説明

カーボンナノチューブの製造方法

【課題】触媒化学気相成長法により合成した粗CNTから純度の高いCNTを効率良く、安定に製造できる方法を提供することにある。
【解決手段】カーボンナノチューブの製造法であって、粗カーボンナノチューブを液相酸化処理した後、該液相酸化処理液からカーボンナノチューブを回収する際、液相酸化処理液を含むカーボンナノチューブスラリーを分散させた状態で、同時に、濾過分離することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法に関するものであり、より詳しくはカーボンナノチューブ工業的に精製することにより製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略す)が最初に広く報告されたのは1991年である。CNTは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層CNT、多層に巻いたものを多層CNTという。多層CNTの中でも特に2層に巻いたものを2層CNTという。CNTは、自体が優れた真性の導電性を有し、導電性材料として使用されることが期待されている。
【0003】
CNTの製造方法として、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法などが知られ、なかでも、グラファイト層に欠陥の少ない高品質なCNTを安価に製造する方法として触媒化学気相成長法が知られている。触媒化学気相成長法では触媒を担体に担持して行う方法が知られている。
【0004】
これらの方法で製造された粗CNTには、アモルファスカーボン(以下アモルファスと略す)、触媒などが不純物として含まれ、これらの精製法として化学的精製法が知られている。化学的精製法は、気相酸化法と液相酸化法に大別される。気相酸化法は酸素、水蒸気、一酸化炭素等の酸化性ガス、または、これら酸化性ガスと窒素、アルゴン等の不活性ガスとの混合ガスの雰囲気下でCNTを600℃〜1000℃に加熱し、アモルファスを酸化除去する方法である(特許文献1)。
【0005】
液相酸化法は、硝酸、硫酸、クロロスルホン酸等の酸化性液体中でCNTを加熱処理する精製法である(特許文献2、3)。気相酸化は、固体と気体の接触反応であり、接触ムラや、温度ムラが生じやすく、本方法のみで製造されたCNT不純物含有量にバラツキが生じ易い。
【0006】
一方、液相酸化は均一な反応が行え、反応温度の制御性も良い利点がある。しかし、気相酸化に比べ処理時間が非常に長くなること、処理後の反応液からのCNTの回収が非常に煩雑になる欠点がある。液相酸化の一例として、濃硝酸(70%)中、110〜170℃で20時間反応させる条件が開示されている(特許文献4)。液相酸化処理を軽減させるため、気相酸化を組み合わせる方法がしばしば取られる(特許文献5)。この方法では大部分のアモルファスが、気相酸化で一酸化炭素や二酸化炭素として除去されるため、液相酸処理時間の短縮が期待でき、気相酸化のみによる精製品に比べ、純度の高いCNTが製造できる。しかしながら、反応液からのCNT回収は依然、煩雑である。これら回収方法として濾過・遠心分離等が提案されているものの、スケールアップを想定した具体的操作・処理方法については提案されていない。単にこれらの方法をスケールアップして用いるのみでは、精製効果が十分でなく、更に、これらの文献で具体的に示された方法で得られたCNTを用いてインクを製造するには分散性は不十分であり、再現性のよい分散体を得ることは困難であった。また、それを塗布してフィルムとしたりしても、CNTそれ自体から予想される望ましい効果は発揮できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−048110号公報
【特許文献2】特開平08−198611号公報
【特許文献3】特開平08−012310号公報
【特許文献4】特開2003−054921号公報
【特許文献5】特開2004−352605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、触媒化学気相成長法などの方法により合成した粗CNTから純度の高いCNTを効率良く、安定に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、触媒化学気相成長法により合成した粗CNTから、高純度のCNTを安定かつ工業化に適した処方で製造する方法を完成するに至った。本発明は液相酸化処理した処理液から高純度のCNTを実用的な方法で製造する方法であって、詳しくは液相酸化処理液から高純度のCNTを回収する手段である。
【0010】
液相酸化処理液からのCNT回収手段として一般的に濾過、遠心分離などが挙げられるが、本発明ではCNTを含む液相酸化処理液を攪拌、分散させた状態で、同時に、濾過分離することで高純度のCNTが容易にかつ、安定に製造することができる。
【0011】
すなわち本発明は、下記の構成からなるものである。
【0012】
(1)カーボンナノチューブの製造法であって、粗カーボンナノチューブを液相酸化処理した後、液相酸化処理液からカーボンナノチューブを回収する際、液相酸化処理液を含むカーボンナノチューブスラリーを分散させた状態で、同時に、濾過分離することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【0013】
(2)粗カーボンナノチューブが、化学気相成長法、および触媒化学気相成長法から選択される方法で合成されたカーボンナノチューブであることを特徴とする(1)記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【0014】
(3)スラリーを攪拌し、濾過によりカーボンナノチューブを回収する際、該スラリーに連続的または間欠的に水を添加し、濾過面にケークを形成させることなく濾過分離することを特徴とする請求項(1)または(2)に記載のカーボンナノチューブの製造法。
【0015】
(4)該スラリーのpHを4以上とすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【0016】
(5)固液分離手段が、フィルター濾過、クロスフロー濾過から選択される方法であることを使用する(1)〜(5)のいずれか記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、触媒化学気相成長法等の方法で製造した粗CNTを原料に、高純度のCNTを安定的に製造することができる。本発明のCNTは、分散性に極めて優れるため、これを使用することで高度に分散されたCNTが再現性よく取得することができ、ナノ効果が期待される分野例えば、光学部材や電子部材での製品開発を効果的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の製造方法に用いる好ましい装置形態の一例である。
【図2】図2は本発明の製造方法に用いる別の好ましい装置形態の一例である。
【図3】図3は本発明の製造方法に用いる別の好ましい装置形態の一例である。
【図4】図4は、実施例1で用いた装置形態を示す。
【図5】図5は実施例1で製造した精製CNTの熱重量分析曲線(DTG曲線)を示す。
【図6】図6は比較例1で製造した精製CNTの熱重量分析曲線(DTG曲線)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳述する。
【0020】
本発明が適用されるCNTとしては、本発明効果を有効に発揮できる点から化学気相成長法、および触媒化学気相成長法等の方法で合成されたCNTが挙げられる。CNTの形状について特に制限しないが、特に単層から5層の比較的直径が小さく、長さが5μm以下の比較的短いCNTに対して特に有効である。
【0021】
CNTの製造方法としては、例えば以下の製造方法が例示される。
【0022】
まず、CNTの合成は、例えば担体に鉄などの金属触媒を担持させた粉末状の触媒と、炭素を含むガスとを500〜1200℃で接触させ粗CNTを製造する。下記に好ましい一例を挙げるが、これに限定されるものではない。粉末状の触媒に用いる担体としては酸化物担体が好ましく、酸化物担体としては、周期表で2属、12〜16属に示される典型金属のうち、炭素と500℃以上で固溶体を形成しない金属酸化物であれば適宜使用可能であるが、酸化マグネシウムを用いるのが好適である。また、触媒金属としては、元素周期表に定められた1族〜16族より選ばれる典型金属元素、遷移金属元素を少なくとも1種類以上含む金属元素を挙げることができる。中でも、触媒金属としては、Co、Fe、Niが好ましい。より好ましくはFeを用いるのが好適である。
【0023】
触媒である鉄を、担体であるマグネシアに担持させることにより、鉄の粒径をコントロールしやすく、また高密度で鉄が存在しても高温下でシンタリングが起こりにくい。そのため、高品質なカーボンナノチューブを効率よく多量に合成することができる。さらに、マグネシアは酸性水溶液に溶けるので、担体、触媒、カーボンナノチューブの混合物を酸性溶液にさらすだけでマグネシアおよび鉄の両者を取り除くこともできるため、精製工程を簡便化することができる。
【0024】
マグネシアは、市販品を使用しても良いし、合成したものを使用しても良い。マグネシアの中でも軽質マグネシアが好ましい。軽質マグネシアとはかさ密度が小さいマグネシアである。軽質マグネシアのかさ密度は0.20g/mL以下であることが好ましく、0.05〜0.16g/mLであることが触媒の流動性の点からより好ましい。マグネシアに担持する鉄は、0価の状態とは限らない。
【0025】
反応中は0価の金属状態になっていると推定できるが、広く鉄等の金属を含む化合物または鉄等の金属種でよい。例えば、ギ酸鉄、酢酸鉄、トリフルオロ酢酸鉄、クエン酸アンモニウム鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、ハロゲン化物鉄などの有機塩または無機塩、エチレンジアミン4酢酸錯体やアセチルアセトナート錯体のような錯塩などが用いられる。また前記化合物中、鉄はその他の前記金属に置き換えてもよい。また鉄等の金属は微粒子であることが好ましい。微粒子の粒径は0.5〜10nmであることが好ましい。鉄等の金属が微粒子であると外径の細いCNTが生成しやすい。
【0026】
マグネシア等の担体に鉄等の金属を担持させる方法は、特に限定されない。例えば、マグネシアに鉄を担持する場合では、担持したい鉄の塩を溶解させた非水溶液(例えばエタノール溶液)中または水溶液中に、マグネシアを含浸し、攪拌や超音波照射などにより充分に分散混合した後、乾燥させる(含浸法)。前記方法は他の担体、あるいは他の金属触媒成分を用いる場合にも準用できる。
【0027】
鉄担持量は、多いほどCNT収量が上がるが、多すぎると鉄の粒子径が大きくなり、生成するCNTが太くなる。鉄担持量が少ないと、担持される鉄の粒子径が小さくなり、外径の細いCNTが得られるが、収率が低くなる傾向がある。最適な鉄担持量は、マグネシアの細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、マグネシアに対して0.1〜20重量%の鉄を担持することが好ましく、特に0.2〜10重量%であることが好ましい。
【0028】
このようにして得られた、鉄等の金属を担持したマグネシア等の担体を縦型反応器に充填する。反応器は石英製、アルミナ製等の耐熱材質からなることが好ましい。縦型反応器としては流動床などが採用される。
【0029】
流動床の操作は、バッチでも連続でも構わない。流動床での合成温度は、500〜1200℃が好ましく、600〜950℃がより好ましく、さらに好ましくは700℃〜900℃の範囲である。温度が500℃よりも低いと合成量が低下し、また温度が1200℃よりも高いと、使用する反応器の材質や、マグネシア自体の耐熱性の問題などから良好なCNTが合成されない。
【0030】
炭素源としては、メタンが好ましいが、その他の炭素源、例えばエタン、プロパン、アセチレンなど反応性の高いガスを用いることができる。
【0031】
希釈ガスは特に限定されないが、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム等が好ましく使用される。これらのガスは、メタン等の炭素源の濃度制御や、キャリヤガスとして効果がある。上記のような製造工程によって製造された粗CNTには、担体および触媒、副生物のアモルファスが含まれる。
【0032】
担体および触媒は、酸水溶液、例えば塩酸で処理することで溶解させることができる。その後、濾過などの適切な分離操作により、容易にCNTおよびアモルファスからなる粗CNTを取り出すことができる。
【0033】
上述の粗CNTはアモルファスを含むため、これを液相酸化により分解させる。本発明において、液相酸化の原料は、気相酸化処理品であってもなくても良い。合成された炭素中のCNT純度にもよるが、気相酸化をしない場合、液相酸化処理時間が長くなり、更に、後述する濾過操作が煩雑になる。
【0034】
液相酸化の酸化性液体として、硝酸、硫酸、過酸化水素水等の酸化剤と使用することができる。
【0035】
これらは単体またはこれらを組み合わせた混酸としても使用できる。中でも硝酸が好ましく使用される。硝酸は濃硝酸(69wt%)であれば充分目的を達する処理を行うことができる。硝酸濃度を上げて使用することもできるが、酸化処理や、処理後のCNT回収操作における取り扱いに注意を要する。硝酸濃度が低いとアモルファスの分解速度が低下し処理時間が長くなる。硝酸濃度が30wt%未満になるとアモルファス分解しにくくなる。したがって、硝酸を用いて処理する際の硝酸濃度は30〜70wt%が好ましい。
【0036】
液相酸化は、酸処理した粗CNTと酸化性液体を混合し、加熱することで進めることができる。酸化処理は常圧でも加圧でも良いが、安全性から考えると常圧の方が好ましい。次に、酸化処理温度は濃硝酸の沸騰温度で行うことが好ましい。温度が低いと液相酸化速度が遅くなる。沸騰条件であれば温度管理も容易であり、かつ、酸化反応速度も管理し易い。
【0037】
次に、使用する酸化性液体は、粗CNTに対し100〜1000重量倍が好ましい。更には150〜500重量倍がより好ましい。より好ましくは150〜350倍が良い。酸化性液体の量が少ないと粗CNTの混合液の粘性が上がり、取り扱いが煩雑になる。また量が多すぎると、反応装置が大きくなるばかりでなく、経済的にも好ましくない。粗CNT重量は、酸処理したケークの一部をサンプルし、絶乾し固形量を測定することで把握できる。すなわちケーク中の粗CNT量は
固形濃度(wt%)=(絶乾後のサンプル重量/ウェットケークのサンプル重量)×100
粗CNT量(g)=ケーク重量(g)×(固形濃度(wt%)/100)
で求めることができる。液相酸化処理時間は、酸処理後の粗CNTのアモルファス含有量によっても異なるが、3時間以上300時間以下が好ましい。更には、3時間以上150時間がより好ましく、更に好ましくは5時間以上100時間以下が良い。処理時間が短いと、アモルファスの残存量が増え、固液分離後のCNT純度が向上しないばかりか、分散性も低下する。また、処理時間が長くなれば、生産性が低下し経済的に好ましくない。
【0038】
粗CNT中のCNT濃度は、熱重量分析で評価することができる。熱重量分析は、約1mgの試料を熱重量分析装置(例えば島津製作所製 TGA-60)に設置し、10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで昇温し、その際の試料の重量減少を測定する。
【0039】
次に、得られた重量減少曲線を時間で微分することによりx軸を温度(℃)、y軸をDTG(mg/min)とした微分熱重量曲線(以降DTGと省略)が得られる。その際のピーク温度を燃焼ピーク温度とする。通常CNTはDTG曲線で高温側と低温側に二つの燃焼ピークが現れる。本発明で好ましく製造されるCNTにおいては高温側の燃焼ピークは600〜850℃にあり、このピークのピーク面積に相当する範囲の重量減量分をTG(H)とし、低温側の燃焼ピークとは200℃〜高温側の燃焼ピークへと変化する変曲点までのピーク面積に相当する範囲の重量減量分をTG(L)とする。 変曲点が存在しない場合には200℃〜600℃の範囲の重量減量分をTG(L)とする。CNT濃度は、この重量減分により、次式で求められる。
CNT濃度=TG(H)/(TG(L)+TG(H))
【0040】
TG(L)はアモルファスなどのCNT以外の炭素不純物と考えられる。高温側と低温側に2つの燃焼ピークが存在する粗CNTを液相酸化処理し、本発明の方法で分離した濾液から回収した試料を熱重量分析して得られたピークがこの低温側のピークとよく一致することから、熱重量分析時に低温側の燃焼ピーク部分に相当する温度で消失する成分は、難溶解性アモルファスと同等のものと推論される。また、上記濾液から回収した試料を透過型電子顕微鏡で観察すると、粒子状のCNT以外の炭素不純物が観察される。
【0041】
また、上述の熱分析の評価法について、高温側の燃焼ピークが上記範囲よりもずれるなど、上記方法で評価することが粗CNTの実状に照らして適当でない場合、以下の様に読み替えることができる。即ち、製造するCNTによってはCNTの燃焼範囲が異なる可能性あり、例えば単層CNTを主成分とするCNTでは500℃程度に燃焼ピークを持つ場合がある。
【0042】
この場合においても本発明の手法で純度の高いCNTが取得でき、CNT本来の燃焼ピークが把握できるので、この燃焼ピークとアモルファスの燃焼ピークの変曲点、すなわち低温側と高温側の変曲点を境に高温側、低温側それぞれのピーク面積に相当する範囲の重量減量分で評価するなど、適宜アレンジすることで、CNTの濃度を把握することができる。
【0043】
単層CNTは、メタン以外のガス、例えばアセチレンなど反応性の高いガスをCNTの炭素源として採用することで、化学気相成長法、および触媒化学気相成長法で製造することができる。
【0044】
次に、液相酸化液からのCNT分離方法について詳述する。適切な液相酸化処理を行うことで、ほとんどのアモルファスが分解するものの、分解性の悪いアモルファスが残存する(以下、難分解性アモルファスと略す)。
【0045】
難分解性アモルファスは液相酸化処理前のアモルファス含有量によっても異なるが、液相酸化処理後のCNTに1〜80重量%程度含まれる。これらはCNTと共に固体であり、相互が混在した状態であるため、従来の濾過分離操作のみではCNTと分離することができない。
【0046】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、液相酸化処理液のpHが4以上になると、液相中のCNTと難分解性アモルファスの分離性が良化し、軽度の攪拌を与えることで、両者それぞれが分散した液が形成できることを見出した。更に、これを濾過することで難分解性アモルファスを効率的にかつ、再現良く分離することができることを見出し、本発明に至った。
【0047】
従来の濾過では、不純物は液体中に主に存在するため製品を濾過面に捕集し、不純物を含む液を濾液として分離する。更に製品純度を上げる場合は、ケーク量に対し一定量の洗浄液を通液することで、ケークに含まれる不純物濃度を低減させる方法が取られるのが通常である。
【0048】
しかしながら通常の濾過を行うとCNTおよび難分解性アモルファスはケークとして濾過面に固定されてしまうため、洗浄によりケークのpHが4以上になっても、難分解性アモルファスは分離されずにケーク内に留まってしまう。
【0049】
その結果、長期間の液相酸化処理したCNTであっても、CNT純度が低いという問題が生じたり、また、同じ装置で濾過処理しても、処理量が極度に少なくケーク厚みが極度に薄い場合に、濾液が濁りCNTの純度が向上する現象が見られる。ただし、本法は濾過面当たりのCNT処理量が非常に少なくなるため、量産化時には過剰な濾過面積を有した装置が必要となり、経済的ではない。
【0050】
本発明においては、濾過面にCNTケーク層を形成させることなく、常にCNTスラリーを攪拌することで、液相中にCNTと難分解性アモルファスの両者が相互に分散した状態が保たれ、この液を、CNTを捕捉できる程度の細孔径を持ったフィルターで分離することで、難分解性アモルファスを効率良く分離することができる。
【0051】
すなわち、本発明によれば、pH4以上の液体雰囲気下で、濾過面にCNTケークを形成させることなく攪拌したスラリーを形成させる攪拌手段と、これと固液分離手段とを組み合わせることで、高純度、かつCNT純度が安定した製品を取り出すことができる。
【0052】
固液分離手段としては公知の方法であれば制限がなく、例えば、濾過、吸引濾過、加圧濾過などを用いることができる。即ち、本発明ではCNTが捕捉でき、難分解性アモルファスが透過できる程度のフィルターであれば所望の目的が達せられるので、そのフィルターが採用できる公知の濾過方法であれば、特に限定されることはない。また、攪拌手段についても公知の方法であれば制限がなく、攪拌翼による混合、超音波分散を使用することができる。
【0053】
次に、本発明について図面を参酌して説明する。図1は本発明の製造方法に用いる好ましい装置形態の一例であり、攪拌翼による液相酸化処理液の混合と、濾過分離を組み合わせた装置例である。
【0054】
装置は攪拌翼を有する攪拌機17を備えた攪拌槽11と、濾液受け槽15が連結されており、その連結部に支持板13に保持された濾過膜12を配置する。また、濾液受け槽15は減圧できる手段(たとえば減圧ライン3を通して真空ポンプで減圧する)を備えている。更に、濾過膜12の下方に濾過液の色調が確認できる漏斗状の濾液コレクター14と、色調確認の為の濾液観察窓16を有す。
【0055】
攪拌槽11に液相酸化処理液を供給するライン1と、洗浄水の供給ライン2、濾液受け槽15には槽を減圧とさせる減圧ライン3、放圧ライン4、液抜き出しライン5を具備している。各ラインは、バルブ9を具備している。
【0056】
攪拌翼はスクリュー翼、パドル翼、タービン翼など公知の翼を用いることができる。また、攪拌速度は翼形状、羽根の枚数によって攪拌効果も異なるので特に限定しないが、濾膜上にCNTケークが形成されない速度以上あれば良い。
【0057】
濾過に用いるフィルターは、目開きが1μmから10μmが好ましく、更には1μmから5μmが更に好ましい。フィルターの細孔が小さいと難分解性のアモルファスによって目詰まりが生じ操作性が悪化する。細孔が大きいとCNTまでも濾抜けし回収率が低下する。
【0058】
濾過に用いる好ましいフィルターとして、メンブレンフィルターを使用することができる。
【0059】
次に、図1以外の好ましい代表的装置形態を図2から図3に示す。
【0060】
図2は、さらに加圧ライン6を備え、攪拌槽11を加圧、濾過液受け槽15を常圧とするもので、機構的には図1と同じである。
【0061】
図3は、濾過をクロスフローとするものであり、攪拌翼を有する攪拌機37を備えた攪拌槽31と濾液受け槽35との間で液相酸化処理液を含むカーボンナノチューブスラリーを循環ライン8により循環させ、攪拌槽循環ポンプ38の圧により濾過圧を与え図1同様の効果を得るものである。なお、攪拌槽循環ポンプ38と濾液受け槽35の間には圧力計40が備えられ、濾液受け槽35と攪拌槽31の間には濾過圧調整バルブ39が設けられている。
【0062】
濾過圧を与えられたスラリーは、濾過膜32を介して、濾液が、濾液受け槽35に連結された濾液抜き出しライン5から抜き出される。攪拌槽31に液相酸化処理液を供給するライン1と、洗浄水の供給ライン2、放圧ライン7、濾液受け槽35には放圧ライン4、液抜き出しライン5を具備している。
【0063】
次に図1を用い、好ましい運転法を記載する。なお、図2、図3に示す装置形態においても同様に応用が可能である。まず、液相酸化処理液を供給するライン1から液相酸化処理液を攪拌槽11に供給し、攪拌機17を起動させる。次いで減圧ライン3により濾液受け槽15を減圧とし、濾過を開始する。濾過が進むに連れ、攪拌槽の液面が低下するので洗浄水の供給ライン2より洗浄水を連続的、または間欠的に供給する。
【0064】
洗浄水としては、蒸留水を好ましく用いることができ、より好ましくは超純水である。超純水を使用することで、水由来で混入する微量不純物が阻止できる。
【0065】
洗浄水の供給量は処理液中の粗CNT濃度、難分解性アモルファス濃度により濾過速度が異なることから一概に決めることが出来ないが、攪拌槽の液面を攪拌可能な程度に保たれる程度に連続供給すればよく、なかでも攪拌槽11の液面が一定に保たれる様に連続供給することが好ましい。液面が一定であれば、液相酸化処理液中のCNT分散状態が一定に保たれ、更に、CNTの濃度が一定であるため、液相酸化処理液の粘度が安定し、攪拌槽の混合状態が良好に保たれる。
【0066】
攪拌槽11の酸化性液体が抜け、攪拌槽11内液が概ねpH4以上となると、濾液が黒く着色し始め、難溶解性のアモルファスが落液し始める。濾過操作の終了は濾液の色調により判断される。分離し得る難溶解性アモルファスがほぼ分離されるに従い、濾液観察窓16から観察される濾液は徐々に透明になってくるのでこの色調により判断する。
【0067】
濾過終了時の濾液は概ね中性にまで酸が除去されているため、濾液のpHを基準に濾過操作の停止を判断することはできない。より厳密に色調を判断する場合、濾液の透過率を測定することで判断することもできる。濾過の停止は、洗浄水の供給ライン2の洗浄水を止めることで終了でき、濾膜上に高純度のCNTからなるケークを取り出すことができる。また、本発明で得られたCNTケークを水以外の分散媒に分散させる場合は、ケークを目的の分散媒で洗浄し、CNTの付着液を置き換えることができる。この際の分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルなどが挙げられる。
【0068】
かくして得られるCNTは、アモルファスカーボン等の炭素不純物が必要十分に低減されているため、媒体中に分散させて分散体にしたときの分散性に優れ、さらに再現性にも優れている。
【0069】
また、本発明はとりわけスケールアップする場合に特に有効である。即ち、攪拌操作と濾過を組み合わせた単純な装置構造であるため、実施例で示す小規模な装置から、図1〜3に示す装置へのスケールアップには特殊なスケールアップパラメータを要すことなく実施できる。
【0070】
以上の手法で製造されるCNTは透明導電性基材として使用することができる。透明導電性基材として使用する際には、CNTを界面活性剤や各種高分子材料などの添加剤とともに分散媒に分散させて分散液とする。得られたCNTを含有する分散液は基材に塗布することが可能であり、塗布後の基材の光透過率が80%以上、表面抵抗値2×10Ω/□以下である透明導電性基材を製造することが可能である。
【0071】
また、本発明のCNT分散液は分散能や分散安定化能などの向上のために添加剤として界面活性剤、各種高分子材料等を含有できる。界面活性剤としては、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤に分けられるが、本発明のCNTではいずれの界面活性剤を用いることも可能である。イオン性界面活性剤は、単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。
【0072】
陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。
【0073】
両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。
【0074】
陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤であり、中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0075】
非イオン性界面活性剤は、単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましく、中でもポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0076】
また各種高分子材料はCNTの他に含有されることができる添加剤として用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Na−CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー等がある。またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体もカーボンナノチューブの分散能や分散安定化能等を向上させるために使用できる。なかでも、導電性ポリマーおよびそれらの誘導体は、上記目的以外にもCNTの導電特性を効率的に発揮するために用いることもできる。
【0077】
また導電性ポリマーは水溶性でも非水溶性でも用いることができる。通常、非水溶性の導電ポリマーが多く知られているが、高分子中にカルボン酸、スルホン酸などの親水性基を有するものや、非水溶性導電ポリマーに酸をドープして水溶性に変化した水溶性導電ポリマーも使用することが可能である。
【0078】
本発明で製造するCNTの分散媒は特に限定されず、水系溶媒でも良いし非水系溶媒でも良い。非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0079】
これらのなかでも分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有する分散媒であることが好ましい。水系溶媒が必要である場合、および後述するようにバインダーを用いる場合であって、そのバインダーが無機ポリマー系バインダーの場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。また、バインダーとして常温で液状のものを用いる場合には、それを分散媒として用いることもできる。
【0080】
上記液における各成分の配合割合は、以下のとおりである。
【0081】
すなわち、CNTを含有する液は、液中、CNTを0.01重量%以上含有していることが好ましく、0.1重量%以上含有していることがより好ましい。上限としては、通常20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下の濃度で含有していることである。
【0082】
界面活性剤および各種高分子材料の添加剤の少なくとも1種の含有量としては、特に限定されるものではないが、それぞれ好ましくは、0.1〜50重量%、より好ましくは、0.2〜30重量%である。上記分散剤の少なくとも1種とCNTの混合比は(添加剤/CNT)としては、特に限定はないが、混合(重量)比で好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10である。また本発明のCNT分散液は、分散性に優れるため、所望のCNT含量よりも高濃度の分散液を作製し、溶媒で薄めて所望の濃度として使用することも可能である。溶媒としてはいかなる溶媒であってもよいが、使用目的に応じて選択される。導電性がさほど必要で無い用途は、CNT濃度を薄めて使うこともあるし、最初から薄い状態で作成しても良い。
【0083】
分散液やそれにバインダーなどを添加した液は、透明基材だけでなく、あらゆる被塗布部材、例えば着色基材および繊維に塗布を施すための透明被覆液としても使える。その際の被塗布部材、例えば、クリーンルームなどの床材や壁材にコーティングすれば帯電防止床壁材として使用できるし、繊維に塗布すれば帯電防止衣服やマット、カーテンなどとして使用できる。
【0084】
CNT分散液を調製後、基材上に塗布することで導電性フィルムを形成することができるが、CNT分散液を塗布する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、バーコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、バーコーティングである。
【0085】
本発明のCNT分散液を塗布した導電性フィルムは、液を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な分散媒を除去することができる。それによりCNTは、3次元編目構造を形成し基材に固定化される。その後、液中の成分である分散剤を適当な溶媒を用いて除去する。この操作により、電荷の分散が容易になり透明導電性フィルムの導電性が向上する。
【0086】
分散剤を除去するための溶媒としては分散剤を溶解するものであれば特に制限はなく、水性溶媒でも非水性溶媒でもよい。具体的には水性溶媒であれば、水やアルコール類が挙げられ、非水性溶媒であれば、クロロホルム、アセトニトリルなどがあげられる。
【0087】
上記のように液を塗布してCNTを含む透明導電性フィルムを形成後、このフィルムを有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらなる電荷の分散や、移動に効果的である。
【0088】
本発明のCNTは、CNT分散液としてフィルム(例えば通常のポリエチレンテレフタレートフィルム)に塗布して、光透過率が80%以上、表面抵抗値が2×10Ω/□以下のものが得られ、好ましい態様においては、上記フィルムの透過率で80〜88%、表面抵抗で1×10以上2×10Ω/□以下も達成可能である。
【0089】
なお、フィルムの光透過率、表面抵抗値は、次の方法で測定したときの値とする。光透過率は550nmの光源を用いて測定するが、この時導電性フィルムの光透過率は基材も含めて測定する。上記発明のCNTを分散液とし、塗布してフィルムとしたときの「光透過率が80%以上である」とは、この時の光透過率が80%以上である。さらに本発明における前記本発明のCNTを分散液とし、塗布してフィルムとしたときの「表面抵抗値が2×10Ω/□以下である」とは、このときのフィルムの表面抵抗値が2×10Ω/□以下である。導電性フィルムの導電性はフィルムの表面抵抗値を測定して評価する。表面抵抗値はJISK7149準拠の4端子4探針法を用い、例えばロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定することが可能である。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP−HT450((株)ダイアインスツルメンツ社製、10V、10秒)を用いて測定することが可能である。
【0090】
本発明の基材となるフィルムは特に限定されない、透明性が必要な時には、透明フィルム、例えばPETフィルムなどを用いる。
【0091】
本発明の導電性フィルムは、基材と接着させたまま使用することも出来るし、基材から剥離させ自立フィルムとして用いることも出来る。自立フィルムを作製するには、透明導電性フィルム上にさらに有機ポリマー系バインダーを塗布した後、基材を剥離すればよい。また、作製時の基材を熱分解により消失あるいは溶融させ、別の基材に導電性フィルムを転写して用いることもできる。その際は、作製時の基材の熱分解温度<転写基材の熱分解温度であることが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
実施例中、各種物性評価は以下の方法で行った。
【0093】
[熱分析]
約10mgの試料を示差熱分析装置(島津製作所製 DTG−60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温した。そのときのDTA曲線から発熱による燃焼ピーク温度を読みとった。
【0094】
[光透過率]
光透過率はフィルム(基材も含む)を分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、550nmの光源を用いて測定した。
【0095】
[表面抵抗値]
表面抵抗値はJISK7149準拠の4端子4探針法を用い、例えばロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定した。
【0096】
<参考例>
(軽質マグネシアへの金属塩の担持)
クエン酸アンモニウム鉄(和光純薬工業社製)5gをメタノール(関東化学社製)250mLに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(和光純薬工業社製、かさ密度は0.16g/mLであった)を50g加え、超音波洗浄機で60分間処理し、40℃から60℃で攪拌しながら乾燥してメタノールを除去し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された固体触媒を得た。
【0097】
(CNTの合成)
CNTは流動床反応器で合成した。流動床反応器は、内径74mm、長さ1400mmの円筒形石英管と、その中央部に流動床の保持並びに、流動化原料ガスを分散させる石英焼結板を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガスの供給ライン、上部には排ガスラインおよび、触媒投入ラインを具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器を具備する。触媒130gを密閉型触媒供給機から触媒投入ラインを通して、石英焼結板上に触媒をセットした。次いで、ガス供給ラインから窒素ガスを5000mL/分で供給開始した。反応器内を窒素ガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した(昇温時間30分)。850℃に到達した後、温度を保持し、ガス供給ラインの窒素ガス流量を14780mL/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口から流動化を確認した後、さらにメタンを720mL/分(メタン濃度4.5vol%で反応器に供給開始した。該混合ガスを60分供給した後、窒素ガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
【0098】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とCNTを含有する粗CNTを取り出した。
【0099】
(触媒の除去)
上記の粗CNTから触媒を除去するため、次のように精製処理を行った。粗CNTを粗CNTに対し6重量倍量の濃塩酸水液(35%濃塩酸一級:和光純薬工業株式会社製)に除熱しながら添加し、その後、80℃のウォーターバス内で2時間攪拌した。これを孔径1μmのフィルターを用いて濾過、数回水洗しマグネシアおよび金属を除去した。
【0100】
(粗CNTの熱分析)
上記の濾過物を1.02g秤量瓶に取り、120℃のオーブンで一晩乾燥させて水分を除去した。乾燥後の粗CNTの重量は0.04gであった。この乾燥試料より約10mg取り分け、示差熱分析装置(島津製作所製 DTG−60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温した。900℃までの重量減量を読みとった所、98.2重量%の炭素純度であった。
【0101】
(液相酸化処理)
2L丸底フラスコに1000ccの濃硝酸(和光純薬社製)を張り込み、触媒除去後の粗CNT5gを加えた。次いで、フラスコをマントルヒータにセットし、テフロン(登録商標)製の半月板攪拌翼で120rpmで攪拌しながら、内液が沸騰するまで昇温した。この時の温度は120℃であり、この時間を液相反応開始時間として25時間、攪拌・沸騰状態を保持し、液相酸化反応を行った。25時間経過後、マントルヒータ電源を切り、降温し、液相酸化処理液を取得した。本操作を繰り返し必要量の評価原料を製造した。
【0102】
<実施例1>
液相酸化液の処理は図4に示す装置で実施した。装置機能は図1と同じである。攪拌槽および濾過手段として、減圧濾過用フィルターホルダー(アドバンテック東洋株式会社製)を使用した。フィルターホルダーは濾過原料を貯めるファンネル部41(品名KG−90、容量1100mL)とサポートスクリーン43(焼結ガラス製)で構成される。ファンネル部41を攪拌槽として、ファンネル内部に半月板攪拌翼を有する攪拌機47(テフロン(登録商標)製:翼幅70mm)を設置した。また、濾過膜42はメンブレンフィルター(OMNIPORE MEMBRANE FILTERS, FILTER TYPE:5.0μm JM,90mmφ)を用い、サポートスクリーン43上にセットした。フィルターフォルダーを10L三口フラスコ44に連結し、三口フラスコ44の1口を真空ポンプ連結した減圧ライン3に接続した。また、ファンネル部41には洗浄水が滴下できる洗浄水の供給ライン2を設けた。
【0103】
参考例で得られた液相酸化処理液1000ccを液相酸化処理液を供給するライン1から攪拌槽であるファンネル部41に供給し、攪拌翼を有する攪拌機47を用いて30rpmで攪拌開始した。次いで、三口フラスコ44内を真空ポンプにより減圧ライン3を介して減圧し濾過操作を開始させた。同時に、濾過により攪拌槽液面が低下するので、洗浄水の供給ライン2のバルブ9の開度を調整し、攪拌槽であるファンネル部41の液面が一定になるように洗浄水の供給ライン2から蒸留水の滴下を開始した。
【0104】
ケーク層が濾過面に形成されていないか、20分間隔で、一時的に攪拌翼47を停止させ、テフロン(登録商標)製の匙で濾過面をなぞりケーク層が形成されていないことを確認した。濾過開始からしばらくたつと濾液は黄色から透明無色になり、その後、黒みを帯びた濾液が落液し始めた。この時の攪拌槽の内液のpHをpH試験紙で確認したところ、約pH4であった。
【0105】
濾液が着色し始めてから、12000cc蒸留水を通液したところで、濾液はほぼ無色透明になった。濾液をpH試験紙で確認したところ、pH7であった。難分解性アモルファスがほぼ除去されたと判断し、蒸留水(洗浄水の供給ライン2)の供給を停止、濾過膜42上にCNTケークを取得した。ケーク重量は5.7gあった。この時のケーク固形濃度は7.23重量%であり、精製CNTとして0.41g取得した。熱重量分析を行った結果、図5に示すとおり、DTG曲線から高温側の燃焼ピークは758℃であり、低温側の燃焼ピークは490℃であった。図5は精製CNTの熱重量分析曲線(DTG曲線)を示す。高温側の545〜900℃におけるピーク面積に相当する減量分をTG(H)、低温側の200〜545℃におけるピーク面積に相当する減量分をTG(L)として計算したところ、TG(H)/(TG(L)+TG(H))=0.85であった。
【0106】
得られたウェット状態のカーボンナノチューブ含有組成物を固形量重量換算で15mg取り、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマ社製90kDa,50〜200cps)水溶液4.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。硝酸を用いてpHを4.0に合わせ超音波ホモジナイザー出力20W、7.5分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。その後、水、エタノールを添加して終濃度でカーボンナノチューブ含有組成物の濃度が0.08wt%となるように調製して分散液とした。この時、エタノールは5vol%含むように調製した。
【0107】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)、光透過率90.3%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布して風乾した後、蒸留水にてリンスし、120℃乾燥機内で2分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。得られた塗布フィルムの表面抵抗値は5.34×10Ω/□、光透過率は84.9%であり、高い導電性および透明性を示した。
【0108】
<比較例1>
実施例と同じく、液相酸化液の処理は図4に示す装置で攪拌翼を備えた攪拌機47のみを取り外し比較例と同様操作を行った。参考例で得られた液相酸化処理液1000ccを攪拌槽に供給し、次いで、三口フラスコ44内を減圧として濾過操作を開始させた。同時に、濾過により攪拌槽であるファンネル部41の液面が低下するので、蒸留水(洗浄水の供給ライン2)の滴下を開始し、攪拌槽液面が一定になるように調整した。
【0109】
濾過開始からしばらくたつと濾液は黄色から透明無色になり、その後、ほぼ無色透明な濾液が落液し始めた。濾液が着色し始めてから、5000cc蒸留水を通液した所で、三口フラスコを放圧し、濾過水のpHを測定したところ、pHは7であった。その後、濾過膜42上にCNTケークを取得した。ケーク量は10.44gであった。この時のケーク固形濃度は7.1重量%であり、精製CNTとして0.75g取得した。熱重量分析を行った結果、図6に示すとおり、DTG曲線から高温側の燃焼ピークは726℃であり、低温側の燃焼ピークは555℃であった。図6は精製CNTの熱重量分析曲線(DTG)曲線を示す。高温側の627〜900℃におけるピーク面積に相当する減量分をTG(H)、低温側の200〜627℃におけるピーク面積に相当する減量分をTG(L)として計算したところ、TG(H)/(TG(L)+TG(H))=0.47であった。
【0110】
得られたウェット状態のカーボンナノチューブ含有組成物は固形重量換算で15mg、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマ社製90kDa,50〜200cps)水溶液4.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。硝酸を用いてpHを4.0に合わせ超音波ホモジナイザー出力20W、7.5分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。その後、水、エタノールを添加して終濃度でカーボンナノチューブ含有組成物の濃度が0.08wt%となるように調製して分散液とした。この時、エタノールは5vol%含むように調製した。
【0111】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)、光透過率90.3%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布して風乾した後、蒸留水にてリンスし、120℃乾燥機内で2分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。得られた塗布フィルムの表面抵抗値は3.24×10Ω/□、光透過率は84.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、触媒化学気相成長法で製造した粗CNTを原料に、高純度のCNTを安定的に製造することができる。本発明のCNTは、分散性に極めて優れるため、これを使用することで高度に分散されたCNTが再現性よく取得することができ、ナノ効果が期待される分野例えば、光学部材や電子部材での製品開発を効果的に実施することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 液相酸化処理液を供給するライン
2 洗浄水の供給ライン
3 減圧ライン
4 放圧ライン
5 濾液抜き出しライン
6 加圧ライン
7 放圧ライン
8 循環ライン
9 バルブ
11 攪拌槽
12 濾過膜
13 支持板
14 濾液コレクター
15 濾液受け槽
16 濾液観察窓
17 攪拌機
31 攪拌槽
32 濾過膜
35 濾液受け槽
37 攪拌機
38 攪拌槽循環ポンプ
39 濾過圧調整バルブ
40 圧力計
41 ファンネル部
42 濾過膜
43 サポートスクリーン
44 三口フラスコ
47 攪拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの製造法であって、粗カーボンナノチューブを液相酸化処理した後、液相酸化処理液からカーボンナノチューブを回収する際、液相酸化処理液を含むカーボンナノチューブスラリーを分散させた状態で、同時に、濾過分離することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
粗カーボンナノチューブが、化学気相成長法、および触媒化学気相成長法から選択される方法で合成されたカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
スラリーを攪拌し、濾過によりカーボンナノチューブを回収する際、該スラリーに連続的または間欠的に水を添加し、濾過面にケークを形成させることなく濾過分離することを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブの製造法。
【請求項4】
該スラリーのpHを4以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
固液分離手段が、フィルター濾過、クロスフロー濾過から選択される方法であることを使用する請求項1〜4のいずれか記載のカーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207671(P2011−207671A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76942(P2010−76942)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】