説明

カーボンナノチューブの製造装置

【課題】反応器内の固形炭素不純物などの堆積による目詰まりや劣化を防止することができ、長時間にわたって連続運転が可能なカーボンナノチューブの製造装置を提供する。
【解決手段】粒状触媒と炭素含有ガスが反応する流動部を有し、かつ、内部にガス分散板が設けられた反応器を有するカーボンナノチューブの製造装置であって、少なくともガス分散板がセラミックスでコーティングされてなるカーボンナノチューブの製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造装置に関する。さらに詳しくは、流動部を有し、かつ底部にガス分散板が設けられた反応器を有するカーボンナノチューブの製造装置において、反応器が堆積物などによる目詰まりや劣化を起こすことのないカーボンナノチューブの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、高い電気伝導性、熱伝導性を有することから、樹脂、金属、セラミックスなどのマトリックス中に含有させて複合材料とすることにより、樹脂、金属、セラミックスなどの導電性や熱伝導性を向上させることができ、急速に利用が拡大している。
カーボンナノチューブの製造方法としては、化学気相成長法(CVD)や、アーク放電法、レーザー蒸発法などが知られているが、特にCVD法によるカーボンナノチューブの製造方法が、カーボンナノチューブを安価に、かつ大量に生産することができると言われており、製造装置に関するさまざまな提案が成されている。
このCVD法によるカーボンナノチューブの製造装置として流動層式製造装置が知られている。この流動層式製造装置は、内部にガス分散板を設けた反応器内に触媒を充填し、炭素含有ガスを、前記ガス分散板を通して供給することにより、該触媒と炭素含有ガスとを流動状態で接触させ、炭素含有ガスを熱分解してカーボンナノチューブを生成させるものである。
【0003】
従来の流動層式反応装置では、特に前記ガス分散板が短時間で目詰まりや劣化を起こすために、頻繁に反応槽を停止して、ガス分散板の清掃や交換を行なう必要があり、効率的ではなかったという問題があった。特に、このようなガス分散板の目詰まりや劣化は、カーボンンナノチューブの生成反応の触媒となる金属製のガス分散板において顕著である。
特に、上記のガス分散板の目詰まりや劣化は、FeやNiを多量に含む金属製のガス分散板において顕著である。
一般にCVD法によるカーボンナノチューブの製造には、原料ガスとして炭素含有ガスが用いられるが、FeやNiの触媒作用により、原料ガスが分解され、カーボンナノチューブ以外の固形炭素が析出し、ガス分散板の目詰まりを起こしている可能性がある。
このようなガス分散板の目詰まりが起こると、反応器内の圧力が上昇し、運転停止に至る可能性が高い。また、目詰まりが起こった領域が流動不良を起こし、反応生成物であるカーボンナノチューブの凝集固化により塊状物を形成する可能性が高く、運転トラブルと共に製品の品質低下を起こす問題があった。
さらに、カーボンナノチューブ以外の固形炭素が不純物となり、製品の品質を低下させるという問題もあった
【0004】
そこで、金属製に替わる耐久性のあるガス分散板材質の検討が行われている。
たとえば、特許文献1では、石英焼結板を使用したガス分散板を有する反応器に触媒を充填し、反応器底部より炭素含有ガスを供給して、触媒を流動層化し、固体触媒と炭素含有ガスとを反応温度以上に加熱してカーボンナノチューブを製造する方法が提案されている。
また、カーボンナノチューブの製造と同様に、炭素含有ガスを原料に使用する反応装置としては、ナフサ等の熱分解装置がある。この熱分解装置においては、反応に伴う固形炭素の壁面表面への析出防止のために、反応管の改質の提案がなされている。
たとえば、特許文献2では、HP−Nb材や45Cr−54Ni材の表面を酸化処理して、Feが2質量%以下の酸化膜を平均2μm以上の膜厚で形成することが開示されている。
さらに、特許文献3では、SiやAlを含有する高Ni−Cr系合金からなる管体の内側空間を、管材の固溶SiやAlの酸化反応により、SiO2 やAl23 を析出形成させ、管内面をSiO2 膜やAl23 膜で被覆することが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、いずれも以下のような問題点があった。
すなわち、特許文献1においては、石英焼結板は、産業的に利用するためにスケールアップする際の大型化が困難であり、さらに強度の点で金属材料に劣る。そのため、どうしても金属材料を使用せざるを得なく、そうなると、上記の通り、ガス分散板の目詰まりが顕著となるため、頻繁にメンテナンスを行なうことが必要となる。
また、特許文献2や特許文献3の方法によりガス分散板表面に酸化膜を形成する場合、ガス分散板に使用する材料が限定され、コスト高となることがあり、経済的でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−56523号公報
【特許文献2】特開2005−120281号公報
【特許文献3】特開平11−29776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされたものであって、反応器内の固形炭素不純物などの堆積による目詰まりや劣化を防止することができ、長時間にわたって連続運転が可能なカーボンナノチューブの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねて本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.粒状触媒と炭素含有ガスが反応する流動部を有し、かつ、内部にガス分散板が設けられた反応器を有するカーボンナノチューブの製造装置であって、少なくともガス分散板がセラミックスでコーティングされてなることを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
2.セラミックスが酸化物、窒化物、炭化物のいずれかを含む上記1に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
3.セラミックスが酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタンアルミニウム、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタンのいずれかを含む上記1または2に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
4.セラミックスを、ゾル−ゲル法、スラリー塗布法、物理気相成長法、および化学気相成長法から選ばれる少なくとも一種の方法でコーティングした上記1〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造装置。
5.反応器の下部に炭素含有ガスを予熱するための予熱部を設けた上記1〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、反応器内の固形炭素不純物などの堆積による目詰まりや劣化を防止することができ、長時間にわたって、連続運転が可能なカーボンナノチューブの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の、カーボンナノチューブの製造装置の一態様を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、粒状触媒と炭素含有ガスが反応する流動部を有し、かつ、内部にガス分散板が設けられた反応器を有するカーボンナノチューブの製造装置であって、少なくともガス分散板がセラミックスでコーティングされてなるカーボンナノチューブの製造装置である。
図1を用いて、本発明のカーボンナノチューブの製造装置を詳細に説明する。
図1は、本発明の、カーボンナノチューブの製造装置の一例を示しており、1はカーボンナノチューブの製造装置、2は反応器、3はセラミックスコーティングしたガス分散板、4は反応器の外周部に設けられた加熱器、5は炭素含有ガス供給管兼キャリアガス供給管(以下、炭素含有ガス供給管と言う。)、6は粒状触媒供給管、7は反応ガス排出管、8はカーボンナノチューブ粉体抜出し管、9は断熱材、10は流動部、および11は予熱部である。
【0012】
図1において、反応器2内にガス分散板を設けているが、本発明においては、少なくともガス分散板をセラミックスでコーティングする。なお、このコーティングを行なう部位としては、ガス分散板以外に、反応器2内の一部や、反応器内面全体、または流動部10内面全体などをコーティングしても良いが、少なくともガス分散板はコーティングを行なう。
反応器2内の一部の場合、カーボンナノチューブ塊状物やその他の固形炭素や炭化物が堆積して、目詰まりや劣化が発生しやすい場所、例えば、前記ガス分散板3やその近傍の反応器壁などを含む、反応器2内で粒状触媒と炭素含有ガスとが反応する流動部10の底部近傍が好ましい。
【0013】
このような、少なくともガス分散板をコーティングするために使用されるセラミックスとしては、炭素含有ガスに対して触媒作用を有さなければ任意のものを使用することができるが、酸化物、窒化物、および炭化物などが好ましい例として挙げられる。これらの具体例としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタンアルミニウム、窒化クロム、窒化ジルコニウム、および炭化チタンが挙げられ、特に液相法で製膜可能であるという理由で酸化ケイ素や酸化クロムが好ましい。
【0014】
セラミックスのコーティング方法としては、特に制限されず、公知の気相法、液相法、および固相法によるコーティング方法を採用することができる。なかでも、ゾル−ゲル法、スラリー塗布法、物理気相成長法、および化学気相成長法が好ましく、大きな構造物にも対応可能であり、しかも簡便な装置で安価にコーティング可能である点から、特にゾルーゲル法、およびスラリー塗布法が好ましい。
ここで、ゾル−ゲル法は、金属アルコキシドやポリシラザンなどと溶媒の混合液に基板を浸漬して乾燥、加熱する工程を繰返すことにより、前記基板上にセラミック薄膜をコーティングする方法である。
スラリー塗布法は、例えばクロム系酸化物をコーティングする場合を例にとると、シリカやアルミナなどの微粒子を無水クロム酸水溶液に加えてスラリーとし、それを基板に塗布して乾燥、焼成する工程を繰返すことにより、基板上にクロム系酸化物をコーティングする方法である。
【0015】
物理気相成長法としては、比較的蒸気圧の高い物質を真空中で加熱、蒸発させ、基板上にそのまま析出させて膜を形成させる方法(真空蒸着法)や、真空装置中で、ターゲット(金属、化合物などの焼結体)と基板の間に数百V〜数kVの高圧をかけ、気体をプラズマ状態にしてイオン化し、イオン化された気体がターゲットに衝突してターゲットからたたき出された原子や分子を近くの基板上に析出させる方法(スパッタリング法)などがある。
さらに、化学気相成長法としては、石英などでできた反応管内で加熱した基板上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積する方法などがある。
【0016】
上記の各方法を用いて、セラミックスコーティングを行なう際、セラミックスコーティングの膜厚としては、1〜100μm程度であることが好ましい。この膜厚が1μmより薄くなると耐久性に問題があり、100μmより厚くなるとコーティング膜がはがれやすくなる問題がある。
ガス分散板をセラミックスコーティングする場合には、前記ガス分散板全体、特に流動部10側になる面をコーティングする。また、ガス分散板に加えて、流動部10底部の反応器2の壁側をコーティングする場合には、反応器2を組み立てる前に、当該部分のコーティングを予め行なっておけばよい。
【0017】
カーボンナノチューブの製造装置に用いられる反応器1に使用する材質としては、主に気密性と耐熱強度、耐食性を考慮した材料を使用すればよい。たとえば、窒化ホウ素、炭化珪素および窒化珪素などのセラミックス、ステンレス鋼(SUS−304、316、310、430など)、ステライト(登録商標)などのクロム/タングステン合金などを用いることができる。これらの中では、加工性、耐食性などの点からステンレス鋼が好ましい。
なお、Niは好ましくない形状の炭素繊維を生成させる触媒作用があるために、使用を避けた方が好ましいが、どうしてもNi系材料を使用せざるを得ない場合には、前記セラミックスコーティングされた部分を除いて、炭素含有ガスと接する面を研磨しておくことが好ましい。研磨することにより、表面粗さが低減し、Niからの炭素繊維の生成を低減することができるためである。
【0018】
反応器2頂部に設けられるカーボンナノチューブ粉体(以下、単に粉体ということがある。) 抜出し管8、粒状触媒供給管6、反応ガス排出管7、および反応器2底部に設けられた炭素含有ガス供給管5についても、前記と同様の材料を使用することができる。
このうち、粉体抜出し管8についても、反応に伴う固形炭素の析出防止の点から、金属性の材質にセラミックスをコーティングすることが好ましい。
この場合のセラミックスのコーティング方法としては、前記同様にゾル−ゲル法、スラリー塗布法、物理気相成長法、および化学気相成長法が好ましい。
【0019】
加熱器4は、反応器2の外周部に設けられ、電気炉、電熱コイル、および赤外ヒータなど、従来の加熱手段を採用することができる。なお、図1のように、反応器2下部を予熱部11とする場合には、少なくとも加熱器4の一部が予熱部を加熱するように設ける。予熱部11を設けない場合には、加熱器4は、少なくとも流動部10を囲繞するように設ければよい。
さらに、断熱材9も特に限定されず、通常使用されるものを使用することができる。
図1の場合、反応器頂部に着脱自在の蓋12が設けてある。
次に、炭素含有ガス、および粒状触媒について、説明する。
【0020】
炭素含有ガス供給管5から供給される炭素含有ガスとしては、カーボンナノチューブ生成反応条件下で気体である炭化水素類が使用できる。このような炭化水素類として、たとえば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、イソプロピレン、n−ブタン、ブタジエン、ブテン、ペンタン、ペンテン、n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、またはこれらの混合物を挙げることができる。これらのうち、特にエチレンが比較的熱分解温度が低いと言う理由で好ましい。
これらの炭素含有ガスは、通常、キャリアガスとの混合物として反応器2内に供給される。
ここで使用されるキャリアガスとしては、通常、水素などの還元性ガスが使用される。キャリアガスの量は適宜選択できるが、炭素源1モル部に対して、通常0.1〜90モル部である。還元性ガス以外に、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを同時に用いることもできる。
【0021】
粒状触媒供給管6から反応器2に供給されて、流動部で流動して炭素含有ガスと接触し、炭素の分解反応を起こす粒状触媒としては、カーボンナノチューブの生成を促進するものであれば、特に制約はない。一般的にはFe、Co、およびNiなどの遷移金属元素を含むことが好ましく、Fe元素を含有することがより好ましい。さらに、担体に上記金属を担持した担持触媒であることが好ましい。また、他の遷移金属元素を助触媒として含有していても良い。このような助触媒元素としては、Mo、W、Cr、V、Mn、Tiなどが好ましく、MoとV、MoとCr、MoとTi、WとV、WとCr、WとTiなど、2種以上の組み合わせがさらに好ましい。
これらの触媒は、その前駆体粒子や、金属、合金粒子として使用することも可能であるが、担体に担持するのが好ましい。
触媒担体としては、公知のあらゆる化合物が使用可能であるが、反応条件下で安定な無機物が好ましい。このような好ましい無機担体としては、アルミナ、シリカ、アルミナシリケート、ゼオライト、珪藻土、チタニア、シリカチタニア、マグネシア、スピネルなどが挙げられる。
担体の触媒金属の担持量は、通常0.1〜40質量%程度とする。担持方法も特に制限がなく、従来の含浸法やイオン交換法、沈殿法などを採用することができる。
【0022】
触媒粒子、または担持触媒粒子は反応条件下で、流動状態とするため、その粒子径は1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。触媒粒子および担持触媒粒子の粒子径は、触媒調製条件や触媒調製に使用する触媒前駆体化合物や触媒担体を適切に調整することで、好ましい範囲に調整することも可能であるが、触媒調製後に、粉砕、解砕、分級処理をすることで、所望の粒度範囲に調整するのが特に好ましい。
このような粒状触媒の炭素含有ガスに対する仕込み量は、通常300〜20000NL/(min・kg)が好ましく、100〜10000NL/(min・kg)がより好ましく、1000〜5000NL/(min・kg)が特に好ましい。仕込み量が300NL/(min・kg)未満となると、反応に長時間を要することから生産性が悪化する。一方、20000NL/(min・kg)を超えると、炭素繊維生成反応が早期に終了するものの、反応に寄与しない炭素含有ガスの比率が多くなり経済的ではない。
流動部10の流動性改善と、粒状触媒の局所的発熱防止のために、前記触媒に加えて流動助材を添加することができる。そのような流動助材として、マグネシアやアルミナ、チタニア、および製造されたカーボンナノチューブなどが挙げられる。
粒状触媒の供給方法は、反応に先立って粒状触媒供給管6から反応器2に充填しておいてもよいし、炭素含有ガスの供給と同時に、粒状触媒供給管6から所定量の粒状触媒の供給を開始してもよい。
【0023】
次に、図1記載の製造装置を用いて、カーボンナノチューブを製造する方法を具体的に説明する。
先ず、不活性ガスなどを、炭素含有ガス供給管5から供給しながら、反応器2のガス分散板3の直上が所定の反応開始温度に達するまで、反応器2を加熱器3で加熱する。その後、炭素含有ガス供給管5から炭素含有ガスとキャリアガスを反応器2内に供給し、加熱器3が外周部の一部を囲繞することによりガス分散板2の下部に形成される予熱部11で予熱する。予熱温度は、炭素含有ガスが前記粒状触媒と接触して分解反応を起こし、カーボンナノチューブが生成する温度未満とする。次いで、予熱された炭素含有ガスは、ガス分散板3を通過し、粒状触媒供給管6から供給された粒状触媒を、炭素含有ガスとキャリアガスによって流動化して流動部10を形成し、かつ、粒状触媒と炭素含有ガスの接触による発熱を伴う熱分解反応によって、カーボンナノチューブが生成する温度以上に加熱される。その結果、炭素含有ガスからカーボンナノチューブが粒状触媒上に生成する。
反応を終えた反応ガスは、反応ガス排出管7から系外に排出する。
所定時間経過後、粉体抜出し管8を開け、反応ガス排出管7を閉じて、生成したカーボンナノチューブ粉体を粉体抜出し管8から排出し、バグフィルター、サイクロン、遠心分離機、またはセラミックフィルターなどにより、ガスとカーボンナノチューブ粉体とを分離し、カーボンナノチューブ粉体を回収する。
このとき、炭素含有ガスに替えて、炭素含有ガス供給管5から、前記分解反応に影響を与えない窒素ガスなどの不活性ガスを供給して、生成したカーボンナノチューブを粉体抜出し管8から排出しても良い。
【0024】
上記説明において、炭素含有ガスの予熱温度と流動部の温度は、使用する炭素原料などによって異なる。従って、使用する炭素原料に応じて決定すればよいが、たとえば、炭素原料としてエチレンガスを用いた場合、予熱温度は600〜630℃とすることが望ましい。この温度範囲内では、エチレンの熱分解が顕著ではなく、固形炭素がほとんど生成しないので、ガス分散板の閉塞を起こす可能性が低減される。また、その後、エチレンガスがガス分散板2上部の流動部に供給されて粒状触媒と接触すると、発熱反応を起こし、エチレンの分解温度以上に容易に達して、カーボンナノチューブが生成するようになる。
この場合、炭素含有ガスの流動部への供給速度を調整することも重要であり、エチレンガスの場合、前記の予熱温度と流動部の温度を実現するためには、使用する粒状触媒とその担体などにもよるが、反応器2内のガスの線速度は、通常0.05m/s以上、好ましくは0.10m/s以上とすることにより、容易に流動部が形成される。
これらの条件は、使用する炭素含有ガスが決まれば、実験により求めることができる。
【0025】
上記において、生成したカーボンナノチューブの取出しは、炭素含有ガス供給管兼キャリアガス供給管5からキャリアガスおよび/または不活性ガスを供給して、粉体抜出し管8を通して行なう旨説明したが、炭素含有ガス供給管兼キャリアガス供給管5に替えて、炭素含有ガス供給管とキャリアガス供給管とを別個に設け、炭素含有ガスの供給を中断し、キャリアガス供給管からキャリアガスまたは不活性ガスを供給し、粉体抜出し管8を通して、カーボンナノチューブ粉体の取出しを行なうこともできる。
図1では、反応器2の頂部のほぼ中央部を、反応物であるカーボンナノチューブと粒状触媒を含む粉体を取出すために、鉛直方向に粉体抜出し管8が設けられているが、この粉体抜出し管8は、固定式でも、上下動可能式でも良い。別途、把持手段(図示せず)を設けて、上下動可能とした場合には、該抜出し管8の入口の位置決めを行なうことにより、カーボンナノチューブの抜出し量を任意に決めることができる。たとえば、カーボンナノチューブ全量を抜出してもよいし、次回の運転における流動部を生成しやすくするために、反応物の10〜40質量%程度は反応器2内に残し、残部を取出せるような位置に粉体抜出し管8の入口を設定してもよい。このような粉体抜出し管8を設け、かつ、反応器2底部の炭素含有ガス供給管兼キャリアガス供給管5から、不活性ガスを反応器2内に供給することにより、反応物を取出すことができる。
【0026】
なお、本発明の製造装置においては、カーボンナノチューブ粉体の取出しは粉体抜出し管8を通して行なう方法に限定されず、たとえば反応器2の頂部に設けられた着脱可能な蓋13を手動で開口してカーボンナノチューブ粉体を取出してもよい。
このようなカーボンナノチューブ粉体の取出しは、バッチ運転毎に行ってもよいが、図1の製造装置を用いると、カーボンナノチューブ粉体を反応中に連続的に回収することも可能である。後者の場合には、炭素含有ガスと粒状触媒を一定の供給速度で、連続的に製造装置に供給するとともに、反応ガス排出管7と粉体抜出し管8の開度を調節し、カーボンナノチューブを連続的に回収すればよい。
ただし、バッチ式の方が滞留時間(反応時間)を一定にすることができて、カーボンナノチューブの品質を一定に保つことができるので、好ましい。
なお、この場合には、未反応炭素含有ガスが同伴して系外に排出される可能性があるので、反応ガス回収後に未反応ガスとカーボンナノチューブを、バグフィルターや遠心分離機などの気固分離手段を用いて分離し、未反応原料ガスを再度原料ガスとして製造装置に供給しても良い。
【0027】
以上に説明したように、本発明の製造装置を用いることによって、反応器内の固形炭素不純物などの堆積による目詰まりや劣化を防止することができ、長時間にわたって連続運転が可能となると共に、流動不良により反応生成物が塊状物になることが抑制され、さらにカーボンナノチューブ以外の固形炭素が不純物として混入することが抑制されることにより、製品の品質を向上させることができる。
次に、本発明を実施例、比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
本実施例、および比較例で使用した触媒の製造方法は以下の通りである。
(担持触媒の調製)
硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業社製)1.8質量部を水1.2質量部に溶解した。次いで、七モリブデン酸アンモニウム(和光純薬工業社製)0.075質量部を溶解し触媒調製液を得た。市販のガンマアルミナ(住友化学社製AKP−G015)1質量部に触媒調製液を滴下混練し、ペースト状の混合物を得た。ペースト状の混合物は100℃の真空乾燥機で24時間乾燥させた後、乳鉢で粉砕後45μm〜250μmに分級し触媒を調製した。
【0029】
実施例1
図1に示した製造装置を用い、下記のようにしてカーボンナノチューブを製造した。
反応器2は内径が190mm、長さが2880mmのステンレス製である。ガス分散板3は厚み1mmのSUS430の表面に、ゾル−ゲル法により酸化ケイ素をコーティングしたものである。
すなわち、上記ガス分散板を、ポリシラザンとキシレンの混合液中に浸漬した後、引上げて室内で自然乾燥し、次いで110℃で0.5時間加熱した後、300℃で0.5時間加熱する焼成処理を1サイクルとして、複数サイクル実施することにより、ガス分散板の表面に2.0μm厚のアモルファスSiO2 膜を形成した。
加熱器4は長さ1780mmとし、加熱器4外周部を、アルミ箔を貼付した断熱材9で覆った。
先ず、加熱器4で反応器2の内部(ガス分散板上250mmのところ)の温度を600〜620℃に加熱し、その後、反応器2に窒素ガスを同伴させて、前記粒状触媒50gと、予め生成したカーボンナノチューブ250gをガス分散板3上に仕込み、次いで、炭素含有ガス供給管5からエチレン200NL/min、および水素200NL/minの混合ガスを供給し、粒状触媒固体触媒粒子とエチレンを接触させることでカーボンナノチューブを生成させた。反応器内へのガス供給速度は、0.76m/s(610℃)であった。
ガス分散板3の下部の予熱部11の温度は620℃で、炭素含有ガスの供給後15分における流動部10における温度は650〜670℃であった。また、流動部10の線速度は0.8m/sであった。反応時間は15分とした。反応時間終了後、炭素含有ガス供給管5から窒素ガスを供給し、粉体抜出し管8を開け、反応ガス排出管7を閉じてガス流路を切り替えた後、反応器2内に存在するカーボンナノチューブが全量排出されるような位置に入口を固定した粉体抜出し管8から、前記触媒とカーボンナノチューブをバグフィルターに回収した。バグフィルターから排出された反応ガスは焼却処理した。
この操作を50バッチ繰返した後、温度を下げ、蓋12を開けて、ガス分散板3の状態を観察した結果、ガス分散板の目詰りはほとんどなかった。また、ガス分散板3上に塊状物は無く、カーボンナノチューブ以外の固形炭素もなかった。
【0030】
実施例2
実施例1記載のゾル−ゲル法でコーティングした酸化ケイ素に替えて、スラリー塗布法により酸化クロムをコーティングした他は実施例1と同様にしてカーボンナノチューブを生成させた。
すなわち、SiO2 およびAl23 粒子を粉砕して粒径を7μm以下に調整し、クロム酸溶液に加えてスラリーとした。ついでガス分散板にこのスラリーを塗布し、乾燥後、550℃で1時間焼成した。その後、クロム酸溶液に再度浸漬し、550℃で1時間焼成した。この操作を複数回行い、Cr23 で緻密化された薄膜を形成させた。
このガス分散板を用いて、実施例1と同様の操作を50バッチ繰返した後、温度を下げ、蓋12を開けて、ガス分散板3の状態を観察した結果、ガス分散板の目詰りはほとんどなかった。また、ガス分散板3上に塊状物は無く、カーボンナノチューブ以外の固形炭素もなかった。
【0031】
実施例3
実施例1記載のゾル−ゲル法でコーティングした酸化ケイ素に替えて、イオンプレーティング法(物理気相成長法)により窒化クロムをコーティングした他は実施例1と同様にしてカーボンナノチューブを生成した。
すなわち、陽極と、クロムをターゲットとする陰極とを設けたチャンバ内に、ガス分散板を配置し、陽極と陰極にアーク電源を接続し、ガス分散板には負のバイアス電源を接続した。そして、真空排気後、ヒータ表面を600℃まで昇温して、30分間、ガス分散板を予熱した。ついで、定法により、窒素ガスを導入しながら、ガス分散板上へ窒化クロム(Cr−N)をコーティングした。
このガス分散板を用いて、実施例1と同様の操作を50バッチ繰返した後、温度を下げ、蓋12を開けて、ガス分散板3の状態を観察した結果、ガス分散板の目詰りはほとんどなかった。また、ガス分散板3上に塊状物は無く、カーボンナノチューブ以外の固形炭素もなかった。
【0032】
比較例1
ガス分散板3に酸化ケイ素のコーティングを行なわず、そのまま使用した他は実施例1と同様にしてカーボンナノチューブを生成した。
実施例1と同様の操作を50バッチ繰返したところ、ガス分散板3上下の圧力差が徐々に上昇するとともに、カーボンナノチューブの回収量が低下した。そこで温度を下げ、蓋12を開けて、ガス分散板3の状態を観察したところ、全面積の半分程度の目詰まりが観察された。また、ガス分散板3上に塊状物が残存しており、カーボンナノチューブ以外の固形炭素が膜状に形成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のカーボンナノチューブの製造装置によれば、目詰まりを低減でき、長時間連続運転可能が可能となる。こうして製造されたカーボンナノチューブは、不純物としての固形炭素や塊状物がなく、高い電気伝導性、熱伝導性を有することから、樹脂、金属、セラミックスなどのマトリックス中に含有させて複合材料とすることにより、樹脂、金属、セラミックスなどの導電性や熱伝導性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 カーボンナノチューブの製造装置
2 反応器
3 ガス分散板
4 加熱器
5 炭素含有ガス供給管兼キャリアガス供給管
6 粒状触媒供給管
7 反応ガス排出管
8 カーボンナノチューブ粉体抜出し管
9 断熱材
10 流動部
11 予熱部
12 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状触媒と炭素含有ガスが反応する流動部を有し、かつ、内部にガス分散板が設けられた反応器を有するカーボンナノチューブの製造装置であって、少なくともガス分散板がセラミックスでコーティングされてなることを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項2】
セラミックスが酸化物、窒化物、炭化物のいずれかを含む請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項3】
セラミックスが酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタンアルミニウム、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタンのいずれかを含む請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項4】
セラミックスを、ゾル−ゲル法、スラリー塗布法、物理気相成長法、および化学気相成長法から選ばれる少なくとも一種の方法でコーティングした請求項1〜3のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項5】
反応器の下部に炭素含有ガスを予熱するための予熱部を設けた請求項1〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−16701(P2011−16701A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163626(P2009−163626)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】