説明

カーボンナノチューブを含む掘削流体

【課題】地下岩層を掘削するための粘弾性掘削流体と、この粘弾性掘削流体を用いる掘削方法。
【解決手段】下記(a)〜(c)を含む粘弾性掘削流体:(a)水性および/または有機の液体ベース、(b)上記液体ベース中で懸濁状態の、単位体積当たりの質量が少なくとも2g/cm3、好ましくは少なくとも4g/cm3の少なくとも一種の粒子状の増量剤、(c)平均直径が10〜30nmで、比表面積が200m2/g以上、好ましくは200〜250m2/gであるカーボンナノチューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下層を掘削(forage)するのに使用するカーボンナノチューブを含む水性または有機ベースの粘弾性流体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
掘削流体 (fluid forage) は、掘削泥水 (boues de forage) ともよばれ、石油採掘等で用いられる複合流体である。これは掘削孔にドリルロッドストリングを介して通常は連続的に注入される。その多面的機能の一つの例は岩石の屑を地表へ運搬し、掘削した掘削孔を十分に高い静水圧に維持して岩層が崩壊しないようにし、ドリルヘッドを潤滑/冷却することである。
掘削泥水は主として2つのグループに分けられる。すなわち、油性泥水(一般に油相中に海水が逆エマルション化したもの)と水性泥水とに分けられる。
【0003】
掘削孔が開けた岩の層の横方向圧力を補償するのに十分な静水圧を維持するためには、掘削孔を深く掘り進むのにつれて掘削流体の密度を徐々に増大させる必要がある。この密度の増加は掘削流体中に不溶性の高密度増量剤(weighting agent)すなわち微粉末の固形物を添加して行なう。油井の深さが深くなる程、用いる増量剤の量および/または密度が増大するので、増量剤を掘削流体中で懸濁状態に維持する系もより効果的であることが要求される。
【0004】
すなわち、例えば泥水の注入を一時的に停止したときに増量剤が沈殿すると油井が塞がれたり、流体柱の静水圧が局部的に減少して油井が崩壊する等の壊滅的な結果をもたらす危険性がある。
【0005】
一般に、上記増量剤を懸濁状態に維持するために粘性剤が使用される。この粘性剤は通常、有機親和性または非有機親和性のクレーおよび掘削流体に可溶な有機ポリマーの中から選択される。所定掘削深度を超えた時に、上記増量剤を懸濁状態に維持するための系は特に効果的でなければならないが、有機ポリマーはこのような深度での高温のために分解して、部分的または完全に効果がなくなることがある。
【0006】
有機ポリマーのこの熱分解の問題は有機ポリマーの代わりにクレーを用いることでは解決できない。すなわち、増粘剤として通常用いられているクレー(ベントナイト、モンモリロナイト、アタパルジャイト、有機親和性クレー)は有機ポリマーよりはるかに高温度に耐えられるが、深い深度での掘削に使用する大量の高密度増量剤を懸濁状態に維持するのに必要なクレーの量は相当な量になり、掘削泥水の固形分が過剰に高くなる。その結果、過剰に高い粘度のため、泥水の循環を維持させるとに問題が生じる。
【0007】
残念なことに、現在使用されている系は、ベースがポリマーかクレーかにかかわらず約250℃を超える温度では増量剤を懸濁状態に維持できない。
【0008】
本発明者は、高温、高圧条件下で使用可能な新規な掘削流体の開発を目的とした研究の過程で、所定のカーボンナノチューブを相対的に少量だけ用いることで高温時に優れた安定性を示す優れた増粘剤になるということ、それと同時に、掘削流体の粘性に過剰に高くせずに大量の高密度増量剤、例えば重晶石または方解石を懸濁状態に維持することができる、ということを見出した。
【0009】
特に、カーボンナノチューブを含む本発明の掘削流体の利点は高い流れ閾値(seuil d'ecoulment)(降伏値または降伏応力)と大幅に低い粘度とを併せ持つことを特徴とするその特定の粘塑性挙動にある。上記の流れ閾値は下記文献のHerschel-Bulkleyモデルを用いて測定する剪断応力値である。
【非特許文献1】Hemphill T.,Campos W.,およびPilehvari A.:「降伏性法則モデルは泥水レオロジーをより正確に予測する」石油ガス雑誌91、No.34、8月23日、1993年、45〜50頁
【0010】
この流れ閾値以下では流体の挙動が実質的に固体(無限粘度)となり、それ以上では流体がチキソトロピー挙動を示す。Herschel-Bulkleyモデルの降伏応力値は静止時に粘弾性流体中に高密度固体粒子を懸濁状態に維持する流体の能力に関する情報を提供する。この降伏応力が高ければ高いほど、流体は懸濁粒子の沈殿を妨げる。本発明で用いる特定のカーボンナノチューブは相対的に小さな平均直径(30nm以下)と大きな(200m2/g以上)比表面積とを特徴とし、同じ含有量の有機ポリマーによって与えられる降伏応力よりかなり高い降伏応力を水性または油性の掘削流体に与える。
【0011】
さらに、上記カーボンナノチューブは325℃またはそれ以上の高温でも熱的に安定である。しかも、ごく少量、好ましくは3重量%以下のカーボンナノチューブを使用するだけで、上記の増粘剤の場合の過剰粘性の問題を起こさずに、流体をより容易にポンプ輸送でき、より良く流すことができる。従って、特に高圧/高温条件下の掘削流体に用いる有機ポリマー、クレーまたは脂肪酸型増粘剤の一部または全部を、以下で詳細に説明するカーボンナノチューブで置換するのが有利である。
【0012】
石油採掘用水性粘弾性流体でのナノチューブの使用は既に特許文献1(欧州特許第1,634,938号公報)で提案されている。
【0013】
しかし、この文献は界面活性剤と、電解質と、ナノチューブとの系の組合せによって増粘した破砕流体に関するもので、ナノチューブは主として界面活性剤の増粘特性を高める役目をしている。この破砕流体は保持材(agent soutenement)、例えば砂、極小粒子、ボーキサイト、ガラスビーズまたはセラミックビーズをさらに含む。この保持材は流体によって運ばれ、地下岩層中に堆積するが目的である。すなわち、この文献では、本発明のように高密度粒子を懸濁状態に維持するためではなく、岩層内の特定場所に堆積させることを目的としている。しかも、この文献ではナノチューブを流体の増粘剤だけとして使用することは全く考えられていない。
【0014】
特許文献2(米国特許第4,735,733号明細書)には、高密度粒子、例えば増量剤を懸濁状態に維持するためのカーボンナノチューブの使用が記載されている。この特許文献2で用いているナノチューブは比表面積が190m2/g以下である。すなわち、ナノチューブの比表面積が増粘された流体のレオロジー挙動に与える影響の試験から、上記の値より大きい比表面積を有するナノチューブは鉱油中での増粘効果が不十分であることを示している(図4と図7に関する説明、第16欄、第66行目以降参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第1,634,938号公報
【特許文献2】米国特許第4,735,733号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、比表面積の小さいナノチューブの使用を勧める上記従来技術の特許文献2の記載に反して、比表面積が200m2/g以上のナノチューブがこれを含む流体に、静止時に増量剤を掘削流体中で懸濁状態に維持するのに特に重要なレオロジー特性を与えるということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の対象は、下記(a)〜(c)を含む地下岩層を掘削するための粘弾性掘削流体にある:
(a)水性および/または有機の液体ベース、
(b)上記液体ベース中で懸濁状態にある単位体積当たりの質量が少なくとも2g/cm3、好ましくは少なくとも4g/cm3の少なくとも一種の粒子の形をした増量剤、
(c)平均直径が10〜30nmで、比表面積が200〜250m2/gであるカーボンナノチューブ。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】動的および静的に種々エージングした後の50℃、170s-1の剪断での粘度を比較したグラフ。
【図2】静的エージング後の沈下係数を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の掘削流体で用いる液体ベースは、理論上は掘削流体で通常用いられる任意のベースにすることができ、例えば、水性ベースにすることができる。水性ベースは経済的および生態学的理由で特に有利である。この水性ベースは主としてベースの密度を増大させるための水溶性塩を含むことは公知である。好ましい塩としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛およびセシウムのハロゲン化物およびギ酸塩およびこれらの組合せが挙げられる。特に好ましい塩としては塩化カルシウム、臭化カルシウム、ギ酸カリウム、ギ酸セシウム/カリウムおよびこれらの組合せが挙げられる。これらの水性ベースはごく少量の水溶性および/または非水溶性の有機溶剤をさらに含むことができる。
【0020】
場合によっては掘削流体の含水量を制限することが有益、さらには必要になることもある。例えば、流体によって運ばれやすい多量の水溶性または水分散性の成分を含む岩層に油井が通っている場合には、液体ベースは油または好ましくは最大でも50重量%、特に20重量%以下の水を含む油中水エマルションである。
【0021】
水性ベースが逆エマルションともよばれる油中水エマルションの場合、粘弾性流体はこのエマルションを安定化できる少なくとも一種の界面活性剤をさらに含む。
【0022】
逆エマルションを安定化できる界面活性剤は一般に親水性−親油性バランス(HLB)が7以下である。油中水エマルションを安定化するのに十分な界面活性剤の量は、当然、水性相および油性相のそれぞれの比率に依存するが、一般には1〜5重量%である。界面活性剤はノニオン性およびアニオン性の界面活性剤の中から選択するのが好ましい。下記文献には、本発明の掘削泥水の配合に使用可能な界面活性剤が記載されている。
【特許文献3】米国特許第2006−0046937号明細書
【0023】
本発明の掘削流体で用いる油、すなわち液体ベースを形成する油または油中水エマルションの連続相または水中油エマルションの不連続相を形成する油は、鉱油、フッ素化油、ディーゼル油または合成油であるのが好ましく、鉱油または合成油であるのが好ましい。一般に、極性油より非極性油の方が好ましい。通常用いられる油の一つは、例えばトタルから市販の製品EDC99−DW(登録商標)である。
【0024】
理論上は、液体ベースの密度より高い密度を有する、好ましくは少なくとも2g/cm3の単位体積当たりの質量で、深い深度での掘削時は好ましくは3g/cm3以上、さらには4g/cm3以上の単位体積当たりの質量である任意の粒子状固体を増量剤として使用できる。これらの増量剤は周知であり、例えば重晶石(BaSO4)、方解石(CaCO3)、白雲石(CaCO3・MgCO3)、赤鉄鉱(Fe23)、磁鉄鉱(Fe34)、イルメナイト(FeTiO3)および菱鉄鉱(FeCO3)の中から選択される。特に好ましい増量剤は重晶石である。
【0025】
増量剤の量は基本的に掘削流体に与えられる密度に依存する。この密度、従って、用いる増量剤の量は、一般に掘削孔の深度とともに徐々に増加する。本発明の掘削流体は深層掘削を目的とするのが好ましく、従って、かなり高い密度を有し、好ましくは全体密度が少なくとも1.5、好ましくは2.5を超える。増量剤含有量の上限は基本的に過剰固形分によって引き起こされる粘度の問題によって決まる。一般に、増量剤は本発明の掘削流体中で10〜70重量%の濃度で用いる。用いる増量剤の比率は所望の密度に応じて広範囲に変えることができる。
【0026】
本発明で用いるカーボンナノチューブ(またはNTC)も公知のものである。これらは中空で閉じた特殊な管状の結晶構造を有し、炭素原子が規則的に配置された五角形、六角形および/または七角形の形をしている。NTCは一般に一枚または複数の巻かれたグラファイトシートの形をしており、単一壁ナノチューブ(SWNT)と多重壁ナノチューブ(MWNT)に区別できる。
【0027】
上述のように、本発明で用いるNTCは平均直径が10〜30nm、好ましくは10〜15nmである。平均長さは0.1〜10μmであるのが有利であり、平均長さ/平均直径比は10以上、大抵は100以上であるのが有利である。
【0028】
本発明で用いるNTCの比表面積はBET法を用いた窒素吸着で求め、200m2/g以上、好ましくは200〜250m2/gである。非圧縮状態での見掛け密度またはかさ密度は0.03〜0.5g/cm3、特に0.05〜0.2g/cm3であるのが好ましい。このかさ密度はカーボンナノチューブの所定質量とこのナノチューブを含む試験片を3回連続で反転した後に測定したこれと同じ質量の容積との比である。
【0029】
多重壁カーボンナノチューブは例えば5〜15枚、さらに好ましくは7〜10枚のシートを含むことができる。
【0030】
本発明で用いるような平均直径が小さく且つ比表面積が大きいカーボンナノチューブは下記文献に記載の合成法を用いて調製する
【特許文献4】国際特許出願第2006/082325号公報
【0031】
上記の技術特性を示す粗カーボンナノチューブすなわち化学的に改質されていないカーボンナノチューブはアルケマ(ARKEMA)社から商品名グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100で入手可能である。この製品は平均して5〜15枚のシートを含み、平均直径は10〜15nmで、平均長さは0.1〜10μmであるナノチューブからなる。
これらのナノチューブは、本発明の掘削流体に混和する前に、精製および/または酸化および/または粉砕することができる。
【0032】
NTCの粉砕は低温状態または高温状態で行うことができ、ボールミル、ハンマーミル、パグミル、切断ミル、流体エネルギーミルや、絡み合ったNTC網の寸法を縮小できるその他任意の粉砕設備で実施できる。この粉砕段階は流体エネルギーミル技術を用いて、特に流体として空気を用いるミルで行なうのが好ましい。
【0033】
粗NTCまたは粉砕済みNTCの精製は、硫酸の溶液を用いて洗浄することで製造プロセスで生じる全ての残留無機および金属不純物をナノチューブから除去することで行なうことができる。この洗浄に用いるNTC/硫酸重量比は1:2〜1:3にすることができる。さらに精製操作を90〜120℃の温度で例えば5〜10時間行なうことができる。この操作の後に精製NTCを水で洗浄し、乾燥する段階を行なうのが有利である。
【0034】
粗NTC、粉砕済みNTCおよび/または精製したNTCの酸化は、ナノチューブをNTC/次亜塩素酸ナトリウム重量比が例えば1:0.1〜1:1の次亜塩素酸ナトリウム溶液と好ましくは室温で接触させて行なうのが有利である。この酸化操作後に酸化NTCを濾過および/または遠心分離、洗浄および乾燥する段階を行なうのが有利である。
【0035】
本発明で用いるNTCは、共有結合を介した官能基の導入によって化学的に改質できる。これらの官能基、例えば硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシ、ベンゼンスルホネートおよびアミン(場合によっては四級化)基またはNTCの表面でモノマーの重合によって得られる基は一般に水または有機溶剤中のナノチューブの分散を改善する。
【0036】
本発明では油または逆エマルションをベースにした掘削流体に未改質NTCを用いるのが有利である。水性の掘削流体の場合はイオン性有機基で官能化されたナノチューブを用いるのが好ましい。
【0037】
本発明の掘削流体で用いるNTCの量は用いる増量剤の量および密度、掘削深度、液体ベースの種類および掘削流体中のその他の増粘剤の有無に依存する。
【0038】
この量は掘削流体の全重量に対して0.1〜3重量%であるのが好ましい。
本発明の一実施例では、NTCは唯一の増粘剤である。すなわち、掘削流体は基本的にその他の任意の周知な増粘剤、例えば上記特許文献1(欧州特許第1,634,938号公報)に記載のような有機ポリマー、脂肪酸、クレーまたは界面活性剤および電解質をベースにした増粘剤系は含まない。掘削流体中のNTCの濃度はこの場合はかなり高く、好ましくは1〜3重量%、特に1.5〜3重量%のNTCである。
【0039】
すなわち、他の増粘剤が全く存在しないときに、最低限の約1重量%を上回るNTCで掘削流体の降伏応力が飛躍的に増大するということが実験から分かっている。
【0040】
カーボンナノチューブは通常の増粘剤系、例えばポリマーベースの増粘剤系の効果を高めるのにも有用である。従って、本発明の別の実施例では、本発明の掘削流体は液体ベースの水相および/または油性相に可溶な一種以上の有機ポリマーをさらに含む。この場合、NTC濃度は0.1〜1重量%のカーボンナノチューブであるのが好ましい。
【0041】
これらの増粘有機ポリマーは掘削流体に通常用いるものの中から選択され、例えばグアーガム、ヒドロキシプロピルグアー、カルボキシメチルグアー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタン、でんぷん、ポリアクリレート、および、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)が挙げられる。
【0042】
本発明の対象は上記定義のカーボンナノチューブを含む掘削流体の他に、上記掘削流体を用いた地下岩層の掘削方法にある。
本発明の別の対象は、水性および/または有機の液体ベースと、平均直径が10〜30nmであるカーボンナノチューブとを含む掘削流体を注入し、掘削流体のカーボンナノチューブ含有量を掘削深度、掘削温度および/または掘削圧力が増加するのに応じて増加させることを含む、地下岩層の掘削方法にある。この掘削方法では、少なくとも一種の増量剤および/またはカーボンナノチューブ以外の少なくとも一種の増粘剤を掘削流体に導入するのが好ましい。
【0043】
本発明の掘削流体で用いるNTCの優れた耐熱性によって、深い深度、すなわち高温および高圧条件下での掘削にNTCは特に適している。
【0044】
従って、本発明の掘削方法の好ましい実施例では、掘削温度が200℃以上、特に250℃以上である。しかし、高温および高圧掘削は、本発明の方法の好ましい一実施例にすぎず、本発明の掘削流体はその高い降伏応力とかなり低い粘度とを併せ持つので、浅いまたは中間深度の掘削でも極めて有用であることも分かっている。
【0045】
従って、掘削深度、掘削温度および/または掘削圧力が増加するのに従ってカーボンナノチューブの含有量を徐々に増加させることで本発明の掘削流体を用いることができる。掘削流体は連続的に再循環でき、屑を除去し、追加量の増量剤およびカーボンナノチューブを添加した後に、掘削流体を再利用できる。この方法は極めて簡単である。
【0046】
本発明の掘削方法の一つの実施例では、掘削流体はカーボンナノチューブ以外に増粘剤を含まないのが好ましい。
【0047】
別の実施例では、本発明の掘削方法は、例えばクレー(ベントナイト、モンモリロナイト、アタパルジャイト、有機親和性クレー)または有機ポリマーの中から選択される流体中に存在する一種以上の増粘剤を、掘削深度、掘削温度および/または掘削圧力が増加するのに応じて徐々にカーボンナノチューブ(c)で置換することを含む。すなわち、主として掘削流体の製造コストの理由から、掘削開始時に周知の安価な増粘剤、例えば有機ポリマーおよび/または増粘クレーを用い、有機ポリマーの熱分解またはクレーの過剰な固形物含有量に起因する上記の問題が生じ始める所定深度以降に、NTCのみを導入するのが有利である。
【0048】
本発明の別の対象は、平均直径が10〜30nmで、比表面積が200m2/g以上であるカーボンナノチューブの地下岩層の掘削での使用にある。
以下、本発明の実施例を示す。本発明は下記の実施例の説明からより良く理解できよう。しかし、下記実施例は単に説明のためのもので、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は添付の請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【実施例】
【0049】
密度が1.7g/cm3で、56重量%の重晶石を含む油ベースの掘削泥水(以下「ビクトリア泥水」)中に重晶石を入れて懸濁させ、泥水中に含まれる油の重量に対して1重量%のカーボンナノチューブ(以降、NTC)を添加した場合および添加しない場合のレオロジー特性および作用を評価した。
180℃で16時間または40時間の動的にエージング(vieillissement)し、次いで205℃で60時間または120時間の静的に沈降試験を行った時の試験泥水の粘度を50℃、170s-1の剪断で測定した。
「沈降」とは一般に角度のある掘削孔で見られる増量剤の粒子のアバランシェ効果を意味し、掘削孔底部の増量剤の濃度が過剰になった時に沈殿効果によって掘削孔頂部の濃度が不足する現象を意味する。沈降試験は底部の泥水サンプルの密度D1を測定して行なった。この試験の前にこのサンプルを45°傾いたセル中に所定の時間、所定の温度に保持しておいた。下記式を用いて沈降指数ISを演繹した:IS=D1/2×Do(ここで、Doはサンプルの初期密度)。
【0050】
この試験の結果を添付図面の[図1]および[図2]に示す。
[図1]からわかるように、NTCの添加によってサンプルのレオロジーが全体的に改善される。[図2]からさらに、NTCの添加によって重晶石の沈降の防止が容易になることがわかる。沈降指数(または「沈下係数」)は60時間後の0.59とは対照的に0.56、120時間後の0.66とは対照的に0.58である。
この実施例から、NTCは高温で粘度増加剤として油性泥水に使用できることがわかる。掘削泥水中で用いる通常の増量剤を、NTCを用いて懸濁状態に維持することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)を含む地下岩層を掘削するための粘弾性掘削流体:
(a)水性および/または有機の液体ベース、
(b)上記液体ベース中に懸濁した、単位体積当たりの質量が少なくとも2g/cm3、好ましくは少なくとも4g/cm3の少なくとも一種の粒子の形をした増量剤、
(c)平均直径が10〜30nmで、比表面積が200m2/g以上、好ましくは200〜250m2/gであるカーボンナノチューブ。
【請求項2】
上記液体ベースがオイルのような油性連続相のベースまたは50重量%以下、好ましくは20重量%以下の水を含む油中水エマルションである請求項1に記載の粘弾性流体。
【請求項3】
上記液体ベースが油中水エマルションで、粘弾性流体が少なくとも一種の界面活性剤、好ましくは油中水エマルションを安定化するのに十分な量の界面活性剤をさらに含む請求項1または2に記載の粘弾性流体。
【請求項4】
上記界面活性剤がアニオン性またはノニオン性の界面活性剤である請求項3に記載の粘弾性流体。
【請求項5】
0.1〜3重量%のカーボンナノチューブを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項6】
液体ベースを形成する油性連続相が鉱油、フッ素化油、ディーゼル油または合成油、好ましくは鉱油またはディーゼル油である請求項2〜5のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項7】
上記増量剤が重晶石(BaSO4)、方解石(CaCO3)、白雲石(CaCO3・MgCO3)、赤鉄鉱(Fe23)、磁鉄鉱(Fe34)、イルメナイト(FeTiO3)、菱鉄鉱(FeCO3)およびこれらの混合物の中から選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項8】
増量剤が重晶石である請求項7に記載の粘弾性流体。
【請求項9】
液体ベースの水相が少なくとも一種の水溶性塩、好ましくはナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、セシウムのハロゲン化物およびギ酸塩およびこれらの組合せの中から選択される少なくとも一種の水溶性塩を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項10】
液体ベースの水相および/または油性相に可溶な有機ポリマーの中から選択される少なくとも一種の増粘剤をさらに含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項11】
0.1〜1重量%のカーボンナノチューブを含む請求項10に記載の粘弾性流体。
【請求項12】
液体ベースの水相および/または油性相に可溶な有機ポリマーを含まない請求項1〜9のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項13】
1〜3重量%、好ましくは1.5〜3重量%のカーボンナノチューブを含む請求項12に記載の粘弾性流体。
【請求項14】
密度が少なくとも1.5である請求項1〜13のいずれか一項に記載の粘弾性流体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の掘削流体を用いる地下岩層の掘削方法。
【請求項16】
水性および/または有機の液体ベースと、平均直径が10〜30nmのカーボンナノチューブとを含む掘削流体を注入し、この掘削流体のカーボンナノチューブの含有量を掘削深度、掘削温度および/または掘削圧力の増加に応じて増加させることを特徴とする地下岩層の掘削方法。
【請求項17】
少なくとも一種の増量剤および/またはカーボンナノチューブ以外の少なくとも一種の増粘剤を掘削流体中に導入する請求項16に記載の掘削方法。
【請求項18】
流体中に存在する一種または複数の増粘剤を、掘削深度、掘削温度および/または掘削圧力の増加に応じて、徐々にカーボンナノチューブと置換する請求項15または17に記載の掘削方法。
【請求項19】
掘削温度が200℃以上、好ましくは250℃以上である請求項15〜18のいずれか一項に記載の掘削方法。
【請求項20】
掘削流体がカーボンナノチューブ以外に増粘剤を含まない請求項15、16、17および19のいずれか一項に記載の掘削方法。
【請求項21】
平均直径が10〜30nmで、比表面積が200m2/g以上であるカーボンナノチューブの地下岩層の掘削での使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−538141(P2010−538141A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523565(P2010−523565)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051546
【国際公開番号】WO2009/030868
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(510063177)
【Fターム(参考)】