説明

カーボンナノチューブインク組成物およびカーボンナノチューブインク組成物の噴霧方法

【課題】
カーボンナノチューブを含有する分散液において、分散性が良く、印刷装置からの印刷性にもすぐれたカーボンナノチューブインク組成物を提供する。
【解決手段】
カーボンナノチューブインクにペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを分散質とするカーボンナノチューブインク組成物およびカーボンナノチューブインク組成物の噴霧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、グラフェンシートを円筒状に丸めた構造を有しており、一般的には、ストロー状もしくは麦わら状の構造を有している。CNTは、単一のチューブからなるシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、直径の異なる2本のチューブが積層した構造のダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)、直径の異なる多数のチューブが積層した構造のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)に分類され、それぞれの構造の特徴を活かした応用研究が進められている。例えば、SWCNTは、半導体性を示すものがあるため、半導体材料としての応用が期待され研究が進められている。また、DWCNTやMWCNTは、高い電気伝導性を示すため、電極材料や配線材料、帯電防止膜、透明電極への応用が期待され研究が進められている。
【0003】
特許文献1では、CNT、有機溶剤、バインダ、分散剤を含むインクを開示している。分散剤としては、ポリアルキロールアミン塩もしくはポリエーテル変成ポリアルキルシロキサンを用いることを開示している。バインダの化合物に限定を加えていないものの、エチルセルロースが最適であると記載されている。
【0004】
特許文献2、特許文献3では、CNT、溶媒、分散剤を含むインクを開示している。分散剤として、特許文献2ではグリコールエステル類を、特許文献3ではヘプタフルオロイソプロピル基をもつフッ素含有化合物を用いることを開示している。
【0005】
一般に、分散安定性に優れたCNTの分散液を作製することは、イオン性の界面活性剤や、特殊な構造を有する分散剤を用いる必要があり、非常に困難であった。これらの界面活性剤や分散剤は、CNTの分散液の分散安定性を向上させることはできるが、この分散液を用いたインクを印刷に用いると印刷性が低下したり、印刷装置に影響を及ぼしたりすることが多かった。
【0006】
SWCNTは、グラフェンシートの巻き方により半導体特性を有する構造が存在し、高い移動度が期待されることから、薄膜トランジスタ(TFT)への応用が期待され活発に研究が進められている。例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4には、CNTを用いたTFTがシリコンもしくはシリコン以上の性能を有することが開示されている。
【0007】
CNTをチャネルの半導体材料として用いる場合、1本もしくは数本、あるいは多数本のCNTを分散させてTFTを製造する。なお、CNTでチャネルを形成する際、CNTが1次元的に電極を橋渡しする必要がある場合を少数本と定義し、CNTが2次元的に電極を橋渡しすることができる場合を多数本と定義する。
【0008】
CNTを少数本用いる場合、個々のCNTが電極を橋渡しする構造となる。一般に、CNTの長さは1μm程度もしくはそれ以下のものが多いため、CNTを少数本用いてTFTを作る際にはチャネル間距離を小さくする必要があり、微細加工が必要となる。そのため、ソース電極とドレイン電極間距離にあたるチャネル長をサブミクロンスケールで製造する必要がある。
【0009】
これに対して、CNTを多数本用いる場合、複数のCNT同士が形成したネットワーク構造が電極を橋渡しすることが可能となる。すなわち、CNTを多数本用いる場合、CNTのネットワークをチャネルとして利用できるため、チャネル長を大きくすることが可能となる。そのため、チャネル長をミクロンスケール以上に設定でき、簡便にTFTを製造することができるようになる。非特許文献5には、多数本のCNTを分散させてTFTを製造する技術が開示されている。
【0010】
CNTを多数本分散させて薄膜を形成させるためには、CNTの溶液や分散液を用いると容易に薄膜を形成させることができる。CNTの薄膜を溶液、分散液から形成する方法は、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9に開示されている。
【0011】
半導体層の材料としてCNTを使用し、CNTの薄膜を溶液、分散液を用いた工程で形成することにより、素子・デバイス、製品の基板、材料もガラスなどの硬い材料はもちろんのこと、樹脂やプラスチックを適用することで素子、デバイス、製品全体にフレキシブル性を持たせることが可能となる。さらに、塗布プロセスを採用することができるため、塗布プロセス、印刷プロセスを適用した製造方法により素子・デバイス、製品の低コスト化を実現できる可能性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−174084号公報
【特許文献2】特開2010−180263号公報
【特許文献3】特開2010−132812号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S.J.Tansら、NATURE、393、p.49−52(1998)
【非特許文献2】R.Martelら、Appl.Phys.Lett.、73(17)、p.2447−2449(1998)
【非特許文献3】S.windら、Appl.Phys.Lett.、80(20)、p.3817−3819(2002)
【非特許文献4】K.Xiaoら、Appl.Phys.Lett.、83(1)、p.150(2003)
【非特許文献5】S.Kumarら、Appl.Phys.Lett.、89、p.143501(1)−143501(3)(2006)
【非特許文献6】N.Saranら、J.Am.Chem.Soc.、126(14)、p.4462−4463(2004)
【非特許文献7】Z.Wuら、SCIENCE、305、p.1273−1276(2004)
【非特許文献8】M.Zhangら、SCIENCE、309、p.1215−1219(2005)
【非特許文献9】Y.Zhouら、Appl.Phys.Lett.、88、p.123109(1)−123109(3)(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
CNTの溶液や分散液を作製することは非常に困難であり、分散安定性に優れたCNTの分散液を作製するためには、イオン性の界面活性剤や、特殊な構造を有する分散剤を用いる必要があった。
【0015】
これらの界面活性剤や、分散剤によって分散安定性を向上させることはできるが、この分散液を用いてインクを印刷に用いると印刷性が低下したり、印刷装置に影響を及ぼしたりすることが多かった。
【0016】
本発明は、上記に鑑み、分散安定性に優れ、かつ印刷装置を用いた印刷性にも優れたカーボンナノチューブインク組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、カーボンナノチューブと、溶媒と、ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物を含有することを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物によると、分散安定性に優れ、印刷特性にも優れたカーボンナノチューブインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の例について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態においては、SWCNT、DWCNT、MWCNTのいずれのCNTも使用でき、形状に限定されない。半導体材料として用いる場合にはSWCNTを、導電性材料として用いる場合にはSWCNT、DWCNT、MWCNTを用いる。また、CNTの製造方法もCVD法やレーザーアブレーション法等種々存在するが、いずれの製造方法で製造したCNTでも利用できる。
【0021】
本実施形態において、溶媒としては、水または有機溶媒を用いる。有機溶媒としては、デカンやウンデカンなどの脂肪族炭化水素、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトンやシクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテルやエチルメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルやプロピオン酸メチルなどのカルボン酸アルキルエステル類、ジクロロエタン、ジメチルホルムアルデヒドなどが好ましいものとして挙げられる。これらは、1種類または2種類以上で用いることができる。
【0022】
本実施形態において、カーボンナノチューブインク組成物は、CNTと溶媒とペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物とを含有することを特徴とする。ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物を添加することによって、分散安定性に優れ、印刷特性にも優れたカーボンナノチューブインク組成物を得ることができる。
【0023】
本実施形態において、ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物に含有されるグリコール基は、どのような形態でもある程度の分散安定性を得ることができるが、ジエチレングリコール(DEG)構造もしくは、トリエチレングリコール(TEG)構造をもつ置換基であることが望ましい。
【0024】
ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物は、ペンタフルオロプロピオン酸基にフッ素が含有しているため、CNTとの親和性を得ることができる。
【0025】
また、ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物は、グリコールエステル基を含有するため、親溶媒性をもたせることができる。グリコールエステル基の分子量が小さいと、十分な親溶媒性を得ることができず、インクの分散安定性は低下する。一方、グリコールエステル基の分子量が大きいと、溶媒への溶解性が低下してしまうため、こちらもインクの分散安定性が低下してしまう。
【0026】
グリコールエステル構造中のグリコール基は、鎖式脂肪族炭化水素または
環式脂肪族炭化水素からなる炭化水素構造において、2つの炭素原子に1つずつヒドロキシ基が置換している構造を
持ちさえすればよい。例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコールなどのようなポリエチレングリコール、さらにはより高分子量のポリエチレングリコールをあげることができる。特に、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールが好適である。また、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのようなアルカンジオールをあげることができる。ただし、グリコール基の親溶媒性によって溶媒への分散性が増大するのであれば、ここにあげたものに限らない。
【0027】
このペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物は、カーボンナノチューブインクの分散安定性を向上させる効果のほかに、インク自体の表面張力を低下させる効果を有する。その結果、印刷装置へのインク充填性、印刷装置からのインク脱離性に優れ、特にインクジェット印刷装置へのインク充填、インクジェット印刷装置からのインク吐出性が向上する。印刷装置からの印刷性を考慮した場合に、グリコールエステルの分子量が小さいと表面張力は十分に低くならないため、印刷性が低下してしまう。
【0028】
ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、ジエチレングリコール構造もしくはトリエチレングリコール構造を有する場合に、インクの分散安定性、印刷装置からの印刷性の両立において十分な効果が発現される。
【0029】
ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステルの製造方法は、一般的に知られた化学反応を応用することができる。例えば、ペンタフルオロプロピオン酸と対応するグリコールを酸触媒による縮合反応をさせることにより、目的とするペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物を得ることができる。
【0030】
本実施形態のカーボンナノチューブインク組成物において、CNTの含有量は特に限定されない。CNTの含有量が10%を超えると、インク組成物そのものが粘稠性を増し、ペースト状になってくる。印刷による利用を考慮した場合、1%程度までの濃度が扱いやすい。
【0031】
本実施形態のカーボンナノチューブインク組成物において、ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物の含有量は特に限定されない。しかしながら、重量比でCNTに対する比率が著しく小さい場合、例えば1%以下になると分散安定性が低下し、CNTの析出や沈殿現象が起こる。また、重量比で10%を著しく超えるような場合、CNTの分散性は保たれるものの、カーボンナノチューブインク組成物中のCNT濃度が小さくなるため、カーボンナノチューブインク組成物を塗布した際にチャネル形成が難しくなる。そのため、ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物の含有量は、CNT量に対して重量比で1〜10%になることが望ましい。ただし、ここで示した数値範囲は目安であり、限定を加えるわけではない。
【0032】
本実施形態において、ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物に加えて、炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として含有するポリエチレングリコール化合物をさらに含有させることにより、より高濃度での分散安定性を付与することができる。炭素数が10以上のアルコキシ基としては、飽和アルコキシ基でも不飽和アルコキシ基でもどちらでもよい。また、直鎖アルコキシ基でも分岐アルコキシ基でも高い分散安定性を得ることができるが、炭素数が18〜20の直鎖飽和アルコキシ基を用いた場合に特に高い分散安定性を有する。この炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として含有するポリエチレングリコール化合物を添加することにより、CNTの濃度が10%まで安定に分散させることができる。また、炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基として含有するポリエチレングリコール化合物の添加量に特に限定はないが、重量比でCNTの添加量と同量添加することで高い分散安定性を保持できる。
【0033】
本実施形態のカーボンナノチューブインク組成物は、インク組成物の表面張力を効果的に低減させることができるため、印刷装置に対する濡れ性が非常に良く、印刷装置を使用した場合に高い印刷特性を持たせることができる。特にインクジェットヘッド装置からの噴霧、吐出を行う場合に、表面張力が高いと、インクジェットヘッド内部へのインク充填、及び安定したインク噴霧、吐出が得られないが、本実施形態のカーボンナノチューブインク組成物を用いることによって、インクジェットヘッド内部へのインク充填が容易となり、かつ安定したインク噴霧、吐出を行うことができるようになる。
【0034】
(実施例)
以下、実施例をもとに本実施形態を詳細に説明する。ただし、本実施形態はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0035】
(実施例1)
実施例1では、まず、ガラス製の容器にHipco法で作成したSWCNTを10mg秤量し、ペンタフルオロプロピオン酸ジエチレングリコールエステルを1mg加えた。ついで、ガラス容器に水を10g添加し、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行った。超音波処理直後の分散液は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、この分散液を10日後、30日後に観察したところ、処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
【0036】
(実施例2)
実施例2では、まず、ガラス製の容器にHipco法で作成したSWCNTを10mg秤量し、ペンタフルオロプロピオン酸トリエチレングリコールエステルを1mg加えた。ついで、ガラス容器に水を10g添加し、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行った。超音波処理直後の分散液は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、この分散液を10日後、30日後に観察したところ、処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
【0037】
(実施例3)
実施例3では、まず、ガラス製の容器にHipco法で作成したSWCNTを100mg秤量し、ペンタフルオロプロピオン酸ジエチレングリコールエステルを10mg加えた。さらに、末端にC1837O(1−オクタデコキシ基)を導入したポリエチレングリコール(分子量1000)を加えた。ついで、ガラス容器に水を10g添加し、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行った。超音波処理直後の分散液は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、この分散液を10日後、30日後に観察したところ、処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。実施例1、2と比較し、高濃度のカーボンナノチューブインク組成物を得ることができた。
【0038】
(実施例4)
実施例4では、まず、ガラス製の容器にHipco法で作成したSWCNTを10mg秤量し、ペンタフルオロプロピオン酸ジエチレングリコールエステルを1mg加えた。ついで、ガラス容器にジクロロエタン(DCE)を10g添加し、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行った。超音波処理直後の分散液は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、この分散液を10日後、30日後に観察したところ、処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。溶媒を有機溶媒に変更しても安定なインク組成物を得ることができた。
【0039】
(実施例5)
実施例5では、SWCNTの代わりにDWCNTを用いた以外は、実施例1と全く同様にカーボンナノチューブインク組成物を作製し、カーボンナノチューブインク組成物を得た。超音波処理直後の分散液は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、この分散液を10日後、30日後に観察したところ、処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
【0040】
(実施例6)
実施例6では、SWCNTの代わりにMWCNTを用いた以外は、実施例1と全く同様にカーボンナノチューブインク組成物を作製し、カーボンナノチューブインク組成物を得た。超音波処理直後の分散液は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、この分散液を10日後、30日後に観察したところ、処理直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、ペンタフルオロプロピオン酸ジエチレングリコールエステルを用いない以外は、実施例1と全く同様にカーボンナノチューブインク組成物を作製し、カーボンナノチューブインク組成物を得た。作製したカーボンナノチューブインク組成物において、超音波処理直後は溶媒中にCNTが浮遊していたが、しばらく静置すると、全てのCNTが沈殿した。
【0042】
(比較例2)
比較例2では、末端にC1837O(1−オクタデコキシ基)を導入したポリエチレングリコールを加えていない以外は、実施例3と全く同様にカーボンナノチューブインク組成物を作製し、カーボンナノチューブインク組成物を得た。作製したカーボンナノチューブインク組成物において、CNTが飽和した黒色形態の上澄み液が得られたものの、分散しきれなかったCNTの沈殿がみられた。この分散液を10日後、30日後に観察したところ、時間の経過に伴って沈殿物が増大し、インク中に凝集した浮遊物が目立つようになった。
【0043】
(比較例3)
比較例3では、ペンタフルオロプロピオン酸ジエチレングリコールエステルを用いない以外は、実施例4と全く同様にカーボンナノチューブインク組成物を作製し、カーボンナノチューブインク組成物を得た。作製したカーボンナノチューブインク組成物において、残留物、沈殿物は見られなかった。しかし、この分散液を10日後に観察したところ、CNTの沈殿が確認できた。さらに30日後に観察したところ、分散液の色は黒いものの、10日目よりも多くのCNTが沈殿していることを確認できた。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に、実施例1〜6および比較例1〜3のカーボンナノチューブインク組成物の詳細および評価結果をまとめた。グリコール基の欄のDEGはジエチレングリコール構造を示し、TEGはトリエチレングリコール構造を示す。溶媒の欄のDCEはジクロロエタンを示す。実施例3の添加物は、末端にC1837O(1−オクタデコキシ基)を導入したポリエチレングリコール(分子量1000)である。
【0046】
評価結果欄には、カーボンナノチューブインク組成物の分散状態の評価(○、△、×)と、噴霧状態の評価(A、B、C)を示した。分散状態において、○は、残留物および沈殿物がないことを示す。△は、残留物や沈殿物があることを示す。×は、ほぼ全てのCNTが沈殿したことを示す。噴霧状態において、Aは、安定した噴霧状態であることを示す。Bは、吐出はできるものの安定した噴霧状態ではないことを示す。Cは、全く吐出することができないことを示す。
【0047】
実施例1〜6のカーボンナノチューブインク組成物をコニカミノルタ製のインクジェットヘッドに充填し、インクの充填状態、噴霧状態を観察した。実施例1〜6のカーボンナノチューブインク組成物を充填したインクジェットヘッドを動作させたところ、安定したインク吐出状態が得られた(表1中で○)。実施例3のカーボンナノチューブインク組成物は、実施例1および2と比較して高濃度でありながらも、実施例1および2と同様に良好な吐出状態が得られた。
【0048】
比較例1〜3のカーボンナノチューブインク組成物をコニカミノルタ製のインクジェットヘッドに充填し、実施例1〜6と同様にインクの充填状態、噴霧状態を観察した。比較例1のカーボンナノチューブインク組成物は、ヘッドへのインク充填性が非常に悪く、インクを噴霧させることができなかった(表1中で×)。比較例2のカーボンナノチューブ組成物は、上澄み液をヘッドに充填はできるものの、インク中で凝集していた成分の影響で安定してインクを噴霧させることができなかった(表1中で×)。比較例3のカーボンナノチューブインク組成物は、ヘッドへのインク充填はできるものの、安定してインクを噴霧させることができなかった(表1中で△)。
【0049】
以上、本発明をその好適な実施形態例に基づいて説明したが、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブインク組成物は上記実施例の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施例の構成から種々の修正及び変更を施したカーボンナノチューブインク組成物も本発明の範囲に含まれる。
【0050】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
カーボンナノチューブと、
溶媒と、
ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物を含有することを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物。
(付記2)
前記カーボンナノチューブの含有量が、重量比で1%以下であることを特徴とする付記1に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記3)
前記カーボンナノチューブに対する前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物の含有量が、重量比で1〜10%の範囲内にあることを特徴とする付記1又は2に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記4)
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、ポリエチレングリコール構造をもつことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記5)
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、アルカンジオール構造をもつことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記6)
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、ジエチレングリコール基であることを特徴とする付記5に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記7)
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、トリエチレングリコール基であることを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記8)
前記溶媒が水であることを特徴とする付記1乃至7のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記9)
前記溶媒が有機溶媒であることを特徴とする付記1乃至7のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
(付記10)
付記1乃至9のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブをインクジェットヘッド装置から噴霧させることを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物の噴霧方法。
(付記11)
炭素数が10以上のアルコキシ基を置換基とするポリエチレングリコール化合物を含有することを特徴とする付記1乃至9のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、分散安定性に優れ、印刷特性にも優れたカーボンナノチューブインク組成物を製造することが可能となるため、塗布プロセスによって半導体デバイスを製造することが可能となる。フレキシブル基板と塗布プロセスを組み合わせれば、フレキシブルな半導体製品を提供することが可能となる。フレキシブルな半導体製品を用いれば、折り曲げや衝撃などに対する耐性の高い製品を市場に供給することも可能となる。このような製品は市場において要求が高いため、本発明の産業上の利用可能性は高いということができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、
溶媒と、
ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物を含有することを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの含有量が、重量比で1%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブに対する前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物の含有量が、重量比で1〜10%の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項4】
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、ポリエチレングリコール構造をもつことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項5】
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、アルカンジオール構造をもつことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項6】
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、ジエチレングリコール基であることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項7】
前記ペンタフルオロプロピオン酸グリコールエステル化合物のグリコール基が、トリエチレングリコール基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項8】
前記溶媒が水であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項9】
前記溶媒が有機溶媒であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブをインクジェットヘッド装置から噴霧させることを特徴とするカーボンナノチューブインク組成物の噴霧方法。

【公開番号】特開2013−104047(P2013−104047A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250861(P2011−250861)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】