説明

カーボンスチールとジルコニアセラミックスとの接合方法及びこの方法で得た接合部品

【課題】加工時間が短く結合強度が高いカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法及びこの方法で得た接合部品を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、カーボンスチール、ジルコニアセラミック及びチタン箔の接合されるべき界面を磨き上げてから洗浄して乾燥させる工程と、チタン箔がカーボンスチールとジルコニアセラミックとの間に挟まれるように、これらを石墨金型内に設置する工程と、石墨金型を放電プラズマ焼結装置の炉内に設置して、直流パルス電源を起動して、垂直圧力が10〜50MPaで、加熱レートが50〜600℃/minで、焼結温度が800〜1100℃で、加熱時間が10〜50分間で、炉の真空度が6〜10MPaである条件下でカーボンスチール及びジルコニアセラミックにパルス電流を印加して、両者を焼結する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属とセラミックとの接合方法及びそれによる接合部品に関し、特にカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法及びこの方法で得られた接合部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーボンスチールは、船舶、エンジン及び高圧容器などの機械設備、或いは歯車、軸などの機械部品に広範に使用されている。しかし、カーボンスチールは、耐摩耗性及び高温耐食性が悪く、熱衝撃性に弱く且つ硬度が低いとの欠点を有するため、現代の生産技術の要求を満たすことできない。一方、ジルコニア(ZrO)セラミックスは、硬度が高く、優れた高温耐食性及び耐摩耗性を有し、熱衝撃に強いとの利点を有する。従って、カーボンスチールとジルコニアセラミックスとが一体に結合されてなる複合材料は、カーボンスチールの高温環境での応用に対して重大な意義がある。
【0003】
この2種類の材料の物理性能及び化学性能が大きく違っているため、両者を結合することは非常に困難である。現在、主に溶接、ろう付け、固相拡散結合及び瞬時液相結合の方法で、金属とセラミックとを一体に接合する。しかし、上記した各種の方法には、以下の欠点が存在する。第一に、結合強度が低いこと。第二に、金属部材の表面清潔度及び装置の真空度に対する要求が高過ぎること。第三に、固相拡散結合及び瞬時液相結合工程は、高い温度及び長い保温時間が必要であるため、両者を結合することに時間及びエネルギーが係ること。第四に、溶接部分にクラックが生じ易いこと。第五に、ろう付け方法の結合温度は低いが、半田の融点が一般的に低いため、ろう付け方法を介して高温環境で使用できる部品を製造するのが難しいことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の問題点に鑑みて、本発明は、加工時間が短く且つ結合強度が高いカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法及びこの方法で得た接合部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明に係るカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法は、接合しようとするカーボンスチール、ジルコニアセラミック及びチタン箔を準備する工程と、前記カーボンスチール、前記ジルコニアセラミック及び前記チタン箔の接合されるべき界面を磨き上げてから洗浄して、乾燥させる工程と、上部押圧ヘッド、下部押圧ヘッド及び中間ダイスを含む石墨金型を準備する工程と、前記チタン箔が前記カーボンスチールと前記ジルコニアセラミックとの間に挟まれるように、前記カーボンスチール、前記ジルコニアセラミック及び前記チタン箔を前記石墨金型内に設置して、前記上部押圧ヘッド及び前記下部押圧ヘッドにより前記カーボンスチール部材及び前記ジルコニアセラミック部材にそれぞれ押圧力を加える工程と、前記石墨金型を放電プラズマ焼結装置の炉内に設置して、直流パルス電源を起動して、垂直圧力が10〜50MPaで、加熱レートが50〜600℃/minで、焼結温度が800〜1100℃で、加熱時間が10〜50分間で、且つ炉の真空度が6〜10MPaである条件下で、前記カーボンスチール及び前記ジルコニアセラミックにパルス電流を印加して、両者を焼結する工程と、冷却した後、一体に焼結されたカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品を取り出す工程と、を備える。
【0006】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係るカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品は、カーボンスチール部材と、ジルコニアセラミック部材と、前記カーボンスチール部材及び前記ジルコニアセラミック部材を結合するための連接部と、を備える。前記連接部は、チタン金属層と、前記カーボンスチール部材と前記チタン金属層との間に位置し、且つチタンと鉄との固溶体及びチタン鉄金属間化合物を主成分とする第一媒介層と、前記ジルコニアセラミック部材と前記チタン金属層との間に位置し、且つチタン酸化物及びチタン・ジルコニウム化合物を主成分とする第二媒介層と、からなる。
【発明の効果】
【0007】
従来の技術と比較すると、本発明のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法は、放電プラズマ焼結装置を採用して、前記カーボンスチール及び前記ジルコニアセラミックに同時にパルス電流及び押圧力を印加することを介して、両者を一体に接合する。本発明の接合方法は、保温時間が短く、エネルギー消費量が少なく、放電プラズマ焼結装置の炉の真空度に対する要求も低い。また、本発明の接合方法で得たカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品は、大きい剪断強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の方法での放電プラズマ焼結装置を使用してカーボンスチールとジルコニアセラミックとの結合を行う場合の概念図である。
【図2】本発明の方法で得たカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示したように、本発明の実施形態は、主に放電プラズマ焼結装置10(パルス電流加熱装置とも称する)を利用して、カーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合を実現する。本発明の接合方法は、以下の工程を備える。
【0010】
第1の工程では、接合しようとするカーボンスチール部材20、ジルコニアセラミック部材30及び中間活性層40を準備する。前記中間活性層40は、チタン箔であり、その厚さが約0.1〜0.5mmであるが、0.2〜0.3mmであるのが好ましい。
【0011】
第2の工程では、前記カーボンスチール部材20、前記ジルコニアセラミック部材30及び前記中間活性層40の各々の接合界面に対して、磨き上げてから洗浄し、それを乾かす。本実施形態において、400〜800番の金属組織のサンドペーパーを利用して前記カーボンスチール部材20、前記ジルコニアセラミック部材30及び前記中間活性層40の接合界面を磨き上げてから、それらを濃度が薄い希塩酸溶液或いは希硫酸溶液に浸漬して洗浄してから、水洗して乾かす。以下、前記カーボンスチール部材20、前記ジルコニアセラミック部材30及び前記中間活性層40をワークと総称する。
【0012】
第3の工程では、上部押圧ヘッド51、下部押圧ヘッド52及び中間ダイス53を含む石墨金型(graphite mould)50を準備する。前記中間ダイス53には、接合しようとするワークを収納するためのキャビティー(図示せず)が設けられている。
【0013】
第4の工程では、前記中間活性層40が前記カーボンスチール部材20と前記ジルコニアセラミック部材30との間に挟まれるように、前記ワークを前記石墨金型50内に設置してから、前記上部押圧ヘッド51及び前記下部押圧ヘッド52を介して前記ワークの上下両側を強く押圧する。
【0014】
第5の工程では、放電プラズマ焼結装置10(例えば、日本住友石炭株式会社のSPS3.20MK−IV型の放電プラズマ焼結装置)を準備する。前記放電プラズマ焼結装置10は、被焼結ワークに垂直方向の圧力を加えるためのプレスシステム11と、正/負電極12と、炉13と、被焼結ワークにパルス電流を提供してそれをウォームアップさせる直流パルス電源14と、温度測量ユニット(図示せず)と、制御システム15と、を備える。前記直流パルス電源14のパルス幅(Pulse Width)の比は12:2であり、最大電流は5000Aに達する。
【0015】
第6の工程では、前記石墨金型50を前記放電プラズマ焼結装置10の炉13内に設置して、前記上部押圧ヘッド51及び下部押圧ヘッド52をそれぞれ前記正電極12及び負電極12と同一直線上に位置するように当接させる。前記炉13の真空度を6〜10Paにしてから、前記直流パルス電源14を起動して、垂直圧力が10〜50MPaで且つ加熱レートが50〜600℃/minの条件下でワークを焼結する。前記ワークの温度が800〜1100℃(即ち焼結温度)に達すると、この温度範囲を約10〜50分間保持する。このとき、焼結温度に対応して印加されるパルス電流の強度は約2500〜4500Aである。前記垂直圧力は、前記ジルコニアセラミック部材30のサイズ及び厚さによって調節されることができる。上記の焼結過程において、好ましくは、加熱レートが50〜300℃/minであり、焼結温度が850〜1050℃であり、保温時間が10〜30分であり、且つパルス電流の強度が600〜4000Aである。
【0016】
第7の工程では、冷却した後、一体に焼結されたカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品を取り出す。
【0017】
本発明によるカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法は、放電プラズマ焼結装置10を利用して前記カーボンスチール部材20及び前記ジルコニアセラミック部材30にパルス電流を印加して、前記カーボンスチール部材20と前記ジルコニアセラミック部材30との接触界面の間に放電を起こして高熱プラズマを発生させ、このプラズマを介してワークの表面をクリーニングして活性化させ、ワーク表面の原子拡散能力を高める。
【0018】
前記パルス電流の作用によって、前記カーボンスチール部材20、前記ジルコニアセラミック部材30及びチタン箔である前記中間活性層40は、自発的に放熱すると共に局部に放電熱が発生する。チタン箔の活性化温度は前記カーボンスチール部材20及び前記ジルコニアセラミック部材30の軟化温度より低いので、チタン箔である前記中間活性層40がまず活性化されてTi原子を放出する。放出されたTi原子は、前記カーボンスチール部材20及び前記ジルコニアセラミック部材30の表面に迅速に拡散して、前記カーボンスチール部材20及び前記ジルコニアセラミック部材30とそれぞれ物理・化学反応を行う。具体的に説明すると、Ti原子は、酸素を吸収する力が強いので、前記ジルコニアセラミック部材30の中から酸素を奪ってチタン酸化物を生成すると共に、ジルコニウム及びチタン・ジルコニウム化合物を生成し、さらに前記ジルコニアセラミック部材30と反応して固溶体等を生成することもできる。以上により、カーボンスチールとジルコニアセラミックとの接触界面には、両者の拡散結合を促進できる新しい物質が生成される。これに加えて、垂直方向に沿ってワークに圧力を印加することにより、ワーク間の接触面積が絶えず拡大されて、最終的に相互に緊密に圧接される。
【0019】
上記の内容から明らかなように、本発明のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法は、焼結する際の保温時間が短く、エネルギー消費量が少なく、放電プラズマ焼結装置の炉の真空度に対する要求も低い。
【0020】
図2は、本発明の接合方法により製造されたカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品100を示している。前記カーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品100は、カーボンスチール部材20と、ジルコニアセラミック部材30と、この両者を結合するための連接部60と、を備える。前記連接部60は、第一媒介層61、チタン金属層62及び第二媒介層63を備える。前記第一媒介層61は、前記カーボンスチール部材20と前記チタン金属層62との間に位置し、且つ主にチタンと鉄の固溶体及びチタン鉄金属間化合物からなる。前記第二媒介層63は、前記ジルコニアセラミック部材30と前記チタン金属層62との間に位置し、且つ主にチタン酸化物、チタン・ジルコニウム化合物及び極少量のチタン・ジルコニウム固溶体からなる。前記第一媒介層61及び前記第二媒介層63の厚さは、それぞれ約5〜30μmであり、好ましくは10〜20μmである。
【0021】
本発明のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品100の連接部60は平滑且つ均一であり、クラック及び細孔等がない。実験によると、前記カーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品100の接合界面の剪断強度は、80〜150MPaに達する。
【0022】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形、又は修正が可能であり、該変形、又は修正も本発明の特許請求の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0023】
10 放電プラズマ焼結装置
11 プレスシステム
12 正/負電極
13 炉
14 直流パルス電源
15 制御システム
20 カーボンスチール部材
30 ジルコニアセラミック部材
40 中間活性層
50 石墨金型
51 上部押圧ヘッド
52 下部押圧ヘッド
53 中間ダイス
60 連接部
61 第一媒介層
62 チタン金属層
63 第二媒介層
100 接合部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合しようとするカーボンスチール、ジルコニアセラミック及びチタン箔を準備する工程と、
前記カーボンスチール、前記ジルコニアセラミック及び前記チタン箔の接合されるべき界面を磨き上げてから洗浄して、乾燥させる工程と、
上部押圧ヘッド、下部押圧ヘッド及び中間ダイスを含む石墨金型を準備する工程と、
前記チタン箔が前記カーボンスチールと前記ジルコニアセラミックとの間に挟まれるように、前記カーボンスチール、前記ジルコニアセラミック及び前記チタン箔を前記石墨金型内に設置して、前記上部押圧ヘッド及び前記下部押圧ヘッドにより前記カーボンスチール部材及び前記ジルコニアセラミック部材にそれぞれ押圧力を加える工程と、
前記石墨金型を放電プラズマ焼結装置の炉内に設置して、直流パルス電源を起動して、垂直圧力が10〜50MPaで、加熱レートが50〜600℃/minで、焼結温度が800〜1100℃で、加熱時間が10〜50分間で、且つ炉の真空度が6〜10MPaである条件下で、前記カーボンスチール及び前記ジルコニアセラミックにパルス電流を印加して、両者を焼結する工程と、
冷却した後、一体に焼結されたカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品を取り出す工程と、
を備えることを特徴とするカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法。
【請求項2】
焼結温度が800〜1100℃である時に、印加されるパルス電流の強度は2500〜4500Aであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法。
【請求項3】
焼結する際に、加熱レートが50〜300℃/minで、焼結温度が850〜1050℃で、保温時間が10〜30分間であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法。
【請求項4】
前記チタン箔の厚さは、0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法。
【請求項5】
400〜800番の金属組織のサンドペーパーを利用して前記カーボンスチール部材、前記ジルコニアセラミック部材及び前記チタン箔の接合界面を磨き上げてから、それらを希塩酸溶液或いは希硫酸溶液に浸漬して洗浄することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法。
【請求項6】
前記放電プラズマ焼結装置は、正電極及び負電極を有し、前記上部押圧ヘッド及び前記下部押圧ヘッドは、それぞれ前記正電極及び前記負電極と同一直線上に位置するように当接されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合方法。
【請求項7】
カーボンスチール部材と、ジルコニアセラミック部材と、前記カーボンスチール部材と前記ジルコニアセラミック部材とを結合するための連接部と、を備え、
前記連接部は、チタン金属層と、前記カーボンスチール部材と前記チタン金属層との間に位置し且つチタンと鉄との固溶体及びチタン鉄金属間化合物を主成分とする第一媒介層と、前記ジルコニアセラミック部材と前記チタン金属層との間に位置し且つチタン酸化物及びチタン・ジルコニウム化合物を主成分とする第二媒介層と、からなることを特徴とするカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品。
【請求項8】
前記第一媒介層及び前記第二媒介層の厚さは、10〜20μmであり、前記カーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品の接合界面の剪断強度は、80〜150MPaであることを特徴とする請求項7に記載のカーボンスチールとジルコニアセラミックとの接合部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−25654(P2012−25654A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160991(P2011−160991)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(503023069)鴻富錦精密工業(深▲セン▼)有限公司 (399)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】