :インピ−ダンス/ゲイン・フェイズアナライザ− 4194A
HEWLETT PACKARD社製
治 具 :16451B DIELECTRIC TEST FIXTURE
電極 :導電性銀ペ−スト塗装“ド−タイト”藤倉化成(株)製
寸法 :表面電極内円の外径 37mm
表面電極外円の内径 39mm
裏面(対)電極の外径 50mm
測定数 :n=5
試験室雰囲気:21±2℃、60±5%RH
計算式:比誘電率ε、誘電正接tanδは、次式により求められる。
ε=(Cx×t)/(ε0×A)
tanδ=Gx/2πf・Cx
ただし、Cx:測定物の静電容量(F)
t :試験片の厚さ(m)
A :電極の有効面積(m
c :光速
ε0 :真空の誘電率 8.854×10−12(F/m)
=(4π)−1×c−2×10(m・sec−1
Gx:測定物のコンダクタンス(S)
f :測定周波数(ω=2πf)(Hz)
本発明のフィルムは、200℃で30分間、実質的に張力を付与しない状態で熱処理したときの少なくとも一方向の熱収縮率が1%以下であると、加工時の寸法変化、および位相差特性の変化を抑えることができるため好ましい。熱収縮率は、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。なお、熱収縮率は、以下の式で定義される。
【0055】
熱収縮率(%)=((熱処理前の試料長−熱処理し冷却後の試料長)/熱処理前の試料長)×100
熱収縮率は低い方が好ましいが、現実的には下限は0.1%程度である。上記条件で測定した少なくとも一方向の熱収縮率が1%以下であると、本発明の高分子フィルム上に電気回路を形成することや電子部品をハンダ付けすることなど可能となる。また、他部材と貼り合わせる時にフィルムが歪みにくいため、反りが生じにくくなる。
【0056】
本発明のフィルムは、80℃から120℃の熱膨張係数が50〜0ppm/℃であることが好ましい。熱膨張係数は150℃まで昇温した後に、降温過程において測定する。25℃、75Rh%における初期試料長をL0、温度T1の時の試料長をL1、温度T2の時の試料長をL2とすると、T1からT2の熱膨張係数は以下の式で求められる。
【0057】
熱膨張係数(ppm/℃)=((L2−L1)/L0)/(T2/T1)×10
熱膨張係数は、より好ましくは30〜0ppm/℃であり、さらに好ましくは20〜0ppm/℃である。
【0058】
また、本発明のフィルムは、25℃における30%Rhから80%Rhの湿度膨張係数が50〜0ppm/%Rhであることが好ましい。湿度膨張係数の測定は、まずサンプルとなるフィルムを、高温高湿槽に幅1cm、試料長15cmになるように固定し、一定湿度(約30%Rh)まで脱湿し、フィルム長が一定になった後、加湿(約80%Rh)する。これにより試料が伸び始める。約24時間後、吸湿は平衡に達してフィルムの伸びも平衡に達する。この時の伸び量から下式により計算する。
【0059】
湿度膨張係数((cm/cm)/%Rh)=伸び量/(試長×湿度差)
湿度膨張係数は、より好ましくは30〜0ppm/%Rhであり、さらに好ましくは20〜0ppm/%Rhである。熱膨張係数および湿度膨張係数が小さいことで環境による寸法変化が小さくなり、磁気記録材料とした時にエラーが生じにくくなる。
【0060】
以下に本発明の芳香族高分子の製造方法および該芳香族高分子を成形してフィルムを製造する方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
芳香族高分子を得る方法は、芳香族ポリアミドに用いられる種々の方法が利用可能であり、例えば、低温溶液重合法、界面重合法、溶融重合法、固相重合法、蒸着重合法などを用いることができる。低温溶液重合法、すなわち酸ジクロライドとジアミン類から芳香族高分子を得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中で重合を行うことが好ましい。ポリマー溶液は、単量体として酸ジクロライドとジアミン類を使用すると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。また、イソシアネートとカルボン酸との反応は、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行なわれる。
【0062】
2種類以上のジアミン類を用いて重合を行う場合、ジアミン類は1種類づつ添加し、該ジアミン類に対し10〜99モル%の酸ジクロライドを添加して反応させ、この後に他のジアミン類を添加して、さらに酸ジクロライドを添加して反応させる段階的な反応方法、およびすべてのジアミン類を混合して添加し、この後に酸ジクロライドを添加して反応させる方法などが利用可能である。また、2種類以上の酸ジクロライドを利用する場合も同様に段階的な方法、同時に添加する方法などが利用できる。いずれの場合においても全ジアミンと全酸ジクロライドのモル比は95:105から105:95の範囲が好ましく、この値を外れた場合、成形に適したポリマー溶液を得ることが困難となることがある。
【0063】
本発明でいう「溶解」とは懸濁、またはゲル状物を生じることなく流動性を保ったポリマーが溶媒に分散している状態が24時間以上継続することをいう。ここで、ポリマーの溶解工程においては、100℃以下の温度で加熱撹拌することが可能である。
【0064】
これらのポリマー溶液は、そのまま成形体を得るための原液として使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸等の無機溶剤に再溶解して原液を調製してもよい。
【0065】
また、ポリマーの固有粘度(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5以上であることが好ましい。
【0066】
成形体を得るためのポリマー原液には溶解助剤として無機塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシム、塩化リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウムなどを添加することも可能である。無機塩としては1族(アルカリ金属)または2族(アルカリ土類金属)のハロゲン塩が好ましい。さらに好ましくは臭化リチウム、塩化リチウムなどのリチウムハロゲン塩である。本発明の芳香族高分子は、有機溶媒に可溶であるが、その原料となるジカルボヒドラジドは有機溶媒にほとんど不溶であり、また得られるポリマーの溶解性も低いため、溶解助剤を添加することが好ましい。溶解助剤の添加量は、ポリマーに対し1〜50重量%が好ましい。1%以下では溶解助剤の効果が発現しにくいことがある。また、添加量が50%を超えると、製膜時に製膜支持体を腐蝕する等の問題が起きることがある。
【0067】
原液中のポリマー濃度は、好ましくは2〜40重量%、さらに好ましくは5〜35重量%、特に好ましくは10〜25重量%である。ポリマー濃度が2重量%を下回れば、吐出を大きく取る必要があり経済的に不利であり、40重量%を超えれば、吐出量あるいは溶液粘度の関係で細い繊維状成形体あるいは薄いフィルム状成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0068】
ポリマー溶液中のオリゴマ(低分子量物)は、得られる成形体の機械的特性、熱的特性、あるいは使用時の製品品位を低下させることがある。このため分子量1,000以下のオリゴマの量は、ポリマーの1重量%以下であることが好ましい。オリゴマの量は、さらに好ましくは0.5重量%以下である。オリゴマの重量分率は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)に低角度レーザー光散乱光度計(LALLS)および示差屈折率計(RI)を組み入れ、GPC装置でサイズ分別された分子鎖溶液の光散乱強度および屈折率差を溶出時間を追って測定することにより、溶質の分子量とその含有率を順次計算し、最終的には高分子量物質の絶対分子量分布を求め算出することができる。絶対分子量の校正にはジフェニルメタンを用いる。
【0069】
本発明の芳香族高分子の製造において、使用する非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。これらは単独または混合物として用いることができる。さらにはキシレン、トルエンなどのような芳香族炭化水素の使用も可能である。さらにはポリマーの溶解を促進する目的で、溶媒にはポリマーに対し50重量%以下のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の塩を添加することができる。
【0070】
本発明の芳香族高分子には、表面形成、加工性改善などを目的として10重量%以下の無機質または有機質の添加物を含有させてもよい。表面形成を目的とした添加剤としては、例えば、無機粒子ではSiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば、架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、ポリアミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆等の処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0071】
次にフィルムの製造について説明する。本発明の芳香族高分子は有機溶媒に可溶であるため、PPTAの様に濃硫酸を用いた特殊な製膜方法は必ずしも必要としない。上記のように調製された製膜原液は、芳香族ポリアミドと同様にいわゆる溶液製膜法によりフィルム化が行なわれる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがありいずれの方法で製膜されても差し支えないが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。
【0072】
乾湿式法で製膜する場合は、原液を口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を飛散させ、薄膜が自己保持性をもつまで乾燥する。乾燥条件は、例えば、室温〜220℃、60分以内の範囲で行うことができる。またこの乾燥工程で用いられるドラム、エンドレスベルトの表面はなるだけ平滑であれば表面の平滑なフィルムが得られる。乾式工程を終えたフィルムは、支持体から剥離されて湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれ、さらに延伸、乾燥、熱処理が行なわれてフィルムとなる。
【0073】
延伸は、延伸倍率として面倍率で0.8〜8の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.3〜8である。ここで、面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1以下はリラックスを意味する。また、熱処理としては200℃〜500℃、好ましくは250℃〜400℃の温度で数秒から数分間熱処理が好ましく実施される。さらに、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することは有効であり、50℃/秒以下の速度で冷却することが有効である。
【0074】
また、本発明の芳香族高分子フィルムは、一度フィルムに成形した後に、再度300℃以上の高温条件下で再延伸しても構わない。本発明のフィルムの高温延伸工程は、300〜600℃、より好ましくは350〜550℃の温度範囲で行なうことが好ましい。高温延伸は、ポリマーに対して不活性な媒体中で行なうことができる。例えば、空気中、窒素中、アルゴン中、炭酸ガス中、ヘリウム中などである。ポリマーフイルムのガラス転移温度が本質的に高い(250℃以上)ため、低温ではフィルムに亀裂が入り、低延伸倍率で破断してしまう場合がある。
【0075】
次に脱水環化について説明する。上記の方法によって得た原液、すなわち、芳香族アミドカルボヒドラジドの有機溶媒溶液を用い、以下に例示される操作を行う。(1)口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して薄膜とし、脱水環化薬液浴に浸す。(2)口金直前で原液に脱水環化薬液を添加し、口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して冷却し、薄膜とする。あるいは、(3)原液を口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を飛散させ薄膜が自己保持性をもつまで乾燥する。自己支持性のフィルムを支持体からはがし、脱水環化薬液浴に浸す。以上のような方法が例示できるが、脱水環化の方法はこれに限定される物ではない。脱水環化されたフィルムは、さらに延伸、乾燥、熱処理が行なわれてフィルムとなる。熱処理条件としては、200℃〜500℃、好ましくは250℃〜400℃の温度で数秒から数分間が好ましい。
【0076】
本発明のフィルムは、単層フィルムでも、積層フィルムであっても良い。また、本発明のフィルムは、フレキシブルプリント基板、半導体実装用基板、多層積層回路基板、コンデンサー、プリンターリボン、音響振動板、太陽電池のベースフィルム、電解質膜等種々の用途に好ましく用いられる。本発明のフィルムは、少なくとも片面に磁性層を設けた磁気記録媒体として用いられると、高出力および高耐久性を兼ね備えた本発明のフィルムの効果が充分に発揮されるため、特に好ましい。
【0077】
本発明のフィルムに、硫酸やリン酸のような酸をドープして、芳香族高分子/酸複合体とすることにより、酸塩基型炭化水素系高分子電解質膜として利用できる。また、本発明のフィルムは、芳香族高分子を極性基により修飾することで、電解質膜として好適に利用できる。ここで、極性基としては、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などを例示できる。修飾の方法としては、本発明の芳香族高分子フィルムを濃硫酸、クロロ硫酸、発煙硫酸、スルホン酸、ホスホン酸などの溶液に含侵して、修飾する方法(方法1)や、本発明の芳香族高分子を重合する時に、原料として置換基を有する原料を用いる方法(方法2)などが挙げられる。
【0078】
次に、本発明の高分子電解質膜の製造方法について、上記の方法1に基づいて、さらに詳細に説明する。
【0079】
本発明の高分子電解質膜では、極性基が少なくとも膜中の空隙の内部に存在していることが重要である。その極性基としては伝導するイオンによって適宜選択でき、アニオン性基でもカチオン性基でもよい。例えば、燃料電池などのプロトン伝導膜に使用する場合は、アニオン性基が好ましく、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などが挙げられる。
【0080】
高分子反応によってアニオン性基を導入する場合を例を挙げて説明する。芳香族高分子へのホスホン酸基の導入は、例えば、Polymer Preprints, Japan, 51, 750 (2002)等に記載の方法によって可能である。芳香族高分子へのリン酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族高分子のリン酸エステル化によって可能である。芳香族高分子へのカルボン酸基の導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有する芳香族高分子を酸化することによって可能である。芳香族高分子への硫酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族高分子の硫酸エステル化によって可能である。芳香族高分子をスルホン化する方法、すなわちスルホン酸基を導入する方法としては、たとえば特開平2−16126号公報あるいは特開平2−208322号公報等に記載の方法が知られている。具体的には、例えば、芳香族高分子を溶媒中でクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応させることにより、スルホン化することができる。ここで溶媒としては極性基導入剤と反応しないか、または反応が激しくなく、重合体の内に浸透可能な溶媒を使用できる。かかる溶剤の例を挙げると、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素、アセトニトリルなどのニトリル類等が好ましい。溶剤および極性基導入剤は単一でも二種類以上の混合物でもよい。
【0081】
スルホン化剤としては、芳香族高分子をスルホン化できるものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族高分子をスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により、容易に制御できる。また、芳香族高分子へのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基とスルホンアミド基を反応させる方法によって可能である。
【0082】
電解質膜として使用する場合には、例えばHイオン、即ちプロトンは水分子とともに移動すると考えられており、膜が数%〜数十%の吸湿率を有することが好ましい。
【0083】
本発明の高分子電解質膜を用いて高出力、高エネルギー容量の高分子電解質型燃料電池を製造するためには、イオン伝導度、および燃料透過量は、次に述べる範囲であることが好ましい。
【0084】
すなわち、厚み10μm〜500μmの範囲で膜状に加工した高分子電解質膜において、水中のイオン伝導度が10mS/cm以上が好ましい。10mS/cm未満の場合、電池として高出力が得られにくい。好ましくは、40mS/cm以上、さらに好ましくは60mS/cm以上である。上限としては特に設定しないが、膜が燃料により溶解や崩壊しない範囲であれば大きいほうが好ましい。ここでのイオン伝導度は、試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50〜80%の雰囲気中に取り出し、定電位交流インピーダンス法で抵抗を測定して求めることができる。
【0085】
本発明の電解質膜は、燃料電池、食塩製造、飲料水もしくは工業用水の製造、薬品等の脱塩精製、乳製品の処理、減塩醤油の製造、金属や遊離酸の回収または精製、水電解による水素および酸素の製造、塩類の電解による酸およびアルカリの製造などの用途に広く用いられる。本発明の電解質膜は、特に燃料電池用電解質膜として有用である。さらに詳しくは、固体高分子型燃料電池や、ダイレクトメタノール型固体高分子型燃料電池、リン酸型燃料電池などに好適に利用できる。
【0086】
また、本発明のフィルムは、高い耐熱性と機械強度から、電解液の隔壁、すなわちセパレーターとしての利用も可能である。この場合、本発明のフィルムは多孔化して用いることが好ましい。
【0087】
第1図に、固体高分子型燃料電池の模式図を示す。電解質膜1の表面には、白金等を用いた触媒(図示せず)が塗布されている。電解質膜1の両側には、燃料極2と空気極3の二つの電極が設けられている。電極材料としては、カーボン材料などが好ましく用いられる。電極の外側には、セパレーター4が設けられている。図示しないが、各電極とセパレーターの間には、ガスの流路が形成されている。燃料極2側の流路に、水素などの燃料ガス5が供給され、空気極3側の流路に、空気等の酸素を含むガス6が供給されると、触媒上で電気化学反応が起こり、電流が発生する。
【0088】
燃料電池の用途に特に限定は無いが、電子機器用、電気機器用、家庭電源用、商業発電用、航空宇宙用および交通機関などに好適に用いられる。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0090】
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0091】
(1)ヤング率、強度および破断点伸度
フィルムをサンプリングし、ロボットテンシロンRTA−100(オリエンテック社製)を用い、試料幅10mm、試料長50mm、引張速度300mm/分、23℃、65%RHで測定した。試料は製膜の方向(MD方向)を幅方向とし、これと直交する方向を長さ方向とした。
【0092】
(2)吸湿率
フィルムを約0.5g採取し、脱湿のため120℃で3時間の加熱を行った後、吸湿しないようにして25℃まで降温し、その降温後の重量を0.1mg単位まで正確に秤量した。この時の重量をWとした。次いで、25℃で75RH%の雰囲気下に48時間静置し、その後の重量を測定し、これをWとした。以下の式を用いて吸湿率を求めた。
【0093】
吸湿率(%)=((W−W)/W)×100
(3)ポリマーの溶解性
重合終了時、ポリマー溶液が、ゲル化などにより製膜不可能な状態にあるものを×とした。重合終了時、ポリマー溶液が、ゲル化、失透などはあるが製膜可能なものを△とした。また、重合終了時および23℃24時間静置後ともにポリマー溶液が透明であり、製膜可能なものを○とした。
【0094】
(4)伝導度測定方法
イオン伝導度は、試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、25℃、相対湿度50〜80%の雰囲気中に取り出し、次の定電位交流インピーダンス法で抵抗を測定した。
【0095】
Solartron社製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical Interface および Solartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、サンプルをφ2mmおよびφ10mmの2枚の円形電極(ステンレス製)間に加重1kgをかけて挟持した(有効電極面積0.0314cm)。サンプルと電極の界面には、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)の15%水溶液を塗布した。25℃において、定電位インピーダンス測定(交流振幅は50mV)を行い、膜厚方向のイオン伝導度を求めた。
【0096】
(5)ガラス転移温度(Tg):動的粘弾性測定
装置:DMS6100粘弾性スペクトロメータ(セイコー電子工業社製)
ASTM E1640−94に基づき、E’の変曲点をTgとした。装置の限界により、360℃を超えるものは測定できなかったため、「360℃以上」と記載した。
【0097】
(参考例1)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド3.6638g、1,3ビス−(4アミノフェノキシ)ベンゼン4.3850g、N−メチル−2−ピロリドン149.67ml、および臭化リチウム5.98gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド6.091gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム2.139gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0098】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率および吸湿率を測定し、表1に示した。動的粘弾性測定におけるガラス転移温度は360℃以上であった。
【0099】
(参考例2)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド1.4655g、1,3ビス−(4アミノフェノキシ)ベンゼン4.0926g、N−メチル−2−ピロリドン68.31ml、および臭化リチウム4.08gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド4.0604gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム1.426gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0100】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率および吸湿率を測定し、表1に示した。
【0101】
(参考例3)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド2.931g、パラフェニレンジアミン1.2977g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル1.2014g、N−メチル−2−ピロリドン115.89ml、および臭化リチウム4.67gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド6.0906gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム2.1391gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0102】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率および吸湿率を測定し、表1に示した。
【0103】
(参考例4)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド2.4425g、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン4.3250g、N−メチル−2−ピロリドン78.88ml、および臭化リチウム4.68gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド4.0604gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム1.426gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0104】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率および吸湿率を測定し、表1に示した。
【0105】
(実施例5)
参考例4のポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これをジエタノールアミン50重量%およびNMP50重量%の浴に5分間浸し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムを流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率を測定し、表1に示した。
【0106】
(参考例6)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド8.5488g、4,4’ジアミノジフェニルエーテル3.0036g、N−メチル−2−ピロリドン150.30ml、および臭化リチウム9.03gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド10.1510gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム3.5652gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0107】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率および吸湿率を測定し、表1に示した。
【0108】
(実施例7)
参考例6のポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これをジエタノールアミン50重量%およびNMP50重量%の浴に5分間浸し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムを流水中10分間水洗し、さらに300℃5分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率を測定し、表1に示した。
【0109】
(参考例8)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド13.43g、N−メチル−2−ピロリドン188.78ml、および臭化リチウム9gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけて2−クロロ−1,4フタル酸ジクロライド13.06gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム3.92gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0110】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。
【0111】
(実施例9)
参考例8のポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これをジエタノールアミン50重量%およびNMP50重量%の浴に5分間浸し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムを流水中10分間水洗し、さらに300℃5分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。
【0112】
(参考例10)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に2,6−ナフタレンジカルボヒドラジド6.11g、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン 8.71g、N−メチル−2−ピロリドン179ml、および臭化リチウム9gを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド10.16gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム3.57gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は2週間放置後も透明で流動性を保っていた。
【0113】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。
【0114】
(実験例11)
実施例5で得た高分子膜を、3重量%のクロロスルホン酸を添加した1,2−ジクロロエタン中に25℃で15分間浸漬した後、取り出し、メタノールで1,2−ジクロロエタンを洗浄した後、さらに洗浄液が中性になるまで水洗し、厚み72μmの高分子電解質膜を製造した。得られた高分子電解質膜の抵抗は34Ω、イオン伝導度は6.8mS/cmであった。
【0115】
(実験例12)
実施例7で得た高分子膜を、3重量%のクロロスルホン酸を添加した1,2−ジクロロエタン中に25℃で15分間浸漬した後、取り出し、メタノールで1,2−ジクロロエタンを洗浄した後、さらに洗浄液が中性になるまで水洗し、厚み41μmの高分子電解質膜を製造した。得られた高分子電解質膜の抵抗は5Ω、イオン伝導度は6.8mS/cmであった。
【0116】
(比較例1)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中にパラフェニレンテレフタルアミド12.0g、臭化リチウム6.0g、およびN−メチル−2−ピロリドン108mlを入れ、窒素雰囲気下、60℃で攪拌した。48時間後もパラフェニレンテレフタルアミドは溶解せず、製膜不可能であった。
【0117】
(比較例2)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に1,4−フェニレンジアミン1.622g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3.0036g、およびN−メチル−2−ピロリドン70.3mlを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド6.091gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム2.139gで中和して透明なポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は12時間放置後にゲル化、製膜できない状況であった。
【0118】
(比較例3)
攪拌機を備えた200ml4つ口フラスコ中に4,4’−ジアミノジフェニルスルホン4.9664g、およびN−メチル−2−ピロリドン63.14mlを入れ、窒素雰囲気下、氷冷下攪拌した。10分から30分後にかけてテレフタル酸ジクロライド4.0604gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム1.426gで中和して透明なポリマー溶液を得た。
【0119】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い、芳香族高分子フィルムを得た。得られたフィルムのヤング率および吸湿率を測定し、表1に示した。
【0120】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、非プロトン性極性溶媒可溶で、フィルムに成形した場合にヤング率が高く、破断点伸度が大きくかつ吸湿率の低い、芳香族アミドカルボヒドラジドおよびそれを脱水環化した芳香族高分子が得られた。本発明の芳香族高分子は、ハロゲン原子を含有しなくても優れた特性を有するので、ハロゲン含有高分子を好まない最近の風潮に合致する。
【0122】
本発明の芳香族高分子を含むフィルムは、磁気記録媒体、フレキシブルプリント基板、半導体実装用基板、多層積層回路基板、コンデンサー、プリンターリボン、音響振動板、太陽電池のベースフィルム、電解質膜等種々の用途に好ましく用いられる。磁気記録媒体として用いられると、本発明の効果が充分に発揮されるため、特に好ましい。
【0123】
本発明の芳香族高分子を含むフィルムは、酸をドープして、芳香族高分子/酸複合体とすることにより、酸塩基型炭化水素系高分子電解質膜として利用できる。また、本発明の芳香族高分子を含むフィルムは、芳香族高分子を極性基により修飾することで、電解質膜として好適に利用できる。本発明の電解質膜は、特に燃料電池用電解質膜として有用である。
【0124】
また、本発明の方法によれば、カルボヒドラジド構造を温和な条件で安価に反応させることができた。
【符号の説明】
【0125】
1:電解質膜
2:燃料極
3:空気極
4:セパレーター
5:燃料ガス
6:酸素を含むガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボヒドラジド構造を有する化合物を、酸および塩基から選ばれた薬品により化学反応させることにより得られうる化合物。
【請求項2】
カルボヒドラジド構造を有する化合物を、酸および塩基から選ばれた薬品により化学反応させる、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
塩基が、炭素数0〜10の含窒素化合物である請求項2に記載の化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163627(P2010−163627A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100619(P2010−100619)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願2005−503035(P2005−503035)の分割
【原出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】