説明

カーボンナノチューブの製造方法及び精製方法

【課題】 純度の高いカーボンナノチューブを製造する方法、及び未精製又は純度の低いカーボンナノチューブを精製する方法を提供する。
【解決手段】 本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブを含む炭素質材料を用意する工程、及び前記炭素質材料に、鉄材と過酸化水素とを添加して、カーボンナノチューブを精製する工程を含む。前記鉄材として、鉄粉末を用いることが好ましい。鉄粉末は、炭素質材料の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部の割合で用いられることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未精製又は純度の低いカーボンナノチューブを精製し、高純度のカーボンナノチューブを製造する方法に関する。さらには、該方法によって得られた高純度のカーボンナノチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性、機械的強度等の優れた特性を持つことから、多くの分野から注目を集めている新素材である。カーボンナノチューブは、一般に、炭素又は炭素原料を必要に応じて触媒の存在下、高温条件に置くことにより合成される。この製造方法としては、主に、アーク放電法、レーザ蒸発法、化学気相成長法(即ち、CVD法)が知られている。
アーク放電法は、欠陥が少なく品質の良いカーボンナノチューブが得られる点で優れている。しかしながら、アーク放電法により得られるカーボンナノチューブは、収率がCVD法に比べて低い。このため、量産可能な方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、電極に鉄触媒を含有させることにより、カーボンナノチューブを含有する生成物中におけるカーボンナノチューブ含有率を向上させる方法が開示されている。また、非特許文献1には、ニッケル−イットリウム触媒を含有する電極を用いたカーボンナノチューブの製造方法が開示されている。ニッケル−イットリウム触媒は、活性が高いために、より高い収率でカーボンナノチューブを得ることができる。
これら方法によって得られたカーボンナノチューブ(生成物)には、いずれの方法によって得られたものであっても、触媒金属やアモルファスカーボンのようなカーボンナノチューブ以外の炭素成分が不純物として混入しており、より高純度のカーボンナノチューブを望む場合はカーボンナノチューブの精製が必要であった。
【0003】
【特許文献1】特開2003−277032号公報
【特許文献2】特開2002−265209号公報
【特許文献3】特開2003−89510号公報
【非特許文献1】安藤義則ら著、「材料」(2001年4月)、第50巻、第4号、第357〜360頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブの精製に関しては、例えば、特許文献2及び特許文献3に記載されるような方法が従来用いられている。しかし、より高効率にカーボンナノチューブ精製を行い、高純度のカーボンナノチューブを製造することが求められている。
そこで本発明は、従来とは異なる手法によって、純度の高いカーボンナノチューブを製造する方法を提供することを目的とする。また、別の観点からは、未精製又は純度の低いカーボンナノチューブを精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法は、精製されたカーボンナノチューブを製造する方法である。この方法は、カーボンナノチューブを含む炭素質材料を用意する工程と、該炭素質材料に、鉄材と過酸化水素(H)とを添加して、カーボンナノチューブを精製する工程とを含む。
ここで、「カーボンナノチューブ」は、チューブ状の炭素同素体(典型的にはグラファイト構造の円筒構造物)をいい、特別の形態(長さや直径)に限定されない。いわゆる単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、或いはチューブ先端が角状のカーボンナノホーンは、ここでいうカーボンナノチューブに包含される典型例である。また、ここで「炭素質材料」とは、カーボンナノチューブを含む炭素(カーボン)成分を主体とする材料をいい、炭素以外の成分を排除するものではない。例えば、種々の方法によって得られたカーボンナノチューブ生成物(未精製物)は、ここでいう「炭素質材料」の典型例である。
本発明者らは、得られたカーボンナノチューブを含む炭素質材料に、過酸化水素(H)と鉄材とを別途添加することにより、炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ以外の炭素成分(不純物であるすす等)や触媒金属等を酸化させる能力を著しく高めることができることを見出した。即ち、カーボンナノチューブ以外の炭素成分(不純物)を酸化除去する能力を向上させることができる。このため、種々の不純物を含む炭素質材料から、高純度のカーボンナノチューブを容易に得ることができる。
ここで開示されるカーボンナノチューブ製造方法として、好適な一態様では、前記炭素質材料が実質的に鉄(Fe)を含まないことを特徴とする。鉄を含まない炭素質材料を用いる場合に、本発明のメリットは大きい。
【0006】
また、ここで開示されるカーボンナノチューブ製造方法の好適な一態様では、前記炭素質材料として、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び白金族元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は該金属を主体とする合金を含有する炭素成形物(典型的には棒状)を少なくとも陽極とする一対の電極間にアーク放電を起こさせて、該陽極から生じた蒸発物を堆積させることにより得られたものを用いる。例えば、ニッケル、又はニッケルを主体とする合金を含有する炭素成形物を少なくとも陽極とする一対の電極間にアーク放電を起こさせて、該陽極からカーボンを蒸発させて堆積させることにより得られたものを用いる。
これら鉄以外の触媒金属を電極に含有させるアーク放電法では、カーボンナノチューブの収率自体は高い点で好適であるものの、未精製の段階(即ち、アーク放電後の回収物)では、カーボンナノチューブ以外の不純物炭素成分(アモルファスカーボン等)と触媒金属粒子との含有率が比較的高かった。また、不純物炭素成分は触媒金属粒子に強く結合して存在する場合があり、そのような不純物の除去は煩雑であった。本発明によれば、過酸化水素(H)及び鉄(Fe)材の添加によって、このような強く結合した炭素質成分であっても容易に酸化除去することができる。従って、かかる精製処理工程によって、高収率で高純度なカーボンナノチューブを得ることができる。
【0007】
好ましくは、鉄材として、鉄粉末を用いる。鉄粉末を用いることにより、容易かつ安価に所望する量の鉄(Fe)を正確に添加することができる。
この場合に、鉄粉末は、炭素質材料の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部の割合で用いることが好ましい。この添加割合で鉄粉末を用いることにより、効率的にカーボンナノチューブを精製することができる。
【0008】
または、鉄材として、鉄を含む炭素成形物を少なくとも陽極とする一対の電極間にアーク放電を起こさせて、該陽極から生じた蒸発物を堆積させることにより得られた鉄含有炭素質材料を用いてもよい。
このような鉄含有炭素質材料を用いることによっても適当量の鉄(Fe)を供給することができる。さらに、この方法によると、鉄含有炭素質材料に含まれているカーボンナノチューブを同時に精製することができる。
【0009】
また、前記カーボンナノチューブ精製工程において、さらに無機酸成分を添加することが好ましい。鉄材、過酸化水素に加えて、さらに無機酸成分を添加することにより、カーボンナノチューブに含まれ得る金属成分を溶解除去する能力を向上させることができる。このため、カーボンナノチューブの精製をより効率的に行うことができる。
無機酸成分は、過酸化水素及び鉄材を添加して一旦炭素質材料を処理した後に、添加してもよい。この場合には、当該処理後に残留し得る触媒金属成分や添加した鉄材を溶解除去することができる。または、無機酸成分は、過酸化水素及び鉄材とともに添加してもよい。この場合には、過酸化水素の添加量を節約し得、或いは不純物炭素成分の酸化除去能力を向上することができる。
【0010】
本発明は、他の側面として、カーボンナノチューブの精製方法を提供する。本精製方法は、カーボンナノチューブを含む炭素質材料に、鉄材と過酸化水素とを添加して、該カーボンナノチューブを精製する。
本精製方法によれば、種々の入手方法によって得られた種々の不純物を含む炭素質材料であっても、鉄材及び過酸化水素を添加するといった容易な方法によって、上述のようにカーボンナノチューブを高純度に精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、使用する炭素質材料、鉄材、及び無機酸成分の組成、鉄材及び過酸化水素の添加方法、添加量等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、カーボンナノチューブの合成法、カーボンナノチューブの回収方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本発明の製造方法では、カーボンナノチューブを含む未精製の炭素質材料に、鉄材及び過酸化水素を添加して、該炭素質材料からカーボンナノチューブを高純度に取り出せればよく、種々の材料及び構成をその目的のために適用することができる。
【0012】
本発明において用意される炭素質材料は、カーボンナノチューブを含むいずれの炭素質材料であっても特に限定されない。従って、炭素質材料としては、カーボンナノチューブの合成方法として従来公知のいずれかの合成方法、例えば、アーク放電法、レーザ蒸発法、化学気相成長法(即ち、CVD法)によって合成された種々の未精製生成物(回収物)が含まれる。また、市販のカーボンナノチューブ(不純物を含む)であってもよい。
特に、アーク放電法によって得られた生成物は、欠陥が少なく品質の良いカーボンナノチューブが含まれているために好ましい。例えば、炭素質材料は、少なくとも陽極に触媒金属を含有させて得られた単層カーボンナノチューブを含む炭素質材料であることが好ましい。具体的には、アーク放電法によって、以下のようにカーボンナノチューブを含む炭素質材料を得ることができる。
即ち、触媒金属を含む陽極炭素成形物(典型的には棒状)と陰極炭素成形物(典型的には棒状)との間に電圧を印加し、電流を供給する。この結果発生したアーク放電によるアーク熱で、陽極炭素成形物(典型的には棒状)からカーボン等が蒸発する。蒸発したカーボンは、電極間の隙間でアーク熱と触媒作用により単層カーボンナノチューブを含む生成物を形成する。このようにして得られたカーボンナノチューブは、収率が高いとともに、その品質に優れる。このうち、触媒金属としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び白金族元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は該金属を主体とする合金を用いたものであることが好ましい。さらに好ましくは、触媒金属としてニッケル(Ni)、又はニッケル(Ni)を主体とする合金を用いたものであることが好ましい。具体的には、ニッケル触媒、ニッケル/イットリウム(Ni/Y)触媒、及びニッケル/コバルト(Ni/Co)触媒が挙げられる。他にはパラジウム/ロジウム(Pd/ Rh)触媒を好適に用いることができる。
【0013】
炭素質材料は、鉄材及び過酸化水素の添加処理前に、一旦、材料間に混在する不純物、例えば、容易に当該炭素質材料から洗い流すことのできるアモルファスカーボンや触媒金属等を除去するために、洗浄することが好ましい。洗浄液としては、例えば、アルコール、たとえばエタノール又は浄水が挙げられる。回数も限定されず、一回でも、繰り返し行ってもよい。このとき、超音波をかけて、洗浄効果を向上させてもよい。
【0014】
次いで、炭素質材料を回収し、鉄材及び過酸化水素を添加して処理する。このとき、炭素質材料は、溶媒中に高分散させた状態で処理することが好ましい。炭素質材料を溶媒に分散させる手段としては、攪拌棒による攪拌、ミキサー、又は超音波分散等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、超音波処理が、効率よく炭素質材料を分散させるために好ましい。また、溶媒としては、酸化処理に与える影響が少ない浄水が好ましい。或いは、直接過酸化水素水を溶媒として、炭素質材料を分散させてもよい。
【0015】
本発明において用いられる鉄材は、いずれの形態で鉄(Fe)が含まれるものであってもよい。好ましくは、鉄粉末である。鉄粉末は、効率的に酸化能力を高めることができる。また、価格は比較的安く経済的である。又は、鉄を含む種々の化合物を鉄材として特に制限なく用いることができる。具体的には、鉄原子を含む酸化物、例えば、酸化第一鉄、酸化第二鉄、若しくは鉄を含む無機酸、例えば、硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄であってもよい。或いは、従来公知のカーボンナノチューブの製造方法において、アーク放電法によって鉄触媒を陽極に含ませて得られた炭素質材料(鉄含有炭素質材料)を鉄源として用いることができる。このような鉄含有炭素質材料には、陽極から蒸発した鉄成分が必ず含有されている。
即ち、本発明の実施に当たっては、鉄を炭素質材料に添加する形態は、粉末状態であっても、溶媒に溶解させた状態(種々の形態のイオンであり得る)であってもよい。また、その添加量は、特に限定されないが、炭素質材料100質量部に対して、鉄材(鉄換算)を0.5〜20質量部、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは7〜13質量部の割合で添加するとよい。
【0016】
本発明において用いられる過酸化水素は、種々の製造方法によって得られたいずれの過酸化水素であっても特に制限なく、好適に用いることができる。例えば、市販の過酸化水素水(通常30%水溶液)をそのままの状態(例えば、そのままの濃度)で用いることもできる。又は、従来公知の種々の製造方法によって製造したものを特に制限なく用いることもできる。例えば、硫酸(HSO)とアンモニア(NH)から得た硫酸水素アンモニウム(NHHSO)の水溶液の電解酸化により得たものを用いることができる。
例えば、上記市販の過酸化水素水を使用する場合、その過酸化水素水の含有率は特に限定されず、種々の含有量で処理することができる。例えば、炭素質材料を含む溶液全体の15〜25質量%に相当する量を添加するとよい。尚、後述するような加熱還流条件で精製を行う場合には、全液量が減少するから、適宜過酸化水素水を追加するとよい。
【0017】
炭素質材料にこれら鉄材及び過酸化水素を添加する手段としては、炭素質材料にこれらを含ませることができればよく、特に限定されない。好ましくは、炭素質材料を分散させた溶液中に、鉄材及び過酸化水素を順に、又は同時に添加する。特に鉄粉末を用いる場合には、好ましくは、過酸化水素と同時に添加する。
或いは、前記のような鉄成分を含む鉄含有炭素質材料を添加する場合には、炭素質材料とともに同様に予め溶媒中に分散させておいて、後に過酸化水素を添加することが好ましい。このように鉄材としての鉄含有炭素質材料を炭素質材料とともに分散させておくことで、これら2種の炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブを効率よく精製することができる。
【0018】
好ましい形態において、ここで開示される精製工程は、加熱還流条件下に行う。加熱条件は特に限定されないが、好ましくは処理物(処理液)が大気圧中で沸騰し得るまで加熱する(即ち、処理液の沸点に達するまで加熱する)。このとき、過酸化水素を逐次追加補給しながら還流を行うことが好ましい。尚、鉄材については、追加補給の必要はないが、同様に逐次追加補給してもよい。かかる加熱還流条件下において精製処理を行うことにより、カーボンナノチューブ精製効率をより高めることができる。
所望により、炭素質材料には、さらに無機酸を添加することができる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、亜硝酸等を特に制限なく用いることができる。このうち好ましい無機酸は塩酸である。無機酸の濃度は特に限定されない。無機酸の添加は、鉄材及び過酸化水素の添加の後に行うことができる。この場合は、無機酸添加前に所定時間の加熱・還流処理を行った後、無機酸を添加し、その添加後、さらに加熱・還流処理を継続すると良い。或いは、鉄材及び過酸化水素の添加と同時に行ってもよい。即ち、鉄、過酸化水素、無機酸の存在下で加熱・還流処理を開始するとよい。
【0019】
上述のような加熱・還流処理終了後、精製されたカーボンナノチューブを回収する。回収手段としては、特に限定されないが、静置した後に沈殿物として分画濾過してもよいし、或いは遠心分離によって回収することができる。さらに、回収物に対し、酸化又は溶解された不純物を洗浄するために、洗浄液によって洗浄することが好ましい。洗浄液としては、不純物の少ない水又はアルコール、例えばエタノールが好ましい。また、洗浄効果を向上するために、超音波をかけて洗浄することが好適である。この洗浄工程は、一回であってもよく、或いは複数繰り返して行ってもよい。
得られたカーボンナノチューブは、例えば、吸引濾過等の手段によって回収することができる。精製されたカーボンナノチューブの収率は、炭素質材料自体の製造手段にもよるが、例えば、炭素質材料の5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%、特に10〜30質量%程度であり得る。
【0020】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<実施例>
カーボンナノチューブを具体的に製造する方法を説明する。まず、使用した単層カーボンナノチューブの製造装置についてその一例を図面を参照して説明する。
(1)製造装置
図1に単層カーボンナノチューブ製造装置1の一構成例を示す。この装置1は、大まかに言って、反応容器3と、一対の電極13,15と、ガス供給手段7と、から構成される。
【0021】
反応容器3は、密閉可能な耐圧容器であり、例えば、ステンレスにより構成されている。
一対の電極13,15は、陽極13及び陰極15がいずれも棒状に形成されている。陽極13は、反応容器3内においてその中心軸を略垂直方向に配置されている。一方、陰極15は、陽極13に対して斜め(略20〜50°、特に30°)の角度をもって、その一端16が陽極13の一端14に対して向かい合う位置に配置されている。尚、各電極13,15の形状はスティック状に限られず、互いに対向する面があればよい。従って、電極は、いずれもタブレット状であってもよい。陽極13と陰極15の隙間のサイズは特に限定されないが、例えば、アーク放電による単層カーボンナノチューブ発生効率が高い0.1〜10mm、特に0.5〜5mm程度が好適である。尚、図1では、陽極13と陰極15とが鋭角で配置されているが、陽極13と陰極15との一端が互いに向かい合っていればよい。従って、陽極13と陰極15とが互いに水平方向に、或いは垂直方向に向かい合って配置されていてもよい。陽極13及び陰極15には、陽極13と陰極15の間にアーク放電を発生し得る電圧を印加可能な直流電源23が接続されている。尚、ここでは電源を直流としているが、交流電源とすることもできる。
【0022】
陽極13は、例えば、その大きさが約6mmの直径で、長さが約75mmの耐熱性導電材料であって、アーク放電によってカーボンを蒸発可能な材料から構成される。例えば、種々の炭素材料が挙げられる。例えば、グラファイトに単層カーボンナノチューブ合成用触媒、例えば、ニッケル、若しくはニッケル合金(好ましくはニッケル/イットリウム)、又はコバルト等を含有させたものがある。このような陽極13は、例えば、グラファイト粉末に触媒粉末(例えばニッケル/イットリウム粉末)を配合して圧粉成形することにより得ることができる。陽極13における陰極15の対向面(先端部)14とは反対側の端部(基部)19には、ソレノイド22が接続されている。即ち、ソレノイド22は図示しない電極保持部に保持された陽極13(電極保持部)を垂直方向(即ち、陰極15の対向面(先端部)16方向、特に図1においては下方向)に移動可能としている。従って、カーボン蒸発による陽極13の消耗に伴い、陽極13を移動させて、両電極13,15間の隙間を一定に保持することができる。
【0023】
陰極15は、例えば、その大きさが約10mmの直径で、約100mmの長さの耐熱性導電材料からなり、例えば、炭素、又は銅等の金属材料を用いることができる。また、電源を交流とした場合には、前記陽極13と同様に炭素(例えばグラファイト)に単層カーボンナノチューブ合成用触媒を含有させたものが使用される。また、陰極15にはモータ21が接続されている。このモータ21は、図示しない電極保持部に保持された陰極15をその長軸に対して回転可能に設置されている。
【0024】
ガス供給手段7は、反応容器3内に雰囲気ガスを供給する。本実施形態に係るガス供給手段7は、雰囲気ガス供給用のボンベ27A、27B(雰囲気ガスとして複数種類のガスの混合気体が用いられる場合には複数のボンベであってもよい。図1ではボンベ27A及びボンベ27B)を有し、それぞれバルブ28A、28Bの開閉によって反応容器3の一部(ここでは底面30)に設けられたガス供給口31から所定量の雰囲気ガスを反応容器3内に導入することができる。ここで、雰囲気ガスとしては、ヘリウムガスを一種で用いているが、特に制限されない。例えば、他の不活性ガス、例えば、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、又はキセノンガスが挙げられる。或いは、水素ガスとこのような不活性ガスとの混合ガスを用いることもできる。
【0025】
排出部11は、反応容器3の一部(ここでは底面30)にガス流通可能に附設されている。反応容器3内のガスは、排出部11に備えられる排出口45から真空ポンプ49によって吸引されることにより排出される。排出部11により反応容器3内のガスを吸引することにより、反応容器3内のガスを排出することができる。また、反応容器3内の雰囲気ガス圧を調整することができる。
【0026】
前記直流電源23並びにモータ21及びソレノイド22は、所定のプログラム又はマニュアル操作に基づいて動作する制御機構53からの制御指令が入力される入出力回路55に接続され、電圧印加による陽極13の移動及び陰極15の回転を制御可能にされている。従って、陽極13及び陰極15間に印加された電圧からアーク放電状態を制御機構53で演算し、アーク放電で発生した単層カーボンナノチューブ含有生成物の成長に応じて陽極13の移動、陰極15の回転を調整する制御信号を入出力回路55からモータ21及びソレノイド22に出力することができる。このようにすると、安定条件下でのアーク放電が可能となり、品質の揃った(及び所望により均一に広く分散した薄層の)単層カーボンナノチューブ含有生成物(即ち、本実施例における炭素質材料)を得ることができる。
【0027】
(2)カーボンナノチューブを含む炭素質材料の調達
次に、このような製造装置1を用いて、単層カーボンナノチューブを合成した。まず、上述したような陽極13及び陰極15を用意し、所定間隔に設定して反応容器3内の図示しない電極保持部に配置した。そして、容器3に設けられた排出部11のバルブ44を開け、当該排出口45に接続する真空ポンプ49を作動させて、反応容器3内を排気・減圧した。容器3内の圧力が減圧され、13〜1.3×10−3Pa程度の高真空になったら、バルブ44を閉め、その後、ガス供給手段7により雰囲気ガスを導入した。雰囲気ガスとしてヘリウムガスを導入した。即ち、真空ポンプ49とガス供給手段7により、反応容器3内におけるヘリウムガスを6.6×104Paに調整した。
【0028】
そして、陽極13と陰極15間に電圧を印加し、直流電源23から電流(典型的には、30〜70A、例えば60A)を供給した。この結果発生したアーク放電によるアーク熱で、陽極13からカーボンを蒸発させた。電圧は、カーボン蒸発速度に応じて適宜選択されるが、ここでは、30〜40V程度に設定した。また、印加された電圧から、アーク放電状態を制御機構53で演算し、アーク放電で蒸発したカーボンの消耗に応じて制御信号を入出力回路55からモータ21及びソレノイド22に出力し、陽極13の移動、陰極15の回転を行った。
【0029】
このようなアーク放電法によって電極間の隙間においてアーク熱と触媒作用により単層カーボンナノチューブを含む生成物60が形成された。この生成物60は、供給された雰囲気ガスの気流によって反応容器3内に広がっていた(図1参照)。カーボンナノチューブの合成時間は、特に限定されないが、例えば、5〜20分、好ましくは10〜15分、特に11〜13分間程度である。ここでは、13分間行った。
【0030】
本装置を作動して単層カーボンナノチューブを所定量堆積させた後、得られた単層カーボンナノチューブ含有生成物(即ち、本実施例に係る炭素質材料)60は、反応容器3前面に開閉可能に設けられた図示しない蓋部を開き、例えばピンセット等で容器3内から剥離して取り出した。本装置によると、炭素質材料60は、反応容器3全面に広く均一に分散しているため、ピンセットでも容易に取り出すことができる。また、陽極13が垂直方向に配置されるとともに、陰極15が陽極13に対して鋭角に配置されるため、アーク放電が斜め方向に起こり、単層カーボンナノチューブを含まない陰極堆積物を少なくすることができた。このため、カーボンナノチューブの生成速度が向上した。即ち、本実施例では、約1g/分以上の生成速度を実現した。
【0031】
(3)カーボンナノチューブの精製例1
上記のようにして得られた生成物(炭素質材料)には、単層カーボンナノチューブとともに、触媒、例えばニッケル/イットリウム粉末及び不純物炭素が含まれていた。このため、次に、これら触媒及び不純物炭素を低減する、即ち、カーボンナノチューブの精製処理を行った。精製処理手順を以下に示す。
まず、得られた炭素質材料200mgとエタノール50mlを100mlビーカーの中に入れて、30分間超音波にかけた。
次いで、これを吸引濾過して流体を除去し、炭素質材料を回収した。さらに、回収した炭素質材料に蒸留水を200ml加え、4分間ミキサーにかけた(即ち、2分ミキサーにかけ、1分間休憩し、再び2分ミキサーにかけた)。
これを100mlずつに分け、第一被精製物及び第二被精製物とした。
そして、まずこの第一被精製物を環流用パイプを備えたフラスコに入れ、さらに、鉄微粒子(平均粒径:約0.2μm)10mgと、濃度30%の市販の過酸化水素水20mlとを加え、加熱還流処理を行った。
フラスコ内の液が沸騰後、さらに20分間経過した後に、過酸化水素水40mlを追加した。さらに20分間経過後に、過酸化水素水40ml追加した。さらに20分間経過後に、過酸化水素水50ml追加した。その300分経過後に、加熱を止め、還流処理を終了させた。そして、冷却後、上澄み液を排出させた。
同様に、第二被精製物についても、還流処理を行った。
【0032】
得られた還流処理液を遠心分離機(11000rpm)にかけ、30分間遠心分離処理を行い、沈殿物を回収した。
この沈殿物に塩酸(濃度:約36%)100mlを加え、5分間超音波にかけた。その後、12時間放置した。
12時間経過後、静かに上澄み液を捨て、単層カーボンナノチューブを含む画分を回収した。
次いで、回収画分に蒸留水を200ml加え、超音波に10分間かけた。
そして、2時間ほど置き、上澄み液を捨て、再度蒸留水を200ml加え、10分間超音波にかけた。さらに、2時間ほど放置し、上澄み液を捨て、再び蒸留水を200ml加え、10分間超音波にかけた。さらに、2時間ほど放置し、上澄み液を捨て、エタノールを加え、10分間超音波にかけた。その後、吸引濾過することにより、精製した単層カーボンナノチューブを得た。
得られた精製物の重量は、精密天秤で秤量したところ、28mgであった。収率は14%であった。
【0033】
(4)カーボンナノチューブの精製例2
次に、他の精製例について、説明する。
まず、鉄を不純物として含む炭素質材料を用意した。この鉄含有炭素質材料は、前記(2)に示した炭素質材料の製造手順と実質同じ手順で作製した。変更点は、陽極13においてニッケル/イットリウム触媒に代えて鉄触媒を含有させた点と、雰囲気ガスとしてヘリウムガスに代えて、全圧2.6×10Paのアルゴンガスと水素ガスとの1:1の混合ガスを採用した。
【0034】
まず、前記(2)において得られた炭素質材料180mgと上記鉄含有炭素質材料20mgとエタノール50mlとを100mlビーカーの中に入れて、30分間超音波にかけた。
次いで、これを吸引濾過し、これら炭素質材料(以下、「混合炭素質材料」という)を回収した。
さらに、回収した混合炭素質材料に蒸留水を200ml加え、4分間ミキサーにかけた(即ち、2分ミキサーにかけ、1分間休憩し、再び2分ミキサーにかけた)。
これを100mlずつに分け、第一被精製物及び第二被精製物とした。
そして、まずこの第一被精製物を上記フラスコに入れ、上記市販の過酸化水素水20mlを加え、上記(3)で説明したのと同様の還流処理を行った。
フラスコ内の液が沸騰後、20分間経過後に、過酸化水素水40mlを追加した。さらに20分間経過後に、過酸化水素水40ml追加した。さらに20分間経過後に、過酸化水素水50ml追加した。その120分経過後に、加熱を止め、還流処理を終了させた。そして、冷却後、10分間超音波にかけた。その後、2時間放置し、上澄み液を排出させた。
同様に、第二被精製物についても、還流処理を行った。
【0035】
得られた還流処理液を遠心分離機(11000rpm)にかけ、30分間遠心分離処理を行い、沈殿物を回収した。この沈殿物に塩酸(濃度:約36%)100mlを加え、5分間超音波にかけた。その後、12時間放置した。
12時間の経過後、静かに上澄み液を捨て、単層カーボンナノチューブを含む画分を回収した。次いで、回収画分に蒸留水を200ml加え、超音波に10分間かけた。そして、2時間ほど置き、上澄み液を捨て、蒸留水を200ml加え、10分間超音波にかけた。さらに、2時間ほど放置し、上澄み液を捨て、再び蒸留水を200ml加え、10分間超音波にかけた。さらに、2時間ほど放置し、上澄み液を捨て、エタノールを加え、10分間超音波にかけた。
その後、吸引濾過することにより、精製した単層カーボンナノチューブを得た。
得られた精製物の重量は、精密天秤で秤量したところ、42mgであった。収率は21%であった。
【0036】
(5)得られたカーボンナノチューブの性状観察
(3)の精製工程によって得られた単層カーボンナノチューブの観察を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope、日立株式会社製、型式H7000 及び走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、株式会社トプコン製、型式ABT−150F)によって行った。また、精製効果を比較評価するために、(2)の製造工程において得られた精製前の炭素質材料を透過電子顕微鏡(TEM)にて観察した。それらの写真を図2〜4に示す。図2は、精製前の炭素質材料のTEM写真、図3は、精製後の単層カーボンナノチューブのTEM写真、図4は、精製後のSEM写真である。
図2の写真から明らかなように、精製前の炭素質材料には触媒金属であるニッケル、イットリウムナノ粒子がカーボンナノチューブの表面に多量に分散して混在しており、その純度が低いことが判る。また、カーボン粒子やグラファイトが不純物として観察された。これに対して、図3及び図4の写真から明らかなように、精製されたカーボンナノチューブには、これら触媒金属粒子や炭素質の不純物がカーボンナノチューブ中にほとんど観察されず、その表面が清浄でカーボンナノチューブの純度が高いことが判る。また、精製工程によって、カーボンナノチューブの構造に変化は観察されず、従って、ダメージが与えられることはなかったことが判る。
【0037】
また、精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを観察した。ラマンスペクトルは、ラマン分光測定装置、即ち、Jobin Yvon株式会社製のRAMANOR T64000によって、測定した。結果(チャート)を図5に示す。得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトルは、1593cm−1付近にシャープなピークが観察された。また、1340cm−1付近には弱いピークしか観察されなかった。従って、得られたカーボンナノチューブは、高い純度で、かつ高い結晶性を示すことが判る。
【0038】
以上、本発明の好適な実施態様を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した態様を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】一実施形態に係る単層カーボンナノチューブ製造に用いられる装置の構成を示す模式図。
【図2】一実施例における精製前の炭素質材料のTEM写真。
【図3】一実施例における精製後の単層カーボンナノチューブのTEM写真。
【図4】一実施例における精製後の単層カーボンナノチューブのSEM写真。
【図5】一実施例における精製後の単層カーボンナノチューブのラマンスペクトル分析チャート。
【符号の説明】
【0040】
1……単層カーボンナノチューブ製造装置
3……反応容器
7……ガス供給手段
11…排出部
13…陽極
15…陰極
31…ガス供給口
49…真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製されたカーボンナノチューブを製造する方法であって、
カーボンナノチューブを含む炭素質材料を用意する工程;及び
前記炭素質材料に、鉄材と過酸化水素とを添加して、カーボンナノチューブを精製する工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記炭素質材料が実質的に鉄を含まない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記炭素質材料として、ニッケル、コバルト、及び白金族元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は該金属を主体とする合金を含有する炭素成形物を少なくとも陽極とする一対の電極間にアーク放電を起こさせて、該陽極から生じた蒸発物を堆積させることにより得られたものを用いる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記鉄材として、鉄粉末を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記鉄粉末は、前記炭素質材料の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部の割合で用いられる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記鉄材として、鉄を含む炭素成形物を少なくとも陽極とする一対の電極間にアーク放電を起こさせて、該陽極から生じた蒸発物を堆積させることにより得られた鉄含有炭素質材料を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ精製工程において、さらに無機酸成分を添加する、請求項1〜6のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブの精製方法であって、
カーボンナノチューブを含む炭素質材料に、鉄材と過酸化水素とを添加して、該カーボンナノチューブを精製することを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−27980(P2006−27980A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211889(P2004−211889)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】