説明

カルボン酸ニトリルを反応させるための触媒

本発明は、カルボン酸ニトリルと水とを反応させるための触媒であって、実験式MnOx[式中、xは、1.7〜2.0の範囲である]を有する少なくとも60質量%の二酸化マンガン、および少なくとも1つの可塑剤を含む触媒に関する。本発明は、さらに、上記触媒を製造するための方法、およびカルボン酸ニトリルと水とを本発明による触媒の存在下で反応させることによってカルボン酸アミドを製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸ニトリルと水とを反応させることによってカルボン酸アミドを製造するための触媒に関する。本発明は、さらに、これらの触媒を製造するための方法に関する。
【0002】
二酸化マンガンを含む触媒の存在下でカルボン酸ニトリルと水とを反応させることによるカルボン酸アミドの製造は、しばらくの間、先行技術であった。カルボン酸アミドは、工業において中間体として必要とされることが多い。例えば、α−ヒドロキシイソブチルアミドは、メタクリル酸またはメタクリル酸エステル、特にメタクリル酸メチルの製造に貢献することができる。
【0003】
多くの文献の実例として、文献DE1593320が挙げられる。DE1593320には、脂肪族ニトリルを用いて90%超の収率が達成された、二酸化マンガンを利用してニトリルをアミドに加水分解するための方法が記載されている。この方法は、高速であるとともに良好な収率を提供する。しかし、短所は、触媒の耐用寿命が短く、機械安定性が低いことである。したがって、連続的な手順では、短時間の後に製造を停止して触媒を取り換えなければならない。この処理は、非常に高いコストを伴い、停止によって手順全体の生産性が低下する。
【0004】
特許JP09104665には、活性二酸化δマンガンの製造が記載されており、表面積の大きさを介するその活性が規定されている。本明細書に記載の触媒は、非常に高い活性を示す。
【0005】
しかし、ここでも上記の短い耐用寿命の問題が存在する。これは、特に大きい表面積を有する触媒に特に当てはまる。
【0006】
加水分解に使用する触媒の寿命を向上させるために、既に多くの試みがなされてきた。例えば、文献EP379111A2には、高含有量のアルカリ金属を有する二酸化マンガン触媒の存在下でのα−ヒドロキシカルボン酸ニトリルの加水分解が記載されている。これらの触媒は、アルカリ金属の含有量が大きいため、特に高度な活性および耐用寿命を示す。加水分解を特に4〜8の範囲のpHで実施することができる。しかし、この範囲のpHは、この文献に詳細に示されている触媒を使用しなければ、触媒の長い耐用寿命が確保されない(EP379111A2比較例1参照)。また、この触媒は、多くの工場においてこれらの触媒に求められる機械的要件を満たさない。
【0007】
加えて、文献EP545697A1には、触媒の寿命を向上させるための特定のヘテロポリ酸の使用が記載されている。触媒の耐用寿命のさらなる向上を促進剤の使用によって達成することができる。反応中に化合物を系に添加する。加水分解反応におけるpHは、4以上であると使用されるアセトンシアノヒドリンが触媒の寿命を低下させるため、4未満でなければならない。4を超えるpH値では、使用されたアセトンシアノヒドリンが容易に分解し、触媒特性を悪化させる副産物を形成し得る。この文献は、文献EP379111A2の教示と明らかに矛盾する(EP545697A1、3頁、第3〜6行参照)。
【0008】
加えて、文献EP433611A1には、触媒を安定させるための酸化剤の使用が記載されている。同様に、文献EP945429A1には、触媒耐用寿命を長くするために酸化剤を使用し、少量のアミンの添加によってさらなる向上が達成可能であることが記載されている。文献EP433611A1およびEP945429A1のいずれにも、pHの所定の値への調整は記載されておらず、文献EP773212A1によれば、触媒の耐用寿命の向上は、アミンの使用を介してのみ達成可能である。したがって、EP945429A1に記載の向上は、pHの調整によるものでなく、文献EP773212A1およびEP433611A1の教示の組合せによるものである。この文脈において、特にシアノヒドリンは、一般的に酸の添加によって安定化されるため、それらの実施例に開示されている試験データは、恐らくは酸性条件下で得られたものであることが強調されるべきである。これは、例えば、以上に引用されている文献EP379111A2からも明らかである。したがって、文献EP433611A1およびEP945429A1に開示されている試験から特定のpHを推断するのは不可能である。
【0009】
加えて、カルボン酸アミドを製造するための、二酸化マンガンを含む触媒が文献EP0956898A2に開示されている。この文献によれば、触媒の機械安定性をSiO2の使用によって向上させることができる。この場合、早くもMnO2の沈降中に結合剤を添加することができる。しかし、そのようにして得られた触媒は、特に高度な要求を満たさない特性のプロファイルを有することがわかる。
【0010】
反応器システムによっては、触媒は、特殊な形状を有さなければならない。EP0956898A2には、触媒を製造するのに使用される材料を押出成形可能なことが記載されている。しかし、これらの試験を再生するときに、成形に使用される装置が極めて高度な応力に曝され、この装置の早発的故障を招き得る。
【0011】
以上に既に引用されている文献の教示が触媒特性の向上につながるとしても、機械安定性、特に耐摩耗性および圧力安定性を向上させながら、触媒の非常に高い活性を維持する永続的な必要性が存在する。プラントを連続運転する場合の交換サイクルを延ばし、触媒の交換のコストを削減するために、寿命を向上させることに関して、さらなる開発の必要性が存在する。因みに、非常に大量の触媒が必要とされることが明記されるべきである。
【0012】
したがって、先行技術に鑑みた本発明の目的は、優れた活性とともに高度な機械安定性を有する、カルボン酸ニトリルと水とを反応させるための触媒を提供することである。特に、触媒は、高度な圧力安定性および高度な耐摩耗性を発揮すべきである。また、触媒は、触媒反応の特に高度な選択性および高度な変換をもたらすべきである。さらに、触媒、または触媒を製造するために使用される材料は、簡単かつ安価に成形可能であるべきである。同時に、成形に使用される装置は、装置の早発的な故障を回避できるように、受ける応力が比較的低いレベルであるべきである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、カルボン酸アミドを製造するための方法であって、特に簡単かつ安価に、高収率で実施できる方法を提供するものであると考えられる。特定の課題は、より具体的には、高速、低エネルギー入力および低収率損失で、触媒の特に長い耐用寿命を確保する方法を提供することであった。
【0014】
これらの目的、および明記されていないが、序説により本明細書に記載の文脈から直ちに誘導または認識可能であるさらなる目的は、請求項1のすべての特徴を有する触媒によって達成される。発明の触媒に対する適切な修正が従属請求項に保護される。以上に詳述されている触媒を製造するための方法は、請求項13の主題である。カルボン酸アミドを製造するための方法に関して、請求項21は、この目的の基礎をなす課題の解決策を提供する。
【0015】
よって、本発明は、カルボン酸ニトリルと水とを反応させるための触媒であって、実験式MnOx[式中、xは、1.7〜2.0の範囲である]を有する少なくとも60質量%の二酸化マンガン、および少なくとも1つの可塑剤を含むことを特徴とする触媒を提供する。
【0016】
これらの手段は、意外にも、特に優れた特性のプロファイルを示す、カルボン酸ニトリルと水とを反応させるための触媒を提供することを可能にする。例えば、本発明の触媒は、優れた活性とともに高度な機械安定性を有する。同時に、発明の触媒は、発生する副反応の程度を増大させることなく、高い変換率で実施できる反応の意外にも高度な選択性をもたらす。また、触媒は、高度な圧力安定性および高度な耐摩耗性を発揮する。加えて、触媒を簡単かつ安価に成形することができる。同時に、成形に使用される装置は、装置の早発的な故障を回避できるように、受ける応力が比較的低レベルである。
【0017】
また、本発明の触媒は、カルボン酸ニトリルと水とを反応させることによってカルボン酸アミドを製造するための意外にも有利な方法を可能にする。この反応は、以後、加水分解とも称する。驚くべき利点の1つは、本発明による方法が、高速、低エネルギー入力および低収率損失で、触媒の特に長い耐用寿命を確保することである。これは、プラントの連続運転の過程で触媒を交換するための運転停止が希にしか必要とされないため、該方法を特に効率的および安価に実施することを可能にする。
【0018】
本発明の触媒は、実験式MnOx[式中、xは、1.7〜2.0の範囲である]を有する少なくとも60質量%、好ましくは80質量%の二酸化マンガンを含む。二酸化マンガンは、いくつかの多形体で存在する。それらは、触媒としての挙動が有意に異なる。最も安定した多形体である軟マンガン鉱(ベータ−二酸化マグネシウム)は、最も強い結晶性を有する。結晶性は、さらなる変性でより弱くなり、拡張してα−またはδ−MnO2を含む非晶質物質になる。多形体をX線回折によって割り当てることができる。二酸化マンガンの化学的または触媒的に特に活性な形は、部分的に水和され、ヒドロキシル基をさらに含んでいてよい。
【0019】
二酸化マンガン含有触媒は、さらなる化合物またはイオンを含むことができる。これらは、特に、MnOxの結晶格子に導入するか、または製造の過程でMnOxもしくは触媒の別の成分の表面に堆積することができるアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを含む。好適なアルカリ金属イオンは、特にリチウム、ナトリウムおよび/またはカリウムイオンである。好適なアルカリ土類金属イオンは、特に、カルシウムおよび/またはマグネシウムイオンを含む。アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量は、好ましくは、マンガン1原子当たり0.6原子未満である。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とマンガンとの原子比は、好ましくは、0.01:1〜0.5:1の範囲、より好ましくは0.05:1〜0.4:1の範囲である。
【0020】
加えて、二酸化マンガン含有触媒は、同様に、MnOxの結晶格子に導入するか、またはMnOxもしくは触媒の別の成分の表面に堆積することができる促進剤を含むことができる。好適な促進剤は、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、Ga、In、Ge、SnおよびPtを含む。促進剤の含有量は、好ましくはマンガン1原子当たり0.3原子未満であってよい。促進剤とマンガンとの原子比は、好ましくは、0.001:1〜0.2:1の範囲、より好ましくは0.005:1〜0.1〜1の範囲である。二酸化マンガン含有触媒は、好ましくは、0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%の促進剤を含むことができ、このパラメータは、金属または金属イオンとして測定された質量に基づく。
【0021】
好適な二酸化マンガンは、粉末として測定されたX線スペクトル(XRD)に、32.0〜42.0°の範囲の少なくとも1つの反射を有する。X線スペクトルを、例えば、PanalyticalのXpert pro計測器を用いて得ることができる。32.0〜42.0°の範囲のこの反射は、反射の最大値として測定された20°から65°の範囲のさらなる強度に関して最大の強度を有する。触媒を製造するための特に好適な二酸化マンガンは、なかでもX線スペクトルから確認できる低結晶性を示す。特に好適な二酸化マンガンの構造を、ICDD(国際回折データセンター)に記載されている構造番号44−0141または72−1982に割り当てることができ、44−0141による構造を有する二酸化マンガンが特に好ましい。
【0022】
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属イオンならびに促進剤を、例えば、二酸化マンガンまたは触媒の製造の過程において塩の形で添加することができる。例えば、特に、上記物質のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩および水酸化物が使用可能であり、水に可溶の化合物を使用するのが好ましい。
【0023】
本発明の特定の態様において、発明の触媒を製造するのに使用される二酸化マンガンは、試験法DIN66131によって測定される比表面積(BET)が50〜1000m2毎グラム、より好ましくは100〜300m2毎グラム、最も好ましくは150〜250m2毎グラムの範囲であってよい。
【0024】
発明の触媒の製造に使用できる二酸化マンガンの製造は、それ自体が既知であり、例えば、EP−A−0379111、EP−A−0956898、EP−A−0545697およびEP−A−0433611に記載されている。本発明に従って使用される二酸化マンガンを、好ましくは、過マンガン酸塩、例えば過マンガン酸カリウムによるMn2+塩、例えばMnSO4の酸化によって得ることができる(Biochem.J.,50,p.43(1951)およびJ.Chem.Soc.,p.2189,1953参照)。加えて、好適な二酸化マンガンを、水溶液中での硫酸マンガンの電解酸化によって得ることができる。
【0025】
44−0141による構造を有する、触媒を製造するために本発明に従って使用可能な二酸化マンガンを、例えば、0.71molのMn(II)SO4(溶液中の全Mn2+含有量が15質量%)、0.043molのZr(IV)(SO42、0.488molの濃硫酸および13.24molの水を含む水溶液を64.5molの水中1.09molのKMnO4の溶液に迅速に添加することによって得ることができる。沈殿が形成された上澄み溶液を3時間にわたって90℃に加熱することができる。続いて、沈殿を濾別し、1リットルの水で4回洗浄し、110℃で12時間乾燥させることができる。
【0026】
発明の触媒は、促進剤またはさらなる添加剤を場合によって供給することができる上記二酸化マンガンに加えて、少なくとも1つの可塑剤を含む。
【0027】
可塑剤は、発明の触媒の簡単で安定した成形を可能にする。よって、可塑剤は、触媒を製造するための材料の可塑変形性を向上させる化合物である。これは、特定の量の液体(通常は水)の添加後に、破壊することなく特定の圧力下で、発明の触媒を製造するための材料を成形可能にする(流動させる)特性を向上させ、成形が終了した後(減圧後)に新たな形が保持される。この特性は、例えば、触媒を製造するための材料に存在する粒子が互いに滑動する場合に達成される。形状を維持するために、加えられる圧力は、最初は抵抗に妨害される(物質は弾性挙動を示す)。圧力が特定の最小値、すなわち降伏値に達すると、材料が流動を開始する。次いで、この種の流動は、液体の場合は粘性流動からの限界決定のための弾性可塑流と称する。意外にも、結合剤を使用する場合、または結合剤として機能する可塑剤を使用する場合に、可塑剤の使用を通じて、触媒の機械特性、例えば耐摩耗性および圧縮強度を向上させることが可能である。同時に、意外にも、触媒の高度な活性および寿命を高レベルに維持するか、またはそれを向上させることが可能である。
【0028】
使用される可塑剤は、400℃未満、好ましくは250℃未満の低温で触媒から実質的に除去することができる有機化合物であってよい。
【0029】
好適な可塑剤は、二酸化珪素(SiO2)を含む。可塑剤は、好ましくは、粘土鉱物、特に薄板状珪酸塩、例えば、ジッカイト、フリント、イライト、ノントロナイト、ヘクトライト、カオリナイト、モントモリロナイトである。好適な二酸化珪素含有可塑剤は、顕著な小板構造および高度な微粒度を有する。粒径は、例えば沈降法によって測定可能なD95値として測定した場合に、好ましくは1500nm未満、好ましくは700nm未満である。この目的のために、なかでも、Micromeritics GmbHのSediGraph(登録商標)5100計測器を使用することが可能である。二酸化珪素含有可塑剤は、以上に詳述された触媒の機械特性を予想外に向上させることを可能にする。
【0030】
好適な可塑剤は、0.5〜3の範囲、より好ましくは1.5〜2の範囲のモース硬度を有する。
【0031】
適切には、発明の触媒は、制限することを意図せずに、一般には0.1〜30質量%、より好ましくは1〜15質量%の可塑剤を含む。
【0032】
触媒は、好ましくは、少なくとも1つの結合剤を含む。この場合、可塑剤は、それ自体結合剤として機能することができる。加えて、結合剤として、可塑化作用を有さない化合物を添加することができる。結合剤は、多くの要件を満たす触媒の機械安定性および圧縮強度をもたらす。結合剤は、好ましくは、二酸化珪素(SiO2)を含み、特に50〜1200m2/gの範囲、より好ましくは150〜400m2/gの範囲の比表面積を有する珪酸塩が特に好ましい。本発明の特定の態様において、結合剤は、それぞれSiO2を含む様々な化合物を含むことができる。結合剤は、より好ましくは、触媒の製造の過程で粉末状である珪酸塩を含み、立体網状珪酸塩(Geruestsilikat)および/または沈降ケイ酸を使用することが特に好ましい。粉末状結合剤は、レーザ回折、例えばMalvern Mastersizer(登録商標)型2000によって測定された粒径が好ましくは0.2〜200μmの範囲、より好ましくは2〜50μmの範囲である。
【0033】
加えて、触媒の製造の過程においてケイ酸ゾルの形で存在するSiO2を結合剤として使用することが可能である。この触媒を製造するために好適に使用されるケイ酸ゾルは、粒子の径に基づいて好ましくは1〜100nm、より好ましくは5nmから75nm、最も好ましくは7〜10nmの範囲の粒径を有する。
【0034】
特定の構成の発明の触媒は、好ましくは触媒の製造の過程においてケイ酸ゾルの形で存在する結合剤、および触媒の製造の過程で粉末状である結合剤を含む。適切には、ケイ酸ゾルと粉末状結合剤との質量比は、20:1〜1:1、より好ましくは15:1〜5:1の範囲であってよく、これらのデータは、ケイ酸ゾルの固形分に基づく。
【0035】
触媒における結合剤の割合は、好ましくは0.9質量%から30質量%の範囲、より好ましくは2質量%から20質量%の範囲である。
【0036】
適切には、可塑剤と結合剤の合計量は、触媒の質量に基づいて、1〜30質量%の範囲、より好ましくは3〜20質量%の範囲であってよい。結合剤と可塑剤の質量比は、好ましくは、200:1〜1:20、より好ましくは20:1〜5:1の範囲である。これらのデータは、特に、可塑化効果を有するとしてもわずかである結合剤に基づく。可塑化効果を有する結合剤は、この文脈で可塑剤に割り当てられる。触媒の製造の過程において液体を含む結合剤または可塑剤を使用する場合は、これらのデータは、結合剤または可塑剤の固形分に基づく。
【0037】
特に好適な触媒は、例えば、1.0〜30質量%、特に3〜20質量%のSiO2、0.1〜10質量%、特に2〜7質量%のK2O、0.0〜5質量%、特に0.2〜4質量%のZrO2、75〜99質量%、特に85〜98質量%のMnO2を含む。触媒は、以上に記載されたさらなる元素を含む。触媒の組成物を半定量的X線蛍光分析によって測定することができる。
【0038】
触媒を、例えば、顆粒または乾燥凝集体の形で使用することができ、粒径は、多くの場合、使用される反応容器に左右され得る。好適な乾燥凝集体は、0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mmの範囲の径を示す。好適な押出物の適切な計は、0.4mmから10mmの範囲、より好ましくは0.8mmから6mmの範囲である。好適な押出物の長さは、2mmから10mmの範囲、より好ましくは3mmから5mmの範囲である。
【0039】
発明の触媒を、好ましくは、少なくとも1つの粉末状二酸化マンガンおよび少なくとも1つの粉末状可塑剤を混合して凝集体を得る方法によって製造することができる。
【0040】
凝集体を得るために、好ましくは少なくとも1つの粉末状二酸化マンガンおよび少なくとも1つの粉末状可塑剤を含む混合物を液体結合剤と混合することができる。
【0041】
液体結合剤は、本明細書において、自由流動形で存在し、適切であれば乾燥後に触媒の成分を結合すること、すなわち圧縮強度および耐摩耗性などの機械特性を向上させることが可能な組成物を指すものと理解される。液体結合剤は、好ましくは水、より好ましくは少なくとも1つのケイ酸ゾルを含む。
【0042】
適切には、以上に詳述されている凝集体を、強力ミキサーの使用によって得ることができる。強力ミキサーは、システムへの高エネルギーの入力をもたらすことができる装置である。強力ミキサーはそれ自体既知である。これらは、例えば、アイリッヒミキサーおよびZ−アーム混練機を含む。この文脈において、結合剤含有量、水分含量、製品微粒度およびエネルギー入力、特にミキサー速度および幾何構造、充填量および処理時間を介して、凝集挙動に影響を与えることができる。この主題に関する貴重な情報を、特に、提示される例に見いだすことができる。
【0043】
強力ミキサーでの組成物の処理では、すべての成分の強力な混合および材料の予備圧縮を達成する。予備圧縮は、例えばアジテーターおよびワイパーを含み得る、強力ミキサーに存在する内部構造物の運動、ならびに付随する剪断力を通じてのエネルギーの導入によって達成される。
【0044】
このようにして製造された凝集体を、「ペレット」の形で乾燥後に触媒としてそのまま使用するか、あるいは湿った状態で様々な方法によりさらに成形することができる。乾燥凝集体の粒径は、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mmの範囲であり、これらの数字は、特に球形凝集体に基づく。
【0045】
本発明の特定の態様において、最初に得られた凝集体を押出成形することができる。意外にも、混合物を押出成形して、発明の触媒を特に簡単に製造することが可能である。これらの混合物を、例えば簡単な乾燥によって、高活性触媒に変換することができる。意外にも、押出は、触媒の選択性および活性を向上させることができ、活性の向上は、例えば変換率の向上によって示される。
【0046】
例えば、以下の装置を使用して成形が可能である。
−Haendleスクリュー押出機(PZVM8b型)
−Hutt顆粒成形機システム(GR1型)
−Schlueter環状ダイプレス(PP127型)
−Sproud Waldron環状ダイプレス
【0047】
円形断面の他に、「三葉」(=クローバー葉形)または環などの特殊な形状も可能である。
【0048】
湿った凝集体または押出物は、好ましくは、触媒の触媒活性の有意な低下をもたらさない温度で乾燥される。乾燥温度は、好ましくは10〜200℃の範囲、より好ましくは80〜120℃の範囲である。乾燥時間は、乾燥が行われる乾燥温度および圧力に応じて、広い範囲内であってよい。多くの場合、十分な乾燥時間は、10分から30時間の範囲、より好ましくは20分から10時間の範囲である。
【0049】
本発明の触媒は、優れた機械特性を有する。
【0050】
発明の触媒は、カルボン酸アミドの効率的な製造を可能にする。ここで使用されるカルボン酸ニトリルは、特に、一般的には式−CNの基を有するものである。カルボン酸アミドは、式−CONH2の少なくとも1つの基を含む。これらの化合物は、当該技術分野で既知であり、例えば、Roempp Chemie Lexikon第2版(CD−ROM)に記載されている。
【0051】
使用される反応物質は、脂肪族または脂環式カルボン酸ニトリル、飽和または不飽和カルボン酸ニトリルならびに芳香族および複素環式カルボン酸ニトリルである。反応物質として使用されるカルボン酸ニトリルは、1つまたは2つ以上のニトリル基を有することができる。加えて、芳香族基または脂肪族基に、塩素、臭素、フッ素、酸素、硫黄および/または窒素原子などのヘテロ原子、特にハロゲン原子を有するカルボン酸ニトリルを使用することも可能である。特に好適なカルボン酸ニトリルは、好ましくは、2〜100個、好ましくは3〜20個、最も好ましくは3〜5個の炭素原子を含む。
【0052】
飽和または不飽和炭化水素基をそれぞれ有する脂肪族カルボン酸ニトリルとしては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、カプロニトリルおよび他の飽和モノニトリル;マロニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルおよび他の飽和ジニトリル;α−アミノプロピオニトリル、α−アミノメチルチオブチロニトリル、α−アミノブチロニトリル、アミノアセトニトリルおよび他のα−アミノニトリル;それぞれカルボキシル基を有するシアノ酢酸および他のニトリル;アミノ−3−プロピオニトリルおよび他のβ−アミノニトリル;アシロニトリル、メタクリロニトリル、アリルシアニド、クロトニトリルまたは他の不飽和ニトリル、ならびにシクロペンタンカルボニトリルおよびシクロヘキサンカルボニトリルまたは他の脂環式ニトリルが挙げられる。
【0053】
芳香族カルボン酸ニトリルとしては、ベンゾニトリル、o−、m−およびp−クロロベンゾニトリル、o−、m−およびp−フルオロベンゾニトリル、o−、m−およびp−ニトロベンゾニトリル、p−アミノベンゾニトリル、4−シアノフェノール、o−、m−およびp−トルニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、アニソニトリル、α−ナフトニトリル、β−ナフトニトリルおよび他の芳香族モノニトリル;フタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリルおよび他の芳香族ジニトリル;ベンジルシアニド、シナモイルニトリル、フェニルアセトニトリル、マンデロニトリル、p−ヒドロキシフェニルアセトニトリル、p−ヒドロキシフェニルプロピオニトリル、p−メトキシフェニルアセトニトリル、およびそれぞれアラルキル基を有する他のニトリルが挙げられる。
【0054】
複素環式カルボン酸ニトリルとしては、特に、5もしくは6員環を含み、ヘテロ原子としての窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を有する複素環式基をそれぞれ有するニトリル化合物、例えば、それぞれ硫黄原子または酸素原子をヘテロ原子として有する2−チオフェンカルボニトリル、2−フルオロニトリルおよび他のニトリル;それぞれ窒素原子をヘテロ原子として含む2−シアノピリジン、3−シアノピリジン、4−シアノピリジン、シアノピラジンおよび他のニトリル;5−シアノインドールおよび他の縮合複素環;シアノピペリジン、シアノピペラジンおよび他の水素化複素環式ニトリルおよび縮合複素環式ニトリルが挙げられる。
【0055】
特に好適なカルボン酸ニトリルとしては、特にα−ヒドロキシカルボン酸ニトリル(シアノヒドリン)、例えば、ヒドロキシアセトニトリル、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリル、α−ヒドロキシ−γ−メチルチオブチロニトリル(4−メチルチオ−2−ヒドロキシブチロニトリル)、2−ヒドロキシプロピオニトリル(ラクトニトリル)および2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニトリル(アセトンシアノヒドリン)が挙げられ、アセトンシアノヒドリンが特に好ましい。
【0056】
二酸化マンガン含有触媒に添加される反応混合物が6.0〜11.0、好ましくは6.5〜10.0、最も好ましくは8.5〜9.5の範囲のpHを有する場合は驚くべき利点を達成することができる。因みに、pHは、オキソニウムイオン(H3+)の活性の負の10を底とする対数として定義される。したがって、このパラメータは、温度を含む要因に左右され、このパラメータは反応温度に基づく。本発明の目的では、多くの場合、電気測定装置(pH計)を用いたこのパラメータの測定だけで十分であり、多くの場合は反応温度の代わりに室温での測定で十分である。
【0057】
酸または塩基を添加せずに、慣例的に使用される反応物質の混合物は、一般には3〜5.5の範囲のpHを有する。したがって、塩基性物質を添加して反応混合物のpHを調整することが好ましい。このために、好ましくは、アルカリ土類金属またはアルカリ金属によって形成されることがより好ましい水酸化物または酸化物を使用することが可能である。これらは、Ca(OH)2およびMg(OH)2、MgO、CaO、NaOH、KOH、LiOHまたはLi2Oを含む。ここでは、LiOHまたはLi2Oを使用するのが極めて好ましい。アミンを使用してpHを調整することも理論的に可能である。しかし、アミンを使用すると、触媒の寿命に悪影響が及ぼされ得ることが判明した。したがって、特に反応混合物におけるpHを調整するためのアミンの割合は、好ましくは多くとも0.1質量%、より好ましくは多くとも0.01質量%、最も好ましくは多くとも0.001質量%である。特定の態様において、反応混合物のpHを調整するために有意な含有量のアミンが添加されない。本発明の文脈において、アミンのなかにアンモニア(NH3)が含まれる。
【0058】
この文脈において、二酸化マンガン含有触媒は、多くの場合に両性の特性を有することが強調されるべきである。したがって、反応の過程での反応混合物のpHは、触媒のタイプおよび量によって有意に影響される。「二酸化マンガン含有触媒に添加される反応混合物」という表現は、触媒が存在しない条件でpHが測定されることを明らかにしている。反応混合物のさらなる構成成分としては、例えば溶媒、水、カルボン酸ニトリル等が含まれる。
【0059】
意外にも、リチウムイオンの存在下での加水分解は、二酸化マンガン含有触媒の特に長い寿命をもたらすことが判明した。よって、本発明による方法をさらに向上させるために、リチウム化合物、特に水溶性リチウム塩、例えばLiCl、LiBr、Li2SO4、LiOHおよび/またはLi2Oを反応混合物に添加することが可能である。リチウム化合物の濃度は、好ましくは、0.001〜5質量%、より好ましくは0.01質量%から1質量%である。その添加を加水分解反応の最中または前に実施することができる。
【0060】
カルボン酸ニトリルのカルボン酸アミドへの加水分解は、好ましくは、酸化剤の存在下で生じる。好適な酸化剤は、当該技術分野で広く知られている。これらの酸化剤としては、酸素含有ガス、過酸化物、例えば過酸化水素(H22)、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化ベンゾイルおよび過酸化ジアセチル;過酸または過酸の塩、例えば、過ギ酸、過酢酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム;オキソ酸もしくはオキソ酸の塩、例えば、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過塩素酸、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、過マンガン酸塩、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムおよび過マンガン酸リチウム、クロム酸の塩、例えば、クロム酸カリウム、クロム酸ナトリウムおよびクロム酸アンモニウムが挙げられる。
【0061】
使用される酸化剤の量は、広い範囲内にあってよいが、反応物質および生成物が酸化剤によって酸化されるべきではない。したがって、これらの物質の酸化敏感性が、酸化剤の使用を制限し得る。下限は、達成すべき触媒の耐用寿命の向上により決まる。酸化剤とカルボン酸ニトリルのモル比は、好ましくは、0.001:1〜2:1、より好ましくは0.01:1〜1.5:1の範囲である。
【0062】
これらの酸化剤を、例えば溶液および/またはガスとして反応混合物に添加することができる。使用される酸化剤は、より好ましくは、酸素を含むガスである。この場合、ガスは、分子酸素(O2)またはオゾン(O3)を含むことができる。加えて、酸化剤として使用されるガスは、さらなるガス、特に不活性ガス、例えば窒素ガスまたは希ガスを含むことができる。特定の態様において、ガスは、好ましくは、50〜98容量%の不活性ガス、ならびに2〜50容量%の分子酸素(O2)を含むことができる。好適なガスとし手は、特に空気が挙げられる。加えて、20容量%未満、特に10容量%未満の分子酸素を含むガスを使用することも可能であり、これらのガスは、一般には少なくとも1容量%、好ましくは少なくとも2容量%の酸素を含む。
【0063】
反応混合物に通される酸素含有ガスの量は、二酸化マンガン含有触媒1kgに基づいて、好ましくは1〜5000リットル/時の範囲、より好ましくは10〜1000リットル/時の範囲であってよい。
【0064】
カルボン酸ニトリルを加水分解するのに必要な水を、多くの場合は、溶媒として使用することができる。水とカルボン酸ニトリルのモル比は、好ましくは少なくとも1である。水とカルボン酸ニトリルのモル比は、より好ましくは0.5:1〜25:1であり、最も好ましくは1:1〜10:1の範囲である。
【0065】
加水分解に使用される水は、高い純度を有することができる。しかし、この特性は必須ではない。したがって、淡水の他に、多少の不純物を含む水道水または処理水を使用することも可能である。よって、加水分解にリサイクル水を使用することも可能である。
【0066】
加えて、カルボン酸ニトリルの加水分解のために、反応混合物にさらなる構成成分が存在してよい。これらは、アルデヒドおよびケトンなどのカルボニル化合物、特に、カルボン酸ニトリルとして好適に使用されるシアノヒドリンを製造するために使用されてきたものを含む。例えば、アセトンおよび/またはアセトアルデヒドが反応混合物に存在してよい。これは、例えば、US4018829−Aに記載されている。添加されるアルデヒドおよび/またはケトンの純度は、一般には特に重要でない。よって、これらの物質は、不純物、特にアルコール、例えば、メタノール、水および/またはメチルα−ヒドロキシイソブチレート(MHIB)を含み得る。反応混合物におけるカルボニル化合物、特にアセトンおよび/またはアセトアルデヒドの量を広い範囲内で変化させることができる。カルボニル化合物は、好ましくは、カルボン酸ニトリル1モル当たり0.1〜6mol、好ましくは0.1〜2molの範囲の量で使用される。
【0067】
加水分解反応が実施される温度は、一般には10〜150℃の範囲、好ましくは20〜100℃の範囲、より好ましくは30〜80℃の範囲であってよい。
【0068】
反応温度に応じて、加水分解反応を減圧または加圧下で実施することができる。この反応は、好ましくは、0.1〜10バール、より好ましくは0.5〜5バールの圧力範囲内で実施される。
【0069】
加水分解反応の反応時間は、使用されるカルボン酸ニトリル、触媒の活性および反応温度を含む要因に左右され、このパラメータは広い範囲内にあってよい。加水分解反応の反応時間は、好ましくは、30秒から15時間、より好ましくは15分から10時間、最も好ましくは60分から5時間の範囲である。
【0070】
連続的な手順において、滞留時間は、好ましくは30秒から15時間、より好ましくは15分から10時間、最も好ましくは60分から5時間である。
【0071】
触媒へのカルボン酸ニトリルの充填量は、広い範囲内であってよい。1時間当たり触媒1g当たり0.01〜2.0g、より好ましくは0.05〜1.0g、最も好ましくは0.1〜0.4gのカルボン酸ニトリルを使用するのが好ましい。
【0072】
反応を、例えば、固定床反応器または懸濁反応器で実施することができる。ガスが酸化剤として使用される場合は、特に、ガス、固体および液体の良好な接触を可能にする所謂トリクルベッド反応器を使用することができる。トリクルベッド反応器では、触媒が固定床の形で配置される。トリクルベッド反応器を並流または向流方式で動作させることができる。
【0073】
このようにして得られた反応混合物は、一般には、所望のカルボン酸アミドに加えて、さらなる構成成分、特に非変換カルボン酸ニトリルならびに使用される任意のアセトンおよび/またはアセトアルデヒドを含むことができる。よって、反応混合物を精製することができ、その場合は、例えば、それらを再び使用してシアノヒドリンを製造するために、非変換シアノヒドリンをアセトンとシアン化水素に分解することができる。除去されたアセトンおよび/またはアセトアルデヒドについても同じことが当てはまる。
【0074】
加えて、精製されたカルボン酸アミドを含む反応混合物からイオン交換カラムを利用してさらなる構成成分を除去することができる。
【0075】
このために、特に、陽イオン交換体および陰イオン交換体を使用することが可能である。この目的に好適なイオン交換体はそれ自体既知である。例えば、スチレン−ビニルベンゼンコポリマーをスルホン化することによって好適な陽イオン交換体を得ることができる。基本的な陰イオン交換体は、多くの場合、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーに共有結合する四級アンモニウム基を含む。
【0076】
α−ヒドロキシカルボン酸アミドの精製は、なかでもEP−A−0686623に詳述されている。
【0077】
加水分解に使用されるカルボン酸ニトリルを任意の方法で得ることができる。本発明による方法において、カルボン酸ニトリル、例えばシアノヒドリンの純度は、一般に重要でない。よって、精製または非精製カルボン酸ニトリルを加水分解反応に使用することが可能である。
【0078】
好適に使用されるシアノヒドリンを製造するために、例えば、ケトン、特にアセトン、またはアルデヒド、例えばアセトアルデヒド、プロパナール、ブタナールとシアン化水素とを反応させて対応するシアノヒドリンを得ることが可能である。ここでは、少量のアルカリ又はアミンを触媒として使用して、アセトンおよび/またはアセトアルデヒドを典型的な方法で反応させるのが特に好ましい。この反応を触媒するのに使用されるアミンを、好ましくは、塩基性イオン交換樹脂の形で使用することができる。
【0079】
よって、好ましくは、ケトンまたはアルデヒドとシアン化水素とを塩基性触媒の存在下で反応させることによってカルボン酸ニトリルを得ることができる。特定の実施形態において、使用される塩基性触媒は、アルカリ金属水酸化物であってよく、その場合、塩基性触媒の量は、好ましくは、加水分解反応に使用される混合物のpHが6.0〜11.0、好ましくは6.5〜10.0、最も好ましくは8.5〜9.5の範囲の値に調整されるように選択される。
【0080】
本発明の加水分解反応は、特に(メタ)アクリル酸、特に、アクリル酸(プロペン酸)およびメタクリル酸(2−メチル−プロペン酸)ならびに(メタ)アクリル酸アルキルを製造するための方法における中間工程としての役割を果たすことができる。よって、本発明は、また、メタクリル酸メチルを製造するための方法であって、本発明の方法による加水分解工程を含む方法を提供する。(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸アルキルを製造するためのシアノヒドリンの加水分解工程を含み得る方法は、なかでも、EP−A−0406676、EP−A−0407811、EP−A−0686623およびEP−A−0941984に詳述されている。
【0081】
本発明を以降に実施例を参照しながら詳細に説明する。
【0082】
実施例1
1123.0gの酸化マンガン(MnO2、HSA型、1242239型、Erachem Comilogから商業的に入手可能)、19.0gの可塑化剤A(Actigel 208、ITC Minerals&Chemicalsから商業的に入手可能)および19.0gの可塑剤B(Arginotex NX Nanopowder、B+M Nottenkaemper、Gesellschaft fuer Bergbau und Mineralstoffe mbH u.Co.KGから商業的に入手可能)を1500min-1のアジテーター速度および84min-1のプレート速度でミキサー(Eirich、R02型)にて強力に2分間乾燥混合する。
【0083】
続いて、継続的に混合しながら、29%SiO2を含む445.1gのケイ酸ゾル水溶液(Koestrosol 0830A、Chemiewerk Bad Koestritz GmbHから商業的に入手可能)および186.7gの蒸留水をこの混合物に添加し、それを、凝集体が1〜3mmの平均粒径に達するまでさらに混合する。
【0084】
湿ったペレットを100℃で10時間乾燥させた。
【0085】
これにより、約1100gの成形触媒体を得る。
【0086】
組成物:
二酸化マンガン:87%
可塑剤A:1.5%
可塑剤B:1.5%
ケイ酸ゾル水溶液:10%(SiO2として計算)
【0087】
ペレットの理論組成を第1表に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
触媒の機械特性を測定するために、比側方圧潰強度を測定した。比側方圧潰強度の測定では、試料を固定加圧顎の上方に配置し、力を増大させながら試料が破壊するまで可動加圧顎で加圧する。破壊を電子的に検知し、破壊の時間が報告されるまで力を消費する。ここでは50N/sの力の一定増大量を採用した。Erweka GmbH、D−63150 HeusenstammのTBH250測定装置を用いて測定を実施した。実施例1で得られたペレットのさらなる特性を第2表に示す。
【0090】
実施例2
湿った凝集体を乾燥させず、Hutt造粒機システム(GR1型)で処理して、1.6mm径の押出物を得たことを除いては、実施例1を実質的に繰り返した。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。
【0091】
触媒の機械特性を測定するために、比側方圧潰強度を測定した。実施例2で得られた押出物のさらなる特性を第2表に示す。
【0092】
実施例3
湿った凝集体を乾燥させず、Schlueter環状ダイプレスシステム(PP127型)で処理して、1.4mm径の押出物を得たことを除いては、実施例1を実質的に繰り返した。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。
【0093】
触媒の機械特性を測定するために、比側方圧潰強度を測定した。実施例3で得られた押出物のさらなる特性を第2表に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
実施例4
1000.0gの酸化マンガン(MnO2、HSA型、1242239型、Erachem Comilogから商業的に入手可能)、62.5gの可塑化剤(Actigel 208、ITC Minerals&Chemicalsから商業的に入手可能)および62.5gの粉末状結合剤(Sipernat 320r型、Evonik Degussa GmbHから商業的に入手可能)を1500min-1のアジテーター速度および84min-1のプレート速度でミキサー(Eirich、R02型)にて強力に2分間乾燥混合する。
【0096】
続いて、継続的に混合しながら、29%SiO2を含む431.0gのケイ酸ゾル水溶液(Koestrosol 0830A、Chemiewerk Bad Koestritz GmbHから商業的に入手可能)および230.0gの蒸留水をこの混合物に添加し、それを、凝集体が1〜3mmの平均粒径に達するまでさらに混合する。
【0097】
湿ったペレットを100℃で10時間乾燥させた。
【0098】
これにより、約1200gの成形触媒体を得る。
【0099】
組成物:
二酸化マンガン:80%
可塑剤:5%
粉末状結合剤:5%
ケイ酸ゾル水溶液:10%(SiO2として計算)
【0100】
ペレットの理論組成を第3表に示す。
【0101】
触媒の機械特性を測定するために、BCS値(バルク圧潰強度)を測定した。BCS値を測定するために、小さいシリンダーに成形体を充填し、生じた破壊(<=0.42mm)が使用された材料の全量の0.5%の割合を占めるまで、常に3分間、プランジャーで上から圧力を増大させながら加える。この割合に対応する圧力は、「BCS」値としてメガパスカルで報告される。該方法は、「シェル試験」として十分に周知であり、主として精製触媒に使用される。
【0102】
実施例4で得られたペレットから得られた結果を第4表に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
実施例5
湿った凝集体を乾燥させず、Hutt造粒機システム(GR1型)で処理して、1.6mm径の押出物を得たことを除いては、実施例4を実質的に繰り返した。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。
【0105】
触媒の機械特性を測定するために、BCS値(バルク圧潰強度)を測定した。実施例5で得られた押出物から得られた結果を第4表に示す。
【0106】
実施例6
湿った凝集体を乾燥させず、Schlueter環状ダイプレスシステム(PP127型)で処理して、1.0mm径の押出物を得たことを除いては、実施例4を実質的に繰り返した。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。
【0107】
触媒の機械特性を測定するために、BCS値(バルク圧潰強度)を測定した。実施例6で得られた押出物から得られた結果を第4表に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
しかし、第4表に示される値について、より小さい粒子は、より迅速に末端値として予め定められた割合の部分に到達するため、より大きな粒子は、より大きな値を示す傾向があることに留意されたい。したがって、実施例5による押出物は、実施例4によるペレットより有意に安定している。
【0110】
実施例7
1167.0gの酸化マンガン(MnO2、HSA型、1242239型、Erachem Comilogから商業的に入手可能)および145.9gの可塑化剤(Arginotex NX Nanopowder、B+N Nottenkaemper、Gesellschaft fuer Bergbau und Mineralstoffe mbH u.Co.KGから商業的に入手可能)を1500min-1のアジテーター速度および84min-1のプレート速度でミキサー(Eirich、R02型)にて強力に2分間乾燥混合する。
【0111】
続いて、継続的に混合しながら、450rpmのアジテーター速度で、29%SiO2を含む487.9gのケイ酸ゾル水溶液(Koestrosol 0830A、Chemiewerk Bad Koestritz GmbHから商業的に入手可能)および343gの蒸留水をこの混合物に添加し、それを、均一な組成物が得られるまでさらに混合する。
【0112】
湿った組成物をHaendle軸押出機(PZVM8b型)で処理して、クローバー形の押出物を得た。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。
【0113】
触媒の組成は、以下の通りである。
二酸化マンガン:80%
可塑剤:10%
ケイ酸ゾル水溶液:10%(SiO2として計算)
【0114】
乾燥触媒の理論組成を第5表に示す。
【0115】
【表5】

【0116】
実施例8
1167.0gの酸化マンガン(MnO2、HSA型、1242239型、Erachem Comilogから商業的に入手可能)および145.9gの可塑化剤(Arginotex NX Nanopowder、B+N Nottenkaemper、Gesellschaft fuer Bergbau und Mineralstoffe mbH u.Co.KGから商業的に入手可能)を1500min-1のアジテーター速度および84min-1のプレート速度でミキサー(Eirich、R02型)にて強力に2分間乾燥混合する。
【0117】
続いて、継続的に混合しながら、29%SiO2を含む487.9gのケイ酸ゾル水溶液(Koestrosol 0830A、Chemiewerk Bad Koestritz GmbHから商業的に入手可能)および137.5gの蒸留水をこの混合物に添加し、それを、均一な組成物が得られるまでさらに混合する。
【0118】
湿った組成物をSchlueter環状ダイプレスで処理して、0.8mmの円筒棒を得た。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。
【0119】
触媒の組成は、以下の通りである。
二酸化マンガン:80%
可塑剤:10%
ケイ酸ゾル水溶液:10%(SiO2として計算)
【0120】
乾燥触媒の理論組成を第6表に示す。
【0121】
【表6】

【0122】
比較例1
1123.0gの酸化マンガン(MnO2、HSA型、1242239型、Erachem Comilogから商業的に入手可能)に対して、1500min-1のアジテーター速度および84min-1のプレート速度でミキサー(Eirich、R02型)にて継続的に混合しながら、29%SiO2を含む445.1gのケイ酸ゾル水溶液(Koestrosol 0830A、Chemiewerk Bad Koestritz GmbHから商業的に入手可能)および186.7gの蒸留水を添加し、凝集体が1〜3mmの平均径に達するまで混合を継続する。
【0123】
湿った凝集体をHaendle軸押出機(PZVM8b型)で処理して、クローバー形押出物を得る。押出は、既に極めて不均一な押出物がダイプレートから発生すると開始される。材料排出は、形状の観点でますます悪化し、約14バールから出発するダイプレートのヘッド上流の圧力は、30バール超まで急速に上昇する。ますます悪化する押出物の発生は、たいていは排出の中止を伴う。過負荷による破損を防止するため、この時点で機械をオフにする。機械を開放した後、ダイプレートの圧力ヘッド上流の材料が固化していた。
【0124】
実施例9〜11
可塑剤および結合剤の質量比率を変更したことを除いては、実施例7を実質的に繰り返した。湿った凝集体をHaendle軸押出機(PZVM8b型)で処理して、直径2mmの押出物を得た。成形した触媒を100℃で10時間乾燥させた。得られた押出物の比側方圧潰強度を調べた。得られた結果を第7表に示す。
【0125】
【表7】

【0126】
試験した範囲において、硬度は、結合剤含有量とともに増加する。
【0127】
実施例12
実施例1により得られた触媒の特性をトリクルベッド反応器で調べた。このために、30質量%のアセトンシアノヒドリンと40質量%の水と30質量%のアセトンとの混合物を60℃の温度および標準圧力で変換した。触媒の充填量は、1時間当たり1g当たりアセトンシアノヒドリンが約3gであった。
【0128】
250ml毎分の空気を約1バールの圧力でさらに使用し、触媒の量は約40gであった。
【0129】
ACH変換率は19.4%、HIBA選択性は95.4%であった。
【0130】
実施例13
実施例2により得られる触媒を使用したことを除いては、実施例12を実質的に繰り返した。ACH変換率は21%、HIBA選択性は97.5%であった。
【0131】
実施例14
実施例3により得られる触媒を使用したことを除いては、実施例12を実質的に繰り返した。ACH変換率は38.3%、HIBA選択性は97.0%であった。
【0132】
実施例15
実施例4により得られる触媒を使用したことを除いては、実施例12を実質的に繰り返した。ACH変換率は32%、HIBA選択性は74.1%であった。
【0133】
実施例16
実施例5により得られる触媒を使用したことを除いては、実施例12を実質的に繰り返した。ACH変換率は17%、HIBA選択性は97.0%であった。
【0134】
実施例17
実施例6により得られる触媒を使用したことを除いては、実施例12を実質的に繰り返した。ACH変換率は50.1%、HIBA選択性は96.1%であった。
【0135】
これらの実施例は、発明の触媒が優れた特性を有することを示す。意外にも、成形を介して、選択性および変換率を向上させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸ニトリルと水とを反応させるための触媒において、実験式MnOx[式中、xは、1.7〜2.0の範囲である]を有する少なくとも60質量%の二酸化マンガン、および少なくとも1つの可塑剤を含むことを特徴とする、前記触媒。
【請求項2】
前記二酸化マンガンは、50〜1000m2の範囲の比表面積を有することを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
二酸化マンガンを含む前記触媒は、少なくとも1つの結合剤を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記結合剤は、SiO2を含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項5】
前記結合剤は、150〜400m2/gの範囲の比表面積を有する珪酸塩であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
前記可塑剤は粘土鉱物であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項7】
前記可塑剤は、0.5〜3の範囲のモース硬度を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項8】
前記触媒は、アルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項9】
前記触媒は、少なくとも1つの促進剤を含むことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項10】
前記促進剤は、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、Ga、In、Ge、SnおよびPtならびにこれらの元素の混合物から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
実験式MnOx[式中、xは、1.7〜2.0の範囲である]を有する少なくとも80質量%の二酸化マンガンを含むことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項12】
可塑剤と結合剤の合計量が、前記触媒の質量に基づいて1〜30質量%であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の触媒。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の触媒の製造方法において、少なくとも1つの粉末状二酸化マンガンと少なくとも1つの粉末状可塑剤とを混合して凝集体を得ることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項14】
少なくとも1つの粉末状二酸化マンガンおよび少なくとも1つの粉末状可塑剤を含む前記混合物を、液体結合剤と混合することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記液体結合剤は、少なくとも1つのケイ酸ゾルを含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
粉末状結合剤をさらに使用することを特徴とする、請求項13から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記粉末状結合剤は、立体網状珪酸塩および/または沈降ケイ酸であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
強力ミキサーでエネルギーを導入することによって前記凝集体を得ることを特徴とする、請求項13から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
工程B)で得られた前記凝集体は、0.5mmから5mmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項13から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
工程B)で得られた凝集体を押出成形することを特徴とする、請求項13から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
カルボン酸ニトリルと水を反応させることによってカルボン酸アミドを製造するための方法において、請求項1から12までのいずれか1項に記載の二酸化マンガンを含む触媒の存在下で前記反応を実施することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項22】
二酸化マンガンを含む前記触媒に添加される前記反応混合物は、6.0〜11.0の範囲のpHを有し、酸化剤の存在下で加水分解が実施されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記カルボン酸ニトリルは、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニトリルまたは2−ヒドロキシプロピオニトリルであることを特徴とする、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記加水分解反応をトリクルベッド反応器で実施することを特徴とする、請求項21から23までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−518039(P2011−518039A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505440(P2011−505440)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052239
【国際公開番号】WO2009/130075
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】